仲直りをしよう。
ゆりかが帰ってきたら笑顔で迎えてあげて、それから、ごめんなさいって言うんだ。それは、母親との約束でもあったし、何よりもボクが区切りをつけるために必要なことだった。
それなのに、どうしてこんな事になっちゃったんだろう?
ゆりか から、他のネコの匂いがする。
それは、公園で見つけた野良猫に構ってたとか、そんなんじゃなくって。
たくさんの、知らないネコの匂いが、ゆりかの体から漂ってくるんだ。
喫茶店で見た ゆりかの様子が頭を過る。
ボクを避けるように視線を逸らしたのはしょうがない。
知らないネコの匂いがしたって、いつもならちょっとイヤだなって思うだけだった。
けどさ…。
その瞬間、全部がどうでも良くなった。
「マロンっ!? ちょっ、待ってって…きゃっ!」
驚く彼女の声にもミミが動かない。
背中を向けたゆりかに 襲いかかり、慌てる彼女を、せめてベッドの上に押し倒した所までが最後の気遣いだった。
お尻を向け、四つん這いになっている ゆりかを押さえつけると、堪らない興奮が押し寄せてくる。
破く様な勢いで、彼女のスカートを捲くり上げ、パンツを引きずり押した。
ガチャガチャと、履きなれない自分のズボンを下ろすのでさえも煩わしい。
苛立ちは、そのままボクのモノを大きく膨らませ、その時にはもう、何の準備も出来ていない ゆりかの中へと肉棒を突き立てていた。
「あぐっ…!! ぅぅっ、いた…ぁ」
「っ!?」
聞こえた悲鳴に、躊躇う気持ちもあった。
濡れてもないゆりかの中はまだ固く、突然の痛みに硬直しきった体は、ぐっ…と、拒むようにボクのモノを押し返してくる。
それがイヤだった。
ゆりかに拒絶されたみたいで、募った苛立ちが、ボクの下腹部を熱くする。
こんな事をして、余計に嫌われるのが分かっていても、一度暴発した感情を抑えられない。
だって、ゆりかはボクの物なんだ。
他のネコにとられるくらいなら、ボクがメチャクチャにしてやって何が悪いの?
ゆりか も ゆりか だよ。ボクの事が一番だって言いながら、なんでそんな簡単に他のネコを抱いてこれるのさ。当てつけのつもりなの?
ボクが、どんな気持ちで、キミの帰りを待ってたか。
ここ数日は、近くにいたって ずっと一人ぼっちだった。
ゆりかに合わせる顔が無いって、自分から避けといてさ。そんなボクに気を使ってか、ゆりかの方も遠巻きにボクを眺めることが増えていた。慣れていくのかなって。今までが、仲が良すぎただけでさ。飼い主と飼い猫の関係なんて、こんなもんじゃないのかって。考えるほど寂しくなって、考えるほど怖くなって、膝を抱えて震えてた。
それでも、母親に背中を押されてようやくさ、ちょっとだけ顔を上げる勇気も持てたのに。なんだって、他のネコの匂いをさせて帰ってくるんだよ。
「なんで…なんで。なんでなんだよ…」
泣き言を言う資格すらボクには無いのに。
「イヤだってっ、マロンなんか嫌いだってっ! なんで抵抗してくれないのっ! ゆりかが抵抗してくれないから、ボクっ…!!」
お腹の中の柔肉を引きずりながら、肉棒の先端で奥を小突かれたって、ゆりかは逃げ出そうとはしなかった。
ただ痛みに体を震わせて、苦しそうに息を吐きながら、ぎゅぅっとシーツにしがみつく。
ただ耐えるだけ。その瞳に溢れた涙ですら、頬に流れていく事は無かった。
「だってっ! 約束だったもんっ。お母さんとデートしたら、可愛がってくれるって。私が一番好きって、してくれるってっ、だからっ…わたしっ」
