「じゅる、じゅるう……」
「うあぁ゛っ♡? ────♡♡? かへぁッ♡」
……何時間も経過した気もするし、ほんの数分の出来事だった気もする。
数えきれないほど絶頂し、とっくに体の感覚はない。私の精神は、ただ快楽の二文字で染め上がる。
乳首を、指の間を、脇、背筋、おへそ、耳たぶや肩肘、全身の皮膚を愛撫する触手の群れが、私のカタチを快感で教えてくれる。
「────っ♡♡、ぎぃ゛♡」
もう、性器が痙攣しっぱなしだ。熱が、私の官能を燃やし尽くした。
そしてついに、肉棒による焦らしが終わる。
「あっ♡、あ、あっああ♡、うぁっぁあ……♡──────」
下半身への拘束が緩む。
──触手の動きが変わる。
────極悪な太さの触手の抽挿が加速する。
「あっ、ああ゛♡、あぁ……♡、あ゛っ♡、あっ♡♡あ♡ぁ♡────」
触手の先端が勢いよく私の胎を突く。ごりごりと膣肉を引き延ばされ、泡のように性感が次々弾ける。
少し自由になった足腰で、触手の動きに合わせて腰を揺らす。ぐにぐにと折り曲がる触手が、私の膣内で暴れだす。
「い、ぐ♡────あっ♡、止まら♡、なぁ♡、おっ♡~~~゛~゛──ッ♡」
私の絶頂に合わせて、触手が前後しながら激しく脈打つ。
追加の刺激に、またすぐイきそうになる。
今度は触手の動きに逆らうように、腰を打ち付ける。
ばちゅばちゅばちゅ! と音を立て、一気に頂点へと上り詰めた。
「──っ♡、ほァ゛っ♡♡、んぅぉおぁぁぁ゛~~♡♡♡!!」
「じゅる、じゅる、じゅるるっ」
快感が、爆発する。膣奥にぶちまけられた、液体とも、固体ともいえない、強い流動性と抵抗感のあるナニかが秘所を蹂躙する。
視界がチカチカと明滅する。断続的な絶頂と、凄まじい速度で血流を送りだす心臓の爆音で、重力の方向すらわからなくなる。
そういえば、さっきから息を吸っていない気がする。
肺に力を込めようにも、喉がひきつって空気を取り込めない。
「~~────♡♡……っぅ♡、ッ♡────……ぁ……♡♡」
く、苦しい。さっきまで快楽漬けだった精神が、また苦悶で覆われていく。
……でも、この苦痛は快楽の延長って感じがして、ちょっと好きかもしれない。
腰を左右に揺さぶり、触手のくねりを味わう。触手から放たれ、子宮の中に侵入しようとする、ナニかの蠢動を感じる。
(おなかの、なか。あったかくて、きもちいい……)
あ、でもだめだこれ。いしきが、とおのいて────♡…………。
初めて魔物と戦った日のことを。──唯一、魔物に命を奪われかけた日の記憶が、よぎる。
あの日、孤児院から飛びだして。どことも目的を定めず、その辺の草水を食べながらさまよって。
そして、魔物に出会った。
腕に噛みつかれる。腹を蹴り飛ばされる。爪が、尻尾が、魔物の全身は、十一の少女を傷つけるに余る武器だった。
すぐに、私の身体はぼろ雑巾と区別のつかない有様になった。
それでも、前に進んだ。
前に進むために、石を握り、土を踏みしめ、目玉を殴りつける。敵に必死に食らいつき、動きを予想して、回避する。
あきらめなかった。
自分でもなぜそうしているのか、分からなくなるほどに。
私は、一晩中抗い続け、そしてついには──────。
そうだ。
そういえば、そうだった。
しばらく、というかその一回しか、命の危機を経験してなかったから、忘れてた。
「ふっ♡、ぎ、ぎぃいぃ~゛~゛ッッ♡♡!!」
無理やり精神を浮上させ、絡みつく淫蕩の渦を掻き分け、鉛の様な体に力を籠める。
私の肉体は、大部分が魔物の身体になってしまった。それに思うことはあるけど、今は利用する。
──やっぱり、息を吸わなくても、息が続く。
震える足先に力を籠める。私に覆いかぶさった魔物の触手が突き刺さったままだし、脈動が胎を圧迫し続けているから碌に力なんて入らない。それに、わたしよりずっと重そうな魔物にのしかかられているのだから、身動きなんてとれるわけがない。
──関係ない。砂利を足裏で擦り、右脚を一歩前へ。
「ま゛、えっ、い゛ぃ♡!! す、すす、む♡!!」
進む、という意思の元、全身を駆動させる。
──ずず、と、私に乗った魔物ごと引きずり、体を微かに前に進めることができた。
魔力や魔法に頼らずとも、自分の意思で、変生したこの肉体を操る。
「ふっ♡!? 、が、がぁ゛ぇっ♡♡!!」
当然、むちゃくちゃな態勢で、またぐらに太い触手を挟んだまま歩けば、バランスを崩すし、触手の当たり方も変わってしまう。
子宮をぐちゃぐちゃに圧され、また絶頂する。
「ごはっ、はぁ、がぁ♡」
息を保てない。体の内側の魔力をうまく掌握できず、魔法を使うことができない。
だったら、やっぱり。
「はぁっ、はぁあ♡、ああ♡」
一歩のたびに快感で狂う体で、重たい魔物を引きずりながら、前へ、前へ。
幸いというべきか、私の背に乗る魔物はおとなしいままだ。上半身に絡みつき、膣奥で触手をグリグリとねじ込むばかりで、私の歩みを咎めてこない。
まあ、抵抗とすら思われてないのかもしれないけど。
「ぎひぃ♡、う、ああ、がぁあぁ……ッ♡♡!!」
そして、発狂しながら、ついにたどり着く。
──私の思考は、
構う、ものか────!
