※この作品はR-18です。

屠殺鬼   作:赤だし滑子

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呼び出し

 それから十日近く経った。

 

 僕は悪魔将校に呼び出され、彼の取り巻きと一緒に街を歩いている。行き先は知らないけど、どうやら街の外に出るみたいだ。

 

 そのまま森の中へと足を向ける悪魔将校。どこへ行くのかな?

 

 しばらくそうやって森を行くと、やがてぱっと視界が明るくなり、大きく開けた場所に出た。

 

 そこは広く森に囲われた更地で、大勢のエイリアン達が戦闘訓練をしているところだった。

 

 僕がぼーっと突っ立っている隣で、悪魔将校が号令をかける。

 

 ザザーッと集合してくるエイリアン達。各々、獲物を携えて物騒な雰囲気だ。

 

 こうして見ても、彼らはすごくアナログな武器ばかりを使っている。

 

 剣、斧、槍、棍棒、弓矢。さらに魔法触媒であるワンドや、アミュレットをつけたエイリアンに至っては見た目には素手だ。僕なんて包丁とエプロンに紙袋だし。

 

 鎧を着ているのもいるけど、服だけの軽装もけっこういる。銃弾飛び交う戦場に赴(おもむ)く格好には到底見えない。

 

 でもこれで本当に強いから困る。新兵は大概(たいがい)この見た目に舐めてかかって痛い思いをするか、あるいはそのまま帰らぬ人となる。

 

 エイリアンはまず、防御力が高い。奴らの服は拳銃の弾くらいなら受け止めてしまうし、場合によっては、魔法なのだろうけど、見えない膜に跳ね返されて弾丸が返ってくる、なんていう反則まがいの防御をしてくるエイリアンもいる。

 

 奴らを殺傷するには最低でもアサルトライフルかショットガン以上。重武装な奴を相手にするなら重機関銃(フィフティーキャル)よりも上を準備する必要がある。

 

 攻撃力も侮(あなど)れない。

 

 防御を固めて突っ込んで来られれば、あとは白兵戦になるわけだけど、そうなると彼らの剣、斧、槍、棍棒なんかは、人間の兵士を殺すのにとても効率的な武器になる。

 

 そもそもの話、身体の作りからして相手にならない。近接されると、どう抵抗しても為す術なくぶった切られる。

 

 至近距離で大口径の銃を用いれば、エイリアン相手でも戦えるわけだけど、奴らだって馬鹿じゃない。

 

 上手く遮蔽物に身を隠して襲いかかってくるとか、あるいは死角から接近されればそれでおしまい。特に盾を持ってる奴とか最悪。銃と盾だったら、この戦い、なんと盾の方が有利なんだ。なんの冗談かと。

 

 魔法という理解し得ない力も致命的だ。あれなんなの、ほんとに。

 

 どうして、エイッ! って手を振るだけで火炎放射が始まるの? 誰がどんな攻撃をしてくるのか読めないから、戦場における狙撃ターゲットの選定は本当に博打(ばくち)だった。

 

 なんとか上手く立ち回れたとしても、銃器には装弾数という不利もある。1マガジンで仕留めきれなければ、もうおしまい。リロードする暇は与えてもらえない。

 

 僕もブッチャーになってはっきり分かったけど、人間は脆弱(ぜいじゃく)だ。銃と弾がなければ弱すぎる。

 

 だから人間側は必ず隊伍(たいご)を組んで弾幕を張ろうとするんだけど、その戦法はとうの昔にバレている。

 

 エイリアンは人間の集団戦法を崩すために、遠距離からの魔法による重火器類の破壊。魔法で防護しつつの急接近。乱戦に持ち込んで各個撃破という戦術をとっていた。そしてこれがフィジカル的に不利な人類に対して極めて有効だった。

 

 航空機や戦車といったデカブツはエイリアンに対しても有効な対抗手段になるけど、如何(いかん)せん費用対効果が悪すぎる。一機作るのにとんでもないお金と時間がかかる航空機や戦車と、生身のエイリアン十人の集団が互角なんだ。やってられない。

 

 エイリアンは、きちんと迎撃態勢を整えた状態であれば、マッハで飛んでくるミサイルや飛行機を魔法で迎撃できる。

 

 やり方は簡単。空中に膜を張るんだ。たぶん銃弾を止めてるやつと同じ。それだけ。それだけなんだけど、飛行機もミサイルも膜に掠(かす)っただけで四散して墜落する。航空機類って軽くしないといけないから、実はボディが薄いんだ。

 

 しかもその膜は即座に空に展開できて、見えない。レーダーにも映らないときたもんだ。大量に膜を張られてしまえば、飛んで火に入る夏の虫とはこのこと。ジェット機は目隠しで障害物走できるようには設計されていない。

 

 的(まと)がでかくてトロい戦車なんて相当上手に運用しなければ、まさに走る棺桶に過ぎない。エイリアンが遠くで指揮者みたいに腕を優雅に振って、エイヤッで空から光が降ってきてドーン。ピカピカ七色に光る矢が飛んできたと思ったらドーン。こっそり近付いてきたエイリアンが素手でソフトタッチでドーン。悪夢だ。

 

 今となっては、そういった大型兵器類は、エイリアン側のデカブツ――すなわち、ドラゴン、巨人、幻獣といった、いわゆる怪獣的なポジションの敵に対抗するためか、あるいはフォートを巡る決戦のために温存されるようになった。

 

 そのかわりに人類側で台頭した兵器があった。重砲だ。砲兵は戦場の神なり。

 

