外観描写しようとして延々と忘れてしまうので前書きに挟ませていただきます
気絶してから、三時間ほど経っているだろうか。
「やっ、ば──────……」
起きてすぐ、目の前の惨状にドン引きする。
快楽の坩堝に囚われ、いきなり過激な自慰を始めた結果がこれだった。
日は傾き、ベッドのシーツとタオルが愛液と胃液でぐちゃぐちゃになっている。自分の体にへばりついた体液はカピカピに乾燥している。
気分は最悪に近い。嘘。まだちょっと興奮してるかも。
じゃなくって。なんで清浄魔法とまってるのかな。そうだね潤滑液を消さないために止めたまんまだったんだよね、そのあとも気絶してたからね!
「【清浄】! 【清潔】! 【清掃】! 【洗浄】! 【脱臭】【換気】【清浄】!!!」
手当たり次第、汚れていそうなものもなさそうなものも、綺麗にしていく。黒ずんだ水痕も、破瓜の血も、
最後のは
この程度の汚損なら魔法は一回で十分なのだけど、気分の問題だ。痕跡すら、チリ一つすら残したくない。
あらかた綺麗にし終わったので、キッ、とベッドの上に鎮座する玩具を睨みつける。
最後の記憶は奥に挿して絶頂したあたりで途切れているが、寝ている間に抜け落ちていたのだろうか。清浄魔法によってテカリを失い、元々の質感を取り戻している。自分が作り上げたままの状態で、かえって恥ずかしい。
「これは……これは! もう二度と造りません!」
一息に消し去る。こんなものは私を駄目にするだけだ。大体一日に二度も気絶するなんで、金級冒険者としてまぬけにも程がある。他の人にはぜったいに知られたくない。
部屋を綺麗にしたので、次は私だ。といっても、外見なもう大体綺麗だ。髪を整えつつ、内側を気にする。
「うーん……処女膜、再生しとく?」
というか、既に元に戻ってる気がする、金級冒険者のバイタリティ的に。
おそらく今日まで処女膜が残っていたのではなく、魔物との戦闘という極めて激しい戦闘のなかで破けたとしても、治癒系の魔法に巻き込まれたり、私の自然治癒力が高すぎて完全再生を繰り返していたのだろう。
というわけでアソコは放置しておく。清浄魔法を貼り直したので、今の私には全身汚れひとつない。
立ち上がろうとして、腰が砕ける。まだ膣に熱が残っているようだった。
「う。ふ──ーっ……落ち着け、私」
お腹に手を当てれば、快楽の疼きを感じる。あれだけ盛大にイキまくっても、まだ欲求不満は解消してなかった。
無意識に、股間に手を添える。くちゅり、と濡れた感触に慌てて我に帰る。
「いや、ダメすぎる。今からもう一回とか、本当にダメだからねアーサ」
手のひらのヌメりが魔法で消えていく。呼吸を意識して、平常心。
清浄魔法のおかげで汚れが露見することはないけど、もしかして体液垂れ流しっぱなしになるんじゃない? 一抹の不安が過ぎる。
……気にしていても仕方ない。くしゃくしゃのシャツを脱ぎ捨て、いそいそと服を着替える。下着は新しいものを使う。
それから念のため、引き出しから布切れを一枚取り出す。短く切った包帯のようなこれは、水を吸い取る道具だ。乾燥地帯の植物を原料としているらしい。
下着の間にこれを挟めば、隠部の湿った雰囲気が軽減される。生理の時にも便利なので、テレトイ市の女はだいたい常備しているアイテムだ。
服は適当に可愛いのを着ていく。緑のブラウスと白のパンツ。なんだか今は素肌を露出したくない気分だし、長袖長丈のものを選んだ。
しかし腰回りに窮屈さを感じるかもしれない。さらにベルトを絞めると、お腹の奥からきゅうと膣の快感が覗き出し、顔を顰める。
「げ、太ったのかな? うーん、体型はしばらく変わってないような……」
気のせいか、と違和感を流す。久々に着るから生地が堅くなったりすることがあるのかもしれない。
髪はストレートで。姿見の前に立ち、軽く毛先を整えたら、緑と白の鮮やかな衣服に包まれた美人ちゃんが映っていた。うーむ、上出来。
「ちょっ……とだけ。ベルト緩めとこ……」
別に股間が気になってなんかない。ないって。
***
ひと段落したら、なんだか一気にお腹が空いてきた。時間的にも早めの夕食が取れるだろうし、そろそろ下に降りよう。
ドアを捻ろうとして、扉が動かない。そういえば防犯だの隔離魔法だので、この部屋をガチガチの隔離空間に固めていたことを思い出した。
一気に解除するとそれはそれで怪しまれるかも知れないので、こっそり、外出に関わるものだけ解除していく。
「【防犯】、解除。【密筐】…………解除。【結界】解除」
ドアを開ける。一歩外に出る。
と同時に、遮音魔法が解除される。
──食堂の方から、喧騒が聞こえ始めた。
「……非常事態!!!」
慌てて廊下を駆け抜け、階段の手すりを飛び越え、食堂に向かう途中で。
