天雨アコ「こんなイヤらしい社長が支配する会社に、私はぜったい屈しません!」→なお 作:a-su
社長室の扉の向こうは、洗脳装置の巣窟ではなかった。本棚には教育書と女性作家の文庫本、読み古された絵本、シロコの成長アルバム。花柄のクッション。建設中のビルの前でユウカと並ぶ写真。そこはただの「家」だった。
「開いていいんだよ。もう罰はおしまいだから」
社長はアコの擦りむけた膝に絆創膏を貼り、握りしめた拳をほどいてくれた。
サイドテーブルの写真に映るのは、シロコに似たやつれた妊婦と、穏やかな目をした、まだ痩せていたときの青年──先生。
あり得ないことに、彼を見て、アコは胸がキュンとしていた。
前編
ヒュプノスペックを通じて、ミカの絶頂を間接的に感じる。その体験は晴れた日に高原の尾根を走るように爽快で、感動に満ちたものだった。
「あ~、ミカまんこ久しぶりだぁ、ただいま~」
「おか、おかえりっ、ぉ、あ、あ、い、い、く、ん、ぉ、ぁ、やだ、可愛くない声でるっ」
社長室のベッドの上、正常位で挿入され、ミカはしなやかな肢体を仰け反らせた。
「んぉ、かわいくない声でちゃうっ、やだ、ヤダヤダいくのヤダっ」
「おお、ぬちょぬちょってお帰りのキスしてくれて、ちんぽやっべ、最高。すぐ奥まで着いちゃうよ」
「んお゛お゛おぉぉぉ♡ イッグぅぅぅ♡」
最初のオーガズムが収まると、社長は腰を据えたまま動かなくなった。
「ふああっ、すてきぃ……♡」
ミカは見開いていた目から力を抜く。大きく開いた口も半開きになるまで緩み、赤い舌が下唇を越えて垂れていく。力の抜けた腕が社長の首に絡みつき、ぶちゅ、ねちねちと唇を吸い始めた。
アコはその隣で横たわっていた。ミカの右腕が時おり自分の二の腕に触れるほどの距離で、仰向けに脚を開いて待っている。
「はぁぅぅぅんんん……♡ ふみゅぅぅぅんん……♡」
ヒュプノスペックが、甘キスを続けるミカの絶頂を忠実に伝えてきた。骨盤の底をずぅん、と重たくする、鉛が溶け出したような甘ったるい重力。ミカの秘裂が味わっているものが、まるごと同調して流れ込んでくる。
たとえて言うなら、それは手紙だった。
(ミカさんの、きもちいいが、こんなに重い)
発信される快楽は、ミカの寂しさと歓びを含んでいた。どれほど社長を恋しく思っていたか。会えない夜が何回あったか。イエローの懲罰に耐えた日々が、いま一気にほどけていく。その安堵が、快楽の重力となって脊椎を圧し潰してくる。
ミカの愛情だ。会いたくて会いたくて仕方がなかった女の子が、好きな男の腕の中で、ようやく泣けた。
アコの頬を涙が伝う。もらい泣きだ。
(泣いてる? わたしが?)
ミカに祝福を送りたい。重たい幸せに、おめでとうと言いたい。そうさせるものが、同調の向こうから、せきを切ったように押し寄せてきている。
(ミカさん、よかったね)
涙のむこうで、ミカが社長の唇をついばんでいる。太い腕が華奢な背中を包んで、ぎゅうっと抱きしめていた。
「社長ぉ、好き、好きっ♡」
「うん。ミカ、ただいま」
ぬちゅ。ぬちゅ。ぬちゅ。社長が腰を動かし始める。ほどなくして、ミカの二度目の絶頂が、同調を通じてアコの子宮を絞った。臍の裏を糸で引かれるような、一瞬の収縮。甘いのに冷たい。ほんの刹那だけ満たされて、指の隙間から砂がこぼれるように消えていく。
きゅん。
また、引かれた。
きゅん、きゅん。
引かれて、戻って、引かれて。
(──これだけ?)
