フェリス付き添いの使用人は、あの混乱の中で死亡していた。
全身をズタズタに切り裂かれて無残だった
彼は
でも僕は、あの使用人の全身に残った乱暴な切り傷の中に、人為的な傷が混じっているのを見逃さなかった。
喉笛を鋭い刃物で掻き切った傷。
あれは人間の泥臭い暗殺術だ。間違いない。
僕はアビゲイルの手腕に舌を巻いた。アースピントはあんな技術まで教え込まれるのだろうか。あれはさながら、スラムのストリートギャング達が使う技だ。
僕の制御端末は、この旅においてはフェリスの使用人が保管していた。
アビゲイルが打ち合わせ通り、それを奪い取りに行った時に、やったんだろう。
アビゲイルのガイドは銀色の蝶――完全変態した四号君が務めた。四号君を肩に乗せたアビゲイルは、タイタンズの襲撃ターゲットから外れていたため、あの混乱の中でも安全に、かつ自由に行動できた。
彼女は端末を使用人から奪い、とって返し、僕と五号君のマッチポンプが終わったのを見届けて自爆シーケンスを起動させた。
僕への好感度が高まっていたフェリスとリディアは、アビゲイルの助言に従って爆発寸前の制御装置を外す。
僕が身を
リディアが本当に僕の装置を外してくれるかどうかは分の悪い賭けだったけど、フェリスが泣いて
僕は幸運だった。
リディアが装置を抜いてくれただけじゃない。
装置を抜いている最中、すごい出血とよく分からない汁の噴き出しがあったらしいんだ。しっかりと細胞組織に癒着していたんだと思う。
フェリスが同時に回復魔法をかけてくれていなければ、僕は自爆関係なく死んでいたかも知れないとは、アビゲイルの見立てだった。
今回の策は全てタイターニアが手配した。噛み合った歯車のように
早く帰って彼女を抱きたい。
しばらくは僕の秘密の拠点で彼女を徹底的に犯そう。彼女の啼き声が枯れるまで。彼女の子宮を僕の子種で浸し、魂の芯から僕の女に仕上げるんだ。僕以外の男では満足できない身体にして、僕から逃れられないように。身も心も獣の
あの艶美な女体を快楽で染め上げたい。きっと極上のエクスタシーを僕にプレゼントしてくれる。タイターニアなら、どんな奉仕だってできるはずだ。
毎日毎日。休憩を挟んで、何度も何度も。彼女が許し請うても終わらない凌辱劇の中で、彼女の細胞の一片までケダモノの汚らわしい精で征服するんだ――。
『――どうしたの、ジェヴォーダン? 調子悪い?』
リディアが心配そうに僕の目を覗き込んできた。
胸を焦がす淫らな妄想に、思わず獣の唸り声が漏れていたようだ。
『なんでもない』
僕が言うと、リディアが『そう……』と言って離れようとした。その時の少し影を含んだ表情が気になって、僕は彼女の肩に手を掛けた。
『リディア、心配しなくていい。僕の装置は戦いの間に偶然外れたことにすればいいんだ。多分、誰も疑問に思わないよ』
『……うん。ありがとう』
やっぱりというか、ブッチャーの制御装置を外すのはマズかったらしい。というか、前代未聞なので、どんなお咎めがあるか分からないと。
これは借りだ。他にもリディアには色々と負い目がある。
リディアとフェリスに対する大きな借りひとつ。プロとして、借りは返さないといけない。それはでも、あとで考えよう――。
何度も魔獣に襲われながら異界門に到着した。
そこは
『なにこれ……』
唖然とするリディア。息を呑むフェリス。
異界門は開きっぱなしになっているけど、その周囲に生存者がいない。
あらゆる構造物が根こそぎ破壊され、廃墟になっていた。
『あの
フェリスが唇を震わせて呟いた。
『とにかく早く戻りましょう。壁に囲まれたあの町なら安全よ』
アビゲイルが言った。そうそう。早く帰ろう。
帰りは馬車を飛ばしたから、行きよりも短い旅となった。三日目の深夜にはフェイムバウムに帰って来られた。途中、五号君の軍団と出くわすことはなかった。