「……むぎゅっ!?」
「落ち着け、アーサ。フランが酒で倒れた。昼間から酒瓶を空けたツケが回ったな。彼女はプロコールが診ている」
細長い腕に顔面を取り押されられた。目線だけ動かして下手人を見れば、クランの古株の一人、“葦と楔”の事務担当のわりに銀級の男、ガルペズだった。
「今の騒ぎは倒れた瞬間を目撃したメンバーへの事情聴取と、食中毒を警戒したグラナダによる調理場の検査、それから同じ調理台から供された料理を食ったやつへの診察によるものだ。じき収まる」
「むぐぐっ! むぐーっ!」
ガルペズは冴えない顔をした中年男性だが、体は細身で、背丈はペトリファイよりある。そんな奴に空中でヘッドロックを決められたものだから、私の脚はブラブラ浮いている。
「だからお前が飛び出して行っても、やることはない。人体を弄り回す治療魔法は苦手だろう?」
「ぶはっ! だからってじっとしてらんないよ! 私、私一人寝てる間に、そんなことがあったなんて……」
拘束から抜け出す。実力差を利用して、私が抜け出すと絶対にガルペズが怪我をするような卑怯な捕まえ方に文句はあったが、今の私は咄嗟に負い目が口から出てしまう。
「……おおかた安眠のために遮音魔法を使っていたあたりか? 私生活で魔法に頼るからそうなる」
「うぐ」
正論。
「お前の場合、その問題を自覚していながら自分の実力とクランに甘えて努力を怠っているからなおタチが悪い。もっと力あるものとしての振る舞いを意識しろ」
「すみませんでした……」
正論。ガルペズは私のこういうところを容赦なく刺してくるので、かなり苦手な人だ。幼い私を引き取ることには“葦と楔”の中でも賛否が分かれていたらしいが、ガルペズはきっと反対に違いない。
「ううう。……今日私ダメダメだぁ。失敗を重ねてる」
「ふむ? 知らない情報だな。何があった?」
「ええー? えっとね……」
言おうとして、失敗に気づく。防音魔法で爆睡してたことはさっきバレちゃったし、まさかじ、自慰で気絶したなんて、よりにもよってガルペズに言えるわけない。
それに今日最初の失敗だって。
あれ。
恥ずかしいけど話題にはなるような失敗と、恥ずかしすぎて言えない失敗があったはずなんだけど。
なぜだろう。前者の記憶を探ろうとしても、するりとすり抜けてしまう。
「おい? アーサ……?」
今日はペトリファイとすれ違って、魔物を倒しにいって、
(
「おい、様子がおかしいぞ。しっかりしろ」
(
「おい。おい! アーサッ!!」
猛烈な悪寒が走り、視界が揺れる。
ふと気がつけば、しゃがみ込んでこちらの顔色を窺うガルペズの顔が真正面にあった。冴えない顔つきに、訝しげな表情をしている。
でも今は、この胸の不安を確かめたい。彼女の安否を。
「ねぇっ、ガルペズ」
「どうした。さっきから様子が変だぞ」
「フ、フランは大丈夫なの?」
「……あのな。ただの深酔いだとも、プロコールが診ているとも言っただろう。心配するだけ、ムダだ」
「あれっ……。そ、そうだよね。わたし、今日ちょっとダメかも」
なんだか自分の思考が支離滅裂になったみたいだ。動転して、ふらふらと階段の壁にもたれかかる。
「……まあ、今日も休日を与えられておきながら、魔物を倒しに行ったと聞いている。明日も休みを出しておく。人員の調整はこちらで済ませる」
「う……」
「アーサ。お前は今日明日、魔物を殺すことなく、ゆっくり休め」
言うべきことは言ったとばかりにガルペズは立ち去ろうとしたが、すぐに振り返る。
私が奇妙なものを見るように待っていると、彼はぼそぼそと言葉を付け足し始めた。
「……なにかやらかしていたとしても、俺たちは“葦と楔”だ」
「……?」
「全てを話す必要はない。だが、ここにはお前の助けにならない奴なんていない」
「!」
ハッとして彼を見やる。私は確かに、彼の表情から心配の色を読み取った。
彼とて、私の親代わりの一人なのだ。
「助けが必要なら、躊躇なく手を伸ばせ」
「ガルペズ……」
「お前とて、家族が助けの手を求めていたら。どうする?」
「……助けるよ! ありがとうガルペズ、あなたも何か助けが必要になったら言ってね!」
苦笑いしながら、今度こそガルペズが立ち去る。
「……まって!」
だが私は、喫緊の問題があることに気づいた。壁にもたれるのをやめ、自分の脚で立つ。
食中毒疑惑で食堂の検査と封鎖。すなわち。
ガルペズが振り返り、無言で続きを促す。
「……ご飯って、もってる? お腹空きすぎて、しにそう」
「……さっきから、それでか。ハァ……」
結局夕飯の時間まで待ちきれなかった私は、ガルペズほかお腹を空かせた団員たちと外食することになった。ちなみにガルペズが焼いてくれた焼肉は美味しかった。いやー、助けてくれる団員っていいね!
