※この作品はR-18です。

天雨アコ「こんなイヤらしい社長が支配する会社に、私はぜったい屈しません!」→なお   作:a-su

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後編

 

 株式会社ユートピア本社。

 リラクゼーションエリア〈アビドス〉。

 

「んーっ! んーっ!」

 

 アコが今できる抵抗は、柔らかいもので塞がれた口の中から、うめき声を吐き出すことだけ。

 マッサージ台の上に仰向けになり、小鳥遊(たかなし)ホシノと黒見(くろみ)セリカから二人がかりでキスされているからだ。

 

(ごめんなさい、ごめんなさいアスナさん。他の人とキスしてごめんなさい……)

 

 アコは、ヒュプノスペックを一時停止するための怒りを出せないでいた。アスナへの申し訳なさとキスの気持ちよさ、驚愕と混乱が勝って、感情の強弱をコントロールできない。

 そう、驚くべきこと、忌むべきことをアコは知ってしまったのだ──。

 ぴりっ。

 

「ん~っ、んーんっ」

 

 シロコとセリカのキスに合わせて電流が走り、アコの体がびくんと跳ねた。

 アコの手を頭の上で押さえつけている十六夜(いざよい)ノノミが、おっとりした声でからかう。

 

「アコさんはキスが大好き。そうですよね~」

 

 ホシノとセリカが少しだけ唇を離し、至近距離でささやく。

 

「おじさん知ってるんだよ、舌の裏が弱いって♡」

「じっとしときなさいよ。あんたの好きなところは、ヒュプノスペックで全部バレバレなんだから……ん……♡」

 

 二人はキスを繰り返す。どちらも幼げな顔立ちなのに、それとは裏腹なテクニックだ。まだアスナしか知らないはずの性感帯を、二人がかりで責め立ててくる。

 

「ん、あぁ……んっ、あぁぅ……」

 

 アコは力無く喘ぐ。ガウンを奪われ、背筋と乳房をプルプルと震わせながら、ホシノとセリカの執拗なキスを受け入れるしかない。

 

 アコの舌は根元から先端まで、余すところなく二人の唾液まみれ。そこから生まれる快楽が、脳をどろどろに溶かしていく。

 

「んーっ! んむっ、んっ……ふぐ……っ」

 

 唇が離れた瞬間を狙って、息継ぎをする。だがすぐにセリカが唇を重ねてきて、また舌を絡め取られる。間髪入れずにホシノが手を伸ばしてきて、キスで敏感になった乳首やうなじを撫で回されるのだ。

 

「んぅう!?」

 

 脚が勝手に飛び跳ねようとするが、そちらも奥空(おくそら)アヤネに押さえられてしまっている。

 

「そんなに脚を動かすと、恥ずかしいところが丸見えになってしまいますよ?」

 

 彼女に言われるまでもない。しょせん使い捨ての紙ショーツはとっくに破けて、アコの女性自身を守るものは何もないのだ。

 あらわにされたアコの秘所に、アヤネ以外の視線が突き刺さっている。

 

 誰の? 

 

「ぶひっ♡ アコのまんこっ♡」

 

 それはもちろん、下着姿の砂狼シ(すなおおかみ)ロコとキスを続ける〈社長〉の視線だ。背は低く、腹は出て、頭は寂しいスーツ姿の中年男は、アコの秘部を凝視していた。

 

(なんで(おぞ)ましいんでしょう)

 

 社長は、ズボンの前をはっきりと膨らませている。むき出しになったアコの恥ずかしい所を見て、性欲を高ぶらせているのだろう。

 

「んゅぅ、おじひゃぁん」

「おお、シロコ……」

 

 シロコが中年男の首に腕を回し、髪の薄い後頭部を愛撫し始めた。

 社長もそれに応える。セミロングの銀髪を梳き、頭皮を撫で、縞模様のショーツに包まれたシロコのお尻をマッサージするように揉む。

 

「んふぅ……んっ、あふ……」

「ぶひゅー♡ ぶひゅぅ♡」

 

 シロコと合わせた口の中から、歪んで低い鼻の奥から、醜男は気色の悪い声を出した。ジムやエステで磨き抜かれたシロコの柔らかさ、体温や体臭を堪能しているのだろうか。

 

「おじさん、もっとキスして……私のお口、美味しいって言ってくれるの嬉しいから……」

 

 シロコは頬に涙を、引き締まった太ももの間に愛液を伝わせている。ヒュプノスペックの影響下にある彼女は、キスだけでも深い性感を得られるのだろう。

 

 アコがいま、ホシノとセリカのキスで、目の裏に火花を飛ばしているのと全く同じ。ヒュプノスペックが強いてくるシロコへの共感、快感、悔しさが相まって、どうにかなってしまいそうだった。

 

「へむ、んゅぅ……おじさん、もっと、ん、ちゅ……してぇ……」

 

「ぶひ、ふひぃ♡」

 

 社長はシロコと舌を絡めながら、ショーツの中に手を入れ、お尻の割れ目を刺激し始めた。

 シロコは腰を前後にグラインドさせ、社長の膝にショーツの三角地帯をこすりつける。

 

「んぁ、はやく、早くお尻セックスしたいっ」

「ぶひひっ、まだだよぉ、ぶふぅっ」

 

(ケダモノめ)

 

 そう、社長はケダモノだ。自らと血がつながったシロコ──恐らくは姪──を洗脳し、唇を奪い、アブノーマルな性行為を教え込んでいる。

 倫理を外れたケダモノ。人として許されない、最低のクズ。

 

 なのに。

 

「社長とシロコちゃん、素敵です~♡」とノノミ。

「うひぃ、社長、かっくいい……♡」とホシノ。

「いやらしいんだからぁ、もうっ♡」とセリカ。

「男性らしくて……素敵、です♡」とアヤネ。

 

 キスに夢中なシロコに引っ張られたか、アビドスの四人が口々にそう呟く。海の青(マリンブルー)に点滅するヒュプノスペックから幸福感と快楽を与えられながら、自分たちの心に愛の言葉を刷り込んでいるのだ。

