プロコール先生の診断の結果、私の体には問題がないことがわかった。分かってたけどね。
それからすぐ、
……どうして、こっそり運んだんだっけ?
疑念は形を成さず、たちまちかき消える。
「ふーっ……やっぱり部屋が落ち着くなー」
今は一人で自室でくつろいでいる。魔物討伐で少し運動はした筈なのに、お昼ご飯が喉を通らない。念のため、やっぱり今日の午後はしっかり休んでおこうと思ったのだ。
私の格好もくつろぎスタイルだ。野外用の靴を脱ぎ揃えて、ふかふかのベッドに腰を下ろす。着心地の良い滑らかな下着とゆったりとした作りのショートパンツとシャツに身を包んでいる。全身麻色のオシャレからかけ離れた格好だが、休むって決めたら着心地優先である。
ヘアセットは解いて、クセのないロングヘアが腰の辺りで揺れている。ここ数年でガッツリ伸ばしたら、結構良い感じになったと思う。
あとは適当にストレッチとかしつつ、流行りの本でも読んでいれば調子も戻るだろう。
そう、思ってたのだけど。
「んん……なんか…………」
特に意味もなく、クローゼットを開け閉めして服を眺める。古いお気に入りを引っ張り出して体に当てて、鏡を眺めてまた仕舞う。
毛布を引っ張り出し、がばりとくるまってベッドで横になる。じっとしてられなくて立ち上がる。
うろうろと、歩き回る。やはり変化はない。
「むー……」
やばい。ムラムラする……。
突然だが、いや突然な話でもないが。私はえっちなことが少し苦手だ。
自慰で興奮すると、自分が自分でなくなるようで。終わった後に振り返ると、何だか普段の私らしくなくて嫌になるのだ。
フランさんやプロコール先生など、年上の先輩女性に赤ちゃんの作り方は教えてもらってる。でも、好みの男の誘い方とか、そういう生々しくていやらしい話は、やっぱり苦手だ。生理はきてるけど、私は軽めに終わるので、余計にそういう実感に乏しいんだと思う。
好きな男の人とかもいないし。私の周りにいる男性は、父親代わりのペトリファイたちか、ちょっとアレな金級男性陣を除けば、みんな私より弱くて魅力的に見えないのだ。庇護欲というやつは私には無いらしい。
とはいえ、どうしてもムラムラが我慢できない時はするし、そういう時の『いつもの』やり方もあるが。
「うーん、真昼間からやるのはしかし、うーん!」
悶々と悩む。滑り液は何処にしまったんだか。最後にシたのはたった二日前だから奥の方に仕舞われてはいないはず。いやいやまだするとは決めてないから。そういえば最近読んだ雑誌に変なやり方が書いてあったな……
ってちがうちがうちがう!
「……はぁ」
熱の中にヒヤリとした感覚。ベッドに腰掛け、下着ごとショートパンツのウエストをつまんで、自分の素肌を確認する。
毛一つ生えない、つるりとした綺麗な割れ目。私のまんこはしっとりと濡れていた。
シモのことを考えていただけでこんなになるなんて、恥ずかしい。でもこれで引く道は無くなったというか。もう思いっきりヤってしまって、完全にスッキリしよう。そうしよう。
「ふーっ……これはムラムラしてるだけだから……ふーっ……私がえっちな子ってわけじゃないから」
部屋の施錠をし、カーテンを閉める。それから壁のあちこちを点検する。クランに覗き見するような不届ものはいないと思うけど、バレたら恥ずかしいし。
「【防犯】、【遮音】、【結界】、【密筐】、【消臭】、…………」
気になってきたのでやたらと魔法を重ねがけしておく。ここまで露骨にやると魔法使いの方々には、何かを隠していることまではバレてしまうかもしれないけど良い。今恥ずかしくなければそれで良い。
「ふっ……ふっ……ふっ……」
たまらなくなって、穿き物を下着ごと脱ぎ下ろす。身体中に溢れる熱が、陰部を出口に定めたような、熱狂的な興奮を感じる。下着が糸を引くのが目に入り、さらにムラムラする。
おかしい。
普段はこんなにならないのに。