「好きってっ…。っ、バっカじゃないのっ。こんなの、ただ乱暴してるだけじゃんかっ!」
「いいよっ、それでっ! それでも…良いんだもん。マロンがしたいんだったら、乱暴でも何でも、させてあげるから…だから…だからぁっ」
もう、許して…。
ゆりかの言葉に胸が詰まる。それと同時に、今まで堪えてきた涙が、彼女の頬をつぅっと流れていった。
「私のこと避けないでよぉ…。お母さんとデートするのもやだぁ。マロンに嫌われちゃったら、わたし、わたしぃ…もう、どうしたら良いか分かんないのっ。ねぇ? まろん…。どうしたら、許してくれるの? わたしっ、わたしっ。いっぱいいっぱい、ごめんなさいって言ったよ? ほんとに悪かったって、思ってて。やりすぎちゃったって…マロンのこと傷つけたから…。なのにマロンっ、ずっと暗い顔いしたまんまで、私とケンカもしてくれなくって…」
もう、どうにもならなかった。
泣きじゃくって、声を上げて。こんなのもっとマロンを困らせるだけって分かっていても、一度溢れた感情は、私の中からボロボロと零れていく。
少しだけ期待していた。
他のネコの匂いを付けて帰ったら、イヤがったマロンが少しは 嫉妬してくれるんじゃないかって。マロンの好きはちゃんとそこにあるんだって確かめたかった。
バカだった思う。こんなすれ違ったまま そんな事したら、余計こじれるのは簡単に想像出来たはずだ。
私が部屋に帰った時、マロンの顔から表情が無くなっていた。
もともと顔に出す子でも無いけれど、それでも私は彼女の事は一番に分かるんだって自信はある。
怒るでも、悲しむでもない。
一瞬浮かべた笑顔の方が幻で、私が知ってるマロンはそこにはいなかった。
ズルい子だ。ううん、もっと酷い。悪い子だって思うよ。
だって、少なからず こうなる事を望んでいた自分がいる。
マロンに襲われたその瞬間「よかった」って、安心していた私がいる。
マロンの事をまた傷つけておいて。
それでもだ。マロンはまだ私を求めてくれるんだって。ただ、乱暴されるだけでもいい。マロンの強い気持ちが、私に向けられるのが嬉しかった。
痛いのも、苦しいのだって我慢できる。
まだ準備もできていない、私の女の子の部分を無理矢理に開かれるくらいで泣き言なんか言ってらんない。
大きく膨らんだマロンのおちんちんが、私の中に挿ってくる。
お腹の中がズリっと引きずられた様な刺激に、体中から汗が吹き出した。
痛みに涙がにじむ。喉が震えて、息を呑む度、息継ぎの合間に、掠れた悲鳴が漏れてしまう。
痛い。
痛い。
けど…それでいい。
私にはもう、こんな事しか思いつけない。
マロンを傷つけて、私も傷つけられて…。それでマロンが、私のこと掴まえててくれるなら、私は何だって…。
「ちがう、違うんだよ…ゆりか。ボクは…ボクはさぁ…」
それでもボクはネコだった。
泣いて許しを請う ゆりかの姿に。そんな彼女の中に自分のモノが挿ってるって状況に獣欲が吠えた。
もっとメチャクチャにしてやりたい。
他のネコの所になんか行かせない。
ゆりかはボクのものなんだって、ちゃんと分からせてやるんだ。
「いった…ぁっ、ま、ろん…もう、ちょっと…ゆっくり、あぅっ! かっ、はっ、んんぅぅ…まろん、おねがっ、あぁぁっ…」
柔らかいお尻に爪が立つ程に力が入る。
ゆりかの上げる悲鳴でさえ、ボクの興奮を強くするだけだった。
