※この作品はR-18です。

天雨アコ「こんなイヤらしい社長が支配する会社に、私はぜったい屈しません!」→なお   作:a-su

3 / 21
今回のメインキャラ
 (あま)()アコ
 (いち)()()アスナ
 (はや)()ユウカ


後編

 二〇二四年四月一日、午後二時頃。

 

 ユートピア本社ビルの屋上は、まるで別世界のようだった。人工芝の庭園に色とりどりの花々、大理石の噴水で水浴びする鳩たち。木陰にはオシャレなガーデンチェアが置かれ、思わずくつろぎたくなる雰囲気が漂う。

 

 しかし(あま)()アコたち新入社員は今、屋上の一角にあるコンクリートむき出しのスペースで、横一列に並ばされていた。

 

「「「第2条、忠誠と奉仕の義務。全ての社員は、社長の価値観とビジョンを尊重し、女性としての義務と責任を自覚し、誠実に奉仕を遂行し、職場の秩序を維持するため……」」」

 

 心地よく感じられるはずの春一番が、アコの頰を切り裂くように吹き抜ける。

 彼女たちは、ユートピア服務規律の第一章「忠誠のプロトコル」を暗唱させられているのだ。

 

「ぐ、ぎぎ……第8条、社長、の、個人的要望への応答。社員は、社長の個人的な要望やニーズに応えることを、こ、こっ、光栄とし! これを優先的な任務として受け入れる! 会社および他の社員は、これによる業務遅滞をカバー……!」

 

 ヒュプノスペックが、プロトコルの文面をアコの網膜に写しだしている。

 

 第十条まで終わったら、また最初から繰り返し。人権意識のカケラもない文章を何度も読み上げさせられる。女性を社長の奴隷と見なし人間としての尊厳を踏みにじる文章を、深層意識に焼き付けられていく。

 

「どう? 社長に忠誠を誓うのって、気持ちいいでしょ?」

 

 社長秘書の(はや)()ユウカが、真顔で言った。

 アコの周りでは、他の新入社員が陶酔の面持ちで暗唱を続けている。ユウカの言う通り、彼女たちは「あ゛っ……♡」だの「いひっ……♡」だの、快楽に悶えるような声を漏らしていた。

 

「あぁ~♡ おまんこ触らせてくださいぃ~♡ 忠誠を誓いながらオナニーしたいですぅ~♡」

 

 誰かがそう叫ぶと、他の新入社員もそれに続いた。両手を体の横にぴしっと揃え、腰をへこへこと前後に揺らしながら。

 

「忠誠っ、誓いながらぁ♡ オナりたいぃ♡」

「忠誠っ! 忠誠っ!」

「社長を称えながら、おなにーして♡ 忠誠心を高めたいですぅ~~~♡♡♡」

 

 アコは歯を食いしばる。

 

(なんてみじめなんでしょう。倍率二百倍の就職競争を突破した女性たちが、こんな)

 

 機械で快楽電流を与えられながら、醜い中年男に何度も忠誠を誓わされる。自慰行為さえ自由にはできず、「お許し」をもらうために情けなく媚びていた。

 

「いいわよ、好きなだけオナニーしなさい」

 

 ユウカがそう告げたとたん、彼女たちは自分の体をまさぐり始める。

 

「あひっ! ち、誓わせていただきながらオナニーしますぅ~!」

 

「忠誠っ! 忠誠を誓いながらオナニーするの気持ちいいっ!」

 

 ぐちゅくちゅという水音と歓喜の合唱が、アコの耳を汚していく。

 

「だ、第4条・行動監視と評価。会社は、社員が忠誠のプロトコルに従って行動することを確実にするため、定期的に行動監視と評価を行う。社員は、これらの評価に積極的に参加し、必要に応じて、忠誠心強化プログラムを、受講する……!」

 

 アコ自身も、微弱な快楽電流に悶え続けていた。スムーズに読むほど快楽電流が与えられるので、できるだけ途切れ途切れに読み上げてはいる。それでも、ショーツの下がぬかるんでいくのを止められない。

 

「はぁーっ♡ い゛っ♡ ぎぃ~~♡♡」

 

 隣からそんな声が聞こえて、アコはびくりと震える。同期が絶頂を迎えたのだと直感した。

 (いち)()()アスナは離れたところにいて、様子が伺えない。声も聞こえない。それだけがアコの救いだった。

 

「よし、予定時間経過、全員やめ」

 

 ユウカが号令をかけ、新入社員たちはぴたりと動きを止める。それでも性の余韻にあえぎ、息をついていた。

 

「……意外な結果ね。最もたくさん唱えられたのは○○さん。問題児の天雨さんは下から二番目。社長が目をかけられた一之瀬さんが」

 

