「…………」
ゆらゆら、ゆらゆら。視界が揺れる。足も、手も、揺れている。
街道を外れ、うっそうとした茂みを進み、見知らぬ洞窟を潜り抜け。
真っ暗な闇の中で、魔物の軽やかな歩調だけが響く。
「……っ」
不意に体が宙を舞い、地面と膝当てが音を奏でた。
背後の、私を咥えてきた魔物の気配が遠ざかる。
洞窟を抜けた先で、視界の左右は崖に挟まれ、頭上は薄暗い曇天が塞がれている。
ふと、足元の灰色の岩肌に、亀裂が走る。
「────………………」
真っ赤な、柔らかそうな臓物が、地中から、壁から、芽生える。
何本も。這いまわり、根を張って、灰色を赤で埋め尽くす。
──────迷うことなく、私はそれらに向かって歩き出した────。
***
────。
顎を限界まで開いて、目の前の触手を二本纏めて呑み込む。自分の意思で。それぞれ小指ほどの細さしかないが、喉奥を擦る感触についえづく────。
──────。
視界は鮮やかな赤で埋め尽くされていた。糸のような触手の群れがのたうち回り、べりべりべり、と────。
──────────。
「ぶぁっあ゛あ゛あ゛あ゛っ!? い゛やっぎいあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
────────────。
────。
………………………………。
***
ぱち、と。無意識の切り替わり。
──ネコ型の魔物が跳びかかってくる。
振りかぶられた前脚を、腰から引き抜いた直剣で弾、こうとして。
手が、空を切る。……武器が、ない──?
「──ぐぅっ!?!???」
「ぎ、ぎ、──」
焦り、体を捻ってなんとか直撃は避ける。
魔物の膂力でそのまま殴り飛ばされ、受け身も取れずに背中を打って悶絶する。痛みに、顔を顰める。
──魔物に打ち据えられた右腕が、赤く腫れ上がっている。
何が起きたのか、わからない。さっきまで直剣を握っていたはずなのに。
それに、今の打撃も、私がダメージを受けるような威力には見えなかった。
まさか、どうして。──私の魔法が、解除されている。防御系、探知系、回復系、何もかも。
ふと、気づく。
────周囲の光景が
「──どこ、ここ」
見覚えのない地形だ。視界の開けた草地の街道ではない。テレトイ市の近くにこんな地形があっただろうか。
いつ、どうやって移動したんだろう? 思い出せない。
……どうして?
私の戦闘着は、長袖のジャケットに厚手のズボン、急所と関節を守る軽鎧を組み合わせたものだ。
────
無意識に、目の前の魔物から目を逸らし、肩越しに振り返る。
私の背後に、見たものは。
赤。赤。蠢き、艶やかに鈍光を反射する、肉塊の草木。
バラバラに引きちぎられ、粘液のしみ込んだ
留め具やベルトが引きちぎられた鎧が、粘液で光る直剣が、厚底の靴が、太い触腕にもてあそばれている。
──私が
「は?? ──────え?」
身を起こし、体を見下ろす。
土交じりの
──────頭の先からつま先まで、生まれたままのを晒している。
……?? …………──????