踏みしめる。赤い肉塊の、群れの中を。
この崖底に来て、最初に私を凌辱した触手たちだ。再び私が近くに来たことに気づくと、その手でもてあそんでいた残骸を放り出して、私の身体にとりつき始める。
絡みつく触手の隙間をくぐり、硬い先端の肉腫が乳首をなぶる。毛髪を引かれ、後ろに逸らされた顔の穴という穴に、こそばゆい肉糸が滑り込む。抱き固められた腕に這い寄られ、握りしめた指先を優しく解き、絡みつく。
「ううっ♡、ふっぐ、ぃ、ひぃ♡」
掻痒感が、上半身にいきわたる。快楽と苦痛の天秤が傾き、脚が震えて転びそうになる。
(い、いま倒れたら……ぜったい起き上がれない……♡ イき、死ぬ…………♡!!)
足元では、岩の裂け目から顔を出した、大量の短い触手がたむろしている。もし、私というエサ袋が近づけば、きっと彼らは私にとりつくだろう。
そうしたら最後、多分私は立ち上がる力を失う。そんな予感がして、絶対に倒れるわけにはいかないと意気込む。
──目を凝らし、
一か八かの賭けではあったけど、どうやらこいつらは、私の性的興奮を煽ることにしか興味が無いらしい。ここまで露骨に近づいても、彼らは私の歩みを止めるための直接的な行動を取らなかった。
あるいは、一度私の身体を治した後だと、直接的な行動に出れない理由があるのかも。不確かだけど、彼らの目的はたぶん私の身体だ。ここまで熱心に、情熱的に、偏執的に求めているのは、──恐らく、
今の私には、多分洗脳されていた間忘れていた、いろいろな記憶がすべて蘇っている……と、思う。都合よく洗脳されていたらその限りではないけど、もしそうなら全てがご破算なので、その可能性は一旦無視する。
そして、私の身体は魔物の血肉で治されたけど……さすがに、
あのまま、バラバラの肉体で私を使っておけばよかったものを。そのおかげで、付け入る隙がある。
「ふ!? ぐぅ、ああ、が、ああああ♡♡!!?? ッ♡♡、ぎひ、♡♡ッ!!」
まあ、どちらが劣勢なのかといえば、どう考えても私なんだけど。
激しさを増す愛撫の嵐のなか、歩みを進めるたびに全身が痙攣し、股からは潮なのかどうかもよくわからない液体をまき散らす。
快楽ががくがくと膝を揺らし、立ち込める淫臭が脳髄を焼く。
「ぎ、いぐ♡、こわ、れる、けどぉ……♡♡」
息を切らし、何度も気絶しそうになりながら、時間をかけて両腕を広げて上半身の拘束を振りほどく。魔法が使えない以上、上半身を掴む触手は自分の腕で抜け出すしかなかった。
脚で地を蹴りだし、触手を咥えた膣を軸にするように、上体を回転させる。
……当然そんなことをすれば、私の性器がいろんな意味でぶっ壊れるけど。
「ほぉ゛ッ♡!!?」
それでも、やる。私の後頭部を掴んでいた毛髪を
触手が背骨をえぐり取るような角度で私の膣を圧迫し、圧迫された内臓が喉を通して悲鳴を上げる。
「ぎッ♡? があ、がッ♡!?!? ──てに、とったァ!!!」
寸断された意識の中。地面に散乱する衣服と鎧の残骸の中から、瞬時に探し当てる。
指を掠めたソレを、掴んだ。
いくら闘争を共にしても、触手に嬲られてなお、それには傷一つ、歪み一つない。
──私の、愛剣を。
使い慣れた直剣を右手で強く握り、股下の魔物を斬りつける。
ぶにゃり、と弾かれる。まるで木の棒で大木を叩いたような手ごたえだ。
(くそ……いつまで、加減をしているんだ、私は! もう、
自分の奥底に意識を集中させる。
肉体の変生に伴いさび付いた、魂から湧き上がる魔力を、再び手繰り寄せる。
魔物によってもたらされた、この肉体を、我が物として振る舞う。
めきめきと音を立て、私の上腕から先が赤黒く変色していく。作り直された私の右腕が、再び触手が絡みあった、艶めかしい肉塊へと変じていく。
魔力を浸透させ、異形の膂力を制御する。握りしめた柄から肉の糸が伸び、刀身を覆うように薄い膜が拡がっていくのを、まさにその肉膜で感じ取る。
剣を構えなおす。いける。
膝を曲げ、体をひねり、宙返りのようにして。
地面に生い茂る魔物に向けて剣を振りぬく。私の知る全力より数段勢いのついた斬撃は、
「じゅ、ぎじゅるる……」
「ごぉ……♡、ほ、ぉぁ…………♡♡」
そして無理な態勢で上体を大きく回したツケで、激しく絶頂する。直接的な攻撃を受けた足元の触手どもは半数ほどが固まっていたからまとめてを切り伏せたけど、残り半数は私を警戒するようにこちらに首をもたげている。
