※この作品はR-18です。

ストーリーはいらない   作:南野此志岐

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なにゆえ
なにゆえ、こうなった。

拙者は……拙者は……っ


魔法使いの孤独

 この世界の魔法に属性や系統は無いらしい。

 魔法の行使に必要な条件は三つ。

 魔力を宿していること。

 想像力が豊かであること。

 発動から発現までの経過に必要な魔力量を保持していることだ。

 魔力を宿してない人間に魔法は使えない。

 魔力を宿していても使い方がわからなければ使えない。

 魔力があって使い方がわかっていても、走行距離に対して燃料が不足していれば完走はできない。どれだけ想像力が豊かでも内容次第では魔法は発現しないと、そういう仕組みになっている。

 

 人間の想像力が及ぶ範囲は大抵の場合知識量に左右される。

 だからか、魔法は日常生活に直結する物が多い。

 薪に火を点ける魔法、重い荷物を軽く感じさせる魔法、食料を少しだけ長持ちさせる魔法、飲み物の温度を変える魔法など。

 一見万能に思える魔法だけど、ネックになるのは使い手が保持している魔力の量だ。

 魔力量は想像の結果を発現させる、目に見えて触れる現実を変化させるために必要な対象物の量や空間の範囲に比例して消費する。

 薪に火を点けるなら薪のどこか一点にだけ高い熱を加えれば良い。

 重い荷物を軽く感じさせたいなら荷物と人体の間にクッション代わりのごく小さな空間を作って浮かせれば良い。

 食料を少しだけ長持ちさせたいなら対象物の酸化を緩やかにすれば良い。

 飲み物に温度変化を与えたいなら器の中身にだけ熱を加えるなり奪うなりすれば良い。

 どれも局所的な変化で済むから、消費する魔力は大した量じゃない。

 

 けど、川や池や泉なんかの水質を解析するとなるとかなりの範囲に変化を与えてしまう。

 どこからどこまでと範囲を絞って調べようとしても、水は地形や風や生物の影響を受けて絶えず循環する物。調べている間に範囲外から対象外の水が流入し流出してしまう。

 この自然の流れに対応できるだけの魔力量を保持できる人間はそんなに多くない。というか稀少だ。

 

 数ある魔法の中でも火を点ける魔法と並んで最も古くから存在し、けれど使い手になれるほどの魔法使いは滅多に現れない、他のどんな魔法よりも生命維持に必要と言えなくもない水の解析魔法。

 それをたまたま異世界から迷い込んだ私が使えてしまったところから、地獄は始まっていたのかもしれない。

 私はただ喉が渇いてる時に川を見つけて、この水って生で飲めるのかな? 寄生虫とかいなければ良いんだけどなって思っただけだったのに。

 

「もう、嫌だ…………帰りたい」

 

 元々いた世界に。日本に。私の家に帰りたい。

 そう言って膝を抱えて泣いた夜。

 初めて発動した移動魔法は、この世界で一歩目の靴跡を付けた場所に私を運んだ。

 その周りには当たり前のようにこの世界が広がっていて、地球もアジアも日本も私の家も無かった。

 人や物を目的地に運ぶ便利な移動魔法は、そうして私に最初の絶望を植え付けたのだ。

 

「帰りたいよ」

 

 森や街道沿いをあてどなくさ迷って辿り着いた村に住む人達は初め言葉が通じない私を警戒してたけど、何を言ってるのか知りたいと思ったら話が通じ出して、私が水を解析できると知ってからは空き部屋を貸してくれたり食料を分けてくれたり畑仕事を手伝わせてくれたり、すごく親切にしてくれた。

 馴染むまではちょっと時間がかかったけど、見た目に違和感が少ないこの村でなら生きていける気がするって思えるくらいには居心地が良かったのに。

 

「帰りたい……」

 

 解析魔法を使う魔法使いの噂を聞いた国王がお忍びで村に来てからは、何度戻りたいと呟いても移動魔法を発動させても村へは移動できなくなった。

 私に正体を明かして城に拐った国王が、村に忍ばせている国王直属の諜報員に、私を見かけたり私の気配を感じたりしたら国王への報告も真偽の調査も抜きにしてその場で村を焼き払えって指示を出したと脅してきたから。

