※この作品はR-18です。

天雨アコ「こんなイヤらしい社長が支配する会社に、私はぜったい屈しません!」→なお   作:a-su

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パフォーマンス・プロトコル

第1条 『目的』
パフォーマンス・プロトコルは、社員の業務成績に基づく表彰や懲戒、休暇の取得条件、社内ランクとそれに伴う特別報酬や特権に関する事項を定めるものである。これにより、社員が常に最高の業務成績を目指し、社長への忠誠心を高めるためのインセンティブを提供することを目的とする。

第5条 『ランクによる特権』
ランク「スカイブルー」または「パープル」に達した社員は、社長の私的スペースへ自由に出入りできる特権が与えられるものとする。








【前回のあらすじ】
 ディープキスで溶け合い、胸を押し合い、やがてシックスナイン──アコは初めて女性器を舌で愛撫し、ミカをレズプレイで絶頂に導いた。

 でもアコ自身はまだイけていない。一ヶ月の禁欲で飢えた身体が、ミカをイかせたことでさらに疼く。

「全部、私のおくちで溶かしてあげる♡」

 ミカの唇がアコの最も敏感な場所に触れた。ようやく満たされる、そのはずだった。


第四章 一之瀬アスナとパフォーマンス・プロトコル
前編


「っっっ…………、ぁ゛っ…………!」

 

 清潔だったシーツが、アコの汗と愛液を吸い込んでいく。シックスナインの体勢で上になった聖園ミカが、何十分もかけてアコから染み出させたものだ。

 お尻の下に広がる染みが、どれだけ濡れているかを教えてくれる。ミカのベッドは悶えるアコを受け止め、「もっと声を出していいんだよ」と衣擦れでささやいていた。

 

 あと一歩だ。アコの肉体はもう崖の縁に立っている。踏み出せば天に飛べる。奈落に堕ちることもできる。

 

 なのに。ああ、なのに、落ちない!

 

 ミカは、さっきアコがしたのと同じことをしてくれた。同じ場所を、同じ順序で、同じ優しさで探ってくれた。誠実に、アコを絶頂へ導こうとしてくれていた

 のだ。

 

「イっていいんだよ」

 

 という許可が何度も降ってくる。快楽の扉を開けてあげたいという、純粋な想いが伝わってきた。

 アコの身体も、その想いに応えようとはしていた。扉の前までたどりつく。鍵穴に手をかける。なのに、鍵が見つからない。

 身体は絶頂しようとしているのに、何かが足りない。何度も、何度も、「あと一歩」まで来る。でも、その一歩が踏み出せない。

 

「ど、どうして……? アコちゃん、イけないの?」

 

 ミカが小さくうなり、やり方を変えた。指の腹でクリトリスを転がしながら、舌を膣の奥にねじ込んでくる。だめだと分かると指を二本に増やし、舌先の角度を変え、また探り、また変え、飽きもせず繰り返してくれた。

 

「ちゅる……れろ、れろれろ……けほ、けほ、うー、んむ……!」

 

 ──でも、出せない。声が、出ない。部屋は許しているのに。身体は叫びたがっているのに。

 

「っ……ぅ……っ、ん゛っ……!」

 

 鼻から漏れる息。喉の奥でつぶれる声。唇だけが、音のない『もっと』の形に開いては閉じる。

 

(もっと……もっと、声を出したい……!)

 

 「気持ちいい」と叫びたい。「もっと」と懇願したい。でも、どれだけ喉を震わせても、音にならない。声の代わりに、胎内が全てを語っている。

 

 子宮が虚しく収縮を繰り返していた。何かを掴もうとして掴めない。絞り出そうとして、何も出てこない。

 骨盤の奥で、熱が凝り固まっている。

 クリトリスは焼けるように疼いているのに、その熱が行き場を失って、じくじくと内臓を灼いている。

 

 快感の残り火だけが、拷問のように全身を這い回っている。絶頂の手前で繰り返し引き戻される。満たされかけては、奪われる。

 

 ──苦しい。身体が、泣いている。

 

 崖の縁まで連れて行かれた。飛び立てるはずだった。なのに背中を押されるどころか、見えない腕に腰を掴まれ引きずり戻される!

