それと2つ、謝りたいことがあります。1つ目はあらすじで好き勝手やると書きましたが、しばらくは原作沿いのような形になりそうなこと。そして2つ目……2週間も投稿期間を開けてしまい、本当にすみませんでした!
授業中。
「それじゃあこの文にある“覚悟”という言葉の意味を、改めて辞書で調べて――」
……ヤバい、くっそ眠い。テストが近いから授業はちゃんと受けときたいのに。それに今は百里先生の授業だから、居眠りするとあとが怖い。
「……っ」
視界がぼやけてきた。これ本格的に寝そう。睡眠時間は足りてるはずなんだが……やっぱあの炎の夢のせいだよな。あれのせいで眠りが浅いのかもしれない。
「それじゃあ、木下さん。意味を読み上げ――」
******
(……あー、寝ちまったのか)
気づくと俺は漆黒の闇の中にいた。いつものように、目の前に炎が点る。
(……これ、いつまで続くんだろうか)
4月頃から続くこの夢。最初から強く、激しく燃え盛っていた紅蓮の炎……いい加減、鬱陶しくなってきた。
俺に取り憑いた魔王ってのは、一体何を考えて――やっぱ、俺を乗っ取るつもりなんだろうか。
(……ふざけんな。乗っ取られてたまるかよ)
なんとか炎から逃れようにも、体が動かない。力を使えば逃れられるかもしれな――いや待て、落ち着け俺。むしろ使ったらダメだ。そもそもこの炎が力そのものなんだから。
(……打つ手なし、なのか)
半ば諦めに近い感情を抱いた、そのとき。
「大丈夫だよ」
「……あ?」
俺のではない、誰かの声が聞こえた。そして降り注がれる、紅蓮の炎とは別の優しくて温かな光……その光とともに、雪のように真っ白な羽根が俺の周りを舞うように降ってくる。見上げると、そこには――
「……天、使?」
「うん、そうだよ。僕は天使だ」
――天使がいた。
大きくて真っ白な翼を広げた、美しい金の長髪の小柄な美少女……その姿は、紛うことなき天使。
「魔王に続き、今度は天使かよ……ってか俺、なんか普通に喋れてる?でも体は動かない……俺に一体、何が起きてるんだ……?」
「……ふむ。君はもしや、自分の現状を理解しているのかい?」
「あ?……まぁ、なんとなくは」
俺の答えを聞き、天使が少し驚いた目で俺を見る。
「そうか……いや、今はそんなことどうでもいい。それより使命を果たさなければ」
「使命?」
さっきから一体何を……と思ってると、近くまで舞い降りてきた天使が俺の頬に手を添える。
「こちらを……僕を見て」
そう言って天使は、優しい手つきで俺に空を仰がせた。そうされたことで天使の顔が目の前に来る。
透き通るような白い肌。人形のように整った顔立ち。宝石のように輝く、大きくて丸い青き瞳。プルっとした瑞々しい桜色の唇……さっきも思ったが、まさに美少女である。
「君はそのまま、動かないでいいから」
いや、動けません――と俺が口に出す前に、目の前にまで来ていた天使の顔がさらに近づき……
「……ちゅっ」
俺と天使の唇が、重なった。
「………」
天使の可憐な唇は軽く触れ合っただけでもわかるくらい柔らかく、温かな感触で……ってか、え?は?なんでキス?俺、初めてなんだが?夢とはいえ、俺はファーストキスを天使に奪われたの?