知っていた。同調で受け取るミカの快楽は、たしかに甘く、たしかに重い。でも、それは手紙を読んでいるのと同じだ。インクの匂いはするけれど、肌の温度がない。ミカの幸せは分かるのに、自分の中には何も届かない。
アコの膣口ははくはくと収縮し、太ももの内側は愛液でぬるぬるに濡れている。同調を受けるたびに溢れ出したものが、シーツに染みを広げていた。
両脚は開きっぱなしだ。恥ずかしくない。怖くもない。ただ空っぽが、寂しい。
(おちんちんが、ほしい)
ミカの中にあるもの。同調では届かない、あの硬くて熱い塊が、ほしい。膣壁を押し広げてほしい。子宮口に、こつんと当ててほしい。手紙じゃなくて、本人に会いたい。
同調の波が、もう一度、子宮をかすめていった。表面を撫でるだけの、うわべだけの収縮。
足りない。
全然、足りない。
◆◆◆
ぬるり、と社長の腰が退いた。
「あぅ」
ミカの唇からこぼれた声は、ほんの一音だけだった。つないでいた腕が解かれ、正常位を支えていた脚がぱたりとシーツに落ちる。
アスナが手際よく動いた。社長の股間に顔を寄せ、ミカの愛液で光る極厚コンドームを唇でくちゅ、と外す。そのままペニスを咥え、ぢゅる、と一回だけ深く吸って唾液で洗い流した。
「んっぷ♡」
もう片方の手には、新しいコンドームの小袋。歯で破り、唇だけで装着していく。
慣れた手つきだ。ミカのぶんとアコのぶんで、ゴムを替える。社長はまだ射精していないが、そうするのだ。いつもそうしているのだろう。この用心深さの理由を、アコはもう知っていた。
「はい♡ アコちゃん用の、ぴかぴかおちんちんお届けしまぁす♡」
アスナがコンドームの先端に、ちゅ、と唇でキスを落とした。送り出しの、祝福だ。
社長がアコの脚の間に入ってきた。ベッドが沈む。脂肪のついた腹、禿げ上がった頭、汗ばんだ額。毛深い腕が近づいてくる。
醜いと思った。でも目元が赤い。さっき妹の話をして、泣いていたからだ。
開いていた両脚がわずかに震えた。
「じゃあアコ、入れていい?」
「好きにしたらいいじゃないですか」
あれ、と思う。自分の声だと気づくのに一秒かかった。
ついさっきまで、アコはこう言って媚びようと計算していた。
『お願いします、アコのおまんこに、社長のおちんちん入れてください♡ ずっと待ってたんです、同調で奥をこつんってされるたびに本物が欲しくて、おまんこが空っぽで寂しくて♡』
いま、アコはこんな風に言う。
「お好きなときに突っ込んで、私の体で満足なさればいいんです」
おかしい。何もかもがおかしい。今までアコが経験してきたことと、今アコが言っていることは、何一つ整合性がないような気がする。
この言葉は、頬の熱さは、全身を覆う脱力は、胸の高鳴りは、いったいどこから生じているのだろう。
「……早くしてください。もう、抵抗しませんから」
「ぶひひ。そんな顔を見せてくれるの、嬉しいよ」
「社長、アコちゃんのこと、お願いね」
ミカの声がした。シーツに横たわったまま、こちらに手を伸ばしている。アコは事後の汗でしっとり湿った手を握った。指と指が絡まる。
亀頭が、女陰の入口に触れた。
──ここから先は、手紙ではない。ぐちゅり、と粘液の音をたてた場所は、ずっと待っていたのだ。同調で何度も予告された快楽の影を、ただ黙って受け入れてきた。アスナの秘裂が味わったものも、ミカの絶頂がどれほど甘かったかも、ぜんぶ知っている。
知っているだけだ。触れたことは一度もない。いま、入口に触れているのは本物だ。丸くて、不器用で、大きくもない。仮性包茎で、見た目も整っていない。だけど熱かった。冷えきっていた女陰が、初めて温もりを知った。
「っ……ぁ──」
ぷつん、と何かが千切れた。
痛い。
小さな花瓶を割ったような、取り返しのつかない音が奥で鳴った。
「痛い?」
「いたっ、でもっ、なにっ、これっ……なかっ、あついっ」
痛い。たしかに痛い。
