気づけば原作【天使☆騒々 RE-BOOT!】が1周年を迎え、本作品【天使☆騒々 RE-COMP!】は投稿開始から7ヶ月が経過していました……だというのに、現在5話。投稿頻度が低くてすみません。
4月中旬から7月末まで私生活が忙しすぎて執筆時間があまり取れませんでしたが、ようやく少し落ち着いてきたから執筆&プロット再構成を本格的に再開したのが8月上旬のこと。それから内容が思いつかず四苦八苦してたら、かなり遅くなってしまいました。
今後は半年以上も待たせることはない……はずだったんですが、今月からまた忙しくなったのでどうなるかわかりません。失踪だけはしないようにしますので、今後とも本作品を何卒よろしくお願いします。
「…………は?」
聞き間違いじゃなければ今『魔王の
「生まれ、変わり……?魔王による意識の乗っ取りじゃなくて?」
「違うよ。君はこちらとは別の世界の存在である魔族たちの王――魔王の力をその身に宿す、魔王の“生まれ変わり”だ。君の言う『意識の乗っ取り』は『魔王の人格が現れて、谷風李空の人格が消え去る』ということだよね?」
「あ、ああ」
「その場合は“転生”ということになる。それも前世の力・記憶・人格を物心がつく前に取り戻す、いわゆる後天的なタイプ……でも君はあくまで『力を引き継いでいる』だけだから、君自身が魔王になることはないよ」
「………」
どうやら俺は、とんでもない勘違いをしてたらしい。天使の話を信じるなら、つまり俺は『取り憑かれた魔王に乗っ取られそうになってる』わけじゃなくて『前世が異世界の魔王だった』ということになる……シンプルに恥ずかしいんだが!?
「……ふむ。君はどうやら、自分の現状を勘違いしていたみたいだね」
「そう、らしいな」
「ぷふふ、いつぞやワタシに『俺、魔王になるかもしれない……』とか深刻そうな顔で言ってたのに、勘違いって……バーカバーカ!お兄の勘違い男ー!中二病ー!アホー!間抜け―!」
「おまっ、適当に言いす……ぎ?」
急にボロクソ言い始めた天音に文句を言おうと視線を向け――
「……ぐすっ」
その天音が、涙目になっていることに気づいた。
「お、お前、なんで泣きそうになってんの?」
「……だって、お兄、いなくならないんでしょ?」
「はぁ?」
「4年前、言ってたじゃん。『もし俺がまた魔王に乗っ取られそうになったら、そのときはこの家を出ていく』って……乗っ取られる可能性がなくなったんだから、出ていかないんだよね?いなくならないんだよね?」
「………」
そういや言ったな、そんなこと……あぁ、昨日天音が言ってた『結構ヤバめの問題』ってあの時のことだったんだな。
4年前、突如として俺は初めて魔王の力を発現させた時に起こした事件の記憶を悪夢として見るようになった。嫌な気持ちをなんとか晴らしたくて庭で木刀を振ってたら、天音に『お兄、顔色悪すぎ。何があったの?』ってしつこく訊かれたんだったな。その時の問答で……たった今、はっきりと思い出した。
「お兄?」
「ああ、そうだな。俺はいなくならない」
「うん……ぐすっ」
いまだに涙目な天音を見かねた俺は、天音を優しく抱きしめる。
「お、お兄?」
「ごめんな。俺、あの時のことすっかり忘れてた。悪夢にうなされるくらい参ってたのに……お前はずっと、心配してくれてたんだな」
「……うん」
「ありがとう、天音」
「……う゛ん゛っ」
追加で頭を撫でてやると天音は泣きだした。こいつ昨日は『安心』とか言ってたのに、実は思いっきり心配してたのかよ……今までにも何度か思うことはあったが、それでも思ってた以上に天音は――
「わほん……そろそろ、いいかい?」
「「――ッ!」」
ヤバい、天使がいることを完全に忘れてた。
「あ、ああ、もう大丈夫だ。なぁ天音?」
「う、うん」
天音の体を離し、改めて天使に向き直る。
「それで、俺が魔王の生まれ変わりだってことはわかったんだが……なんで俺、魔王の姿になってるんだ?それに天音の格好も――まさかとは思うが、天音も何かの生まれ変わりってことなのか?」
「えっ、ワタシも!?」
「その通り。谷風天音の前世は吸血鬼だよ。そして今、君たちに起こったことは……そうだね。“前世返り”とでも言おうか」
「「前世返り……」」
聞いたことのない言葉だが、言い方的には先祖返りの前世版的なことっぽいな。
「それで――」
「あ、ちょっと待った」
「ん?」
そこそこの長話になりそうな雰囲気を察した俺は天使の言葉を遮り、通学カバンからスマホを取り出す。そのときにふと、魔王の姿になってから制服のポケットにしまってあった物が全部無くなってることに気づいた……今日のハンカチはお気に入りのヤツなんだが、元の姿に戻れたらちゃんと戻ってくるよな?