さらに、私に馬乗りになった魔物も警戒を露にした。うなりながら肉塊の胴体を立ちあげ────
「じゅりゅる、じゅるるっ!!」
「んぎぃッ♡♡!! お、おかしゅのぉ♡!?!? ふぐっ、かはっ────」
なんと私に攻撃するでもなく、私の身体を掴み、そのまま触手を上下に往復させてきた。両脚がぶらぶらと揺れ、性感のたびにぴんと伸びる。
ちょっと予想外。普通の物理攻撃に備えていたところに、追い討ちの性感で脳を焼けそう。
こうなると、やはりこの魔物は私に直接攻撃が出来なくなっているのは確実だろう。一種一個体の魔物は、同種を攻撃するようには出来ていないのかもしれない。
「じゅるる、じゅるる」
「いぎぃ♡、あぁ゛ぁ♡、うぁ♡、ああっ♡♡」
「じゅうぅ……っ」
「っぁ、♡♡♡、なか、またなかにでたぁっ♡、まぁっ♡、おぐぅっ♡」
ぐじゅぐじゅと膣からしぶきが散り、人外の吐精をこの身で受け止める。容積を超えたお腹がボコボコと膨らんでいく。
脱力した全身を取り囲むように触手が這いまわり、改造によってか性感帯と化した皮膚を激しくもみくちゃにされる。
上下に素早く、筋に沿うように、時には脂肪を揉むような動きが、膣内射精による絶頂を長く引き伸ばしていく。
「い……♡、ッ♡……はぁっ……────♡」
今度は精神が快楽で弾け飛びそうだ。
思考がまとまらない。
(まず……♡、なに、も、かんがえられないくらい……イグっ♡♡)
絶頂から降りられない。
──半ば無意識、ゆらりと剣を掲げる。
……どうかしている、それこそ、洗脳された判断かもしれない。
しかし、今はこれしか活路を見いだせない。
嬌声の合間になんとかついた一息分の呼吸で。
──左手首を、切断する。
「ぎっ──────が、ああ──!!!」
迸る激痛。血が吹きだし、ぼとりと手のひらが地面に転がった。
瞼に溜まる脂汗と涙を無視し、局所的な痛みで全身に回る快楽を吹き飛ばす。
(──よし。血を、抜いて、冷静に、なる)
戦いの中であれば、ひとまず思考は戻る。
考える。勝ち筋を。それは、
問題は、そこまでの辿り着き方。
「ぐっ、ふっ、ふぅ♡」
いまだしつこく膣を擦る触手をなるべく意識から外しながら、次の手を思考する。
(……そういえば、さっき触手の群れを斬った時、不思議な感覚が────)
人体の構造を無視した肉塊と化した私の右手の先端、柄まで赤黒い肉に覆われた剣を見る。勢いのままに指先からのばした魔物の肉で真っ赤にしちゃったけど、威力が伸びただけでなく、
──この赤い肉にも、相手を取り込み、同化する能力がある。
……それなら。
ひとつ、ひらめいた。
──これで勝ち筋に繋がるかもしれない。
剣身を覆いつくすように肉を注ぎ込み、刃の周りにぐつぐつと泡立つ肉のヒレを形成していく。右腕がその分だけ痩せていくけど、構わない。
剣として振るうのではないのだから。
自分の身体というか、この魔物の肉の性質について、だんだん理解してきた。
どう操作したら同化できるのか。魔力の通し方。意のままに操る、神経のつなぎ方。
「ご♡、ぉぁ♡、う♡おぼえ、だっ、ぐっ♡──なめ、んな♡」
徐々に快楽が戻ってきた。というか、左手首の痛みが引いてきた。出血も止まっている。
無意識に魔物の肉を操作して治してしまったようだ。触手の上下運動が止まる気配もない。焦りと性感に背を押される。
剣を逆手に構え、まっすぐ背後の肉塊に突き刺す。
ずぶ、と抵抗を感じさせず、魔物の胴体を剣先が突き進む。
「じゅじゅっ!? るっ、じゅじゅる」
「いま、さら♡、まずいって、きづいたの……ッ♡?」
私の凌辱に集中したいたバカ魔物が、痛みに悶えるように触手の手足を震わせるけど、私に掠りもしていない。交尾は中断され、私の思考が正常さを取り戻していく。
前方の触手どもも、おろおろと頭を揺らすばかりで、私を攻撃してこない。
同族が突然歯向かってきたとでも思っているのだろうかな。──まあ、あながち、
(い、愛しさを──感じる。……
同族。まさにそうなりつつあると、理性が警鐘を鳴らす。
魔物の血肉を扱うようになって、精神が蝕まれつつあるのか。徐々に、虹色の瞳による洗脳とは別種、甘い狂気が這いよる予感がする。
(いそがっ♡、ないと……!)
