※この作品はR-18です。

天雨アコ「こんなイヤらしい社長が支配する会社に、私はぜったい屈しません!」→なお   作:a-su

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今回は、少し近親相姦を匂わせる描写があるのでご注意ください。そんなにハードではありません。


第二章 砂狼シロコとビューティー・プロトコル
前編


 二〇二四年、四月二日。

 

(目覚めたくない)

 

 アコがそう願っても、太陽光を模した照明が容赦なく目をこじあけてくる。

 ゆっくりとまぶたを開くと、ダブルベッドのすぐ隣で、アスナが寝息を立てているのが見えた。

 

「う……ん」

 

 昨日あてがわれた、ユートピア本社の中層部にある二人部屋。窓の無い空間で、壁は白くて無機質。デジタル時計と照明の明るさだけが、アコに朝の訪れを教えてくれる。

 悪夢のような入社式と懇親会から、一夜が明けたようだ。

 

「あ、ああーっ」

 

 アコは枕で自分の口をふさいだ。そうでもしないと、叫んでアスナを起こしてしまいそうで。

 息を吸い込むと、枕に染みこんだ臭いがツンと鼻をついた。昨夜、たっぷり吸わせたアコ自身の涙が放つ臭いだ。

 

「う、ううーっ」

 

 懇親会のあと、アコは泣き、わめき、もてる言葉を尽くして「社長」をののしった。そして夢も見ないほどぐっすりと眠り、快適に目覚めたのだ。

 

 そう、ぐっすり眠れたのである。志した会社に裏切られ、洗脳装置を取り付けられ電流を流され、醜悪な中年男とセックスする感覚を共有させられたというのに! 

 

 ぴりっ。

 

「ううっ、ううーっ」

 

 結局、アコは逆らいきれなかった。社長と早瀬ユウカのセックスを疑似体験させられながら、出してくださいとまで口走ってしまった。

 脱出しようとしても、今も耳元から外せないでいるヒュプノスペックに足を止められる。スマホも通じない。逆らうことも、逃げることも、助けを呼ぶこともできない。

 頼みの綱は、空崎ヒナから学んだヒュプノスペックを一時停止させる方法だけ。たったそれだけだ。

 

「うっ、ううーっ」

 

 枕を顔に押し当てたままうめき声をあげると、隣で寝ていたアスナが身を起こした。

 

「……アコちゃん?」

「あ……あの、いえその……」

 

 どう言ってごまかそうかアコが迷っている間に、アスナは眠そうなあくびを一つした。それから、アコの上に覆い被さってくる。

 

「んふ。朝のアコちゃん、補給しちゃぉ~」

「あ、あのアスナさん。私……その……」

 

 アコが言い淀む間に、アスナは唇を突き出してきた。

 

「ん……」

 

 思わず受け入れると、すぐにアスナの唇がアコのそれを食んでくる。思わずシーツを握りしめてしまうほどのゾクゾクが、背筋を駆け抜けた。

 

「……ぷはっ」

 

 唇が離れると、アスナは満足そうに微笑んだ。唾液でテラテラ光る唇を舌で舐め上げる。

 

「んふー。昨日はごめんね? アスナ、社長さんに夢中になっちゃってた。ビックリしたよね」

 

「……アスナさんなんか、嫌いです」

 

「そんな事ない。アコちゃんは、わたしのことが好きだよ。ただ、ちょっと驚いてるだけ」

 

 奇妙な断言をしながら、アスナはアコのパジャマに手を忍ばせた。すその方から手を入れ、アコの汗ばんだ腹を撫でさする。

 

「あの……あ、アスナさん?」

「ん~? なぁに、アコちゃん」

 

 アスナはアコの手を取り、自分の左胸に導く。布地を押し上げて自己主張している乳首を、アコの手のひらがかすめた。

 

「あっ、アコちゃぁん……」

「ご、ごめんなさっ」

「んふ、いいの。アスナも貴女が好きだから」

「私は……」

 

 この子は大切な友人だ。高圧的で皮肉を言いがちなアコにも朗らかに接し、真意を見抜きフォローして、女子校で浮かないようにしてくれた。ユートピアを志望した自分に、渋りながらもついてきてくれた。

 

 そうやって甘えてきたのだから、アコは社長からアスナを救うべきなのだ。ここから連れ出して、洗脳を解く。まともな男たちと付き合って、結婚式に招待したりされたりして、子供の名前を考えあったりもして……。

 

「ふふ。社長さんがわたしとアコちゃんを〈ペアリング〉してくれたの、嬉しかった。アコちゃんは、わたしが好き。わたしも、アコちゃんが好き。だから一緒に、社長さんを幸せにしてあげよ?」

 

 でも、救い出すことなんてできるのだろうか。アスナのヒュプノスペックはLEDを光らせていないけれど、どう見たって彼女は正気じゃない。社長に無条件の好意を示し、ペアリングなどというフザけた命令にも喜んで従っている。

 

 この場合、ペアリングとは(つが)わせることだ。ペットを飼う飼い主が、繁殖させるために適当なオスとメスをペアにするのと同じである。アコとアスナは社長に管理されるペットとして、寝食を共にすることを強制されたのだ。

 

 だから分からない。アスナの好意は本心なのか、それとも洗脳の結果なのか。そしてアコは、アスナとどうなりたいのか。

 

