ふわふわする。
気持ち良い。
なんだろうな、この感じ。
天気が良い日に木陰でうたたねしてるっていうか。
そよ風に身を任せながらぼけ~っとしてるっていうか。
「ん……、んあっ、……んん……?」
……いや? なんか違うな。
そうじゃない。
そういう気持ち良さじゃない。
なんていうか、もっとこう、ぬるま湯に浸かってるみたいな?
ぼ~っとしてるのに腰が浮く……みたい、な……。
「ふ……、んう……ああっ、…………あ?」
って、ちょっと待て。
これは。
この感じは。
「じゅ……っ、ちゅぷ、んふ」
「……っ、てめえ! 人が寝てる間にナニしとんだ、このヘンタイ!」
「! ああ、……残念。起きてしまいましたか」
意識がハッキリしたのと同時に踵を振り上げて、俺のチンポにしゃぶりついてる金髪男の肩を蹴り飛ばした。
男は少し身動ぎした程度で平然と上半身を起こして胸まで伸びる髪を耳に掛け、唇の端から垂れてる唾液を親指で拭い、俺に流し目を寄越しながらペロ……と舐める。
相変わらずフェロモン垂れ流しな仕草だ。
くっそ、油断した。
なんでコイツが俺の寝室に居やがる。
まだ太陽は出てないってのに!
「陛下のお相手で疲れているのでしょう? もう少し眠っていても良いのですよ、シンゴ」
「チンポしゃぶられながら休めるかっ! ついでに尻の穴も狙ってんだろお前!」
「あなたが眠っていれば、あなたの体は気持ち良い。私はあなたの体で満たされる。これぞあなたが言っていた《WIN‐WINの関係》というものでは?」
「意味がちっげえよ、クソが! 俺をダッチワイフ扱いすんなっつってんだ! これ以上俺に触ったら寵姫権限でその首跳ね飛ばすぞ!」
「おや。ついに陛下の求愛を受け入れたのですね」
「笑えない冗談はヤメロ! 今まで散々好き放題してきた分の代償を払わせるだけだ!」
「ほう。寵姫の役目を拒んでおきながら、寵姫に与えられている権力だけは振りかざそうと? それこそ笑えない冗談ですね」
「っんだよ!」
「寵姫の役目は、王妃陛下やご側室の方々と共に国王陛下のお子を成して王家の血脈を次の世代へ引き継ぐ事。その為に国民から集めた税金であなたの衣食住を賄ってきたのです。責任を負うのは嫌。だけど権力は思いのまま。そんな人間を、国民はなんと呼ぶのでしょうねえ?」
「養ってくれと頼んだ覚えは無い!」
「あなたがお世話になっていたクヌカゲ村の住民にも、面と向かって同じ事を言えますか?」
「…………っ」
ああ、クソ!
常識人ぶりやがって!
コイツ、ほんとムカつく!
薬漬けにされた俺を誰よりも嬉々として犯しまくってたキチガイのクセに!
「ああ、すみません。あなたを責める意図は無かったのです。あなたがツレナイ態度を取るものですから、つい虐めたくなってしまいました。気持ち良くして差し上げますので、どうかお許しを」
「とか言って、さりげなく続けようとすんな! お前はお前の大好きな王太子夫妻と乳繰り合ってろバカッ!」
「殿下は陛下の呼び出しを受けて不在です。あなたの態度を見るに、あなた絡みで何かしらの進展があったのでしょうが……あと少しで達するという所で呼び出されたので、私も御夫妻も不完全燃焼なんですよ。あなたでヌかせてください」
「うげっ」
半分冗談だったのに、マジで旦那と部下で2穴セックスをお楽しみかよ王太子妃。
爛れてるにも程があんだろ、コイツら!