わたし、えっちなこと苦手なのに。
適当なタオルをいくつか重ねてベッドに置き、そこに腰を下ろす。薬指を筋に押し当てれば、ぐちゅり、と音を立てて飲み込まれる。これなら仕舞ってある滑り液も要らないか。
膣が熱くて、理性が指を引き抜きそうになるのを、本能でねじ伏せる。快楽に手を引かれるままに、ゆっくりと指先を奥へと進めていく。
「ふっ、ふっ、ふーっ、フーッ」
呼吸が限界まで荒くなる。私の心肺機能が追いついてないわけじゃない。でも、興奮を彩るためだけに、呼吸と鼓動が勝手に速くなる。わたし自身が、興奮を求めていく。
焦ったくなってきた。捲れ上がった陰唇で親指を濡らし、そのまま肉を掻き分け、包皮をクリクリと撫で回す。
「ああ……んぁ……♡」
甘い声が、漏れる。普段の押し殺したような声ではない。これはほんとうに、わたしの声なんだろうか。わたしの、喘ぎ声が。
苦しさを逃すように、空いた手でお腹をさする。快感の形をなぞる手のひらが、余計に熱を高めてしまう。
親指と人差し指で剥き出しのクリトリスをそっとつまみながら、中指をゆっくり出し入れする。動きに合わせて、支点にされた陰核がすりつぶされる。
「はあ♡ああっ♡い、いくっ……イっ………………」
びくびくと、お気に入りの場所を指の腹で擦り上げつつ、反対側をお腹側から押しつぶす。衝撃のあまり解放されたクリトリスが複雑に震える。
盛大に絶頂した。指を突っ込んだまま、しばらく背を丸めて快感の余韻に浸る。
なぜだろう。こんなの普段のわたしらしくないのに。自分が、別の自分に上書きされているみたいなのに。
「……もうちょっとシようかな……」
ムラムラが止まらない。むしろ加速する。もっと、もっと、もっと快楽を求めだす。
「【鞠玉】っ、【変形】……」
息も絶え絶えに、魔法を行使する。頭は冴え渡っているから魔法に翳りはないのに、虹色のモヤがかかったような感覚のせいでいやらしいことばかり考えてしまう。
「う、うわ……わたし、こんなの造れちゃうんだ……」
ドン引きしつつ、手元のブツをみる。鞠玉で作られる乳白色の球体は柔らかく、壊れにくく、衝撃を吸収する性質を持つ。本来はもっと大きなサイズで作って、着地や敵の攻撃に挟んで受け流すための防御魔法である。
それが、どうだ。変形魔法により元の鞠玉のつるりとした外観は失われ、細長い棒状の側面に、大量の凹凸が備わっている。不規則で、生物的な印象を抱かせる表面だ。
太さはわたしの指の倍くらいだろうか。普段は指一本でやっているので、だいぶチャレンジしている。長さも思い切って二倍にしてみた。これ絶対全部入らないかも。
先端は細長く、捻れ、肉を掻き分ける形をしている。ピンと弾けば、プルプルと震えて期待を煽る。
底面は太くがっしりと固められたグリップ状で握りやすい。その根本の部分にいくにつれ、本体の凹凸は牙のように発達していく。
雑誌で見かけた大人用のおもちゃを参考にしつつ、思い思いに作っていったら、こんな形になってしまった。
「よ、よし。挿れてみよう」
ごくりと唾を飲み込み、自作した玩具の先端をまんこに当てる。逆手にグリップを持ち、もう片手の親指と中指で小陰唇を拡げる。
「すーぅ……ふぅ……♡」
興奮で頭がおかしくなっている。捻れた部分を差し込む。捩れに合わせて、肉壁が揉み込まれる。
歯を食いしばり、両脚が踏ん張りを求めてベッドの縁に掛けられる。かちかちと歯を鳴らしながら、玩具の棒を膣奥へと進める。
「うう♡うっ♡ひぎっ、ふっ、ん♡、ん♡」
やばい。ヤバすぎる。指なんか比べ物にならない。こんなの初めてだ。
徐々に凹凸が激しくなる側面が、入り口を激しく擦り上げる。
奥に奥に玩具を挿し込んで、狭く閉じた内壁を先端が捻じ上げていく度に、絶頂がすぐ目の前を通り過ぎては、息を止めて耐える。
ぶちり、と痛みにもならないような痒みが走る。激しい運動をする冒険者は処女膜が無くなってることも多いって聞くけど、わたしのは残ってたんだ。でもごめんね。