【母さん。今、時間ある?】
【今、少し遅めの昼休憩中。どうしたの?】
【ビデオ通話したい。周りに人いる?いるならいない場所に移ってほしいんだけど】
【誰もいないわよ。そっちは?】
【家にいるから大丈夫】
【え、これサボりの連絡?】
【違う。天音が体調崩したから一緒に早退したんだ。それで今、かなり大変なことになってきたから報告したい】
【わかったわ。じゃあそっちから通話かけてきてちょうだい】
LIENで母さんにメッセージを送りビデオ通話の了承を得て、スマホのカメラに全身を映すため三脚を用意する。
「お兄、何してんの?」
「ビデオ通話の準備。こっから話が長くなりそうだから、先に生まれ変わり云々だけでも母さんに報告しとこうかと」
「え゛っ、ビデオ通話ってことは……この格好をお母さんに見せるってこと!?」
「じゃなきゃさすがに信じないだろ。反応的にわかってそうだが、お前も映すぞ」
「うーわ、マジ最悪……」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
準備を整え、いざビデオ通話――といったところで、天使が静止の言葉をかけてきた。
「君のご両親は君の現状を知っているのかい?」
「ああ、俺が勘違いしてたほうを知ってる。だって俺が魔王の力を初めて使った時、家族みんな一緒にいたからな」
「な、なんだって……!?」
天使が驚いてるのを尻目に、俺はビデオ通話を開始する。
――プルルルル、ピッ。
[李空、大変なこと……って………]
1コールで通話に出た母さんは俺たちの姿を見て絶句したようで、大きく目を見開いていた。
[李空、あんたその格好……それに隣にいるのって、もしかして天音?あんた、なんでそんな変質者みたいな格好してんのよ]
「別に好きでこんな格好してるわけじゃないから!」
「簡潔に言うと、俺たちのこの格好は前世の姿らしい」
[……前、世?]
母さんが首を傾げる。簡潔に言いすぎたせいだろう。とはいえ、現段階で言えることはほんの少ししかない。
「俺の前世は異世界の魔王、天音の前世は同じく異世界の吸血鬼なんだってさ」
[………]
母さんが
そんなふうに思ってると、母さんの視線が俺たちの後ろ――天使に向けられた。
[その話って今あんたたちの後ろで浮いてる、いかにも天使みたいな格好をしてる子から聞いたの?]
「なっ!?母君は僕の姿が見えるのかい!?」
[え、ええ。普通に見えてるけど……母君って、随分と敬った呼び方ね]
母さん、気にするところはたぶんそこじゃない。
[前世は異世界人、か……なるほどねぇ。確かに今のあんたたちの格好はそれっぽい。それに李空がこれまで使ってた魔法のことを考えたら、前世や異世界なんて非現実的なものがあったっておかしくはないわね]
「あっさりと信じてくれて助かる。それで今から天使に詳しいことを教えてもらうんだけど、先に母さんに軽く報告しとこうかと思ってメッセージを送ったんだ。口で言っても信じづらいだろ?俺のことはともかく、天音のことは」
[そうね。李空のその姿は昔見たからなんとか理解が追いつくけど、天音のことは……実際にこの目で見なきゃ信じなかったでしょうね]
やっぱりか。先に話しといてよかった。
「ってなわけだから、今日は早めに帰ってきてくれ。この件について家族会議がしたい」
[了解。お父さんには私から伝えとくわ――っと、もう通話切ってもいいかしら?そろそろ昼休憩の時間が終わりそうなのよ]
「ああ。じゃあ、詳しい話は夜に」
母さんとのビデオ通話を終え、改めて天使に向き直る。
「さて、と……急に話を遮ってごめん。続きをお願いしてもいいか?」
「………」
「天使?」
「え?……あ、ああ、話の続きか。もちろんするよ」
「その前に、なんだけどさ」
俺が話の続きを促すと、今度は天音が話を遮った。
「天使の力みたいなのでワタシたちの姿、元に戻せる?できるなら今やってほしいんだけど」
「姿が変わった以外は特に何もないから、先に話でもよくないか?」
「お兄はね。ワタシは露出度高くて落ち着かない、ってか恥ずかしすぎる」
「……あー、確かに」
ぶっちゃけ俺はただのコスプレみたいな格好だから、別に恥ずかしくはない。というかこの姿は俺にとって“危険の象徴”みたいな感じでもあったから、そんなふうに思う余裕はなかった。でも天音の格好はなぁ……うん、確かに恥ずかしい。
「ふむ……わかった」
そう言って天使は浮き上がり、神々しい光を放ち始めた。その光は昨日の天使が現れた炎の夢で温かく降り注いだ光と同じ、優しい温もりを伝えてくる。天使の放つ光が膨れ上がって俺たちを包み込み、それが収まった頃には――
「あっ、お兄戻った」
「お前もな」
俺たちは元の姿に戻っていた。一応の確認として額に触れるが、当然角は消えている。そしてズボンのポケットを探ると、ちゃんとお気に入りのハンカチがあった。
「これで一旦は、なんとかなったのか」
「いや、君はまだだ。やらなければならないことがある」
「え?」
