昼休み。
「クルミー、食堂行こー」
「体調どう?良くなってきた?」
「良くはなってきたと思うんだけど、なーんか食欲湧かないんだよねぇ……今日はうどんだけでいいや」
教室を出ていく小雲雀さんたちを横目に、俺は弁当を広げる。さっきの授業が昼休みに少し食い込んだせいでもう腹ペコだ。
「いただきま――」
「谷風クーン」
「ん?」
いざ食べようとした瞬間、ついさっき出ていったはずの小雲雀さんが教室に戻ってきた。
「どうした?」
「お客さんが来てるよ」
「客?」
俺に客だなんて珍しいなと思ったが、小雲雀さんの後ろに三国さんがいることに気づいて納得。天音に何かあったようだ。
「三国さん」
「ど、どうも」
「こっちに来たってことは、天音に何かあったってことでいいんだよな?」
「そ、それが、ですね……」
廊下に出て三国さんに用件を訊くと、少しためらうような素振りを見せた彼女は……
「実は天音ちゃん、1時限目の終わり頃からずっと保健室にいるんです」
「……は?」
俺が思っていたよりも悪い状況を報告してきた。
三国さん曰く、1時限目が始まって少し経った頃から俺が出ていったときよりも体調が悪そうだったらしい。時間が経つにつれて悪化していってるようにも見えて、
「さっき様子を見てきたんですが、さらに悪化してるみたいで……お兄さんも様子を見に行ってあげてくれませんか?」
「――――――」
今回の件、三国さんは全く悪くない。ほぼ初対面の友達の兄よりも友達の頼みを優先するのは、よく考えれば当然のこと……俺が甘かった。
「お、お兄さん……?」
俺から天音に連絡することもできたはずだ。でも俺は『心配しすぎて天音にシスコン煽りされたら面倒。それに連絡よこせって言ったし三国さんもいるし、俺からわざわざ確認する必要もないだろ』と体調の確認を怠った……くだらないことを考えてしまっていた自分に怒りが湧いてくる。
――ドクンッ。
「――ッ!?」
突如、心臓が大きく跳ねる。それと同時に俺は、自分の中から強大な力を感じ取った。これは……魔王の力?いや、そんなはずはない。だってそれは昨日、天使に鎮めてもらったんだから。でもこんな強さ、魔王以外に考えら――待て、今はそんなことどうでもいい。自分の不甲斐なさへの怒りに反応したのか、俺の中で力が暴れてるのがわかる……というか、少し外に漏れ出てないか?
「ぅ、く……!」
マズい。意識したら余計に力が漏れ出てきた。抑えなきゃ大変なことになるってのに、強すぎて抑えきれない……!クソッ、昨日天使に鎮めてもらったのになんで!?
「はっ、ぁぁ……ッ!」
力が漏れてる影響でか、ひどい頭痛までしてきた。そのせいで思考にノイズが走る。俺は今、何をしてたんだっけ……?
「ご、ごめんなさい!私がちゃんと知らせていたら、天音ちゃんがあんなに苦しまなくて済んだかもしれないのに……本当に、ごめんなさいっ!」
「――ッ!!」
三国さんの声で思考がクリアになる……そうだ。今は力に振り回されてる場合じゃない。天音の様子を見に――ってかもう帰らせるか。保健室で休むほどだったら、早退しても許されるだろ。
「すぅ……ふぅぅぅ~」
息を短く吸って長く吐き、精神を落ち着かせる。怒りに反応したのなら、俺が落ち着けばなんとかなるはずだと信じて……とにかく今はこの危険な力を、全力で抑え込むんだ。
「お、お兄さん……?」
「………………」
よし、なんとか落ち着いてきたな。
「いや、三国さんは悪くないよ。悪いのは結局、自分で俺に連絡を入れなかった天音。もっと悪いのは、確認を怠った俺だから……正直今、自分に一番怒りが湧いてる」
「そう、なんですか……お兄さんって優しいんですね。私、罵倒される覚悟で来たんですけど」
「わざわざ伝えに来てくれた人にそんなことするわけないだろ。それに今回は完全に俺の落ち度だしな。とにかく、今から様子を見に――ってかもう天音を連れて帰るよ。悪化してるんなら授業に戻れないだろうし」
「あっ、ありがとうございますっ!」
そう言って三国さんは深々と頭を下げる……なんだこの子、いい子すぎないか?
