※この作品はR-18です。

天使☆騒々 RE-COMP!   作:雛影

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2025年、そして本作【天使☆騒々 RE-COMP!】が1周年を迎えてから初の投稿となる今回は李空の過去話。前回の後書きにも書きましたが、かなり強引な展開です。それに加えて過去李空の性格や口調が歳不相応な感じになっていますので、改めてご了承ください。
さらに今回は、人によっては不快感を抱く内容かもしれません。無理そうだと感じた方は、それ以上は無理せずブラウザバックしてもかまいません。
大丈夫だった方は、今後ともお付き合いください。


今回は『李空が魔王の力(マナ)を使えるようになり、身内大好き人間になったきっかけ』という【天使☆騒々 RE-COMP!】の“本当の始まり”とも言えるほどに重要な話なので慎重に執筆していたら、気づけば原作【天使☆騒々 RE-BOOT!】が2周年を迎えていました。しかもゆずソフトが新作発表したし……新作は作中期間が1年とのこと。一応プレミアム版を予約しましたが、一体どんな感じになるんでしょうかね?
投稿開始当初は原作1周年の日に獣耳の人を登場させたかったんですが……見通しの甘さを自覚せざるを得ない。


RC.6「谷風李空の原点」

乃愛が李空たちのもとに舞い降りた現在から、約7年前のとある日。谷風一家はショッピングモールに来ていた。

その日は李空が視聴していた和風アニメのイベントが行われていたようで、そのアニメに登場する刀の模造品が数多く並んでいた。

 

「やっぱりカッコいいなぁ、刀!でもこんなところに置いてて大丈夫なのか?」

「これは模造刀。本物そっくりに作られた偽物の刀で物を斬ることはできないから一応、危険ではない。まぁ扱い次第では人を殺せるし、あれで叩かれるとかなり痛いんだが」

「お父さん、叩かれたことあるの……?」

「あるよ。お母さんに」

「「えっ!?」」

「私たちが学生の頃の話ね。今はもうそんなことしないわよ……たぶん」

「ハハッ、たぶんかぁ……」

 

そこそこ一般的な家庭の日常を繰り広げる、楽しげな雰囲気の谷風一家。

 

――ピンポンパンポーン。

 

しかしその日常は、突如流れたアナウンスによって消え去ることとなる。

 

[お買い物中のお客様方にお知らせします……このショッピングモールはたった今、我々“我神教団”が占拠いたしました。通常の出入り口、非常口のどちらも完全封鎖済みです。我らが神の御告げにより、今から構内の人間を皆殺しにしてまいります。苦しむことなく死にたければ、無抵抗をおすすめします。それでは皆さん、さようなら]

 

謎の物騒なアナウンスが終わった直後。

 

――ざわざわ……

 

「な、何?今の……」

「さ、さぁ……?」

「な、なんか『皆殺し』とか言ってたし、逃げたほうがいいんじゃないか?」

 

同じフロアにいた他の一般客たちがあたふたしながら逃げていくなか、李空たちは……

 

「……とりあえず、今はおとなしく隠れてようか」

「そうね。下手に動いたら見つかって死んじゃうわ」

「うん……さっきの“我神教団”ってなんなんだ?」

「さぁ?聞いたこともないな」

「教団って言うくらいだから、何かの宗教に準じてるんじゃない?それにしたって“神の御告げ”とやらで不特定多数の人間を殺すだなんて……バカげた話だわ」

「絶対悪い神様だよな。なんかいたっけ……」

 

息を潜めつつ、意外と余裕そうな雰囲気で教団について話し合っていた。だが、そんな雰囲気を蹴散らすように遠くで銃声が鳴る。

 

「「「「――ッ!?」」」」

 

その音を皮切りに吹き抜けから悲鳴が聞こえ始め、悲鳴の数に比例するように銃声は数を増やしていく――わけでもなく、ただ淡々と銃声は鳴り響く。

 

「……こ、ここにずっといて大丈夫?」

「大丈夫。むしろ動いたらすぐに見つかって撃たれる」

 

公晴がそう言った直後、今度はどこかで爆発音がした。

 

「爆発っ!?」

「静かに」

「――ッ、ご、ごめんっ」

 

急な爆発音に思わず声を荒げる李空を公晴が制する。それによって李空はなんとか落ち着くが、爆発は止まらない。そしてそれは、徐々に李空たちがいる階にまで近づいてきていた。

 

「……みんな、棚の裏に隠れて耳を塞いで、口を少しだけ開けるんだ」

「ええ、わかったわ」

「隠れるのはわかるけど、耳と口はなんで?」

「このまま何もしなかったら、爆風や爆発音のせいで耳が全く聞こえなくなるぞ」

「――ッ!?わ、わかった。天音もいいな?」

「……う、ん」

 

李空たちが今いる場所にある棚のほとんどは、模造刀が飾ってあるだけのごく普通の棚……爆発に耐えられるとは思えないが、何もしないよりはマシかもしれない。

そうして李空たちが耳を塞いだ瞬間。

 

――ズガァァァァァンッッ!!