上下運動は停止しても、膣の奥深くまで掘り進んだ触手から、甘い痺れが走る。
──せつなくて、くらくらする。
「じゅ!!? じゅじっ……」
「ぐ、はぁ、はっ、んく」
官能を断ち切るように、刃にまとわせた肉に意識を向ける。
……一度
つまり、あの時点で私は、この魔物と半ば同化しつつあったのだろう。
なら、今の私にはそれ以上のことができる。
剣を通じ、神経をつなぐ。内部構造を掌握していく。
私は、私を犯す魔物に、
ついに危機感を理解したのか、前後の魔物が慌ただしく、それぞれの触手で私の手や足に触手に絡めてくる。
──が、
伸長した魔物の剛腕が、前方の地面を薙ぎ払う。
──地中から生えていた触手が、根こそぎ刈り取られる。
突き刺さった剣を中心とする波紋が広がり、魔物の体表の触手がざわめく。
──既に、お前たちの肉体はすべて掌握している。
今度は、私が魔物の身体を奪った。
──……これでほとんど勝利同然かな。などと、気の緩みが良くなかったのか。
「んぎぃ♡!?!? う゛ぁ♡♡、ああ、ぐああッ♡」
腰が抜ける。私ではなく、
(内側の目玉たちは、獲れなかった。でも、それ以外のすべてが、感覚が、欲求が、本能が、快感が! わたしに、返ってくる────♡♡♡)
感じる。
触手を締め付ける、柔らかな
動かしたい。このまま触手で気持ちよくなりたい。都合よく触手が這いまわっているので、目の前の
「ふぐぅ♡、はぁ、ああ、いぃっ♡」
体中を這いまわる触手が、きもちいい。気持ちよくなったら、また自分で気持ちいいところを探して、愛撫する。饗宴と馳走が循環し、いつまでも気持ちよくなれる。
つい。うっかり。一回だけ。
──腰と
「────ぎぃッ♡♡、う、オ、あぁ…………♡♡……────」
息が止まる。どっちの身体が絶頂しているのか、わからない。
(触手おちんぽ、気持ちいい♡、いれるのも、おまんこにいれられるのも、快感がとまらない……♡。すき、すき、イグ、いくのとまんな、あ♡)
未知の、快感が触手を通り抜ける。ごぼごぼと音を立て、私の膣に三度ナニかの分泌液が送り込まれる。
興奮が治まらない。体が、勝手に、乱れる。
(──────♡♡もっと)
一回だけとか無理。
ぱんぱんぱん! と触手でおまんこを耕し、絶頂の上から快感を塗り重ねる。私の身体は性感に悶え、腰が勝手におちんぽを求めてうねり続ける。
「いぐ、いぐ、かっ、────、……────♡♡──…………っ、あ♡?」
──今一瞬、意識が、間違いなく途絶えていた。焦りで脂汗が垂れる。
急いで触手の再掌握を急ぐけど、まずい。
一本の触手が、滑り落ちるように私から脱落する。着地とともに汁気をまき散らし、素早くとぐろを巻いて私を見上げるそれの、先端から縦にスジが入っていく。
本を開くように、触手が割れる。その内側に、あるのは────!
「な、やば──」
「──じゅうぅ……」
「あ。ぐ……………………」
体が、硬直する。
どうにか、背後の魔物の掌握は手放さなかった。が、内側に残っている幾多の瞳による干渉があるのか、意志疎通が行えない。もはや、微動だにしない肉の巨像と化していた。
……この洗脳は、魔法ではないけど、魔力を利用している。それに、何度も身に浴びてきたから、もう魔力を利用した抵抗の仕方を理解してきた。
懸念事項であった体内にある二つの瞳すら、今はわたしの味方をしてくれているようで、奪われかけたわたしの意識を
──とはいえ。九つ分の眼光に照らされると、ちょっと完全防御がかなわない。
自由意志が、あやしい。
──わたしは、わたしだろうか?
