ケルレンスくんの告白を受けて、私の心はひどく荒れていた。
別に愛の告白を受けたわけではない。
いっそ、性欲に身を任せた睦言だったなら、どれだけマシだったか。
「──というわけで“葦と楔”の幹部陣であるペトリファイ、ガルペズ、グラナダ、フランの四人は、それぞれが王国内外の重大犯罪に多数関与していると見て間違いない、ということが騎士団の調査で分かりました」
「……」
「そこで、この危険人物四名について調査すべし、そうでなくとも彼らの運営するクランの実態を調査せよ……と王都の密偵隊に白羽の矢が立ちました」
「………………」
がらがら、と、音を立てて頭の中が崩れていく。
幼い頃、私を拾ってくれたペトリファイの大きな腕。高い背。
大雑把な私に小言を言い続けても、なんだかんだ裏方で見守ってくれていたガルペズ。
いつも美味しいご飯を作ってくれたグラナダ。彼にもっともっと料理を作って欲しくて、私はクランハウスの厨房を大きくするために仕事に励んだ時期があった。
母親代わりの、フランさん。ずっと優しくて、孤児院の寂しさを暖かい胸で覆い隠してくれたら、眠れない夜なんてなかった。
「で、当時は僕くらいの年齢の子供を積極的に勧誘していたみたいなので、撒き餌をしたら食いついたという訳ですね。当時密偵としては未熟な身だったんですが、適材適所ということで、僕が」
彼の言葉が、頭を素通りしていく。
今まで彼らが見せてきた愛は偽物だったの? それとも本心を覆い隠して、私のために自分達を偽っていたの?
「後からわかったことですが、これは頭角を顕にしてきた銀級冒険者アーサ・エレグベッド──つまり貴女を囲い込むために、比較的年代の近い冒険者を集めていたようです」
「あ────」
心に毒が注ぎ込まれる。疑念という毒が。
当時、どんどん同年代の仲間が増えていって嬉しかった。
彼らを入れてくれたペトリファイやガルペズに、感謝していた。
……今のクランハウスを建てる時、当初の予定よりもずっと大きな建物になった。
そこには、私の冒険者として大きな躍進が関係していた。
「おそらく、彼らにとっても貴女の稼ぎはバカにならなかったのでしょう。市民からは大きな名声と注目を集めますが、返ってアングラな活動を隠すめくらましとして活用してるのかも」
「………………やめ…………」
彼は止まらない。
「とはいえ、三年間潜入して、冒険者位階も銀級に上がったというのに、密偵としてつかんだ明確な証拠はゼロですけどね。しかしクラン長のペトリファイには、今でも不審な動きが見受けられます。彼らが関わったとみられる事件の残虐性から推測するに────」
「や、めて」
「────あの殺人鬼達が足を洗ったとは考えられない。大量死や虐殺、絶滅を引き起こした人物が、いまさらまっとうに生き直せるとは、思えない」
「っ────」
「彼らは大きなリスクです。野放しにしてはいけない」
「そん、な」
「証拠をつかむまで、僕はこれからもクランに気づかれないように潜入、調査、報告し続けます。……今、貴女に言ってしまったんですけどね」
「…………………………」
悪夢だ。
きっとこれは悪夢なんだ。
私の家族が、そんな悍ましいことに手を出しているわけがない。
私が愛した仲間達が、見知らぬ人々を大勢、殺しているなんて、そんなわけがない。
それに、目の前クラレンスくんだって、私は信頼してたのに。
頭を抱える。くらくらして、壁にもたれる。
「アーサさん、これらの調査結果は推測の部分を除き、ほとんどが事実ですよ」
「うそ、うそだよ」
「少なくとも、僕は嘘は言っていません。それに、僕のような密偵が送り込まれるほど、騎士団に危険視されていることは間違いありません」
