僕が吹っ飛んだ先はパーティ会場のど真ん中。
ゴロゴロと地面を転がり、テーブルをいくつか弾き飛ばして停止した。
立ち上がると、周囲から騒然と喧噪が上がる。
「ジボダン‼」
フェリスの声だ。
でも、ちょっと構ってる暇が無い。
巨大ムカデごとき、たいしたことない。そう思ってました。
僕の視線の先、森に溜まった闇の
僕の巨体を軽々
それだけではない。もう周囲にはアリやら、カミキリムシっぽいのやら、ハンミョウっぽいのやら。軒並み、どでかい攻撃的な昆虫の類いが森から染み出してくる。
このパーティー会場のみならず、街全体が襲われているのだろう。遠くからも悲鳴が上がり始めていた。
もはやB級パニックホラー。ホラー仲間である僕の相手にはもってこいだ。
僕が軽くブッチャーナイフを振るってみるも、先頭の甲虫はそれを軽々と弾いて僕にぶちかましてくる。
すごい硬度だ。キチン質じゃない。手応えが完全に金属質だった。腰を入れて振らないと致命傷を与えるのは難しそう。
甲虫の突進を一度受け止め、すかさず後ろに
左から飛んできた鋭い影。
反射的にナイフを合わせると、暗い夜空に火の粉が散った。
ほら、カマキリの一振りだ。めちゃくちゃ速いんだよ、これ。はっきり言って見えない。じっとしてるとカマキリの鋭い追撃が襲ってくるんだ。さっきそれで肩を切られた。
地面を蹴って、ぶっとい
カマキリのリーチは僕のブッチャーナイフよりも長く、奴の胴を叩き切るには本気で踏み込まなければならない。
再び爆走してきた甲虫の体当たりを
逃げ惑うエイリアン達。相当数が既に捕食されていた。麗しかったガーデンに血肉の雨が降り注いでいる。フェリスとリディアも巨大昆虫たちに追い回されて、てんてこ舞い。アビゲイルの姿は見えない。
リディアは例の弓、グラドネガで戦えてはいたけれど、ちょっと相手が悪い。
この巨大昆虫たちは、僕がこの街に来るまで出会った魔獣なんかよりも、ずっと強い。放っておくと二人が危ない。
走り込みざまに、二人を追い回していたカマドウマのような大きな何かを体当たりで弾き飛ばした。そのまま二人を
「〒■●△△〓ジボダン!」
「ジェヴォーダン●▽□§、フェリス」
何を言っているのかは分からないけど、とりあえず彼女達の後ろから飛び掛かってきた昆虫をヤクザキックではね返した。
ブッチャーナイフをブゥンと振るって空気を斬り払うと、そんな僕の動きに
四方を巨大な昆虫に囲まれる。
『ジェヴォーダン、アビーとはぐれた! ごめん‼』
そこを気にしてくれていたのか。大好き。
『僕から離れないで』
僕は飛び掛かってきたノミっぽい、よく分からない巨大な虫を、やむを得ずブッチャーナイフの腹で叩き潰した。
その後も牽制に近い攻撃が続いたけど、それらを全てハエ叩きの要領で順次、弾き飛ばしていく。こっそり地面を這って近づいてきた、細長い何かは、足で踏みつけて殺した。忙しい。
しばらく僕がそんな鉄壁を見せていると、やがて周囲の輪がザザザ……と広がって、その割れ目から怪物ムカデがゾロゾロと進み出てきた。
無数の赤い
『こういう魔獣もいるの?』
実は、僕にも彼らの詳細は分かっていない。リディアに聞いてみた。
『こいつら……〈
『巨いなる一族?』
片手で巨大包丁を振るって、刀身にこびりついた昆虫の体液を地面に散らしながら聞き返した。するとフェリスが、
『〈
と答えた。
『なんにせよ、見逃してはもらえなさそうだ――』
僕がそう言い残してリディアから手を離し、一歩前に出ると、突如としてとぐろを巻いたムカデの身体がギュゥンと回転した。
黒い旋風の中から二本の赤く鋭い光が
咄嗟にブッチャーナイフを盾にする。
ほとんど同時に身体を突き抜けた凄まじい衝撃。
僕の重量級の肉体が、数メートル滑った。
見ると、ブッチャーナイフの刀身にふた筋の深い傷痕がついている。
ムカデの尻には赤く鋭い尻尾が二本生えていて、それを振り抜き一閃してきたみたいだ。剣豪にも劣らぬ鋭さ。かなり危なかった。
本気かよ――ッ!