 

 彼女たちは熱く湿った吐息を漏らしながら、アコへの拘束をゆるめる。薄手のワンピースに包まれた肉体をくねらせ、社長の気を惹こうと───。

 

「な、にが、ビューティー・プロトコルですか」

 

 その隙に、アコはようやく口を開く事ができた。起き上がることはできないが、せめてもと声を振り絞って叫ぶ。

 

「女性の美しさは女性のためにあるものです。そんな醜い男に捧げるものじゃありません!」

 

 このチャンスを逃すことはできない。すぐには彼女たちの洗脳を解けなくとも、せめて何らかの爪痕を残しておきたい。

 

「シロコさんも、ノノミさんもセリカさんも、アヤネさんもホシノさんも、それぞれに魅力的なのに! その美しさを男なんかに捧げてしまうなんて、そんなのはおかしいんです!」

 

 言えば言うほど、頭が過熱してくる。心の原始的な部分が、アコの理性を食い荒らしていく。

 

「しょせん男なんて、獣欲(じゅうよく)に支配されて女を踏みつけるしか能が無い生き物! そいつもそう! 自分の姪をヒュプノスペックで洗脳して、汚れた性欲に奉仕させるケダモノめ!」

 

「……ふっ」

 

 鼻から息の抜ける音がした。シロコが失笑したのだ。

 

「言いたいこと、全部言えた?」

 

 まるで聞き分けのない子供にかけるような、呆れと優しさの混じった声。予想していた反応だ。

 けれど、怒りが抜け出したアコの胸に、黒々とした絶望が湧く。

 

「あはっ♡」

 

 アヤネも笑った。ノノミも。

 

「あははっ♡」

 

 そしてセリカも。ホシノも。

 

「……」

 

 社長だけは笑わなかった。シロコの腰を抱きながら、肩をすくめる。

 

「シロコでもダメか。すごいな」

「おじさん、ごめんなさい」

「ぶひっ。もういいよ、離してあげなさい。そのままじゃ、ボクが天雨君を〈個別指導〉してあげられないからねぇ」

 

 アヤネが名残惜しそうに手を離した。ノノミとセリカも、アコの体から離れる。

 だがホシノだけは、まだキスしていたかったらしい。トロンとした目つきのまま、唇を半開きにして小さな体をヒクヒク震わせている。

 

「ん……もっかい」

 

 熱を帯びた吐息を吹きかけながら、もう一度アコに顔を近づけてきた。

 アコは拒否しようとするが、さんざんキスで蕩かされた体に力が入らない。一度からだに起こり、こびりついた快感は、どこにも出ていかずにアコを苛み続けていた。

 

(ごめんなさいアスナさん……あなたを助けることも忘れて、気持ちよくなってたなんて……)

 

 せめてもの抵抗に、顔をそむける。ヒュプノスペックに負けて大切な友人を裏切ることは、死ぬより辛いと思ったのだ。

 逸らした視界に、大迫力のバストが現れた。

 

「はい、そこまで」

 

 いつの間にか近づいてきたアスナが、ホシノを引き剝がす。いつも快活に弾ませている声を、低く抑えていた。

 

「うー、邪魔しないでよぉ」

 

 ホシノはアコの唇から視線をそらさず、アスナに抵抗している。だが体格差は明らかで、なすすべなくアコから引き剝がされた。

 

「うー、新人ちゃんのケチ」

「私はアスナ。新人ちゃんでもケチでもないよ」

新人(ホワイト)のくせにぃ」

「ランクが関係ある?」

「あるよ。だって私は選ばれた社員(マリンブルー)で……」

「社長さんに逆らうつもり?」

 

 ホシノが「うひっ」と引きつった笑い声を漏らした。

 

「分かった?」

「分かった、分かったよぉ。全くもう、社長がいきなりここに連れてきちゃうワケだよ」

 

 アコは、アスナに抱きしめて欲しいと思った。温かい胸元に顔をうずめ、泣いて謝りたい。だって、

 

(アスナさんは、私とペアリングされたパートナーなんですから)

 ぴりっ。

 

 パートナー。アスナは、アコの大切なパートナー。キスもしたし、セックスもした。アスナの存在こそ、アコがこのユートピアで踏ん張り続けるための支えなのだ。

 なのに、ああ、なのに……。

 

「ぶひっ、アスナちゃん、おっぱいさせろっ」

「うん社長さん……あ、でも……」

 

 醜い中年男が手招きしただけで、アスナはそちらに行ってしまう。ちらちらとアコのことを気にしながらも、社長に逆らおうとはしない。

 

「ぶひひっ、アスナちゃん、前を開けて」

「はい、どうぞ」

 

 アスナはガウンの前を大きく開ける。

 その中身に、社長がしゃぶりついた。アコの目の前で、アスナの乳肉を咀嚼し始める。

 

「んっ、社長さん、くすぐったいよぅ……」

「はひひっ、このJカップ、甘いよぉ」

「やだ……恥ずかしいってばぁ」

 

 ぴちゃぴちゃと卑猥な水音を立てながら、社長がアスナのJカップを味わう。唇を使い、歯を使い、舌を使って、素晴らしく美しい乳房を貪る。

 アスナが、恍惚として身を震わせた。

 

「あ、あっ……ああ……」

「ぶひゅっ、もっと吸ってほしい?」

「……うん」

「どうして?」

「だって気持ちいいし……おっぱいに吸い付く社長さん、なんだか赤ちゃんみたいで可愛いし♪」

 

 アスナは、人差し指で社長の顎をゆっくりと撫でる。中年男のたるんだ輪郭を、慈しむようになぞっていく。まるで性教育のBD(ブルーレイ)で見た、我が子をあやす母親のように。

 

「あ、でも赤ちゃんはこんなことしないか。うひゃ~っ、よしよしっ」

 

 やおら社長の頭をぎゅっと抱きしめ、胸の谷間に顔を埋めさせて、アスナは黄色い声を上げた。

 