「アコちゃん……とっても可愛いよ。カッコよかったアコちゃんに、女の子らしい悲しさや弱さが加わって、アスナ、とっても好き。透明感のある髪も、濡れた目も、ホクロなんかどこにもないオッパイも、全部大好き……」

 

 気持ちいいの好きでしょ? とささやきながら、アスナはアコの胸を撫で始めた。パジャマの上からGカップある乳房を巧みに刺激し、アコの快感を引き出していく。

 

「う、く…………アスナさん……」

「んふ。ね、キスしよ?」

「イヤ……」

「このイヤは、したいって意味。だよね」

「あ……アスナ、さん……」

 

 アコが観念したのを見計らったかのように、唇が重なる。

 

「……っ」

「んふ、ちゅ……んむ……はぷ……」

 

 昨日から数えて四度目のキス。だがその深さは、これまでと比べものにならない。アコが抵抗しないのをいいことに、アスナは舌を入れ、歯茎をなぞり、アコの舌に自分の舌を絡める。

 

「あ……んふ……」

 

(ああ、まただ)

 

 どうしてバレてしまうのだろう。言葉の真意も、感じるところも、して欲しいことも。アスナの瞳が全て見透かしているようで、アコの興奮はいや増していく。

 

「んむ、んむ、んん」

「んーっ、んん、んふ、ん、んっ」

 

 アスナの舌はアコの口内を蹂躙し、唾液を送りこむ。アコは抵抗せずそれを飲み下した。

 

「ぷはっ……はぁ……」

「あふ、あふ……アコちゃん、可愛いよ」

 

 唇を離すと、二人の間にねっとりとした橋がかかった。アスナは上体を起こしてパジャマを脱ぐ。ブラも外して、上半身裸になった。

 

(ああ、なんてエッチな体なんだろう)

 

 アコはぼうっとした頭で、そんなことを考えていた。

 アスナの裸身は、女性から見てもエロティックだ。白い乳房にピンクの乳輪と乳首がよく映えている。色づいた部分は胸の大きさに似合わない人並みサイズで、それがまた背徳的だ。

 何というか……そう、清純すぎる。セクシーそのもののボディラインに、思春期の少女みたいな乳首がアンバランスで、だからこそアスナの裸は、アコを虜にした。

 

「ぇへ、少し恥ずかしいけど……ぱふぱふ~」

「あ……はぁ……」

 

 アスナがまた覆い被さってくる。両手で体重を支えながら乳房を押し付けてきた。

 アコは胸の谷間に顔をうずめることになる。

 

「んふっ」

 

 乳首がツンと立っていて、アコの鼻をくすぐる。思わず息を吸うと、汗の臭いがむわっと広がった。

 

(アスナさんの、匂い)

 

 もう我慢できない。孤独と恐怖で包まれた今のアコには、アスナだけが縋りつける相手なのだ。

 アコは自分から舌を伸ばすと、その先端でピンクの突起に触れた。

 

 ◆◆◆

 

「アコちゃんのペロペロ、気持ちよかった~」

「廊下でなんてこと言うんですか!」

「でもアコちゃんだって、あんな乱れて」

「忘れて下さい」

「んふ。やーだ」

 

 アコとアスナは、シャワーで汗を流した後──いや、シャワールームでもアスナの誘惑にアコが折れて、お互いの体を洗い合ったり、色々とシタりしたのだが──朝食を取るために、ビル中層部のカフェテリアへ向かっていた。

 

(ハンスト……飢えてみせて、外部から救急車を呼ばせる……いえ、この分だと医療ルームも完備でしょうね。ここは私たちを飼うための動物園(ユートピア)……)

 

 社長の宣言を思い出す。

 

『この会社は、ボクは、君たちの美しさを守る! 何も考えさせない! 男として、君たちを守り導いてみせる!』

 

 あのクズはクズなりに本気であろうと、アコは思っていた。設備の異様な充実ぶりを見ればなんとなく分かる。

 下品な言葉を使いたくないが、脳みそにチンポコが詰まった最低最悪の確信犯なりに、本気で女性を大切に扱おうとしているのだ。

 

 アコは、それに屈するわけにはいかない。しかし、〈美しさを守る〉とはどういうことだろうか? 

 

「おはよう」

 

 カフェテリアの入り口で、アコたちは声をかけられた。

 

 なぜか白のライディングスーツを着た、銀髪の女性社員だ。例に漏れず若く、高校生くらいにも見える。背はあまり無いが、しなやかな動きからもシルエットからも、鍛えられた身体能力があふれ出ていた。

 ヒュプノスペックのLEDは、スカイブルー。

 

「おはようございまーす」

「……おはようございます」

 

(不思議な目……)

 

 彼女の瞳孔は、左右で色が違う。右目が黒、左目が白で、どこかミステリアスでクールな佇まいとよく合っている。

 

「私が砂狼シロコ。今日はよろしく」

「!」

「よろし……」

 

 シロコと名乗った社員は、アコたちの返事を待たずカフェテリアに入っていった。

 

「あ、あの」

「え~、なんか感じわるーい」

 

 アスナも眉をひそめる。

 だが一緒にカフェテリアへ入っていくと、そこで二人は驚きの光景を目撃した。

 

