ずろろろろろっ。
吐き戻す。吐き出す。
胃の中身をあらかた使って、地盤の下に肉の芽を埋めておく。
わたしのお腹もスッキリした。
寄り道、終わり。
***
テレトイ市の地上……まだ地下か。密練部屋まで戻ってきた。
頑丈な床に手をつき、ぽっかりと空いた穴から身を乗り出す。通ってきた穴はすでに埋め立ててあるので、あとは蓋を戻すだけだ。
元の床にくり抜かれた金属板を嵌めなおす。こういう破壊不能材質に関しては、わたしができることは
「ごぽぉ」
随分と中身を減らした胃袋から、残りの肉塊がせりあがり、口から飛び出す。
目玉つきの肉塊は狙いよく蓋の上に降り立ち、拡がり、丸い亀裂に沿って染み込む。同化し、お互いを溶け合わせる。
あっと言う間に継ぎ目が消え、床の大穴は元通りになった。
時間を確認する。密練部屋の残り時間は二十分か。急げるだけ急いだけど、思ってたよりギリギリだった。
何せこれからわたしは、自分本位に自慰を始めるからだ。
「あ゛〜ー゛ー〜…………♡」
何も考えず、適当に自分の恥部をこねくりまわす。両手の親指でクリトリスをつねってみたり、右手の指四本を膣に突っ込んで、中の肉塊を揉んでみたり。左手の小指で尿道口を擦ってみたり。
もう、何をやっても気持ちいい。何度やってもたまらない。
でも、
「うう……うわぁ〜〜……ううぅっ…………!!」
切なさに堪えきれず、涙があふれる。
やはり、帰りの間もずっと絶頂地獄だったのがいけないのか。何の抵抗もできずに快楽を叩き込まれ続けたのに、ここに戻ってから膣内の目玉はうんともすんとも言わなくなってしまった。
よろめいて後ろに下がり、背中を壁に押し付ける。
快楽が足りていない。より激しい刺激を求めて、指の動きを試行錯誤するけど、全然足りない。
(イきたい、イきたい、イきたい、イかせてイかせてイかせて…………………………)
頭の中が真っ白になっても、いつまでもモヤが晴れない。
大きくのけぞり、脚を前へ動かす。手はまんこを弄り続けたまま、後頭部を壁に押し当てて、ブリッジのような姿勢になる。擦り上げられた毛髪のジャリッという音に合わせ、腰が大きく突き出される。
「フーッ、フーッっ、はやく、来て……ください♡♡」
媚びるように腰を揺らす。小さな魔物に、金級冒険者者が必死の媚びを売る光景は、決して誰にも見せられない光景だろう。
床の中央に佇んでいた肉塊が、ぐぐっ、と力を溜め、わたしの股の間に飛びかかる。腰に着地し、しがみつかれたまま、虹色の瞳と目を合わせた。
そのまま、するりするりと吸い込まれるように、膣の中に侵入していった。
ところで、わたしの女性器には今、膣を満たすだけの肉塊が詰まっている。
「!? ひっ、いぎっ、あっ、がァッ!!! ♡♡」
────少しだけ、ある。
今まで入口をくすぐられるだけで、決して入り込まれることのなかった子宮に、肉塊が捩じ込まれる。
もちろん、妊娠したこともない、十七の小娘の子宮の容積などたかが知れている。子宮口が捻じ上げられる激痛に悶絶し、硬い子宮内部が奥の奥から揉まれる。
侵入しきれなかった残りの部分も、膣壁を擦り上げ、圧し拡げ、どうにか体を収めようとしている。わたしの膣口から余った部分が垂れ下がり、内部が背中側に向けて引っ張られる。
「ぎっ♡、ひっ、あ゛ぎゃッ、♡♡♡っ!!!」
女性器の、女性器と呼ばれる肉の全てで味わう、引き裂かれるような痛み。
それがどうしてか、あんまりにも気持ちよかった。
「い゛っぎゃああ゛ああ゛あ゛ア゛あ゛ぁぁあ♡♡♡ッ!!!♡♡」
ついに、イく。
視界に星が散り、不安定な姿勢を維持していられず肩から落ちる。
天井を仰ぐように腰を突き上げて、暴力的な快楽を身に受ける。
銀髪が舞い、涎と涙でべとべとになった顔に張り付いく。
毛髪越しに自分の腰が目に入る。タンクトップと素肌の境目あたりに不自然な膨らみがあって、今もそこから激痛が迸っているのがわかる。