「そんな、彼らはぜったいにそんなこと」
「絶対、は無いんですよ。誰でも仮面を被れば顔を隠せるし、真実を曲げて嘘をつくことができる」
「………………」
「それに、
「あ───」
確かに、と思ってしまった。
理由が定かでなくても、
「まあ僕個人の秘密はざっとこんなところですね。あとは密偵隊の秘密の鍛錬方法とかアジトとか王都への連絡方法とか……まあ、細かいやり方なので、こちらをどうぞ。喋りながら紙に書き起こしておきました。大雑把なものですので、後ほど気になったものは改めてお教えします」
びっちりと細かい文字の書き込まれた紙を、五枚ほど渡される。
投げやりに受け取って、よろよろとベッドに倒れ伏す。
もう嫌だ。こんな話聞きたくない。全部忘れてしまいたい。
眠ってしまいたい。
「アーサさん」
「………………なに」
枕に顔を沈めたまま、聞く。
「──────それでは、続いて幹部陣以外の、他の要注意メンバーについての調査結果です。ざっくり纏めるとメンバーの八割以上に殺人や強盗、強姦などの重犯罪の経歴があることが他の密偵の調査で判明しており、たとえば───」
なぜか、無視することも、眠ることも、叫ぶことも、彼を追い出すために立ち上がることもできなくて。
ただ、苦役の夜を、明かす。
***
朝。
夜通し喋り尽くし、そうしなかったことは書き尽くしたケルレンスくんは先ほど帰った。
徹夜で喉と手を酷使したフラフラの彼が無造作に出ていきそうだったので、迷彩に気配消し、道案内の魔法をかけておいた。
私も徹夜で聴き続けた。
でも、今感じているけだるさは、決して徹夜が理由ではない。
重すぎた。
暗すぎた。
惨すぎた。
家族で、仲間だと思っていた、
受け入れ、られなかった。
“葦と楔”は、犯罪者であることを隠す、悪人達の灰皿。
数人のそうでない人は、クランの闇を探ろうとする、裏切り者。
吐き気がする。
どうしてみんな、なんでもないようにニコニコ、毎日楽しく暮らしていたんだろう。
昨日出迎えてくれた人。あなたは人を五人も殺したんだよね。
それから隣の先輩は、夜な夜な見ず知らずの母娘を犯して回った変態。
数年前に市内の一軒家が強盗放火されたけど、この間加入してきた君が犯人だったんだ。
いつだか下ネタを振ってきた貴女は、自分の夫達から何度も何度も詐欺をしてたなんて。
そんな彼らを、積極的に取り入れているペトリファイたちは何を考えているんだろう。
そんな彼らに育てられ、仲良く暮らしている私は何なんだろう。
「どうして…………」
怒りと悲しみで心がぐちゃぐちゃになる。拠り所にしていたものが、あっけなく砕け散る。
うつ伏せのまま、口元を枕に寄せる。力いっぱい顔にめり込ませて、思いっきり叫ぶ。
「どうして
口に出せば、感情が爆発する。
───そしたらもう、とにかくムラムラしてきた。
「はっ? はっ???? 、???」
自分の体に、何が起こったのかわからなかった。
わからなかったというより、
全身が痙攣を始める。不意に背を反らし、顔が枕から離れれば、震える顎がカチカチと音を鳴らす。
身体中から汗が噴き出し、眼からは切れ目なく涙が流れ続ける。
皮膚から急激な寒気を感じても、体の芯からは焼けるような熱を感じている。
予兆も無く絶頂し、潮が下着と
「───? ♡──♡♡───……ぅ……??」
理解不能、意味不明の強制快楽に混乱する。
膣肉はぎゅうぎゅうと蠢き続けていて、強い快感を伝え続けている。
「な……ぁ♡、なに、が」
自分の状態を見るために体を横に転がし、くの字の姿勢になる。
私は
「───へ…………?? ♡♡♡」
それぞれの人差し指で、膣を掻き回し、拡げ、くちゅくちゅと耕している。