「え? 、??????」
「──ぎししっ」
「! しまっ……」
反応が遅れる。再び跳びかかって来た魔物に組み伏される。
それぞれの脚の先には爪が生えていて、三本の脚で地面を掴み、残り三本の爪先が私の身体を掴む。ずしりと体重をかけられ、右肩、左腕、腹に爪が食い込む。鋭い痛みが突き破られた皮膚に走る。
「がっ……!?」
「ぎ、ぎ、ぎ」
「はな……れろ……っ。ぐ、なんで……!?」
力を込めても魔物の体を押しのけられず、立ちあがろれない。
怖い。
何が起こっているのか、わからない。
魔物に、殺されてしまうかもと思うと、怖くてたまらない。
あの日、孤児院を飛び出すよりずっと前──
弱い弱い子供の私は、いやだ。
「い、いや……やめて……──」
攻性魔物に命乞いは無意味。
彼らには生きる理由も、戦う理由もない。ただ、人を襲うだけの存在。
「ぎ、ぎぎ」
「あ゛! ぎゃぁっ──!」
ばき、と左腕が圧し折られる。絶叫がこだまする。
────痛いいたい──こわい、いやだ。
久しぶりに味わう負傷の苦痛と、死への恐怖で頭が真っ白になる。
怯えた子供みたいに歯を鳴らす。心臓が破裂しそうなくらい暴れ、鼻につんとした痛みが走る。
私を見下ろす白い顔が、大きく口を開く。
「い、や……」
白い口元の奥から、悍ましい赫色が広がる。
魔物の喉が
「あ…………」
魔物が、私を見ている。
ああ、二つの
「ぎぎぎぃ──っっ、いいいい、────ぎじゅっ」
「────」
魔物の皮膚が破裂する。
全身から噴き出した触手の束が靡けば、まるで血肉の毛皮のようだ。
六脚の骨格に、赤い触手が巻きついていく。肉塊が外側からネコ型魔物の骨格を圧搾し、めきめきと、形を変えていく。
私に覆い被さっているのは、今や不定形の胴体を持つ、六本腕の触手の塊だ。瞳も体の内側に引っ込み、どこから視界を得ているのかも分からない。
触手の隙間から、断続的に赤黒い体液が滴る。その音は、まるで死にかけの動物の呼吸のよう。
「じゅる、じゅる…………」
「な、に。こいつ……」
木の幹のように太くなった腕の一本が、私の右脚をがしりと掴む。
さらに腕の先から枝分かれした細い触手が、何本も絡みついてくる。
「! やめ────」
元々の関節構造を無視するように。魔物が、私を振り上げる。
反応が、間に合わない。
「じゅ、じゅるる、じゅうっ!」
「あ────」
そのまま、岩肌がむき出しの地面に再度、叩きつけられる。
「がっ、はっ」
ばし、と体の何処かで、何かが裂けたような感触がする。筋だろうか。骨だろうか。
かろうじて背面に魔力防御を集中させられたけど、明らかに普段より出力が弱い。痛みと衝撃で、意識を手放しかける。
ぱらぱらと降り注ぐ石飛礫が私の体を打つ。横向きの体に力が入らない。
激しい衝撃で揺れる視界。激突音で耳が壊れてしまったのか、低い耳鳴りが止まない。
左腕の骨折を忘れるほど、全身が痛い。
……不可思議な不調。意味不明な武装解除。
それらを差し引いても、速い。内側の触手を露出してからのこいつは、あまりにも強い。
大魔物、などというレベルではない。
これは、別の魔物の内側に潜んでいたコイツは────金級複数人がかりで戦うべき、難敵だ。
「じゅる、じゅ……じゅりる…………」
「が……あが…………」
せめて、この不調、不可思議が無ければ。
「くっ……【切断波】!」
なんとか体内から魔力を練りあげ、意識を集中させる。寝転がった姿勢のまま右腕を翳し、私を振り下ろした体制のまま動かない魔物めがけて魔法を放つ。
直進する魔力の刃。瞬きの間に、魔物を断ち切ることに成功した────
──体に纏う、細い触手を、一本だけ。
ああ、どうしよう。やっぱり攻撃魔法も弱くなっている。
……打てる手が…………ない。
感情を持たぬはずの魔物が、怒ったような唸り声をあげ、胴体から一本の細長い触手をほどく。
「! じゅじゅ、じゅるるっ」
「ぎぃっ──……あああっ!!」
触手が右肩に絡みついた。先程の爪痕ごと締め上げられ、悲鳴を上げる。
そのまま、締め付けられ。
「ぐ……あああっ……」
締め付けられ。
「あぐぁ…………ぎぁ…………?」
ふと、右肩を締め付けていた触手が引き下がる。
ぼとりと、何かが落ちた。
──私の右肩から先。
腕の代わりに、血飛沫の華が咲いていた。
「ぁ────────ぎゃああああああああぅっ!?!?!??!!! 、う、うぁぁぁああっ!!」
ぶしゅ、ぶしゅと真っ赤な華が開くたび、私の体から急速に血が失われる。
あまりの痛みに、正気のまま保てない。止血魔法を唱える余裕が無い。
朦朧とする、意識。
「じゅっ!!」
「あ────」
ぼやける視界に、急速に接近する赤い影が映る。
激痛の中でも生存に足掻こうとして、体が地面に縫い止められていることに気づく。叩きつけられた時に左肩から岩肌にめり込んでいた。
右腕は失われ、脚も掴まれたまま。
手も足も出ない。真上からの脅威に、回避が、間に合わない。
「ぁ」
胸から衝撃が突き抜け、視界が上に吹っ飛ぶ。
──────────意識が混濁する。というか、一瞬、気絶していた。
ぼんやりと目を覚ます。
「────」
何もできない。
体が動かない。
何も感じない。
叩き潰された肺では、呼吸が出来るわけがない。
心臓は不規則なリズムで揺れるのみだ。
右肩の断面から溢れる血も、勢いを失いつつある。
せっかく私を拘束していた岩は砕け散ったのに、私の手足はぴくりとも動かない。
二度にわたる衝撃で、全身の肌に裂傷が走っているようだ。
横たわる私の体から、大地に血が染みていく。
視界は歪み。白んでいく。
耳ではもう、何も聴き取れない。
遅れてきた痛みと、血と砂の匂いだけが私を満たす。
「────、────。……────…………────────」
急速に、死の感覚が迫っている。
ああ、くそ。いやだ────
しぬ。
し──。
(────? あ、れ?)
