一部の勉強が得意な人間を除くと、授業中に当ててくる教師を好ましく思わないヤツは多いだろう。
間違えたらどうしよう、という不安。クラスメイトにジロジロ見られている、といった気恥しさ。あまり目立ちたくないといったネット時代の子供特有の性質。
そんなものが俺たち生徒を弱気にする。
しかし実力至上主義を謳う高育は、以上の理由を加味してか積極的に生徒を指名する教師が多い。
「――では堀北。前に来て黒板に(4)の問題を解け」
「はい」
3時間目。数学の時間。担当教師に指名された堀北は、立ち上がり、臆することなく悠然と黒板へと向かう。
「流石の堀北さんでもあの問題は解けないんじゃないの?」
クラスの誰かがボソリとそんなことを言う。
確かに、堀北が当てられた問題はかなりの応用がきいており、一筋縄でいく問題では無い。
しかし堀北は手を止めること無く、脳内の解答を書き写すだけの単純な作業だと、ものの数分で全てを解き終えてしまった。
「おお、堀北流石だな。途中の記述も含めて全部正解だ」
「ええ、当然です」
堀北は至って当然のことだと、自惚れることなく言ってのける。
その姿は非常にクールだ。
しかし堀北は今――――
ノーパンである。
その事実に注目して堀北の表情を見れば、確かにやや強ばっているとも言えるだろう。しかしそれが分かるのは俺しかいない。
「鈴音ってやっぱスゲーぜ!!」
そう言った須藤を筆頭に、堀北に対し一部から拍手が飛び始める。
堀北はそれを気にすることなく、スタスタと涼しげに自席へと戻っていく。
まるでレッドカーペットを闊歩するハリウッドスターの様な足取りだが、大事なことなのでもう一度言おう。
今の堀北はノーパンである。
* * *
他の生徒が続いて黒板に問題を解いている中、堀北は教師を伺いつつ俺に小声で話しかけてくる(今の俺の席は窓際列の1番後ろで、隣が堀北)
「ちょっと、今更だけど悪趣味過ぎるんじゃないかしら? さっきもヒヤヒヤして心臓が止まりそうだったのだけれど」
「ヒヤヒヤしたって下半身が――」
堀北から軽いチョップが飛んでくる。微妙に痛い。
「流石に授業中にこんなことするのは・・・・もし強風が吹いてきてスカートがめくれようものならどうするの?」
「その時は堀北の綺麗なおまんこを皆に見てもらお――」
今度は強烈な握り拳が飛んでくる。マジに痛い。
「ダメね、これは」
「ま、まあ今日に限って風が強いわけでもあるまいし。絶対バレないから安心しろって」
ため息を吐く堀北だが、教師の目を気にしてかそれ以上は何も言わなかった。
「本当に堀北は可愛いな―――」
俺はポケットに入れた遠隔ローターを手で触り、ニヤりと笑う。
真のお楽しみは、次の授業から始まるのさ。
* * *
3時間目の数学の授業が終わり休み時間に入ると、俺はすぐに堀北に声をかける。
「用があるから着いてこい」
囁くように俺がそう言うと、堀北は小さく頷き席を立つ。
教室の目の前だと他の生徒の目もあるので、少し離れた階段の踊り場を選び、そこで足を止める。
「今は授業の合間の休み時間なのだけれど――」
くだらない事を言い出しそうな堀北を制するように俺はポケットからピンク色の遠隔ローターを取り出し、それを目の前でクルクルと回す。
唐突なローターの出現にキョトンとする堀北。
「これが何か分かるか?」
一瞬考え込むような仕草をしたものの、すぐに合点がいったようで――
「っ――――田中くん、あなた私に授業中パンツを履かせないだけに留まらず、そんなことまでさせようとしているのね」
「ああ、不満か?」
「不満も何も―――決めたわ。もう私はあなたの言いなりにはならない。外村くんの動画の件も、そこまでされるなら水に流して貰って構わない」
堀北は冷徹に毅然と、それでいて目に一抹の不安を覗かせながら、言う。
ノーパンで授業を受けさせられて―――いやそもそもそれ以前に、俺に弱みを握られていたことから始まった全てに対しての、堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりの激高。
「つまり、俺に例の動画をバラまかれても問題無いと?」
「もちろん問題大アリよ。でも、これはもうそういう次元の話じゃ無いの」
堀北は語気を強めて更に言葉を次ぐ。
「そもそも私が外村くんの件であなたの脅しに屈したのは、外村くん個人を守りたいという訳では無い。クラス全体のポイントや空気感を保持するためよ。だから私は、私一人が我慢をすれば全体が助かるのだと、あなたの言いなりになっていたわ」