「頭を下げなくていいよ。当然のことだから……あ、そうだ。悪いんだけど、天音の鞄を持ってきてもらえないか?俺、帰りのタクシーの手配もしなきゃだから」
「わ、わかりました!そのくらい余裕です!お任せください!」
気張った様子で走っていく三国さんを見届けた俺は教室に入ろうとして……小雲雀さんを視界に捉えた。
「あ、小雲雀さん。ちょうどいいところに。少し頼みがあるんだが」
「うぇっ!?あ、アタシ!?」
今から俺は天音を連れて早退する。それはつまり、午後の授業を受けられないということだ。テスト期間が近いから、内容が把握できないという事態は避けたい。
「っとぉ……な、なんでしょう?」
「さっき急に早退しなきゃいけない事情ができたから帰るんだが、午後の授業内容の解説を明日お願いしてもいいか?」
「わ、わかり、ました……」
「ありがとう。じゃあ、また明日」
小雲雀さんへのお願いを手短に済ませた俺は急いで荷物をまとめて、タクシー会社に電話しながら保健室へと向かう――前に、早退の許可をもらいに職員室へと向かった。
「すみません。瑞花学院にタクシーを1台お願いしたいんですけど――」
――――――
「谷風クン、すごい焦ってる感じだったね」
「ね~。あんな谷風クン初めて見た。なんか“あまねちゃん”がどうのこうのって話は聞こえたけど、何があったんだろ?」
「………」
「クルミ?」
「どした?谷風クンが走ってった方をボーッと見て」
「……魔王?」
「急に何言ってんの?」
「わかんない……けど、今の谷風クン。思わず平伏したくなるような雰囲気してた」
「だから魔王?てかさっきのクルミ、敬語だったね」
「そうだったっけ?」
「無意識かよ……まぁ気持ちはわからんでもないけど。さっきの谷風クン、オーラっぽいのが出てるように見えたし」
「あー、わかる。なんか急にめっちゃ空気が重くなったよね」
「………」
******
タクシーの手配後。風実花さんに事情を説明して早退の許可をもらい、三国さんから天音の鞄を受け取った俺は
「失礼します。2−Cの谷風李空です。妹がここで休んでると聞いたんですが」
「妹……それって、1−Aの谷風天音さんのこと?」
「はい」
「彼女ならそこで寝てるんだけど……来た時からずっと苦しそうで、一向に具合が良くならないのよね。私や担任の先生が病院に行くことや、ご両親に連絡することを
放置したほうが
「そうですか。迷惑かけたみたいですみません。とりあえず今日は天音を早退させてほしいんですが」
「いいわよ。担任の先生も今以上につらくなったらそうしてもいいって言ってたし、私から連絡しておくわ……でも、あなたは?ご両親は共働きだというふうに聞いてるんだけど、まさか1人で帰らせる気?」
「ここに来る前に担任の百里先生から早退の許可をもらってきたので、一緒に帰ります」
「そう。だったら家まで送りましょうか?」
「いえ、大丈夫です。すでにタクシーの手配を済ませましたので」
「わかったわ……あなた、随分と手際がいいわね。妹のためにそこまで迅速に動けるなんて、いいお兄ちゃんしてるじゃない」
「……そりゃどうも」
天音がまだ寝てるみたいでよかった。起きてたらあとで絶対にからかわれる。
――プルルルル……プルルルル……
話が一区切りついたところで、スマホが着信を知らせてくる。相手はタクシー会社。
「はい、もしもし」
[もしもし。わたくし、天騒タクシーの者です。先ほど瑞花学院にタクシーを手配された、谷風李空さんのお電話で間違いないでしょうか?]
「はい。俺が谷風李空です」
[あと少しで到着いたしますが、どの辺りに停めればいいでしょうか?]