でも、男根が奥へ進んだ瞬間、膣壁を押し広げた瞬間、同調では来なかったものが来た。あの浅い収縮とは違う、どちゅっ、と骨盤の底に体当たりされたような鈍い重さ。
「奥が、同調とぜんぜんちがっ、あったかい、おちんちんがあったかい」
「ぶひ。中、すごいきつい」
「痛いのにっ、きもちいのがっ、痛いのよりずっと大きい。なんでっ、こんなの聞いてない」
硬いものが、止まった。
奥へ進まない。入口のすこし先で、どくん、どくんと脈打ちながら、じっと待っている。泣いてるのかと訊くように。傷つけたことを知っているかのように。
「動かないよ。まだ慣れてないだろうから」
「っ、ぅ、なんでっ、動いてないのにっ」
動いていない。ペニスは静止している。なのに膣壁が忙しかった。
(ここに溝がある。ここがカリ首。ここが一番熱い亀頭の先端)
同調で知っていた「棒の感覚」とは、まるで違う。あれはラジオで聴いた歌だ。いま、歌い手が目の前にいる。吐息がかかる距離に彼そのものがある。
「動いてないのにっ、おまんこの中がっ、勝手にきゅうきゅうってっ、おちんちんに吸いついてっ」
壁のひだが一枚ずつ、未知の形に沿おうとしていく。溝を舐めるように、隆起を包むように、形を読み取っていく。指紋を覚えるように、声紋を記録するように、彼だけの地図を作りたがっている。
「自分でやってるんじゃないのにっ、からだが」
「ぶひひ。それ、アコの身体が僕を歓迎してくれてるんだよ」
「歓迎? こんなのっ、歓迎とかっ、私がしてるんですか? これ、わたしがっ」
機械のせいには、できない。ヒュプノスペックの電流ではない。あの痺れるような報酬もない。ないのに膣壁はペニスを抱きしめている。筋肉が、粘膜が、意志とはまるで無関係に、男のものを歓迎している。
「動いてっ、ください♡」
声が震えていた。
「もうっ、このまま止まってるのおかしくなりそうっ、中でどくどくしてるのわかるっ、社長のおちんちんの脈っ、私のおまんこで数えてる♡」
「じゃあ、ゆっくりね」
「はいっ、はいっ♡」
奥の、やわらかい場所がほどけた。ぎゅっと握りしめていた拳をそっと開くように……硬いものを通せんぼしていた筋肉が、ひとつ、またひとつ、退いていく。招待状だ。もう少し奥へおいで、という。
男根が動いた。ずる、と一センチ。膣壁がぬるりと道を開ける。ずるり、ともう一センチ。今度は壁が追いかけてきた。離れないで、と。行ったら戻ってきて、と。ぬちゅ、ぬちゅぬちゅ、ぬちゅ、という音は、女陰が男根に話しかける声だ。
「あっ──あっ……あぁぁぁちがうっ♡」
「何が違うの?」
「こんなのっ、初めてっ♡ 奥をこすられるとっ、おなかの底までっ、ぜんぶっ、つながってっ──」
亀頭が奥の壁にこつんと当たった。子宮口だ。同調ではかすめるだけだった場所に、本物の亀頭が触れた。
手紙の中で何度も名前を読んだ場所で……丸い硬さが、ぷにりとした窪みの芯を押す。
秘裂が絶叫した。声のない絶叫だ。膣壁が一斉に波打ち、男根の全長を千のくちびるで舐め上げる。「おかえりなさい」と唇で告げるように、子宮口が亀頭を包んだ。
左右から、甘い息が降ってくる。
「ね♡ ちがうでしょ♡ おちんちんでしか味わえない気持ちよさ、あるでしょ♡」
「アコちゃん、よかったね♡」
ミカとアスナの声。二人が何をしているかは見えない。見る余裕がない。胎内で起きていることだけが、世界のすべてだった。
男根が押すと、女陰が応える。
押されると、締まる。引かれると、追いかける。奥を突かれると、子宮口がぎゅっぎゅと迎えに行く。
硬いものが「ここは?」と突く。やわらかい壁が「そこ好き」と締まる。
「じゃあここは?」とこねると、
「そこもっと」とうねる。
ぬちゅ、くちゅ、ぬちゅ。
「ぶひひっ、アコのおまんこ気持ちいいよ、きゅうきゅう吸い付いてくる♡」
「そんなっ、言わないでっ、自分でもわかってるんですっ、おまんこがっ、おちんちんの形覚えようとしてっ、ここに出っ張りがあるとかっ、ここが太いとかっ、ぜんぶ中でなぞってるんですっ♡」