 ユウカは、刺すような視線でアコと違う方をにらみつける。

 

「なんと最下位。なに? あなた暗唱は苦手?」

「こんなの暗唱するほどヒマじゃないだけだよ」

「なんですって」

「わたしは社長さんのこと考えてただけで~す」

 

 へらへら笑う声。それはどうやらアスナのものらしいが、今までアコが聞いたことのない挑発的な響きを帯びていた。

 

「あの人は、ほっぺにチューしてあげた方が喜んでくれるかなって」

 

「───は? 知った風な口を利かないで」

 

「これ、社長さんが考えたんじゃないでしょ。あなたが考えたのかな?」

 

「……やめなさい、一之瀬さん」

 

「他の女の子をルールで縛り付けたいんだ?」

 

 ユウカをせせら笑いながら、アスナはしゃべり続ける。

 

「あなた、ご褒美が欲しくないの」

 

「いらないよ、社長さんに直接もらうもの。ねぇ、アコちゃん?」

 

 アスナはアコの方を向いていた。その横顔が見えるようになる。いつも脳天気に笑っていた彼女が、にやりと口角をつり上げている。

 

「早く社長さんに会いたいよね?」

「う……ま、まあ」

 

 アコは空崎(そらさき)ヒナのアドバイスに従い、まずはこの苦行に耐えるつもりだった。社長と直接、対決するためである。

 

 ◆◇◆◇◆

 

 一時間前。

 

「あの、何をなさってるんですか」

「何って、お昼ご飯よ」

「哺乳瓶で……?」

「あなた、私が母乳を出せる体に見える?」

「いえ、そういう事ではなくてですね」

 

 ユートピア本社の二十一階にある『託児室・ゲヘナ』。そこが空崎ヒナの職場だった。

 小学生にしか見えないヒナが、エプロン姿で赤子に授乳している。

 

「誰か、社員の方のお子さんですか」

「そうね」

 

 ヒナは哺乳瓶の中身を飲み終わった赤子を縦抱きにして、背中を優しく叩く。げふぅという満足げな音を聞き届けてから、ベビーベッドに寝かせた。

 十台以上も並ぶベッドの全てに赤子がいて、元気に泣きわめいている。

 

「あの、もしかして」

「生身の男が、何百人もいる女と四六時中セックスしてるんだもの。いくら避妊しても、確率的にはこれくらい生まれるものよ」

 

 やはり、社長の子供なのだ。あの醜悪な社長と、洗脳された女性社員たちの子供。

 おぞましい洗脳犯罪の結果として生まれた、忌むべき子供たち───

 

(───には、見えない)

 

 ただの赤ん坊だ。清潔なベビー服と大きなベビーベットに守られ、広々とした近代的な託児室で元気いっぱい手足を動かしている。

 さらに奥の部屋では、数人の子供がおもちゃで遊んでいた。一番大きい子でも、三歳かそれくらいだろう。

 

 ヒュプノスペックは、着けていない。

 

「分かるでしょ。この子たちは、きっと一生このビルを出られない。外の社会と関わらせたら、ユートピアが崩壊するものね」

 

 ヒナは赤子の一人を抱き上げ、ぷにぷにしたほっぺたを指でつついた。

 

(聞くべきなんでしょうか。あなたのお子さんですかって)

 

 とても子供を産める体格には見えない。だが、社長と性行為をしていたか、あるいは今もしていることに疑いの余地はないのだ。

 

「あの」

「ん?」

「……社長は、この子たちについて、何て」

「何も言わない。教材のBD(ブルーレイ)やおもちゃは腐るほどくれるけど、何を考えてるんだか。もしかしたら、何も考えてないのかもね」

 

 そうかもしれない。太陽のように輝くべき女性たちを人工知能で洗脳し、性の奴隷におとしめる悪魔のような男だ。自分の子供たちのことなど、眼中にないのかもしれない。

 眠っていた赤子がぐずりだすのを、ヒナが手際よくあやす。

 

「私は、この子たちをユートピアから解き放ちたい。普通の世界で、普通に生きて死ねるように」

 

 ───ピピピッ、ピピピッ。

 壁の時計がアラームを鳴らした。

 

「……ああ、もう時間切れね。あなた、懇親会に行かなくちゃいけないわ」

 

 ヒナはため息をつく。

 アコは彼女に向き直り、自然と背筋を正した。

 

「天雨アコです。よろしくお願いします」

「この託児室を預かってる、空崎ヒナよ。ここを『地獄(ゲヘナ)』なんて名付けた、あのクソ社長をぶちのめしてやりたいと思ってる。だから、あなたには期待してるわ」

 