「だから……じ、ジッとしててくれ」
姿が戻って一安心だと思ってたら、頬を少し赤らめた天使が俺の頬に手を添え――んん?この雰囲気、もしかして……
「……ちゅっ」
気づいたときには昨日と同じように、俺は天使と唇を重ねていた。
「ん……んっ、んっ」
「………」
な、なんか長くね?昨日こんなに長かったっけ。
「……ぷぁ、っ」
「っ……昨日より、長い気がしたんだが」
「魔王の力が想像以上に強かったみたいだから、昨日よりも強く鎮める必要がある。必然的に長くなってしまうよ」
あぁ、なるほどね。言われてみれば確かに、さっきのキスからは昨日よりも強い温もりを感じたな。
「お、お兄。今の、何?」
「魔王の力を鎮める儀式的なヤツ……なんだよな?」
「う、うん。その認識で合っているよ」
「そ、そうなの?でも今のって完全にキスだよね。天使がキス……ちゅっ、ってキスした。お兄にキスした」
「~~~っ、キスキス言うんじゃあない!僕だってこんな方法は不本意だ。でもこの方法しか知らないから……ぅぅ、僕はなんて破廉恥な天使なんだっ」
恥ずかしそうに頭を抱える天使……なんかかわいそうだから、この行為は人工呼吸みたいな感じに思っておこう。決して役得とか思っちゃいけない。いやまぁ、別に今そう思ってたわけじゃないがな……誰に言い訳してんだろ、俺。
「方法が限られてるんなら仕方ないんじゃないか?あんたが自分でこの方法を選んだわけじゃないんなら、破廉恥じゃないと思う」
「そ、そう思ってもらえると助かるよ」
「それより真面目な話をしよう。昨日よりも強く鎮めるって話だったが、今の状態をどのくらい保てるんだ?魔王の力は強大すぎるから、ずっとってわけじゃないんだろ?」
「……どのくらいかは僕にもわからない。でも君の言うとおり、ずっとじゃないのは確かだ。さっきは君を不安にさせないように『鎮める』って言ったけど本当は『なんとか寝かしつける』と言ったほうが正しいから、何かきっかけがあれば再び目覚めてしまう。そのまま暴走してしまった場合……具体的なことは想像もつかないけど、間違いなく君の体や精神に大きな被害を及ぼす」
「体や精神……あの炎の夢は、精神への被害の前兆の1つってことか」
「その認識でいいと思う。あの状態が続いていたら、いずれ君のみならず君の周囲にまで影響を及ぼしていただろうね。おそらく、悪い方向に」
やっぱりか……もし天使が来なかったらと思うとゾッとするな。
「それに…………」
突如、天使が言葉を詰まらせる。
「なんだよ?何か気になることがあるなら言ってくれ。そういう反応されて何も教えてもらえないのは不安だ。それに俺たちじゃ気づけないことにも気づいてそうだし、天使はこういうことに慣れてるんだろ?」
「いや、世界を越えて生まれ変わるなんて話は君たちが初めてだ……でも、そうだね。君自身に大きく関わることのはずだから、感じたことを素直に話そう」
「感じたこと?」
慣れてないとはいえ何かを感じ取ったのか。さすがは天使。
「僕は今改めて君を見て、魔王の力が君の中から溢れ出そうとしているように感じている」
「……何かおかしいのか?」
「僕が気になっているのは『溢れ出そうとしている』という点だ」
「………」
どうしよう、全くわからん。
「先ほどの会話で君の母君が『李空がこれまで使ってた魔法』と言っていたね。それに君も『魔王の力を初めて使った時』と言っていた。つまり君は魔王の力で魔法を行使していた……間違いないね?」
「ああ。派手なことはしてないけどな」
傷や疲れを癒やしたり、小さくて白い炎を出したり、身体能力を強化したり……結構地味なものばかりだが、魔法であることに間違いはないだろう。
「さっき君も言っていたけど魔王の力は強大で、暴走してしまえば世界にどんな影響を及ぼすのか計り知れない。そして僕は世界の安寧を守るため、天から使命を下された天使。どんな形であれ魔王の力が使われていたのなら、もっと前から何かしらの使命が下されたはず。そういった動きは……実は、1度だけあったんだけどね」
「1度だけ……」
おそらく初めて魔王の力を使った時のことだろう。あの時はかなりの大惨事を引き起こしたからな。
「でもその時は力の発生源――君の居場所が特定できなかったとのことで使命は下されず、以降は全く動きがなかった。それはつまり、使われていたはずの力が長期間確認されなかったということ……君、相当おかしな使い方をしていたんじゃないかい?」
「詳しいことは俺にもわからん。だが、魔法を使ってたのは確かだ」
「というのであれば、おかしな魔法の使い方をしていた影響で力が勝手に漏れ出そうとしていると感じるのが普通だと思う。でも僕は
「………」
器に入りきらない力、か……もしやさっきの三国さんとの会話の最中に感じた力は、魔王の力じゃなかったってことか?俺には魔王の力以外にも何か別の力があるから、許容量を超えて溢れ出そうとして――いやでも、じゃあその別の力ってのは一体なんなんだって話になる……うん、マジでなんなんだ?