この角度で締めると、男根が膨らむ。この深さで吸うと、先端から甘い汁が滲む。あなたが気持ちよくなると、わたしも気持ちいい。あなたの形に、わたしの形が、変わっていく。
「やだっ、恥ずかしいっ、なんでわかるの♡」
「恥ずかしいのに、腰動いてるよ?」
「うごいてっ、ないですっ──あっ、動いてるっ♡」
女陰が認めた。自分が男根を好きだということを。もう言い訳できないほど、きつく締め付けている。
同調のときは受信機だった。流れてくる快楽を、黙って受け取るだけの箱だった。
いまは違う。自分から抱きしめている。粘膜のすべてで。蠕動のすべてで。愛液のすべてで。逃がさない。ここにいて。もっと奥まで来て。
このぬるぬるは、女陰から男根への、ラブレターだ。
「私のからだっ、いやらしいです♡」
「そうだね」
「おまんこがっ、自分で締めてっ、おちんちんをっ、離したくないってっ♡ 頭ではっ、はずかしいのにっ、おまんこが勝手にっ、もっと奥に来てってっ♡ 逃がさないってっ、ぎゅうってしてるっ♡」
「うん。わかるよ。中で、すごいことになってる」
「わかんないでくださいっ。ばかっ、きらいです♡」
もう、どこが自分でどこが相手か分からない。
男根の熱が女陰に移り、蜜が男根に染み込み、温度が同じになったとき、二つの肉は一匹の生き物になった。
──太陽とか月とか、そんなものは知らない。この場所には思想がない。正義もない。信念もない。あるのは、硬いものが奥をこりこりしてくれると子宮がとろけるという事実と、もう一生離したくないという、粘膜だけが知っている真実だけだ。
「太陽じゃなかった」
社長の腰が、ぴたりと止まった。
「私っ、太陽じゃなかったですっ♡」
声が裏返っていた。
「おちんちんっ、入れられただけでっ、こんなっ、いやらしい声がっ、とまんないっ♡」
息を吸う。吸いきれない。
「太陽はっ、おちんちんでっ、イったりっ、しないっ♡♡」
社長は何も言わなかった。
知らないからだ。アコが何年もかけて積み上げてきた信念を、アコだけの太陽を、ペニスに貫かれたままの女が、自分の口で埋葬していることを。
でも──腰を、また動かし始めた。深く、じわりと。深く、じわりと、奥の奥を擦り上げるように。
「あっ、あっ、あっ、あ゛っっっっイっ、イっ、イくっ、イっちゃっぁぁんぁ゛あ゛♡♡」
女陰が、壊れた。
壁という壁が一斉に痙攣し、男根を離すまいと締め上げる。亀頭に千の口づけを贈り、ぎゅう、ぎゅう、ぎゅうと搾り取るように脈打つ。子宮口が全開になって、亀頭の先端にちゅうぅぅっと吸いついた。
ください。ください。あなたの全部をください。
命のつづきを、ここにください。
「アコちゃんっ♡」
ミカのくちびるが、左の頬に触れた。
「いい子♡ いい子♡」
アスナのくちびるが右の頬に。
「ぶひぃっ、アコの中やべぇっ、ちぎれるっ」
「んぁ゛あ゛あ゛……♡♡」
羽ばたくアコに見えるのは、ミカとアスナが自分を祝福してくれる顔だけ。
天井の隅から自分を見下ろしたりはしていない。あの遠い場所に逃げていない。アコは、自分の身体の中にいた。
胎内の奥で、初めての涙が溢れた。愛液ではない。快楽の涙でもない。ようやく会えた、という涙だ。
「出るっ、ゴムにっ、出すぞっ」
「だめっ、だめっ、出したらっ♡ 中でっ、出したらっ……ゴムの中でもダメ、イヤッ♡」
口がダメ、イヤと叫ぶ端から、両脚が彼の腰に絡みついた。かかとが背中にめりこんで、ぐっと引き寄せる。
男根は、その仕草がいたく気に入ったようだ。
「ぶひぃぃぃっ!!」
びゅ、びゅ、びゅ、と脈打ちながら、自分のすべてを。ゴムの膜一枚が、女陰と男根を隔てている。
でも膣壁は感じていた。
「あっ、ゴムの中でどくどくっ♡ おちんちん跳ねてるっ、おまんこの奥がきゅってなるっ、勝手にっ、吸っちゃってるっ♡♡」
どくん。硬いものが跳ねる。
どくん。ゴムの内側で、重たい塊がぶつかる。