 私が一歩でも一瞬でも村に入ってしまったら、親切にしてくれた人達が全員殺されてしまう。そんな光景は想像もしたくない。

 だから、私の魔法は絶対に私を村へは運ばない。

 どんなに懐かしくて恋しくて、与えられた温もりを求めていても、だからこそ私の魔法は私と村を切り離した。

 

「帰る……どこに……? 私が帰っても良い場所なんてどこにあるの?」

 

 帰りたいと願っても移動魔法は発動しない。

 今は魔法を遮断する結界が張られているからだけど。

 そもそも《帰っても良い場所》がイメージできないから、どっちにしても発動はしない。

 

「私が帰れる場所なんて……無い……」

 

 あの男を……国王を受け入れれば楽になれるのだろうか。

 泣いて嫌がる私を地下牢に閉じ込め拷問台に背中を張り付け無理矢理着せられていたウェディングドレスを短剣で切り裂いて大の字に広げた両手両足を鎖で拘束して前戯もせずカウパーでベタベタになった陰茎で処女膜を突き破って痛みとショックで自失状態の体を一晩中《アイシテル》と言いながら揺さぶり撫で回し舐め回していた、あの男を夫として受け入れれば。

 そんな強姦魔に自分から犯されてその子供を孕んで産んで育ててまた犯されて孕んで産んで育ててまた犯されて孕んで産んで育ててまた犯されて……。

 

「い──……っ、イヤ! 絶対にイヤ! 気色悪い!」

 

 冗談じゃない。考えるだけでゾッとする。

 誰がそんな場所に帰りたいと思うものか。いっそ死んだほうがマシだ。

 あの男の前で高笑いしながら自分の心臓に剣を突き刺せたらどれだけ清々しい気分になれるか。

 私が自殺しても村を焼き払うと脅されていなければ、輪姦される前に実行していたのに。

 あの男は私が嫌がる方向でばかり頭が回る。

 

「気色悪い気色悪い気色悪いっ……! ああ、あああ……もう、嫌……もう嫌! もうイヤ! もおヤだああああああ! 嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い! みんな嫌い! 大っ嫌い! 死んでよ! 私から奪ってく人間はみんなまとめて死んで! 国王も王太子も宰相も他の王子もこの国の人間みんな一人残らず死んでしまえええ────っ!」

 

 国王が押し付けてくる《アイシテル》が気持ち悪い。

 私の体を性欲のゴミ箱扱いする王子達が気色悪い。

 解析魔法が存在しなければ。

 私が使えていなければ。

 こんな地獄には縛られてなかったのに。

 

「うわあああああああああ──────っ!」

 

 無駄に肌触りが良い枕を投げて布団を引き裂いて羽毛を散らして家具を蹴飛ばして壊して絨毯に崩れ落ちて泣きわめいた。

 死んでしまえと叫んだところで人間が死んでいくイメージなんか怖くて浮かんできやしない。

 想像できない物を魔法は叶えてくれない。

 誰も私を助けない。

 私も私を助けてくれない。

 こんな世界、滅びてしまえば良いのに。

 

『それが君の祈りかい? ユキネ』

 

「!」

 

『可愛いユキネ。ボクのところに来る? ボクは君から奪わないよ。ボクだけはいつだって君の味方だからね』

 

「…………誰?」

 

 声がする。

 頭の中で作り物みたいな女の声が楽しそうに笑う。

 上半身を起こして周りを見ても誰もいない。

 

『ボクはコン。この世界では魔王と呼ばれているよ』

 

「…………魔王? ……ま、お……う………………って、魔王!?」

 

『うん。君達がその国の人間に討伐してこいって言われている魔王。でも、ボクは君と同じ日本人だよ。生まれた時代は違うけど』

 

「日本、人? ……アナタも……?」

 

『ボクは三百年前に解析魔法の使い手としてこの世界に召喚されて、君と同じくとある国の王サマに拐われたの。魔法を使うには想像力が重要だって広く知られる前の時代だったから、解析魔法は血統で受け継がれるんじゃないかって、お試し感覚で国王から貧民まで千人近い相手と子作りさせられちゃったんだよね。それでボクも君と同じようにぶちギレて召喚主と世界を半壊させちゃった。そしたらこの世界の人間に加えて成長したボクの子供達までボクを魔王扱いして命を狙い始めたんだ。君を捕らえているその国の王族も隣の国の王族も、大体みんなボクの子孫。今じゃボクの子孫達がこぞってボクを殺そうとしてるんだよ? このままだと君もボクと同じ目に遭うかもしれない。酷いよね? こんな世界は滅ぼしたいよね?』