「……え、っと、あんた、急に何を――っ?」
突然のキスについて訊こうとしたが、体に不思議な感覚が湧き上がってきてそれどころではなくなった。
唇に感じていた天使の温もりが、俺の一番深いところに流れ込んでくるのがわかる。やがてその温もりは全身に染み渡り――って、こ、この感覚は、まさか……
「魔王の力が、鎮まった……?」
「……君は本当にわかっているんだね。とにかくこれで、もう大丈夫。だからほら、早く起きないと。怒られてしまうよ」
「怒られる?」
一体どういう……あぁ、そうだ。今って――
******
「谷風君!」
――授業中なんだった。
「………」
俺は上体を起こして大きく伸びをし、首の骨を軽く鳴らす。
「谷風君?」
「すみません、百里先生。最近よく眠れてなくて、つい居眠りをしてしまいました。でももう大丈夫です」
「……そうですか。今後は気をつけてくださいね。それじゃあ、授業を続けます」
目の前まで来ていた百里先生が教壇に戻っていく……もう少し怒られると思ったんだが、意外とすんなり授業に戻ったな。
******
放課後。
「またねー、谷風クン」
「ああ、また明日……さて」
「谷風君、ちょっといい?」
帰り支度を終えて立ち上がると突然、百里先生に呼ばれた。
「なんです――あー、ひょっとして授業中の居眠りの件ですか?」
「え?……あー、うん。それでいいや。ちょっとついてきてくれる?」
え、何その反応。思ってたのと違う。ちょっと怖くなってきたんだが――などと思っていた、数分後。
「いやぁ、本当にいつも助かる~」
「……どうも」
俺は進路指導に使う資料とやらが入ってるダンボールを抱え、指導室に向かっていた。
「今日は学年主任から頼まれた量が多くて多くて」
「……風実花さんが断れない性格してるのは知ってるけどさ、1人じゃできない量を受け持つのはやめなよ」
「こら、今は学院。百里先生と呼びなさい」
「はい、百里先生……前から思ってたんですが、傍から見たら結構な頻度で先生が生徒をこき使ってるように見えるのって大丈夫なんですかね?」
「そういう言い方しないでよー!実はそこそこ気にしてるんだから。でもこんな量を1人で運ぶのなんて無理だし、職員室の中じゃ私が一番歳下だから他は目上の人ばかりで頼りづらいのよ……ぴえん」
実は百里先生――風実花さんとはそこそこ長い付き合いだったりする。
初めて出会ったのは俺がまだガキだった頃で、時期は夏休み。天音と一緒に児童センターで遊んでたとき、ボランティアとして当時高校生だった風実花さんがやってきた。初めて会ったときから何かと俺のことを気にかけてくれていて、その後も風実花さんの実家が俺たちの家の近所だったこともあって天音共々、昔からいろいろとお世話になっていた。勉強を教えてもらったり、遠出のときには共働きな両親の代わりに保護者として一緒に来てもらったり……そういうこともあって、風実花さんからの頼みはよほどのことがない限りは断りたくないと思ってたりする。
「……ま、いいけどさ。最初に手伝いを申し出たのは俺だし。そのあと『何かあったらまた頼ってくれていい』って言ったもんな」
「ありがと~!リッ君のそういう義理堅いところ、私好きだよ」
「そりゃどーも……っと、着いた」
指導室に着いた俺たちは一緒に資料を片付けていく。2人でやっているということもあって、割と早く終わらせることができた。
「――よし、これで最後と」
「今日も本当にありがとうね。谷風君」
「どういたしまして。それじゃあ俺は――」
「あっ、ちょっと待った!」
「はい?」
指導室のドアを開けようとすると、風実花さんに呼び止められる。
「ちょっと訊きたいことがあるんだけど」
「訊きたいこと……あぁ、授業中の居眠りの件ですかね?あのときは本当にすみません。最近よく眠れてなくて――ってこれ、完全に言い訳ですね」
しかも言ってること、さっきと完全に一緒じゃねぇか。
「それだよ、それ。『最近よく眠れてなくて』って、何か困ってることでもあるの?あるなら先生に相談して。あっ、先生に言えるようなことじゃないなら、幼馴染のフミ姉として相談に乗ってあげてもいいよ?」
「これといって相談したいことは――って、もうフミ姉とは呼ばないって前にも言ったろ」