 

空中で爆発が起きたらしく、ものすごい爆風と爆発音が吹き抜けから李空たちのいる階にも襲いかかってきた。そしてやはりというべきか、遮蔽物として使っていた棚が大きく傾く。しかし幸運にも棚は裏側から斜めになるような形で壁側に倒れたため、遮蔽物としての役割は失われなかった。その直後に李空たちのいる階にまで爆発物が飛来したのだが、さらに幸運なことに李空たちのいる場所付近には爆発物が飛んでこなかった。そのおかげもあり、李空たちは爆発の被害からなんとか逃れられていた。

ちなみに、先ほど李空たちと違い移動していった一般客たちは爆発に巻き込まれ悲鳴を上げていたのだが、耳を塞いでいた李空たちには全く聞こえていなかった。

 

 

******

 

 

「……静かになったな」

「と、とんでもないことになってきたわね……」

「……も、もう大丈夫そうか?」

「………」

 

爆発による音や揺れがなくなって数分が経ち、公晴・由月・李空・天音の順で棚と壁の隙間から抜け出て耳から手を離した。そのときに天音が少し遅れて隙間から抜け出てきたのだが、李空たちはそれに気づいていない。

 

「みんな無事か?」

「ええ、なんとか無事みたい」

「お、俺も大丈夫、だけど……もしかして、動いてたら死んでた?」

「だろうな」

「ま、マジかよ。危なかっ――」

「5階まで来たが、この辺も爆弾の被害がひどいな」

「うーわ全身ぐちゃぐちゃ、こりゃホントにひでぇ。しかも適当に放ったせいで足場の良し悪しの差がヤバい……おっ、あっちの方は比較的無事そうだ」

「「「――ッ!」」」

「……っ」

 

少し遠くから聞こえてきた教団の人間らしき2人の話し声に、李空たちは会話を止めて再び棚と壁の隙間に身を隠す。そのときも天音が少し遅れて動いていたのだが、それにも李空たちは気づいていない。

 

「お前のせいでこうなってんだぞ。そんな文句言うくらいならもっと考えて狙えよ」

「俺だってそうしたかったけど、教祖様に渡された変な射出武器の操作がクッソ難しくて……そういえば初めてだよな、教団総出で儀式するのって」

「理由はわからんが、今回はこれまで以上に本気だってことなんだろ」

「……なぁ」

「どうした?」

「ここ数年で随分と変わっちまったよな、この教団。歴代の教祖様方は先代のように全員が慈善活動に精を出す素晴らしい方々だったらしいのに、今代の教祖様は“悪を消し去る儀式”という名の大量虐殺に精を出してる……ホント、なんでこんなことになっちまったんだろう?」

「そう言うな。従わなきゃ俺たちが殺される。退団も許されない……死にたくない俺たちに選択肢なんてないんだ」

「そうだけどさぁ……最近は、だんだんとこの状況に慣れてきてる自分がいて怖いんだよ」

「……まぁ、その気持ちはわかる。俺も昔はずっと吐き気がしてたのに、今じゃ特に何もない……慣れってのは恐ろしいもんだな」

「だよな。まぁそれ以上に怖いのは教祖様なんだけど」

「ハハッ、違いない」

「文字通りなんじゃないかと疑いたくなるほどの読心術に、出所(でどころ)のわからない強力で奇妙な武器群」

「それに噂では、あの見た目で80歳を超えてるらしい」

「ま、マジかよ!?とてもそんなふうには見えねぇ……」

「見た目は20代半ばくらいだよな。一体どうやってあんな若さを――」

 

2人の話し声が徐々に遠のいていくのを感じ、公晴が頭だけを廊下に出して確認する。それに倣(なら)うように李空と由月も頭だけを廊下に出す。その2人組はフード付きの白いローブを着ていて、後ろ姿は見えるものの会話に夢中で後ろを見る素振りすらない。そのまま、爆発の影響で動かなくなったエスカレーターで4階へと下りていった……隠れている李空たちには気づかなかったようだ。

 

「……よし、もう大丈夫だ」

「ふぅ……危なかったわね」

「話に夢中だったみたいで助か――ん?」

「……っ」

 

ここでようやく李空は、天音の様子がおかしいことに気づく。天音は両手で口と鼻を覆い、体をゆらゆらと揺らしていた。公晴と由月は他に何か異変がないか集中して廊下を見ているからか気づいていない。

 

「天音、どうした?」

「……ニオイ」

「ニオイ?」

「……変な、ニオイ、が……ぅ」

 

最後まで言うことなく天音が倒れる。そのときに体を棚にぶつけてしまい、爆風の影響でその棚から落ちそうになっていた模造刀が決して小さくはない音を立てて落ちた。

 

「あ、天音っ……!?」

「李空、どうした?」

「な、なんかわかんないけど、急に天音が……!」

「はぁ、はぁ……ぅ、けほっ、けほっ」

 

倒れた天音は苦しそうに咳をしている。

 

「煙を吸った――いや、私たちはなんともないから違うわよね」

「そういえば、さっき『ニオイ』がどうとか――」

「おい、本当に音が聞こえたのか?」

「「「――ッ!?」」」

 

突如、ついさっき下りていったはずの2人の声が聞こえてきた。

 

「ああ、たぶん」

「たぶんかよ……まぁいい。もし聞き間違いじゃなかったら見逃したことになってマズいし、店を1つずつ見ていくぞ」

「あいよー」

「俺が中を見てくから、外の見張りを頼む。万が一、俺たちが店内を見てる間に逃げられたら最悪だからな」

 

どうやら模造刀の落ちる音が聞こえていたようで、店内を一つずつ見て回っていくことにした様子。

 

「……マズいな。中まで来られたらさすがに見つかる」

「ど、どうするの、公晴さん……?」

「どうするって――ん?」

「………」

 

公晴と由月が逃げる方法を考えるなか、李空は棚から落ちた模造刀をジッと見つめていた。

 

(刀……あいつらが来た瞬間に振るったら、隙ができて逃げられるんじゃないか?)

 

そうして李空は模造刀を手にした瞬間、公晴と由月に押さえ込まれた。

 

「ちょっ、何すんだよ……!?」

「それはこっちのセリフよ!」

「李空、それはダメだ。相手は銃を持っていた。模造刀で太刀打ちできるわけ――というか、子供のお前が敵うわけがない!」

「何もしないよりは、いいだろ……っ!」

「ぐっ、力が強すぎる……!?」

「動きが、止められない……!?」

「だ、め……」

 

子供の力とは思えないくらいのパワーで2人を払いのけようとする李空の腰に、ふらつきながら天音がしがみつく。

 

「お兄、ちゃん……死んじゃ、やだ……」

「――――――」

 

瞬間、李空の動きが止まった。

 

(死……俺たちみんな、ここで死ぬのか?)