胸がジリジリする。
八つ当たりみたいに ゆりかを傷つけて良い訳がないのに。
あぁっ、くそっ。なんで、どうして、こんな気持ちいいんだよ。
「なんでっ、どうしてさっ…ゆりかっ!!」
「え、あ? な、んで? なんでマロンが泣いて…」
「ボクは…ボクはさっ。あ、くっ…ただ叱って欲しかったのに。めってっ、だめだよって、いつもみたいに、ボクのほっぺ掴まえてさ…。なのにゆりか、大丈夫だよって、マロンは悪くないからって、そればっかで…。ボクは、どうしたら良いんだよ。ごめんなさいっても、聞いてもらえないじゃんか…」
苛立ちと興奮が混ざり合う。
後悔と後ろ暗い快感に目が回りそうだ。
痛みに震えるばっかりの彼女の肌に興奮の気配はない。
それでも、乾いていた ゆりかの中は次第に湿り気を帯びてきていた。
じわり、じわり、じわじわと…。
熱り立った肉棒を動かすたび、先走りの汁が先端から漏れてくる。
乾いていたゆりかの 柔肉と、ボクとの間にも先走りは入り込み、動かしているうちに、だんだんと挿入が楽になっていく。
ぐちゅり、ぐちゅり…。
気づけば繋がったボクらの間から、水音さえも聞こえてきていた。
強引にゆりかを犯す。
後ろから押し倒し、四つん這いになった彼女をベットの上に押さえつける。
破るような勢いで服を剥き、止める声も構わずに肉棒を突き立てた。
その一つ一つの乱暴が、ボクの興奮を上向かせる。
それは、まるでネコの交尾みたいで、野生に戻ったかのような獣欲に、ボクの神経が逆撫でされていた。
「悪いのはわたしだもん。マロン、止めてって一杯言ったのに、わたし、わたし…全然聞いてあげなくって。叱ってなんて…上げられないよ」
「そうだよっ! ゆりかが悪いんだ、悪いのはゆりかだよ。でもっ、でもさぁっ…! 分かる? 気づいたら ゆりかの事押し倒してたんだよ? 泣きそうな顔しててっ、ボクらの繋がったとことかも、もうグチャグチャでさ…。そんなのっ、そんなのって…。ゆりか それでも怒らないしっ、他のネコの匂いつけて帰って来るし…なんだよっ、なんなんだよっ! 許してほしいのはコッチだよっ、ボクには、ゆりかしかいないのに…。バカッ、ばかっ…ゆりかの…ゆりかなんか…っ!!」
泣きながら ゆりかを犯していた。
気持ちいいのと、悲しいので、もう自分の感情に収集が付けられない。
だんだんと頭がぼぅっとしてきて、体の感覚が鈍くなる。
肉棒の脈動だけがハッキリと伝わってくると、下腹部に感じる熱が一段と強くなり、射精の予感に背筋がゾクッと震え上がった。
「あ、ぐっ…まろん、ごめん、ごめんね。わたし…わたし、はっ、あっ、つぅぅっ! そんなつもりじゃ、ううん…ごめん、ごめん…あっ、いたっ…くぅ…ぁぁぁっ」
こんなに言っても、こんなにされても、彼女は抵抗しなかった。
ただ叱って欲しかっただけなのに。伝わらない苛立ちが、ボクの興奮に拍車をかける。
いいよ、もういいよ…。
そんなにムチャクチャにされたいならさ。お望み通りにやってやるんだ。
泣いたって、止めてって言われたって、もう許してやるもんか。
こっちだって、勝手に気持ちよくなって。ゆりかの中に消えないくらい、ボクの匂いつけてやるんだ。
「あっ…ぐっ…」
マロンの乱暴な突き上げに、ゆりかは体を硬直させる。
シーツを強く握りしめ、反射的に逃げ出そうとする体をベットの上に縫い付けた。