「なら、ローターで授業中にマンコ弄り回されて皆の前でアヘ顔晒すのも我慢できるよな?」
堀北は握り拳に力を込めて、前のめりになって反論する。
「そう、正にそこが問題なのよ。私とあなた2人だけの秘密に留めておける範疇の行為なら、悔しいながら全てを許容するわ。でもそれがクラスメイトの前で行われるのなら話は別。『クラスのリーダーである堀北鈴音の様子が最近変だ』そんな不安がクラス全体に蔓延すると、士気の低下に繋がる。それと、必然教師にこの秘め事がバレる可能性が高まるわ。もしバレたら、あなたは学校に強制退学させられて、それによってクラスポイントが著しく低下することは目に見えている」
そんなことは分かっている。ゆえに、ぺちゃくちゃと喋る
「つまり外村の動画がバらまかれることのリスクと、お前がこれからされるであろうことのリスクを天秤にかけた時に、どちらもそう変わらないということだな」
「ええ、そうよ。よく分かってるじゃない。分かったなら諦めてそのローターは廃棄しなさい。というよりそもそもそんなものいったいどこで購入したのよ・・・・」
呆れるように言ってから、俺からローターを取り上げようとする堀北。
俺はバックステップを取ってから、ついに切り札を切ることにする。
「まあ、そろそろそんなことを言い出す頃だと思ってな。ほら、これ見ろ」
俺はスマホを取り出し、周りのことなんて気にせず大音量で動画を再生する。
『ら、らめぇ――ほんとにイク、イク、いっちゃうのぉ!!』
堀北は顔を青ざめる。冷や汗がダラダラ垂れている。
単純ながら、精密に隠密に相手の死角まで計算し尽くした上でなら、弱みを握るのに非常に有効な手段。盗撮。
「これがバラまかれたら、外村の件とは違って堀北の学生生活は完全終了するだろうなぁ」
「盗撮を警戒して、常に田中くんの部屋中を観察してたのに―――」
観察、といってもせいぜいベッドの下やテレビの裏やそこらだろう。
やはり、常識でしか物事を考えられないのが堀北のウィークポイントだ。
「エアコンの排気口に1台。改造したシャーペンの中に1台。ちなみに堀北、お前自身にも盗聴器を仕掛けてるんだが、気付いてたか?」
最後のは、ここで堀北のまともな思考を完全に叩き割る為のブラフだ。
沈黙。休み時間の生徒の笑い声が、堀北を嘲笑うように木霊する。堀北が唇を噛む音が鮮明に聞こえる。
そして、
「分か――ったわよ。それを付ければ、いいんでしょう――!!」
ヤケクソ気味になった堀北は俺からローターを奪い取り、それをスカートの中に差し込もうとする。
「おっとそんな雑にやってもらっちゃ困る。俺がちゃんとクリトリスに付けてやろうか?」
「っぐ・・・・自分で付けるわよ!!」
そう吐き捨てた堀北は、急いで女子トイレの方角に駆けていった。
* * *
そして時は10分後に移る。
担任である茶柱佐枝による、日本史の時間だ。
起立礼着席をして、茶柱佐枝が教科書のページを指定してから授業が始まる。
当然何の変哲もない日常の一コマだが、今の堀北に取っては非日常極まれりだろう。
俺は横目で堀北を見る。
ポーカーフェイスを装っているが、いつ与えられるか分からないおまんこへの刺激と、パンツを履いていないせいでかなりソワソワしている印象が見受けられる。
そんな堀北を見て俺はローターのボタンを押―――さない。
単純に落ち着きがない堀北を見るのが面白いのと、常におまんこへの意識を向けさせることでその感度を高めさせるためだ。
数秒毎に向けられる横からの睨むような視線が痛いが、それも我慢だ。
「――では堀北。教科書102ページの上から3行目を音読しろ」
授業が始まって数十分して、堀北が茶柱に当てられる。
こくり、と軽く頷いてから堀北は席を立ち上がる。と同時に、俺にしか分からない程度にこちらを軽く見て『タイミングは考えなさいよ』と目で訴えかけてくる。
そろそろ頃合いだなと思った俺はニヤリと口角をあげ、ゆっくりとポケットの中のローターのボタンに手を伸ばす。
「――あひっ――!! んっ・・・・っふぅ~~~っ」
口を押えてこそいるが、甘い声が軽く漏れてしまっている。
焦らされたことによって嫌でも感度のあがった堀北のマンコは、渇望していた刺激を受け、快楽に全細胞を乗っ取られてしまう。
「やめっ――あっ・・・・んっ」
「どうした堀北、早く続きを読め」
茶柱は催促する。