────また、絶頂する。吹き出した体液が下着を濡らすが、清浄魔法で綺麗に痕跡は消える。
どえやら、ケルレンスくんの話を聞きながら、一晩中うつ伏せの下で、
───この惨状を知覚した途端、具体的な、自慰の快楽が私を襲う。
「!? っ♡う゛っ♡やだぁっ♡♡いぐっ、いぎだ、ぐな♡♡♡」
再び迸る絶頂に耐えきれず、下着から手を引き抜く。指から粘液の糸が伝い、ネグリジェが汚れる。
絶頂時の硬直する体に鞭打って、またうつ伏せの姿勢に寝転び、両手はシーツを握りしめる。
魔法で粗相の痕跡が消えていき、絶頂は肉体に積み重なる。
今は細かいことを、何も考えられなかった。
(この……イキっぱなしを……なんとかしないと……♡♡)
足をピンと伸ばし、全身をベッドに釘付けにして、じっと耐える。
──そのまま、緩やかに絶頂する。
勝手に腰が揺れ、下着と寝巻き越しにクリトリスを擦っていた。
(──────♡♡……だ、ダメかもしれない──♡)
───陰部を何にも触れさせてはいけない。
膝を立て、腰を高く突き上げる。余韻だけで再びイった。
仰向けで凌ぐ。腕を組んで悶えていたら、乳首を擦ってしまい、イった。
いっそ膝を抱えて座る。失敗。無意識に、股間を踵で圧してイった。
「ふーっ♡、う゛〜〜ーっ♡、ふっ♡、♡♡ッ」
ベッドから降りて、ネグリジェを脱ぐ。全身の熱さに耐えきれず、下着も取り払い、一身裸体となる。
大股で仁王立ちすると、開かれた左右の太ももの間で大きな愛液の橋が架かる。
もう手のひらをどこに置けば良いかわからなくて、頭の後ろで手を組む。
目をぎゅっと瞑り、歯を食いしばり、脚に力をこめて踏み締める。
……視界を閉ざすと、それ以外のことがよくわかる。
涙が止まらず、何度も、何度も頬を濡らす。
「はぁっ♡、はぁっ♡、はあっ♡、はぁっ♡」
大きく開けた口から、私の息継ぎの音が浅く、規則的に響いている。
心臓は壊れたように早鐘を打つ。
体液が太ももを伝うけれど、魔法で掻き消えれば生温かさだけが残る。
もう空気以外何も触れていないはずの性器は、まるで
(あたまがくらくら、する───)
じっと耐えようとしていたけど、バランスを崩し、数歩、大きくよろめいた。
慌てて目を開けると。
────私は姿見の前に立っていた。
「ああ………………」
等身大の鏡像が、今の私を映す。
輝くような銀髪だけが、これまでの私と同じだった。
くりりとしていた黒い大きな目は、性欲に負けて暗く、蕩けている。
大きく開いた口は犬のように舌を出し、素早い呼吸で小刻みに上下している。
「あ……アハ………………」
口元が歪んだように笑い、より一層多くの涙が伝う。
手を大きく広げ、頭の後ろで組むポーズ。
首も、肩も、腕も、脇も、上半身の肌という肌がつるりと滑らかなのに、二つの乳房の頂点だけは、真っ赤に充血して尖っている。
脇に引き上げられた乳房が、その下へと影を落としている。
なだらかな腹筋は、真下から襲いかかる快感に打ちのめされ、呼吸のリズムすら無視して激しく波打つ。
脚は大きく、ガニ股に開いていた。
太ももで左右に引っ張られた大陰唇はその役目を放棄し、ぴんと勃ち上がるクリトリスが外気に晒され、震えている。
小さく見える尿道までもが、期待するように力んでいる。
上気した全身の肌の後ろで、なめらかな銀色が揺らめく。
腰まで伸びた頭髪だけがかつての私の姿を残していたけど、その対比が淫らな私を際立たせていた。
鏡には、性欲に犯されつくした自分の裸体を見せびらかす、変態女が立っていた。
───なら、それがわたしだ。
「ッッ…………ふッ………………フフ…………♡」
なんだか可笑しくなってきた。力が抜け、腰から崩れ落ちるようにへたり込む。