 握手を交わす。

 

(ユートピアを崩壊させて、この子たちとアスナさんとを助ける。それが私の、最初の仕事)

 

 この時初めて、アコは自分が社会人になったのだと実感できた。

 

「社長への悪口が言えるんですね。ヒュプノスペックを着けたままなのに」

 

「これは車と同じで、ただの機械。仕組みさえ知っていれば乗りこなせる」

 

「どうすれば?」

 

「感情を高ぶらせるの。無理に電流を流したら危険だと、AIが安全装置を働かせるくらいにね」

 

 なるほど、気だるげで面倒臭そうな雰囲気を出していたヒナが、今は肌を興奮に上気させていた。

 

「わりと得意な方です、怒るのは」

 

「そんな感じよね。だから普段は感情を抑えるようにしなさい、あなたヒスっぽいし」

 

「失礼じゃありません!?」

 

 ◆◇◆◇◆

 

 そして、夕方頃。

 アコは「懇親会」の会場に連れられてきていた。ビジネススーツは奪われ、代わりの衣装を着せられている。

 

「可愛いね、このメイド服♪」

「そうですね」

 

 明るい声ではしゃぐアスナは、自慢のJカップを上半分ほど露出したメイド姿だ。フリルいっぱいのスカートもショーツが見えそうなほど短い。新入社員である彼女こそがもてなされるべき立場なのに、まるでチグハグである。

 

 もちろんアコも同じ格好だが、今はそれどころではなかった。

 

「アコちゃん、ちゅっ♪」

「うくっ」

 

 アスナが後ろに手を組み、腰を少し折って、アコの頬へとキスしてきたのだ。ムーディーな照明と官能的な音楽の下で、メイド服を着た飛びきりの美女が唇でついばんでくる。

 アスナが口をつけた部分に、ぞくぞくと電流が走った。

 

「ちゅっ、ちゅっ」

 

 挨拶のようにリップ音を響かせ、上目遣いに見てくる。しかもアコの手を軽やかに取り、指を絡めて握ってきた。

 

「んふ~、アコちゃんの手、やーらかいね♪」

「アスナさん、ダメ」

「これ、お互いに興奮させるゲームだよ?」

「分かってます! 分かってますけどっ!」

 

 そう、これはゲームなのだ。『百合キス・コンテスト』というふざけた名前のゲーム。ただ社長の目を楽しませるためだけに、アコたちにレズビアンを演じさせる悪趣味なゲームだ。

 懇親会での一時間は、アコにとってまさに生き地獄だった。

 

『さあ、ウェルカムドリンクを飲もうねぇ。ヒュプノスペックが気持ちよく酔わせてくれるよぉ』

 

 全員メイド姿の新入社員は、社長が与えたアルコールと電流で酔わされた。それから家畜みたいに並べられ、メイド服の上から体を触られて、乳房やお尻の大きさ・形を好き勝手に批評された。

 

『ぐひひっ! キミは腰がくびれてるねぇ♪』

『ふひひっ、キミはちっぱいでロリ可愛いねぇ』

『おほぉ、柔らかいお尻だよぉ。ぐひひっ』

 

 なのに、社員たちはみんな幸せそうだった。社長の好きにされて、喜んで、笑って───どんどん、人間じゃなくなっていく。一人ずつ社長の頬にキスしては、夢遊病者みたいにヘラヘラ笑っていた。

 

 そして余興として始まったのが、この『百合キス・コンテスト』だ。二人一組になってキスしあい、テクニックを競え、と。ヒュプノスペックが全員の快楽度を公平に計測するから、エロいキスで社長を楽しませろ、と。

 

 そう命じてきたのは、社長秘書の早瀬ユウカだ。

 なぜかアコたちと同じ露出の多いメイド服を着て、自ら『百合キス・コンテスト』に参加していた。今も手近にいた新入社員の一人を捕まえて、噛みつくようなキスを交わしている。

 

「んぶぅーっ!?」

 

 その新入社員は、ユウカの肉感的な太ももでスカートの内側をぐりぐりと刺激されていた。腰砕けになるまで強引にディープキスされ、なのに官能で窒息していく。

 そして最後は、ふかふかの絨毯(じゅうたん)にペタンと崩れ落ちた。

 

「ふん。あなたたちが私に勝てる確率はゼロパーセントなんだから」

 

 ユウカは口元を拭いながら、余裕たっぷりに笑う。やや小柄で童顔ながら、文句なしの美女だ。しっかりメイクされた小顔とネイルやピアスといった装飾とが、計算され尽くした調和を生み出している。

 アスナが聞こえよがしに言った。

 