「……ちょっと気になったんだけどさ」
「ん?」
話が止まったのを見計らってか、キス云々が終わってから静かだった天音が口を開いた。
「さっきから聞いてたら魔王の力って魔王だけが持ってる特別な力みたいな感じだけど、吸血鬼にはそういうのってないのかな?ワタシもお兄みたいに魔法使ってみたいんだけど」
「いや、吸血鬼も――というか、生き物であれば誰でも持っている力がある。それは“マナ”と呼ばれる生き物が宿す根源的な力で、僕が言っている“魔王の力”とは“膨大なマナの塊”のことだ。そのマナを使いこなすことで人や魔族は“魔法”を行使できるようになる」
「マナ……」
そういやさっき見た魔王の記憶でも『マナ』って単語が出てきたな……これだけ力に詳しい天使が何も言わないってことは『俺には何か別の力があるのかも』ってのは、俺の勘違いだったか。
「この世界の人たちのマナは微弱なんだけど、君たち――特に谷風李空は別だ。異世界の魔王と吸血鬼、彼らの力を引き継いでいるからね。とはいえ、魔王と吸血鬼の間にあるマナ量の差は大きい。どの程度魔法を使えるようになるか、そもそも魔法に馴染みがない世界の人間が魔法を使えるようになるのか、それは僕にもわからないよ」
「なるほど……ひとまず天使から聞きたいことは全部聞いたな」
「だね――って、待った。重要なことをまだ訊いてない」
「重要なこと?」
はて、何かあったっけ?
「世界の安寧を守るために天使ちゃんがお兄に会いに来たのが、今。じゃあ今後はどうなるの?一目会ってはい終わり、ってことはないでしょ」
「……言われてみれば、確かにそうだな」
「まさかとは思うけど、魔王の力が暴走する前にお兄のことを殺しに来たわけじゃないよね?」
「そんなわけないだろう。君、とんでもないことを言うね」
ドン引きした様子で天音のことを見る天使……どうやら始末路線じゃなさそうだ。ひとまず安心。
「さっきも言ったけど、僕の使命は世界の安寧を守ること。その安寧の中には、君たちの日常も含まれている。だからこうして魔王の力を鎮め、君たちの日常も守り支える――それが僕に与えられた使命だ」
「……結構長い付き合いになりそうだな」
魔王の力は強大、今はなんとか寝かしつけてるって話だからな。正直、1年やそこらじゃどうにもならんと思う。
「もちろん対策は考えるよ。でもそれが確かなものになるまでは、多少の不自由を強いることになってしまう」
「問題ない。暴走して身内を危険にさらすよりマシだ」
今でもよく覚えてる。魔王の力を暴走させた俺に殺されそうになってなお、俺を信じて呼びかけてきた天音の顔、天音の声……
――――――
「元に戻ってよ、お兄ちゃん……っ!」
――――――
……あんなのは、二度と御免だ。
「そう言ってもらえて助かるよ」
「それで、具体的にはどんな不自由があるんだ?現状、あんたは俺から離れられないってのはわかるが」
「そうだね。何かあった際には、僕が対処する必要もあるはずだ」
魔王の力が世界に与える影響はどの程度のものなのか想像できないみたいだし、即座に対処するためにも共に生活するのは当然だろう。そしたら、もしものときはなんとかしてもらえる……うん、安心だ。
「他には?」
「それ以外だと…………特にないと思うよ」
「じゃあこっちも特に文句はないな」
「うん。せいぜい子作りをしちゃあダメ、ということくらいかな」
「何ぃ!?」
子作りって、あの子作りだよな!?俺ってセックスしちゃダメなの!?一生童貞が確定した!?