「正門前でお願いします。こちらもすぐに向かいますので」
[わかりました。それでは、またのちほど]
通話を終えた俺は天音を起こす。
「天音、起きろ」
「……ん……お、にい……?」
「ああ」
「……いま、なんじ……?」
「昼休みだ。でももう帰るぞ。タクシー呼んでるし、鞄は三国さんに持ってきてもらったから」
俺がそう言うと、天音は申し訳なさそうな表情になった。
「……ごめん」
「俺が怒ってるのは『今以上に体調が悪くなったら連絡よこせよ』って言ったのに連絡してこなかったことだからな。しかも、三国さんの口止めまでしやがって」
「わかってる……ごめん」
「……まぁ、俺も体調確認の連絡を入れなかったのは悪かったな……立てるか?」
「……一応」
そう言って立ち上がった天音は、今朝よりもフラフラしていた。
「ハァ……危なっかしいから、特別におんぶしてやる」
「おんぶ……いや、おんぶは――」
「いいから。ほいっと」
強引に、それでいて天音の体に負担がかからないようにおんぶする。
「お兄……ありがと」
「気にすんな。じゃあ先生、さようなら」
「ええ、お大事に」
保健室を出て、正門に向かう……その道中。
「なんか……今日のお兄、カッコいいね」
「……相当やられてんな、お前」
普段であれば絶対に言わないであろう天音の言葉に俺は、天音の具合は想像以上に悪いということを理解した。
******
「ただいま」
「ただ、いまぁ……」
タクシー会社に電話してたときは直接病院に向かおうかと思ってたが、保健室を出てから保険証がないことに気づいた俺は一旦家に帰ることにした。準備にどれだけ時間がかかるかわからないため、一旦タクシーには帰ってもらっている。
そのタクシーに乗ってた間も、天音の具合は良くならず――というか、さらに悪化してるように見える。
「準備が済んだら病院に行くぞ」
「病院、やだぁ……重い病気とかだったら、怖い」
「それを放置するほうが怖いっての。少し休んでろ」
天音をソファに座らせ、保険証などを探す。
「たしかこの辺に……待てよ?大きな病院だと午後診療やってないんじゃないか?」
俺たちが昔お世話になってたところは……ダメだ。ここ数年は行ってないから思い出せねぇ。
「やってることに賭けよう……あ、そうだ。熱も一応測っとくか?」
おんぶしてた感じ、熱はそこまでなさそうだったが……んー。
「……一応、測らせるか」
そうして体温計を持って天音のところに向かおうとしたら、
「お兄……」
「天音?」
天音がいつの間にかソファから立ち上がっていた。
「お前、休んでろって言ったろ。なんで立って――」
「お兄……」
「……天音?」
慌てて駆け寄ろうとしたが、何やら天音の様子がおかしい。目の焦点が合っておらず、さっきよりもフラフラしてる……でもなぜか、俺のもとへ真っ直ぐ向かってきている。
「お兄……」
「おっ、とと――って、あっつっ!?」
奇妙な雰囲気に困惑してると天音が抱きついてきた。そこで俺は、天音の体が異様に熱いことに気づく。さっきまで平熱っぽかったのに、少し離れた間に何があった?
「おい天音、急にどうし――」
――ガブッ!
「いっっっっっだっ!?」
首筋に熱く濡れた感触と、焼けるような激痛が走る……天音に、噛みつかれたのだ。
「――ッ!?」
そう認識した瞬間、心臓の鼓動が早まり全身の毛穴から汗が噴き出てきた。
「あ、天音っ!しっかりしろ。何噛みついて――」
「んっ……コク、コク……」
「――ッ!?」
痛みに耐えながら天音に呼びかけようとしたら、耳元で喉の鳴る音がした。こいつ、まさか……
「血を、吸ってる……!?」
なんだこいつ吸血鬼か!?いやまぁ確かに、首筋に噛みついた時点でめっちゃ吸血鬼感あったけども――ってか俺、なんで冷静に分析してんの?
「ど、どうにか抜け出したいが……」
どれだけ奇行に走ろうと、天音は妹。しかもおそらく病人だ。力ずくで引き離すことはできない。とはいえ優しく引き離すことも難しい。なぜなら天音が思いのほか強くしがみついてて、全く離れないから……クソッ、マジでどうす――
******
ふと気づくと、俺は見知らぬ場所で玉座っぽい物に座っていた。
目の前に広がるのは厳かな城内のような景色で、俺が座ってる場所までレッドカーペットが敷かれてる。なんというか、ゲームに出てくる王様の謁見の間みたいな――ってか待て、ここどこだ?数秒前まで家のリビングにいたはずなのに、一瞬で世界観が変わったんだが。周りをもっとよく見ようにも、なぜか首が動かん。とはいえ体が縛られてるというわけじゃなく、誰かの視点を見せられてる感じ……何がどうなってんだ?