「胸ちっさいよねあの人」

「あなたと比べるのが間違ってます」

 

 ひそひそ話すアコたちに、ユウカは咎めるような厳しい目つきを向ける。

 彼女もきゅっと尖った美しいバストラインをしているが、アスナの規格外に大きい胸には逆立ちしても勝てまい。

 

「そこの問題児たち、キスはどうしたのキスは」

「今してるところで~す」

 

 アスナはアコの腕を抱え込んで、指を絡ませたまま頬にキスした。

 ユウカは腕組みしたまま、鼻を鳴らす。

 

「天雨さん、そのメイド服どうかしら。露出してるのが横乳じゃなくて上乳で悪いんだけど」

 

「いいと思います」

 

 着心地だけは、とアコは心の中で付け加える。センスはオヤジ臭くて、倫理観は中世以前だ。

 

「やっぱりヒュプノスペックの効きが悪いみたいね。体質かしら」

 

「恐縮です」

 

「早めに諦めたほうが楽よ? 無理に抵抗するより、ずっと幸せな人生が待ってる」

 

「ご高説痛み入ります」

 

「……空崎さんに何を吹き込まれたか知らないけど、素直になれば楽しめるわよ」

 

「もったいないお言葉です」

 

「な、なんだったら、私がキスを教えてあげてもいいわよ。あなたたちが勝利する確率がゼロから数%に上がってしまうけど、社長が喜んでくれるかもしれないし?」

 

(なんなんですか、この人)

 

 ユウカは、社内でどういう立ち位置なのだろうか。社長への崇拝を他人に押しつけつつ、言動は社長の恋人気取り。そのくせ、たかが託児室の室長であるヒナに上から目線で説教されていた。チグハグな女だ。

 

「結構です。アスナさん」

「うん! あっち行こっ、あっち」

 

 アスナに引っ張られるまま、アコは会場の隅に移動した。さほど広くはない会場を、他の社員たちが好きに盛っている間を縫って歩く。

 

「ふんだ、エッチ、エロ、えっちっち秘書め」

「アスナさん、罵倒の語彙が少なすぎ」

「ごい? ねぇ難しい単語使わないでよ~」

「子供じゃあるまいし」

「わたしだって、子供っぽい自覚はあるけどさー。でも子供っぽいところも、アコちゃんの前ならさらけ出せるかなって♪」

 

 にかっと笑ったアスナは、またもアコの頰にキスしてきた。唇の感触と、吐息の温度をアコの頬に残していく。

 

 ぴりっ。

 

「うあっ」

 

 アコは平常心を保てなかった。

 同性愛者ではない自分が、演技とは言え大切な友達と性的な接触をする背徳感。

 それを命じたのが憎むべき犯罪者という屈辱感。

 そして──その全てを火種にして燃える、アコが決して認めたくない快感。

 

「お? お? お?」

 

 アスナはにんまりと笑った。

 

「今ビクッてしたよね♪」

「してません」

 

 本当は、甘い衝撃に腰から下が溶けそうになったけれど。

 

「あの人、すごいキスしてたね」

「は、い」

「アコちゃんはさ、キスしたことある?」

「あ、あるわけないでしょう!」

「そっかぁ」

 

 アスナはにやにやしながら、アコの唇を指でなぞった。

 

「じゃあ、わたしとが、ファーストキスだね」

「ひぅ……ア、アスナさんは……」

「わたし、アコちゃんとキスしたい」

 

 アスナはにこっと笑うと、アコの首に腕を絡めて抱き寄せた。

 二人の乳房がぎゅむっと密着して形を歪める。

 アスナの高い鼻から吹き出た息が、熱風となってアコの唇と官能を撫でていく。

 

「うあ……あう」

「ね? しよ? キス、しよ? ね、いいよね?」

 

 アスナが蠱惑的にささやく。

 この女は、性的という言葉を絵に描いたようだ。Gカップあるアコが、劣等感を抱いてしまうほどのバスト。ヒップや太ももも女性的な魅力に溢れている。それでいて無邪気で無防備、アコの庇護欲をくすぐって止まない。

 

(アスナさんなら、いいかも)

 

 そんな思いが、アコの胸に去来する。

 アスナは信頼できる友達で、こんな狂気に満ちた場所にいていい人ではない。洗脳さえ解けば、きっと普通の女の子の感性に戻れる。キスくらい、きっといつか良い思い出になるはずだ。

 

(アスナさんのファーストキスを、私がもらう)

 

 何より、こちらを見てにやついている、あの醜い中年男に奪われるくらいなら───。

 

「いい、です」

「やった! じゃあ……」

 