 

「…………魔王が日本人で……あの国王も、魔王の子孫……?」

 

『そうだよ、ユキネ。地球に戻る方法は無い。この世界ではお腹を痛めて産んだ実の子供やその子孫ですら命を狙う敵になる。この世界はボク達にとって酷すぎる害悪だ。だけど、新しい居場所として作り変えることはできる。ボクとユキネが手を取り合えば簡単なことだ』

 

「……新しい……、居場所……」

 

『そうだよ、ユキネ。一緒にこの世界の害虫を駆除してボク達の新しい居場所にしよう。誰にも犯されない何も奪われない、ボク達だけの穏やかで優しい世界に作り変えよう』

 

「…………」

 

『さあ、ユキネ。そんな地獄は捨ててボクを求めて。ボクが君を解放してあげる』

 

 作り物みたいな、アニメ声優みたいな若い女の声が、私にゆっくり話し掛ける。見えない手を差し出している。

 私は顔の正面をゆっくり落ちていく羽毛に目を向けた。

 

「…………一つだけ聞かせて」

 

『良いよ。なんでも聞いて』

 

「この国の歴代の王族に黒い髪とか黒い目とか象牙色の肌の人間は一人でもいた?」

 

『……どうかな? いたかもしれないし、いなかったかも』

 

「そう……。わかった。なら、どっかに行って。私、嘘と真実を交ぜて話す人間は信用しないって決めてるの」

 

 お腹の底から湧いてくる怒りを息と一緒に吐き出して誰もいない何もない天井を睨み付ける。

 

『嘘?』

 

「アナタは嘘をついてるでしょう?」

 

 相手をうまく騙すなら嘘の根幹にほんの少しの真実を埋め込めば良い。

 地球の、少なくとも日本人なら大抵は知ってる詐欺師の常套手段だ。

 魔王と名乗る女の声は私を騙そうとしてる。

 

『どうしてボクが嘘をついてると思うの? ボクは本当に』

 

「三百年前の日本人なら知らないかもしれないけど、人間が持つ黒い色素は顕性遺伝なの。優性遺伝とも言って、他の色素よりも子供に受け継がれやすい傾向がある。私は歴代国王一家の肖像画を見せられたけど黒い髪も黒い目も象牙色の肌も全然いなかった。この国の王族に日本人の遺伝子が交じってる可能性は限りなく低い」

 

『……この世界の遺伝とボク達の遺伝が同じだと』

 

「同じよ。私に親切にしてくれた村の人達はほとんどが黒い髪か黒い目か象牙色の肌だったから。日本人の遺伝子が交じってるとしたら銀髪で水色の目と白い肌を持つ色素が薄い国王じゃなくて彼らのほう。村の人達こそがアナタの子孫でしょう、魔王」

 

『…………君は……絶望の中でも冷静に周りを観察できるんだね……すごいよ、ユキネ』

 

「アナタが私に声を掛けてきた理由は知らない。もしかしたら本当に私を助けてくれるつもりなのかもしれない。だけど今魔法を遮断する結界を越えて話し掛けられるくらいならいつだって干渉できた筈なのにそうしなかった、アナタの言葉を私は絶対に信じない。アナタは私の味方じゃない。消えて。今すぐに」

 

『そう……残念だけど今は退くよ。でも、また会いにくる。ボクはボクを拐って辱しめたこの世界の全部が憎い。君も君を捕らえて離さない地獄を憎んでる。ボクとユキネは同じだ。ユキネはボクを選ぶよ。必ずね』

 

「私は誰も選ばないし誰も信じない。私が助けてくれない私を、他の誰が助けるっていうの」

 

『……可愛いユキネ。可哀想なユキネ。どうせ帰れないのだから……心なんて壊してしまえば良かったのに……』

 

「…………────! まさかアナタ……わざと助けなかったっていうの……? ううん……違う、助けなかったんじゃない。もしかして……アナタが私をここに……!?」

 

『…………』

 

「酷い……酷い! なにが私の味方よ、嘘つき! アナタが私を地獄に突き落としたんでしょう! 自分の目的のためだけに私を巻き込んでズタズタにされるまで放置して……! 憎い? 笑わせないで! アナタもこの世界の人間と同じよ! 他人の意思をねじ曲げて弄んで心を殺す、人殺し!」