どうやら肉塊は少しだけ入り切らず、それでも膣口は引き裂かれんばかりに拡張されている。
つい数日前までは一本の指をぎゅうぎゅうと締め返していた若い膣は、その六倍近い太さの獲物をがっちりと咥え込んでいた。
「う……っ♡ふっ、よ……い、しょ。んっ♡……♡」
腰を地面に降ろしてから、脚に力を入れて立ち上がる。絶頂直後の余韻で、お腹の中の心地よさに気を持っていかれそうになる。
まだまだ愉しみたいけど、そろそろ時間だ。密練部屋の扉の鍵は安全性のために時間経過で勝手に開くようになっているので、あと十分で服を着替えないと。
股の間から、肉塊が出てくる。
ずるっ、ずるっ、と段階的に細くなりながら伸びていく触手に合わせて、わたしの膣口が寄り添い、内壁が捲れ上がる。
また処女膜が破れたのか、あるいはもっと大事なところが裂けたのかもしれない。フチのピンク色に、滲む血の赤が付いていた。
わたしの性器から出てきた肉塊は、概ね口から吐き出したものと同じくらいの大きさだった。
あとはコレを口の中に戻してやれば、わたしはまた元の日常に戻るだろう。
肉塊が蠢き、立ち昇る。
まるで重量に逆らうように、か細い肉の繊維が上へ上へと伸びる。握り拳ほどの小さな肉塊を先端に抱えながらも、姿勢を崩すことなく、垂直に。
あっけに取られ、立ち尽くすわたしの目の前で、先端の
花の中央で、虹色の瞳と、
「あ──────────────」
交差する魔眼の、虹光に洗い流されていく。
わた、し、───私は──────。
なにを─────────?
***
金級冒険者アーサ・エレグベッドの趣味の一つは鍛錬だ。
今日は休日。市場散策を終えたあと、ひさびさに魔法の開発をしたくなったので密練部屋にやってきていた。
誰にも見たことのない魔法を一人で作って、いきなり完成品を見せるのが好きなんだよね。みんなの想像を超えて、ビックリした顔を見るのが意外と面白い(たまにドッキリさせちゃうけど)。
とはいえ、今日は珍しく
時刻は昼過ぎ。大通りは昼食を求めるテレトイ市民で賑わい、屋台の売り込みの声が大きく響いていた。
この大通りには比較的一通りの多い区画で、それに合わせて様々な料理や看板が立ち並んでいる。色鮮やかな野菜や、ツヤツヤと輝くタレの彩りが通りの端まで並んでいる。
美味しそうな香りが入り混じり、鼻腔をくすぐる。
「へいらっしゃい! ツガモの串焼きだよ、一本小貨五枚!」
「おじさん、コレひとつください」
「まいどっ! いつも可愛い嬢ちゃんのためにもう一本サービスだ!」
「わぁっ! ふふ、ありがとう!」
紙袋を受け取る。中から一本取り出せば、ハーブの粉と塩の香りが漂う。
今は銀髪を隠したり変装もしてないので、さっきの店員さん含め周りの人たちは私の正体に気づいているみたいだけど、午前中ほどは人に話しかけられない。みんなそれぞれの商売や午後の仕事があって忙しいから、混雑した通りで足を止めて喋っていたら邪魔になっちゃうからね。実際、私を名指しで呼び込むお店の人も、数回呼びかけてはパッと引き下がっていく。
私は休日でのんびりお昼を買い食いしてるだけなので、このくらいの距離感で接される方がありがたい。人気者ってのもいいけど、気疲れしちゃうからね。
美味しい串焼きを頬張つつ通りを歩いていると、喧騒の中に見知った顔がいることに気づいた。
彼女はたいへん豊かな桃髪をしているので非常に目立つのだが、本人の陰気な気質による気配のなさと、年齢性別相応の背の小ささで、人混みの中では割と紛れやすい。
というか今まさに行列に揉まれて人波に溺れていた。
人の流れを躱しつつ、大柄なおばさんや威勢のいい女性たちの隙間に手を突っ込み、もがいている彼女を引っ張り出す。
「ぷはっ!」
息も詰まっていたのか、咽せた彼女を連れて喧騒から離れ、背中をさすってあげる。