「うぉぉぉおおおぉぉぉおおぉ……っ!」
あまりにも理不尽な不自由に、俺は膝から崩れ落ちる。
「きゅ、急にどうしたんだい!?」
「天使ちゃん、あまり訊かないであげて。たぶんお兄は今、童貞男子にしかわからない悩みに頭を抱えてるだけだから」
「……?よくわからないが、安心したまえ。一生ダメというわけではない。暴走のおそれがある今だけの話だ」
「今、だけ……今だけかぁ」
今現在、俺に恋人はいない。魔王の力の暴走問題が解決するまでは恋人なんて作れないだろうし、そもそも俺は天音がいい男を捕まえてくるまでは恋愛する気なんてなかったから、よく考えてみれば差し迫った問題じゃ――ん?いや、ま、待てよ?子作り禁止ってことはセックスができないわけで、セックスができないということは、つまり……え?
「も、もしかして、なんだが」
「なんだい?」
「……俺のアレが勃たなくなった原因、それ?」
「え?」
「アレ……あー、そゆことね。タイミング的にそうなんじゃない?」
これが少なくとも1年は続くってマジかよ……つらすぎんだろ。
「えっと……さっきから君たちはなんの話をしているんだい?」
「なんのって……わかるだろ?子作り禁止のせいで今、俺のアレが勃たなくなってんだよ」
「立たなく?君、さっき普通に立っていたよね?」
「「………」」
心底不思議そうにしている天使を見て、天音と顔を見合わせる……どうやら天使は“勃起”を知らないらしい。
「……天音、頼む」
「ワタシがぁ?お兄の問題なんだからお兄が自分で説明してよ」
「いや、相手は天使とはいえ女の子だろ?男の俺が説明するのは恥ずかしいんだが」
「ん~……しょうがないなぁ。貸し1だからね」
「わかった」
「よし。じゃあ天使ちゃん、ちょっと耳貸して」
「ん?」
そうして天音が天使に耳打ちすること数秒。
「ほわぁぁぁぁぁっ!なななっ、何を言っているんだ君はぁ!?」
突然、天使が頭から湯気を出しそうなくらい真っ赤になった。
「それが真実なんだよ、天使ちゃん。お兄は今そういう悩みを抱えちゃってるの」
「そんなっ、いやっ、でもっ……うぅぅ」
「……お前、天使に何言ったんだ?」
「勃起の現象について、保健体育で習うようなことをちょちょっとね」
「たっ、勃たなくとはっ、そういう……これが、人体の神秘……!?」
それでこんなになるのか。天使ってピュアすぎでは?
「わ、わほんっ。君の悩みは理解した……でも、今回の件とは関係ないんじゃないかな?」
「「え?」」
「勃起と子作り、その2つに関連性なんてないよね」
「「………」」
再び天音と顔を見合わせる。勃起を知らない時点でまさかとは思ってたが、この天使は人間がどうやって子孫を残していくのか詳しく知らないようだ。話の流れ的に説明しなきゃいけないんだが……俺には無理だ。
「……え、もしかして関係あるの?」
「まぁ、そうだねぇ」
「だな。あんた、もしかしなくても子作りのこと何も知らないだろ」
「それは………………うん」
そこそこの逡巡の末、天使は自身の無知を認めた。
「僕は天使だから、人間の営みにはあまり縁がない。でも、僕は君を苦しめるために来たわけじゃあない。だから……谷風李空。僕に子作りのなんたるかを教えてほしい」
「あー……悪いが俺じゃ説明が難しい。だから天音、これもお前に任せる」
「またワタシぃ?」
「今度ボーデンダッツ3つ買ってやるから」
「マジでっ!?やるやる~!……でも、どうやって説明しようかな」
「んなもん簡単だろ。お前が持ってる同人誌を――いや、性的な描写が多少ある漫画くらいのほうがいいか。そういうのを見せてやればいい」
――ってなわけで、俺たちは天音の部屋に移動した。
「そういや、たまに朝起こしに来る時以外で天音の部屋に入るの久しぶりだな」
「言われてみたら確かに。こういうのっていつぶりだっけ?」
「んー……4年ぶりくらいか?」
「もうそんなになるんだ……って、本来の目的忘れてない?」
「おっと、そうだった」
「………」
俺たちがそんな会話をしてる間、天使は部屋を物珍しそうにキョロキョロ見回していた。
「天使って読書したことあるのか?まぁ人間の営みに縁がない時点で察しはつくけど」
「そうだね。察しのとおり、そういった娯楽物に触れたことは全くない。だからこういう、薄い本であれば比較的楽に読めると思う」
「あっ、待ってそれは――」
天音の制止は間に合わず、天使は本棚から薄い本――同人誌を取り出す。そして適当にページを開き……
「………」
「天使?」
「天使ちゃん?」
「――――――」