 アスナが、抱きしめる腕にぐっと力を込めた。

 ぷるんとした瑞々しい唇に、アコの視線が吸い寄せられる。心臓が高鳴る。意識がとろんとして、現実感が失われていく。

 そして──唇が重なり、甘い刺激が走った。

 

「ん……」

 

 アスナが、鼻にかかった声を漏らす。

 

(すごい。きもちいい)

 

 キスとは、こんなに気持ちいいものだったのか。今まで知らなかったことを残念に思うほど、アコの脳は甘く痺れた。

 

「んん……アスナさ、ん」

「はむ……んちゅ、あむ」

「んー……」

「ぷはっ……あははっ! 楽しいね♪」

 

 アスナが笑う。

 アコはぼうっとした頭で、こくこくとうなずく。今日は辛いことばかりだったけど、アスナとキスできて幸せだ。もっとしてほしい。ずっとしていたい。キス、キス、キス。秘められた快楽を、アスナとだけ共有したい。

 

「んっ」

「ちゅ」

 

 もう一度、唇を合わせる。こんなに気持ちいいことが世の中にあったなんて。

 

(舌、使ったりしてもいいんでしょうか)

 

 もっと気持ちよくなりたいけど、これ以上は怖いような。でもアスナと一緒ならきっと大丈夫なはずで───。

 

「ぶひひっ! 『百合キス・コンテスト』を楽しんでくれて嬉しいよ」

 

「きゃん!?」

「やん、社長さん」

 

 突然、アコはアスナから引き離された。ユウカに後ろから肩を掴まれて。

 そしてアスナは、社長に、脂ぎった中年のデブ男によって抱き寄せられていた。

 

「ちょっと、離してください!」

「あン、だめぇ。今アコちゃんとキスしてたのにぃ」

 

 もちろん、アコは抵抗する。今はキス以外のことなど一ミリも考えたくなかった。ユートピアのことなど忘れて、アスナと夢のような時間を味わいたい。

 だが、社長はいやらしい笑みを浮かべて言った。

 

「ほらアスナちゃん、()()キスしようよぉ」

「もう社長さんってば。ちゅっ♪」

「うひょっ」

 

 アスナが、社長の唇にキスをした。

 アコは、目を見開く。

 

「………………え?」

「ちゅっ、ちゅっ♪」

 

 後ろにいる社長の首に手を回し、唇を小鳥のようにすぼめて、アスナは何度もキスをしていた。社長も、アスナの腰に手を回して離れない。

 二人の唇は、触れあうたびに水っぽい音を立てた。

 

「ぶひひっ♪ アスナちゃんは積極的だなあ♪」

「だって社長さん、カワイイもん。んちゅ……」

「ぶひっ!?」

 

 アスナの唇が、社長の下唇を挟んで引っ張る。そして舌を出し、ちろちろと舐め回した。

 

「んっ、えろっ、れろっ……」

 

 まるでソフトクリームでも食べているかのように、中年男の唇をぺろぺろと舐めるアスナ。

 アコの知っている、元気いっぱいでエッチなことなんて何も知らなそうな女の子とは全然違う。

 社長の鼻息は荒くなる一方だ。他の社員の事など忘れたようにアスナだけを瞳に映し込み、メイドスカートをかき分け、太ももを撫で回す。

 

「あはっ、くすぐったいよぉ」

 

 アスナは体をよじって笑い声を上げた。心底楽しそうに、醜い中年オヤジとのスキンシップを愉しんでいる。

 

「えへへ、社長さんってカワイイ~♡」

「ぐひっ! ボクみたいなおじさんのどこが」

「女の子のために、一生懸命なところ♪」

「分かるかい?」

「うんっ、頑張り屋さんだって分かるよ♪」

「嬉しいよ」

「ねぇ、また深ぁいキスしていーい?」

「も、もちろんっ!」

「やったっ♪」

 

 アスナは、完全に背中を向けた。社長の肩に手を置いて、醜い顔にぷるりとした唇を近づける。そのままじゅるり、と舌をねじこんだ。

 呆然とそれを見守るアコの後ろで、ユウカが憎々しげに言葉を漏らす。

 

「あの女、懇親会の前にもうキスしてたのよ」

「わ、私が、託児室にいたとき、に?」

「そうよ。私が準備をしている間に、自分から」

「嘘……」

 

 アスナが振り向いて、てへっと舌を出した。

 

「ごめんね~アコちゃん。ちょっと言いそびれてて、社長さんとファーストキスしたってこと♪」

 

「そ、そんな……」

 

「唇でつんつんってしたし、舌も入れさせてもらったし、あっ、あとお口の探検もしちゃったんだよぉ」

 

 アスナはうきうきと、アコに報告する。社長の手が、自分の尻や胸をいやらしく撫で回しているのを当然のように受け入れている。

 