「ぶひー」

「頑張り屋さんは、アスナが癒してあげるっ♪」

「うん、うん」

「よしよし、社長さん、えらいっ! すごい!」

「アスナちゃん、もっと褒めてぇ」

「うん♪ 偉いよ。社長さん、頑張ってるねっ」

 

 アコは、アスナの乳房が中年男に吸われる光景を、ただ見ていることしかできない。自分にも吸わせてくれた最高の乳房を、醜い男に惜しげもなく与えている光景を……。

 

「あ……ああ……」

 

 悔しい。悔しくてたまらない。けれど……その光景に、アコは他の感情も感じている。自分もあんな風にという嫉妬、いや羨望の感情。

 

『あ    か産    な  た』

 

 母の胸に顔を埋めてみたかったな、という過去への未練。

 

「ぶひゅー、アスナっぱい、最高……」

「おじさん」

「ぶぎっ」

 

 社長の背後から、シロコがぼそっと声をかける。

 その右手は、社長の尻のあたりに伸びていた。何かをつまんだまま、ゆっくりと(ひね)られていく。

 

「うぎっ、いだっ、いだだっ」

「おじさん」

 

 声に抑揚がない。シロコは、左手で自分のバストを掴んでいる。縞模様のブラジャーに包まれたDカップくらいの美乳だ。形はいいが、大きさではアスナの足下にも及ばない。

 アスナが、あちゃーという顔で額に手を当てた。

 

「私のおっぱいは?」

「さ、さっき触ったじゃないか」

「触っただけ。甘えてない」

「い、いや。いくらなんでもシロちゃんのおっぱいに甘えたら、おじさんの威厳が、その、無くな……あいった!」

 

 シロコが何かしたのか、また社長は悲鳴を上げた。アスナの乳房に抱き留められながら、シロコの方を振り返る。

 

「あのな? おじさんにも自尊心があってだな」

「シロちゃんは禁止。私はもう五歳じゃない」

「いや、だってね」

「シロちゃんは禁止! 子供扱いは禁止!」

「いっだ、わ、分かった、分かったから尻を離して……」

 

 社長は、アスナ──笑いをこらえるかのような顔をしている──の腕をタップして、身を離した。そのまま、縞柄のブラに包まれた胸元に顔を寄せる。

 

「ほらシロちゃ、シロコ、ばんざーい」

 

 社長は、シロコの瀬に腕を回してホックを外した。両腕を上げさせて、ブラジャーを剥ぎ取る。

 

「ん」

 

 ぶるるん、とシロコの乳房が露わになる。大きさはあの早瀬ユウカと同じくらいだろうが、ツンと尖った三角形の彼女とは形が違う。シロコは全体的にふんわりして、どの角度からも丸っこい。可愛らしいと女らしいの中間くらいだ。

 

「おじさん、私のおっぱいは? 可愛い?」

「ああ、素敵だよ。エステの効果が出てる」

「……ん」

 

 社長が褒めると、無表情だったシロコが満足そうな笑みを浮かべる。そのまま、社長の頭をむぎゅーと抱きしめた。

 

「よしよし。おじさん、良い子」

「むぐ……むぐー」

 

 シロコは、アスナを真似るように社長の頭をなでている。

 社長は鼻をシロコの乳房に塞がれて苦しそうだが、もがく様子がない。姪の胸に身を委ね、されるがままになっている。

 

「おじさん、鼻から吸って」

「ふすー」

「口から吐いて」

「ぷはー」

「どんな匂い?」

「ちょっと酸っぱい」

「……汗臭いってこと?」

「いたっ、力入れるなっ」

「臭いの? いい匂いなの?」

「爽やかでいい匂いだよ。オレンジとかの」

「ん」

 

 シロコは、自分の乳房に埋まった社長の頭頂部に鼻を寄せる。頭皮に軽いキスを送ってから、中年男のにおいを嗅ぐ。

 

「ふすー……おじさんは、加齢臭がする」

「そりゃ、おじさんだもの」

 

 アコは、二人の姿から目を離せない。昨日ヒナが、じゃれ合う社長とユウカの姿を見せてきた時と同じ気分だ。見てはいけないものを見ている、という危機感。長いはしごを登り続ける最中に、ふと眼下を見下ろした時のような。

 

「私とお母さん、どっちがいい匂い?」

「知らないよ、妹の胸の匂いなんか」

 

 シロコが、アコの方を見る。青い瞳に黒白の瞳孔を備えた不思議なオッドアイ。

 

(……私、を見て……いない……?)

 

 じっと注がれる視線は、なんと言うか、透き通っていた。アコの輪郭を通じて、ここにはいない誰かを透かし見るような視線。

 

「おじさん」

「うん?」

「いい匂いなら、好き?」

「好きだよ」

「お母さんより好き?」

「う……」

「……じゃあ、同じくらい好き?」

「止めなさい、シロちゃん」

「お母さんと同じくらい好き? それともお母さんと、お母さんだから、同じように私が……あ、ん、ん」

 

 社長は何も言わず、やや強引にシロコの手を振りほどいた。そして彼女の唇をキスでふさぐ。

 同時に、シロコのヒュプノスペックが空色の青(スカイブルー)に点滅を始めた。洗脳電流が流れているサインだ。

 

「ふぁ、んん~、あ、ん~……」

 

 シロコは、たちまち悦楽に蕩けた。電流がもたらす快楽と幸福感と、彼女にしか分からない何らかの感慨で涙をこぼしている。全身ふにゃふにゃで、社長の首に腕を回したまま、べったりとくっついてしまった。

 

「っ……」

 

 そのエクスタシーが、ヒュプノスペックを通じてアコにも伝わってくる。とにかくただ必死な快楽の感触。

 骨まで溶けるような悦楽を与えられながら、砂狼シロコは飢えている。砂漠で倒れた旅人が、たった一滴の水を与えられてしまったような、途方もない渇望感。

 

「失礼しちゃうよねー」

「アスナさん」

「二人の世界作らないでって感じ」

 

 その光景を余所に、ガウンの前を締め直したアスナがやって来た。マッサージ台からアコを抱き起こし、隣に座ってくれる。

 