 

(落ちたかった。落ちたかったのに)

 

 快感の残りカスが拷問のように身体中を駆け巡っている。気持ちいいのに気持ちよくない。満たされかけたのに、何も満たされていない。

 

「ごめんね……ごめんね、アコちゃん……私じゃ、だめなんだ……」

 

 天井の隅で、監視カメラの赤いランプが瞬いている。

 この部屋は秘密を守らない。外には漏らさないけれど、社長には全てを見せているのだろう。

 あの男が見ているのかもしれない。イけなくて悶える姿を、にやにやと眺めているのかもしれない

 

 ──そう考えた瞬間、子宮口のあたりが潤滑粘液を染み出させる。見られているという認識が、これから犯されるかもしれないから……と、女の体に思わせているのだ。

 

 やがて──アコの四肢から、緊張が流れ出していった。指先から、爪先から、砂が零れ落ちるようにほどけていく。絶頂できないまま、体力が尽きてしまったのだ。

 ぐったりとベッドに沈み込む。奥がまだ脈打っているけれど、もう動けなかった。

 静寂が二人を包む。

 

「ごめんね……アコちゃんは、悪くないよ。私がね、ウソついちゃったの。女の子とするの初めてだから、きっとそのせいで」

 

 ミカの声が優しい雨のように降ってきた。少し涙を含んでいる。

 ぐったりと横たわるアコの横に身を寄せ、細い腕で壊れ物を包み込むように抱きすくめる。

 汗ばんだ肌と肌が触れ合う。どこまでが自分の熱で、どこからがミカの熱なのか。その境界が曖昧になっていく。

 

「辛かったよね……ごめんね、私が下手っぴだから。ダメな子で、ごめん」

 

 ミカの指が、アコの髪の間を滑っていった。こめかみから後頭部へ、生え際をなぞる。絡まった髪を解くでもなく、ただ存在を確かめるような動きだ。

 

 ウェットティッシュを取って来て、アコの顔をぬぐってくれた。ミカの愛液で濡れた頬を、ひと拭い、ひと拭い。

 ひんやりした布が肌に触れるたびに、火照りだけが残っていく。続いて、首筋を、胸を、お腹を──壊れ物を扱うような手つきで、汗を拭い取っていった。

 

 アコは、ミカの腕の中でぐったりと横たわっていた。イけなかった身体がまだ疼いている。でも、もう動く気力がない。

 

「ねぇ、アコちゃん……今日はもう寝よ? それで、明日……ね?」

 

 ミカが、アコの髪に指を通しながら囁いた。一本一本、髪をすくい上げては落とす。

 

「社長のところに行こう? 私、一生懸命お願いするから。アコちゃんを抱いてあげてって。そしたら絶対、確実にイけるよ」

 

 朦朧とした意識の中で、アコは枕に頭をすりつけた。左へ、右へ──言葉にできない拒絶を、それだけで伝えようとする。タブレットに手を伸ばそうとしたが、力が入らない。

 代わりにミカの手をぎゅっと握った。

 

(イヤ。社長は、イヤです)

 

 その力だけが言葉の代わり、声の代わりだ。

 

「しろって言われたら、裸で土下座する。みんなが見てる前で、オナニーしてもいい。アコちゃんが絶対、ぜったいイけるようにしてあげるからね」

 

 社長のペニスでイかされる。あの男と、性器を一つにする。考えたくもない。

 でも、ミカへの怒りはなかった。

 いつもなら、社長という言葉に胸をかきむしられていただろう。だけど今は疲労と、ミカに抱かれている安心感とで、頭と心がうまく繋がらない。

 

「大丈夫、痛くないからね。あの人のおちんちんってね……そんなに大きくないの。それに、仮性包茎って言うのかな? ちょっとね、かわいいんだ。私が皮をムキムキしてあげると、すごく嬉しそうな顔するの」

 

 安心させようとしているのだろうか。ミカの声は、安らかな響きがあった。

 

「それに、とっても優しいの。女の子大好きって顔をいつもしてるけど、意外とね、激しく動くのは自分が出すときだけなんだ」

 

 ミカの目が、天井の一点に留まっていた。瞳孔がわずかにひらき、焦点がどこにも合っていない。

 

「それ以外はね、ずっと私の反応を見てくれてるの。『ここ、気持ちいい?』『ミカ、もっとゆっくりがいい?』って。すごく丁寧で、誠実で。私の身体を大切にしてくれてるのが、おちんちんから伝わってきちゃうの」

 

 ──それは、アコが想像していた「レイプ魔」とは、まるで違う男性像だった。乱暴に犯す男だと、女性を道具のように扱う男だと思っていた。でも、ミカの口から出てくる彼の姿は、全く違うものだ。

 

「入ってくるときもね、ゆっくりなの。私の中が慣れるまで、待ってくれる。それから、奥の奥まで……根気よく、探ってくれるの。「『ここだ』って場所を見つけたら……そこを、ずっと……」

 

 ミカの頬が紅潮していた。語るうちに身体まで思いだしてしまったのだろうか、むき出しの太ももを無意識にすり合わせている。

 ミカが首を振ると、流れた髪の下にヒュプノスペックが見えた。

 

「イかせてくれるときは、もっと丁寧なの。私が一番気持ちよくなれるように、耳元で……『ミカ、我慢しなくていいよ』って、『僕のお姫様』って、何度も言ってくれて……それで私、めちゃくちゃに」

 

 そのLEDが、イエローに点滅し始める──ミカの身体が、ぴくぴくっと痙攣する。

 