 実はエイリアンを殺傷するに当たって、炎とか、毒ガスとか、レーザーとかよりも、単純に鉛の弾をぶつける方が遙かに効果的であることが分かった。

 

 彼らは高熱に対する暴露(ばくろ)や、衝撃波、あるいは毒に対する防御力が異様に高いかわりに、運動エネルギーの投射にはさほど強くない。

 

 それは彼らが剣とか斧とかで殴り合ったり、弓矢を使っていることを考えれば、ある意味当然のことだった。謎の防御膜や、謎の衣服、謎の鎧を貫通できる運動エネルギーをぶつけられれば、エイリアンは普通に傷つく。

 

 結局、エイリアンとの戦いにおいては、高価で高度な兵器を運用するよりも、戦場に榴弾をばら撒いて、安価で携行可能な重火器を持った歩兵がゲリラ的に戦う方がよほど効率的だったんだ。

 

 そこで人類はフォートと呼ばれる要塞都市を築き、エイリアンの魔法攻撃に耐えられる頑丈な壁の内側から、強力な重砲で外の戦場に鉛の弾を降らせて防衛する、という都市形態を作り上げた。

 

 これであれば、エイリアンは極めてフォートを攻め辛くなる。

 

 さすがに榴弾の雨や固定砲の狙い撃ちを受けると、彼らも耐えられない。彼らには巡航ミサイルのような超長距離兵器がないから、ある程度接近しないと戦えないという不利を突いた形だった。

 

 そんなエイリアンに対抗する上で重要な防衛都市フォートを前線に築き上げていく過程において、一度だけ天が人類に味方をしたことがある。僕が生まれる前のことだ。

 

 フォートがまだ無い開戦当初、エイリアンの攻撃は素早く、無慈悲で、人類は対抗できずに凄まじい勢いで戦死者を出して押し込まれていった。はっきり言って絶体絶命。このまま滅んでもおかしくないくらいに電撃的な侵攻だったらしい。

 

 ところがある日、エイリアンの前線が一斉に引いて、二十年近く積極的に攻めて来なくなった時期があったらしいんだ。

 

 その時、エイリアン陣営に何があったのかは分かっていない。

 

 一時期は、その少し前に人類が使った核兵器に慄(おのの)いて撤退したんだという噂が流れたらしいんだけど、結局それは間違いだった。エイリアンは核兵器を怖れない。後に、核兵器の使用は人類の首を絞めるだけだという結論に至って、今ではその使用は禁じ手となっている。

 

 なんにせよ、人類はその隙に要塞都市フォート、およびそれらを支援する軍事基地ストロングホールドを作りまくって強固な前線を築くことができたというわけだ。

 

 しばらく経ってまたエイリアンの侵攻は再開されたけど、人間はゲリラ戦で対抗し、時にフォートから支援砲撃をもらったり、ストロングホールドから支援部隊を送ってもらえれば、押され気味とはいえど、なんとかエイリアンとの戦いが拮抗するまでには戦況が回復した。

 

 そして今に至っている――。

 

 エイリアン達の忌々しいアナログ装備を見つつ、そんな戦争史を思い返していた。

 

 悪魔将校がその場の戦士達に何かを語り、僕を連れて前に出た。

 

 彼が歩いて行った先には、二十人前後の人間がいた。

 

 よく見ると、今まさにエイリアンの戦闘訓練で使われている的(まと)が人間だ。

 

 檻に放り込まれた人間と、柱に縛られた人間。その半分くらいが既に肉片となって散らばっていた。彼らは一様に押し黙っている。

 

 服装からして、あれはタンゴチームっぽいぞ。この前フェリス宅を襲った連中の生き残りかな。まだこんなところをウロついていたの? さっさと逃げればいいのに。あるいは、第二の襲撃の準備中だったのかな。

 

 他にも、檻の中にはエイリアンっぽい見た目の奴もいた。あれは、変装したスパイ――アースピントかも知れない。

 

 状況から考えて、これは処刑目的を兼ねているっぽいけど、なんでこんなところで? 街中でやればいいのに。そうすれば新鮮なお肉として売れる。ここで殺して持って行ったら鮮度が落ちちゃうよ。

 

 僕が内心で肉屋の一面を見せていると、一人の人間が檻の中から引きずり出され、僕の前に転がされた。

 

 タビー柄の耳と尻尾がついた女で、豹(ひょう)の獣人っぽい。この女もアースピントなの? 変装のレベル高いね。

 

 ポンと僕の肩に悪魔将校の手が乗った。

 

『お前の獲物だ。好きにしろ』

 

 おっと……この悪魔将校、テレパス遣(つか)いだ。僕の肩に手を置いて、制御端末無しで僕に話しかけてきたぞ。ハスキーな声音。なかなかのイケボイス。

 

 ……また、寸止めかな……。

 

 先日のオーク将校の一件がまだ少し尾が引いている僕は、彼の言葉に若干の不審を覚えた。

 

 同時に、僕の獲物というフレーズが少し引っかかった。

 

 じっくりと地面に転がった豹柄女の容姿を見下ろす。

 

 ……分かった。

 

 こいつ、先日フェリスをつけていた奴だ。

 

 なるほど、あの後リディアはそつなく情報を展開してくれたようだ。たぶん、その情報が元で捕まったな。

 

 ははぁ……じゃあ、ひょっとして、ここに捕まっている連中って芋づる式に捕まった人間の潜入組か。

 

 よかった。フェリスを狙う連中を全部まとめてとっちめたんだね。やるじゃん、悪魔将校。

 

 

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