堀北の近くの席の人間は、今の状況が普通では無いことを理解しているのだろう。露骨にチラチラと堀北の方に目をやっている。
今の堀北からは、メスのフェロモンが色濃く漂っているからな。
「堀北、大丈夫か?」
近くの席から、綾小路がいつもの感情の無いトーンで聞く。
綾小路の反応を更に確かめる意味も込めて、俺はローターの振動を2上げる。
「ふあ゛ひっ・・・・あんっ――!」
堀北は信じられないほどに下品な声を漏らしてしまう。
その頬は紅潮していて、更に大粒の汗もダラダラ垂れてしまっている。
「堀北、何かあるなら早めに先生に言っておいた方がい――」
「ほんとうにっ・・・・大丈夫らからぁ・・・・んっ!」
食い気味に返答する堀北。俺を差し置いて綾小路と会話するのが許せないので、振動1アップ。
よく見れば堀北の震えるふくらはぎには、粘りとした液体がこびり付いている。
そして、もうこれ以上はこのままで居ていられないと、堀北は意を決して手を挙げる。その手はガクガクと震えていて心もとない。
「なんだ、堀北?」
茶柱は怪訝そうに問う。
機を見た俺はローターの振動を最大値の1つ下まで引き上げる。
「体調が悪いっ・・・・のでぇ、ほけんし、つにぃ・・・・゛お゛お゛!!!」
軽くオホ声まで漏らしてしまう堀北。もはや9割強理性のダムは決壊してしまっているな。
明らかな異常にクラス全体がざわめきだす。
「堀北さん、顔赤いよ・・・・? それに腰の辺りを抑えてるし――痛いの?」
「熱あるんじゃないか?」
クラスメイトがトンチンカンなことを口々に言い出す。
もっとも、今の堀北の身に起きていることは常識で考えたらありえない事なのだから、当然ではあるけれど。
それが面白くて、意地の悪い俺はここにきてリモコンの強さMAXボタンを押す。
さんざん感度を高められた堀北が、この最後のひと押しに耐え切れる訳もなくて―――
「そう、朝から風邪っぽく・・・・お゛お゛お゛お゛~♡おまんこ気持ち良すぎりゅうぅう゛お゛お゛お゛ッ♡」
己の快楽を隠しきれず、最後に大きなオホ声を漏らす堀北。
常識では考えられない光景に、皆一様に絶句する。そして沈黙が訪れる。『おまんこ』その4文字を確かに耳に入れたクラスメイト達は、正しくドン引きと表現する他ない表情を浮かべている。
信頼を得るには長い時間がかかる。
「はぁ、はぁっっ・・・・ふっ、うー・・・・」
一方で悪印象がつくのは、いつも一瞬のことだ。
「・・・・早く保健室に行くんだ。誰か付き添いを・・・・」
決まり悪く茶柱が言う。しかしすぐに手を挙げる者はいない。
しかし、少ししてからおもむろに立ち上がり須藤が挙手した。
「鈴音・・・・立てるか?」
賢者タイムに陥っているのか、堀北は沈痛な表情で軽く頷く。
堀北の足はガクついており、それを須藤に支えられ教室から退出する形。
無様なことに、教室にはぽたぽたと堀北のマン汁が滴り落ちている。
堀北のことを心から想っていた須藤。今、一体どんな気持ちなんだろうな。
そして堀北。後日会いに行くのが楽しみで仕方ない。
* * *
堀北が退出してから、終始気まずい雰囲気が流れていた授業が終わると、金髪のナルシスト――高円寺六助が声をかけてきた。
「日陰者ボーイ。どうやら君は堀北ガールと随分ねんごろな関係になっていたようだねぇ」
高円寺は愉快そうに、髪をかきあげながら絡んでくる。
ウザイので何も反応しない。
「そうつれない反応をしてくれるなよ。ここ数日の堀北ガールの上の空な様子、そして先程のあからさまな異常言動。裏で糸を引いているのは君なのだろう? 日陰者ボーイよ」
「またいつもの妄言か。お前も飽きないヤツだな、高円寺」
――コイツは恐らく確信を持って俺に話しかけてきている。
それは証拠を掴んだからとか、俺と堀北の行為をどこかでたまたま覗き見たからとかでは無く、いわゆる『野生の勘』とかいうのに起因するのだろう。
「いやいや。私の前で嘘が通用するとは思わない方がいいねぇ。まあ第1――」
「第1お前は俺と堀北の関係性を看破したとして、それをわざわざ周りに言いふらすようなしょうもない人間じゃない、だろ?」
高円寺は不敵に笑う。
「どうやってあのクールでクレバーなガールを手懐けたのかは疑問が残るが――精々、心行くまで堀北ガールを愉しみたまえよ。全てを壊してしまわない程度にねぇ」
「忠告感謝する」
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