一突き毎に、お尻を叩かれているみたいだ。
ぱちんっ、ぱちんって。
マロンが腰を大きく動かす度、お尻を強く打ち付けられて、これじゃお仕置きと変わらない。
マロンの嘘つき。一杯好きってしてくれるって言ったのに。
お腹が痛い。無理に広げられた女の子の部分が切れてしまいそうな不安もある。
ぐちゅり、ぐちゅりって。マロンのおちんちんから流れ始めた ヌルヌルが、少しは体を楽にはしてくれるけど。まだ、私の体は鈍い興奮を覚え始めたばっかりで、快感を感じるには程遠い。
「いっ…ぐぅ、ぁっ…まろん、ごめん、ごめんなさい…だから、ああっ!」
お仕置き。そう、これはお仕置きなんだ。
私が、マロンを傷つけちゃった。なんでも分かって上げられてるつもりで、大事な所に気付けなかった。
許して欲しいって、そう思っていたのがお互い様じゃ、いつまで経ってもすれ違ったままなのは当然だ。
でも、それはマロンだって悪いじゃん。
叱って欲しいだなんて、言ってくれないと分からないよ。
何か言いたそうな顔してさ、ぐっと胸の奥に抱えたままじゃ気づいて上げられない。
「マロンのばか…」
つぶやいた言葉がマロンのミミを撫でる。
けれど、聞き返す言葉に私が首をふると、それがまたマロンの神経を逆撫でしたみたいで、お尻を掴んでいた指先に力が入り、爪の先が余計に食い込んでくる。
「ぁぁぁ、ゃぁ…ぃっ、はぁっ、あぁぁぁぁ、あ、んぁぁぁっ…!!」
声が掠れる。体は熱を持ち、頭もだんだん鈍ってくると、どこが痛いのかも分からなくなっていった。
お尻を強く掴まれてるのは分かる。爪が立って、食い込んでて、腰を強く引き寄せられる感覚に、ドキドキとしない訳が無い。
1回、2回と、強く突き上げられる度、おちんちんの先端にお腹の奥を押し上げられ、声を上げさせられた。背筋がゾクッと震えて、頭を揺らされ、視界が霞む。
乱暴なマロンの行為を受け止めるのに必死だった。
逃げ出したいとは思うけど、そんな体を押さえつけてベットの上にしがみつく。
マロンを傷つけた分だけ、自分を傷つけないと気がすまなかった。
そうじゃないと、ちゃんとマロンの目を見て叱ってなんて上げられない。
「ああっ、くそっ、もうっ…ゆりかっ、ゆりかぁぁっ。ボク…っ」
ごめん。
だって。
なんでマロンが謝ってるんだか。
ズルいんだ。そんな事言われたら、私がマロンに謝れなくなる。
ああ、そっか…。マロンもずっとそうだったんだ。ごめんなさいって、マロンは悪くないからって。その前に、ちょっとでも叱ってあげれば良かったな。
そしたらマロンだって、こんなモヤモヤ、ずっと抱えてなくて済んだのに。
ズンっと、深い所まで入ってきたマロンのおちんちんが重たく響く。
それと同時に、溜め込まれていた精液の全部が、私の中に吐き出されてくる。ドクンっドクンっ…と、おちんちんは強く脈を打ち、乾いていた私の中がマロンの精液で溺れていった。
「あ、つっ…まろん、でて…わたし…は、あぁぁぁ…ひぅ、はぁっ、はぁっ…」
不思議な感覚だ。
あれだけ痛いのと、苦しいので、一杯だったのに。
マロンの精液の熱をお腹に感じただけで、少し体が楽になった気がした。
ちゃんと、マロンに満足してもらえた。
ちゃんと、マロンを受け止めてあげられた。
もしかしたら、そんな達成感が、私にちょっとした自信をくれたのかも知れない。
ぱちんっと…。
最後に強く、お尻にマロンの腰が打ち付けられると、残っていた精液が私の中に流れ込んでくる。