「きゃーっ、シロコさまー!」

「すてきー! 今日も凛々しくて素敵ですーっ!」

「サイン! サインをお願いします、シロコさまー!」

 

 カフェテリアには十数人の社員が集まっていた。その全員が砂狼シロコを取り囲み、口々に黄色い声をあげているではないか。

 戸惑うアコたちをよそに、シロコは社員たちに応えていく。どこかハリウッドスターのような、堂々としつつも気さくな応対だ。

 

「ん、ありがとう。あなたたちも素敵。ユートピアの社員に相応しい若さと美しさを、これからも大切にして」

 

 熱を帯びない、それでいて芯の通った口調。そのギャップが、むしろ社員たちを興奮させるようだ。

 

「は、はい! シロコさま!」

「シロコさまに褒められちゃった!」

「シロコさまと共に成長します!」

「社長にご満足頂けるよう、美を磨きます!」

 

 応援してる、頑張って、とシロコが激励の言葉をかける度、社員たちは身をよじって感激する。その有様は、アイドルの出待ちをするファンと大差ない。

 

「私も〈ユートピアのメインヒロイン〉として、あなたたちに負けないよう頑張る。ランク・ブルーを目指して美しさを磨く」

 

 シロコがモデルじみたポーズを決めると、ライディングスーツの下で筋肉が浮き上がった。それでいて女の子らしい脂肪もちゃんと乗っている。言うだけあって、ちょっとやそっとの節制では得られないだろう見事なプロポーションだ。

 

 アコが呆然としている横で、アスナがウキウキした様子でシロコに話しかけた。

 

「あのー、砂狼シロコさん?」

「ん?」

「もしかして、社長さんの──」

「ん……そう」

 

 シロコは表情一つ変えず、淡々と首を縦に振った。

 アスナはなんと言ったのだろう。アコの耳には届かなかったが、社長との関係性を問うたのだろうか。その関係性が、異様な人気ぶりと関係あるのだろうか。

 

「ふぅ~ん……そういうのもアリなんだ」

「あり。ここでは、ここなら許容される」

「イイの?」

「もちろん。いけない事だから、イイ」

 

 まるで意味のとれない言葉を応酬しながら、アスナとシロコはカフェテリアの中を進んでいく。

 

「ん……アコ、アスナ」

 

 シロコはトレーを三つ手にして振り返った。

 

「一緒に朝ご飯、どう?」

 

(社長とどういう関係かは分かりませんが)

 

 アコは警戒しつつ、しかし興味に負けて誘いに乗った。アスナも異存はないようだ。おのおの好きな料理を受け取り、三人で窓側の席に座る。

 

「おいしそう~」

「そうですね。懇親会の料理も大したものでしたけど」

 

 色々ある料理は、見た目も内容も極上だった。低脂肪の肉や豆腐、豆、新鮮な野菜類などがふんだんに使われている。栄養バランスも考えられた、いかにも美容によさそうな食事だ。

 

(でも、これはエサ。いくら内容が良くても、家畜を太らせて食べるために計算されたエサ)

 

 どこまで行ってもユートピアでは、「全ては社長のために」なのだ。なんなら食事の中に、胸を大きくする薬だの、セックスが大好きになる薬だのが混入されていても不思議はない。

 

「ん……そう、ここの食事は美味しい。私は五年も食べてるけど、毎日満足してる」

 

 いや、それはなさそうだ。シロコのバストラインはせいぜいDカップくらいだろうし、薬物中毒にも見えない。髪や肌の色つやは健康的で、どこか〈青春〉の匂いさえする。

 

「ええ。味は一流ですね」

 

 アコが適当な事を言って食事を褒めると、シロコは微笑を浮かべた。

 

「よかった」

 

 どうやら寡黙なだけで、会話自体は好きらしい。アコとアスナの取り留めない雑談に相槌を打ちながら、シロコは箸を進める。

 

「あなたたちに好き嫌いが少なくて良かった」

「え? はい」

「無いわけじゃないよ?」

「少なければ問題ない。あまり好き嫌いを言う社員は、ああなる」

 

 シロコは、箸の先でカフェテリアの一角を指した。そこには、四人の社員が固まって食事を摂って……いや、食事? 

 四人の前にある皿には、栄養剤らしきカプセルが盛られている。それに水。それだけ。

 

「彼女たちは〈美食研究会〉という社内サークル。食事にこだわりすぎて、必要のない暴飲暴食や偏食を繰り返した。ボディラインもメンタルも崩れて、挙げ句の果てにユートピアの外で暴力沙汰を……だから、食べる喜びを取り上げられた」

 

 彼女らは、その〈食事〉を口にするたび苦しんでいた。まるで大食いチャレンジに失敗したフードファイターみたいに、口から何かを吐き出すまいと耐えている。

 美食研究会のヒュプノスペックは、黄色(イエロー)に点灯していた。

 

「ビューティー・プロトコル、第一条。社員は、自己の容貌・肉体・振る舞いが社長にとって最も重要な財産であることを自覚し、女性としての本分を尽くすため常にこれらの維持管理および向上に努めるものとする……怠れば、罰される」

 

 シロコは、アコとアスナに言い聞かせるように言った。数種のフルーツで作られた美容ドリンクで口を湿しながら、人権もへったくれもないルールを語る。

 太陽にように輝くべき女性の美しさが、社長の私物だと。

 

