※この作品はR-18です。

天雨アコ「こんなイヤらしい社長が支配する会社に、私はぜったい屈しません!」→なお   作:a-su

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前編

 二〇二四年五月一日。暦の上ではメーデー、つまり労働者の祭典の日だ。サラリーマンは、代々木公園や大阪城公園に集って行進をしているだろう。

 

「ぶひぃ~♪」

 

 株式会社ユートピア・インテリジェンスただ一人の男性で、今は『社長』と呼ばれている男もメーデーを知っている。知っているが、気にも止めない。最新の人工知能と微弱電流で社員を制御するユートピアでは、労働問題など発生し得ないからだ。

 

 だから社長はメーデーのデモやシュプレヒコールに悩まされることなく、上機嫌で社内三階のアトリウム通路を練り歩くことができる。 

 ガラス張りの壁から、午後の陽光が降り注ぐ。

 

(五月の光は、柔らかくて好きだ。女の子たちの肌をきれいに照らしてくれるもの)

 

 両脇には、スカート・スーツ姿の女性社員が二人。入社後の一ヶ月研修(せんのう)を終えたばかりの新人たちだ。

 

「社長……さっきの『特別指導』、その、男らしくてカッコよかった」

 

 右側から角楯(かくだて)カリンがすり寄ってきた。タイトなリクルートスーツに包んだ長身を社長の腕に絡みつかせ、白いブラウスの上からでも分かるたっぷりとした膨らみを、ぎゅっと押し当ててくる。

 

「はい。今日のネクタイも非常に素敵です」

 

 左にいる飛鳥馬トキが反対の腕を取った。こちらも胸を押し付け、さらにスーツのスカートを少しまくり、すべすべの太ももを社長の脚に絡ませる。カリンより細身だが、瑞々しい感触だ。

 

 両腕に押し付けられた乳房が、ブラウス越しに形を変える。どちらも弾力豊かだ。まだ男の手を知らない、ハイ・ティーンといっても通りそうな肉体である。

 

「ぶひひっ、ありがとう」

 

 シャンプーとは異なる、肌から直接立ち上る匂いが社長の低い鼻をくすぐった。

 

「私たち……だんだん、分かってきたんだ」

「社長のおっしゃる『月』とは何なのか……」

 

 鼻にかかった、ねっとりと絡みつくような声。上目遣いの瞳は、どこか焦点が合っていなかった。瞳孔が開いている。

 右側頭部に取り付けられたウェアラブルデバイス、『ヒュプノスペック』のLEDが一人前の社員(ネイビーブルー)を示す色に明滅している。彼女らが新人(ホワイト)の中でも特に優秀だった証拠だ。

 

「ぶひっ、二人とも熱心だねえ」

 

 社長は満足げにうなずいて、短い首を上下させる。脂ぎった額をスーツの袖で拭こうとすると、背後から同じく新人の室笠(むろかさ)アカネが駆けよってきた。

 

「社長、私の仕事を取らないでください」

 

 高そうなハンカチを取り出して、額どころか髪の生え際まで拭いてくれる。腰に手を回し、禿げ上がった後頭部に頬を寄せてくる。

 

 吐息が首筋をくすぐった。後ろからも、右からも、左からもだ。

 入社一ヶ月でこうして寄り添って媚び、『女の子のあるべき姿』を理解し始める。男という太陽に照らされて輝く存在になることを受け入れ始めているのだ。

 

「「「社長、おはようございます♡」」」

 

 すれ違う社員たちは次々と頭を下げ、上目づかいに見つめて微笑み、媚びた声でお追従をする。

 社長は軽く手を上げて応じながら、唇をゆるめた。禿げ上がった頭に五月の陽光が反射している。高級なスーツは体型のせいで締まりなく、緩めたネクタイが左右非対称に揺れている。

 オッドアイ──右目は黒、左目は白──が、周囲を見回した。

 

 どこを見ても、女の子。

 どこを見ても、とろんとした目。

 どこを見ても、彼への愛。

 

(守ってあげなくちゃ。私は──おっと、僕は、男としての責任を果たすんだ)

 