「うおっ、マジでいたよ」

 

ついに見つかった李空たち。相手は2人だが、その手には公晴が言っていたとおり拳銃が握られている。

それに対して李空たちは、全員が李空にしがみついた状態。しかも李空は動きを止められたときに模造刀を落としてしまっていた。

 

「……こいつら、何やってんだ?」

「どうでもいい。さっさと終わらせるぞ」

「りょーかい。ってことで、ごめんな」

 

そうして男たちは李空たちに銃口を向け――

 

 

******

 

 

漆黒の闇の中、李空の目の前に紅蓮の炎が現れる。

 

(なんだ?この炎……それになんか暗い。ここ、どこだよ?俺はたしか、さっきまでショッピングモールで――ッ!!)

 

突如現れた炎や見知らぬ場所に疑問を抱く李空だったが、それどころではないことを思い出す。

 

(ヤバいマジでどうする!?明らかに俺たちを殺す気の、拳銃を持った大人2人を相手に全員でどうやって逃げ――ってあっちぃ!?)

 

炎を無視して銃殺の危機からどう逃げ延びようかと考える李空だったが、目の前にあった炎が李空の全身を包み込んだことで思考が途切れる。

 

(熱い熱い熱い熱い熱い熱い!?なんだこれどうなってる!?俺、燃えてる!?早く抜け出さなきゃ――って体が動かない!?)

 

李空は懸命にもがこうとするが、そもそも体が動かないのでどうすることもできない。

 

(クソッ、クソッ!一体俺に何が起きてる!?こんなバカなことやってる場合じゃないのに!このままじゃ家族(みんな)が――づぅッ!?)

 

現実感のない、それでも確かな現実に焦る李空。すると突然頭痛に襲われ、脳内に声が響く。

 

――魔王!――

――魔王■■■■様!――

――我ら■■に安寧を!魔王様!――

 

(ま、おう……魔王?魔王って言ったら、あれか。世界を恐怖に染め上げて勇者に倒される悪役。でも最近のアニメじゃ、世界の秩序を保つ側として登場したりもする……この炎が、魔王の力?)

 

ここで李空は現状を『なぜかはわからないが自分には魔王が取り憑いていて、その力を使えるようになった』というふうに認識した。

その瞬間、李空の脳裏にとある姿が浮かび上がる。膝くらいまである銀の長髪。額には2本の鋭い角。白目の部分が黒くなった金銀のオッドアイ。青いラインが左右対称的に1本ずつ入ってるロングコートが特徴的な、全体的に黒い服を着た男――それは、魔王の姿だった。

 

(あー……これってもしかして、最後には魔王の力に体が耐えられなくなって死ぬ的なヤツかもしれない。もしくは天の神様的な奴に見つかって消される、みたいなのもアニメか何かで見たな。ってことは俺、みんなを助けようとすれば死ぬかもしれないのか……だからどうした?)

 

――ドクンッ。

 

全く動かなかった李空の手が動き、握り拳になる。

 

(今、なんとかできなきゃ、みんな、みんな死んでしまう)

 

全く動かなかった李空の足が1歩、炎の中へと進む。

 

(この力があれば、みんなを助けられる。俺も助かればいいんだけど、現実はそう甘くないよな……でも、いいさ)

 

炎がさらにその身を焼いていくが、李空は一切気にしない。

 

(みんなを助けられるなら俺は、どうなったっていい)

「だから……」

 

声が出せるようになったことに気づいた李空は、いつの間にか目の前に立っていた魔王に向かって力強く叫んだ。

 

「だから俺に、力を貸せよ――魔王ッ!!」

 

 

******

 

 

――弾丸が放たれる。しかしそれは、李空たちの目の前に突如出現した炎の壁によって焼き消された。

 

「「……は?」」

「………」

 

呆けた声を漏らす教団員2人に李空が手を向けると、壁となっていた炎が津波のような動きで2人に襲いかかった。

 

「「ぐぎゃあああああっ!?」」

「「「――ッ!?」」」

 

わけもわからず身を焼かれてもがき苦しむ2人に、李空はダブルラリアットを叩き込んで吹き抜けから叩き落とした。

 

「………」

(すごいな、魔王の力。なんか炎の魔法みたいなのが出たぞ。これなら――)

「お兄……ちゃん?」

「――ッ、そうだった。みんな大丈夫……ん?」

 

天音に呼ばれた李空は振り返り、そしてすぐ違和感に気づく。

 

「あんた……李空、よね?」

「うん……なんでみんな小さくなってんの?それに俺、なんか声が低い?」

「……お前が大きくなったんだよ」

「俺が?それってどういう――ん?」

 

ふと李空の目が、部屋の奥で奇跡的に爆発の被害を免れて無事だった姿見に向けられる。

 

「……は?」

 

そこには李空の動きに合わせて鏡の中で動く、魔王の姿があった。

 

(これ、さっき見た魔王だ。力を使うと姿が変わるのか……まぁでも、今はむしろ助かるかな。俺(子供)の体じゃあいつらと戦うの難しかっただろうし)

「李空?」

「大丈夫。俺が全部なんとかしてくるから、しばらくしたらみんなは上手いこと逃げてよ」

「なんとかって、あんた一体どうする――ちょっと李空!?」

 

由月の驚く声を背に李空は落とした模造刀を拾って駆けだした……そして、地獄を見た。

崩れた壁に押し潰された人たちの血溜まり。爆風で思いっきり壁に叩きつけられたのか、血塗れの壁のそばに倒れてる死体。さらには爆弾が直撃したのか、原型を留めてない人間だったものの数々がそこにはあった。

 

「………」

 

普段の李空であれば吐き気がこみ上げ、そのまま吐いていただろう。しかし今の李空は『殺(や)らなきゃ殺(や)られる、だから殺(や)る』ということしか考えていない。ゆえにそれらを一切気にすることなく今いる階層を見て回り、さっきの2人とは別の場所から上がってきたらしい数少ない教団員を全員始末してから階段を下りる。