「えー?リッ君から呼んでくれたんじゃん。フミ姉って呼ばれるの、結構嬉しかったんだけどなぁ。もう呼んでくれないのかぁ……ぴえん」
「……この歳でそれは、さすがに恥ずいって」
風実花さんが言ってる“フミ姉”というのは、俺が中学に上がる頃には言うのをやめた呼び名だ。今でも風実花さんは姉のような存在だが、さすがにもうそんな呼び方ができるほど子供じゃない。
「話を戻しましょう。百里先生」
「っと、そうだね……んんっ。それで?」
「まぁ『戻しましょう』と言ったとはいえ、相談できるようなことでもないんですよね。ただ4月頃から炎に身を焼かれる夢を見てて、疲労感があまり抜けてなかったってだけですし」
「夢、か……今日居眠りした時はどうだったの?」
「それが不思議なことに、何もなかったんですよね。いつもは昼寝でも見てたんですけど」
『天使が舞い降りてきて、なんとかしてくれました』なんて言えるわけないので、何もなかったことにした。
「ふぅん……今の体調はどう?」
「自分でも驚くくらいにすっきりしてます。よく眠れたみたいです」
「……それ、私の授業が難解でつまらないから子守歌にはちょうどよかったって意味じゃないよね?だったら泣きそうなんだけど……ぴえん」
「あぁ、違う違う。百里先生の授業はかなりわかりやすいですよ。それにただ話を聞くだけじゃないから、ちゃんと授業に身が入ります」
今日も居眠りする直前、木下さんに辞書に書かれた意味を読み上げさせてた気がする。ああいうのはちゃんと授業に参加してる感があっていい。
「そっか……授業中に居眠りしてた子に言われても、ちょっと説得力が弱いかな~?」
「その説は誠に申し訳ございません」
「そんなにかしこまらなくていいよ。冗談で言ってるだけだから」
そう言ってくすくす笑う風実花さんに若干イラッとした俺は、さっきからちょくちょく気になってたことを指摘する。
「……百里先生」
「何?……え、なんで急に深刻な顔してるの?」
「大事な話があるからですよ」
「……やっぱり夢のことで、何か思い当たる節があるのね」
風実花さんが笑みを消し、真剣な表情になる……さっきまでの話の流れ的にそうなるよな。でもごめん、風実花さん。その件とは全く関係ないんだ。
「百里先生……いや、風実花さん」
「え?」
「『ぴえん』は、もう古い」
「ぴえっ!?」
俺の指摘に風実花さんが独特な悲鳴を上げる。そんなに『ぴえん』気に入ってたの……?
「そ、そうなの?本当に?」
「ああ。少なくとも、小雲雀さんたちとの会話では一切聞かない」
「そんな……ってことは私、周りから『生徒に媚び売ろうとして失敗してるイタい教師』って思われちゃってるってこと?」
「そんな話は生徒の中じゃ聞いたことないよ」
「そっか。ならよかったぁ……っていうかリッ君、知ってたなら私に教えてくれてもよかったんじゃないの?幼馴染なのにひどい」
「まだ使ってるとは思ってなかったんだよ。風実花さんが流行を理解してればよかったってだけの話なのに、文句を言われる筋合いはねぇ」
「うぐ……ハァ、今後は気をつけよう」
是非そうすべきだと思う。昔から微妙にズレてるところがあったけど、まだ直ってないようだ。
「それじゃあ今日はもう帰ります。百里先生、さようなら」
「はい、さようなら。寄り道せず、気をつけて帰ってください」
「はい。それでは、失礼します」
俺は指導室を出て、帰路につく。
「……幼馴染、か」
風実花さんはそう言ってたが、俺からすれば少し違う。
風実花さんと初めて出会った頃の俺はとある事件のせいで精神をすり減らしてて、児童センターでもあまり他人と関わらないように天音と2人で過ごすことが多かった。他人を避けるように動いてた昔の俺は今思えば全く子供らしくなく、周囲からはかなり気持ち悪い子供に見えただろう。でもそんな俺に、風実花さんは何度も面と向かって話そうと関わってきた。当時の風実花さんが高校生だったこともあってか立派な大人に見えて、その雰囲気に憧れのような感情を抱いていた覚えがある。
それに昔から交流があったこともあり、俺の中での優先順位では家族を除くと風実花さんが最も高いところにいる。つまり“幼馴染”というよりも“身内”という印象が強いのだ……さすがにキモいと思われるかもしれないから、本人には言わないけど。