「お疲れ、アコちゃん」

「はい」

 

 アコはぐったりとして、アスナに寄りかかる。優しく抱き留めてくれるのに甘えて、豊かな胸元に頭を預けた。

 

「っ!」

 

 だがツンと鼻をつく臭いがして、すぐに離れる。アスナの胸についていた社長の唾液、その臭いに、吐き気がこみ上げた。

 

「ごめんね」

「どうして謝るんですか」

 

 被害者なのに。アスナの行動は、全て洗脳の結果だというのに。

 

「アスナ、上手く説明できないから」

 

 アコのカールした髪を梳きながら、アスナは申し訳なさそうに言う。口元をもにゅもにゅとさせて、言葉を探しているようだった。

 

「えーと……んーと……」

 

 アスナは、もともとコミュニケーションに難がある。論理より直感、説明するより行動というタイプだ。ただ、彼女の突飛な行動が引き寄せる結果は大抵素晴らしいもので、アコも女子校時代にずいぶん助けられてきた。

 

「つまり、その……今は辛くても、ええと……ハッピーっていうか……きっとみんなの……」

 

 言葉に詰まっているアスナのヒュプノスペックは、LEDが点灯していない。この機械はAIアシスタントとしても使えるらしいが、それならアスナの言葉を補ってやるとかできないのだろうか。

 

 壊れている──……? 

 

 アコの呼吸が荒くなった。動悸が激しくなり、耳の奥で自分の鼓動が聞こえる。

 

(そんなはずない)

 

 思考を遮るように、必死の思いで口を開く。

 

「あの、アスナさん」

「ん?」

「あの社長は、アスナさんには、どんな風に見えていますか」

 

 恐ろしい可能性の片鱗が、すでに脳裏に焼き付いていた。アコは震える手で顔を覆い、アスナの言葉を待つ。

 

「社長さん? んー……」

 

 アコにとって、長い時間が過ぎた。ヒュプノスペックのLEDは点灯しない。

 

「んー、男の人?」

「……ケダモノですよね?」

「??? 男の人だよ。何百人もいる女の子を必死で守ろうとしてる、ただのおじさん。寂しそうだよね、何してても」

 

 アコは、安心した。彼女は()()()()()()()()()()()、と思ったのだ。そうでなければ、あのケダモノに対して「ただのおじさん」だの「寂しそう」だの、そんな世迷い言を言えるはずがない。

 

 だからアコは、アスナを抱きしめた。さっきとは逆に、彼女の顔を自分の胸に押し付ける。

 

「むぎゅ」

 

 アスナのつむじからは、トリートメントの甘い香りがした。今朝ふたりでシャワーをしたとき、アコ自身の手で揉み込んであげたものだ。ふたりの友情と、この狂った会社で生まれた絆の匂い。

 

「アコちゃん、あの、くるし……」

「アスナさん、聞いて。男は、暴力的で危険な存在なんです。女性を傷つけ、支配しようとする。だから、男を信用してはいけません」

 

 アスナはきょとんとして顔を上げた。言葉の意味が分かっていない様子で、ぱちぱちと瞬きしている。

 

「なにそれ」

 

 やっぱり、彼女は男に関する知識がない。ちゃんとした「教育」を受けた自分が、教えてあげなければ。

 アコは、使命感に突き動かされて口を開く。

 

「男は感情的に未熟で、自分の欲望に忠実なだけ。責任感や思いやりに欠ける存在です。男は知性に乏しく、肉体的な力だけが取り柄。女性の方が遥かに優れた生き物なんです。男は裏切り者です。甘い言葉で女性を騙し、利用しようとする」

 

「え、えっと」

 

「だから、男の言葉を信じてはいけないんです。男は女性を所有物のように扱おうとします。自由や平等を認めない、独占欲の強い存在なんです。自分勝手で、他人の痛みに共感できない。女性の苦しみを理解できない存在です」

 

「アコちゃん待って、ねえ」

 

「男は肉欲に支配された存在です。女を性的な対象としてしか見ていない。だから、男に心を開いてはいけないんです」

 

「ねえ……ねえってばあ……」

 

「男は、太陽である女性を覆い隠す雲。女の輝きを(けが)して、美しさを搾取する邪悪な存在なんです!」

 

 男という生き物がどういう存在なのか、女子校育ちで免疫のないアスナに向かってまくしたてる。これだけ説明すればアスナでも、男性を嫌悪し、社長を憎悪し、洗脳に抵抗してくれるかもしれない。

 果たしてアスナは、

 

「あ……あはは……」

 

 困ったように笑った。整った顔に悲しみや切なさ、困惑、憐れみ……それらの表情を混ぜ合わせたような、不思議な表情を浮かべている。

 アコの背筋が、ぞくっと冷たくなった。

 

「アコちゃん、あの、みんなが……」

 

 そしてそれは、アスナだけではなかった。シロコも、ホシノやアヤネ、セリカやノノミ、そして社長も、困惑したような目つきでこちらを見ている。

 

「あ……う……」

(なんなんですか、その目)

 

 欲に任せて女性を洗脳する醜い男と、彼に支配された被害者たち。狂気にとりつかれた哀れな男女───なのにこれでは、アコの方が狂人みたいではないか。

 

「あの、ごめんなさい。アコちゃん、女子校育ちで男の人に免疫がないっていうか……その、ミサン……ええと、〈先生〉の影響で、男の人って悪い人しかいないと思いこんじゃってるみたいで」

 

 そんなバカな。助けるべき対象であるアスナから、気遣われているなんて。

 

「うぅ……うぐぐ……!」

 

 アコはただ俯くしかない。屈辱で、だがそれ以上に不安だった。心の重心をどこにも置くことができない。

 先生から教授された〈正しい思想〉は、アコの背骨みたいな部分だ。その柱が、ぐらぐらと揺らいでいる。

 

「ひ……ひっ……!」

 

 怖い。このユートピアで思想的根幹を失ってしまったら、アコはたちまち性の奴隷に転落してしまうだろう。原始的な欲望をかき立てられ、汚らわしい男のペットになることを、自ら望んでしまうに違いないのに……! 