「ん……食べ終わったら、〈特別研修〉を始めよう。あなたたちにビューティー・プロトコルのイロハを叩き込む。社長に美しさを捧げるために、頑張って」

 

 アコは……アコは、内心の怒りと恐ろしさをこらえようとした。コーヒーカップの中身ごと感情を飲み下し、なんとか表面上は平静を装う。

 我慢だ。このシロコだって、社長の犠牲者なのだから。

 

「……はい」

「社長さんのために、ね?」

 

 アスナも同調してくれる。

 シロコはわずかに目を細めた。

 

 ◆◆◆

 

 脅してきたわりに、シロコの〈特別研修〉は真っ当なものだった。会社員というよりアイドルかモデルを育てるような内容だったが、アコとアスナを熱心に指導してくれる。

 

「エントランスホールと多目的ホールは、もう知ってると思う」

 

 最初は、ユートピアの設備を案内された。地下駐車場にオフィススペース、会議室フロア、VIP用応接室。

 次に、社員寮に診療所、アミューズメントルーム、バーラウンジといったオフィスビルには似つかわしくない設備。

 

 それからフィットネスジムに案内され、三人で汗を流した。体の線が出るアスリート用のランニングシャツとブルマを身につけ、ストレッチにウォーミングアップ、筋トレにランニングマシンまでやらされる。

 

 ぴりっ。

 

 ……シロコのブルマ姿は,まだ健康美と表現できる。だがアスナのそれは犯罪的だった。揺れる胸、上気した肌に伝う汗、運動で張りつめた太ももの筋肉……特にブルマが作り出すお尻の丘は圧巻だ。

 この美しさが磨かれたら、一体どうなるのか想像もつかない。正直アコだって、今より美しい本気のアスナを見てみたかった。

 

「じゃあ次は──」

「ま、まだあるんですか?」

「もうヘトヘトだよぉ~」

 

 運動神経のいいアスナはまだともかく、アコはもう息も絶え絶えだ。音を上げると、シロコがスンとした無表情のままうなずく。汗はかいているが、呼吸一つ乱れていない。

 

「ん、疲れたら休むのも大切……でも、社長は美しさが衰えることを一番嫌う。体力づくりと体形維持を常に意識して」

 

 シロコはトレーナーのように注意事項を述べると、スポーツドリンクのペットボトルを渡してきた。そして自分は腰に手を当てて、プロテインシェイカーの中身をグビグビ飲む。

 

「おっぱい小さいから疲れないんじゃない?」

「それ以上言ったら、メニューを三倍に増やす」

 

 アスナとシロコは妙にウマが合うらしい。体型が浮かびあがる露出の多い格好で、アスナがバストの大きさをからかい、シロコが無表情で応じる。

 

「アスナさん、シャラップ。セクハラです」

「ひど~」

 

 アコはというと、この〈特別研修〉は悪くないと考えていた。会社や社長に対するストレスを発散するにはちょうどいい。

 ぴりっ。

 

「次はダンススタジオ」

 

 レオタード姿でセクシーなダンスをさせられる。

 ぴりっ。

 

「次は温水プール」

 

 競泳水着で水泳をさせられる。

 ぴりっ。

 

「次はヘアサロン」

 

 髪を整え、化粧を直され、服も見繕われる。

 ぴりっ。

 

「次はネイルサロン」

 

 甘皮処理や爪磨き、ハンドマッサージを受ける。

 ぴりっ。

 

「次は……」

 

 ……どこかに連れて行かれ、何かを指示通りこなす度に、ヒュプノスペックから心地よい電流が流される。それがある種の条件付けであることは分かっていたが、アコはそれを甘受していた。

 

 ぴりっ。

 

 美を磨くことは、女性として当然の義務なのだ。だから、ヒュプノスペックの電流は〈特別研修〉を拒む理由にならない。社長のような男に捧げるべきではないだけで、アコは一人の女性として、この恩恵を享受して美を磨く当然の権利がある。

 

 ぴりっ。

 

 だから、ほら──これ見よがしに監視カメラが設置されていても、気にしてはいけないのだ。

 ブルマ姿やレオタード姿、水着姿が堂々と撮影されていても、シロコの生足を伝う汗や、アスナの弾む胸や、アコ自身のくねるお尻が、記録に残されようとも。

 

 ぴりっ。

 ぴりっ。

 

 この〈特別研修〉はビューティ・プロトコルの一環であり、女性として当然の権利なのだから──……。

 

 ◆◆◆

 

「次は、リラクゼーションのできる所に……」

「あら、シロコ。アコも」

「……ヒナ」

 

 シロコがエレベーターを呼ぼうとした時、空崎ヒナが後ろから声をかけてきた。押しているベビーカーの中に一人、背中に一人、小さな子供を連れている。

 その姿を見たシロコが、小さく舌打ちした。

 

「おはようアコ。昨夜は眠れた?」

「ええ、嫌になるくらいに」

 

 意にも介さないヒナに、アコは短く答える。あまりヒナと近いところを見られると、シロコを警戒させそうだと思ったからだ。

 

「それは良かった。……シロコ」

「……」

「シロコ」

「……」

 

 シロコは、目を背け続けていた。最もそれはヒナからというより、ヒナが連れている社長の子供たちからのようだ。

 