『――僕はバイト先に寄ってから帰るから、リディア達はアビゲイルを施設に戻しておいて』
僕は一人、馬車を降りた。
「ジボダン」
フェリスが僕を呼び止めた。
『助けてくれてありがとう』
『……こちらこそ。助けてくれてありがとう』
僕は心の底からフェリスとリディアに礼を言った。
去り際のアビゲイルと視線を交わし、僕は一人、精肉店に入った。合鍵の場所は教わっている。
別に盗みを働こうってわけじゃない。店長にそんな不義理をするわけがない。僕が仕舞っておいたものを、取りに来たんだ。
精肉店の、いつもの作業場に入ると、肩に飛び乗ってくる影があった。
二号君のニブロだ。
そうだね。せっかくだし、一緒にタイターニアを迎えに行こうか。
冷蔵庫を開け、その奥に腕を突っ込む。
取り出したのは顔の皮。
先日、悪魔将校ダンタリオンが最後に僕にくれた供物の、エイリアンの男の顔だ。
あの事件に関しては、アビゲイル曰く、アースピントと協力状態にあったエイリアンが一斉摘発されたのだろうとのことだ。おそらく、僕とアビゲイルが遠征で受けたカウンターも、そのルートで
エイリアンも一枚岩ではなく、亜人に同情的な勢力もあるらしい。中には
皮を被った。
〈
舌を伸ばし、口の中からメダルを取り出す。先日、ホテルでアビゲイルの胎から取り出した鍵だ。アビゲイルはこれを胎に収めるのを、当初は酷く嫌がったけど、最終的には自ら預かることを買って出た。
この鍵は、施設のほとんどの扉に適合することが判明している。リディアに連れられて施設を探検した際に、全部確認済みだった。
おそらく重要施設である独房とかは無理だけど、そこは僕がこじ開ければ良い。そこまで静かに潜入できればいいんだ。どうせ外に出る時は、こっそりにとはいかない。
足音を忍ばせて街を歩く。
人通りは
街灯よりも、道に落ちる月明かりのほうが明るい夜だった。
施設の正面に来た。僕がメダルを掲げると、警備員はスッと身を引いた。
このメダル、なんと身分証明書を兼ねているみたいなんだ。僕は何度もこのメダルを掲げて重要施設を通り抜ける要人を見てきた。
こんな貴重なメダルを僕に届けてくれたエルフ娘ティリエルには感謝だ。やっぱりここを去る前に、一度しっかりお相手させていただきたい。丁寧に
そうそう……ティリエルの兄トゥルヤル。あいつを殺さないと。浮かれてて忘れるところだった。
先日、学んだんだ。
本人を殺す前に、関係者を目の前で殺してあげる。これがかなり心に響くっぽい。
トゥルヤルの身動きを取れなくして、目の前でティリエルを凌辱する。
さすがにフェリスの友達を殺すのは忍びないから、ティリエルをもう一度全身真っ白に化粧させて、よがり狂って悲鳴を上げつつ自ら腰を振るようになったところで、トゥルヤルを殺そう。それがいい。一石二鳥だ。冴えてる。
施設の中を歩く。
途中メダルを掲げ、時に鍵にメダルを当ててやれば、獣の侵入を阻むものはなかった。エイリアン達は監視カメラを持っていない。僕の〈
ドアを開けると、そこは僕が入れられていた牢獄だった。
僕を何年にもわたって閉じ込めていた牢を、格子の外から眺め、歩く。
不思議な感傷があった。
何十人という女に子種を注ぎ続け、おそらく孕んだのは一人か二人。彼女達の子供は、立派なブッチャーになったのだろうか。
牢獄を通り過ぎ、またドアを開ける。
一度リディアに連れられてアビゲイルの部屋に行ったことがあるから、道は分かっている。
僕の大柄な身体がぶつかれば、見た目との違和感に気が付くエイリアンもいるはずだ。通路はさほど広くない。僕は慎重に身体を道の端に寄せ、しかし堂々と歩いた。
ほどなくして、アビゲイルが囚われている部屋の前についた。
メダルを押し当て、ドアを開ける。
ガチャリ。
アビゲイルだ。外行きの服装のまま、ベッドに腰掛けている。
首の自爆装置は――ない。
彼女は警戒した鋭い目つきで、僕を見つめていた。