 

「アコちゃん、落ち着いて」

 

 アスナの唇が、ちゅっと額に押し当てられる。優しいキスだったが、昂ぶった神経を鎮めるには至らない。

 悲鳴を上げてうずくまりたい。全てを罵りたい。子供のように泣き出して、なんの解決にもならない逃避に身を委ねたい。

 

「ん……大丈夫」

 

 ちゅっと、アスナ以外の唇が額に押し当てられた。シロコだ。アコの汗ばんだ髪を優しく梳きながら、アスナとは違うキスを額に落としてくれる。

 気遣うようなキスに、思わず涙が溢れてきた。

 

「おいで、アコちゃん。身体から力を抜いて、私に身体をゆだねて」

 

 アスナに腕を引かれる。友人を下にして、アコはマッサージ台にうつ伏せになった。

 

「ゆっくり息して」

「不安がらないで」

 

 アスナの手が、アコのうなじから頭頂部を撫でる。同時にシロコの手が、アコの腰から脚にかけて、優しくマッサージしている。

 

「あ……ああぁ……」

 

 身体の力が抜ける。ずっと忘れていた安心感が、胸に広がっていくのが分かった。

 

「ん……ぁ……アスナさん……シロコさん……」

 

 アスナの掌が温かい。シロコの手が柔らかい。何もかも委ねたくなるような、心地いい感触だ。

 アコの身体はすっかり脱力した。アスナの乳房に顔をうずめ、光を遮断し、彼女の温かさだけを身体にしみこませる。

 

「アコちゃん、アスナはここにいるからね。怖くないからね」

 

 アスナの声が、子守唄のように響く。身体だけじゃない、脳の芯が揺さぶられるようだ。

 

(何も考えたくなくなる……)

 

「何もしなくていい。今は与えられるだけでいいから」

 

 シロコの声が、アコの脳に染み込んでいく。思考ごと、不安を心の奥深くに押し込んでくれる。

 

「そう、ゆっくり……何も考えないで……」

「ん……ぁ……」

 

 アスナの手に優しく愛撫されるたび、シロコの手で脚をさすられるたびに、心が軽くなる。

 

(なにもしなくていい……)

 

 アコは目を閉じたまま、アスナの胸に顔をこすりつけた。何もしたくない。今はただ心地よい感覚に浸っていたい。思考を手放して、この至福の時間に身を浸していたい。

 

「包んであげる、アコ……」

「アコちゃん、ぎゅー……」

 

 やがて、背中に人間の重みが被さってくる。シロコの裸体が、アコの上にのしかかってきたのだ。

 肌の暖かさ、乳房の柔らかさ、汗のぬめり。アコはシロコとアスナにサンドイッチされ、裸身でもってその感触を受け止めた。

 

「あ……んむ……」

 

 シロコに上から、アスナに下から、アコはぎゅっと抱きしめられる。どこかへ飛んで行きそうな魂がシロコによって繋ぎ止められ、心の重心がアスナによって支えられる。

 

 アコの精神が、ある一つの頂を越えた。

 

(私、間違っていました)

 

 シロコもアスナも、事実として洗脳の被害者だ。だけれど、彼女たちを「哀れだと評価」するのは、とんでもない間違いだ。こんなに優しく、温かく、力強いのに、どうして哀れだなどと思えるだろう。どうしてアコに、見下す資格があるだろう。

 

「あ……ん……」

 

 アスナがアコの髪を撫でる。シロコがアコの耳を甘噛みする。

 

「あむ……はむぅ……」

「んむっ、はっ、ぁう」

 

 三者三様に身動ぎしながら、アコたち三人は絡み合った。激しい昂ぶりではなく、ゆったりとした興奮に身を任せる。互いの体温を全身で感じ取りながら、手や唇、肌や汗、体温や鼓動でコミュニケーションを交わす。

 

 アスナの乳房が、アコの顔を挟んでいる。不格好になる寸前の奇跡的なバランスを保つ大きなお肉は、アコの顔の形に柔軟な変形を見せた。

 

 シロコの乳房が、アコの背中にふにゃっと密着している。トレーニングが辛くならないギリギリの大きさを保つ美しい果実は、アコの背中のくぼみにぴったりとフィットした。

 

「アスナさん」

「うん」

「キスして……」

「うん、アコちゃん……」

 

「シロコさん」

「うん」

「キスして……」

「うん、アコ……」

 

 アスナとシロコは、それぞれアコの唇をついばんだ。舌は使わない。唇だけで愛撫する。

 

「ちゅむ、ちゅ……」

「ん……ちゅるっ、むちゅぅ……」

 

 アスナの割れ目を、アコはお腹の辺りに感じている。ソコは熱々にぬかるんでいて、時折アコの肌に吸い付いてくる。

 

 シロコの割れ目を、アコはお尻の上に感じている。ソコはびしょびしょに濡れそぼって、アコのお尻にくっついてくる。

 

「ぷは……そろそろ」

 

 シロコが体重をかけてくるが、アコはそれを受け入れた。二人分の体温に挟まれて、どうしようもないほどに意識がとろけている。

 だから、もう一人が加わることさえ、アコの精神は受け入れてしまった。

 

「シロちゃん」

「来て、おじさん」

 ぴりっ。

「あ。あ…………?」

 

 アコの、お尻の穴に、違和感が生じた。違和感だけだ。そこには何もないのに、何かが押し当てられているような感覚だけがある。

 何かの粘液にまみれた、熱くて、太く、固いモノの感触。

 

「アコちゃん、力を抜いて」

 

 アスナが耳元でささやく。アコの視界を自分の乳肌で覆いながら、甘く澄み透った高い声でアコの聴覚をも愛撫する。

 

「力を抜いて……そう、そのまま……リラックスして……深呼吸して……」

 

 アコはそれに従う。アスナの乳房にすがりつき、シロコの重みを背中に感じながら、大きく息を吸って吐く。

 

「ふー……」

 

 吐き出すと同時に、お尻の穴で何かが震えたような気がした。脱力した腹筋がぶるぶると震え、身体が中から溶けるようだ。

 

「あ……は──……」

 

(なに、これ?)

