一号君はミニタランチュラ。僕の口の中で殉職した。
二号君もミニタランチュラ。一度は街に放ったんだけど、ふと先日街の外の森で再会し、今は僕の務める精肉店の影に潜んでいる。
たまに餌をあげると両前足でバンザイして喜ぶ。これが結構可愛い。僕は勝手に彼に
模様も特徴的で、全体的に僕の
ニブロはきっと特別な蜘蛛なんだ。今までどこで何をしてきたのかは知らないけど、出会った当初よりもなんだか貫禄が出たような気もする。一皮剥けて帰ってきた。この成長した姿をタイターニアにも見せてあげたい。
三号君はコオロギ軍団。僕が囚われている施設の中にばらまいた。消息は不明。
そして、四号君が今、僕の口の中に入っている。
前回同様、タイターニアから直接口移しで頂いたので、それが何か僕にもまだ分からない。今回は大人しいみたいだ。
『――えっとね、彼女からは“ひとかじりにして”、だって。……まさか彼女のこと、食べないよね?』
タイターニアの伝言を教えてくれるリディア。彼女は格子を挟んで僕とお話中。
ひとかじりにして、か。ニブロと一緒にすればいいのかな。了解。
『食べないよ。嬢には、ひとかじりに君の唇を添える、って伝えて』
『う、うん。いいけど……よく分かんないけど、詩的な会話するんだね……?』
リディアは
根が良い子なんだ。前回、僕がフェリスを狂いに狂わせたので、そのお礼でも来てくれているっぽい。
なおあの後、リディアはバイブで自分を慰めながらフェリスを責め続けたそうだ。そんなことまでニコニコ話してくれる彼女のオープンさが素敵。
僕の牢獄には今、赤髪の女が転がっている。彼女は運悪く前回のジボダンの会の日に僕のところに来てしまった被害者で、もう心が壊れている。あの後みっちり二日に渡って
そんな赤髪の女を
『ジェヴォーダンって、容赦ないね……』
『意識がなくなった方が幸せなこともあるんだ』
そう。ここではむしろ女は意識がない方が幸せだとも言える。
『ふーん……前の、ほら、金髪の。アビゲイルだっけ? あの亜人は意識あったよね? 全員が意識なくなっちゃうわけじゃないの?」
僕の首が警戒で強張った。
僕とアビゲイルが内通しているのは秘密だから、僕は彼女の名前を知らないことになっている。
何故、リディアがアビゲイルの名前を?
場合によっては、リディアを始末しなくては――。
『……アビゲイルって言うの、あの子?』
とぼけたフリで探りを入れてみる。
『うん。ほら、私が前回キスした時。その時にちょっと話したの』
ああ、なるほど。そういうことね。よかった。殺さなくて済みそう。
なるほどなるほど。だからアビゲイル、あの時は嫌がらずにリディアとフレンチキッスし続けていたのか。リディアと会話して少しでも情報を引き出そうとしたな。本当に強かな女だ。
でも僕知ってるんだ。あの時、リディアにキスされている時の方が膣の濡れ方が良かった。リディアのテクなのか、アビゲイルが実はM気質なのかは分からない。
『彼女、君のでかちんでハメられて本気で感じてたよ。私と会話している間もノイズがすごくてさ。圧巻だったよー、あれ。ズブズブーって、よく入っていくよね……』
ちなみに僕、全裸だ。陰茎はいきり立ち、赤髪の女と僕の体液で、てらてらと濡れそぼっている。それを目の前にして平然としているリディアの、この
『僕の自慢の女なんだ。僕を全て受け入れて、長く正気を保てる女は少ない』
ちょっと自慢げになってしまう。
『わかる~。ジェヴォーダンにあんな風にヤられて、例のザーメンをお腹いっぱい注ぎ込まれたら、人間ならみんな気が狂っちゃうかも。亜人だから楽しめるのかなぁ~?』
ケラケラと屈託なく笑ったリディア。
ひょっとして、だから独房の
……あれ? でもタイターニアは大丈夫そうだけど。彼女、ゴクゴク飲んでくれて、最後はしゃんと立つぞ。はてな?
そういえば目の前のリディアも、なにか耐性があるとか言っていたな。そういう、耐性の問題なのかな?
タイターニアは、根本的に貞子たちとは違うのか……。
いやいや。そもそも僕のザーメンに魔力なるものが含まれていること自体が珍しい、みたいなことをリディアは言っていたな。僕は根本的に他のブッチャーと違うとすると……⁇
いかん、頭がパンクしそう。とりあえず今僕に言えることは――
『耐性があるリディアなら大丈夫なんじゃない?』
混乱の果てに僕の口から何気なく
『私とヤりたいの?』
そう言って
良い。ギャルっぽくてすごく良い。
僕だってこんな言葉遊び程度で
『リディアは可愛いね』
下品にならない程度に、堂々と返してみる。
にぃっと笑みを深めるリディア。こうやって笑うと短い牙が覗くのが印象的だ。
『んー、どうしよっかなー』
リディアがそう言って、唇を撫でながら僕の息子をジロジロ。
……あれ? 本気でヤらせてくれそう?