ブッチャーナイフを砕かれると、この先苦しくなってしまう。接近戦を仕掛けた方が良さそうだ。
先手を取って怪物ムカデに正面から駆け込む。
ズゾゾゾゾッと、とぐろを解いたムカデ。
上から噛みついてきたムカデの牙と、僕が打ち下ろしたブッチャーナイフが激突した。岩を叩いたような硬い手応えがあった。
全身の筋肉が張り詰め、肩から腕にかけて血管が浮き出した。噛み締めた奥歯からツンとした臭いが鼻に抜ける。
驚くべきことに、僕らの膂力は拮抗していた。なんていうパワーだ。
肉厚なブッチャーナイフの刀身と、それに噛みつく赤い牙がギリギリと耳障りな音を立てた。
直後、浮遊感があった。
視界が大きく流れ、受け身を取る暇もなく、強い衝撃を背中に受ける。
こいつ……僕をブッチャーナイフごと振り回してるぞ……!
また、浮遊感があった。
今度は近くの木々に打ち付けられる。
バキバキと太い木の幹をへし折りながら、やたらめったらに僕を振り回すムカデ。
次いで真上に高く振り上げられた時、ふと、僕は高所から地上を見下ろす形になった。
泣きそうな顔になったフェリスと、唇を噛むリディア。
そしてその視界の端に、銀色の蝶を肩に留めた、金髪の女の影が――今だ。
……それにしても五号君。僕に何か恨みでもあるの? やり過ぎじゃない? 凄く痛いよ……ちょっと本気出すけど、後で怒らないでよね?
持ち上げられたまま、ベロをカエルのようにビシュッと伸ばす。
ブッチャーナイフに噛みつくムカデの頭部に巻きついた
次の瞬間、舌に触れたムカデの表皮からジュウウウ……という音を立てて、白煙が激しく上がり始めた。
〈
またまた浮遊感があった。
今度は巨大ムカデが牙を緩め、僕を落としたんだ。外皮が溶ける刺激を我慢できなかった様子。
ズズゥン……という鳴動と共に地上に降り立った僕は、間髪を容れず身体を回し、回転の勢いを乗せたブッチャーナイフの腹で重い
バギンッ! という音を立ててブッチャーナイフが折れた。先ほどムカデに付けられた傷が思ったよりも深かったようだ。
打たれたムカデが激しい衝撃でバランスを崩し、横倒しに倒れ込む。
大量に巻き上がった土煙。
視界を塞ぐ
ブツリと、一本引き抜く。
ブツリ、ブツリ。
一本ずつ巨大ムカデの赤い脚を引き千切っていく。ムカデは苦痛に喘ぐように身体を丸めて僕に巻き付いてきた。
ブツリ、ブツリ。
ミシミシと、僕の身体のどこかが悲鳴を上げていたけれども、僕はやめない。
無数の脚が苦しげに悶え、僕の顔を引っ掻いた。ズボッとブッチャーバッグが脱げてしまう。でも、脚を抜き続ける。
痛みを感じるほどに、僕の中の凶暴性が膨らんでいくのが分かった。それを引き抜いた脚をバリボリと食べるなどして、懸命に抑え込みながら、また脚を抜く。美味しい。
ブツリ、ブツリ、ブツリ。一本、また一本と脚を抜いていく。そのたびに僕の顔に生暖かくぬめった体液が浴びせかけられたけどやめない。楽しくなってきた。
先に根負けしたのはムカデだった。
僕の拘束を解いて、巨体を一度大きく跳ねさせると、体液を土の上にまき散らしながら森の中に退散していく。
勝った……。
ムカデって脱皮するたびに脚がまた生えるらしいから、いいよね。
すると大将を失った昆虫軍団もまた、退散を始めた。
波が引くように森に染み込み消えていく巨大な影ども。
それを見送った直後、
――
脳に直接にメッセージが届き、突如として僕の身体が引きつけを起こして反り上がった。
同時に、