「魔王~!」
何が何やらと困惑してると目の前のドアが開き、奇抜な格好をした女の子が入ってきた。
長いツインテールは割と普通だが、切れ込みが入ったローライズのパンツのせいでお腹が丸見え。下半身部分が大きく開かれたロングコートらしきものを着崩し、そこから素肌に細いベルトが亀甲縛りのようになっているのが見える。さらには小さな布が乳首を隠そうとしてるようだが、完全には隠しきれてないせいで乳輪が少しハミ出ている……奇抜というか、変質者だな。
「ヴィズか。どうした?」
俺の口が勝手に動き、目の前にいる女の子のことを“ヴィズ”と呼ぶ……ってか待て、この子さっき魔王って言った?
「お腹空いちゃった。マナちょ~だい♪」
「……お前は本当に、いっつも俺から血を吸うよな」
心当たりのある単語に驚いてたら、今度は物騒な会話が聞こえてきた。血を吸うって、吸血鬼かよ。
「わかってるでしょ。吸血鬼の特性」
「ああ。吸血鬼にとって、他者の血を介すことが一番マナ補充の効率がいい……にしたって最近はもらいに来すぎだろ。まさかとは思うが、無駄遣いしてないだろうな?」
「失礼な。私だって結構頑張ってるんだよ?吸血鬼部隊の筆頭として」
「……そうだな。戦況については聞いている。俺みたいに二つ名が付くくらいにはお前も大暴れしているようだな」
あ、ホントに吸血鬼なのか……え?吸血鬼?
「ふふーん。なんたって私は“魔王の片腕”にして、アリオンの最初の配下だからね!」
「その名で呼ぶのはやめろと言っただろ……お前にその名で呼ばれると、つい気が緩む」
「……そうだったね。ごめん。今は“人族”との戦争の真っ最中だもんね。私たち“魔族”の今後が決まるかもしれない、重要な……ね」
人族、魔族、戦争……さっきから何これ?もしかして異世界的な感じ?なんで俺、急にこんなの見せられてんの?
「ああ……で、血を飲みたいんだったか」
「うん。やっぱり魔王の血が一番美味しいからね。マナも充実してるし」
「そもそも吸血鬼部隊にはマナ補給用の血がちゃんと用意されてるというのに王から直接もらおうとするとは、贅沢な吸血鬼がいたもんだ……ほれ」
視点が少し傾く。首から吸え、ということなんだろう。
「あれ、いつもは渋るくせに今日は気前いいね。何かいいことでもあったの?」
「別に。気分だ気分」
「ふーん。まいいや。それじゃあ、いただきま~す♪」
肉に歯を立てる音とともに、首筋に痛みが走る。
「ん……コク、コク……」
ヴィズの喉から音がする。それと同時に、血とナニカを吸い取られていく感覚……この記憶らしきものに覚えはないが、この感覚は知っている。
「……っ、おい、吸いすぎだ。このあとの予定に差し障るからマナを返せ」
「ん、ぷぁ……またあの国との話し合い?なかなか進まないね」
「いや、実はもう大まかな内容は決まってるんだ。今は細かな部分を詰めてるところ……だからほら、早くマナを返せ。少しだけでいいから」
「……ちぇ~。ケチー」
******
景色が現実のものになる。しかし首筋の痛みは変わらぬまま……いまだに天音が俺の血を吸っているのだろう。さっき見た謎の記憶で感じた痛みとなんら遜色ない。
「……すまん、天音」
「んぷぁっ」
謝罪の言葉を短く述べた俺は、天音を少し強引に離れさせる。力が少し弱くなってたから、なんとか抜け出せた。ひとまず目を閉じて、突然の噛みつきによって乱れた精神を落ち着かせる。
「はっ、はっ……ふぅ、危なかった」
どれだけ吸われたのかはわからないが、さすがにこれ以上血を吸われるのはマズいと思う。妹の吸血による失血死とか、兄として最悪だ。
「あー、マジで首筋いてぇ……ったく、一体何がどうなって――は?」
「……んぇ?」
ひとまず天音を座らせようと視線を向けると、その天音が奇抜な格好をしていた。
肩にかからないくらいのショートカットが、なぜか長いツインテールに。切れ込みが入ったローライズのパンツのせいでお腹が丸見え。下半身部分が大きく開かれたロングコートらしきものを着崩し、そこから素肌に細いベルトが亀甲縛りのようになっているのが見える。さらには小さな布が乳首を隠そうとしてるようだが、完全には隠しきれてないせいで乳輪が少しハミ出ている……奇抜というか、変質者――って、ん?この格好って、さっき俺が見た謎の記憶に出てきた吸血鬼にそっくりじゃないか?