一回
ギャル対ブッチャー。世紀の決戦だ。燃える。
『フェリスに怒られたくないしなー』
フェリス? どうしてここでフェリスが?
『フェリスはリディアのものだよ』
分からないながらも、媚びへつらいゴマをするブッチャー。ありゃま、みたいな顔になるリディア。
『あの子はジェヴォーダンのことが好きなんだよ』
嘘だ。
それはないよ。僕は
若い子ってすぐそういう方向性で物事を理解したがる。あり得ないから。
『悔しいけどさ、私は今、ジェヴォーダンに負けてるんだ』
『リディアの力になるよ』
僕の頼りはリディアなのだ。フェリスはこの際、死ななければどうなっても良い。頭の装置を外してもらうためなら、フェリスを生け贄に捧げます。リディアの手で煮るなり焼くなり好きにしてください。
『……フェリスはさ』
リディアが格子を握って身体を寄せ、僕を見上げてくる。
『弱いんだ。攻撃手段を持ってないからね。性格も優しすぎて。だから仲間内だと
なるほど?
『でも何の因果か、とても貴重な才能があるから、組織としては重用されるし、将来も約束されている。そんなことで、自分達より弱いはずのフェリスが、自分達よりもちやほやされるもんだから、嫉妬がすごくて、虐められやすいんだ。だからあんまり友達もいなくてさ』
回復魔法のことかな?
『そんな時、ジェヴォーダンが登場したんだよ』
ここで僕。
『ものすごく強くて、誰もが恐怖する存在。でも自分にだけは優しい。ルールを全部無視して敵対者を打ち倒す荒くれ者。でも自分にだけは付き従い、その無法をもってして
ふむふむ。
『しかも会話ができるっていう
指をこめかみに当てて唸るリディア。
僕が犯し、殺して食らうだけの不吉な存在であるという点が考慮されていない。
でも事情は分かったぞ。フェリスは僕に依存しかけているのかも知れない。アビゲイルの言うとおりだ。
とはいえ、どれだけフェリスに頼りにされても僕の頭の自爆装置は外れない。やっぱりリディア。時代はリディアを指し示している。
でも、ここからどうやって彼女のご機嫌を取れば……。
『――そうだ。私がジェヴォーダンを引き取っちゃうってのはどう? そうすれば君を餌にして、フェリスをいつでも呼び出せるし、今より自由にお話できるよ』
おお、それいいね……いや、だめだ。
僕はただ外に出たいわけじゃない。装置を外して欲しいんだ。正式にエイリアンのペットになんてなったら、余計外してもらえないぞ。危ないからってさらに枷が増える可能性すらある。
『フェリスが僕のことを好きなら、僕を取られたって、怒るんじゃない?』
全力でリディアのペットルートを回避しにいく。
『む……確かに。だめかぁ~』
はぁ、と落胆したリディア。セーフな僕。
『ところで、あの後フェリスは大丈夫だった?』
『――うん。あのまま私の部屋で寝てたけど、日付が回る頃にはケロッとしてた。ベッドはまだぐっちょりだったんだけど、君の精液って、時間が経つと魔力が抜けちゃうみたい……あ、そうそう。あの後、一緒にお風呂にも入ったんだよ!』
げへへ……みたいな顔。
よかったね。僕はあの後、憤死しそうだったけど。
『これで、フェリスの調教進んだんじゃないかな?』
功績をアピール。
『むーん、どうかな……あの程度じゃまだまだ……』
くっ……ゆるーい感じなのに、性に関してはストイックだ。
フェリスの依存対象を、僕からリディアに切り替える。これは難しいミッションだぞ……次回のジボダンの会が重要なターニングポイントだ。僕の頭じゃ考え切れないから、アビゲイルに策を練ってもらおう。彼女、早く来ないかな。早く抱きたいな。勝敗をイーブンに戻さないと。そわそわ。
僕が喉を鳴らして必死に頭を回していると、リディアがふっと表情を緩める。
『ふふ……ジェヴォーダンは私との約束を守ってくれてるんだよね。君って本当に見た目とのギャップがすごい。その辺の男なんかよりよっぽど素敵』
おお……やっぱりリディアは見た目に寄らず、根っからの良識ある子だ。
最近ちょっと忘れがちだけど、僕は
悍ましい灰色の肉、膨れた身体、側頭部に突き刺さった謎の装置、歯茎剥き出しの口、黝い舌、削げた鼻、瞼のない目、その奥で不気味に光る赤い眼光。
こんな僕に、分け
差別意識がほとんどないんだ。相手を見た目や種族で判断しないし、第一印象で決めつけない。