勢いよく閉じる。そして目を大きく見開き、無表情でこちらを見た。
「なぁ、あの本どっちだ?」
「男向けだね」
なるほど。だからあんな思考停止したみたいな感じになってるのか。
「なんでそんなもん持ってんだよ」
「絵柄が好みだったから……別にいいじゃん。作者は女の人なんだし、女が買っても問題ないでしょ」
……それもそうだな。とはいえ、今この状況においては非常にマズいことになっている。
「………」
そんな会話をしてる間に天使が復帰したようで、新たな動きを見せた。さっきまでのような適当な感じではなく、危険物を取り扱うかのような慎重さで本を開く。
「ほひゃわんっ!?」
そしてまた、勢いよく閉じた。しかし今度は理解が追いついたのか、奇声を上げながら顔を真っ赤にしている。さらにその目には涙を浮かべ、体をプルプル震わせている……天使にとっては相当、刺激的な内容だったらしい。
「はっ、ははっ、破廉恥だこれぇ!天使である僕になんて物を見せるんだ君たちはっ!こんなっ、こんな破廉恥なっ……天罰が下るぞバカぁ!!」
「あんたが勝手に開いたんだぞ」
「ワタシ、止めようとしたよ?」
「うぐっ、た、確かに……」
想定外の衝撃を受けたせいか逆ギレをかます天使だったが、俺たちの正論パンチで押し黙った。
「すまない。少々取り乱してしまった……それで、子作りに関する本はどれなんだい?」
「それも一応、子作りに関する本だよ。いわば“指南書”的な」
「……え?」
天使が『本当に?』みたいな顔でこっちを見てきたのでうなずく。指南書は大げさな気がするが、まぁ間違ってはないだろう。
「………」
それを見た天使は『信じられない』という顔になりながらも、
「………~~~~っ、ほわぁぁぁぁぁっ!」
それから天使は、奇声を上げながら本の開閉を繰り返して同人誌をゆっくりと読み進めていく。
「どうする?お兄」
「しばらくはあのままでいいんじゃないか?嫌悪してる感じじゃなさそうだし」
あれだけ顔を真っ赤にしながらも同人誌から手を離さないところを見るに、むしろ若干興味が湧いてそうな雰囲気を感じる……さっきの『僕は君を苦しめるために来たわけじゃあない』という発言を守ってるだけかもしれないが、まぁどちらにせよ放置でいいだろう。
「お兄がそう言うなら……ところで、1つ気になってることがあるんだけどさ」
「ん?」
「なんでワタシが同人誌持ってること知ってたの?誰にも言ったことないのに……あ、もしかして勝手にワタシの部屋入った?」
「んなわけあるか。エロゲ持ってんなら同人誌も持ってんだろって思っただけだ」
「ホントにぃ?」
「つーか勝手に部屋に入ってるのはお前のほうだろ。たまに俺の部屋から私物がなくなってるの、ちゃんと気づいてるからな」
「……なんのことやら」
******
「それでは、第――何回目だっけ?」
「428回」
「そんなわけないでしょ」
「というか李空、今まで第○回とか言ったことなかったのに急にどうしたんだ?」
「なんとなく言ってみたくなった……まいいや、家族会議を始めます」
その日の夜。俺主導のもと、家族会議が行われた。
「議題は“俺と天音の前世”について」
「母さんから軽く聞いたぞ。李空の前世が魔王で、天音の前世が吸血鬼らしいな」
「そこから先は私も知らないわ。ビデオ通話のあと、ちゃんと詳しい話を聞いたんでしょうね?」
「ああ、今から報告するよ」
―――数分後―――
「――以上、報告終わり」
「天音。今の話に間違いはない?」
「んー……ん、大体、合ってる」
天音が今少しだけ言葉を詰まらせたのは、2人には『子作り禁止』の件を言ってないからだろう……親に『俺は今勃起できません』なんて言えるわけがねぇよ。
「よし、大体わかった。つまり、李空は李空のままなんだな?」
「え?」
「あら、違うの?そういう話かって安心してたんだけど」
「いや、まぁ、取り憑かれてたわけじゃなかったから俺は俺のままだけど……2人とも、他にもっと気になることとかわからないこととかないのか?」
「ないこともないが、子供の安否が一番大事だ」
「そうよ。私たち、これでも結構心配してたんだから」
「父さん、母さん……」
2人の言葉に涙が出そうになる。わかってはいたけど、俺って結構しっかり愛してもらってんなぁ……
「天音に関しては……俺は直接見たわけじゃないからよくわからないんだが、髪が伸びて痴女みたいな格好になってただけらしいな」
「吸血鬼って話だったけど、何かそれっぽい変化はなかったの?」