 ここでは全ての女の子が幸せで、誰もが彼を愛している。宝石よりも貴重な若さと美しさとを保護され、磨き、輝かせることができている。

 ──なんと素晴らしい気持ちだろう。()()に立てた誓いを、自分は今日も守れているのだ。

 

「あの……今夜、時間、とれるかな」

 

 カリンが唇をちろりと舐め、囁いた。舌先はピンク色に光っている。

 

「私たち三人で、ちょっとした『パーティー』を企画したのですが」

 

 トキが太ももをこすり合わせた。スカートの奥が、わずかに濡れているようだ。

 

「私たち三人で……社長のお役に、立ちたくて……」

 

 アカネの手が社長の背中を撫で、腰に回される。

 カリンのは前に回ってズボンのふくらみを、トキの手は後ろを滑り尻の谷間をなで始めた。

 社長は口元を緩める。

 

「ぐひひっ! 今度ね。今度、ちゃんと可愛がってあげるから。だって今日は──」

 

「ごしゅじんさまぁ〜♡」

 

 弾むような声が廊下に響いた。

 何かするより早く、白と黒のフリルが視界に飛び込んでくる。社長は一瞬、「うちの社に大型犬なんかいたっけ」と思った。

 メイド服の一之瀬アスナだ。

 

「えーいっ♡」

 

 きゃっ、と小さく悲鳴が上がる。社長に絡みついていた新人たちが押しのけられたのだ。

 気づけば、隣にはアスナだけがいる。

 

「も~みんなズルい。私にもご主人様とイチャイチャさせてよ~♡」

 

 言葉は明るいが、社長の右腕を抱え込む力は強い。一〇二センチ、Jカップを誇るバストがむぎゅっ♡と変形する。メイド服のネックラインからあふれそうな谷間に、社長の腕が埋もれていく。

 アスナは社長の左手も取り、その指先までも自分の谷間に入れて、体温のこもる乳肉で包んでしまう。

 

 社長は喉を鳴らした。じんわりと汗ばむ乳臭い肌が吸いついてくる。

 押しのけられたカリンにトキ、アカネが、アスナを羨ましそうに見つめている。

 

「……同期入社なのに」

「羨ましいです、おっぱい揉まれて」

「あのメイド服、私も着てみたいです……」

 

 ミニスカートのメイド服は支給品で、アスナが既にバリバリ『働いて』いることを示すものだ。

 そして海色の青(マリンブルー)に光るヒュプノスペックは、彼女が同期から一歩も二歩も先んじていることの証明である。

 

「ねえねえご主人差、ゆうべは楽しかったね♡」

 

 アスナの唇が、社長の耳元で薄く開く。

 プリプリした唇が頬に触れた。ちゅっ、と軽い音がする。ちゅっ、と二度目は湿った音だ。

 

「またアレしたいな……ご主人様の、おっきいの……こしょこしょ……で、……こしょこしょ……して……それでぇ……♡」

 

 社長の脂ぎった頬が緩んだ。

 アスナが社長のネクタイに触れて、緩んでいたのをきゅっと締め直してくれる。

 その指がシャツの隙間に触れた。中指と人差し指が中に入り込む。アンダーシャツの上に爪先を当てる。社長の胸板をくすぐって、ぜい肉をぽよぽよと弄ぶ。

 

「はぁ……素敵だったな……すっごく頑張っててぇ、と~っても可愛かった……♡」

 

 声は練乳をまとうイチゴのように甘く、とろりと耳に流れ込んでくる。

 

「ぶひひ、アスナちゃんも可愛かったよぉ~♡」

 

 社長は、谷間に差し込んだ左手で爆乳の柔らかさをふにふにと思う存分に堪能してから、指を引き抜く。

 その手でアスナの腰を引き寄せ、コルセットとミニスカートに手を這わせて、ウエストからヒップにかけての滑らかで起伏豊かな稜線をなぞる。

 

「ご主人様……ここだと、みんな見てるよ……♡」

 

 言葉とは裏腹に、アスナは社長の首に腕を回した。胸を社長の胸板に押しつけ、白い肉乳が押し潰されるさまを目でも味わわせてくれる。

 同期の新人たちが息を呑んで見つめている。羨望、嫉妬、そして「私もああなりたい」という縋るような眼差しだった。

 