 

 すごい存在感を持ったモノが、お腹の中に入り込んでくる、その感触だけがある。

 痛くはない。それはモノの動きに、優しさと思いやりがあるからだ。入り込むことで痛みを与えないよう、「穴」を優しく押し広げている。

 

「ふ──、はぁー……」

 

 覚えのある感触だ。昨日、早瀬ユウカと社長がセックスする感覚を疑似体験させられたときにも、この感触を感じた。アコの下腹で前後して、燃え上がるような快感を生み出したモノ。下半身全体をグズグズに溶かした、熱くて固いモノの感触。

 

「はぁ──、あぁ──…………」

 

 だけど違う。ユウカの「穴」に対して、モノは我がもの顔で振る舞っていた。勝手知ったる我が家とばかりに気ままな出入りをして、ツンとした秘書を責め立てた。ユウカの「穴」が甘くて従順なのをいいことに、やりたい放題だった。

 

 だが、今は違う。「穴」を優しく押し広げながら侵入し、決して無理強いしない。ゆっくり、ゆっくりと進んでくるので圧迫感も痛みもない。ただじんわりとした快感だけを与えてくれる。

 

「ふ──……んあ……」

 

(これ……もしかして)

 

 そしてアコは気づいた。このモノが何なのかに。

 

「おじさぁん……好き、好き好きっ……」

「アコちゃん、力を抜いててね……」

 

 アスナが優しく髪を撫でてくれる。社長とアナルセックスをしているシロコが、背中からぎゅっと抱きしめてくれている。

 

(ヒュプノ…………スペック…………)

 

 お尻の穴にペニスを受け入れるシロコの感覚が、ヒュプノスペックを通じてアコに伝わっているのである。

 

「ぶぅ、ひぃ……」」

 

 すでに全裸になっている社長が、ぐっと腰を突き出した。

 ぐにぃっ…………と、お腹の奥で、熱いモノが内臓を押す感触。

 

「あ──っ!?!?」

「ん゛ぉぉぉぉ…………!」

 

 甲高く叫んだのがアコで、低く唸ったのがシロコだ。その違いは、経験値の差によるもの。アコの脳は初体験のアナルセックスにおののき、シロコの脳は慣れ親しんだアナルセックスに歓喜している。

 

「あ、あっ! あちゅい!」

「お゛っほ……アコとするお尻セックス、燃え、るぅ……」

 

 おなかが熱い。内側から焼かれているみたいだ。ペニスの形に広げられた括約筋が熱を持ち、腸内の粘膜も例外なく煮え滾る熱を宿している。

 アコは惑乱した叫び声を、シロコはうれしそうなうめき声を上げ続けた。

 

「ひーっ! ひいぃぃぃぃっ!」

「お、おじさぁん……好きぃ……! ぎ、もぢい゛ー……っ!」

 

 アコはシロコのアナルセックスに共感し、彼女の感情と快感を疑似体験した。思いやりをもって尻たぶを開かれる嬉しさ、排泄物の代わりに男性器を受け入れる恥ずかしさ、愛する男性に、背徳の穴を優しく愛されているという実感。

 

「うそっ、いやっ、こんな気持ちいやーっ!」

 

「いい゛っ、い゛いのぉっ! おじさ、ん゛!」

 

「あ゛──っ! いやなのに! うそっ、うそうそうそぉーっ!」

 

 アコの脳は、シロコの感情に没頭する。アナルセックスを肯定し、社長の男性器を歓迎する。血が繋がった伯父のモノがもたらす快感と、自分を大切にしてくれる家族に愛される幸せを、余すことなく享受しようとする。

 

 背徳。道徳に背くこと、イケナイこと──その一線を踏み越えた先にある、圧倒的な多幸感!

 

「お゛っ……あ、あ……」

 

 社長が腰を打ち付けるたび、シロコのお尻がたてるパンパンという乾いた音。ローションがたてるパチュンパチュンという水音。

 お腹の奥とお尻の入口からそれぞれ響く、別個の快感。

 

 排泄器官からペニスが抜け出ていく感覚は、人間が生まれながらに持つ原始的な欲求を叶えるものだ。耐えに耐えた便意を開放する瞬間の何倍、何十倍も気持ちがいい。

 

「ん゛っ! あ、あ……」

 

 そして排泄器官へ入り込んだペニスに、ぐに、ぐにと押される感触。腸壁の向こうから子宮をコネられ、妊娠の可能性はゼロなのに、「孕まされる」というイメージが脳を焼く。

 アコは知った。アナルセックスの快感は、理性で抗えるものではない。

 

「あー、アコちゃん? おーい」

 

 アスナに頬をぺちぺちと叩かれる。もうその感覚さえも気持ちいい。たまらない。何故こんなことをしているのか、これから何をどうしたらいいのか、今は何も分からない。

 

(あ、だめ)

 

 ぶーっ! と、ガスが吹き出る音がした。アコの脳が錯誤して、「穴」が広がり、腸内のガスが押し出された音である。

 アコはアスナとシロコにサンドイッチされながら、屁をこいたのだ。

 

「ひ……ひひっ」

 

 そのガスと一緒に、アコの理性もお尻の穴から飛び出した。口角がつり上がって、へらりと歪な笑みがこぼれる。後ろだけでなく前の穴も開いて、ぴゅっぴゅと液体を噴き出す感触がある。

 

「お゛っほ……! いひひ……!」

 

 シロコとアスナにサンドイッチされたまま、アコは尻を振った。まるで犬が尻尾を振るように、「穴」を埋めるモノを求めて熱狂する。

 いま自分自身の「穴」をアレに埋め尽くされたら、気持ちよさで死んでしまうかもしれない。いや、もういっそ死にたかった。

 

「いいでしょアコッ、おじさんのお尻セックスッ、いいでしょぉ、お、おおっ」

 