視覚も聴覚も、体の制御も失われたままで、いつまでたっても変化が無い。
恐れていた喪失は来ず、今度は摂理が私を置き去りにしたような、うすら寒い怖気が募っていく。
私は、まだ──死んで、ない。
とたん、全身に迸る激痛を意識してしまう。体中の傷が、瓦礫の形を痛覚で伝えてくる。
(ぐぅ────ぎ、ぃ────)
体がばらばらになりそうな痛みの中でも、身一つ動かせない。
果たしてこの苦痛、宙ぶらりんの精神だけで、耐えられるのか。
(いた、い……たすけて……いたい…………いたいよ……)
今度こそ、あらゆる感覚が遠ざかっていく。痛覚は痺れ、血の匂いと鉄の味も、よくわからなくなってきた。
救いも、絶望もなく。ただ苦悶の闇に精神が溶けていく。
────。
──────それでも、死なない。
意識が、私が、消えずに残っている。
──熱に、触れる。
私から失われつつあった、どくどくと脈打つ熱が、体の近くにある。
(あ──。あたた、かい…………?)
いっそ焼き尽くされそうなほど、激しく燃えるかがり火のような。その正体を、確かめたくなった。
とっくに見えなくなった目で、外の景色を────。
視界に通る、のは────
(──わた、し────?)
──女性がいる。胴体はひしゃげ、破れた皮膚から折れた骨が突き出している。右腕を失い、左腕はあらぬ方向に曲がっている。一糸まとわぬ肢体は全身血まみれ。長く伸ばした銀髪は血だまりに沈んでいる。
よく見れば、視界の
動かない身体に、次々と触手が纏わりつく。
そうすると、私に纏わりつく熱が膨張していく────。ああ、なんとなく、理解できてしまった。
…………私、自分を襲っている魔物の、視界を借りているんだ。
私の身体が、徐々に肉の根で埋め尽くされていく。何本もの触腕が、私の身体に突き刺さる。
傷口を抉るように、ナイフのような肉爪が私を切り開き、筋肉が一束ずつ引き抜かれていく。
そして、潜り込んだミミズのような肉の蟲が皮膚の下で泳ぎ、隙間を埋めていく。
無慈悲に。あるいは残酷に、嗜虐的に、悪趣味な部品交換を見せつけられる。
(あ──。や、やめて────!!)
胸元から腹部まで、肉ごとバッサリ切り開かれる。胴体に走った亀裂に、ノミのような硬質の肉帯がねじ込まれる。締め切られた扉をこじ開けるように、胴体が割り開かれる。筋肉が引き割かれ、繊維が千切れるはずみで血しぶきが散る。
(やだ…………やだ、やだっ、やだぁ!!! やめて、やめて、やめて!!!)