 

「なっ、なんだこいつ!?」

「死ね」

「は――ぐああああっ!?」

 

階段を下りてすぐの廊下にはショットガンを持った黒いローブ姿の教団員が数人、そしてその階層には50人を軽く超える数の教団員がいた。しかし李空は一切怯まない。飛んでくる弾丸ごと教団員を炎で燃やしたり、炎を纏わせた模造刀で教団員を焼きながら打ち払ったり、果ては素手で頭蓋骨を握り潰したりと様々な方法で屍を築いていく。その様はまさに“蹂躙”という言葉がふさわしい。

 

「ふぅ……思ったよりも多いな。めんどくせぇ」

 

そうして4階にいた教団員を全滅させた李空は、愚痴をこぼしながら一息つく。

 

「あ、そうだ。魔王なんだから炎以外にも何かできることありそうだよな。今は……敵の数が知りたい」

 

炎以外の魔法として探知系を考えた李空はふと、今は自身の体である魔王の特徴的な眼に意識が向いた。

 

「魔王の眼……なんか普通じゃなかったし、もしかしたら千里眼みたいなことができるかも?」

 

千里眼――簡単にいえば『遠くの様子を見れたり、透視能力などがある眼』のこと。心を読む力もあるそうだが、李空が今求めているのは前者だ。

 

「むむむ…………ッ!見え――は?」

 

李空は辺りを見回しながら眼に意識を集中させると、本当に千里眼効果を発揮した眼で――

 

「みん、な……?」

 

5階にて血の海の上に倒れている両親と、そのすぐ近くで背中部分に羽の模様があるローブを着ている教団員(以後、羽の教団員)が天音の腕と腹部に何かを刺しているところを目撃した。その何かが引き抜かれると天音は力なく倒れ、動かなくなる。

 

「……………………………………………………殺す」

 

李空の心が激しい怒りに包まれていく。理性が失われかけている目で天音たちがいる場所を力強く睨みつけると、羽の教団員の目の前に李空が一(・)瞬(・)で(・)現れた。

 

「……え?」

「死ぃぃぃねぇぇぇえええええッッ!!」

「なっ、こ――」

 

李空が怒りに身を任せ羽の教団員をぶん殴ると、羽の教団員は吹き抜けを通過して反対側の壁に叩きつけられた。それを追撃するために李空は大ジャンプし――羽の教団員以上の勢いで壁に激突。あまりの勢いに李空が激突した壁は崩落した。

 

「邪魔ぁ!どこだ。どこにい――ん?」

 

李空が自身にのしかかる瓦礫を吹き飛ばしながら血眼で羽の教団員を探すと、真横に上半身と頭部が瓦礫で押し潰されている教団員の姿があった。

 

「……死んでる」

 

周囲にそれ以外何もないため李空はそう判断した。しかし羽の教団員が死んだところで、みんなの命は帰ってこない。ゆえに李空の怒りは収まらない。

 

「なんで、なんでみんなが死ななきゃいけなかった……」

「あっちでものすごい音がしたぞ!」

「ああもう、さっきから一体何が起きてるのよ!?」

「教祖様との通信も途絶えたし、俺たちはどうしたらいいんだ……」

「………」

(今のは……そうだ、我神教団だ。あんなふざけた奴らがいたせいで、みんなが――絶対に許さない。俺が全部、滅ぼしてやる)

 

――ゴォォォォッ!!

 

「アアアアアああああああッッ!!」

 

突如、李空の周囲に炎が吹き荒れる。しかし先ほどまでの炎と比べ、その炎は明らかに異質な色と結果を示していた。

先ほどまでは赤と紫が混ざり合ったような色の炎だったが、今の李空の炎は血のような赤黒い色。しかもその赤黒い炎は通常の炎のように熱や煙を生じさせる様子もなく、触れた部分を跡形もなく消滅させていってるのだ。

 

「たしかこの辺から……えっ、ちょっ、何こ――ぎゃああああっ!?」

 

李空が壁に激突した音を聞きつけて曲がり角から現れた教団員は赤黒い炎に飲み込まれ、悲鳴を上げながら消滅した。そのまま後ろに続いていた教団員たちも一網打尽にされていく。

 

「ああああaaaaa■■■■■■■!!」

 

しかし李空の思考にはもう『滅ぼす』ことしか存在しておらず、目の前から標的が消え去っても止まることはない。

 

 

******

 

 

どれくらい経っただろうか。

標的を失った李空は、瞬間移動を繰り返しながら周囲に赤黒い炎を放出していった。それにより大部分の壁や床、そこら中に転がっていた死体は消滅。さらには逃げ遅れた一般客や従業員、それらを守っていた警備員までもが消滅し……いつの間にかショッピングモールは廃墟同然と化していた。

 

「■■■■■……」

 

そして現在。もはや人の言語として聞き取れない言葉を吐き出しながら、1階をフラフラと歩いている李空。

 

「お兄、ちゃん……」

 

――そんな李空のことを、天音が1人で遠くから見ていた。

 

「――ッ!」

 

天音の声に反応した李空が首だけを動かし、天音の姿を捉える……その目は完全に正気を失っていた。

 

「■■■■……」

 

いまだ魔王の力にのまれたままな様子の李空はそこから大きくジャンプして天音の前に降り立ち、炎を生じさせた手のひらを天高く掲げた。

 

「■■■■■■■■■■!!」

「やだ……やだよ、お兄ちゃん……」

 

そのまま腕が振り下ろされれば、よける間もなく自分は死ぬ――それを理解し怯えながらも、天音は目の前の魔王(兄)に手を伸ばして縋るように叫んだ。

 

「元に戻ってよ、お兄ちゃん……ッ!」

「――――――」

 

瞬間、李空の動きが止まった。それと同時に李空の手のひらに生じていた赤黒い炎が消える。

 

「……お兄、ちゃん?」

「………」

 

突然動きを止めた李空に天音は不思議そうに声をかけるも、李空は振り下ろしかけていた自身の手を見たまま動かない。

 

「お兄――」

「――さい」

「え?」

「……こ゛め゛ん゛、な゛さ゛い゛……ッ!」

 

天音の声が届いていない様子の李空は突然膝をつき、涙ながらに謝りだした。

 

(いくら殺されそうになったからって、殺すのはダメだろ。しかも怒りに身を任せて無関係の人たちも殺して、守りたかった家族――天音まで殺しそうになった。というか天音が生きてたってことは、俺は勘違いで大勢の人を殺したのか……!)