どくん。もう一発。もう一発。
こんなに近いのに、届かない。膜一枚の向こうで、赤ちゃんのもとが、入口をノックしている。
もし、この膜がなかったら? その想像だけで、奥がびくんと震えた。
「あ、ぁ、だめっ、それだけでっ、またっ……んぁ゛ぁ♡♡ イっちゃっ……イっちゃうっ♡♡」
男根はもう動いていない。なのに、女陰はまだ痙攣している。
きゅう。きゅう。きゅう。
「ぶひ、ぶひひ。すごいな、アコ」
男根の形を、もう一度なぞる。ここにカリ首の段差があった。ここで竿が太くなっていた。ここが一番脈打っていた。
一回ではたりない。二回、三回、十回。何度もなぞる。確かめる。忘れないために。いなくなった後も、思い出せるように。
女陰は今、男根のことを暗記している。
だれも動かなかった。アコの腕は社長の首に回っていた。いつからそうしていたのか覚えていない。汗ばんだ太い首に細い腕を巻きつけて、顔を肩口にうずめている。四人の呼吸だけが、社長室に重なっている。
「抜くよ」
「──っ」
「アコ?」
「だめです」
「だめ?」
「抜かないでっ、ください」
出ていこうとした男根を、女陰が締め付けた。
行かないで。
「中がっ……空っぽになるの、こわいっ。さっきまで何もなかったのにっ……おちんちんがいなくなったらっ、穴だけ残っちゃう……社長の形の穴、がぁ」
ついさっきまで、ここには誰もいなかった。ずっと空っぽだったこの場所に、初めて誰かが来てくれた。
同調で子宮がかすかに震えるだけだった頃が、もう思い出せない。手紙だけで満足していた頃の自分が、もう想像できない。だって、今きゅんきゅんしているのは胸の奥なのだから。
「もうすこしだけ……このまま」
「ぶひ。じゃあ、もう少しだけ」
女陰は、萎えかけた男根をありったけの粘膜で抱きしめた。
──もう、一人には戻れない。
窓の外で、朝日が輝きを増していた。
◆◆◆
男根を抜いた社長に、三人の女がひざまずいた。
アスナが唇でコンドームを外し、ミカがそのままペニスを咥えた。アコは陰嚢にそっと舌を添わせる。舌先に伝わる牡の匂いが鼻腔を刺し、知らず腰が揺れる。三人の唾液が一本の肉棒の上でねっとりと混ざり合い、透明な糸を引いた。
やがて、社長が呻いた。白濁がアコの頬を汚し、アスナの額を横切り、ミカの鼻梁に二本の筋を描く。
ミカが名残惜しそうにアコの頬へ唇を寄せ、精液を丹念に舐め取る。アスナもまた、反対の頬をついばむ。
口の中でオスの体液を分け合う三人の舌が、ぬるぬると絡み合って離れようとしない。
浴室に入れば風呂椅子に座った社長を三人が取り囲んだ。ミカが先導し、泡を胸に載せて男の背中に艶かしく擦りつける手本を見せる。前に回ったアスナがすぐさま真似をして、アコも社長の右側でたどたどしく従った。六つの乳房と三対の太ももが脂肪のついた体にまとわりつき、泡まみれの嬌声が浴室に響く。
ソファに移って朝食を取った。アコとミカが料理を取り分けて社長の口に運び、アスナは陰茎を谷間に挟んでゆるゆると上下していた。
社長の食事が済むと、余った果物が口移しで三人に与えられた。クチャクチャとわざとらしく咀嚼する社長の唇に順番に吸いつき、甘酸っぱい果汁と唾液の混合物を嚥下する。
アコは二切れ目のオレンジを飲み込むとき、自分が拒否する気配すら見せなかったことに気づいた。
それからソファの背に三人がお腹を預け、ヒップを並べた。白、白、白。三つの丸い尻がゆらゆら揺れ、間接照明の光を返す。
社長が左端のアスナにずぶりと挿入すると、同調がアコの脊髄を灼いた。ミカの快感とは質が違う。鮮烈で温かい。アスナが社長を愛する感情が、性器の快楽と不可分に絡みついて脳を満たしてくる。
「しゃちょっ、なかにっ、なかにいれてっ♡」
アコは浅ましく尻を振った。両手で尻の肉を掴み、秘裂を左右に開く。太ももから奥にかけてがカユイほど疼いてくるけれど、その我慢が未来の爆発への期待につながる。