「ぶひひっ」

 

 たった一ヶ月で、アスナは社内でも指折りの存在になった。入社試験のときにAIが立てた予測を超えている。まるで『あらかじめ正解が分かっている』かのように、評価基準をゆうゆうと満足していくのだ。

 彼女が社長に示した献身は、研修(せんのう)を全てサボってもお釣りが来るほどである。

 

「ねえご主人様」

 

 アスナが、社長の耳朶に唇を寄せた。湿った吐息をはぁーっ♡ と吹きかける。鼓膜を震わせながら少し舌先をとがらせ、先端で耳の穴をつつく。

 

「今夜も、一緒にいてくれる?」

 

 社長は大きくうなずいた。脂ぎった額に新しい汗がにじむ。ズボンの前が窮屈で仕方ない。

 

「もちろんだよ、アスナちゃん」

 

 声が上ずっていた。二十歳近く年の離れた女の子の甘えに、浮かれた声を隠せない。

 アスナが微笑む。青い瞳が五月の陽光を受けて輝くさまは、まるでお日様の──

 ──それは、遠くから聞こえてきた。

 

『愛を返せ〜! 私たちに愛を返せ〜!』

 

 最初は囁きのように、やがてうねりのように通路の空気を揺らし始める。

 社員たちが何事かとざわめき、社長も足を止めた。撫で回していたアスナの太ももが、ぴくりと緊張するのを感じる。

 

『社長は愛を返せ〜! 私たちに愛を返せ〜!』

 

 声が重なる。一人、五人、十人──。

 

(いや、もっとだ)

 

 吹き抜け構造が音を増幅させていた。一階から三階まで声が壁を伝い、天井に反射し、まるでビル全体を震わせるかのようなパワーを感じさせる。

 

「アスナちゃん、こっち」

「う、うん」

 

 社長はアスナを連れ、手すりに近づく。三階の通路から見下ろすと、一階のエントランスホールに黄色い光が集まっていた。

 イエローランクの娘たちだ。彼女らが頭部につけたヒュプノスペックの黄色いLEDが、星座のように集まっている。二十人、いや四十人はいるだろうか。

 

 その中心で、旗が振られていた。

 

『オナニーさせろ〜!』

 

 白い手旗が、ばっ、ばっばっ。

 

『私たちにぃ!』

 

 赤い手旗が、ばしゅっ、しゅばっ。

 

『オナニーを、さ・せ・ろ〜!』

 

 シュプレヒコールが、腹の底を揺さぶる。アスナが

「…………おなにぃ?」と呆けた声をすのは、訴える内容が下世話だからだろうか。

 

(だけどパワーがある)

 

 たった四十人の女が出しているとは思えないほどのエネルギーが、社長の内臓を揺らしている。

 

「…………! あいつは」

 

 女の子たちの中に姿が見えた。白と赤の小さな旗をリズミカルに、力強く振る人物の姿が見てとれる。

 社長は無意識に首筋を撫でる。一ヶ月前、この首を絞めて自分を殺そうとした女の姿を見たからだ。

 アスナが、社長の腕をギュッと抱く。

 

「アコちゃん」

「うん、天雨(あまう)くん、だ」

 

 赤と白の旗を振るたび、青みがかったセミロングの髪がぶわっと巻き上がる。服装は、入社式に出たときのもの──『女性は自らの意思で自分の肉体を輝かせるべきなんです。あの太陽のように!』と甲高い声で主張しているかのような、横乳が丸見えのブラウスにパンツスタイル。

 

 天雨アコが、両手の旗を右に振る。

 

『イかせて〜! 私たちをイかせて〜!』

 

 左に。

 

『愛を返せ〜! 私たちに愛を返せ〜!』

 

 大きく円を描く。

 

『社長は平等に愛を与えろ〜!』

 

 声の先頭に立ち、拳を振り上げて絶叫しているのは、ストレートの長い髪をピンクに染めた女性社員だった。

 アスナがぽつりと呟く。

 