「じ、自分が何したかったのか頭から吹き飛んでっ、心が全部おちんちんだけになって……わたし何度も、何度も……うぅぅ、大好き、大好きなの、愛してるっ、会いたいよ、今すぐ抱きしめてほしい……!」

 

 語り続ける声は恍惚を帯び、そして、愛の苦しみで震えていた。

 

(ミカさん……ごめんなさい)

 

 アコのまぶたが落ちかけていた。朦朧とする意識のすき間を、ひとつの想いが漂っている。

 

(社長に愛されていたって、いつかもう一度愛されたいって、心から思っているんですね)

 

 伝えたい。「違う」と言いたい。「あなたは騙されている」と叫びたい。

 でも、声が出ないのだ。タブレットを打つ力も残っていない。ミカの手を握り返すことしかできない。

 

 そして──。

 

「アコちゃんも『幸せ』にしてあげてよぉぉ……」

 

 ミカは監視カメラに向かって顔を上げた。琥珀色の瞳から、涙が一筋、二筋と頬を伝っていく。拭おうともせず──見せつけるように。

 幸せをアコにも分けようとしているのだ。悪意なく純粋に、「いいもの」を分け与えようとしている。

 

 ようやく気づいた。ミカは、今までで最悪の敵だ。愛と幸福を伝道し、アコを社長側に引き込もうとする無意識の陵辱者なのだ。

 

(ミカさん、ごめんなさい)

 

 だがそれも仕方ない。何しろ騙しているのはこちらなのだから。もう一度社長に愛されようとささやき、彼女を労働組合に引き入れたのはアコなのだ。

 

(ごめんなさい……純なあなたを利用しようとして、本当にごめんなさい)

 

 シロコの言った通りだった。誰かを大切にすること。誰かと心を交わすこと。それ自体が、アコという蝶を絡め取る蜘蛛の糸なのだ。……人を大切に思う限り、この牢獄からは抜け出せない。

 

(ああ……怖いのは、男だけじゃないんですね。女性だって、こんなに……こんなの、レイプよりも……)

 

 ──その時。

 

 かちゃり、と、外につながるドアが開いた。

 廊下の光が這うように忍び込んでくる。ミカの居室を舐め回すように、蛍光灯の白が床を侵食していく。

 

「お楽しみのところ、ごめんね♡」

 

 その光に乗って、声がとろり、と滑り込んできた。熟れすぎた林檎から垂れる蜜のような──自然の中にある禁断の甘さだ。

 アコは重いまぶたをこじ開けようとした。まつ毛が絡まるように震え、にじんだ視界がゆっくりと広がっていく。

 

 飛び込んできた色はライトブルー。ハイレグ・レオタードのバニースーツから、網タイツに包まれた長い脚が伸びている。うさみみカチューシャの下にあるのは金にも見えるスーパーロングヘア、そして青い切れ長の瞳。

 

(アスナ、さん……?)

 

 声は出ない。唇が、その名前の形を作っただけだ。

 逆光の中に、一之瀬(いちのせ)アスナが立っていた。

 満開のヒマワリのような笑顔だ。まるで久しぶりに友達を見つけた女子高生のように屈託なく、無邪気な──その唇は、蜜をなめた後のように艶めいているけれど。

 

 その後ろにも小柄な影がある。

 

「あーぁ、ひっでぇ顔。泣きすぎじゃね?」

 

 ガラの悪い口調だった。確か、美甘(みかも)ネルというアスナの上司だ。こちらはメイド服を着て、なぜかスカジャンを羽織っている。

 アスナとネルが無響室に足を踏み入れてきた。

 

「ミカちゃん、お疲れさま♡」

「い、一之瀬アスナ……? なんで……」

 

 ミカは声を震わせた。アコを抱きしめ、後ずさろうとする。

 

「なんでって、決まってるじゃない。アコちゃんを、迎えに来たんだ♡」

 

 アスナが一歩を踏み出した。

 網タイツに包まれた長い脚が交差する。ハイレグのふちが鼠径部に食い込み、歩むたびに網タイツの下の肌が浮き出る。

 

 また一歩。太ももの内側が触れ合い、しなやかな筋肉がサテン地の下で波打つ。

 ヒールがフローリングと奏でる音が、開け放たれたドアから抜け出て通路に響く。

 

 ──次の瞬間、アコはミカから引っぺがされていた。

 忍び寄っていたネルがアコを抱き上げ、空いていたベッドに移動させる。小柄な体格からは信じられない腕力だ。

 

「おい暴れんな。すぐ終わる」

「アコちゃ──んむっ」

 

 ミカの声が途中で止まった。見ると、アスナが手で彼女の唇を塞いでいる。

 

「んっ……むぅ……」

「どーもお疲れ様! ミカちゃんはもう十分頑張ったから、お掃除は私たち『C&C』に任せて? ね?」

 