どろり、どろり、どろどろと…。
中に入り切らなくなった分が、繋がった二人の間から溢れ出す。
太もも伝い、ぽたりと雫が落ちると、白い染みが広がっていた。
はぁ…はぁ…。
そのまま、動けなかった。
射精を終えた肉棒が萎み、広がった隙間から流れでる精液の量が増えてもまだ、ゆりかを押さえつけたまま、マロンは荒い息を吐き出し続ける。
最高に気持ちが良かった。
けれど、それは同時に酷い罪悪感にも変わっていく。
ぴくっと、ゆりかの体が動いただけで、押さえつける手に力が入った。
何も言って欲しくない。何も聞きたくなんかない。その顔を見るのが怖い。
もう取り返しなんかつかないんだ。
嫌いだって言われた瞬間、ボクは ゆりかに何をするかわからない。
逃げないと。
もう、ゆりかに合わせる顔なんか無いんだから。
これ以上、彼女に酷いことをする前に。
「…まろん?」
「だまってっ。何も言わないで…なにも、聞きたくない…ボクは、ボク…」
「マロンのバカ…」
「へ?」
けれど、ボクが思っていたよりも、ゆりかの声は柔らかかった。
「だから。マロンのバカ、アホ、えっち、甘えん坊。おたんこなすのすけべ猫」
「へ、あ、なに?」
「何じゃないでしょ? 私に何したか分かってる?」
「何ってそりゃ…ごめん」
「ごめんじゃないっ。マロンって、謝ったら私が何でも許してあげるって思ってない?」
罵倒にしては柔らかい。けれど、畳み掛けるような言葉の連続に、ボクは返す言葉を思いつけなかった。
戸惑うボクの体を押しのけて、体を起こしたゆりかは、ボクの頬を両手で挟むと、ぐっと顔を近づけてくる。
「すっごく、痛かったんだから。すっごく、苦しかったんだから。もうすっごく、怖かったんだからねっ」
「う、うん…だから、ごめん」
「マロンっ!」
「あ、はい…」
「めっ、でしょっ! こんな事したら、もう、ダメなんだから…ね? 勝手に拗ねてないでよっ、叱ってほしかったんだったら、ちゃんと言ってくれないと…ぇぐっ…ぐす…バカ、もう、バカ、ホント、バカなんだから」
それで、限界だったんだろう。
ぐすっと、ゆりかは鼻を鳴らし、瞳にはぶわっと涙の粒が膨れ上がる。
「うぐっ、あ、ゆり、か。ごめん、なさい…ボク、ボク…」
けれど、限界だったのはボクだって同じだ。
ようやく ゆりかに叱ってもらえた。一番欲しかった言葉が胸に響くと、意地を張って凝り固まっていた感情が、涙に変わって頬を流れ落ちる。
「あは、泣き虫も追加だね、マロン?」
「…っ。泣いてるのは、ゆりかもだろ…」
「そうだよ? そうだけど…んっ」
「ゆりか…ぁっ、んっ…」
吸い込まれるように、ゆりかとマロンの唇が重なると、二人はベットの上に倒れ込んだ。肌を寄せ合い、抱き合って、絡まり合った指先と指先が、きゅっと引き寄せられる。
「ねぇ、マロン?」
「なに?」
「私のこと好き?」
「うん」
「うんじゃなくってさぁ…」
「…すき」
「えへへ」
「ねぇ、ゆりか?」
「すき」
「…まだ、なんも言ってないじゃん」
「言ってないけど、言ってたもん。顔に書いてる」
「ふん…。そんなの ゆりかの顔にだってさ?」
「なんて書いてるの?」
言われて、ゆりかの顔を見つめ返す。
何処か楽しそうで、なにかを期待されてるようで落ち着かない。
いま、彼女が一番欲しい言葉はなんだろう?
いま、ボクが彼女に言って上げられる言葉はなんだろう?