「あっ、あああああ天音?なんだその格好」
「………」
慌ててる俺とは対照的に、天音はえらく静かに俺を見ている。
「あ、天――」
「お兄、ちゃん……?」
「え?」
突然、天音に手を握られる。え、急にどうした?
「お兄ちゃん、だよね?」
「あ、ああ」
「ホントのホントに、お兄ちゃんなんだよね?」
「ああ。お前のお兄ちゃん、谷風李空だぞ」
「そ、っか……っ、よかったぁ」
少し涙目になってる天音が安堵の息を漏らす。何をそんなに確認する必要が……まぁいいか。それよりも、だ。
「安心してるとこ悪いんだが、お前は本当に天音でいいんだよな?」
「そうに決まってるじゃん。何言――ってぎゃあああっ!?」
ようやく自分の格好に意識が向いたらしい天音が、悲鳴を上げて体を縮こまらせる。気づいたら変質者みたいな格好になってたんだから、無理もない。
「なななっ、何これぇ!?お兄これ、どゆこと!?」
「知らん。お前が急に噛みついてきたと思ったら変な記憶みたいなのを見て、気づいたらそうなってた」
「記憶?……あー、なんかワタシもそれっぽいの見たかも。あまり覚えてないけど」
「天音もか」
記憶に出てきた吸血鬼……たしか名前は、ヴィズだったか。そのヴィズと気づいたら同じ格好になってた天音――気づいたら同じ格好になってた?ちょっと待て。なんか昔、これと似たような現象があったような……
「……ねぇ、もしかしてなんだけどさ」
「ん?」
「お兄、気づいてない?」
「何が?」
「気づいてないね、こりゃ……とりあえず、動かないでよ」
俺の反応を見た天音が通学カバンからスマホを取り出し、写真を撮る。
「かなり衝撃的なものが写ってるけど、気を確かに持ってね」
「あ、ああ」
「……ん」
天音がスマホの画面を見せてきた。そこに写ってたのは――
「……嘘、だろ」
膝くらいまである銀の長髪。額に生えた2本の鋭い角。普段であれば白目の部分が黒くなった金銀のオッドアイ。青いラインが左右対称的に1本ずつ入ってるロングコートが特徴的な、全体的に黒い服……その姿は昔、とある事件がきっかけで俺に取り憑いた魔王の姿だった。
「……まさか俺、ついに魔王に乗っ取られた?」
「お兄、意識しっかりしてるんでしょ?なら違うんじゃない?」
「じゃあこれ、どういうことだよ。天音のそれも」
「わかんない……」
俺たちの間に流れる空気が重苦しいものになっていき、俺たち兄妹は揃って膝をつく。
まさか俺が魔王に取り憑かれたみたいに、天音は吸血鬼に取り憑かれたのか。これから俺たちは意識を乗っ取られていくのか。どうにかする方法はないのか――そんなことを考えていたとき。
「――ッ!?」
「わわっ、何これ……!?」
突如、綿雪のように真っ白な羽根が部屋に舞う……昨日、夢で見た光景と全く同じだ。思わず昨日のように見上げると――
「お前、は……」
「天、使……?」
――そこには、天使がいた。しかし今は夢じゃない。現実として、我が家に天使が舞い降りた。
「そう。天から使命を下された“天使”――それが僕だ」
「……この天使、昨日お兄が夢で見たっていう?」
「ああ、間違いない。姿も、言ってることもほぼ一緒……なぁ、使命ってのはなんなんだ?お前は一体、どうして俺の前に現れたんだ?」
昨日は突然のことで呆けてたから訊けなかったが、今は訊かなければならない。
この姿になってる以上、昨日鎮めてもらった力は解放されてしまったということだろう。もしかしたら『鎮めきれないから』的な理由で俺ごと魔王を始末しに来たとか――などと思っていたら、天使は俺にとって予想外なことを言い放った。
「世界の安寧を守る。そのために僕は、谷風李空――魔王の生まれ変わりである君に、会いに来たんだ」
中途半端ではありますが、今回はここまで。これ以上続けたら文章量がえらいことに……変な区切り方ですみません。
次回は李空が勘違いを正されるところから。
原作コピペにならないよう、李空たちが見た魔王とヴィズの記憶を少し改変させていただきました。今後も
原作まんまの記憶を使う場合は、李空に「記憶を見た」的な地の文で軽く語らせる予定です。“原作既プレイ推奨”タグ入れてるから、それくらいはいいですよね?