「ふふ。冗談です。妃殿下は生粋のノーマルで、婚約する前から殿下一筋の愛情深い御方ですよ。私と殿下の関係は黙認されていますし、時々私と殿下の関係を夜のオカズにしていらっしゃるようですが」
それはノーマルじゃない。貴腐人だ。
「あ──……いや、冗談て。俺はともかくお前の立場じゃ王室侮辱罪になるんじゃねえの?」
「持つべきは権力者の愛人ですね」
「気持ち悪ぅ……」
元ジャの少年部とヅカの男役と白人の青年を掛け合わせたような中性的で色白で人当たりが良い柔和な顔をにこっと爽やかに歪める、攻め専門の腹黒三十路男。
こんなんが王太子付き第一騎士団の団長とか、人選をミスってるとしか思えないんだが。
「ってか、王太子が呼び出されてんならソッチに付いていけよ! こんな所で俺相手にナニしてる場合じゃねえだろ!」
「気持ち良くさせてくれないのですか? あなたの分身は物欲しそうに屹ちんぼして私を誘っているのに」
言われてうっかり目をやれば、俺のチンポが男の言葉に同意するようにぶるんと弾んだ。
唾液と唾液じゃない液にまみれた亀頭が、月光を反射してヌラヌラ光ってる。
「~~~~っ!」
慌てて起き上がり、布団を適当に掴んでチンポに付いてる物をゴシゴシ拭き取る。
腰にクる刺激は無視。
これからティティの所へって時に、コイツにイかされるのだけは嫌だ。
コイツはちょっとでも気に入ったら男も女も年齢も関係無いバイセクシャルで、未婚も既婚もバッテンも片っ端から食い漁る倫理無用の色情狂。俺を犯した人間の中では頭一つも二つも飛び抜けた絶倫テクニシャン。
国王の愛撫をギリギリでかわせたのは、コイツのヤバすぎる性技を知ってたからだ。
コイツに食われたらチェリーでも秒でぶっ飛ぶ。
そんなコイツの感触が残る体でティティに触ったら、ティティとコイツを結び付けるみたいで絶対に嫌だ。
「くすくす。本当にあなたは可愛らしい。このまま押し倒して殿下がお戻りになるまでお相手願いたい所ですが、からかうのはここまでとしましょう。私も一応任務遂行中ですので」
「仕事中なら寝てる人間を襲うなよ!」
「あなたと会話する必要がある為、あなたが起きるまでは暇だったんですよ」
「暇だからフェラチオとか、ほんっとにろくでもないな……っ」
「寝ている間に美味しく頂かなかっただけ我慢強いと自負しています。ね?」
布団の上で膝立ちした騎士服の男が、パンパンに膨れ上がったズボンを見せつけるように腰を反らした。
膨らみの根元から腹にかけてをつつ……となぞり上げる指先が妙に卑猥だ。
あれが、あれとアレが、自分の体に何をしたのか。
思い出して腰が引ける。
「っ、いいから、仕事! 仕事に戻れ、セドウィック騎士団長!」
「ふふ。承知いたしました、ご寵姫様」
意味ありげに微笑んだ男がベッドを下りて一礼した後、扉に顔を向けて両手を二回打ち鳴らした。
「もう良いですよ、パノヴァ。こちらへ」
「……失礼します、シンゴ様。セドウィック様」
一拍後、常時廊下で待機してる俺の寝室専属の護衛が扉を開いて引っ込んだ。と思ったら、やけにデカイ木箱を両腕に抱えて遠慮がちに入ってくる。
全身を金属の甲冑で覆い隠してるその護衛は、ベッドの端に木箱をそっと乗せてから、開きっ放しの扉の横に控えた。
珍しいな。
普段なら呼ばれてもすぐに出てくのに。
「で? 何だよ、このデカブツは」
俺の上半身がすっぽり収まる大きさの白い木箱を指差しながら、男に聞いてみた。
正方形に近い長方形の木箱には、同じ素材の蓋が被さってる。
見た目には何の変哲も無い衣装箱っぽいけど、この国に服を畳んで保管する習慣は無いし、贈答用のケースにしては高さっていうか深さがありすぎる。紙製じゃなくて木製ってのも妙だ。
なんか変な仕掛けとかあるんじゃないだろうな? と睨む俺に、男はすまし顔で答えた。
「国王陛下よりの賜り物です。ご寵姫様が目を覚ましたら渡すようにとの事で、謁見中の王太子殿下に代わり、私がお預かりして参りました。なお、《出立時の挨拶は不要》との仰せです」
「はああ!?」
挨拶抜きでって……あの、クズ!
なんだかんだ言って結局はコレかよ!