どれだけ願っても、もがくことはできない。倒れ伏す私の身体が解体されていく。
(────
壊される。上書きされる。
……とらないで。──私の心だけじゃなく、からだまで。
砕け散っていた胸骨は、大口を開けた肉塊にかみ砕かれる。むき出しの内臓は、ほとんどが打撃の衝撃で潰れていた。
もてあそぶように、私のぐちゃぐちゃの中身が引き抜かれていく。ぺしゃんこになった肺、鼓動を止めた心臓、血まみれの腸。悉く引きちぎられ、触手が蝕み、取り込まれていく。
────そして、いくつかの無傷の臓器が、私の身体に残る。
(──────あ、あ……。──)
安堵、ではない。
──
一つは、内側から発光し、虹色に照らされる胃袋。
ズタボロの気管の側に、食道で繋がったままのソレが、がらんどうの胴体に転がっている。その下側、引きちぎられた腸の断面から、毛のような触手がにょろにょろとした先端を晒している。
もう一つ、下腹部の生殖器、虹色に輝く臓器の群れの中心で、子宮が時折強烈な銀光を放つ。まるで、鼓動している新たな心臓のようだ。
(おねがい…………ころして……! こんな、からだで、わたしは。なんでまだ────)
群れ成す触手の隙間から、どろどろとした生肉のペーストが顔に、胸に、全身に降り注ぐ。胴体の空隙と、欠損した右腕を埋めるように、カビのような肉膜が私の身体に根を張っていく。折れ曲がった左腕がぼきぼきとひしゃげ、膨張し、かと思えば、まっすぐに作り直される。
魔物の血肉が、新しい骨肉として成り代わっていく。
──あっという間に。傷一つ、汚れ一つない私の身体が、造り上げられた。
つるりとした頬、なだらかなお腹、細長い肢体。
(────────)
ぞっと、する。
言いようもない不安感、形容しがたい不快なざわめき。
魔物。それはこの世の異物、人類の敵、資源。
──これは、本当に私の知る魔物なのか?
もはや苦痛は焼き尽くされ、代わりに灼熱が精神に纏わりつく。
魔物の組織で蝕まれた神経が、徐々に感覚を取り戻し──『感覚』を、『獲得』した。
背中に硬い感触がある。心拍の脈動を、血と肉の腐れた香りも、感じる。
手足はまだ動かない。……だとして、抵抗できるかわからないけど。
触手が顔に伸び、私の瞼をこじ開ける。両目から血の混じった涙がこぼれ、瞼の内側で充血した眼があらぬ方向を向いていた。
(傷一つない体なのに、まるで私の眼だけ死人みたい…………)
汁気を漂わせた二つの眼球が、一本ずつ触手に掴まれる。引き抜かれた目玉は生卵のように形の崩れ、ぼたぼたと体液が滴る。
──強烈な、目元の痛みと不快感が私を襲う!
(が、あ────!)
視界はここにあるのに、感覚だけはあっちにある。崩れた眼球は、そのまま触手の中に取り込まれていった。
痛む両目をどうにかしたかったけど、口も、指先も、私の目の前で微動だにしないままだった。でも、さっきまでの全身を砕かれた痛みに比べれば、いくらかマシだ。
次に、触手が狙ったのは──。
(……まっ……て。おねがい、おねがいだから、最後にそれだけは──)
──私の銀髪に、少し太い肉の糸が、絡みついていく。
────何本も。何本も。血を吸った毛先から生え際まで、毛髪に深紅が混じっていく。
(それは、私の……いちばん、
ちくちくと、ナニかが頭皮に突き刺さるような不快感が増していく。
肉で模された気色の悪い編み込みが、ぞわり、とざわめき。
銀髪が肉のシミに沿って、意志を持つ蛇のようにくねる。
(あ────)
……肉の赤が、銀色に溶け込むように消える。
──私の髪が触れる、地面の硬さと血のぬめりを、感じる。
(こ、んな。い、や、いやぁ……………………)
金級冒険者に上がる前から、化け物とか怪物とか、罵倒半分に言われたことはあった。でも、これは。
急速に、実感が迫る。非生物。────魔物。
急に、視界が顔に近づく。
──私のことを、目の無いうろで見つめる、
私が
ぱ、と瞼を──閉じた。
──徐々に、体の感覚が、元通りに近づいている。