「気持ちよかったな~♪」

「……そう、ですか……」

 

 アコの膝ががくがくと笑った。視界にノイズが走る。現実感が薄れていく。この会場そのものが幻覚なのではないかと思えてきて、さらにアスナと社長の姿が歪んでいって、もう何も分からなくなって。

 視界が暗くなる。

 

 ◆◆◆

 

「……っっっお゛!!」

 

 誰かの低いうなり声を聞いて、アコは目覚めた。どうやら絨毯(じゅうたん)の上に、うつ伏せに寝かされていたようだ。

 寒い。いつの間にか、服を脱がされたらしい。

 

「お゛……お゛っ……お゛お゛……ああ゛……あっ……」

 

 またうなり声。今度は途切れ途切れだ。

 声のした方を首だけで向くと、早瀬ユウカが絨毯(じゅうたん)につっぷして呻いている。もうメイド服は着ておらず、下着もつけていなかった。裸のユウカが、上から社長に完全に覆われている。

 

「ぶひゅっ、ぶひゅっ、ぶひっ」

 

 社長がリズミカルに呼吸する。脂肪まみれの背中に脂汗が浮き出て、背筋が盛り上がる。ユウカの白いお尻に何度もこすりつけられていた社長の腰が、ぶるっと震えた。大きめのオシリに何度も何度も腰を叩きつけて、社長はうっと呻く。

 

「出るぅ~、ユウカぁ~」

「あ゛お……っ」

 

 ユウカが短く吠えて、全身を突っ張らせた。こちらを向いた小顔の中では、瞳が焦点を失い、鼻の穴は開いて、突き出した舌からはよだれが垂れている。

 ユウカのヒュプノスペックが、空色の青(スカイブルー)に激しく明滅した。

 

 ぴりっ。

 

「あっ!? あっ、あっあっ!?」

 

 今までにない強烈なパルスが、アコの脳に流れ込んできた。脊髄を通ったそれが下半身に到達し、子宮に衝撃を響かせる。

 

「あっ……お゛っ……」

 

 今まで体験したことのない、アスナとのキスさえ吹き飛ばすほどの快感だった。視界が白くなる。意識が遠のく。

 自分の股間から、何か液体が吹き出るのが分かった。ぴゅっぴゅっ、と断続的なそれが止まらない。

 

「ぶひっ、どうかな? ユウカとの感覚共有は」

「……っっっお゛!!」

 

 さっきユウカが上げていたのと全く同じトーンで、アコは呻いた。一拍おいて、膝から下をぴんっと振り上げてしまう。足の指先、足首、膝、股の関節を折り曲げずにはいられない。

 だって、アソコが燃えるみたいに気持ちいいのだ! 

 

「あっあっ、ダメダメダメ! アソコやばい、やばいですっ、火がぁ火がぁ、なんか燃えてるっ、アソコの中でなんか燃えてるぅうう!」

 

 両手で絨毯(じゅうたん)をつかみ、全身をぎゅぅうと縮める。背中が丸まる。自然と腰が浮く。お尻が宙高く突き出される。アコは頭を絨毯(じゅうたん)に押し付け、目を白黒させた。

 

「はううぅううう!!」

 

 ぴゅっ。ぴゅぴゅぴゅー!

 何かが股間から飛び出した。気持ちいいのが止まらない。びゅるりっ! と熱い液体を吐き出すたびに、股の穴が気持ちよくなる。小水ではない何かが、尿意とも異なる何かが込み上げてくるのだ。

 

「うほっ、ドスケベなアコやアスナを見てたらムラムラしてきたっ」

 

「社長ぉ、もっとユウカを突いてっ、あなたのユウカを、社長専用のエロ秘書をぉおおっ」

 

「ぶひひっ! うほっおほぉぉ!!」

 

 社長がリズミカルに腰を振る。裸のユウカを、押しつぶすように犯しているのだ。

 ユウカの方も、粘り着くような水音をじゅぷじゅぷと奏でつつ、気持ちよさそうに下半身をゆすっている。

 

「あっあっ、すごいのがアソコの奥エグってる! 突いてるぅう!」

 

「ぶひっ、ユウカのオマンコもすごいよ! ボクのおチンポに絡みついてくるっ!」

 

 そして彼女が喜びの声を上げるたび、アコの脊髄をパルスが駆け抜ける。

 

「あ゛おっ! お゛っ!! きもちいい! すっごいきもちいい! 分からない! アソコが気持ちいいことしか分からないぃい!」

 

「あ゛~、社長ぉ、好きっ、好きぃいいっ」

 