「畜生がっ! やっぱり権力者って奴はクソだな。何一つ明確な言葉で確約しない、うやむやに流して誤爆を誘う卑怯者ばっか。お前、こんな連中の愛人なんかになって何が楽しいんだ?」
イライラして髪を掻き乱せば、男が自分の唇に指を当ててくすくす笑う。
「うやむやに流す所や、流される相手の反応が面白いのですよ。誰彼構わず騙そうとする手腕は見事なものですし、騙されまいとして騙す心理も、深読みしすぎて墓穴を掘る様も、端から見ている分には大いに愉快です。権力者に限らずね」
「権力者に限らない?」
「ええ。特に、立場が上と見た者の言葉を真に受けてろくな検証も思考解析も行わず無自覚なまま偏った考え方や空気で同調し結託し、《そうではない人間》に対して正体不明の常識と正義感を増長させ同調圧力を振りかざす、感情的かつ短絡的な操り人形と化している哀れな国民や、否を前提にした底が浅い見解とそれを基にした見当違いな未来予想しかさえずらない自称知識人の阿呆鳥な国民には、笑いが止まりません」
「阿呆鳥って……自分とこの国民をそこまで悪し様に言う?」
「真実、阿呆鳥なのだから仕方ありません。彼らが悪と語る大抵の物事は見方を変えれば自分にも当てはまるのだと気付いてもいないのでしょうね。あるいは、気付いているからこそ多数派を気取って自分を擁護しているのかもしれませんが。邪魔臭くなったら簡単に裏切る烏合の衆とはいえ、数より優れた盾はなかなかありませんからねえ。いずれにせよ、私以外の人生は暇潰しに最適な
「ああ、ハイハイ。お前の性格が炭より黒いって事はよく分かった」
「あなたが無駄にジタバタ足掻く姿も好ましいですよ」
「うっせえ黙れ人非人」
「人間
「マジで魔王より先にお前らを討伐したい」
「薬漬けの輪姦生活に戻りたければ、ご自由にどうぞ。歓迎しますよ? 今度はパノヴァも一緒にね」
バキッと音を立てて、木箱の真ん中が派手にへこんだ。
隕石の落下地点みたいになったそこから弾けた木片が、男の頬を切り裂いてどこかにすっ飛んでいく。
ニヤつく青い目の男の頬から血が一筋流れ落ちた。
「ちょっと黙ってろ、セドウィック・ノア=ギュスト。俺が良いって言うまで絶対に口を開くな」
自分の手の甲で血を拭った男が魔法で傷を治し、仰せのままにと言いたげに姿勢を正して頭を下げる。
「ったく、どいつもこいつも」
パノヴァは……見た目じゃ分からんけど、兜がこっちを向いてるからまだ大丈夫そうだ。
布団を離して立ち上がり、魔法でぶっ壊した木箱の蓋を蹴り飛ばす。
木片が散らばった箱の中には、真っ白な下着と上下服とローブと手袋と靴。それと、魔法使いが集中力を高める道具として使う木製の杖が入ってた。
ローブの胸元には王家のシンボルである紫と青の薔薇が刺繍され、真っ直ぐ長い杖の先端には紫水晶らしき卵型の宝石がくっ付いてる。
「あのクズ。全部俺にやるって、こういう事かよ」
《権力の象徴を掲げる資格》
それは、象徴が示す権力者と同等の権限を授けられた事を意味する。
が。
この場合のシンボルは、俺をこの国の王の物だと世界的に主張する為の《烙印》だ。
国王と同等、同等以下の権力者達に対して、自分の所有物だから手を出すなと牽制する名札。
「ガキ臭い独占欲を丸出しにしやがって。実質奴隷じゃねえか。対外的な肩書きは《国王直属の魔法使い》って所か?」
素っ裸のまま仁王立ちで頭をガシガシ掻く。
パノヴァの前だし、さっさと着替えてやりたい所だけど……。
ああ、いや。だから室内に留まったのか。
「パノヴァ。入浴の準備を頼む」
「承知しました、シンゴ様」
俺のほうをジーっと見てたパノヴァが、指示を受けてそそくさと出ていく。
やっぱ、室内にいるのは嫌だったんだろうな。
もっと早く気付いてやれば良かった。
「お前も、もう良いぞセドウィック。これで仕事は終わりだろ。とっとと出てけ」
「いいえ。殿下がおいでになられるまでは、こちらで待機せよとの命を受けておりますので」
「……入浴中にちょっかい掛けようとか思ってないか?」
「なるほど。たまには両手に花も良いですね」
「! お前、またっ」
「ご安心を。あれ以降、手は出していません。時々思い返してオカズにするくらいです。我慢強いでしょう?」
「ほんっとに、お前さあ……今すぐ死ね下種野郎!」
「あなたが王命に背いてくだされば、あの体をもう一度味わえるのですけどね。あれは気持ち良かった。ユキネの次くらいには名器でしたよ。主従関係に従順でありながら中に出した後まで抵抗を続けてくれた点でも、希に見る逸材です。王太子殿下も珍しく気に入っていたようですし」
コイツ、口を開けば気分が悪くなる事ばっかり言いやがる。
俺が逃げ回ってたせいだと暗に責めてるつもりか?
てめえらの存在以上に害悪な物は無いんだよクソが!