「……っ、────はっ、────!!」
「じゅる、じゅるる」
「……!!! っ、っぁ、────!」
自分自身の身体も、魔物の身体も、動かせない。動くという、意志が起こらない。
膣を触手で貫かれ、脚が浮いた姿勢のまま、何もできない、しない。
虹色の瞳が、九つの視線で私を貫く。今はどうにか外側で抑え込めている
ぼう、と。非対象に魔眼と見つめ合う。
(まずい、まずい、まずい──)
──いや。今こそ、チャンスだ。
閉ざされていた記憶と、
虹色の瞳の洗脳条件は、目と目が合うこと。
──だったら、まさにわたしも。
この両目……わたしが
なんども洗脳を喰らった、記憶がある。だからこれへの魔力の通し方も、
魔物がうろたえたように、魔眼を震わせる。
喰らえ、これがわたしの。
「かち、すじ、だああああァッッ!!!」
「!?!?」
随分と小さな魔物を、見下ろす。
私の意思で、目の前の魔物に、洗脳を仕掛ける。
「ぎっ……ぐあ…………!!」
「ゅ、??? じゅううう──────」
「く、くぅっ!!」
思っていたより、抵抗はない。自分の力で対抗されることを想定していないのであろう。翻って、わたしは防御にも意識を割いているから、
──しかし、単純に数の差が著しい。二対九。
このままではわたしの精神の方が、先に喰らわれる。
──だったら、数と、
微かに意識を内側に割く。一瞬、右手の触腕を振るう。その手の、剣を。
──胸から腹までを、大きく切り開く。血が吹きだし、再現された内臓がこぼれ、
既に私の中には、私を何度も洗脳し慣れた先輩が巣くっている。
虹色の輝きが溢れる。切り開かれたわたしの内側の虹色の瞳を合わせて、計四つ。
「み、ろ……────♡」
「──────────────────!!」
胎から放たれる銀の光芒が混じり、九つ眼の魔物を気圧していく。
──冷たい激痛と、戦の興奮に、性的刺激が入り混じったトランス状態で、眼前の光景を眺める。
ああ、
わたしの内側に居る小さな子たちも、目の前の敵も、背後で動かない触手の塊も。
すべてに、愛を注ぎたくなる。わたしと、一緒に居て欲しい。
でも、ごめんね。
……私、エッチな気分の時は、悪い子なんだ。
「ごぼっ。おまえ、は──────」
「──じゅぅ、じゅ────!!!」
血が口からも噴き出す。
最後の抵抗か、矮小な触手が跳びかかってくる。
……残念♡。ちょっと、遅すぎる。
おまえに、命じるのは──
「──────
「
ざあ、ざあ。空中に、極彩色の爆発が広がる。
失速し、脱力した魔物が、空中に溶けていく。
どれだけ物理的に破壊しようと、存在を脅かせない不死の血肉が、蒸発していく。
精神を改竄し、あらゆるこころを、意志を惑わす魔なる瞳が、九つすべて砕け散る。
戦って倒せないなら。
──自ら、死んでもらうしかない。
ぱらぱらと、灰の様な残滓が、私に降り注ぐ。
胴体の開創部から、むき出しの内臓が泡立ち、それらをずるり、と飲み込んだ。
それきり、私以外に動くものはなく。
辺りは、静寂に支配された。
「……ぐ、くはっ……」
……背後の触手を操って足場を作り、膣から触手を引き抜く。
剣を突き刺した魔物の制御を手放さないために、右手から細長く触手を伸ばして、私と繋いでおく。
胸は再生しつつあった。出血は止まっているけど、むき出しの傷からはまだ痛みを感じる。膣口からぼたぼたと体液を垂れ流し、大の字に仰向けで寝転がる。
勢いあまって、後頭部を硬い岩肌にぶつけてしまった。
じん、と痺れる痛みが、人間大の私の存在を確かにしてくれる。
「はぁ…………はぁ……。きつ……」
激痛と疲労、快楽の余韻に包まれながら。
久しぶりの、勝利感を噛み締めた。
***
この魔物に、仮の名前を付けた。
虹色の瞳がイービルアイ。赤い肉塊がブラッドクレイ。仮なので、適当だ。まとめて一種の魔物かもしれないけど、便宜上呼び分ける。
虹色の瞳、イービルアイは強力な洗脳能力を持っている。虹彩が異常な輝きを放っていること以外、外観は人間の眼球と大差ない。
そしてこいつらは、明らかに複数体が存在している。魔物における一種一個体の、例外。単為生殖で増えるのか、ひとつの存在が分裂しているのかはわからない。
例外といえば、過去にも『複数体存在する魔物』は知られているが、『一種一個体』から逸脱するようなものではなかった。そのすべては能力による分身などで、例えば“ペリベイコーズ”という大魔物は自身の分身を際限なく生み出せるが、本体と呼ぶべき最初の一体以外の分身は実体がなかったとか、倒すと分身は消滅したとか。
それからブラッドクレイは、単体では皮膚の無いむき出し筋肉の塊、ないし触手の形をとることが多く、私から見てもすさまじい運動能力を有していた。