 

『……そうだね。そういう意味ではボクも君を殺した人殺しだ。そしてボクはこの世界で千人近い人間に繰り返し殺され続けた生ける屍体でもある。……ねえ、ユキネ……殺された人間が、殺した人間を、見殺しにした人間達を、殺しちゃいけない、なんて、すごく理不尽だと思わない?』

 

「…………っ」

 

『ボクは殺すよ。ボクを殺した人間はみんな殺した。ボクを見殺しにした人間も大半は殺した。これからもボクを殺そうとするならみんな殺す。手当たり次第に殺していく。助けを求めてきても殺す。ボクがそうされてきたからね。助けてやる義理はないから、無視してみんな殺す。でも、ボクと同じ君とならきっと手を取り合えるって信じてる。ボクは君を待っているよ。また会おうね、ユキネ』

 

 魔王の声は答えを待たずにプツンと切れた。

 私は布団や家具や羽毛が散らかる寝室で一人ベタ座りしたまま両腕で涙まみれの顔を拭く。

 

「っ、…………最っ、低……っ!」

 

 私はこの世界に迷い込んだんじゃなかった。魔王に召喚されてたんだ。

 魔王の目的はこの世界の滅亡。

 自分を陵辱した人間とそれを傍観した人間に対する復讐と安住の地の獲得。

 私はそのために拐われた目的達成後の同居人候補。

 魔王の傷を癒すために用意された自慰の道具。

 

「アナタなんか知らない関係無い! 復讐したいなら一人でやって! 私を巻き込まないでよ!」

 

 解析魔法は金の成る木だ。

 見つかった使い手は必ずあの手この手で偉い人達に縛り付けられてしまう。

 それを知ってて魔王は私に《解析魔法を発現できるだけの魔力を与えた》。

 野生生物にそうしてきたように。

 魔獣に変貌しない程度に抑えた膨大な魔力で私を冒して召喚して王族の耳に入りやすい場所へ放置した。

 多分魔王は三百年前の自分が召喚主……当時の魔王にされたことを私にやったんだ。

 欲望と絶望の渦に突き落としたその手で拾い上げて自分だけが味方なんだと思わせて、すがりつきすがりつかせる関係になろうとした。

 

「嫌い……嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い大っ嫌い! みんな大っ嫌いっ! この世界の人間も魔王もみんな嫌い!」

 

 嫌い。だけど。

 窒息しそうな現実の中で誰かや何かにすがりたい気持ちはわかってしまう。わかってしまった。

 だって、私も……。

 

「っ! ティティ……!」

 

 思い浮かんだ女の顔にハッとした。

 ティティは国王の命令で召喚された勇者だ。

 魔王はティティに関しては何も言わなかった。

 ただ自分を殺そうとする人間はみんな殺すと言った。

 魔王が欲しいのは自分と同じ経験をさせた私だけ。ティティは求めてない。

 私が止めないとティティは……殺される。

 人間にも魔王にも。

 殺される。

 

「……っ……ころして、やる…………」

 

 ゆるさない。

 ティティに危害を加えるなら、誰であろうとゆるさない。

 

「殺してやる……殺してやるっ! こんなふざけた世界、跡形もなく滅びてしまええ──────っ!」

 

 解析魔法さえなければ。

 魔法さえなければ。

 魔力さえなければ。

 

 喉に走る乾いた熱と痛みを無視して叫び、振り上げた両手で絨毯の上から床を叩く。

 だからといって床が割れるわけでも抜けるわけでもなく、溢れて止まらない涙が絨毯にまるい染みを作るだけ。無力な自分を思い知るだけ。

 

「…………はっ。累計で一年以上も男になってた私を侮ってんじゃねえぞ、クソクズどもが」

 

 私は無力だ。私には何もできない。

 だから。

 

 力を持ってるヤツを最大限に有効活用してやる。

 

 




拙者はただ!
おのことおなごが○○○○に△△△△を↑↓↑↓してズゴバゴどすこいでうふんいやんばかんあっはんハートな頭に悪いエロ話が見たかっただけでござる!ハードでニュルじゅるなエッが見たかっただけでござるうう!
だというのになにゆえこのような話になったでござるかあああ!?
ただちに軌道修正を、軌道修正をせねば!


……しっかし……王族とか前魔王とかマジでキMoげふんげふん!
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