おそるおそる、目を開く。視野は正常。周囲はさっきまでの岩肌と曇り空が見える。魔物は触手を伸ばすこともなく、じっとしていた。
手で顔に触れても、もう触手や粘液は残っていなかった。さらりとした皮膚が私の指先を弾く。
私の五感は、肉体は、
でも、これは何もかもが
(気持ち、悪い)
髪に触る。銀色のツヤも、私の指先で流れ落ちる長さも、手触りの軟らかさもよく見知ったものなのに。
ざわ、と髪の毛が持ち上がる。私の意思で、魔法も何も使わず、うごかせる。
それから体を確かめる。指先から、徐々に力の入れ方を理解していく。
ぐ、と上体を起こす。頭がぐらぐらと揺れ、どこを見ているのか分からなくなった。
「は……あー……ぁ……。は──……」
意識して、呼吸する。足先から一つ一つの関節を確かめていく。
……六本腕の触手は、何もしない。背後の魔物も、まだそこにいる気がする。
……今の私は、なんなんだろう。
目の前の敵と戦う意味も、逃げ出す道理も、そのための手段もある筈なのに、抗う意思が湧かない。
でも、自分の意思で、立ち上がる。立って、何ができるんだろう。
やりたいこと。したいこと、なんだっけ。
立って、前方の赤を見つめる。
「──じゅるるるるっ…………」
「わ、ぁ……」
魔物が纏う触手がほどける。触腕に、胴体に、その全面に渡って、幾重にも裂け目が現れる。
──────肉塊の奥から現れるのは……無数の、虹色の瞳。
……ああ、そうだった。
よろよろと歩みを進めるたび、素足に地面の硬さが広がる。虹色の輝きは四方から私を包む。
まだ呂律の回らない舌で、言葉を紡ぐ。
「わ、らし……。いや、らひいこ、と……したいな……」
私のおねだりを聞き届けてくれた魔物が、全身を蠢動させる。赤い粘膜が興奮に震え、振りかけられた粘液のしぶきを全身に浴びる。
……数十はあろうかという虹色の瞳は、すべて赤い肉の奥に引っ込んでいた。
「じゅっ、じるるっ」
「ひ、ぎゅっ」
腰に、手足に、首に、太い触手が巻きつく。回りながら持ち上げられ、四つん這いの姿勢で地面に降ろされる。
両手両足の指先で地面に触れ、肘と膝は緩く曲げ、背骨は沿ってお尻を大きく魔物に突き出す。絡みついた触手が、まだうまく動かない四肢を支えてくれる。
(あ……あったかい…………)
今度は背骨の中心から熱を広げ、肉塊が私に覆い被さってきた。際限なく注がれる触手が、背中から溢れて側面を伝う。
「あ、ああ……♡」
臀部を、性器を、腰に胸に肩、首筋を、触手が這い回る。
グチャグチャと音を掻き立てて全身を愛撫される。腰をくねらせて、媚びる。
「はぁっ、もっと♡、はぁ♡もっ、と♡」
背後で、何かが盛り上がる気配を感じる。……見えないけど、これは。
「ふうっ♡ふぅ♡お、おちんぽ♡わたしの、おまんこにくらさいっ♡♡」
この一週間、大好きなクランメンバーに教えてもらった淫語で、バケモノに愛を乞う。
何か巨大な先端が、私の膣口にあてがわれる。どくどくと脈打つそれにアソコを揉まれ、性感がどんどん高まってくる。
「ふぅっ♡ふぅっ♡いれてっ♡おねがいっ、いれ、入れてください♡♡」
なのに、いつまで経っても、入り口をねちっこく捏ねられるだけ。挿入してくれない、早くはやく絶頂したいのに。
腰をがっしり掴まれてるから、自分の脚で動くこともできない。
イきたい。じれったい、イきたい。
──ふと、髪を引っ張って真正面を向かされる。
頭上から腕ほどの長さの触手が伸びてきて、私の顔に先端を向けた。
「ふーっ♡、んぅ……?」
ぐぽ、と先端が上下に開く。ねばっこく糸を引き、湯気を立てる内側は、まるで歯と喉を省略した人間の口のようだ。下側から生えた舌がぴるぴると先端を躍らせている。
孔のない口内には黄ばんだ汁気が溜まっていて、強烈な匂いを漂わせている。
(くっ、くっさ……♡)
思わず顔を顰める。触手が私の口元に近づいてきたからだ。今度は触手がおねだりするように、私の顔の前で揺れる。
膣口の触手は、先端で脈打ちじっとしたままだ。
「う……う。……ど、どうぞ」
「じゅぅっ、るるっ」
「うぷっ!」