今気持ち良すぎて、わたしの体のことなんて、気にしてられないから。
玩具を奥まで差し込む。目の前がちかちかする。
「ふっ、ふっ、ふっ……。ふーっ、はっ、はっ♡、はっへっへっ♡あっ! あっあンっんっ♡んっ♡」
手の震えが止まらない。指先に力が入らない。もっと大きな快楽を求めて、両手でグリップを掴む。そっと引き抜けば、ぬた〜っと白い玩具が顔を見せる。わたしの粘液でぬめり、輝いている。微かに、赤も滲んでいる。
なんて、観察してる余裕はわたしにはなかった。先端の捻れは矢の返しのようにわたしの中を掻き回し、今度こそ玩具で絶頂する。
「……ッ♡………………♡♡」
膣がぎゅうぎゅうと締め付けを強めて、半ば突き刺さった玩具を押し戻そうとするけど、わたしが両手で軽く支えるだけで、膣の抵抗は無駄に終わってしまった。もう一度深くまで挿す。抜く。挿す。抜く。挿す。抜いて挿す、ペースが徐々に速くなる。
(気持ちいい……気持ちいい……きもちいい……)
私の膣もうねりをあげて、もっと奥まで受け入れようとする。お腹の中が、触ったことのないまんこの奥が、わたしの知らないかたちで、わたしの中にあって。
「ああ゛ーっ、ううー、あ゛〜゛〜゛、いや……いやぁあああぁ♡♡」
何が嫌なのか。何なら良いのか。獣のような善がり声をあげる。銀髪を振り回し、半狂乱に陥る。
わけもわからず自分で肉壁を擦り上げ、入り口は耕され、膣の奥の方は何度も何度も掻き回される。潤滑液は溢れ出して、下は大変なことになっているかもしれない。
そのまま天地がひっくり返ったように、快楽の深みで絶頂する。背をベッドに叩きつけ、舌を突き出し、快楽を受け止める。
「……う゛うっ!? イ、イ゛いっ♡♡い、いぐ♡、いぎなっ、いっちゃう♡♡」
握りしめたままだったのが良くなかった。
揉みほぐされた膣は玩具を全て飲み込んでしまい、グリップ根本の牙が、わたしの陰核を狙い撃った。突然の快楽の爆発に、はしたなくも潮を吹いてしまう。ガクガクと腰を揺らし、暴力的な快楽を逸らそうとするもうまくいかない。
気を失うような絶頂の渦の中、限界まで折り畳まれた両脚に押しつぶされた上腕の痛みで、力が抜ける。手を離し、大の字に寝転がる。
「はっ……はっ……はぁ……♡」
体を起こす気力もない。ベッドに全身を預け、ゆらゆらとした意識で、膣に突き刺さったままの玩具の感触を愉しむ。
ぐっしょりかいた汗を背中に感じる。頬を伝った涙が渇かぬうちに次の涙が流れていく。
(また……今度もヤろうこれ……♡)
凄まじい快楽と、脱力にともなう眠気。でも今は、後片付けを始めよう。このまま意識が落ちてしまえば、心配になった誰かが私の部屋を尋ねて、大惨事待ったなしである。
一息入れて、まずは玩具を引き抜こう。体を起こしただけの動きで、快楽が疼き始める。
(引き抜くのは怖いから……このまま消しちゃおっか)
自分のまんこにさしたのは自分が魔法で作り出した物体だ。こういうのは基本的に、主人の意思でその存在を解いて消すことができる。造物系魔法使いなら誰でもできることだ。
体の中に入ったままの鞠玉を消そうとする。
反応がない。魔法が、私の制御下になかった。
「……え?」
呆気に取られていると。
強烈な吐き気が催してきた。
「!?!?! う゛、おえっ、げぇっ!!」
快楽の絶頂から、不快の谷底。あまりに大きな落差に、私は適応できない。
「うっ、おげぇっ、おえっ、おえっ」
急いで四つん這いの姿勢になり、そのまま目の前のタオルに向かって吐き出そうとする。堪えるなんて選択肢はなかった。吐くのも辛いけど、吐き出せないともっと苦しいから。
わからない。胃や喉には何の違和感もない。なのに吐き気だけがある。先生も問題無いって言ってのに。それにどうして、魔法がうまく使えなかったの?
わたしの。
からだに。
な、にが?