「お前が待機を命じられてんのは室内に限らねえだろ。せめて入浴中は廊下に出てろ!」
「そう言われては従わざるを得ませんね。ですが」
「!」
にこっと笑った男が、俺の手首を掴んで引っ張った。
「んぐっ!?」
よろけてベッドから落ちた拍子に抱き寄せられ、滅茶苦茶ディープなキスされる。
「ん、なにっ、なんのつも、んぶっ、ぐ……、っ」
しつこいくらいに大量の唾液を流し込まれ、何度も飲み込む。
腹の底が熱い。体の中で何かが燃やされてるみたいだ。
「……っは……。まあ……、陛下への意趣返し、でしょうか。念の為に可能性を潰しただけですよ。あなたもそれを心配していたのでしょう? ねえ、パノヴァ」
「……っ」
サウナみたいな熱さと息苦しさに目眩を感じた頃、いつの間にか戻ってたパノヴァに気付いた。
部屋の隅で猫足のバスタブにお湯を注いでる。
その背中が一瞬揺れた、ように見えた。
「……入浴の準備が整いました、シンゴ様」
「では、私は廊下で待機しています。着替えが済みましたらお声掛けください」
「あ、ああ……」
ふらつく俺をベッドに座らせた男が、悠々と歩いて部屋を出ていく。
扉を閉め切った音の後、すぐに別の金属音がした。
顔を上げた俺の目に、早朝の雪原に落ちた影みたいな澄んだ色のウェーブヘアが映り込んでなびく。
薄い紫の瞳を持つ、どこか冷たい雰囲気を漂わせる絶世の美少女が、外した兜を脇に抱えて俺の足元に跪いた。
「お見苦しい姿で失礼いたします、シンゴ様」
「パノヴァが見苦しいなら、俺は死体系モンスター並みに醜いよ。ゴメンね。シンゴの世話なんかさせて」
「いいえ。あなたがシンゴ様であろうとユキネ様であろうと、私の主人である事実に変わりはありません。お許しいただける限りはお世話をさせてください」
「……うん。ありがとう。今回もよろしく」
「はい」
俺の侍女として宮殿に派遣された十代の美少女は、俺に何度も逃げられた罰と称し、国王に犯されてる俺の前で王太子と騎士団長にレイプされた。
それがきっかけになったのか魔法を遮断する力に目覚め、以来彼女はずっと結界を纏った甲冑姿で、王国随一の結界師として、俺の護衛というか監視役をこなしながら、自分の身も守ってる。
「ねえ、さっきのって、どういう意味?」
時々パノヴァの手を借りながら、お湯に浸かって体を洗う。
侍女時代は全部任せてたけど、今はほとんど自分でやってる。そっちのが速く終わるし、俺の気分も楽だ。
「さっきの、とは」
「国王への意趣返しとか言ってたヤツ。パノヴァも心配してたって、何を?」
ボトルを傾けたパノヴァから液体洗剤を受け取って腕に塗り拡げる。
どうせ上がる時に真水でまとめて洗い流すからとバスタブの中でゴシゴシしてたら、泡がブクブク立ってきた。
洗剤の成分は知らんけど、この辺は地球と変わりないらしい。
「……私は、あの方々を軽蔑しています」
「まあ、そりゃそうだよね」
軽蔑じゃ安すぎるくらいだ。
「ですが、騎士団長様に限定して言わせていただけるなら、まったく以て思慮に欠けているとは言い切れない一面もあるようです」
「なにそれ。正気?」
「現在の私は結界師です。どのような想像も概念も私の意識を侵食する事はできません。だからこそ、私の存在があなたをこの部屋に縛り付けてしまう」
「うん」
「私が結界を張っている間、あなたはいかなる魔法も使えない。そして、
「……………………え?」
「結界は内側の変化を妨げる力ではありません。魔力の働きそのものを遮断する物です。だから私には分からないのです。騎士団長様がシンゴ様に魔法を掛けた意味、掛けた魔法のその意味が」
パノヴァが結界を張ってる間、俺には魔法が一切通じてない。
今回、国王の相手をした時の俺はユキネで、ユキネの体はほぼ一日中無防備な女だった。
その俺に、必ずしも思慮に欠けているとは言い切れない男が、《国王への意趣返しで》魔法を掛けた?
「…………まさか」
泡まみれの水面の下で、自分の腹に手を当てる。
もしかしたらあったかもしれない可能性に愕然とする。
「私は、あなた個人に仕える者として、騎士団長様に感謝しても良いのでしょうか?」
温かいお湯の中、ハープの音色を思わせる穏やかで心地好いパノヴァの声を聞きながら、俺はただただ凍り付いていた。
銀髪美少女……イイ……!
そして国王、ゲスい!やり口ゲスい!