******
「ただいまー」
家に帰ってきた俺は、着替えなどを済ませてから家事をこなしていく。
「さて、まずは洗濯物だ」
谷風家には“一番早く帰宅した者が干した洗濯物を取り込んでおくこと”や“4人分の米を洗って炊飯器にセットし、予約炊飯を19時に設定すること”といったルールがある。洗濯物は朝に俺が干してるから帰宅が早い俺たちが取り込むのはわかるとして、炊飯器に関しては母さん曰く『おかずは私が作るから、米くらいは自分たちでやってちょうだい』とのこと。たまに俺がおかずを作ることもあるが、基本的には母さんが作ってくれるからこれもわかる……しかし最近、解せないことがある。
「最近は俺ばっか家事やってんだよなぁ……」
これらのことは“一番早く帰宅した者が”というルール。しかし最近の天音は絶対に俺よりも遅く帰ってくるため、もはや俺の仕事みたいになっているのだ。炎の夢を見る前までは俺が私用で遅くなることもあったが、そのときは天音が米を炊いてくれていた。しかし最近の天音は必ず寄り道をしてから帰ってくる。一体どこで何をしてるんだが……
「――よし、終わりっと」
家事を終えてからは俺の自由時間、とりあえず自室に戻る。普段はこういう時間を授業の復習に使うが、今はそういう気分じゃない。力が増幅されたように感じる前は魔法の特訓に時間を費やすこともあったが、今は魔法の源である魔王の力が鎮まってるから昨日までとは逆の理由で特訓ができない。
「………」
にしても、まさか天使にキスされるとはなぁ……あれって本当に夢、だったんだろうか?力が本当に鎮まってる以上、現実であった可能性もある。
「……ヤバい。なんか、ムラムラしてきた」
最近は力の暴走が心配で気が休まらなかったせいで自家発電がいまいち捗らなかったこともあってか、さっきの唇の感触を思い出しただけで心が昂ってきた。
「今は……17時か。母さんが帰ってくるのは2時間後くらい。天音は一定じゃないから、そこだけ不安要素だが……」
時間をしっかりと確認した俺は、急いでPCを起動する。万が一最中に帰ってこられたら地獄。時短で済ませよう。
「こういうときはお気に入りの――ん?」
よくお世話になっているお気に入りのAVを再生しようとした瞬間、体に違和感を覚える。その箇所は……股間。
「………………」
不意に嫌な予感がした俺はAVを再生する前に、一度ズボンとパンツを下ろして――絶句した。
「う、嘘だろ……!?」
ちんこが、全く反応していなかったのである。普通は心が昂った時点で何かしら反応を示す。だというのに、俺のちんこはピクリともしていなかった。
「ま、まさか……いや、そんなはずはない。そんなはず……」
俺は不安を抑え込むように呟きながらAVを再生する。その結果――
「………………」
俺のちんこは、お気に入りのAVを前にしても、全く反応しなかった。
******
あのあと、いろいろなジャンルのAVを見たが全く反応せず。途轍もないやるせなさを感じた俺は……
――ブンッ……ブンッ……
「ふっ……ふっ……」
庭で木刀の素振りをしていた。あのままジッとしてたら暗い雰囲気のまま時間が過ぎて、帰ってきた天音に心配されてしまう。事情を話すわけにはいかないから、精神を正常な状態に戻しておかなきゃいけない。そのために木刀を振っている。嫌なことや不安なことがあったときは適度に体を動かすのが一番だ。
「ふっ……ふっ……」
そういうわけで、しばらく無心で木刀を振っていると……
「お兄」
「ん?おぉ、天音か。おかえり」
「うん、ただいま………………」
「……?」
いつの間にか背後に天音が立っていたんだが、少し様子がおかしい。何かを言おうとしては、口を閉じ――を何度も繰り返してる。それをジッと見つめること数分。
「……お兄、ちょっとこっち来て」
「あ?」
「いいから」
「お、おう」
有無を言わさぬ雰囲気の天音に腕を引っ張られ、俺はソファに座らされた。
「なんかあったのか?」
「こっちのセリフなんだけど、それ」
「は?」
「お兄のほうが何かあったんでしょ?」
「………」