「あれは…………ミカちゃん、かな」

 

 聖園(みその)ミカが可愛い顔と細い体からは想像もつかない大音声で、社屋のガラスを揺らしている。

 

 かつて社長から「僕のお姫様」と呼ばれた幹部(スカイブルー)で、今は懲罰対象(イエロー)に落とされた彼女を、他の社員たちが足を止めて見ていた。困惑、好奇、同情、そしてほんの少しだけ愉快そうな目だ。

 

 だが社長の視線はミカではなく、アコに釘付けだ。彼女こそ熱狂の震源地だと、直感がそう告げている。

 アコがゆっくりと旗を交差する。その瞬間、ミカの声のトーンが変わった。

 

「私たちは──怒ってるの!!」

「怒ってる!」「怒ってる!」「怒ってる!」

 

 シュプレヒコールの内容が切り替わる。四十人いる女の子が一斉に、寸分の乱れもなく新しいフレーズを叫び始めた。

 アコの旗が上下すると、その動きに呼応するように声が大きくなる。オーケストラが指揮者のタクトに従うように、四十の声が手旗信号に同期している。

 

「すご……どうして?」

 

 アスナの疑問は最もだ。旗の動きを見ているのは、せいぜいミカと最前列の数人だけのはず。後方の娘たちには見えていない。なのに全員が、完璧に同調している。

 

 アコの視線が、不意に上を向いた。

 社長を見ている。

 声を奪われた女が薄く笑い、手旗を下ろす。

 その瞬間シュプレヒコールが止む。四十人が同時に沈黙する。

 

 静寂が、轟音より重く降りてきた。中庭に満ちる無言の圧力が、三階の会議室まで這い上がってくる。

 アコの旗が、ゆっくりと社長を指した。

 

「社長──」

 

 ミカの透き通るようなソプラノが静寂を切り裂く。

 

「──私たち、あなたのお返事を待ってます」

 

 四十対の目が、一斉に社長を見上げた。

 背筋が粟立つ。

 

(──群衆の中にいる人間は個人としての理性的判断力が著しく低下する。意識的人格を喪失し、操縦者の断言・反復・感染による暗示のままに行動するような集合体へと──)

 

 十九世紀の心理学者、ギュスターヴ・ル・ボン氏が『群衆心理』で指摘した現象だが、現代の脳科学でも裏付けられている。さらに言うなら、それはこのユートピア・インテリジェンスのシステムを設計する上で社長と早瀬ユウカが学んだ催眠・洗脳の基礎だ。

 

 だが今起きていることは、学術の領域で説明できる範囲を超えているように思えた。人間の悪意、明確な敵意を感じさせる。

 

(つまり、あの子が)

 

 これは、天雨アコの作為によるものなのだ。目的は恐らく、イエローの女の子たちにヒュプノスペックの制御電流を克服させることだろう。上階の床を揺らすほどの熱狂だ、下手に刺激を与えれば脳が破壊されかねない。AIは安全装置を働かせるだろう。

 

 たった一人で社長に刃向かっていた天雨アコは今、催眠術のように社員たちを支配してみせている。私は洗脳システムに対抗できる、この娘たちはもうお前のものじゃない、と挑戦状を叩きつけている。

 

 社長──株式会社ユートピア・インテリジェンスの支配者である彼は、声をあげて笑った。

 

「ぶっ、ひひっ、ははっ」

 

 シュプレヒコールが再開される。

 

『禁欲は拷問だ〜! 私たちにも快楽を〜!』

『声を奪うな〜! 自慰を禁じるな〜!』

『イエローにも愛を〜! 平等に愛を〜!』

 

「ははっ、ははは、オナニーがしたい? イきたい? 快楽が欲しいだって? そんなに我慢してるのか? そんなに僕を求めてるのか? あはははっ、はは、は は は は は──!」

 

 五月一日はメーデーだ。労働者の祭典。そんな日にオナニーしたがる女の子たちのシュプレヒコール? 

 

「ああ、お祭りか! そうか、労働組合ってわけだ! ははははは!」

 

 ──なんて気が利いているんだろう! 