 二人のヒュプノスペックが同時に、しかし違う色に点滅する。ミカは力が抜けたように崩れ落ちた。

 

 アスナはネルと場所を変わり、アコがいるベッドの上に両手をつく。

 アコの視界が、肌色に埋め尽くされた。

 

 Jカップを誇る双丘が、バニースーツの三角形からあふれ出ようとしている。乳輪のピンクはギリギリで隠れているだけだ。重力に従って実る乳肉が、アコの顔のすぐ上で揺れていた。

 深すぎる谷間に溜まったアスナの汗が照明を反射し、ぬらりと光る。

 

「久しぶりだねアコちゃん、元気だった?」

 

 声は以前と同じだった。明るく、朗らかで……。

 

(まるで、友達に話しかけているみたいじゃないですか……!)

 

 アコは眉根を寄せ、声の代わりに視線へ怒りを凝縮させた。唇を引き結び、震える顎で言葉を噛み殺す。

 

(私を裏切ったくせに!)

 

 しかしアスナは、その視線を受けても微笑みを崩さない。ベッドの端に腰を下ろし、網タイツの長い脚を組んだ。ハイヒールの先端で床をとんとんと叩く。

 

「怒ってるよね? 分かるよ。でもね、私はずっと、アコちゃんの味方だよ?」

 

 指先が、アコの唇に降りてきた。爪を立てず、指の腹だけで下くちびるの輪郭をなぞっていく。

 乾いたリップが、指先の湿り気を吸い取ろうとするように震えた。

(嘘だ)

 アコの心が叫ぶ。社長の首を絞めようとしたとき、頬を張ったではないか。その後ずっと社長に媚び続け、彼の支配に手を貸していた。味方? 冗談ではない。

 

「ほんとだよ?」

 

 アスナが顔を近づけてくると、吐息がアコの唇にかかる。知っている匂いだった。入社式の日に抱きしめられたときと同じ──陽に温められた果実のような、肉体から直接立ち上る甘さ。

 

「アコちゃんに分かってほしいの。ご主人様のこと」

 ご主人様。

 その言葉に、アコの眉が跳ね上がる。

 

「ご主人様はね、背も低いし太ってるし髪も薄いし、中年のおじさんだけど、でも悪い人じゃないんだよ。ちょっと変わってるだけ。アコちゃんが怒ってるのは分かる。でもね、ご主人様って、アコちゃんのことをすっごく気にしてるんだよ?」

 

 アスナの指が、アコの首筋に沿って降りていく。耳の下から鎖骨の窪みまで、血管の上をたどるように。触れられた場所から、鳥肌が這い広がっていった。

 気にしている? 性犯罪者が、被害者を「気にしている」だと?

 

(ふざけないで)

 

 アコの瞳孔がきゅっと収縮した。まばたきを忘れたまま乾いていく目に、熱までが溜まっていく。

 しかしアスナは、その怒りを「可愛い」と言わんばかりの目で見ている。

 

「ね、アコちゃん」

 

 アスナの唇が、アコの耳元に近づいた。

 囁き声が、鼓膜を震わせる。

 

「イきたいでしょ? 一ヶ月も我慢して、今夜はミカちゃんとあんなに頑張って、でもイけなくて……辛いよね。苦しいよね」

 

 アスナの舌先が、耳朶の縁をかすめた。ほんの一瞬、濡れた熱が触れて──離れていく。その名残が、じんと痺れて残った。

 

「身体が、壊れちゃいそうだよね」

 

 ──もう限界だ。身体中が悲鳴を上げている。

 

「私ね、アコちゃんを楽にしてあげたいの」

 

 アスナの手のひらが、アコの乳房に降りてきた。指を揃え、下から持ち上げるように。手のひらの熱が、隠すもののない肌に染み込んでいく。

 

「ここも、こんなに硬くなって……可愛い……♡」

 

 指先が勃起した乳首をつまんだ。

 

「んっ……!」

 

 喉の奥で声が砕け、蒸気のような息だけが唇から零れた。身体が弓なりに反る。火照りきった身体には、小さな刺激が稲妻のように響く。

 

「アコちゃん、ほんと可愛い。大好き」

 

 アスナが目を細めて微笑んだ。人差し指と親指の腹で、勃起した先端をくりくりと弄ぶ。まるで珍しい木の実でも見つけたような、無邪気な手つきで。

 つまむ。

 引っ張る。

 責められながら、アコは快楽の波に呑まれていく。

 あと一歩。あと少し。もうすぐ──。

                   ぴりっ。

 遮断された。また。また、止められた。

 

「あ……あ……」

 口が大きく開いて──そして、閉じる。

 

「ほら私、マリンブルーになったからさ。イエローの子に『お仕置き』ができるんだ。アコちゃんのイくの、止められちゃうの。ごめんね」

 

 アスナの親指が、アコの目尻から頬骨へと滑った。涙の筋を、塗り広げるのではなく、吸い取るように。

 声だけ聞けば、風邪をひいた妹をあやす姉のそれだった。

 

「イけないの、つらいよね。身体がこーんなにほしがってるのに、ぜんぶ止められちゃう。でも、これがイエローなの。アコちゃんがやったことの結果。ひとりで生きるっていう罰なんだよ」

 

 騙して入社させ、洗脳しようとして、逆らったから罰? ふざけるな──そう言いたい。だが声は出ないし、もはや怒る気力もない。一体どうすればいい?