「……行こう」

 

 それだけ言って、シロコはエレベーターのボタンを連打した。

 

「アコ」

「はい?」

 

 ヒナが小声で話しかけてきたので、アコも声をひそめて応じる。

 

「社長室は、見た?」

「いえ」

 

 なぜそんなことを? と思いつつアコが首を横に振ると、ヒナは妙に真に迫る様子で続けた。

 

「社長室は、ユウカやシロコのような〈スカイブルー〉の社員でなければ入れない。機会があるなら、一度入っておいた方がいいわよ」

 

「何があるんです?」

 

「ん……それは、社長の本当の……来たわ」

 

 エレベーターが到着し、扉が開いた。アスナが先に乗り込み、アコも続こうとした瞬間。

 

 くいっ。

 

 シロコがアコの肩に手を置き、耳元で囁いた。

 

「社長室は入らないほうがいい」

 

(え?)

 

 ぴりっ。

 

 疑問に思う暇もなく、ヒュプノスペックから電流が流れてくる。それが心地よくて、アコは深く考えずにうなずいた。

 

 ◆◆◆

 

 リラクゼーションエリア、〈アビドス〉。

 アコは、まずエステ用のガウンと紙ショーツに着替えた。ふわふわのソファに腰を下ろし、奥空(おくそら)アヤネという女性社員からカウンセリングを受ける。

 

「アコさん、ハーブティーをどうぞ」

「ありがとうございます……いい香り」

「春はゆらぎの季節。新しい生活への不安や、環境の変化によるストレスで美容に悪影響が出やすいんです。今日のアコさん、そんなお顔をされていますね」

 

 体の線が出るワンピース姿のアヤネは、穏やかな声でカウンセリングを続ける。ライフスタイルや美容の悩みを、アコのペースに合わせて聞いてくれた。

 そしてソファの後ろに回り、アコの肩や首筋、耳の後ろ、髪の生え際などをマッサージしていく。

 

「ん……」

 

 絶妙な力加減に、思わず声が漏れる。

 

「疲れが、お顔の周りに出やすいみたいですね」

「まあ、その。たまに目つきが怖いって、友達からも」

 

 少し離れたソファを見る。アスナも小鳥遊(たかなし)ホシノという小柄な社員からカウンセリングを受けているのだ。一人じゃないという安心感が、アコをリラックスさせていた。

 

「まずは、顔周りのケアから始めましょう」

 

 アヤネは、アコの髪をアップにまとめてうなじを露出させた。そして、エステ用の化粧水やクリームを丁寧に塗り込んでいく。

 

「まずは、血行を促進して……」

「ん、ぉ……」

 

 アコは変な声を出してしまった。うなじや耳、頬、フェイスラインといった場所に走る、巧みな指使いにつられたのだ。

 

「ふふ。気持ちいいですか?」

「ぅ……」

「言葉に出して。自分を認めてあげてください」

「は、はい……気持ちいいです」

「もっと。きれいになっていく自分を認めて」

「あ、きもちいい……あっ」

 

 アヤネの指が、アコの唇を優しく撫でる。アスナとのキスで覚えた快楽が、アヤネの愛撫によって鮮やかに蘇った。

 

「気持ちよくなる自分を、認めなさい」

「あ……は、きもちいい……すごく、いい」

「はい、よく言えましたね」

 

 ぴりっ。

 

「ぉ、ん。んん……」

 

 アコは、紙ショーツに熱い液体が染みこんでいくのを感じた。

 

「素直なアコさん、素敵ですよ」

 

 不意にアヤネの指が離れて、喪失感に胸が苦しくなる。

 

「ぁ……」

 

 思わず声を出してしまうと、アヤネがくすりと微笑んだ。

 

「今度は、お胸のマッサージです。ノノミ先輩」

「は~い。アコさん、十六夜(いざよい)ノノミです。よろしくお願いしますね」

 

 ノノミはおっとりした雰囲気で、ロングヘアの女性だ。アヤネと同じワンピースの胸周りは、Gカップのアコ自身よりも一回り以上大きい。しかもノーブラらしく、歩くだけでぶるんっと揺れている。

 

 そんな彼女がソファの後ろから腕を回し、柔らかくて温かいお餅みたいな乳房に、アコの頭を優しく誘導した。

 

「アコさん、力を抜いて~」

 

 耳たぶに息をかけられながら囁かれ、思わず目を閉じる。母性的な柔らかさに首の重さを預けると、体全体から力が抜けていく。

 

「はい。心を開いて深呼吸~」

 

 言われるままに深く息をすると、心地よい香りで肺が満たされた。きっと、乳房に染みこんだ高級な美容液やクリームの香りだろう。ノノミの体温で温められた、女の子を美しくするための成分が、アコの肺を満たしていく。

 

「あ……は、ぁ……」

「んふ~♡ お胸のマッサージを始めますよ~」

 

 ノノミの手が、アコのガウンを開く。ブラは外していたから、乳房がそのまま露出した。

 

「うわぁ、丸いオッパイ。すごく形がいいですね。私のと全然違います、うらやましいな~」

 

 アコのバストは乳腺が多めなのか、あまり柔らかくはない。その代わり形の良さには自信があった。美しく輝く女性(たいよう)の象徴とするために、手入れを欠かさなかった自慢のバスト。表面にはシミ一つなく、乳首も乳輪もきれいなピンク色だ。