「ん゛ぉっ、お゛っ、あ゛──っ!」

 

 アコの脳は、もう何も考えられない。社長とシロコのセックスに没頭することしか考えられない。アスナをぎゅっと抱きしめて叫ぶ。

 

「あしゅなっ! しろこっ! しゅきぃ! だいすきぃっ!!」

 

「私も好きだよアコッ、お母さんそっくりなアコのこと、だい好きっ!」

 

 アコは、自分が何を口走ったのかさえ理解できない。だから、シロコが何を口走っているかなんて分かるはずがない。

 

「あ゛──っ! アコも、アコもぉ!」

「あー、もう……二人とも、可愛いんだから」

 

 アスナはアコとシロコを抱きしめると、二人の耳元に唇を寄せてささやいた。

 

「社長さん、射精しそうだよ。射精して♡ って、可愛い声でお願いしてあげて?」

 

「は……はい、はいぃぃぃ……!」

 

 アスナの言葉に促され、アコは力いっぱい叫んだ。

 

「しゃ、社長っ! しゃちょうのせーえき、アコにください!」

 

 シロコも、アコの上で必死に叫ぶ。

 

「おじしゃあぁぁ……! だしてっ! シロちゃんにしゃせーしてぇっ!」

 

 アスナもシロコと一緒に媚びる。甘ったるい猫なで声だ。

 

「ぴゅっぴゅしちゃえーっ、アコちゃんとシロコちゃんにぴゅっぴゅしちゃえーっ♪」

 

 射精してぇっと、三人の声がそろった瞬間──社長は一際深々とペニスをねじ込んだ。そして、ぴたりと動きを止め、ぶるっと腰を震わせる。

 

(あ……)

 

 腸内でびくりと跳ねる感触。直後、どろどろしたマグマが注がれ始めた。シロコの腸に熱い液体が叩きつけられる感覚を、アコも感じている。

 

「あ、あっ……あ……」

 

 社長に射精されている。アコはいま、伯父に種付けされているシロコなのだ。何もかも間違っているけれど、その間違いこそが気持ちよかった。びゅく、びゅくと腸内に熱いものが叩きつけられるたびに、アコの心がシロコに近づいていく。

 

 びゅるるるるっ。

 とぷとぷとぷ。

 どぴゅーっ。

 ぶぴー。

 

 その刺激でまたガスが吹き出る。アナルセックスしていると誤解したアコの尻穴が、放屁の音を響かせる。

 

「おじさん、しゃせいがいっぱい……」

「しゃせい、されちゃってるぅ……」

「うん……されてるね……」

 

 アスナはうっとりとつぶやきながら、アコとシロコを抱きしめていた。

 

「あ……あは……」

 

 アコは笑った。笑いながら、顔を上に向ける。

 

「しろこしゃぁん、きしゅしてぇ」

「ん……いいよ」

 

 シロコの唇がアコの唇に触れる。アスナも下から顔を突き出してきた。

 

「わたしもー。ちゅぅー」

「うん、うむぅ……」

 

 シロコとアスナにサンドイッチされながら、三人でキスをする。三枚の舌をのたのたと遊ばせながら、射精がおさまるのをじっと待つ。

 シロコが、下半身の力を抜いたようだ。ぴくぴくと痙攣する括約筋に導かれ、社長の男性器がずるずると後退していくのが分かる。

 

「あぇ……」

 

 お尻の入口をめくり上げながら、肉筒が引き抜かれていく感覚。空っぽになったシロコの腸が、ぎゅむぅっと収縮する感覚。逆流してきた精液を、どうしようもなく排泄してしまう感覚……。

 

 ぶう、ぶびっ。

 

 アナルセックスが終わる感触さえ心地よくて、アコはまた放屁した。

 

「はぁっ、はぁぁっ……」

「はへー、はへぇぇ……」

 

 社長がシロコからペニスを引き抜ききる。

 体力のあるシロコでさえ、息絶え絶えだ。ましてやアコは、もう限界だった。アスナに抱き着いたまま、ぐったりと身体を弛緩させる。

 

「あ……あひぇ……」

「ねえ、アコ……」

 

 そんなアコの耳に、シロコが言葉を吹き込んでくる。力を振り絞って、アコにとどめを刺そうとしている。

 

「はぇ……?」

「ウチのおじさん、気持ちよかった?」

「あひゅ……」

 

 アコは素直にうなずく。思いやりをもって施された背徳の性行為は、今までにない充足感を与えてくれた。

 

「ん……なら私と一緒に、手に入れよう」

「何、を……?」

 

 意識がはっきりとしない。とろとろのクリームスープに沈むような心地よさに包まれながら、シロコのささやきを聞いた。

 

「それは、愛。おじさんの真実の愛。私と一緒に自分を磨いてランク〈ブルー〉に、おじさんの理想の女の子になろう。おじさんに愛される、最高に幸せな女の子になろう。青空でも見える月、真昼の空の月になろう」

 

 シロコが何を言っているか、よく分からない。だけどそれは、とても幸せで素晴らしいことのようだ。

 

「そうしてくれるなら、おじさんとキスして。私がしていたみたいに、おじさんとキスして」

 

「あぇー……?」

 

 だらしなく舌を突き出すと、シロコが舌を伸ばしてきた。アコの舌先にちょんと触れ、ぬるりと絡ませてくる。

 

「こう、こうして、こうやるの」

「あ゛ー、あぁ……」

 

 シロコが舌を踊らせて、アコはそれについていく。互いの舌先を触れ合わせ、柔らかい感触を味わってから、ゆっくり、ゆっくりと絡め合わせる。

 

「ん……ちゅるっ、くちゅっ……」

「んふぅ、んっ……はむ……」

 

 アコは夢中でシロコの舌を舐めた。それは甘くてとろとろで、最高級のキャンディーみたい。どれだけ舐め回しても無くならず、美味しいシロップをアコの舌に与えてくれる。

 

 そうしているとシロコの悪意も、また誠意も分かってくる。ヒュプノスペックによって強いられた共感が、思考に依存することなく正解を教えてくれるのだ。

 