 あの子たちは本当に、僕のことが好きなんだな。

 可愛いな。禁欲がつらくて、我慢できないんだ。

 健気だな。黄色い声を上げずにはいられないんだ。

 僕に愛されたくてイきたくてたまらないんだな。

 

「ぶひーっ、ひひひっ」

 

 やっぱり女の子は、欲望に逆らえない弱い生き物だ──そう思ったときだ。

 視界の端で何かが歪み、社長は首を巡らせた。

 

 通路の壁面は半透明の大きなガラスだ。そこに映る自分の姿が奇妙だった。

 何が奇妙なのか──それは口元が勝手に動いていることだ。社長は口を閉じたのに、鏡の中の自分だけが唇を動かしている。

 

『社長、申し訳ありません。お楽しみのところ、大変恐縮ですが』

 

 それは自分の声だった。自分の声が、自分に語りかけている。

 

『これは私の懸念にすぎないかもしれないのですが、現状には若干のリスクが──』

 

 ──両耳がふさがれた。今朝、耳掃除をしてくれた柔らかい指の腹が、音の出入りする穴を覆う。

 

「気にしないで」

 

 一之瀬アスナの声が骨伝導のように響く。規格外のバストが作る谷間で視界が暗くなり、甘い香りが鼻腔を満たす。

 

 顔を上げた瞬間、唇を塞がれた。舌が入ってきて、歯茎を舐められる。アスナの舌が口の中を這い回り、歯と歯茎のきわをなぞり、上顎を撫で、舌先を絡め取る。

 社長の思考が霞んでいく。

 

(何だっけ。危険な──—何だっけ。ヒュプ──)

 

 鏡の中の自分が、何かを言おうとしていたが……。アスナはどうして、いきなりキスを……。

 

「んぅ♡ ねぇ、ツバのんで……? ぇあ~~♡」

 

 どうでもいい。

 今はこの唇に吸い付く方が大事だ。舌にれろれろとしてもらう方が大事だ。年若い美女のさらさら唾液を吸って、中年男のねばっこいツバと混ぜて、ねちゃ、ぬちゃと卑猥な音を響かせてから、ゴクンと飲み干す方がずっと大事だ。 

 

「ァは、おしりもなでてね、ぶちゅっ、ちゅ~~♡」

 

 社長の両手がアスナの体を這い回った。メイド服の上から背中を、腰を、尻を撫で回し、スカートの中に手を入れて、濡れた下着越しに割れ目をなぞる。

 

「んー、んぅ……♡」

 

 アスナがキスしたまま小さく喘ぐ。彼女の背後で、シュプレヒコールは続いている。

 

『イかせてくれ〜!』

『オナニーさせろ〜!』

『社長の愛が欲しい〜!』

 

 鏡の中の自分からは、もう何の声も聞こえない。

 

 唇が離れても、アスナの甘い息がまだ鼻先に残っている。銀色の糸が二人の唇を繋いでいた。

 社長はだらしない顔のまま、ナイスバディが過ぎるメイドの腰を引き寄せた。ミニスカから覗く太ももに指を這わせると、アスナは骨が抜けたように身を預けてくる。

 

「きもちいキスだったね、ご主人様ぁ……♡」

 

 耳元で囁いてくる。そうしながら、アスナは社長の下半身に手を当てた。つつー、とズボンの生地を撫でながら、指先を股間のふくらみまで移動させる。

 

 指を這わせる。布の中にあるものの長さを確かめるように、下から、上に。

 モノの先には触れず、また下に。

 盛り上がりの根元を横向きにつぅー……と撫でる。

 

 太くなりつつあるのを確認してから、社長の耳元におっきい……♡ と、声にならない声を吹きつける。

 

「すごぉ……く、きもちかった……♡」

「うひ……す、すごかった」

「アコちゃんもすごいでしょ?」

「すご……いや天雨は……」

 

 アスナの舌先が、社長の耳たぶをへちへちへちっ♡と弾く。

 

「へろへろ……♡ すごぉ……く、がんばってた……はーっ……、がんばってた、よね? へろ~……♡」

 