天音の言葉に思わずビクッと反応しそうになった体を全力で抑え込む。
「別に、何もなかったが」
「嘘。お兄さっき、近づいたワタシに気づかないまま木刀振ってたじゃん。気づいてないかもだけど、お兄は昔っから何か悩み事があると、庭で素振りするんだよ」
「……お前、すごいな」
「何年お兄の妹やってると思ってんの?一緒に生活してたら普通に気づくから。ワタシのこと、ナメないでよね」
こいつ、俺のことよく見てんなぁ。たまに『あ、今天音に見られてるなぁ』と思うことはあったが、思ってた以上にしっかり見られてたようだ。
「だからさ、お兄。ちゃんと話して」
そう言う天音の目は真剣そのもので、逃げられそうにない。
「……天音」
「うん」
「お兄ちゃんなぁ……」
「う、うん」
「……EDになっちまったよ」
「……いーでぃー?」
あーあ、言っちまったよ。俺って奴は、妹になんてこと言ってんだか。
「いーでぃー……いーでぃー……いーでぃー?」
「やめてくれ天音。その言葉は俺に効く」
「え?あ、ごめ――あっ、ED!?」
「やめてくれ……」
意味がわからなかったようで何度も呟いていた天音だったが、ちゃんと理解してしまったらしい。
「EDって『“Erectile Dysfunction”の略語で、勃起不全や勃起障害――つまり性交時に十分な勃起が得られない、あるいは十分な勃起を維持できない状態。昔は“インポテンツ”や“インポ”などと呼ばれていたが、差別的意味合いがあるから今では使われてない』っていう、あの?」
「……割と詳しいな、お前」
「エロゲでそういう話が出てきて、ちょっと気になったから軽く調べたことがあるってだけだからね。治し方とかは期待しないでよ?」
「そんな期待、妹にしてたまるか」
妹にED治してもらうとか『それなんてエロゲ?』状態だろ。最近そこそこ実妹ヒロインがいる作品を目にしているような気がするが、現実でそれはかなりマズい。
「……一応、そのエロゲではどうやって治ったか聞く?」
「あー……じゃあ一応、少しだけ」
「お兄ちゃんのっ♪ちょっといいとこ見てみたいっ♪」
「OKわかった。もう十分だ」
「そーれ勃――」
「おいバカやめろぉ!」
そんな宴会みたいなノリで勃起取り戻したの!?
「メンタル強すぎんだろ、エロゲ主人公。俺、今の状態でそれされたら軽くトラウマ抱えそうなんだが……」
「まぁそんくらいじゃなきゃ、エロゲ主人公なんてやってけないんでしょ。残念だったねお兄」
「別にそこは残念じゃねぇよ」
いつから俺はエロゲ主人公を目指してることになってたんだ。
「俺まだ若いのに、ちんこ勃たなくなるなんてな。しかも急にだぜ?昨日はたぶん大丈夫だったはずなのに……ハァ~」
「いつも見てるのに飽きちゃったとか?それか自分でも気づかないうちに『ああいうのは作り物、
「いや、どっちも違う」
作り物云々は気にしない派だし、さっきも心は昂ってたから飽きたわけでもない。まぁ一応、買ったはいいが『あ、これなんか違うな』って思って早々に見るのをやめた作品とかも改めて見たが、全然ダメだった。
「そっか……じゃあ、リアルな体験とか?」
「無理だろ。俺、恋人いないし。風俗行けないし」
「だよね。なら…………ちょっと待った。ワタシ今、とんでもないこと言おうとしたな。さすがにそれは――」
急に顔を赤くした天音が何やらブツブツ呟いてる……やっぱ言わないほうがよかったか。でも天音にああいう目を向けられたら、俺は逆らえなくなるんだよなぁ……ひとまず謝ろう。
「急にこんなこと言ってごめんな、天音」
「ん……いや、いいよ。ワタシから訊いたんだし。それにこっちこそ、理解はしたけど1ミリも共感できなくてごめん」
「これは男特有の悩み、しかも同じ男でも共感できる奴のほうが少ない悩みだから気にすんな」
「うん…………」
「おい天音、そんなまじまじと見るな」
「ぴゃあっ!?ご、ごめんっ」
そう言って視線を逸らした天音だったが、ちょくちょく股間に目が行っている……まぁ、急にこんなこと言った俺が悪いところもあるし大目に見るか。
「ん゛んっ……原因はわかってないの?」
「原因か……んー」
「今日、普段とは何か違うことがあったとか」
「違うこと……あっ」
天使か?もしや、あの天使のせいか?