 アスナがベッドの端から立ち上がって、アコの腰をまたいだ。網タイツの内ももがアコの脇腹に触れる。馬乗りのまま、両手首を頭の上に押さえつけた。

 

「簡単だよ。私に、頼んで?」

 

 唇が、アコの耳元に降りてくる。

 頭の中で考えたことに返事が返ってきた。だけど、今さら驚くことではない。アスナがひどく勘がいいことは、友人だったころから知っている。

 

「謝れば──イかせてあげる。ご主人様にじゃなくていいの。私にね、『ごめんなさい』って言って欲しい。

そしたら、アコちゃんをイかせてあげられるよ?」

 

 ご主人様。社長。あの性犯罪者。

 謝る。何を。首を絞めようとしたことを?

 

(そんなこと……できるわけ……)

 

 アコの理性が叫ぶ。

 でも、身体はもう限界だった。一ヶ月。三十日と数時間。その間ずっと、火照りは消えなかった。眠っている間も、食事をしている間も、下腹部の奥で熾火が燻り続けていた。

 

 今、その熾火が炎になろうとしている。消せない。抑えられない。全身の血液が骨盤に集まり、内側から破裂しそうだ。

 頭は「嫌だ」と叫んでいる。なのに身体だけが、「お願い、楽にして」と懇願している。

 

 アコは、自分の身体が信じられなかった。こんなに惨めで、こんなに卑しい身体が、本当に自分のものなのか。

 しかし声は──。

                    ぴりっ。

 

「そ、んなこと…………あ……れ……?」

 

 のどから音が漏れた。かすれ、震えているが、確かに「声」だ。この一ヶ月がウソのように、本当の声がアコの肉体に戻っている。

 アスナは真上から覗き込んでいる。アコの両手首を頭の上でおさえつけ、馬乗りになっているのだ。

 もう片方の手──自分のヒュプノスペックに添えていた手を、アコの頬にうつす。

 

「声、出るようにしたよ。これでお話しできるね」

 

 笑顔はぱあっと、太陽のように明るい。

 

「アスナ、さん……!」

 

 手首を振りほどこうと力を込めたが、指先がぴくりと震えただけだった。

 視界の端で、ネルがさきほどまでミカと自分がいたベッドを淡々と片付けていた。愛液で濡れたシーツを乱暴に剥がし、マットに消臭スプレーを吹き付けている。

 ミカは床にお尻を下ろし、ベッドの縁を背もたれにしてぐったりしていた。頬には涙の跡がある。何も言わず、疲れ切った目でアコたちを見ている。

 

「謝ればイかせてあげるって言ったよね? ちゃんと声に出して、謝れる?」

 

 アスナの声が、絹糸のように細く、それでいて絡みつくように耳の奥へ滑り込んでいく。

 

「…………」

「ご主人様にじゃなくてもいいの。私にでいい」

「う…………アスナ、さんに…………」

 

 謝れば、イかせてくれる。

 でも、欲望のために、矜持を曲げるのか?

 

「辛かったね。イきたいよね……一ヶ月も、我慢してたんだもんね」

 

 アスナの掌が、アコの頬を覆った。指先ではなく、手のひら全体でだ。体温が、冷えた涙の跡を溶かしていく。

 

 ──分かっている。これは誘導だ。アスナはアコを操ろうとしている。何かの心理的テクニックを使って、心理的ハードルの低いところから精神を崩そうとしているのだ。

 分かっているのに、身体は求めてしまう。親友だと思っていた女の子の優しさと、温もりを。

 

「ねえ、一つだけ聞いていい?」

 

 アスナの声が、少しだけ真剣になった。

 

「社長の首を……絞めたよね?」

「……はい」

「殺そうとした……よね?」

 

 アコは唇を噛んだ。認めたくない。でも、嘘はつけない。

 

「……はい」

「どうして?」

「……」

「怒ったから?」

「……怒った……から……」

「じゃあ、怒ったら人の首を絞めていいの?」

 

 息が止まった。

 

「……だめです」

「相手が悪い人だったら……殺していいの?」

「いけません……」

「そうだよね」

 

 アスナの声は、子守歌のように穏やかだった。責めてはいない。でも逃がしてはくれそうにない。

 

「社長は……怖かったと思う?」

「……」

「死にそうだって……思ったかな」

 