 

正気に戻った李空は自責の念に押し潰されそうになっていたのだ。

 

「こ゛め゛ん゛……こ゛め゛ん゛……っ」

「……お兄ちゃん」

「こ゛め゛――ぇ?」

「ありがとう、お兄ちゃん。ワタシのこと、守ってくれて」

 

李空が何に対して謝っているのかをなんとなく察した天音は、李空を抱きしめた。『自分は殺されそうになったんじゃない、守ってもらったんだ』と伝えるように、優しく。

 

「(……戻ってくれて、ありがとう)」

 

それでいて、いまだ心に残る恐怖で体が震えそうになるのを抑えるように、強く。

 

「天、音……」

 

千里眼と同等の効果を発揮した魔王の眼を持つ李空は、天音の恐怖を見抜いていた。

 

(……そりゃそうか。だって俺、まだ魔王のままだもんな)

 

李空は自身の姿を元に戻したいと考えるが、戻り方がわからなかった。

 

(わからない、けど……戻らなきゃ)

 

戻り方はわからないが、こうなった原因なら李空はわかっている。

 

(……炎)

 

そう、紅蓮の炎だ。この炎に自ら身を投じたことで李空は魔王になった。そして怒りに身を任せた結果、暴走して家族の命までをも奪いかけた。

 

(力が鎮まれば……魔王が眠れば、俺は元に戻れるはず)

 

李空は目の前に点る紅蓮の炎を力強く睨みつける。

 

(……なぁ魔王。あんたがどういう理由で俺に取り憑いてるのか、なんで力を貸してくれてるのかは知らないけど、戦いは終わったんだ。あんたの力はもう、必要ない。だから頼む。もう眠ってくれ。俺を元の姿に戻してくれ……!)

 

李空がそう強く願った――その瞬間。

 

――ドクンッ。

 

「ぐっ……!?」

 

心臓が痛みを伴うほど大きく鼓動したことで、李空の意識は現実に引き戻された。

 

「お、お兄ちゃ――え?」

「ぅ……いってぇ、なんだ今の?急に心臓痛くなったんだけど」

「……お゛に゛い゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛っ゛っ゛!!」

「うぉっ!?」

 

急な心臓の痛みに困惑する李空だったが、天音がボロ泣きしながら抱きついてきてさらに困惑することとなった。

 

「あ、天音?急にどうした?」

「ぐすっ、えぐっ……お兄ちゃん、なんだよね?」

「お、おう。で、お前なんで泣いて――」

「よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ゛!」

「いや、だから……あーもう、よしよし。なんかわかんないけど、さっさと泣き止め――んん?」

 

泣き止まない天音の頭を撫でていた李空は、ふと自分の身体に違和感を覚える。

 

(なんか、体の動きが鈍い。というか……俺の手、小さくなってる?)

 

天音の頭を撫でる自分の動きと手、その両方がさっきまでと全く違う感覚。

 

(…………まさか!?)

 

少し考え込んだ李空は1つの結論を得る。それを確かめるため、李空は自分の額に触れた……そこに、角はなかった。

 

「……俺、元に戻ったのか」

「ぐすっ……うんっ!」

 

なんと李空の姿が魔王から元の子供の姿に戻っていたのだ。

 

「そっか……よかった。あのまま戻らなかったらどうしようかと――」

「さっき、こっちの方から天音の声が――見つけたっ!」

「えっ、どこ――いたっ!」

「「というか李空もいるっ!?」」

「……え?」

 

姿が戻って安堵している李空は突如、死んだと思われていた公晴と由月の声を聞く。

 

(父さん、それに母さんの声も……2人とも、生きてた?)

 

声がする方に目を向けると、遠くから血まみれの公晴と由月が走ってきていた。

李空はろくに確認もせず『みんな死んだ』と断定していたが、実は2人は5階で死んだ別の誰かの血によって出来た血の海の上で気絶していただけで、死んではいなかったのだ。

 

「まさか1階まで降りてたなん――ッ!?」

「「2人とも、後ろっ!」」

「「え?」」

 

両親の切羽詰まった声に従って後ろを見ると、そこには――

 

「………」

 

全身が燃え続けているにもかかわらず、体を揺らしながら模造刀を振り下ろそうとしている男の姿があった。その模造刀は李空が暴走していた際に落とした模造刀。しかも男の体を燃やしている炎が模造刀全体に燃え移っており、奇しくも李空が行(おこな)っていた“炎を纏わせた模造刀”と似たような状態となっていた。

 

(天音を抱えて逃げる――のは無理。ならせめて天音は守るッ!)

「お、おに――きゃっ!」

 

一瞬で覚悟を決めた李空は天音を思いっきり突き飛ばす。

 

「えっ、ちょっ天音!?」

「うわっ、ととぉ……!」

 

魔王の影響がまだ残っていたのか、李空に突き飛ばされた天音は両親のもとまで吹っ飛んだ。それを慌てて受け止める2人は李空から視線を外す。そして再び李空を見たとき――

 

「なっ……!?」

「う、嘘でしょ……?」

「「りっ、李空ぅぅぅぅぅッッ!!」」

 

――そこには、燃える模造刀で背中を焼かれる李空の姿があった。

 

 

******

 

 

「……ぁ?」

 

事件から1週間後、目覚めた李空は病室でうつ伏せになっていた。

 

(ここ……どこだ…………病院?なんで俺、こんなところで寝て……体に包帯巻かれてるってことは、派手に怪我でもしたのか?)