「はーっ、はーっ」

 

 シロコは息が荒い。何かの理由があって、アコを誘惑するために力を振り絞っている。心が飢えていて、これほど愛されても満足できなくて、もっともっと伯父に認められたいと無理をしている。

 その飢えと強かさが、素敵だと思えて……アコは、シロコのことが好きになった。

 

「んぇる、れるっ、あー、しろこしゃぁ~ん」

 

 好きな女の子と舌を絡め合わせることで、自分への肯定感が増す。心に勇気が湧いてくる。

 シロコの唾液を大胆に吸う。彼女の強い意志も、分けて欲しい。セックスしてくれた相手を食べて、自分のものにしたい。

 

「じゅるるっ、じゅるっ……ぷあっ」

 

 ゆっくりと顔を離す。

 

「キス、します」

 

 そして唇を突き出す。

 

「ん。おじさん」

「ぶひっ」

 

 シロコがふらつきながらもアコから離れ、代わりに全裸の社長が覆い被さってくる。

 好きになった女性を洗脳している中年男が、アコの唇までも奪おうと、鼻息を荒くして眼前に迫っていた。

 

「ぶひーっ、ぶひいーっ……!」

 

 ぶっ殺してやる。

 

「ぶひっ!?」

 

 アコは、社長を突き飛ばした。

 

「アコ!?」

「アコちゃん!?」

「うあぁぁぁぁぁ!!」

 

 マッサージ台から転げ落ちた社長めがけて、アコは飛び掛かった。仰向けに倒れたところへ馬乗りになる。

 そして首に手をかけ、窒息させるつもりで、いや首の骨をへし折ってやるつもりで、全体重をかけて圧し掛かった。

 

「死ねぇぇっ!!」

「何してるの、アコちゃんっ! やめて!」

 

 アスナが後ろから飛びついてきた。アコは社長から引き剥がされて、羽交い締めにされる。

 

「ぐひっ……ひーっ……」

 

 社長はまだ死んでいない。仰向けのままで口をぱくぱくと動かしている。

 アコは再び殺意を実行しようと、アスナを振り払う。だが、もう立っているだけで精一杯だ。

 アスナがアコを振り向かせ、怒鳴りつける。

 

「何してるの!?」

「殺そうとしたに決まってるでしょう!」

「なんで!?」

「殺すべきだからです!」

「人を殺しちゃダメでしょ!」

「こいつは人じゃない! ケダモノです!」

「人だよ! どう見ても人!」

「だとしても性犯罪者です! 女を搾取する男は死んで当然! 殺すことが人のためなんです!」

 

 アスナが手を振り上げた。アコの頬を打つ。

 

「アコちゃんのばか!」

 

 だがアコは、一瞬もアスナから視線をそらさなかった。

 

「私は諦めません! 生きてる限り、こいつを殺す! そして、アスナさんを自由にする! あの子供たちを自由にする! シロコさんを、他の女性たちを、自由にする! 私はぜったい屈しません!」

 

 アコは絶叫した。アスナに言い返しながら、自分に言い聞かせていたのかもしれない。

 そして、覚悟していたものが来た。

 ぴりっ。

 

「あ゛う!」

 

 ヒュプノスペックからの制裁電流だ。アコの恐怖心を喚起し、動きを束縛してくる。

 

「あ゛、ぅぁ……うああ……」

 

 がくん、とアコは床に倒れ伏す。

 アスナはそんなアコをしばし見つめてから、社長を助け起こした。

 

「大丈夫?」

「ああ、ありがとう」

 

 社長は腹をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。そしてアコを見下ろすと、疲れたように笑う。

 

「こりゃあ、まいったな」

「おじさん」

 

 ふらふら抱きついてきたシロコの頭を撫でながら、社長は宣告した。

 

天雨(あまう)。お前はランク〈イエロー〉に降格だ」

「なにがイエ───」

 ぴりっ。

 

 叫ぼうとしたアコは、思わず喉をかきむしった。

 

(───声が出ない!)

 

 言葉を話せない、というレベルではない。発声という機能そのものが、アコの体から失われてしまったようだ。

 

「イエローの生活は辛いぞ、天雨くん」

「それくらい、当然の罰」

 

 シロコは、涙目でアコを睨みつけている。伯父を殺されかけたことが衝撃だったのか、自分の無力さを悔しがっているのか、あるいは土壇場で裏切ったアコを憎く思ったのか。

 それでもいい。

 

(私はやる。シロコさんも、笑顔にしてみせる)

 

「そして一之瀬アスナ。君はマリンブルー(選ばれた社員)として、総務部の〈C&C〉に配属だ。ランクスカイブルーを、その先のブルーを目指して頑張ってくれ」

 

 ランクスカイブルー……それは、社長に最も近いと思われる幹部社員だ。社長の姪であるシロコや第一秘書のユウカ、CEOのリンがそうで……「社長室」に入ることもできるという。

 では、ブルーとは一体……?

 

 アスナはぎゅっと唇を噛んだあと、アコに歩み寄った。膝を突いて、顔を寄せてくる。

 

「ごめんね、アコちゃん……きっと、悪いようにはならないから」

 

 アコの耳元でささやくと、そのまま社長に向き直る。

 

「社長さん……私、ランク〈スカイブルー〉への昇格を目指して頑張ります」

 

 アコは、床に落ちていたタオルを拾って、それを力いっぱい社長に投げつけた。

 

(続く)




 ここまで読んでいただきありがとうございました。お気に入り・感想・評価など、いつもありがとうございます。更新の励みにしております。
 次章は、「一ノ瀬アスナと褒賞のプロトコル」。一之瀬アスナによる「昇進テスト」と「評価される事の気持ちよさ」をお届けします。お楽しみに。

どのエピソードが好きですか? 続きを書く参考にさせてください。

  • プロローグ
  • ユウカの章-1
  • シロコの章
  • リンの章
  • ユウカの章-1
  • ミッドローグ
  • ミカの章
  • アスナの章
  • アコの章-1
  • アコの章-2
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