「変化……あー、そういや言ってなかったっけ。俺たちが前世返りしたのは天音が俺の血を飲んだあとだったんだよ。あ、そういや天音、体調不良はどうなった?見た感じは問題なさそうだが」
「うん。なんか大丈夫になった――っていうか『痴女』って言うのやめてよね!ワタシだってびっくりしたんだから」
「いやー、あれは完全に痴女だったぞ。ぶっちゃけ直前に血を吸われたり前世の記憶を見たりしてなかったら、サキュバスとしか思わなかっただろうな」
今でも思う――あの格好のどこに吸血鬼要素があったよ?コートはちょっとだけマントっぽいかもって思ったが、翼はなかったし見た目だけじゃ判断できねぇだろ。
「がぶっ」
「いてぇ!?急に何してんだ!」
「お兄が失礼なこと言うから、吸血鬼らしく噛みついてる。血を飲む気はないから若干弱めだけど……あぐ、あぐ」
「お前なぁ……それでもし俺から血が出て飲んじまったら、またあの格好になるかもしれないぞ?」
「………」
天音が無言で離れる。やはりあの格好は相当堪えたらしいな。
「本当にそうなっても天使ちゃんに戻してもらえるんじゃないの?」
「いやまぁ、してくれるとは思うんだけどさぁ」
「呼んだかい?」
「「「「――ッ!?」」」」
天音の部屋で読書をしてたはずの天使が突然、壁から現れた。
「びっ、びっくりしたぁ……天使ちゃんって壁抜けできるの?」
「うん。これも天の力の一種かな。それで、どうしたの?」
「あー……もしまた俺たちが前世返りしてしまっても、天使がいれば元の姿に戻してもらえるんだろうか――的な話をしてただけだ」
「もちろん戻すよ。それも使命の一環だからね」
「よかったー。いやまぁ、もう二度とあんな姿にならないことが一番なんだけど」
「魔王の力が落ち着くまでは難しいだろうな」
もしくは俺が力を制御できるようになればいいんだろうけど、その方法がわからないんだよなぁ。天使の口ぶりからして、今までの力の使い方はおかしかった可能性が高い。つまりそれは『これまでは無理やり使ってただけで、制御してたわけじゃない』ということだから、現時点では制御方法の足がかりが一切ない……落ち着くにせよ制御するにせよ、推定1年以上は耐えていくしかなさそうだ。
「ねぇ李空、さっきから気になってたんだけど」
「何?」
「天使ちゃん、なんて名前なの?」
「名前……そういや聞いてなかったな」
俺達の現状を第一に考えてたから、すっかり忘れてた。
「僕に名前はないよ」
「え、ないの?」
「ミカエルとかガブリエルとか、それっぽいのがあるんじゃないのか?」
「君が今言ったのは有名な宗教から崇敬されてる天使の名前。人を導いたり、裁きを与えるような存在だ。僕はそんなんじゃあない」
「ふーん……じゃあ今から名前決めるか。あったほうが親しみ湧くし、種族名じゃないほうが呼びやすいし」
「え?」
俺の提案に天使が驚いた様子を見せる。
「理由が雑すぎてびっくりだけど、いいねそれ」
「2人が一番世話になるだろうから、2人で決めなさい」
「可愛い子なんだから、変な名前にするんじゃないわよ」
「いや、あのっ」
「わかってる。じゃあ俺が名字で、天音が名前な」
「りょーかい」
「………」
何か言おうとしてた天使だったが、最終的には口を閉じた。だが雰囲気的に『嫌』というわけじゃなく『照れくさい』だけっぽいから気にしないでおく。
「んー……」
しっかし、天使の名字かぁ。読み方を変えて“
「………」
「そ、そんなにジッと見つめられると、少し恥ずかしいんだけど……」
恥ずかしさのせいか、天使の翼がファサファサ動いている……翼、か。
「“
「白雪?なんか、あんま天使っぽくないね」
「天使っぽさは捨てた。初めて天使が俺の前に舞い降りてきた時『雪のように真っ白な羽根』が結構印象的だったから、白雪」
「へぇ、割といいじゃない」
「天音は何かいい名前思いついたか?」
「……完全にインスピレーションなんだけど、“
「白雪、乃愛……」
天使は俺が考えた名字と天音が考えた名前を合わせ、呟く。
「どうだ?気に入らないなら、また別のを考えるが」
「それでいい。いや、それがいい。今から僕は“
「「この子たちのこと、よろしくお願いします。乃愛ちゃん」」
「よろしくねー、乃愛ちゃん。あ、そうだ。今後ワタシのことは“天音”って呼んでいいからね」
「俺は“李空”でいいぞ。よろしくな、乃愛」
「うんっ、よろしく……えへへ」
嬉しそうに笑みを浮かべる天使――改め、乃愛。こんなに喜ばれると、こちらとしても提案してよかったなと思える。
「……にしても、あれだな」
話が一区切りしたことを感じた俺は、今現在の乃愛の姿を改めてジッと見る。
