「ん…まろん…?」
「え?」
その声に、ミミが跳ねた。
人の体にも残っていたネコの尻尾を、ビクっと波打たせながら、恐る恐ると声のした方へと向き直る。
正直に怖い。
こんなボクの姿を見たら彼女はどう思うだろう?
気づいて貰えないだけなら良い。ボクにだって信じられないんだから当然だ。
けど、化け物を見たみたいに避けられてしまうのは、想像しただけでもかなり辛い。
果たして、ボクのドキドキとは裏腹に、寝返りを打ち、布団を蹴っ飛ばしたゆりかは、ただ寝言を零しただけだった。
「もう、脅かすなよ…」
寝ている彼女の隣へ腰を下ろす。
髪に触れ、頬を撫で、いつも自分がして貰っているように、ゆりかの頭を撫でてやった。
人の姿になってるせいか、ネコでいた時よりも胸がドキドキした。
好きって言葉、愛してるって言葉が、今までよりもハッキリと自覚できて、胸に抱いた愛情を抑えられなくなりそうだ。
「まったく、しょうがないな…」
本当に、寝相が悪いんだから。
広がった手足を畳ませながら、開けたパジャマを元に戻して おへそを隠す。
ゆっくりと、起こさないように優しく。
最初はただの親心。ネコの時にはして上げられなかった事が出来るのがちょっとうれしくって、子守唄でも歌えるような心地だった。
寝ている ゆりかの体に触れる。
そうしている内にだんだんと、親心とは違う愛情が膨らんでいくのに気づく。
心が、ざわざわとして落ち着かない。やましい気持ちっていうのが、胸の内側からボクのことを叩いてくるんだ。
うるさい、黙ってよ。
するにしたって、寝ている時にするなんて卑怯じゃないか。
でも…。
夢だったら良いんじゃないかって。
ゆりか が目を覚ました途端に、この夢が終わってしまっても良いのかって。
そもそも、これが夢だって保証もない。
けれど、夢じゃないって証明の方が遥かに難しく、そんなスカスカな言葉じゃ言い訳にすらならなかった。
だってさ…。
ネコが人になる訳無いだろう。だからコレはボクの見ている夢なんだ。
ネコだってバカにしたものじゃない。そのくらい考える頭はある。
なら、良いのかな…。
夢なら覚めないで、夢なら夢のまま、もう少しだけボクに時間を下さい。
「ゆりか…ねぇ、ゆりかってば…」
それが、ボクに残っていた最後の理性だった。
起こさないように小さく名前を呼びながら、そっと彼女の頬に手を触れる。
「起きないんだ…」
いつもそう。ボクが起こしてあげてるのに、一回じゃ起きてくれなくってさ。
分かってる? ボクが毎朝起こして上げてるのは、ご飯が欲しいからじゃないんだよ?
ゆりか が喜んでくれるから…。
忙しいそうに出ていくキミと、ちょっとでも長く一緒にいたいから。
なのに ゆりか はいっつもそう。「お腹すいたの?」だなんて、ボクのことを食いしん坊みたいに笑ってさ。
「ゆりかが…悪いんだから。そんな起きないなら、ボクにだって考えがあるんだから…」
そっと、ゆりかの唇を指先で撫でた。
ネコの時とは違う薄い肌。敏感で、繊細で、体毛の一つもない肌と肌とが重なると、トクンっと強く、ボクの心臓が音を立てた。
怒るかな?
かも知れないね。
こんなさ、寝ている女の子の体に触れるだなんて。
ボクだってそうさ。いくら ゆりかが相手でも、キミなら許してあげるんだけど、寝てる時に体を好き勝手に触られるのは「なにやってんの?」くらい言いたくはある。
でもって、言うのは言い訳なのか。
だけどって、言いたくなる気持ちもわかる。
無防備に寝ているキミに触ってみたい。ちょっとした好奇心と、ほんの悪戯心だ。
いつもなら逃げられるような所にでも、今ならきっと触れられる。
自分で自分が抑えられなかった。
人の体をもってしまったせいなのか。ネコだった時と比べて、ゆりかに対する感情が、ボクの中から溢れ出てきてしまいそうだった。
「おきてよ…ゆりか。起きてくれなきゃ、ボク…もう、さ」
指で触れるだけじゃ物足りない。
それだけで満足するなら、人の体なんて望まなかった。
ぽち、ぽち…。
パジャマのボタンを解いていく。
こんな細かく引っ掛かったボタンでさえ、簡単に解いていける人の指を便利に思う反面、煩わしくもあった。
めんどくさいな。
いっそこのまま、爪とかで無理矢理に引き裂いた方が早いんじゃないかって、ふと湧き上がった乱暴な獣欲をなんとか宥めすかした。
人の体になってまで、ネコみたいな事はやってられない。せめて、そのくらいの線引はしておかないと、自分のことが保てなくなりそうだ。
上から下へ、一つずつ。ボタンが解けていく度に、ゆりかの胸元が大きく開くと、まっさらな肌色がボクの目に焼き付いた。
「っ…」
喉が鳴る。唾を飲み込む。
とくんっと、強く跳ねた鼓動に押され「はぁ…っ」と、熱い吐息を零すと同時に、乱暴な感情が芽吹いていく。
ゆりかの裸なんて見慣れたつもりでも、人の視線で見る彼女の肌は眩しかった。
こんな、まだ、小さな胸の膨らみを鷲掴みにして、ゆりかの顔が歪むのを見てみたい。気持ち良がるんだろうか、痛がるんだろうか、止めてって怒るかな、良いよって許してくれるかな。
どんな彼女の姿を想像したって、ボクの興奮は変わらなかった。
何を、どこで、間違ったんだろう?