「おっ、何かあった?」
「ああ、授業中に見た夢の話になるんだが――」
そうして俺は天音に『夢に天使が出てきて、魔王の力を鎮めてもらった』ときのことを話した。ちなみに、方法については言ってない。
「天使……」
「……ここまで言っといてなんだが、これ関係あるか?」
「魔王と天使って対の存在的な感じだし、拒絶反応的なのが出たとか?」
「それはない。天使の力っぽいのが俺の中に入ってきたとき、拒絶的なものは感じなかった」
「んー……じゃあ、関係ないかも?」
だとすると……ダメだ、何も思いつかん。
「もしかして俺の体、一生このままの可能性がある……?」
「……あんま嫌な方向に考え込まないほうがいいんじゃない?お兄くらいの歳だと精神的な要因での不全が多いから心持ち次第でどうにかなるみたいな話、聞いたことあるよ」
「ん……あー、確かに聞いたことあるな」
「とにかく今日はたくさんご飯を食べて、早めに寝るとかしてみたら?気づかないうちにストレス溜め込んでただけかもしれないし、リフレッシュしなよ」
「リフレッシュか……よしっ」
沈んだ気持ちを切り替えるために頬を軽く叩く。
「改めてごめんな、天音。こんな変な話して。でも聞いてくれてありがとう」
「気にしないでいいよ。まぁどうしても気にするんだったら、今度何か奢ってくれてもいいよ?」
こいつ、人がせっかく感謝してるところに……ま、こいつらしいか。
「いいぞ。今度何か奢ってやる」
「え、いいの?やったぁ、お兄ちゃん大好き~♪」
「はいはい」
「……あ、でも今日くらいはワタシのちょっとお高いアイス食べてもいいよ」
「え?」
普段何があっても自分のアイスを譲ろうとしない天音が、アイスを譲るだと……!?
「天音がアイスを譲るなんて……明日は嵐か?それとも天音、どっか具合悪いのか?」
「失敬な。お兄がちゃんとリフレッシュできるようにお手伝いしてあげようかと思っただけなのに」
「そりゃありがたいが……」
「……お兄ちゃんが庭で木刀振るの、久しぶりだよね」
「んー……言われてみれば、確かにそうだな」
「前に庭で木刀振ってたとき、結構ヤバめの問題隠してたじゃん。だから今回も、相当参ってるのかなって」
「そうだったか?」
前っていつのことだ…………ダメだ、全く思い出せん。
「……覚えてないならいいや」
「おい、そこは教えろよ」
「やだねー。話を聞いた側からしたら、お兄が覚えてないってことは『お兄の中でちゃんと解決されたんだな』って安心するから気にしないでいいよ」
「………」
それならまぁ、一旦いいか。少し釈然としないが天音は教えてくれなさそうだし、そろそろ母さんが帰ってくる時間帯だから訊く時間もない。いずれ強引にでも教えてもらうか、自力で思い出すとしよう。
李空が勃起不全という嫌な現実から逃れるように振っていた木刀は、李空が中学生の頃に父親から「少し前に遠い親戚が突然やってきて『遅くなっちゃったけどこれ、李空の中学校入学祝いね』って言って置いていった物だ。2年前の誕生日にプレゼントしたヤツはこの前へし折れたから、まぁちょうどいいだろ」的な感じでもらった物です。