「ロニルちゃん、大丈夫?」
「けほっ、けほ……た、たすかりまし……レェッ!? アーサ先輩!」
「こんにちは、ロニルちゃん」
「あ、あノ……助けてくれてありがとう、ございまス」
「いいよいいよ」
ロニルちゃんは年下の女の子で、“葦と楔”所属の鉄級、見習い冒険者だ。いつもはふわっと膨らんだピンクのロングヘアーが、人混みに揉まれてくしゃくしゃになっていた。長い前髪で目を隠しているけど、涙目になっている雰囲気を感じる。
「す、すみまセん。髪のお手入れまで」
「だからいいっていいって。こんなすごい髪の毛、私のほうこそいつも触らせてくれてありがとう」
「い、あ……はい、どういたしまシて」
どことなく訛りのある可愛らしい声を聞きながら、断りを入れて髪を整えてあげる。ロニルちゃんは小動物的な印象を抱かせるので、私ふくむクランの女性メンバーはついつい世話を焼きがちだ。
まあ、本人が既に銀級一歩手前の実力を持っている、期待のルーキーだからってのもあるけどね。
魔物の足回りをスレッジハンマーで的確に破壊する戦闘スタイルは天賦の才を感じさせる、とはクラン長ペトリファイの評価だ。
今日の彼女は午前中魔物駆除に出かけていたのか、やや疲労感のある佇まいだ。小柄な全身を、灰黒色の分厚い生地で包んでいる。頑丈な作りのグリーブは、ところどころ土に汚れていた。
話を聞くと、防具や獲物はクランハウスに預けて、お昼ご飯を食べに来たそうだ。
鎧を着てこずに押し合いに負けるそそっかしさというべきか、汚れた武器や鎧が邪魔にならないように脱いできたマメさというべきか。
「ところでさっきの人混みは?」
「揚げ物屋が二軒、お互いの値段を下回るように値切り合戦をはじめたんでス。いつもお互いを目の敵にしてるお店なんですけど、今日に限って物凄くヒートアップしてぇ……」
「お客さんが殺到して、あの混雑か。迷惑行為として後で市からお叱りを受けるんじゃないかなー?」
「あ、あはは……。はぁ。結局、途中まで並んでたのに、もみくちゃにされてお昼を買いそびれてしまいました……おナかすいたぁ」
切なそうな表情のロニルちゃん(目元は見えないけど雰囲気だ)はお腹を抑えていて非常に可愛らしくはあるが、ここで彼女を見捨てて帰宅するのは私のポリシーに反する。
「別のお店に行こうにも、並んでる間にお腹、すいちゃうよね。よかったらこれ、ツガモの串焼き」
「ほぇっ……」
暖かい紙袋を差し出すと、ロニルちゃんは手を縮こませて恐縮してしまった。
「いえいえいえそんな! わ、悪いでス……せめて、代金を……」
「これ、実はお店のおじさんがタダで増やしてくれたんだ。でも、
「エぅ……じゃ、じゃあ、いただいても良いですか…………? あ、ありがとうございまス」
紙袋を渡す。ペコペコしながら包みから取り出した串焼きを頬張り、ロニルちゃんは口元に笑みを浮かべた。
実は今日のお昼は串焼き一本しか食べていないのだが、
今日だけじゃなく、昨日の昼間もそうだったので少し気になる。
そのまま食べ歩くロニルちゃんと、手持ち無沙汰の私は、流れで一緒に通りを歩いている。満腹だという私に配慮してくれたロニルちゃんは、自分のご飯を手早く平らげようとしている。
「待ってるわけじゃないから、ゆっくりでいいの」
「むぐっ、んぐっ……は、はい。あ、い、いえ。その、それだけじゃなくて……」
「……?」
「エッと、もし良ければこの後、ふ、服をいっしょに見てもらえまセんか……?」
「おおーっ! いいね、いくいく!」
「や、やった……!」
そういう話は大歓迎だ。ロニルちゃんのお姫様みたいな髪に合う可愛い服を探すのは骨が折れるかもしれないけど、いいや腕の見せ所だ。
「うんうん! すっごく可愛いの探そう!」
「え、えへへ……せ、先輩、お手柔らかでェ……」
ふふふ。
このあと、めちゃくちゃ後輩
***
「ただいま」