「ボクも好きだよっ! 愛してるっ! だからもっと気持ちよくなっちゃえっ」

 

 社長はユウカの尻に腰を打ち付けながら、両手で彼女の胸を揉みしだく。

 

「いいっ、オッパイいいっ」

「いいっ、オッパイいいっ」

「いいっ、オッパイいいっ」

 

 全く同じ言葉とトーンの嬌声が、ユウカと、アコ自身の喉と、ユウカの反対側から聞こえてくる。

 アコは、反対側を向いた。

 

「お゛っ!?」

 

 アスナがいた。ぐしゃっと絨毯(じゅうたん)に寄ったしわは、隣でうつぶせになっているアスナの指によって造られたものだ。

 いや、アスナだけではなかった。懇親会の会場は壁が大きな鏡になっている。その鏡に、うつ伏せで横並びになった裸の女が何人も写っていた。

 

「いっいぃ……社長さんしゅき、だいしゅきぃ」

 

 アスナの双眸は潤み、まつげが震えている。白い肌には次々と汗が流れ、荒い息づかいの中に甘やかな嬌声が混ざる。

 

「あ゙っ、あ゛~……おほぉ……」

「あっ、あっ、気持ちいい! 気持ちいい!」

 

 鏡の中の女たちが、次々とよがり声を上げた。だらしなく舌を伸ばし、白目を剥いてあえぐ様は一様に同じだ。絨毯(じゅうたん)に愛液を垂らし、アソコを突き上げながら腰を振る。

 全員が全員、社長に犯されるユウカと感覚を共有しているのだ。

 

「あっ、あっあっ!」

「ダメ、すごいのくるっ!」

「はぉっ……お゛っ……」

 

 社長がユウカに腰を打ち付けるたび、アコたちは痙攣し絨毯(じゅうたん)に愛液をこぼす。

 セックスに慣れているであろうユウカの感じている快楽電流は、処女のアコたちにとっては強烈すぎるのだ。簡単にアタマを焼き切って、理性を押し流してしまう。

 

「社長、ユウカの社長、好き好き好きっずっとずっと好きっ学生の時も今も将来も好きっ、あ゛んあ゛んあ゛んあ゛っ……! ああカチカチおちんちんも好きっ! おまんこの奥、おちんちんで突かれるの好きっ! 気持ちいい! 気持ちいいっ!!」

 

「あ゙~、アコちゃんすごいっ、社長さんのちんちんすごいっ。わたしバージンなのにめちゃくちゃ感じちゃってるぅ、あ、しゅっご! いま本気で腰振ってる、あ゛っあ゛っ! うに゛ゃっ、あ゛~っ、イく、イッちゃう!」

 

「アスナさんユウカさんっ止めて止めてっ、アソコが熱いのっ! 叫ばれるとアソコうずいて、あぅっ! やだっ、やだやだまた来るっ! ああダメすごいすごいすごいっ! あ゛ーっ、あ゛ーっあ゛ーっ!」

 

 少しずつ、社長のペニスが分かってきた。ソコにないはずなのに、徐々に形や大きさ、そして脈動が分かってしまう。

 アコは、それが怖くて仕方なかった。だが社長に犯されて恍惚とするアスナとユウカを見ているうちに、その恐怖心も塗りつぶされる。

 

 脳と子宮からくる共感が、心を上書きして……。

 

「あ゛っ、あ゛ーっ」

 

 絨毯(じゅうたん)をひっかく指が震える。

 全身の筋肉が痙攣する。

 腰が勝手に揺れ動く。

 ぴゅるっと愛液が飛び散り、絨毯(じゅうたん)を濡らす。

 

「あ゛~、そろそろ出るよアコちゃんユウカっ」

 

「お、お願いします! 出してくださいぃ!」

 

 アコは絨毯(じゅうたん)に額をすりつけながら叫んだ。もう自分が何を言っているのか分からない。ただこの快感を終わらせてほしかった。早く楽になりたい、それしか考えられない。

 

「ぶひっ! うひぃ~っ!」

 

 どくん、とペニスが脈動し、アコの膣がひくついた。

 

「お゛ーっ」

 

 アスナとユウカのあえぎ声も一際高くなった。

 

「あっあっあっ! ダメ、イく、イッちゃう!」

「社長ぉ……っ」

 

 アコの視界が真っ白になる。全身が脱力し、意識が遠くなっていく。

 まるで、去って行く波に引きずり込まれるような……。

 

「あ゛~……」

 

 だが、すぐに次の高波が襲ってきた。

 

「おっおっ、おおぉっ!?」

 

 芯をむき出しにしたユウカのクリトリスが、社長の太い指で転がされたのだ。その快感がアコたちにも共有されている。

 