鏡に映るわたしが、解いた右手を後ろから下に伸ばす。
いまだに、膣口はぴくぴくと開いたり狭まったりを繰り返していた。指先でつう、と優しくフチを撫でてあげれば、膣口の戦慄きが収まる。
そうか。わたしは悪人に育てられなかったんじゃない。
最初から、悪い子だったんだろう。
他人の悪行を聞いてもなんとも思わない。
真剣に取り合わず、ただ目先の欲望を発散する。
こんなのが、良い子な訳がない。
悪い子だから、愛されたし、愛することができた。
仲間を。悪人を。家族として。
こんなに淫らで、これほどに最悪だった。それがわたしの全てだ。
ごくりと唾を飲み飲む。
ゆっくりと小陰唇が閉じるのを待ってから、今度は右手の人差し指と中指を挿入する。
「はぁ…………ああぁ…………♡♡♡」
ちゃこちゃこ、と水音を立てて掻き回す。中指で奥を擦り上げ、人差し指を折り曲げて中程を拡げる。
痺れるような快感で、ぱちぱちと火花が散る。
さらに左手の人差し指だけを、上側に浅く挿し込む。内側を押し上げ、外側からは右手の親指で、陰核を優しく挟み撃ちにする。
じっくり、強烈に、追い打ちをかけていく。
「うぅう゛〜〜ー♡♡〜〜〜……!!」
奥の方が物足りなくて、左手の人差し指を一気に突っ込むと、三本指を咥えた膣が喜びのあまり締め付けを激しくする。
そうすると今度はクリトリスが物足りなくて、また左手を入り口まで引き戻す。
甘い、せつなさが、性感を伴って火勢を強くする。
「あ゛ぁっ、はぁっ♡、うっ、んん♡、はぁっ♡」
喉にかかるような喘ぎ声が止まらない。
俯いた顎を上げれば、鏡に映る女は気持ちよさそうな顔で笑い、自分の股座で指を複雑に動かしている。
正面に映る自分の痴態を凝視しながら、手淫のペースを速める。
右手はそれぞれの指が別の生き物のようにナカを掻き回し、左腕全体を使って左手の指を激しく抜き挿しする。
ほとんど倒れ伏すような姿勢で、全力の本気で愛撫をする。これまでの軽弾みなイキ癖が嘘のように、快感を溜め込んだわたしの膣が、わたしのからだから焼け落ちるような、興奮の極致に達した。
「ううッ♡、はぁっ♡♡、んぐッ♡♡♡、イっ…………───♡♡♡♡♡♡」
三本の指が、ギチギチと締め付けられる。
この快感を逃してはいけないと、全身に力が入って強張る。
予感があった。
たとえ
───わたしは、性欲に身を任せることが、できる。
そういう悪人だ。
巨大すぎる快感に耐えきれず、地面に頭を擦り付けると、わたしの胸元が目に入った。
両腕に挟み込まれてむにゅりと形を変えたそれの、痛いくらいに勃起した乳頭に視線が吸い込まれる。
そうして自分のおっぱいを眺めていると、さらりと銀髪が背中から流れ落ちる。
うつむくわたしの周りを、陰で覆ってくれた。
***
…………ようやく、収まってきた。
指を引き抜くと、ちゅぽん、という音ともに、甘い痺れが走る。
最高に気持ちよかった自慰を済ませ、幾らか冷えた私の脳が思考を巡らせる。
絶頂の虚脱感の中で思い返すのは、ケルレンスくんの話だ。
……やっぱり、あの話を聞いて、素知らぬフリは、私にはできない。
たとえ性欲に耽る自分に幻滅しながらだろうと、彼らが本当に悪行を為しているというなら、私には、金級冒険者アーサには、みんなを問いたださない選択肢はない。
─────覚悟を決めて、体を起こす。眠気と性欲を叩き潰し、服を着替える。
今日は仕事の日。革の防具を纏い、金属の鎧を身に当て、長剣をベルトに佩く。冒険者としての格好だ。
仕事は午後からでもいい。
私を拾った時からクランに居た四人。
クラン長のペトリファイ、事務員のガルペズ、料理長のグラナダ。
それからフラン。
彼らから、話を聞こう。