次の日の朝。
二人はベットの上で向き合ったまま動けなかった。
どうせ夢だろうと、高を括っていた部分はある。
だからこそ、忘れられない思い出にしようと頑張ってしまったのが原因だ。
けれど、それは。
夢を夢のまま忘れたくなかっただけ。
二人で同じ夢を見れていたなら、幸せだなってそれだけで。
朝起きて、お互いが裸ん坊だった時の事までは、まるで考慮に入っていなかった。
「…マロン?」「…ゆりか?」
『え、あ、なに?』
仲が良すぎるのも問題だ。話しかけるタイミングまで全く同じ。
その度にお互い先を譲り合っては、沈黙の時間が長引いていく。
どうして?
同じ疑問を浮かべた所で答えは出ない。
なんのファンタジーじゃあるまいに、猫が人間の女の子になるなんてありえなかったし、それ以上に、昨晩重ねた行為のせいで、お互いに顔を見ることすらままならない。
「あと、じゃあ、その…体、平気?」
黙っていても始まらない。むしろ、先に手を出したボクが、一番気遣わないといけない相手を前にして、マロンは伺うように声を掛けた。
「うん…。まぁ、ちょっと、痛いところも残ってるけど、だいたいは…」
「うっ…ごめん。ボク…夢だって思ってて、あんまりにボクに都合が良いもんだから、やるだけやっちゃえって…それで」
もはや平謝りだ。
大丈夫だよって、声を掛けてくれる ゆりかの言葉にすらミミを塞ぎたくなる。
「私だって、夢って思ってて。それで、ちょっと、もうちょっとだけって思ってたら、なんか、どんどんすごいことになってちゃって…」
思い出しただけで顔が熱くなる。
頬を染めたまま、ゆりかまで顔を俯かせると、お互いに項垂れたまま、また指一つと動かせなくなってしまった。
「あぁぁっ、もうっ!」
「ふぇっ!? ま、まろん? どうしたの、急に?」
固まった空気に耐えきれずに、先に声を上げたのはマロンだった。
「一個だけっ、一個だけ聞かせてっ、ゆりかっ」
「は、はいっ、なに?」
「夢で言ってくれたこと、全部ホント? ゆりかは、ボクのこと、まだちゃんと好き?」
精一杯の勇気を振り絞ったさ。
ここで、乱暴してくるマロンなんて嫌いって言われたら、そこの窓から飛び降りる自信だってある。
だけど、ゆりかは悩む素振りも見せずに、ボクの頬を両手で掴まえると、真っ直ぐに目を見つめていったんだ。
「好きだよ。それは絶対だもん。夢だったからって、マロンとじゃなきゃそこまでしてなかったよ」
躊躇うことも、誤魔化すこともない視線をうけたマロンの頬は染まり、その口元がだんだんと緩んでいく。
「じゃあっ、もうっおしまいっ。いいから、早く着替えてよ、見てられないからさっ」
緩んだ顔を隠すみたいに、背中を向けたマロンの尻尾はだけど、嬉しそうに揺れたままだった。
「ふふっ、マロン? 尻尾、揺れてるよ?」
「うるさいっ。いいだろっ、そのくらい」
「はーい」
からかうような ゆりかの声音に、機嫌を損ねるどころか、マロンはさらに嬉しそうになって尻尾を揺らす。
けれど、着替えようとして散らばった服を集めていた ゆりかの動きは、ふと止まってしまっていた。衣擦れの音すら聞こえなくなり、気になったマロンが「どうかした?」と、振り返ろうとしたその時だ。
「あふっ、ちょっ、なにっ!?」
マロンの顔に枕が投げつけられた。
反射的に捕まえようとした枕が、先にゆりかに取り返されると、またマロンの顔に枕が押し付けられる。
恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい…。
夢だけど、夢じゃなかった。
ファンタジーかメルヘンか、あんまりな衝撃に忘れていたけれど、それを乗り越えた ゆりかは羞恥心を思い出していた。
でもだって、マロンは女の子なんだから良いんじゃないか。
彼女がネコの時にだって、幾らも裸になったこともあったのに。
「ちょっ、ゆりかっ。なんだって、きゅうにっ」
「見ないでってばっ! 恥ずかしいのっ、分かるでしょっ。あっち向いててってっ!」
あんまりな理不尽に、だけどマロンは逆らうことも出来ずにベットの隅に追いやられる。
なんで今さら…。こんな急に恥ずかしくなっちゃったんだろう。
思い当たるフシはある。
女の子として求められた自分の体に、強く女性を意識してしまっていた。
それだけならまだよかったんだけど。マロンが男の子らしく振る舞う度に、彼女にあったアレを思い出してしまうのが一番の問題だった。
彼女に彼を見てしまう。薄っすらとでも見えた異性の影に、ゆりかの羞恥心が強く刺激されていた。
「マロンのエッチっ!!」
その日一番の理不尽な言葉の訳も分からずに、しばらくマロンはベットの隅で小さくなるしか出来なかった。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
Q:どうして、最初から男の娘にしなかったんですか?
A:そっちの方がエロいと思ったからです。
これを書き始めた時点では、おねショタサキュバスものだったとは、誰も思うまい。