好きだっては、さっき言ったし。それ以上に気持ちを伝える言葉は思いつかない。大好きだとか、愛してるだとか、似たような言葉を重ねても、言葉が軽くなるみたいな気がしてしまう。
ちゅっ…。
「え、あ…んっ。もう…マロン」
「して欲しそうだったし」
結局コッチのほうが早い気がした。
10の言葉を重ねるよりも、一回のキスのほうがボクには性に合っている。
「言いたいことは言ってくれないと、私達またケンカしちゃうよ?」
「そう…だけど」
ゆりかが正しい。
それですれ違ったばっかりなのに、キスの一つで誤魔化そうとしたボクに唇を尖らせるのは当然だ。
「でも、好きってしか…いえないし。そんな何回もさ?」
「いいよ? 何回でも言って。何回でも聞きたいよ、マロンの好きなら」
「…好き」
「もっかい」
「好き」
「もっと」
「だから、好きだって」
「もっともっと」
ゆりかに煽られるまま「好き」って言葉を繰り返す。
口にする度、胸のドキドキは強くなり、だんだんと顔が熱くなってくる。
「あはっ♪ マロンってば顔真っ赤だね」
「もうっ、良いだろっ」
自覚してるのを口にされ、さらに頬が熱くなるのに耐えきれなくなったマロンは、慌てて ゆりかから顔を背けた。
「良くない。ほら、私の唇…開いてるよ? 塞いでくれないと、もっとからかっちゃうかも?」
「…っ。ゆりかってばさぁ…ホント、もうっ」
「きゃっ♪」
また、マロンに押し倒されちゃった。
けど、痛いのとか怖いのとかは全然なくって。むしろ、掴まれた手の力強さに安心さえもしてしまう。
こんなに強く掴まれちゃったら、私もう何処に行けないなって。
こんなに強く掴まれちゃったら、マロンはもう私を離す気なんか無いんだなって。
「ゆりか…」
「まろん…」
名前を呼び合い、顔を寄せ合って。その時にはもう、お互いに我慢なんか出来なくなっていた。
ー
朝。珍しく、一人で起きてきた ゆりかがリビングに入ると、楽しげに朝の準備をしている母親と、マロンの背中が目に入った。
じとー…。
ちょうど、そんな擬音が似合う有り様だ。
おはようの挨拶もそこそこに、朝食の準備を進めるマロン達の背中を睨めつけるでもなく、席についた ゆりかは ただただ視線を放り続けていた。
「ね、ね? マロン、アレ何? 仲直りできたんじゃないの?」
ついには耐えられなくなった母親が、隣で手伝っていたマロンに耳打ちをする。
「ああ。ボクらがデートしてたの見られててさ、多分それ」
「ヤキモチってこと?」
「だと思うよ?」
「そんな。娘の彼女とる趣味なんか無いんだけど…」
「彼女って…」
言われれば、そうなるのか。
初めて言われた恋人を意識させる言葉に、少しだけマロンの頬が赤くなった。
「違ったの? てっきりお母さん、ゆりかがタチ役なんだとばっかり」
「タチってなにさ?」
「ちょっと二人共っ、近くない? ね? ね?」
マロンの疑問を遮るかのように、母親との間に不満げな声が割って入ると、ゆりかの頬は、目に見えて膨らんでいった。
「やきもち焼くくらいなら、ゆりかちゃんも手伝って?」
「ヤキモチなんかっ、私は別に…。もうっ、マロンっ!」
「なに? ほら、パン焼けたから並べてよ? それならゆりかでも出来るでしょ?」
「むぅ…子供扱いしないでよぅ」
「はいはい。今日は一人で起きれて偉かったね?」
「だってっ…それは、マロンいなくって、お布団冷たくって…」
「寂しかったの?」
「うん…」
「そうなんだ。ごめんね…ほら、ちゅっ」
「んっ」
本当に、忙しい子達ね。とは、母親の感想である。
娘二人が仲良ししてるのは良い。けれど、目の前でキスまでされれば、流石に小言の一つも言わないといけなくなるのが、母親の辛い役目ではあった。
「二人とも? 目の前でやられると流石に見てるお母さんも恥ずかしくなっちゃうから」
「ああ、ごめん」「え、あっ…うん」
けれど次の瞬間。また、この子達はケンカするだろうなと、母親は大きく息を吐くしかなかった。
「それで、お母さん? 後はスープだけ?」
「おかっ…」
パキっと空気が凍る。主にゆりかの中でだけ、時間が止まっていた。
ついこの間まで、母親、母親と、役職で呼んでいた子が、デートの終わりに、お母さんって愛称で呼び始めれば、今のゆりかには聞き捨てならないだろう。
「なに?」
「何って…だって、マロン。この間まで、母親って、お母さんのこと…」
「そうだっけ? それより ゆりか、早く食べちゃいなよ? 学校遅れるよ?」
「良いよ、学校なんてっ。ねぇ、マロンっ。なんでお母さんのこと、お母さんって、ねぇマロンってばぁっ…」
二人の痴話喧嘩に、お母さんを巻き込まないで欲しい。
娘と三角関係をしたい母親が何処にいるもんか。
しばらく、マロンをデートに誘うのは控えようと、強く思った母親だった。