また複数体いることについても、イービルアイよりさらに非常識的だ。ブラッドクレイ同士で取り込みあったり、ひとつの肉塊から複数体に分裂したこともある。こういう、くっついたり千切れたりしても機能が損なわれない魔物なんて、想像したこともなかった。たしか、生物的には群体というんだったか。恐ろしい能力だ。
そしてこの二種、どうやら共生、あるいは寄生関係にあるらしい。これも他の魔物では聞いたことが無い習性だ。イービルアイが核な魔物なのかと思ったけど、ほとんどのブラッドクレイは単体での触手として生きていた。イービルアイを通してブラッドクレイにも死の洗脳が通ったり、ブラッドクレイを支配下に置いたら内側のイービルアイの活動を封じられたり、どっちが上とか下ではなさそうな気もする。彼らの関係性はよくわからない。
彼らについては、対処を考えなくてはいけないだろう。記憶にある限りでも、ブラッドクレイがまだ市の周辺に存在しているはずだ。イービルアイも、これらが最後とは思えない。
周囲に何匹か残っていた触手を放っておくわけにはいかない。ブラッドクレイ単体は、いったん私が取り込んだ。私の手先を変じさせた触手で触れれば、それだけで支配完了。
彼らは胴体や左手の再生に充て、それでも溢れた分は一旦背中に纏めておいた。私の髪を掻き分ければ、肩の間から生える赤黒くて太い触手の帯が見えるだろう。再生した左手で『背びれ』をなぞる。だいたい、お尻を隠すくらいの大きさになっていた。
右手を持ち上げると、指先に繋がった細い触手が持ち上がる。その先には、仁王立ちで固まった触手の塊があり、更にその内側に多数のイービルアイが含まれているのを感じる。イービルアイ単体では、やはり私が掌握したブラッドクレイに為す術も無さそうだけど、ひょっとすると時間の問題かもしれない。
ので、とっとと対処する。突き刺したままの剣をひねり、肉を掻き分ける。
──引き裂かれたブラッドクレイの塊からおぼろげな痛みが伝わってくる。けど、大丈夫、すぐ終わるから。
個体でありながら群れでもあるブラッドクレイからは、あるいは彼らが魔物という非生物だからか、明確な意識は感じられない。それでも……。
表面の触手がうねり、内側が蠢動する。イービルアイを、ひとつづつ体表に浮かび上がらせる。排出されたそれを剥ぎ取り、私が
「──死ね──」
「
洗脳し、一つ一つ、死の命令を下す。
どうやらイービルアイは、瞳同士で情報を共有したり、催眠耐性を手に入れたりすることができないらしい。四対一で、確実に相手を圧殺していく。
今はもう、彼らへの愛情も落ち着いてきたから、
ほんの少しだけど、この魔物たちには情が湧いてしまう。彼らの声にならない絶命の悲鳴を、何十と
「────死ね。……ふぅ、おわった……」
──とはいえ、これで最後の一匹だ。巨大なブラッドクレイの中から、すべてのイービルアイの気配が消える。
今日までのイービルアイとブラッドクレイたちからは、明確な悪意の様なものを感じていた。私の体で取り込んだものについてはおとなしくしているけど、そうでないものは、全部消すべきだ、と思う。
……私の体には、視界を提供している二匹と、内臓に二匹、計四匹のイービルアイがいる。そしてなにより、全身の肉体はほとんど余すところなく変化したブラッドクレイだ。
今のところ、彼らは私に協力的だし、私は彼らを掌握できているけれど、その理由や仕組みは正直よくわかってない。ただ何となく、裏切ることは無さそう……という、直感がある。
今は頼りにしちゃってるけど、頼りきりだといつか痛い目を見るかもしれない。私の直感にせよ、彼らに洗脳された思考かもしれない。
もしもの事も考えておかないと、かな。
「……お疲れ様」
胴体を正中線に沿ってなぞる。自分で切り開いた胸や手首の傷は、すでに新しい血肉で満たされている。
ただし、洗脳の数的有利を確実なものとしておくため、私の胸と腹に一つずつ、虹色の瞳が露出していた。指先で周囲に触れると、胴体の瞳が
お腹のなかに収まったイービルアイから、言い知れぬ快感と、ふかく、甘い情動が沸き上がる。
「……っ、ふー……」
指先でそっと、下腹部に触れる。きつくしまった陰唇は、ハリと艶のある色白の皮膚に包まれている。もともと回復能力が人間離れしていたから判別がつかないけど、ブラッドクレイで作り替えられた血肉の再生能力はそれ以上のはずだ。
ちなみに子宮は元のお腹のカタチに戻してある。奥の手を使うために自分で掻っ捌いて内容物(あとで確認したらピンク色の粘液だった、触るとじゃりじゃりしてて泥っぽい)も吐き出しちゃったし、動くにも邪魔だし、できれば……クランにも戻りたいしね。遅くなっちゃってるなあ。