 視界がにじんだ。頬を伝う液体が、火照った肌よりなお熱い。

 

「アコちゃんは……『人殺し』になりかけたんだよ」

 

 嗚咽が漏れる。

 

(私は──殺人者になるところだった)

 

 人の首に手をかけ、力を込めて、命を壊そうとした。相手が誰であれ、どんな理由があれ、それは、絶対にやってはいけないことなのに。

 

 視界の端では、ネルがミカの身体を拭いていた。

 ホットタオルが白い湯気を吐き出しながら、ミカの肌に寄り添っている。汗と涙と愛液の痕跡を、労わるように拭い取っていく。

 ミカは力の抜けた四肢をネルに任せながら、アコを見つめ続けている。

 見守ってくれているのだろうか。アコが殺しかけた相手を、真剣に愛している彼女が……。

 

「社長の首を絞めて……申し訳ありませんでした」

 

 言葉があふれ出す。

 

「絶対に、やってはいけない……ことでした。相手が誰でも……」

「うん」

「本当に……本当にすみません……」

 

 嗚咽が止まらない。

 

「あ、りがとう、私を止めてくれてっ、ありがとう、ございますアスナさん゛ッ…………!」

 

 本心から出た言葉だ。罪悪感と感謝の念が、次々と涙を作る。

 

「よく言えたね。アコちゃん、偉い」

 

 アスナが慈しむように微笑む。

 手首を押さえていた指がほどけた。その手がアコの頬へと移動していく。両の掌で顔を挟み込む──逃がさないと言いたげに、でも壊さないように優しく。

 

「許してあげる」

 額に唇が触れた。

 まぶたにも。

 鼻先にも。

 そして──唇に、そっと重ねられた。舌は入ってこない。優しくて、清らかなキスだ。

 アコは抵抗できなかった。むしろ、救われたような気持ちになる。

 

「じゃ、サプライズパーティーにしよっか♪」

「……え?」

 

 アスナはアコから離れ、和やかに笑い──くるりと振り返る。

 

「ご主人様、お願いしま~す♡」

 

 声は明るく弾み、まさにパーティーの司会を始めるバニーガールのものだ。

 

「ぶひひ、お邪魔するよぉ~」

「ひ!」

 

 アコは凍りついた。アスナの背後から、男が現れたからだ。

 禿げ上がった頭。脂ぎった額。短く太い首。高級なスーツを着ているが、体型のせいで締まりがない。

 

 ──社長。

 

 ズボンの前が開いていた。勃起したペニスが突き出している。

 オッドアイがアコを見下ろした。右の黒い瞳は値踏みするように細まり、左の白い瞳はぬらりと膨らんでいる。異なる色が、異なる欲で、アコの裸を舐め回している。

 

「ぶひひーっ、天雨くん、よく謝れたねぇ。えらいえらい。じゃあご褒美に、おまんこ見せてごらん? 全部見てあげるから、ねぇ?」

 

 社長がベッドに近づいてきた。てかてかの額に新しい汗が浮き、鼻の穴がひくひくと膨らんでいる。

 アコの腰が反射的にずり下がった。

 ベッドの端まで来て、止まる。背中にアスナの胸が当たっている。両肩を掴む指は柔らかいのに、外せない。

 

「いやぁいやいやいやっ」

「ほーら、気もちよくしてもらおうね~♪」

 

 さらにアコの膝を左右に開かせ、たっぷり発情した淫肉を無防備に晒すよう強いる。

 社長がベッドに膝をついた。マットレスが深く沈み、アコの身体がその窪みへずるりと引き寄せられていく。

 

「許してアスナさんダメですダメなのっやめて止めてお願い許じでぇぇぇぇっっっ!!」

 

 仰向けで開かされた両脚の間へと、男の肉棒が近づいてくる。愛液でとろとろの大陰唇に、亀頭の丸みがペチュ、と貼りついた。

 たったそれだけ。

 触れた。ただ、触れただけ。

 

「ひい゛ーっ! ひっ、いっ、い゛っ、いくっ、い、い、い、いぐぅぅぅぅぅ……!!」

 

 封じられていた声が、喉から爆ぜた。一ヶ月の焦熱が噴き出す。

 腰が跳ね上がった。アスナの腕をすり抜けるほどの力で背が弓なりに反り、開かされた膝がばたばたと暴れる。足の指が扇のようにぱっと開き──ぎゅう、と丸まった。

 

 ぴゅっ。

 

 透明な液が弧を描いて噴き出す。社長のスーツの腹に、散り散りに飛沫がかかった。

 視界が、白く、白く弾けていく。声にならない呼気だけが喉を通り過ぎていった。

 

 ──イった。

 男の肉に触れられただけで、壊れたように、イってしまった。

 

「あ……ふ……ぁ……ぁあ……」

 