 

「あまり揉まない方がよさそうですね。それは社長のお楽しみにとっておきましょう」

 

 ぴりっ。

 

(社長。社長って、誰だっけ)

 

 胸に乳液をすり込んでいくノノミの手つきが巧みで、まるで自分の肌が溶け出して乳液になったかのようで……アコは、耳から入ってくる情報をうまく処理できなかった。

 

 ふと見ると、アスナも官能的に身をよじっている。黒見(くろみ)セリカと名乗っていた社員が加わり、アヤネとホシノとの三人がかりで胸をマッサージされているのだ。

 

 ぴりっ。

 

 ノノミの指が、乳房の付け根を優しく揉みほぐし始める。重い胸を支えて溜まっていた疲労物質が、巧みな指使いによって取り除かれていく。

 

「はーっ……ん」

「スペンス乳腺、とっても気持ちいいでしょう? 優しくマッサージすると、ホルモンが分泌されて……女の子はどんどんきれいになるんですよ」

 

 アコはたまらず腰を浮かせた。もっと強く揉んでほしい。乳首も弄ってほしくて仕方ない。

 だがノノミは焦らすように乳輪の周りを撫でているだけで、一番敏感な場所には触れてくれなかった。

 

「んふ~♡ そろそろお胸のマッサージはおしまいです。次は……」

 

 ノノミの指が、紙ショーツの上からアコの大事な所をそっと撫でる。

 すごい声が出た。

 

「あっ! ああっ!」

「次は、シロコちゃんが下半身をマッサージします。楽しみですね~」

 

 指が離れていき、アコは切なさに思わず腰を浮かせてしまう。

 アスナも似たような目に遭ったらしく、ひときわ艶めかしく腰を震わせている。

 

「社長が、あなたたちのことを待っています。きれいになりましょうね~」

 

 ◆◆◆

 

「最後は下半身のオイルマッサージ。あなたは私が、アスナは他のみんなが施術する」

 

 アヤネたちと同じ白いワンピース姿のシロコが、施術用のベッドに座るよう指示してくる。

 

「ガウンは脱いで」

「でも……」

「女性同士。恥ずかしいことない」

「……はい」

 ぴりっ。

 

 紙ショーツ一枚になると、シロコの視線がアコの体を這った。首筋から鎖骨、乳房からお腹、腰からお尻、そして太ももへと。

 

「ん……ぅ」

 

 アコは思わずうめいた。ただ体を視線でなぞられただけ。それだけで体が燃え上がる。

 早くマッサージしてほしい。アヤネとノノミに火をつけられた体を、シロコの手で果てさせて欲しい。

 

(私、レズビアンだったんでしょうか)

 

 男に興味はなかったが、女にだって性的な興味はなかったのだ。なのに今は、今朝知り合ったばかりの女性に体を見られて興奮している。恥ずかしい所を触ってほしくて、たまらない。

 

「さあ、うつ伏せになって」

 

 アコは言われるままにベッドへ寝そべる。

 ベッドは適度な弾力があり、顔を出して呼吸をする穴もついた本格的なものだ。ただ、その穴に顔を入れてしまうと、シロコのことは全く見えなくなってしまうが……。

 

「まずは、オイルから」

 

 人肌に温められたオイルが、背中に垂らされる。エステ用品には詳しくないアコだが、ラベンダーの香りだということは分かった。

 

「マッサージを始める」

 

 シロコは宣言してから、アコの尻に手を置いた。そして両手の指を使って、背面から全身をなで回す。つま先から頭まで、全身をフェザータッチで刺激してきた。

  ぴりっ。

 

(あ……これ、すご)

 

 シロコの手つきは巧みで、足下から首筋、首筋から足下へと、アコの体をくまなく探っていく。

 

「ん……ふ、ぁ」

 

「いい体。運動はしていないみたいだけど、太ってもいない。食事制限と日々のお手入れの賜物」

 

「ど、どうも……」

 

「でも、お尻がちょっとだらしない。デスクにかじりついて生活しているとこうなる」

 

「うーっ、ん。ほっといてくださいぃ」

 

「そうはいかない。それがビューティー・プロトコルだから」

 

 シロコの指が、お尻のすぐ上くらいをグッと押し込んだ。

 アコの尻が、勝手に痙攣する。

 

「あっ、あ」

 

「それは固くなった筋肉の反射。いま強くしたら痛いという証拠」

 

「はーっ……ん」

 

「あなたのように固い女性の場合、強く刺激するのは避ける。浅い刺激を何度も繰り返すことで、深い部分も勝手にほぐれてくるもの。そして一度ほぐれたら、あとは何をしても気持ちいい。あなたの体がそうなるように、私もがんばる」

 

「あ、はい……お願いしま、す」

 

 シロコの手がまた動き始め、アコは快感と陶酔に思考を支配されていった。

 

 ◆

 

 アコの意識が夢うつつをさまよい始めたころ。

 

「はーっ……あっ」

 

 シロコは紙ショーツの下に手を入れ、お尻と太ももの付け根を指先でくすぐっていた。

 

「お尻はこれくらいにして」

「あの……もっとぉ……」

「だめ。次は鼠径部(そけいぶ)を触るから」

「ぁ……はい、はい……ん、ごくっ……」

 