正確な時刻はわからないけど、体感ではもうすぐ私が市内に帰る予定時間のはずだ。
……どうやら、残ったブラッドクレイの巨大な塊は、私の指先で繋がっている限り勝手に動くことは無さそうだ。
これで安全を確保できた。ようやく、クランに連絡を飛ばせる。
現在地は知らない場所だったけど、移動経路を思い出したことで、テレトイ市へのおおよその方角と距離はわかっている。
「【伝言】。よし、やっぱり魔法が使える」
簡易詠唱とともに、手元に透明な結晶の様なものが現れる。
一時は洗脳と元の肉体の大幅な損壊によって失われていた私の魔力だったけど、今は身体能力ともどももとに戻っている。というか、多分内側のイービルアイから魔力を引き出せば、前以上の出力を出せる気もするけど、今は必要ない。
伝言魔法は例によって私の作った魔法で、これで生成した透明な魔力の塊には、喋った言葉を保存することができる。所定の操作で魔力塊から音声を『再生』することができるので、ペンを使わずに書置きなんかができる便利な魔法だ。
“葦と楔”の仲間と、市内の知り合いには再生の仕方を教えてある。とはいえ操作には魔法の素養が必要となるので、全員ってわけじゃないけどね。
「えー、んん゛。『依頼の最中に強大な魔物を発見、駆除済み。
手早く伝言を残す。あとはこれをどうやってクランに届けるかなんだけど。
「んー……。【探知】──やっぱり、周囲に人はいないか」
少数の野生動物や、遠くにいくつかの魔物の気配は感じるけど、近くに人がいない。
ブラッドクレイの塊につなげた触手を、指先から私の『背びれ』に繋ぎなおす。これで両手を自由に使える。
「よい、しょ」
金級の身体能力でいっきに崖を駆け登り、地平を眺める。
崖底から見える空ではよくわからなかったけど、かなりの時間が経っていたらしい。大地に広がる亀裂の影を、夕陽が彫り上げている。曇り空が、晴れていた。
ひどく荒れた岩地には植物や遮蔽といったものが無く、粘液塗れの裸を吹き抜ける風が冷たい。
「ていうか、いろいろ解除されたまんまじゃん。【清浄】【防犯】【自動防御】【自動感知】【警報】────」
汚れをきれいさっぱりしたところで、右腕で投擲の姿勢を取る。
「【浮遊】【固定】【衝撃吸収】【通過:対人】。今回はクランに直接届けるから、【荷物配送】、もね」
伝言魔法の魔力塊に、荷物を届けるための魔法をかけていく。これが到着した後、クランの誰かが確認してくれれば伝言の内容が伝わるだろう。
掲げた右腕が粘膜で覆い隠され、ブラッドクレイの触腕と入れ替わる。魔物の筋肉に、私の魔力強化が浸透していく。
よし。私の家に届く。
「せぇっ、の!!」
ぶん、と振り投げる。人魔一体の膂力で発射された魔力塊が、勢いよく地平へと消えた。
夕日に向かって一筋に伸びていく放射魔力の筋が、夕焼けを引き裂いていく。
それを見送り、再び崖底に戻ってきた。
さて、ここからは家に帰るためには、いろいろやらないといけないことがある。
まず、服と装備。これが無いことには、表立って道を歩くことも出来ない。
……いや、ちょっと気持ちよさそうではあるけど。
拾い集めておいた残骸を、検めていく。
「残ってるのは……ずったずたの私の防具と服。金属鎧も……べこべこにへこんで……うわ、融けてる!? 鞘はボロボロだけど、直剣は……無傷っぽいな、さすがペトリファイの伝手」
巨大ブラッドレイに刺さっていた直剣を引き抜いて確認したけど、問題なさそうで安心した。張り付いた粘膜を指先で回収して取り去れば、ぎらりと光る銀色が何とも頼もしい。
なんだかんだ5年くらい、身の丈に合わないころからずっと一緒だったのだ。愛着もひとしおである。
さて、服についてだけど。
「……ふむ、私の背中の触手の大きさは……うん、ちょうど足りる、かな」
私が今日着てきた服装を、強くイメージする。
それを、『背びれ』に伝える。
切り分ける。何枚も、翼のようにおおきく広げる。
変化させる。帯状に、薄く、柔らかく。
そして、身体にまとわせる。手足を包むように。
「お、おお~。結構、形になったっぽい?」
形成する。薄い膜を重ね、ブラッドクレイに筋繊維の方向を意識させる。肉製の衣をまとう久々の被服感が心地よい。湿ってる感じが少しキモいけど。
巨大ブラッドクレイにつながる触手は上着の裾に当たる部分から伸ばしている。
「そして、手本として衣服の端切れを、と」
胸元の赤い肉膜がそれを取り込む。にわかに、ぬるりとした赤身から乾いた繊維状の植物構造──を模したもの──に変化した。ブラッドクレイの服の一丁上がりである。これで一気に着心地と見栄えが良くなった。
が、しかし。
(……これ、よくみると滅茶苦茶、『ヘン』だ!?)