 社長は鼻の穴を膨らませ、こくこくと頷いた。

 アスナの声は絹のように滑らかで、耳の穴から脳の細胞まで、ゆっくり、けれども確実に入り込む。社員全ての太陽として振る舞うべきと自分に課した社長の脳細胞に絡みついて、決して離れようとしない。

 

「オナニーさせて~♡ イかせて~♡ って、あの子たちは、そんなにもご主人様を求めてるんだよ? 愛されたくて、イかせてほしくて、我慢できないですぅ~って……そうしたのは、だぁれ?」

 

 ──天雨アコだ。

 

 メーデーにシュプレヒコール。あの子は本当によく分かっている。労働者の祭典に、労働組合の力を見せつける。まるで本物の革命家みたいだ。

 すごい子だ。頑張っている。能力もある。下らない理想さえ捨てられれれば、この理想郷にどれほど貢献してくれることだろう。

 

「だから……ね? すごいアコちゃんを、ご主人様のものにしちゃお? 頭の中もお腹の奥も、ぜ~んぶ」

 

 ──そうだ。それがいい。

 

「ちゅ、ちゅう、ちゅぱっ、ね、アコちゃんのこと、ご主人様のものにしちゃおうよ。機械なんかにお任せじゃなくて、ご主人様のかっこいーおちんちんでね、ちゅぱっ、体に分からせてあげよ? はーっ……♡ んふふ、ね、そうしようよ……♡」

 

 社長は脂ぎった額を撫でながら、階下を見やった。 吹き抜けの下、一階のエントランスホールに黄色い光がうごめいている。

 アコは手旗を振り続けている。声は出せないのに、誰よりも雄弁だった。

 

「ねえご主人様、約束覚えてる?」

 

 アスナが人差し指を社長の唇に当てた。

 ゆっくりとなぞる。右の口角から、左の口角へと、そこに残った自分の唾液をぬぐうように撫でる。

 中年オヤジのかさついた唇を、さも貴重な宝物かのように優しくつつき、プニプニと押し、ちょこちょこくすぐる。

 

「アコちゃんに『ごめんなさい』させたら、アスナの能力(パフォーマンス)を評価してくれるって」

 

 社長は太い首を縦に振った。もちろん覚えている。

 アコが社長に謝罪し、『私が間違っていました』と言ったら、アスナを昇格させる。

 

「私のこと、『スカイブルー』にして?」

 

 早瀬ユウカや砂狼シロコと同じランクだ。株式会社ユートピア・インテリジェンスの最高ランク、社長の特別な女の子の称号である。

 

「ぶひひっ、もちろん! 僕はアスナちゃんにすごく期待してるからねぇ」

 

 メイドスカートの裾をめくり上げ、お尻を鷲掴みにする。下着の布地ごと、むちむちの尻肉に指を食い込ませる。

 

 アスナは嬉しそうな声をあげ、セクシーそのものの八頭身をよじった。

 と、そのとき。彼女の視線が、社長のズボンの前に落ちる。

 

「ねえねえねえ、ご主人様っ♡ ここ、大変なことになってるよ?」

 

 細くて長い指が、ズボンの膨らみをつついた。

 

「ぶひひっ、アスナちゃんのキスが上手すぎるんだよぉ~。舌がにゅるにゅるで」

「にゅるにゅるされて、おっきしちゃった?」

「うん、ビンビン」

「も~、可愛い♡」

 

 ピアニストのような指がちょこ、ちょこ、と、好奇心いっぱいの動きをする。大型犬が新しいおもちゃを見つけたときのよう探りかただ。

 

「んふ~♡ ならココも、にゅるにゅるしたげる♡」

 

 アスナがその場にしゃがみ込んだ。メイド服のミニスカートがふわりとめくれ、白い太ももが午後の陽光に照らされる。

 見上げてくる瞳は、五月の空よりも澄んだブルーだった。

 

(続く)

どのエピソードが好きですか? 続きを書く参考にさせてください。

  • プロローグ
  • ユウカの章-1
  • シロコの章
  • リンの章
  • ユウカの章-1
  • ミッドローグ
  • ミカの章
  • アスナの章
  • アコの章-1
  • アコの章-2
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