「ただいまもどりまシた」
クランハウスに戻ると、これから仕事に行く慌ただしい団員達や、戦いを終えて一息つく冒険者達がラウンジに屯していた。
くつろいでいる団員の一人が手を振って挨拶してきた。
「おかえり、アーサ、ロニル。アーサは休日だったよな。ロニルの買い物を手伝ってたのか?」
「うん、色々選んであげたんだけど、結局これだけでいいってさ」
「あ、あんなにたくさんの大きな服を仕舞う収納はありまセん!」
「私の趣味のヤツは奢るのに……」
「ソういう問題じゃないですよ、先輩! そ、それにこれだって結構着るの恥ずかしいというか……!」
ロニルちゃんは大きな布袋を抱えていた。今回は私が彼女の体型と髪色に似合う服を選んであげたんだけど、本人的には結構大胆なセレクトだったらしい。
いいと思うんだけどな、白のゴスロリドレス。前髪あげたら美人な顔立ちなんだし。
「うぅ……アーサ先輩といっしょにお洒落するの憧れでしたけど、もうシばらくはいいですぅ……!」
「うーん、じゃまた今度行こうね! 今度は丸一日二人の休日を合わせてさ、クローゼットも見たいな」
「ひぇぇ…………」
「ロニル、諦めろ。こいつは基本的に善良だか、それでもあの金級だ」
非常に失礼な言い方をするやつを睨むと「おお怖い怖い」と言いながら退散していった。わりとどのメンバーも私への扱いが雑な気がするんだけど、なんでだろうね?
と、ラウンジを見渡して、ふと気になったことを訊く。
「そういえばフランさんって見かけた?」
「昨日お酒で倒れてからは、見てませんネ……。ラウンジにも居ないみたいです」
「そうなんだよね。多分大丈夫だと思うんだけど、まだ寝込んでるのかな?」
ロニルちゃん以外のメンバーに尋ねても、昨日の夕方の一件以降目撃されてないらしい。
すこし、心配になってきた。明日は仕事があるけど、その前にお見舞いに行ってあげよう。冒険者の生活ルーチンは割と不規則だけど、普段のフランさんなら一日三回は何処かでお酒を飲んでいるので、クランの誰も知らないというなら自室で療養しているだろう。
そのあとすぐにロニルちゃんと別れ、私は自室に戻った。彼女も置きっぱなしの武具にちゃんとした手入れをしたかっただろうしね。
それにしても、今日の買い物はとても楽しかった。ロニルちゃんも楽しんでくれたと思う。なんだかんだいいつつ、ちゃんと自分のお金で服を一式買って、帰り道の間ずっと大事そうに紙袋を抱えていた。
持て余した串焼きの件もそうだし、あそこでロニルちゃんに会えて良かったな。
***
「どうして私は、あのときあんなことをぉぉ〜〜!!」
時間の流れは残酷である。考えないようにしていた、夜が来てしまった。
一人、自室のベッドで寝巻きのネグリジェに身を包み、頭を抱える。昨日から今朝にかけての私は
まず、ムラムラが我慢できなくて、気絶するような激しい自慰をした。これはまあ、いい。あのいやらしい道具のことは記憶から消したのでノーカンだ。
いや、これだけで何にも良くならなきくらい恥ずかしい。
でも、私だって成人した女性なんだから、そういう辛抱ならない日があることを知ってはいた。なんでも、普段から戦いに身を置く人は、男女問わず子孫を残すために性欲が強くなる体の仕組みがある、らしい。
母親代わりのフランとか、親しい女性冒険者がシモの話を振ってくることだってある。やれ昨日は丸一日旦那に抱き潰されただの、あそこの可愛い男娼がオススメだの……。まったく。
私はえっちなことが苦手だから、あんまり耳を貸さないようにしてる。……たまに、ときどき、遠くから聞き耳を立てるけど特に意味はない。私がいないところで大事な話してるかもしれないし。
次に、えーっと……。ト、トイレで。
なんだろう。恥ずかしすぎるし、やばすぎる。
私はケルレンスくんの自慰を目撃し、固まる彼に『夜這い』のお誘いをしたのだ。なんでかなぁ???