「ゴムのなかでいいからっ、おまんこのおくでっ、どくどくしてほしいのっ♡ おねがっ、おねがいしますっ♡ アコのおまんこにっ、いっぱいっ♡」
あらん限りの媚態を声に乗せた。与えられた男根が女陰をぐちゅりと押し広げたとき、もう何を口にしたか覚えていない。
「あっ♡ でたっ♡ でてるっ♡ どくどくってっ♡ あついっ♡ おなかのおくまであついっ♡ あっ、あっ、あ、イっ──♡♡」
社長がアコからペニスを引き抜き、後ろから抱きすくめた。背中に男の腹が密着し、首筋に荒い呼吸がかかる。
振り向きざまに唇を奪われた。絶頂の余韻で痺れた口腔に、男はもぎ取るようにかぶりつく。
「ぶひー、アコ、かわいいよアコッ。顔もカラダも、頭もいいしっ、心もつよいしっ、素直じゃないとこもたまんないっ、きみもスカイブルーになってくれっ、ねっ、いいだろっ」
必死に頼み込む顔は、少年のそれだった。脂ぎった額も禿げ上がった頭も、アコの視界からは消えている。世界でいちばん欲しいものを目の前にした子どもの顔しか見えない。
(ああ……みんなこれにやられたんだ)
ユウカや、かつてのヒナ、シロコにミカ、そしてアスナ。ヒュプノスペックという恐ろしい機械を道具扱いにできる女性たちが、なぜ社長に惹きつけられたか。その答えが分かった。
「たのむよぉ、スカイブルーになって、ユートピアでいちばん幸せな女の子になってよっ、ねっ、いいだろっ、ねっ」
テクノロジーの暴力を振るいながら、女を真摯に思いやることもする。性欲丸出しの振る舞いで思春期の少年でも相手にしているような気分にさせながら、胸や尻を揉む手つきはねっとりとしてエロスを帯びている。
だけど、誠実だった。醜さと誠実さが矛盾したまま同居していても、嘘がないから怖くない。まさしく、女の敵として生まれたような男だ。
(そうしよう。アスナさんやミカさんと同じになろう。もう何も考えなくていい。この温もりの中にいればいいんだ)
アスナの腕が、横からアコの肩をそっと包んだ。
「アコちゃん、あとはお願いね」
耳元にささやいてくる。
「がんばって。そうすれば、みんなが幸せになれるんだよ。それができるのは、アコちゃんだけなの」
言葉の意味は分からなかった。分からないまま、社長の唇にとろけ続ける。
四人は社長を中心にしてソファで、床で、窓際で、ベッドで、軟体動物のように絡み合い、汗と唾液と愛液のぬめりの中でキスを繰り返した。社長室に女たちの声が響き続ける──アスナの声だけが、途中から聞こえなくなっていた。
(続く)
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プロローグ
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ユウカの章-1
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シロコの章
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リンの章
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ユウカの章-1
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ミッドローグ
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ミカの章
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アスナの章
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アコの章-1
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アコの章-2