「乃愛」
「なんだい?」
乃愛は右手に1冊の本、左手にコーラのペットボトル、そして真っ白な翼で器用にポテチの袋を抱えていた。
「随分と、俺たちの世界を満喫してるようで何よりだ」
「満喫しすぎてるような気がするけど……天使って種族的に、こういう機会って滅多にないの?」
「あっ、ああ、うん。これまで食事をする機会がなかったってわけじゃあないけど、こんなに美味しい食べ物は初めてだ」
「画面越しでもわかるくらいの神々しさだったから、実際に見たらどんな感じなのかしらって思ってたけど……見事に俗世にまみれちゃってるわねぇ。ポテチにコーラ、そして妙に薄い本――え、薄い本?」
「「「え?」」」
突然の薄い本発言に全員の視線が乃愛の手にある本に集中する。
「……あっ」
乃愛が視線に気づき慌てて本を背中に隠すが、もう全員が見てしまったから遅すぎる。
「李空、お前まさか――」
「俺のじゃねぇよ!天音のだ!」
「天音、あんたって子は……乃愛ちゃんになんて物を見せてんのよ」
「ワタシが自分から見せたわけじゃないからね?元はお兄の――」
「おいこら天音、それは言うな!」
「李空の……ま、まさか、李空が無理やり天音に同人誌を――」
「違うわっ!」
「じゃあ一体どういう――」
「すっ、ストーップっ!」
口論が激しくなり始めたところで乃愛がストップをかけた。しかし直後に乃愛が放った言葉が会話を発展させることとなる。
「父君も母君も落ち着いてくれ!これは僕が2人に『子作りのなんたるかを教えてほしい』と頼んで読ませてもらっているんだ。だから2人は何も悪くないんだよ」
「「はいぃ!?」」
「あっちゃー、こりゃダメだね。ちゃんと説明しないと……ね、お兄」
「…………ああ」
――そんなこんなで俺は子作り禁止、その影響で勃起不全になったという現状を説明せざるを得なくなり、それを聞いた父さんから同情的な目を向けられるのであった。
******
「ふぅ……」
最後は微妙な空気になったものの、なんとか家族会議を終えた俺は自室のベッドにダイブした。
「今日は1日、怒涛の展開の連続だったな……それに久しぶりに早く起きたせいか、クソ眠い」
突然の耳鳴りと謎の声、謎の景色。天音の明らかに異常だった体調不良。そして……乗っ取りではなく、俺たちは魔王と吸血鬼の生まれ変わり。前世の姿になってしまう“前世返り”を天使になんとかしてもらったが、まさかの強制的な子作り禁止……冷静に考えれば納得してしまった。今の暴走しそうな状態で子作りをした果てに、魔王の力と同等の力を宿した子供が生まれてしまった場合の危険性を考えてのことだろう。しかしまさか、オナニーすらできなくなるとはな。
「子作り禁止、もとい勃起不全は非常に残念だが、それよりも……俺は、魔王に人生を乗っ取られない」
この真実はマジで嬉しい……本当に、よかった。それに今後しばらくは天使がそばにいてくれる。暴走しそうになったら力を鎮めてくれるだろう。だからあんな事件、二度と――あっ。
「やっべ、いつもの忘れてた」
俺はベッドから跳ね起きる。そして床で正座をしてから、両手を合わせた。この日課としている行為は自己満足でしかないとは思うが、それでもやらなきゃいけない。
「……ごめんなさい」
なぜならこれは、過去に俺が魔王の力を暴走させて
「――よし、寝るか」
日課の黙祷を終えて再びベッドに体を沈め、目を閉じる。
「………」
魔王の力……乃愛は“マナ”って言ってたっけか。できれば感じ取れるようになりた――いや、待てよ?よくよく思い返してみると、今までにも何度かそれっぽい力を感じるタイミングはあったな。たしか炎の夢を見てる時と、魔法を使った時……それを自分でいつでも感じ取れるようになれたら、乃愛が言ってた『不可解』の原因が、わかるかもしれない……それに、もしかしたら、暴走の兆しを、事前に、察知できる、ようになって……じりきで、おさえこめる、よう、に……なる……か……も…………
【本作品における“生まれ変わり”と“転生”の定義】
生まれ変わりは『前世の何かしらを一部引き継いで生まれただけの別人』で、転生は『前世のほぼ全て(力・記憶・人格)をそのまま持って生まれた、もしくは人生の途中(基本的には物心がつく直前。遅くても小学生になる直前)で発現し、それら全てを「自分自身のものである」と自覚した本人』というのが本作設定。特に自覚の有無が大事。RC李空は原作同様“
次回は李空の過去、李空がちょくちょく言ってる“事件”についてのお話。
かなり突拍子もなく強引な話ですので、あらかじめご了承ください。