露出の少ないシンプルなデザインで、一見するとただの地味な麻色の上下の合わせだ。
しかしこの服、縫い目が見当たらない。さらに注視して見れば、途中途中で繊維が斜めに噛み合ったり、布目としてあり得ない構造になっている。一つの布を切り貼りしたパッチワークみたいだ。
思っていたより、再現度が低かった。サンプルがボロボロなのが良くなかったのか。あるいは、意外と取り込んだり変化する能力に限界があるのかもしれない。
「そういえば、一度生き物以外に成ったブラッドクレイって、また変化できるのかな?」
***
──それからしばらくブラッドクレイの変化能力について、試していた。
クランには遅れる旨を伝言で飛ばしてあるから、時間的猶予はたっぷりある。それに、イービルアイの視覚はどうやら暗くても問題ないみたいだ。夕暮れの暗がりの中で、魔法に頼らなくてもきちんと物が見える。
実験で分かった、いくつかのこと。
まず、取り込めるものについて。
ほとんどあらゆる物質を取り込むことができるけど、どうやら金属は苦手らしい。取り込めるけど、取り込みたくない、みたいな。具体的には材料から魔法で打ち鍛えられた私の剣はひとかじりもされていなかった。
ただ、私の鎧みたいに魔物由来の金属なら、多少はたべられる……のかもしれない。融けてたし。
また、取り込んだものが非生物ならそのままコピーできる。
それから、取り込んだ物質を、違う形状で作ることも出来る。私の身を包んでいるこの服もまさにそれだ。ブラッドクレイは多少鎧の金属を食べているので、ナイフや針なんかも作れそうだ。
とはいえ、元々の服を作り直すことは諦めるしかないかな。さっき作った服は人目線だとおかしなものだったけど、あれは完成品の服を丸のみにして無いからだ。ブラッドクレイはあくまで
あと私が一度制御下においたブラッドクレイでも、私から切り離した状態だと勝手に動き回る。私には敵対的な行動をとらないみたいだけど、この習性は把握しておかないといけない。
普通の人を襲うかどうかは、まだ不明。穏性魔物なのか、攻性魔物なのかも、不明だ。
そして、ブラッドクレイは
一方、一度非生物や
……ブラッドクレイからは、明確な意思、魂の様なものは、感じないけど。
(……彼らにとって肉塊以外への変化は、ある意味『死ぬ』ようなもの、なのかな……)
小動物や虫で試したところ、生き物は死骸として生成される。ブラッドクレイに繋がった状態なら生命活動は維持できるし、触手を通して体を動かすことはできるけど、思考や意志みたいなものはないみたいだ。
なるほど、私の体をぐちゃぐちゃにしても、頭──脳に直接、手を出さなかったのはこれが理由なのかな。
周囲に散らばる石や枯れ木、ウサギにネズミや昆虫の死骸……
(──私が体とブラッドクレイを行き来させられる理由は、なんだろう?)
足元には、私の左手首が
それぞれ触手化させた手でつかみ、取り込む。──どちらも、ブラッドクレイとして消化することができた。
二つの元手首は、今はもう私の体を少し太らせるブラッドクレイになっている。その余剰分を、私の体内、背中の触手を通って、巨大ブラッドクレイに送りだす。
「……ごめん、わからない!」
よし、手に負えない。なんとなくの法則性はわかるけど、細かいしくみがさっぱりだ。
私は頭脳担当ではない。手で頬を叩き、切り替える。
……そういえば、テレトイ市内にもブラッドクレイが変化したものが一つあるのを思い出した。密錬部屋の床と、
さて、試行錯誤を通じて、ブラッドクレイから作れるもの、作れそうにないものも分かってきた。
ここで、予定というか、目的を整理する。
「一つ、
これは、単純に
例えばフランは種族的特徴で難儀な生活を送っていたらしい。彼女を悩ませるタネには国や市の行政すらも絡んでいた。うかつに、今の私の状態を、誰かれ構わず明かすわけにはいかない。
ということはつまり、ブラッドクレイとイービルアイは、なるべく人目から隠さなきゃいけない。
あ、そういえば私の目って虹色になってるよね。これもどうにか誤魔化さないと。目の色を変える道具を作る……のは難しそうだし、魔法を考えるかな。時間、さらにかかるぞう!
「二つ、服を調達する。人の住処を見つけて、布か服を盗んで、複製する……とか?」
まあ、いくらかの犯罪は許容してほしい。これはその場その場で上手くやろう。作戦が思いつかないときは思い切りが大事だ。
「三つ、帰る。私の脚なら、まっすぐ駆け抜けて……三時間もいらない、たぶん」
テレトイ市が国から請け負っている魔物駆除の管轄範囲外ではあるけど、ネコ型魔物に連れられてきた森と洞窟もそこまで長い距離じゃないからね。
一と二の目的に反するから、直ぐ帰るわけにはいかないけど。
そろそろ、夜が来そうだ。
やるべきことはたくさんある。
動けなくなっちゃうブラッドクレイには申し訳ないけど……私のために、役にたってもらうから。
────元は、こいつらが襲ってきたせいなんだけど。
(……私は、そのことに嫌悪感や悲しみを覚えていない──)
それが、洗脳によるものか、私自身の変化なのか、もう判らなかった。
服の下。皮膚の裏。
筋肉と脂肪の内側。
ちいさな、子宮を占有しているソレ。
──虹色の瞳が、怪しく揺れていた。