 アコは無意識のうちに、喉を鳴らしていた。

 鼠径部とは股関節の前方部で、太ももの付け根。下腹部の三角形状のことで……要するに、女性器のすぐ近くだ。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 呼吸が荒くなる。早く触ってほしい。さっきから疼いてたまらないアコの「女そのもの」を、シロコの手で弄ってほしい。

 期待感で、脚が勝手に開き始める。マッサージベッドの上で、アコはカエルのように股を開いていた。

 

「今度のは、ちょっと染みるかも」

「あんっ」

 

 アコはたまらず声を上げた。お尻の上に、たっぷりとオイルを垂らされた。それだけだ。それだけで、アコの尻があからさまに揺れる。

 それを諫めるようにシロコは、アコの尻肉に五本の指を食い込ませた。

 

「あ、ああ……」

 

 そのままオイルを塗りこむように、尻を揉み始める。ぐにぐに、ぐにぐにと。

 

「あ……ん」

 

 アコは切なく身をよじる。シロコの指は尻肉の形が変わるほど強く食い込み、かと思えば今度は優しく表面をなぞり、また強く揉みしだくのだ。

 

「あっ、あ……や、ぁ……もうして、してしてっ、してぇぇ……」

 

 アコはたまらずおねだりしてしまう。シロコの指は、アコの尻肉と太ももの付け根を行ったり来たりしているだけ───なのに、アコは快感で気が狂いそうだった。

 

「いい子」

 

 シロコの指が、ようやく念願の場所に伸びた。鼠径部をリズミカルになぞっていく。指先ではなく間接部の凹凸で、アコの鼠径部をにゅるにゅるオイルマッサージしていくのだ。

 

「あ、あっ、あ……ん」

「気持ちいい?」

「はい、気持ちいぃ……れす」

「そう」

 

 アコがだらしなく口を開けたまま答えると、シロコの声が少し弾んだ。指使いは踊るように大胆で、壊れ物を扱うように繊細で、アコの鼠径部を優しく蹂躙していく。

 

「あ、は……」

「気持ちいいなら素直に受け入れて」

「は、い、受け入れます。受け入れ、ますぅ」

 

 何を? それを問う余裕は、今のアコにはない。シロコの指遣いに合わせて、ひたすら淫らに腰をくねらせているだけだ。

 

「ん……アコは素直でいい子。ご褒美をあげる」

 

(ご褒美!)

 

「上に乗るよ」

 

 シロコが、マッサージベッドの上に乗ってきたようだ。うつ伏せになっているアコからは見えないが、確かに重量を感じる。

 そしてシロコは、アコの上にのしかかってきた。オイルをたっぷりつけた裸の身体を、アコの背中にぴったりと密着させてくる。

 

「ん……ぅ、あ……」

 

(これ……すごく、いいかも)

 

 筋肉量の多いシロコの肉体は、アコとは比べ物にならないほど熱い。熱と重量に、シロコの体の柔らかい部分が相まって、圧迫感と包まれ感がすごい。

 シロコがゆっくりと体を動かす。

 

「このまま動くよ」

「は、い……う……あっ」

 

 背中にのしかかられたまま体を揺すられると、シロコの肉体の熱と重量感を味わわされてしまう。アコの中の「女」が、自分より強い生物にのしかかられていることを認識して、どんどん昂ぶっていく。

 

「気持ちいい?」

「は、い。気持ちいいです……すごく」

 

 背中でむにゅっ、むにゅっ、と形を変える乳房の柔らかさが、こりこりした乳首の感触が、アコの快感を加速させていく。

 

「私も気持ちいい。アコは柔らかくて、なのに芯があって、とても魅力的。アコの体をマッサージするたびに、私もすごく気持ちよくなれる」

 

 シロコはアコの背中に体重をかけながら、腰を揺すり始めたようだ。オイルまみれの下半身がこすれ合う音が、ぐちゅぐちゅと響く。

 

 ……かりっ。

 

「ひゃう!」

 

 耳たぶを甘噛みされた。痛みが走る感覚は一瞬で、その後から甘酸っぱい快感が広がる。その刺激に反応してか、アコの秘部からトロリとした液体が垂れてきた。

 

「アコは耳も弱いみたい」

 

 シロコの舌が、耳の中に入ってきた。くちゅくちゅとかき回し、唾液をたっぷり塗す音が直接脳に響く。

 

 かりっ。くりっ、くりっ。ぐにぐに。こりっ、こりっ……。

 

「あ……ん、ふ……」

「もっと声出してもいいよ」

「でも、恥ずかしい……です」

「ん……遠慮しないで、嬉しいから。気持ちよくなってくれるの、すごく嬉しい」

 

 アコの心が溶けていく。

 

「あ……ああ……」

 

 嬉しい、という言葉。それは、アコに対する思いやりと赦しの言葉。ユートピアの狂気にさらされ、逆らうことも逃げることもできず、一人孤独に戦うアコが一番欲しかったものだ。

 アスナは与えてくれるばかりで、自分の気持ちを教えてはくれないし……。

 

「あ、う。私も……」

 

 マッサージによる恍惚と、耳に注がれる熱い吐息で、快感がどんどん増幅されていく。腰が勝手にへこへこと動いてしまう。ベッドに自分のクリトリスをこすりつけ、アコは快感を高めていく。