……そうだった。僕は今、見た目が誰か別のエイリアンだ。
とはいえ、この皮、一度剥がすと効果を失ってしまう。どうしよう。
壁をコツコツ叩いた。
意味は――オムカエ。
アビゲイルがはっとなって、表情を緩めた。
中に入り、後ろ手にドアを閉める。
彼女は僕の身体に抱きついてきた。
「ジェヴォーダン……」
『首輪は、外れたね?』
アビゲイルは僕の胸に顔を
『いこうか』
「ええ――あ、まって」
彼女は僕を引き留めると、ぴょんと飛び跳ねて僕の首にぶら下がり、唇を僕の口に押し当ててきた。僕の剥き出しの歯茎をなぞる温かくてぬるぬるザラザラした感触。僕も口を開けて黝い舌を彼女の口に突っ込んだ。
「んぐ……むぐ……んんっ……!」
陰茎に血流が集まっていく。
その時、トントンと肩を叩かれた。ニブロだ。分かってるよ。
アビゲイルの身体を優しく離す。
「――ぷはぁ……ここから出たらね」
ニコッと笑ったアビゲイルに、頷いてみせた。
ドアを開けて、アビゲイルの両手を引きずるような感じで廊下を進んだ。
エイリアンは雑だ。こうして声を出さずにしれっと歩けば、僕がブッチャーの孕み袋を移動させる役だと勝手に勘違いしてくれる。
独房の位置も知っている。数え切れないほど連れて行かれたんだ。
廊下を進み、階段を降り、地下通路をまた進む。
頼りない明かりの向こう。独房棟の入り口扉はすぐに見えた。
さすがにしっかりした警備兵が両脇にいる。控え室にも数名待機していた。
一か八か、僕は警備兵の前に立ち、無言でメダルを掲げてみた。
「▼〓■? ☆§◇◇●★……」
何か言っている。道を空けるつもりはないようだ。駄目か。
アビゲイルにメダルを渡し、前に出る。
何かを言いながら歩み寄ってくる警備員二名の頭を無造作に掴み、口を開け、肺に息を送り込んだ。
――ここからは、力で押し通る。
僕が二人の頭蓋骨を握りつぶしたのと、控え室に向けて肺の奥から力を解き放ったのは同時だった。
紫と黄色のマーブル模様の空気が控え室の中に充満し、数名の警備兵が慌てて立ち上がった。
彼らが口を開けた。大声を出すつもりだろう。
しかし何かを叫ぶ代わりに、あえなく血反吐を吹いた。
一人の例外もなく、喉と胸を押さえて崩れ落ちるエイリアン達。
頭を上げた根性のあるエイリアンがいた。しかしその顔は無残に
〈
やがて肉も内臓も混ぜ合わさったドロドロのタンパク質のスープが床に広がり、人数分の服と骨、そして装備がその中に残るだけとなった。
全てがほぼ無音で完了した。小さな達成感を胸に、続いてドアに手を当てる。
分厚くて重々しい、黒光りする金属製の扉だ。
この扉を開ける鍵は持っていない。
でも、もう鍵は要らない――ここからは力押しだ。
僕が触れた場所を中心に変色が始まる。黒から茶色、赤へと。やがてヒビがパリパリと入って、それが扉全体に波及していく。
〈
木も、金属も、結晶も関係ない。あらゆる物質が風化して朽ち果てる。そしてそれは広く感染する。僕はこの力で戦車を一台、鉄くずにして
やがて、ガラガラと扉の
振り向くと、僕の後ろでアビゲイルが凍り付いていた。
血まみれの手を差し伸べる。
彼女の表情に一瞬戸惑いが走ったけど、意を決して僕の指を掴んできた。
アビゲイルを引き連れて独房を歩く。タイターニアを探して。
彼女、この独房のどこかにいるはずなんだ。さすがに正確な位置は知らないから、しらみつぶしに探すしかないな。
そんなことを考えていると突如、肩にいたニブロが、シタッと道に降り立った。
カサカサと僕の前を走り、ピタッと立ち止まって振り返る。
――案内しているな。
ニブロを追って薄暗い廊下を歩む。
その後ろをアビゲイルが警戒しながらついてくる。
ほどなくして、とある部屋の前でニブロが止まった。
ニブロは牢屋の中を見て、身体を二度、三度と跳ねさせてから、後じさった。
遅れて、その部屋の前で立ち止まり、中をのぞき込んだ。