一応、屁理屈ならこねられる。昼の自慰で体が昂り、制欲解消の捌け口として彼を求めたのだ。
しかし、別に彼のことは恋愛的に好きではないし、彼に限らず他の男性を性的な目で見れたことがない。みんな家族的というか、優しい人たちばかりで、そういう気分にならない。
ちなみに好きな人は現状いない。クラン内外限らず、私より強くて素敵な人ってまったくいないんだよね。
それから、そんな家族同然の仲間を、しかも成人してるとはいえ一つ歳下の子を、単なる欲望の捌け口として見ていたってことだ。私、最低すぎる。
ちゃんと誤解を解いて、謝らないと。
彼には『絶対に来て、一人で来て』とだけ伝えてしまった。ケルレンスくんはちゃんとした人だけど、それ以上に真面目な子だから、これから本当に私の部屋に来てしまうかもしれない。というか、来るという信頼がある。
むしろ、来ないときは他の誰かに相談した可能性がある。そっちもそっちで心配だ。そうなったら私の冒険者人生は終わりである。
そもそも、なんでケルレンスくんはわざわざ私の
そして最後に、今朝の自慰。もう本当に、昨日あんなふざけたコトをしておきながら、胸をいじったり股をいじったり……。青天井の性欲というか、自分が自分でこんないやらしいものだと知りたくなかった。
などと回想しては悶絶していれば、無為に時間は過ぎていく。
ふと、扉の前に気配を感じてベッドから起き上がる。恐怖か、興奮か、心臓が激しく跳ねだす。
誰かが、彼がいる。扉を叩くことも、声を出すこともなく、怯えた気配を感知する。まるで誰にも見つからないことを祈りながら、周囲を伺っているようだ。
ど、どうしよ。
……廊下の角を曲がった先。また別の誰かが近づいてきてる。遠すぎて人物の判別はつかない。
たぶん、ケルレンスくんはまだこの接近に気づいてない。
人に気づいたら、ケルレンスくんも帰っちゃうかもしれない。そうしたら私は説明するチャンスを逃し、冒険者人生が終わるかもしれない。
腹を括り、扉を開ける。目の前の驚愕に声をあげそうになる口を片手で塞ぎ、そのまま手を引いて部屋の中に入ってもらう。
すぐに扉を閉め、目を白黒させるケルレンスくんに説明する。
「【遮音】っ、えっとね廊下の奥から人が来ててそれで見つかっちゃダメだと思って焦ったんだ手引っ張ってごめんねそれから昨日のことはわたしもどうかしてて決して言葉通りに意味をとらえてほしくないというかあわわわわわ」
「おっ、落ち着いてくださいアーサさん! だ、大丈夫です、ちゃんとゆっくり喋ってください……逃げたりしません」
「うぅ……」
心なしか達観したようなケルレンスくんに宥められる。駆除の時の鎧と足袋の装束とは異なり、今の彼はシンプルなシャツとズボンという少し堅い印象の普段着だった。
「……昨日、アーサさんの様子は明らかにおかしかったのはその、僕もわかります。それよりも、まずは僕に謝らせてください」
「あっ……」
「アーサさん、本当に申し訳ありませんでした。貴女に女性に盗み聞きを仕掛け、性欲を発散するために使ってしまいました」
そう言い、膝を折り曲げて床に頭をつける。誠心誠意の謝罪を示す土下座をかまされた私は狼狽えてしまう。
「一人の男として、冒険者として、仲間として恥ずべき最低の行いでした。本当に、申し訳がありません」
「あ、う、うん……。うん、大丈夫、頭あげて大丈夫だから」
「いえ。許しを乞うこともしません、貴女が二度と顔を見せるなと言えば、クランからもテレトイ市からも出て行きます。罪を明かせと言えば、自首します。この罪は、その生涯をかけて償う覚悟があります……」
「いやいやいやいや! そんな、そんなんじゃないって」
「しかし……」
私も膝を突く。今だに顔を下に向けて譲ろうとしないケルレンスくんの肩を掴んで起こし、言葉を遮る。
