タイターニアを片手で抱きかかえ、堂々と施設を歩いて行く。
外へ向かう扉は全て吹き飛んでいた。施設の中はそこら中に破片が散らばっていて、火の手も上がり始めている。
その混乱の渦に、ひと筋の道が見える。
タイターニアが指し示す道だ。
途中、あーだこーだ言うエイリアンは全て切り飛ばした。
邪魔だ。どけ。僕らの
施設の外に出ると、重装備のエイリアンが一匹、僕の前に立ちふさがった。
真っ青に輝く巨大なグレートソードを構えた、全身甲冑トロールだ。
しかし僕は前触れもなく踏み込んで、腕を振り下ろす。
それを防ごうと剣を合わせたトロールの甲冑と肉が、骨ごと一刀両断となった。間に割り込ませた豪華なグレートソードも、まとめて切り口滑らかに真っ二つだ。
〈
こんな力、知らないだろう?
愚かなエイリアンどもめッ!
僕はただの醜いブッチャーではないッッ‼
夜空に上がった、汚濁の遠吠え。
声を出すのをやめられない。身体が熱い。
何かを
進む。街の門へ。外に向かって。
その歩みに合わせて、絶え間なく凄絶な雄叫びが街に響き渡った。
引き千切るような、押し潰すような、
そんな声に誘われたのか、次々と武装したエイリアンが出てくる。
爪で切り飛ばし、舌で
いつの間にか、アビゲイルの姿は見えなくなっていた。
これでいい。
僕らの契約は果たされた。
結局こうなる運命なんだ。
僕と一緒にいる限り解放なんてない。
僕の魂は殺戮に彩られ、鮮やかな死に囚われている。
アビゲイルは行けばいい。
地の果てまで逃げろ。そこにきっと君の未来がある。
僕は――今から、目につく全生命体を食らい尽くす!
僕と世界の対決だ!
これはどちらかが死ぬまで終わらないッ‼
この修羅に付き従うには、君はあまりに
タイターニアを抱えて進む僕の前に、立ちふさがる戦士がいる。
油断ならないオーラを背負ったミノタウロス……店長か。
珍しい、巨大な斧を持っているぞ。
店長がブモーッと何かを言っている。ここは精肉店の前だった。
僕は怒声で答えた。
険しい顔つきで仁王立ちとなる店長。
店長が斧を携えて前に出た。
ちがう……そうじゃない!
瞬時に舌で斧を奪い取り、逆に店長に振り下ろす。
ガスンッ……と音が散った。
斧は店長の脇の地面を断った。
巻き起こる衝撃の中で、店長は瞬きひとつせず僕を見続けていた。
じゃあね。
草を握り締めていた店長を残し、進んだ。店長は追いかけてこなかった。
街の門が見えてきた。
直後、四方八方から飛び掛かってくる影――待ち伏せだ。
閃く白刃。飛来する火炎。
瞬時に僕の全身が張り詰める。ほとんど同時に、僕を中心に何処からともなくどす黒い
その領域に飛び込んできた人影が、たちまち力なく崩れ落ちて動かなくなる。
炎や雷までもが、その瘴気に触れて
〈
動けなくなった獲物を、一匹一匹、アリを指で潰すように始末していく。
すると突如、地面から
魔法か……この瘴気を突き抜けてくるほどの力――。
視線をさ迷わせると、見知った顔を見つけた。
エルフ娘ティリエル。
そうか……あの子、こんなに強い魔法を使えたのか。僕を前に何もできなかった君のお兄さんより、ずっと優秀だね。あいつはもう食べちゃったけど。
僕が蔦を破ろうと力を込めた。
筋肉が膨らんで硬直する。
その瞬間を狙った、
僕の心臓を狙って正確に伸びる一条の光――ドラゴンお嬢様のアーシェラ。
先日の一騎打ちの時よりも
ならば、僕も本気を出そう――ッ!
ドッ……と鈍い衝撃が僕の身体を揺らした。
険しく見開かれた竜の目に、驚きと怖れが混然となって浮いた。
彼女の槍、レクセルは僕のエプロンを切ったところで止まっていた。
僕の身体はカビを思わせる暗緑色に変色し、表面にはネオンに輝く脈動が浮いていた。
〈
僕が茨の中で身じろぎすると、アーシェラは弾かれたように後退した。
良い反応だ。瘴気の中に長く留まれば、彼女は僕の前で無防備に跪くところだった。
僕を拘束する茨の蔦は、びくともしない。凄まじい術の力だティリエル。
でも……ナメめるなよっ‼
僕が筋肉を張り詰めさせると、ブチブチと鈍色の蔦が引き千切られていく。
すぐに僕の拘束は解けた。
ブッチャーは阿呆だ。奴らはその肉体の一割も使いこなせていない。
でも僕が操るブッチャーは、その獣の膂力を全開にして運用できる。エイリアンどもの常識をはるかに上回る、まさに桁外れのパワーだ。
術が破られる様子を前に、戦慄するティリエル。
硬直する彼女をアーシェラが抱きかかえて飛び立ち、月の中に消えていった。
勘が鋭い。彼女が戦闘のエリートだっていうのは、本当のようだ。僕の見たところ、実戦でこそ輝くタイプだ。ぜひ部下に欲しいが――。
背後に殺気を感じた。
振り返ってみると、道の先から隊列を組んで迫り来るエイリアンの軍団が。
わざわざ集団でくるとは……馬鹿め。
パカッと音を立てて歯茎剥き出しの口を開く。
大きく息を吸い込む。
炭火に酸素を送り込んだように、丹田にひそむ憤怒の炎が火勢を増した。
腹の底に渦巻く
何もかも地の底に引きずり込むかのごとき重低音が街を飲み込んだ。
微細振動する景色の中で、集まってきた多くの兵士達が耳を塞ぎ、戦意を喪失して膝を突いた。
そして間もなく、彼らの身体から火の手が上がった。
それだけではない。咆吼に巻き込まれた広範囲に渡る街の建造物全てが、一斉に自然発火した。
一変して視界を埋め尽くした
残されたのはドロドロと沸き立つ赤銅色の泉の数々と、真っ赤に焼ける
その上で、逃げる間もなく火だるまになったエイリアンどもが悲鳴を上げ、真夏のアスファルトに出た愚かなミミズのように、のたうち回っていた。
〈
燃え盛る
その歩みに大地が恐れをなして震えた。
……思い知ったか、
ひれ伏せ!
僕とタイターニアの
貴様らが今、
僕は身の毛もよだつ
僕は輝きを食らう
復讐者にして調停者!
この
この
我 が 名 は ジ ェ ヴ ォ ー ダ ン‼
――けたたましく夜空を轟き渡る、この世の物とは思えぬ
――