 絶叫が吐息に変わっていく。

 目の焦点が合わない。いや白目を剥きかけている。口元から涎が垂れているのに、拭う余裕もない。

 

「き、も、ち……い……」

 壊れたように、同じ言葉を繰り返す。舌が口の中でとろけてしまったように、言葉がまともに形にならなかった。

 

「ぶひっ、これがアコの処女マンコっ。おカタいのにぐじゅぐじゅしてて、ほぐれてて。まるで夏のアイスクリームだ、ぶひひっ」

 

 社長の声が、どこか遠くから聞こえる。

 ぬるり。

 ペニスの先端が大陰唇をゆっくりなぞった。

 

「ここか? ここがいいのか? すごくボッテリしてるぞ、すごく欲しがってるぞっ」

 

「ひぃっ……! あ、あ、あああぁぁぁ、また、またイっ、イッ、イッてるぅぅ……っ!」

 

 裏返った。喉の天井に張りつくような金切り声が、自分のものだと信じられない。

 

「ふ……ぁ……まだ……まだイって……る……」

 

 余韻が終わらない。引き潮だと思ったぶり返しが、そのたび腰の芯まで揺さぶっていく。

 

「や……ぁ……とまら、ない……とまら、よぉ……」

 

 半開きの唇から、涎混じりの吐息が漏れる。目尻に涙が溜まり、こめかみを伝って流れ落ちた。

 あの身体が、また震えている。私の身体なのに。

 

 くにっ。

 亀頭が、肉厚の外ビラをこじ開けて、中のちいさなヒダに触れた。

 

「ぶひーっ、入り口がひくひくしてるぞ、入れてほしいのか?」

 

 今まで大陰唇に守られていた場所だ。一枚の壁を剥がされたような、むきだしの感覚が走る。

 仰向けのアコの足が、シーツの上でじたじたと泳ぐ。つま先が何かを探すようにシーツを掻き、かかとがマットレスにめり込んでいく。

 

「あっ、あっ、あっ、あっあっあっ──ひぃぃぃっ! やっ、やだ、止まらな、止まらないぃぃ……っ!」

 

 息を吸うたびに声が出る。吐くたびに喘ぐ。呼吸と絶叫が区別できなくなっていく。

 

「は……ぁ……ふ……ぅ……」

 

 喘ぎが、ただの呼吸に溶けていく。

 瞳が潤んで、焦点が定まらない。何かを見ているようで、何も見ていない。

 

「……っ……き、もち……よすぎ……て……」

 続きは声にならなかった。代わりに、ひくっ、ひくっ、とみぞおちの奥が引きつって、壊れたしゃくりのような音だけが漏れる。

 ()()()が、また痙攣している。

 

(あれが……わたし……?)

 

 他人事のように、見ている自分がいる。

 ぴとっ。

 充血したクリトリスに、ペニスの先端が押し当てられた。

 

「ぐひひっ、ここがアコの弱点だろ。っ」

 

 にちゅ。

 亀頭の先で、包皮をくにくにと押し退けた。むきだしになった陰核が、空気に触れて、びくんと震える。

 

「あーあ、もう先っちょ真っ赤っか。ツンツンしたら壊れちゃうかもねぇ。──ほれっ」

 

 ぐり。

 

「いやぁぁぁっ! いやいやいやいやっ! そこ、そこだめっ、だめだめだめぇぇぇっ……!! っ……」

 

 声帯が千切れそうだ。叫びすぎて語尾がざらざらに削れていた。

 

「あ゛……あ゛あ゛……」

 

 潰れた音が漏れる。もう言葉にならない。それでも口は止まらなかった。

 だって、むきだしにされた陰核亀頭に、あの肉のかたまりが貼りついたままだからだ。動いてはいない。けれど男根の体温と、勃起のひくつきだけで、包皮を退けられた豆がじくじくと焼かれている。

 

「そこ……そこ……すき……そこ、だいすき……」

 

 さっき「だめ」と叫んだ場所を、今は「好き」と言っている。自分でも何を言っているのか分からない。頭の中が真っ白で、ただ気持ちいいことしか考えられなかった。

 白い──世界が白い。誰かが叫んでいる。

 

(私?)

 

 ぴゅーっ。

 誰かの股間から液体がほとばしる。

 視界の端で、ネルがため息をついた。

 

「……またかよ」

 

 慣れた手つきで防水シーツの封を切り、バスタオルを広げる。

 ベッドを背もたれにして座り込んでいたミカが体を震わせている。愛する男が他の女を犯そうとするのを見ながら彼女は……悶えていた。アコの絶頂に共感したのか、床の上で細身の体をくねらせている。

 

 ぬち、ぬち。

 

 亀頭がクリトリスから離れ、ぐじゅぐじゅの粘液に糸を引きながら、外陰部をずり下がっていく。膣口のくぼみを通過するとき、穴がきゅぅっと吸いついて、亀頭を引き留めようとした。

 