 

「あ……あっ、ん」

「アコの腰つき、すごくエッチ」

 

 シロコがささやく。かすれ気味の声がまた色っぽい。

 

「はーっ、いやあ……違う、違うの……」

「いいんだよ。私も気持ちいい。あなたは一人じゃない。気持ちよくなるのは、美しくなるために必要なこと。美しくなるために、女の子は何だってしていいの。ユートピアは、あなたにその権利と義務を、あらゆる機会を与えてくれる」

 

 ひとりじゃない。女性なら当たり前。

 これは美しくなるための義務と権利で、気持ちよくなっているのはオマケのようなもの。

 オマケだから警戒しなくていい、思う存分、この快楽に身を任せればいい。アコは自分に言い聞かせる。

 

(気持ちいい……)

 

「ん……あ……ああーっ」

「キレイになるの、すごく気持ちイイね」

 

 シロコの声が、脳の中まで染み込んでくる。それは危険な誘惑で、一度ハマったら抜け出せないと本能が告げている。

 でも、アコにはもう逆らえない。

 

「ん……ぅ、あ……」

 

 アコは無意識のうちに、腰を持ち上げた。

 

「どんどん気持ちよくなって」

 

 シロコはそれに応えるように、もっとも敏感なところに指を這わせる。クリトリスと陰唇を指でつまむようにして、むにゅっと揉みしだいたのだ。

 シロコの指がオイルでぬるぬるになっているためか、痛みはない。ただひたすらに気持ちいい。

 

「あっ! あーっ!」

 

 アコは絶叫した。今まで経験したことのない、強烈な幸福感と充足感に襲われている。

 それを与えてくれるのは、シロコだ。

 与え続けてくれるのは、シロコだ。

 シロコがいないと、もう、ダメだ。

 

「シロコさ、んっ!」

 

 アコは頭だけ振り向くようにして、舌を突き出す。

 シロコは微笑みながら顔を近づけてくれる。

 二人はそのまま唇を重ねた。

 

(あ……ごめんなさい、アスナさん……)

 

 シロコの舌が、アコの舌に絡みつく。撫でて、揉んで、しごいて、アコの口内を思うがままに蹂躙する。

 もうたまらない。アスナとのキスで覚えた口内粘膜の快楽が、アコを一気に高みへと押し上げていく。

 

「んぉ……もっろ……」

「んは……アコのイクところ、見せて」

「はぁっ、はいっ……ああ、イキます……イッていいですか?」

 

 シロコは耳元で優しくささやいてくれる。

 

「いいよ」

 

 そしてまたあのオイルマッサージを始めた。陰唇とクリトリスを指でつまんで押しつぶし、指先で振動させるように愛撫してくる。

 それがトドメになった。

 

「あ、いく、もう……っ!」

 

 体の力が抜けていくのに、幸福感だけが増していく。アコが絶頂を迎えたのを、シロコは優しく見届けてくれる。

 アコは眠るように意識を失った。

 

 ◆◆◆

 

「ぐひひ、シロコぉ」

「ん、……さん……はん、ん……」

 

 シロコの艶っぽい吐息と、聞きたくない声が聞こえて、アコは細目を開けた。

 

「うへ……よくやったぞぉ、ふひひっ」

「まだ途中。でも、ご褒美もっと……ん」

 

 やはり、社長だ。ガウン姿のシロコを抱き寄せ、その肢体を愛撫している。

 

「ん、ん、好き、おじさん好き、もっとヨシヨシしてぇ……」

 

 シロコは社長の首に両手を回し、ひたすら甘えている。おでこをグリグリと社長の額に擦りつけ、子犬が主人にするように戯れていた。

 その姿は、どこか子供じみていて……。

 

(……いま、何て言ったの)

 

 アコは、恐ろしい可能性に気づいた。

 

「よしよし、シロコはおじさんのことが大好きだねぇ」

 

「好きっ。だって、たった一人の家族だから」

 

「よーしよし。たくさんキスしようね」

 

「もっとしたい。セックスもしたい」

 

「あのなシロコ、おじさんとお前は血がつながっているんだよ。それだけはダメだっていつも」

 

「ん、分かった。でも今は、とにかくキスしたい。あとで、お尻セックスもしてくれる?」

 

「ああ、いくらでもしてあげるよ。さ、口を開けなさい」

 

 ぴちゃ、ぴちゃ……という水音が、アコの耳をくすぐり始める。

 社長が愛おしそうに頭を撫でると、シロコは気持ち良さそうに目を細めた。口元ではぬらぬらと舌を動かし、社長の舌と絡ませる。キスを交わしながら、ガウンをはだけていく。

 アスナのそれとは違う、しなやかで少女じみた曲線を描くシロコの裸体を、社長は宝物のように撫で回していた。

 

 ちらりと見えた彼と彼女の目は、どちらもオッドアイだ。右目の瞳孔が黒で、左目が白……。

 アコは、自分の血の気が引くのを感じた。

 

(続く)

どのエピソードが好きですか? 続きを書く参考にさせてください。

  • プロローグ
  • ユウカの章-1
  • シロコの章
  • リンの章
  • ユウカの章-1
  • ミッドローグ
  • ミカの章
  • アスナの章
  • アコの章-1
  • アコの章-2
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