ばしゃばしゃ、と胃液が溢れる。虹色が、輝きを増す。
「な、に。……これ」
白いタオル。わたしの愛液と、胃液を吸って歪に輝くその上に。
蠢く赤い触手と。
わたしを見つめる、虹色の瞳が。
「あ、……。───」
わたしの意識は、刈り取られた。
***
例えば、一度巣穴を見つけた獣が。
その巣穴を手放す時、どんな道理があるだろうか。
その巣穴が、天敵に見つかりやすかったせいだろうか。
もしくは、獲物を見つけるためか。
はたまた、
だがいずれにせよ、巣穴を必要とする獣であったなら、新しい巣穴を見つけなくてはならないことも、また道理である。
さいわいにして。あるいは、最悪になことに。
この小さな獣は、次の巣穴を見つけていた。
「………………」
意識のないわたしが。腰を下ろして。股を開く。
白い柄に魔物の赤い触手が絡みつき、ずるずる、と長ったらしい幹が引き抜かれる。
ぢゅる、と玩具の先端が入り口を舐め弾けば、わたしは内側だけで絶頂する。
「…………」
快楽はあっても、感覚はない。感情も揺れ動かない。視界の半分を銀髪が覆い遮っても、きにならない。
口元の涎と胃液を拭くこともせず、ただ目の前の光景を眺める。
ぽっかりとひらきっぱなしのわたしのまんこを、細長い触手が撫であげる。
目玉が、その穴の奥を覗き込んでいる。
わたしの穴を支えに、本体というべきか。目玉が宙に浮く。
そのまま。
めだまが。
かきわけ。
かきわけ。
わたしの。
おなかに。
ずるり、ぬるり、ぴゅるぴゅる。
そんな音が、胎の中から聞こえた。
***
同時刻にて。
「解体時刻……座標……討伐された魔物の特徴……」
医務室で、医者は管理票から情報を読み取りつつ、魔物の死骸を調べている。細長かったことが窺える、百ほどの輪切りにされた肉塊だ。
正確には、彼女は調べているわけではない。漏れがないか、確かめていた。
確かにこれで、この魔物の死骸は
──目玉の部分を除けば、だが。
「ふむ、なるほど。出現位置がこことなると、次は」
指が虚空をなぞる。彼女には何が見えているのか。
あるいはそれが、人の知る知識による考察ではないと、誰が気づけるだろうか。
「うーん……彼女も、私も、一応
確認を終えた医者が、素材が納められた箱から振り返る。寝台には、死んだように脱力しているフランが横たわっていた。艶やかな衣装に身を包んだ豊満な体と、彼女の金髪が、重力に従って垂れている。
プロコールが彼女の酒に抑制剤を盛った。体調を悪くし、倒れた彼女をその場で診断し、深酔いだと診断した。そのまま介抱を申し出て、自分の医務室に運び込んだ。一人で。
目標からの信頼を得ていたとしても、古株の銀級冒険者の不意を狙える技能も深みも経験も、銅級の、本業が医者のプロコールには備わっていないはずだ。
だが、彼女はそれを成し遂げた。
「とはいえ、アーサさんは要件を完璧に満たしています。露見対策として、不確定要素は破棄しておきますか」
寝台で死んだように眠る仲間の上腕に、真っ赤な
これからフランは、ろくに喋れなくなるし、不定期に意識を失うようになる。
発話は徐々に少なくなり、代わりに意識が途絶える時間が増える。最後には意識を覚醒させることができない、植物状態となる。
原因を究明すれば、遺伝性の先天的な脳の奇病を発症したという診断が下されるだろう。これはプロコール以外のどの医者が診ても同じ結論に至る。こんな顕著な症状を見落とすヤブ医者はテレトイ市にはいない。
フランの体内を駆け巡っているのは、プロコールの毒薬、ではない。
それは自由自在に溶け込んだ体を作り替える。
それは自らも単なる血や栄養と化し、あらゆる痕跡も、犯行の証拠も残さない。
それは、この文明の常識では計り知れない、圧倒的な能力を持つ魔物の
フランはもはや、暗殺の被害者などではない。
運の悪い、哀れな先天症の患者だ。
医者は浅く息をする患者から目線を外した。
「いやあ、コレを見たのも、私がアーサさんを診断したことを知っているのも、きみだけでよかったです、フランさん」
プロコールは箱から魔物の死骸を一つ一つ掴み、流しに入れていく。
次々と、死骸が解ける。溶ける。自ら意思を保つように、赤い液体が排水口に流れ込んでいく。
生命を如何様にも上書きできる悍ましい存在が、悪意もなく、“葦と楔”の配管を、テレトイ市の下水管に放たれる。
ぼちゃん、ぼちゃん、と。全ての死骸は消えた。痕跡は無い。
魔物の存在を記録した管理票が、プロコールの手のひらで包まれる。微かな呪文詠唱共に、燃焼魔法が発動する。ジジジ、という音がした後、微かな煙とともに、黒い煤がこぼれた。作業を終えた医者は、そのまま流しで手を洗う。
「犠牲になるのが、一人で済みました」