「ぶひひ、ここもすごいぞ? 穴と穴の間のさ、ちっちゃい橋みたいなとこ。押すとね、下からじわぁって熱いのが染みてくるんだ。天雨くん、ここに神経が集まってるって知ってた? 知らないよねぇ、処女だもんねぇ」

 

 膣口と肛門の狭い隙間に、丸い先端がぬるりと押し当てられた。

 クリトリスとは感触が違う。皮膚が薄く、触られているのに内臓の裏側を撫でられているような、鈍くて深い圧が下腹の奥に響いていく。

 

「そこ……そこぉ……っ! あっ、あぁっ、そこ気持ちい、気持ちいのぉぉ……っ!」

 

 アコの指がシーツを掴んだ。十本の指が白くなるまで握りこみ、手の甲に青い血管が浮き上がる。けれど腰は逃げなかった。逃げられなかった。アスナの手が両膝を押さえつけているからだ。

 舌がもつれる。言葉が壊れていく。もう何語を話しているのかも分からない。

 

「ふ……ぁあ……ぁ……」

 

 肺の底から搾り出すような息が漏れた。吐き切ったあとも唇だけが丸く開いたまま、表情筋が固まって戻らない。

 腰が勝手に揺れている。快感を追いかけるように、アコの尻が男の肉棒をすり寄せにいっている。

 

「も、と……もっと……して……」

 

 誰に、何を求めているのか。自分でも分からない。ただ、もっと、もっと、と身体が叫んでいる。

 骨盤の底で、ずぅぅん、と重たい波がせり上がる。膣壁が何もないのに締まり、子宮口のあたりがひくひくと引きつった。

 

「ぁ、……ぁ……っ」

 また──イった。何度目なのか、もう数えられない。数える脳味噌が、とっくに溶けてしまった。

 むちゅ。

 ペニスの先端が、肛門に押し当てられた。

 

「ぶひーっ、かわいいケツ穴もぴくぴくしてるっ」

「やっ、やだっ、そこはっ……!」

 

 触れた瞬間、アコの足の指がぱっと開き、次の瞬間にはぎゅっと内側に丸まった。開いて、閉じて。開いて、閉じて。脳の回路がショートしたかのように、つま先だけが痙攣を繰り返す。膝の裏にたまっていた汗がつぅっと流れ落ちた。

 

「きゅっ、きゅっ、て閉じたり開いたり……アコ、お尻で感じるの好きなのかなぁ? ぶひひ、処女のくせに、ケツ穴がおねだりしてるよぉ」

 

「おしり、おしりはやだぁぁっ! でも、でもっ、イっ、イッちゃ、イッちゃ……っ!」

 

 唇が震えるだけで、最後まで言えなかった。「イッちゃ」のあとが、ひっく、というしゃくりに砕けて散る。

 

「……っ……ぁ……ぁ……」

 

 音が消えた。肺から押し出されるのは、焦げた空気だけだ。声の残骸すらない。

 それでも口は動いていた。

 

 ──おしり……きもち……い……。

 

 さっき「やだ」と言った場所。恥ずかしい場所。

 それを「気持ちいい」と認めてしまっている。涙でぐしゃぐしゃの顔で、恍惚とした表情で。

 そのとき、ぬるりとした液体が太ももの内側を這い始めた。体温と同じはずなのに、その一筋だけが溶けた鉄のように熱い。自分の尿が、自分の肌を灼いている。

 

「あっ、あっ、あ……っ、あ゛……っ」

 

 叫びたいのに、喉はもう空っぽだった。声帯が摩耗して、息を通しても音にならない。

 

 ──おしっこ出ちゃう。

 

 口は開いている。喘いでいる。しかし音にならない。唇だけが動く。

 

 ──許して。

 ──お願い。許して。

 ──もう、だめ。壊れちゃう。

 

 懇願しているのに、身体は歓喜していた。失禁しながら絶頂している。涙も涎も愛液も尿も、アコの穴という穴から何かが溢れ出て、止まらない。

 ひっ、ひっ、と横隔膜が痙攣するような呼吸音も、ぴゅっぴゅという愛液が噴き出す音も、壁に吸い込まれて、消えていく。

 

 ◆

 

 あ、いく。

 またイく。

 イきそう。

 ほらイった。

 もう、何回イけば気が済むんでしょうか。

 あー、白い肌が、汗で光ってます。きれいだな。

 誰の身体なんでしょう。ああ、私の身体ですね。

 ……私?

 私って──誰でしたっけ。

 ──もう、だめ。

 ──わたし、こわれ……。

 ──お、かあさ…………たす……。

 今の、声になったんでしょうか。それとも口パクで終わったんでしょうか。

 なっていないと、いいな。どうせお母さんは、今もどこかで、男にしなだれかかってるんでしょうから。

 

 (続く)

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  • ユウカの章-1
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  • リンの章
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