ガルペズの呆れたような視線が突き刺さったけど。気にしない。私は美味しいご飯が食べれてハッピーだ。
私も焼いてあげるね。はいあーん。
なお、ガルペズの目がどんどん死んでいくことに気づかなかったのは、私だけである。
***
アーサとガルペズ達がクランハウスに戻るとき、プロコールの出迎えがあった。
「先生! フランは大丈夫なんですか!」
「こんばんは、アーサさん、ガルペズさん。他の皆さんもこんばんは。だいじょうぶ、ちょっと酒が回りすぎただけだね。じき、目を覚ますと思うよ」
「よかった〜」
「……プロコール。今月の医療備品の予算について確認したいことがある。いいか」
「えぇはい。じゃあまたね、アーサさん」
アーサと別れたガルペズはプロコールを連れ、自身の仕事部屋でもある事務室の扉を閉めた。
「要件はなんだ、プロコール」
「……フランさんの容態についてです」
「わざわざ患者の側を離れてまで、俺の帰りを待つなど。真っ先に報せる必要のある案件なのだろう? ──
ガルペズは、最初から酒が原因だとは思っていない。彼とフランには、ただのクランの仲間以上の、込み入った人間関係がある。だから、普通の人以上に相手のことを知っている。
「あのフランが、たかが酒瓶を三本空けただけで倒れるだと? あと五十年経ってもありえん」
「ええはい、彼女の身体的特徴については私も把握しています」
フランは、血鬼とエルフの血を引く、いわゆる
その多くは種族由来の特性を有し、驚異的な身体能力を有する。フランの実年齢は外観とは全く乖離しているし、毒物の解毒能力も並の人間の比ではない。
つまり飲食が原因ではない。食中毒騒ぎは、彼女の正体を知らないクラン員の目を誤魔化すために、古株のドワーフ料理人グラナダが仕掛けたカモフラージュでもある。
「簡単に言えば、フランさんの意識が戻りません。検査の結果、彼女には脳の病気があります」
「……治療は」
「……申し訳ありません。原因がわかっているだけに、不可能であると断言できます。脳の内的構造に先天的な欠陥があり、加齢と共に徐々に知性を乱す『毒』が溜まっていきます。これは外から調べられるものでも、本人が自覚できるものでもありません。そしてある時──」
医者が握り拳を作り、そして大きく開いた。
「──弾けた『毒』が血流に乗り、脳全体に広がります。この段階で初めて症状があらわれます」
「事前に発見は、出来なかったのか」
首を振る。透過魔具の写しと血液検査の結果を取り出し、ガルペズに確認させる。
「……はい。残念ながら、脳の外部構造自体は健常者のまま進行する病気です。血液検査による検出ができるのは、手遅れになってからです……」
プロコールは、堪えきれないように顔を伏せた。患者を救えない罪悪感が、彼女を苛んでいた。
「この事は、まだ他のクラン員には伏せておけ。
プロコールの眼から涙が滲む。
「症状はどのように進む。──いや、いい。資料を見て、だいたいわかった」
「いえ……いえ。私に、説明させてください。“葦と楔”の
ガルペズは頷き、無言で続きをうながした。プロコールの瞳から、強い使命感と、深い義理人情を感じ取ったからだ。
だからとても、優しい彼には疑い続けられない。
彼がはじめ、危惧していたように。
──プロコールこそが、フランを廃人に追いやった下手人だとは、とても。
──ましてや、プロコールが彼女自身を疑うことなど、できるはずもなかった。