 

――ガララッ。

 

「「え……」」

「……お兄、ちゃん?」

 

李空が起き上がって自身の体や周囲を見ていると、公晴・由月・天音が病室に入ってきた。

 

「お兄ちゃんっ!」

「「李空っ!」」

 

起きている李空を見た3人は慌てて駆け寄り、力強く李空を抱きしめる。

 

「よく目を覚ました。さすがは俺たちの子だ」

「まったく、あんたって子は……もう一生目を覚まさないんじゃないかって、心配したんだから」

「………」

(ヤバい……何がなんだか全くわからない。なんで俺、病院にいるんだ?)

 

どうやら李空は事件当時の記憶があいまいなようで、どうして自分が病院にいるのか全くわかっていなかった。

 

「おに、いちゃん……お゛に゛い゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛っ゛っ゛!!」

(天音もなんか、クッソ泣いてんだけど――)

  

 

――――――

 

 

「……お゛に゛い゛ち゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ん゛っ゛っ゛!!」

 

 

――――――

 

 

「ぁがっ!?」

 

突如、李空が頭を押さえてうずくまる。

 

「り、李空っ?」

「急にどうした?」

「ぐすっ……お゛に゛い゛、ち゛ゃ゛ん゛?」

「はぁ……はぁ……っ」

 

今の天音の涙があのときの天音の涙と重なり、李空は徐々に記憶を取り戻していく。

 

 

――――――

 

 

「なっ、なんだこの化け物はっ!?」

「撃てっ、撃てぇぇぇっ!」

 

 

――――――

 

 

「な、何あれ……」

「お、鬼……?」

「お客様は速やかに避難を――あぎゃあああっ!?」

 

 

――――――

 

 

「くっ、来るなああああっ!」

「死にたくないぃぃぃぃっ!」

「なんで、こんなことに……」

「いやだあああああああっ!」

「ぎゃああああああああっ!」

「ああ、そうか……これが、道を踏み外した者の末路――」

 

 

――――――

 

 

「なっ、警棒が折れ――ごぼっ!?」

「クソッ、化け物――かはっ!」

「パパ……ママ……どこ……?お兄ちゃん、怖い……」

「あっ、安心しろ!俺が守っ……て?」

 

――ゴシャア!

 

「――――――」

「ぇ……おっ、お兄ちゃ――」

 

 

――――――

 

 

「はぁ゛っ……ぐ、ぅう゛ぅぅう゛……!」

「お兄ちゃん!お兄ちゃんっ!」

「き、公晴さん。これどうしたらいいのかしら?」

「と、とりあえずナースコール――」

「う゛く゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!」

「「「――っ!?」」」

 

李空が叫び声を上げると同時に謎の衝撃波が発生。それによって吹き飛ばされた3人は、病室の壁にヒビが入るほど強く叩きつけられた。

 

「ふーっ……ふーっ……ぁ」

 

息を荒げる李空の目に、壁際に倒れている家族の姿が映る。

 

「ぁっ、ぁああ……俺は、何を……っ!」

 

自分のしたことが信じられない李空は、倒れているみんなから目を逸らす。すると今度は、病室の洗面台に備え付けられていたが衝撃波によって割れてしまった鏡に目がいく……そこには、病院のベッドに座る魔王の姿が歪に映っていた。

 

「………」

(このままここにいたら、みんなを殺してしまうかもしれない……だったら、俺はもう――)

 

そう考えた李空がベッドを降り、ガラスの割れた窓に向かって1歩足を踏み出した瞬間。

 

「ダメっ……!」

 

天音が李空の背中にしがみついた。

 

「……離せ」

「やだ。離したらお兄ちゃん、どこか行っちゃう」

「……俺がどっか行かなきゃ、みんな俺に殺されるかもしれないんだぞ」

「あの変な炎、ワタシたちの方に来なかった。それにお兄ちゃん、呼んだらちゃんと戻ってくれた……だから、大丈夫」

 

そう言う天音だが、その体が震えていることに李空は気づく。

 

「……んなこと言っても、怖いんだろ?俺のこと。さっさと離せ」

「お兄ちゃんがいなくなるほうが、もっと怖い。絶対やだ。お兄ちゃんはワタシのお兄ちゃんだもん。絶対絶対、離さないもん……!」

「……そうね」

 

2人の様子を見ていた由月も李空のもとへ行き、天音ごと抱きしめる。

 

「あんたの身に何かとんでもないことが起きていても、あんたは私たちの大切な家族“谷風李空”よ。ねぇ、お父さん」

「もちろん」

 

さらに公晴が由月の反対側から抱きしめ、両親に子供たちが抱きしめられる形となった。

 

「……俺、人を殺したんだぞ。変な連中だけじゃなくて、無関係の人まで――」

「それを証明できる人間は俺たちしかいない。でも真実を言ったところで、誰も信じやしない……安心しろ。今後何があっても、俺たちはお前の味方だ。なぁ、お母さん」

「ええ。わけもわからないまま息子を犯罪者にしてたまるもんですか」

「大丈夫。お兄ちゃんは、独りぼっちじゃないよ」

「父さん、母さん、天音……ありがとう」

 

家族の温もりを感じ、李空の精神が落ち着いていく。そして李空は意識を自身の中――魔王の力の象徴たる紅蓮の炎に向ける。

 

(今の俺は、ショッピングモールでのことを思い出して心が乱れてるだけ……なぁ魔王。戦う必要がない今、お前の力は危険すぎる。だから、また眠っててくれ……)

 

――ドクンッ。

 

「ぐっ……!?」

「お兄ちゃんっ!?」

「「李空!?」」

 

突如、心臓の痛みに襲われた李空は胸を押さえる。前触れなく起きた李空の変調に慌てふためく3人だったが……

 