絶望したような、しかし覚悟を固めている表情に、心がくしゃりと握られる。
「そっちばっか喋ってズルいでしょ。私の話も聞いて」
「……そうですね、すみません……」
「…………まず、私も……ここに来いって脅しちゃって、ごめんなさい。昨日は私も、うん、おかしかったから。アレナシで!」
「な、なし?!?」
再び驚いたような顔を見せる。
「う、だ、だって、あんなのお互いがお互いを見て見ぬフリすればいいんだから。……その、誰かに言っちゃった?」
「いいい言ってません言ってません言えるワケありません!!」
「じゃ、じゃあこの話はこれで終わり! 昨日は何もなかったし、今日も何もナシ! ……で、いいでしょ?」
「う………………。…………いえ、分かりました。昨日の様子も、今後尋ねることはしません。これで納得しろと言うのなら、そうします。──僕も、努めて昨日のことは忘れて生きます」
よ、よかった。誤解が解けたというか、なんか上手いところに説得できた。
「よ、よし! 終わり終わり! 昨日ヘンな約束をした気がするけど、無い! じゃあケルレンスくん特に用事がないなら帰っていいよ!」
「は、はい! すみません、お邪魔しました。──今日のことは本当に、恩に着ます。重ねてお詫び申し……ありがとう、ございました」
謝ろうとした彼を睨むと、渋々といった感じで感謝の言葉を述べる。
立ち上がった彼が私を通り過ぎて、部屋から出ようとする。
ふうっ、やっとひと段落だ。こんなトラブルはもうゴメンだ。疲れたしみおくったら早く寝よう。
ふと、なんだか、
「……アーサ、さん?」
「ねぇ、どうしても確認したいことがあるの」
彼の脚を、私の手が掴んでいた。
「
「え…………。は、はい。もちろん」
「
「は……」
まるで裏切られたかのような、今度こそ絶望した表情で見下ろされる。やだなぁ、罪を犯したのは僕の方ですって自分で言ってたのに。
「ど、どうしていきなり、そんな」
「──だから、どうしてもお願い。絶対に動かずに、私の顔をじっと見てて」
「……? 分かりました」
「これで、ちゃんと信頼できるから」
不可解さに首を傾げながらも、彼はじっとしている。
立ち上がって、肩を掴み、お互いの顔を近づける。
ケルレンスくんも、私の興奮に気づいたのだろうか? ごくりと唾を飲み、期待するように、指一本動かさず、私のことをじっと見つめている。
そのまま。
そのまま。
彼の瞳に、口を寄せる。
「れろ」
「────────────」
口を大きく開いて、喉奥を見せる。
「お゛っ、けぷっ」
「あ。────────」
なんだか
「んぐ。……む、ぐッ」
「………………」
ごくりと
ケルレンスくんは、ぼうっとしている。肩を叩き、正気に戻す。
「──それで、やっぱりちょっと不安だから。ケルレンスくんのこれまでの、
「……そうですね。本当の信頼を得るためには、やはりそうすべきでした。では、まず僕の秘密から伝えますね」
「やっぱり、ケルレンスくんにも秘密はあるんだ。どんなのどんなの?」
「うーん、あんまりアーサさんには聞かせたく無い話なんですけどね?」
私たちは正気だ。
ただお互いヘンな関係を持ってしまったので、お互いがお互いを信用するべく、情報を提供してもらうのだ。
例えそれが、
繰り返しになるけど、
────ケルレンスくんの、『考慮する』という思考が、破壊されている以外は。
「僕は、ニュダイオン王国騎士団に依頼された密偵です。暗殺者集団の隠れ蓑であるテレトイ市の“葦と楔”に、犯罪の証拠を通報するべく潜入しています」
「──────────え?」
エロパートの文量をシリアスパートで覆い隠そうとするバカはどいつだ!自分です。すみません。
もうしばらくこういうノリかもしれません。なんか書いてるうちに雪だるま式に膨れ上がっちゃって……