意図を汲み、意を決して口を開ける。
じゅるりと音を立てながら、唇で迎えた。酸っぱい匂いが鼻に突き抜け、涙が溢れる。
(ま、まず…….吐きそう)
「……」
「れろっ。んむ……ぢゅ……」
意外なほどにおとなしい動きで、舌を取られ、ねぶられる。魔物の唇が忙しなく私の顔を這い回り、鼻を抑えられる。
「んん!? んん、んふっ、んっ♡、ふごっ♡ふーっ♡♡」
熱い。魔物の口内は想像通りの熱気を漂わせ、呼吸に合わせて私の喉を苛む。
そのまま触手は魔物の唾液(もしかしたら胃液?)を口内に、時に顔に塗りたくり、時に奥へ注ぎ込む。苦痛もお構いなしに、舌が私を味わい尽くす。
堪えきれず、口内の苦汁を飲みこむ。
「ぶっ……! うっ、オェッ♡ ふっ、ひっ、ぐぶ♡」
「……じゅる、ちゅぽっ」
「ぷはっ♡。はぁーっ、はぁ──っ♡、♡!」
音を立てて舌を引き抜かれる。空気を求めて深呼吸し、喉にこびりついた粘液が冷やされてひりひりと刺激を与える。
しばらく息を整えようとして、体の様子がおかしいことに気づいた。手足の震えが止まらない。体が暑いのか寒いのか判別がつかない。
正面に固定されたままの視界は脈打ち、体中の汗が止まらない。
「ほへ──っっ、ひーっ、ひー♡、ぃい〜〜──♡♡」
何もされてないのに、イく。ぶしゅ、と派手に潮を噴く音がした。
喉が、気持ちいい。崖沿いに吹く風がまるで針のように肌を突き刺す。全身にまとわりつく肉塊の熱で、芯まで融けそうだ。
ぼたたっ、と分泌液が地面に落ちた。潮を間近で浴びた触手は、それを合図にようやく、わたしのおまんこに突き進む。
めり、と私の膣口が押し広げられる。
「いギっ♡まっでェ♡いまむり゛♡おちんぽおっぎすぎ、おっきしゅっっッッ♡♡♡!?!? ────♡、♡??」
めりめりぶちぶち────。
波打つ肉棒が一気に膣を擦り上げる快楽で、絶頂。
処女を引き裂き、肉を割る痛みですら、快楽として味わい、絶頂。
伸び切った子宮に収まりきらない触手おちんぽが、私の内臓を押し上げる圧迫感で、絶頂。
(イく。イく。イクイクいぐッ────────♡♡♡」
「オ………………──♡ほぁ──♡……──…………♡」
「じゅるっ、じゅるる」
「────…………♡♡」
ばき、と無意識に握りつぶした地面が、手の中で砕け散る。
三度、四度の絶頂を重ねても、肉塊に四肢を固められた私は微動だに出来ない。
竿全体がどくどくと脈動して、それをぎちぎちに納めた私の性器も脈動する。肉の波が押し寄せるたび、淫気が沸き上がる。
有り余る興奮を、歯を食いしばり、手足の指を掻き曲げ、腹筋を締め付けて耐える。
「ほぉっ♡!? 、おっ♡、ぬっ、ぬひっ♡」
絶頂のままに締め付ける膣から、肉棒をゆっくり引き抜かれる。私の抵抗も、苦悶も無視して、ずるずると膣壁が引っ張り出される。
……ゆっくり、時間をかけて、再び触手の先端が入口付近で轟く。カタチを敏感なところでじっくり味わってわかったけど、微かな凹凸を有するトウモロコシ状の触手が、再び私の膣を抉りだす。
「う、あがっ♡、すっぅぅうあぁ……♡♡」
ゆっくりと、丹念に入口から腹肉をつぶされていく。奥にたどり着くまでに、何十回、何百回と繰り返される肉棒の脈動で、再び絶頂へと追い詰められながら。
視界が揺れる。全身の筋肉は悲鳴を上げ、快楽に打ち震える。
乳房に触手が絡みつく。ねっとりとした粘液越しにまさぐられ、興奮を覚える。
──とん、と先端が再び膣奥を突く。今度は、さっきより、少し深い。
「かはっ、おッ♡んっ♡、はぁっ……あぁ……♡」
行きつく間もなく、ゆっくり、また引き抜かれる。
──触手の尖った先端が、膣の奥と入り口を、交互に擽る。
時間をかけて。丹念に。
「うっ♡、ふっ、ひくっ、────ぃ────♡」
執拗に。何度も、繰り返し。
「お……おおおオオッ♡♡!!? イグ、いぎぃ!? ♡♡♡────……があぁッ!!!?」
──私が、壊れるまで。
「────ぁ……♡。あ、ああっ? 、──♡♡…………ぁう…………♡♡」
地獄の責めは、しばらく続いた。