「ぅ……クソッ、また心臓が――」

「李空、あんた……」

「ん?」

「おでこ、触ってみろ」

「……角が、ない」

「よかった……お兄ちゃんが、元に戻った!」

 

気づけば李空の姿は、元の子供の姿に戻っていた。

 

「大丈夫ですか!って、なんですかこれは!?」

 

その直後。タイミングよくと言うべきか、看護師が病室に入ってきて室内の惨状に唖然。窓ガラスは全て割れていて、壁には浅いとはいえヒビが入っているとまでくれば当然の反応と言える。

さっき起きたことを話せるわけもなく、李空は咄嗟に――

 

「ごめんなさい。変な夢を見てたみたいで、起きてパニックになった俺がやっちゃいました」

 

と、誤魔化した。両親が上手いこと話を合わせてくれたおかげで疑われることもなく、そもそもショッピングモールの事件で生き残った家族だったということが判明すると、李空は精神科に入院するように提言される。しかし李空は『家族のそばが一番安心するから行きません』と拒否したのだった。

 

 

******

 

 

「……朝か」

 

スマホで時間を確認すると、現在6時40分。

 

「あー……久しぶりに見たな、あの時の夢」

 

俺が初めて魔王の力――マナを解放して、たくさんの人を殺してしまったときのこと。そしてその1週間後の病室でのこと……そういや今回は死霊みたいなの出てこなかったな。事件の夢を見たときは必ずと言っていいほど出てきてたんだが……あれ全部、俺が殺した人たちのはずだから出てくるのは当然だと思う。だから今日は出てこなかった理由が余計にわからない。

 

「つーか、なんでまた急にあの時の夢を……もしかして、魔王の力のことを正しく理解したから――ん?」

 

まだ少し眠気の取れない目を軽く擦ろうと手を上げ、ふと違和感を覚えた。

 

「な、なんだこれ?」

 

手から――いや、俺の体中からオーラみたいなのが感じられる。寝る前は何も感じなかったはずなんだが……もしかして、これがマナか?

 

「……ま、いいか。なんかあったら乃愛になんとかしてもらおう」

 

少し喉が乾いたし、顔洗う前にキッチン行くか。ついでに母さんに挨拶しとこう。

 

「母さん、おはよう」

「おはよう、李……空?」

 

いつも通りリビングでテレビを見てる母さんに挨拶すると、母さんが俺の顔を見て驚いた表情になる。

 

「何?今日も目が死んでる?」

「死んでるっていうか……あんた、もう顔洗った?」

「いや、喉乾いてるから先にお茶飲みに来た」

「今すぐ顔洗ってらっしゃい。そしたらわかるから」

「え?先にお茶――」

「顔、洗ってらっしゃい」

「お、おう……」

 

母さんの有無を言わさぬ雰囲気に押され、洗面所に行き――驚愕。

 

「なっ……なんじゃこりゃあ!?」

 

洗面所の鏡に映っていたのは、眼だけが魔王になっている俺の姿だった。




原作では明言されてなかったと思いますが本作品の瑞花学院は高校、つまり李空たちは高校生です。なのにAVやエロゲ・同人誌を所持していることに関しては『エロの規制が若干緩い世界だが、性加害に関する罰則はクッソ厳しい世界』だと思っていただければ幸いです。