神様ってやつがいるなら、絶対意地悪なやつだ。
ゆりかと出会わせてくれたまでは良い。それだけは本当に感謝してる。
だけど、どうしてボクは人じゃないのか。夢の中ですら、どうしてボクを男の子にしてくれなかったのだとか。
全部が噛み合わない。
好きな人に気持ちを伝えようにも、ただの飼い猫以上の好きは彼女に届かない。
それが、どうにも悔しかった。
「えっと…こう、で、良いのかな」
晒された ゆりかの胸の膨らみに、そっと指を這わせてみた。
人と人との愛し方なんてボクには分からないけれど。彼女が熱心に読み込んでいた絵本の1シーンでは、赤い顔をした男女がこんな風に体を触れ合わせていたはずだ。
「ぁ、ぁぁ…すご、これ…やばぁっ」
指先で触れた ゆりかの胸の感触はとても柔らかだった。
ネコの姿で抱き上げられた時のことを思い出す。
あの時もだって、柔らかくて、温かくて、とくんとくんと、伝わってくる胸の鼓動を聞きながら、一日中でだってそこにいれたけど。
人の指から伝わってくる感覚は、あんまりに鮮明すぎた。
ちょんっと、つついただけで指先が沈み込んでいく。
ふわっとして、ふにゅっとして。体毛越しじゃない、直接 肌と肌とが触れ合う感覚に、指先が甘く痺れてしまう。
もっと、もっと触ってみたくなった。
指先一つで終わりなんて無理だ。
人差し指、中指、薬指に、小指と重ねて、親指をそっと添える。
一本、二本、指が一つ沈み込む度、指先から伝う快感は倍々と増えていき、ボクの手の平が彼女の淡い膨らみを包み込んだ瞬間に、感動とも、興奮とも付かない感情に、背筋がゾクッと震えてしまった。
「やばぁ…やわぁ…にゃぁ」
言葉なんて忘れるほどの衝撃だ。思わず「にゃぁ」と鳴きだしている事にさえ気づかない。
これだけでも、達してしまいそう。
いま、本当に、ボクにもおちんちんがあったなら、この瞬間にでも射精しちゃってるんじゃないかって思う。
もう、限界で、ギリギリで、だっていうのに。
「ふぁっ…ぁっ…はぁ…ふぅ…すぅ…はぁ…ぁっ、んっ…」
その声音に、頭に生えたネコのミミがピクっと反応し、尻尾の毛がゾワッと波打った。
夢現に、浮ついたような声の波。
どこか惚けるように吐き出した息は熱っぽく、整っていた寝息が少しずつ乱れ始めてくる。
「感じてくれてるの? ボクに、触られてさ、気持ちいいの?」
「はぁ…はぁ…ぁっ、ふぁ、んっ…すぅ…」
穏やかな寝息の隙間に、途切れ途切れにまざる浮ついた声。
それが堪らなかった。
揉んだり、撫でたり、優しく刺激を加える度に、彼女の呼吸が乱れていく。
こんなにしたら、もう起きちゃうんじゃないかって。
いくら寝坊助の ゆりかでも、ホントはもう起きていて、悪戯するボクになんて言って良いか分からなくなってるだけなんじゃないかって。
「ねぇ、ゆりかぁ…。起きてるならそう言ってよ、じゃないと、じゃないと、ボク、さぁ…」
もっと、彼女に触れてみたくなった。
だけど、淡い胸の膨らみに、手の平が吸い付いたみたいに離れてくれない。
右手は ゆりかの胸に添えたまま。かろうじて動かせた左手が、彼女の体を辿っていく。
頬を撫で、首筋をなぞり、肩を掴む。胸の膨らみを避けながら、脇腹に触れると、肋骨の凹凸に指先を遊ばせる。
どこに触れても柔らかくって、どこを触っても気持ちが良い。
ゾクゾクと、ゾワゾワと、肌が震えて、毛の逆立つような感覚を思い出す。
とくんっ、とくんっ、とくんっ、とくんっ…。
胸の奥で興奮の音が鳴り止まない。
「あっ…はっ、はぁ…っ」
ボクの指が、ゆりかのお腹を撫でた途端に、彼女は体をピクリと震わせた。
「どうしたの、ゆりか? お腹撫でられて気持ちよかった?」
その気持ちはわかる。
ボクだってそう。普段、誰にも触らせない場所だもの。それを許せるような相手に触られてるってだけでも幸せなのに、くすぐられるように可愛がられると、力入らなくなっちゃうよね。
愛撫を重ねる指の動きが止まらない。
触れて、重ねて、手の平で包み込んでいた彼女の膨らみを、ゆっくりと揉み始める。胸を揉みながら、お腹をくすぐっていると、遊ばせていた小指が、おへその窪みに滑り落ち。
くるっと…。
何かの拍子で、小指の爪がおへその奥を引っ掻いてしまった。
「ふぁっ! あ…はぁっ、はぁ、はれ…?」
さもありなん。
嬉しいような、怖いような。
おへその奥を刺激され、ゆりかはビクッと大きく体を震わせる。
瞼がゆっくりと開いていき、寝ぼけ眼のままでボクと視線が重なると、不思議そうな顔をしたまま、しばらく固まっていた。