「あ゛~っ、社長さんしゅきぃ~!」

 

 アスナが絶叫する。

 アコは歯を食いしばりながら腰を震わせる。

 

「ああ~……社長ぉ、だいすき……」

 

 ようやく解放されたユウカは崩れ落ち、うわ言のように呟いた。乳首や陰部を絨毯(じゅうたん)にこすりつけながら、よだれを垂らしている。

 アスナはもっとひどい有り様だ。処女の彼女には刺激が強すぎたのか、ぐったりとして動かない。

 

「かはっ……は……」

 

 セックスするユウカとの感覚共有は、あまりにも鮮烈な体験だった。ヒュプノスペックがある限り、社長はユートピアの圧倒的支配者として君臨し続ける。そう理解してしまうのに充分すぎるほどだ。

 

「ぐひひっ、みんなには理想の女性を目指してもらうよぉ。なに、難しく考えなくてもいいんだ。ボクの言うことだけ聞いてくれればいい」

 

 社長はユウカを抱き上げ、頰を撫で回す。エクスタシーの渦中にいた秘書が歓喜の声を上げると、「ぐひひっ! 可愛いだろ? 幸せそうだろぉ?」と下品に笑う。

 そして、声を張り上げた。

 

「理想の女性とは何か!

 それは最高に幸福な女性のこと!

 女の子の幸福とは何か!

 それは若く美しいこと!

 何も考えずに済むこと!

 何よりも、男に守り導いてもらえること!」

 

 ブサイクな顔をさらに歪めて、社長は高らかに宣言した。男尊女卑に家父長制、ミソジニー、滅びるべき思想のオンパレードだ。

 

「ぐひひっ、この会社は、ボクは、君たちの美しさを守る! 何も考えさせない! 男として、君たちを守り導いてみせる!」

 

 横たわったままの新入社員たちは、何か尊いものを見る眼差しで社長を見上げている。人間ではなく「男の付属品」として扱われているのに、まるでそれが至上の幸福であるかのように。

 

「君たちを、青空でも見えるほど輝く『月』にしてあげる!」

 

 アコは、それを見た時───。

 

「ふざけないで下さい」

「ぶひっ!?」

 

 怒りを爆発させて、立ち上がることができた。

 快楽の余韻で、手足はまだぴくぴくと痙攣している。だがそれを上回るほど、心が熱かった。

 

「幸福がなんだと言うんですか、このクズ」

 

 何も起きない。電流は流れない。どうやら、ヒュプノスペックは本当に安全装置を働かせているらしい。

 社長は、信じられないものを見るような顔だ。さっきまでの好色そうな表情は失せている。

 

「元始、女性は太陽でした! 月じゃない! 自分の意思で自由に輝く、それこそが理想の女性です!」

 

 アコは、社長を指差した。

 

「私は、ぜったい屈しません! あなたの支配をはね除けて、青空の太陽になります!」

 

 だが、そこまでだった。イキすぎて腰が砕けたのか、その場にへたり込んでしまう。

 

「太陽……?」

 

 社長は、一瞬ぽかーんとして。

 

「ぶひっ……そうか、太陽か……あいつと同じことを言ってる……ぶっひひひぃ~!!」

 

 腹を抱えて笑った。そしてふと真顔になり、アコを見下ろす。

 アコは初めて気づいたのだが、社長の瞳は左右で色が違う。右目が黒、左目が白だ。

 

「天雨アコ、お前には特別研修を命じる。厚生フロアで、砂狼シ( すなおおかみ )ロコの指導を受けるように」

 

 背を向けて、どこか浮かれたような足取りで社長は去って行った。

 

「お……おお、待ちなさいっ……」

 

 アコは立ち上がろうとしたが、腰が立たない。それどころか、絶頂の余韻がさらに強くなってくる。怒りと屈辱で頭がおかしくなりそうだった。

 

「あ゛……あ゛~……」

 

 アコは絨毯(じゅうたん)に横たわり、忌まわしいエクスタシーとの闘いに身を委ねざるを得なかった。

 

(続く)




 ここまで読んでいただきありがとうございました。お気に入り・感想・評価など、いつもありがとうございます。更新の励みにしております。
 次章は、「砂狼シロコとビューティー・プロトコル」。砂狼シロコによる「トレーニング」と「いけない事の気持ちよさ」をお届けします。お楽しみに。

どのエピソードが好きですか? 続きを書く参考にさせてください。

  • プロローグ
  • ユウカの章-1
  • シロコの章
  • リンの章
  • ユウカの章-1
  • ミッドローグ
  • ミカの章
  • アスナの章
  • アコの章-1
  • アコの章-2
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。