《李空の過去話の時系列》
事件が起きたのは、乃愛が舞い降りた現在から約7年前。そして原作同様に起きた天音の家出騒動から約2年後の7月で夏休みが始まったばかりの頃。この少しあとに李空は風実花と初めて出会います。
原作では天音の家出騒動がいつ頃なのか不明でしたが、原作のCG的に小学校低学年くらいだろうなと判断しました。そして原作での風実花と出会った時期も少しあいまいでしたが、おそらく小学校中学年くらいだろうと推測。なので事件は李空が小学4年生、天音が小学3年生の頃のお話になります。
突如現れた“我神教団”は割と適当に考えた組織です。『我らは神の代行者。貧しい思いをする人々へ祝福を』という信条を持つ、300をゆうに超える団員数が特徴の教団――というよりも、ボランティア団体。しかし今代の教祖は“悪を消し去る儀式”に注力する、事件の約10年前に先代の教祖が突如「彼に教祖の立場を継承する」などと言って連れてきた謎の男。李空は知り得ませんが、背中部分に羽の模様があるローブを着ている教団員が教祖でした。なお、今後この組織に出番はありません。李空によって滅ぼされたので。
今回の事件の内容をまとめると――
ショッピングモールで谷風一家は、我神教団の“悪を消し去る儀式”とやらに巻き込まれる。
↓
見つからないように隠れていると、天音が変なニオイにやられ、物音を立ててしまう。
物音に気づいた教団員に見つかって発砲――その瞬間、李空の“魔王の力”が覚醒。教団員を紅蓮の炎や魔王の体に宿る圧倒的な身体能力などで殺していく。
なお、天音が言っていた『変なニオイ』の正体は、下の階や同階で撃たれた&爆弾(教祖自作の特殊な代物)の被害で死んだ一般客の血のニオイ。原作の天音√で天音が李空の血に『いいニオイ』と反応していたことから、本作では【吸血鬼は血のニオイ(マナとも言う)を敏感に感じ取る特性を持つ】としている。今回はあまりにも夥しい量の血のニオイに天音に宿るヴィズのマナが反応してしまい、前世返りほどではないが天音に影響を及ぼしたのだ。
↓
4階にいた教団員を全滅させて一息ついた李空はふと「炎以外の力はないのか?」と考え、魔王は眼が普通じゃなかったことから千里眼的な力があるんじゃないかと思いつく。眼に意識を集中させると、本当に千里眼的な力を発揮した。その瞬間、背中部分に羽の模様があるローブを着ている教団員が天音に何かを刺しているところを李空は視認する。その近くには、血の海の上に倒れている両親の姿もあった。
↓
それを見た李空は『家族が死んだ』と思い込み大激怒。これまでは「無関係の人は無視」「殺られる前に教団員を殺る」だった心境が、ただ「殺す」「滅ぼす」に変化。そして怒りに身を任せた結果、魔王の力を暴走させて教団員のみならず無関係な人たち(教団の儀式から逃げのびていた従業員や警備員、一般客)まで殺していった。
↓
それを遠くから見ていた天音に気づいた李空は天音を殺そうとするも、天音の声で正気に戻る。恐怖に震える体を抑えながら感謝を述べる天音を見て李空は自身に取り憑いている(と認識している)魔王に「戦いはもう終わったから眠りについてくれ」と強く願う。するとなぜか李空の姿が元に戻った。そして遠くから走ってくる両親に李空たちが目を向けた直後、李空の後ろで倒れていた教団員(李空が最初に突き落とした教団員の片割れ。いまだ全身が燃えている)が突然ゆらゆらと動きだす。その手には李空が羽の教団員を追撃する際に落とした模造刀があり、それを李空たちに振り下ろそうとしていた。両親の声で後ろを見た李空は『天音を抱えての回避は無理』だと判断して天音を思いっきり突き飛ばすことで庇い、教団員を燃やしている全身の炎が燃え移った模造刀による打撃をもろに受けた李空は気絶。その後すぐ、教団員は動かなくなった。
↓
1週間後、病室で目覚めた李空。自分のやったことを思い出して暴走しかけるも、家族の温かな感情に触れて正常を保つ。
――といった感じ。
目覚めたあと。軽い身体検査を受けた李空は、事件後すぐの精密検査で自身の背中側の右肩から左脇腹にかけて斜めに斬られたかのような浅黒く大きな火傷痕、天音には腕に注射痕が2箇所、公晴と由月には頭部に小さな外傷が確認されていたことを聞いた。特に李空の背中の傷はひどく――というよりも異常なようで、医者曰く『この間の事件で火傷を負ったと聞いたが、搬送された時にはすでに浅黒くなっていた』とのこと。しかし火傷痕には変わりないため、医者からレーザー治療を勧められたが『この傷は自分の罪の証。今回のことを忘れないために、可能な限り残しておくべきだ』と考えた李空は丁重に断る。とはいえ何もしないわけにはいかないため、薬の服用のみを行うことになった。しかし、火傷痕は現在も色濃く残っている。
退院後に行われた警察からの事情聴取に、李空たちは全員『我神教団が何かした』というふうに答えている。正直に魔王云々を話しても信じてくれるとは思えないし、仮にもし信じられたら李空は大量殺戮を引き起こした大犯罪者となってしまうため、公晴が『あの時のことは絶対に誰にも言うな』と家族全員に口止めを行ったのだ。
そして、事情聴取から数日後。李空が引き起こした(表向きは我神教団が引き起こしたことになっている)事件は万全な状態で消火活動を行(おこな)ったにもかかわらず全く消える様子がなかった謎の赤黒い炎と、それが一切の前触れもなく突如消え去ったことから“我神・血炎事件”としてニュース番組で報道されたのだった。
我神・血炎事件において、ショッピングモール構内にいた人間で李空たち以外の生存者はおらず、李空と我神教団が3:7の割合で皆殺しにしました。一応言っておくと、李空が3(内訳の大半は我神教団だが、少なくとも50人以上は無関係な人間も殺してしまっている)で我神教団が7です。そして死体の全てと建物の半分以上は赤黒い炎によって消滅しています。
当時は普通の小学生だったはずの李空の精神構造がイカれてしまってるとは思いますが、初めての死の恐怖で頭のネジが外れてしまったと思っていただければ助かります。
李空は今回の事件を経て、家族(のちに“身内”と言うようになる)への情が急激に深くなりました。
それにより現時点で李空の中での優先順位は――
1・2・3・4位・・・李空(自分)or天音or由月or公晴(状況によって順位が変わる)
5位・・・風実花
以下、その他
――というふうになっています。なのでRC李空は原作李空と比べると、表面上に現れる機会は少ないですが“身内”以外の“他人”には少しだけドライな一面を持っています。
そして李空は今回の事件で怒りに身を任せて行動した結果、暴走を引き起こしてしまったことを激しく後悔しました。そのため怒りのコントロールを猛特訓し『怒りで冷静さを失わない、むしろ磨きがかかる』ようになりました。これが天音との対戦ゲームで煽られてからプレイの質が上がる理由、2つの内の1つです。もう1つは、天音とちゃんと遊べるように密かにゲームスキルを磨いていた――けど、普段は無意識に接待プレイをしていたから。それに気づいた天音の煽りにキレることで、李空は本来の実力を発揮します。
※李空が前世返りしたのに天音が前世返りしなかった理由は、李空の血――ひいては魔王のマナを天音は取り込んでいないから。原作の描写から、天音の最初の前世返りは『魔王の気配にあてられて李空に吸血したから起きた』と解釈しました。事件前後で天音は吸血してませんし、事件後は魔王の気配がなぜか綺麗さっぱり消えるので、天音は現在まで前世返りしなかったのです。


かなり長くなってしまった後書きですが最後にもう1つ、とある人物について重要なお話を。
気づいてた人もいるかもしれませんが、RC天音は原作天音と比べると煽り成分控えめになっています。原作では『好きだという気持ちを伝えられず、せめて兄に構ってもらいたくて反抗的な態度をとっていた』的な話がありましたが、RC李空は原作李空と違って今回の“我神・血炎事件”を経て身内大好き人間(本人は上手く隠してるつもり)になって以降、天音のことをよく気にかけるようになった+とある理由(概要はいずれ)によってRC天音は原作天音と比べるとあまり煽りません。
天音のアイデンティティが消失してるとは思いますが、作者にメスガキを書く技量がなかったという理由もありまして……原作のようなメスガキ天音を期待していた方、本当にすみません。
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