プリマドンナ~TS転移娘がふたなりサキュバスに堕とされる話~ 作:Sfon
二日目 メスとしての役割①
この世界に来て二日目の朝は、慌ただしく始まった。
「ミーナ、早く支度しないと遅れちゃうわ!」
「――うわ、地震⁉」
気持ちよく寝ていたと思ったら、突然体がぐらぐらと揺れて飛び起きる。一人暮らしの身なんだから他人に起こされるなんて考えに無くって、大地震でも来たかと慌てて辺りを見渡したら金髪碧眼美少女が居て、寝起きの頭では何が起きているか分からずに思考がフリーズした。
(あれ、ここは……?)
目の前には、少なくとも楽しくはなさそうな表情をした金髪碧眼美少女が制服姿で立っており、オレが起きたと見るや否や布団を引っぺがしてくる。何をそんなに急いでいるのかと時計を見たら、朝の八時二十分。
自分の頭に手を伸ばせば、長い黒髪が三つ編みにされて腰元まで伸びている。胸元に手を当てれば、ほんのり盛り上がった脂肪の山がふわふわしたルームウェア越しに感じられた。
(なんだこれ、夢でも見てるのか? 随分鮮明な夢だ)
ぼんやりとした頭でボケーっとベッドに座っていると、美少女がオレの手を引いてどこかへ連れて行こうとする。抵抗する理由もなく、されるがままにベッドを降りて、裸足でペタペタとフローリングの床の上を歩いて行った。
「寝起きで悪いけど、とりあえず顔を洗ってちょうだい」
眠気が抜けきらないまま洗面所へ連れていかれ、髪をヘアバンドで纏めてもらい、高い位置にある洗面台に苦戦しながら顔を洗う。冷たい水が頭をスッキリさせ、洗い終わるころには眠気がさっぱり抜けた。クリアな視界で鏡を見れば、そこに映っているのは黒髪碧眼の美少女。
ここまできてようやく、ここが夢の中ではないことを思い出す。それは決して嬉しい感情ではなく、むしろ頭を抱えたいほどに悩ましいものだった。
(マジか、あれ、夢じゃないのか)
自分が可愛い女の子になっていることは百歩譲って良いとして、昨日の自分の行動全般があまりにも酷すぎて、これが現実だと認めたくない。だって、元男なのに、元男だっていうのに、女の子の服に興味を示したり、リビングでオナニーしたり、女の子に絶頂させてくれってお願いしたりしたんだから。
(うわぁ……死にたい……)
なまじ記憶にはっきりと残っているだけに、男らしさのかけらもない行為が恥ずかしくてたまらない。もう少しこう、しょうがなくやっている感があればまだマシだったのに、あれじゃあまるで自分から進んでこの体を、可愛い恰好をしているみたいじゃないか。
「悪いけど時間がないから、これに着替えてくれる?」
考えられる中で最大級のやらかしをした昨日の自分を呪っていたら、服を押し付けられて着替えるように急かされた。何を渡されたのか確認することも
「え、ちょ、これって」
「ほら、時間が無いから」
着替え終わって三つ編みにしていた髪の毛を解き、腰まで届くその長い髪を手早く梳いて朝の準備は完了した。ご飯なんて食べる暇もなく、そのままニカさんと手を繋ぎ、小走りで学校へ向かうオレたち。とはいえ、歩くのと進むスピードは大差なかった。
それもそのはず、オレの歩幅は歩くときと全く同じで、ただ足の回転を速めているだけなんだから。まるで競歩みたいにちょこちょこと走っているその様子は尋常じゃない運動音痴に見えるだろうけど、したくてしているわけじゃない。
「ちょ、ニカさん、お願いだからもうちょっとゆっくりいかない?」
「駄目よ。二日目から遅刻するわけにはいかないんだから。ほら、普通に走ればいいのよ?」
「そういわれたって、こんな格好で走れるわけないじゃん……!」
生まれてこの方ズボンしか穿いたことがなかったのに、いきなりスカートを穿かされたのだから、まともに動けなくなって当然だろう。時間がないのを言い訳にしてほぼ強制的に着せられたのは、昨日のお買い物で最後に買ったブラウスとジャンパースカートのセットだ。どこまで足を上げたら、どのくらい早く動いたら裾がめくれてしまうのかの感覚が全くない中で、いきなり走らされるなんて無茶が過ぎる。
ふくらはぎまである割と長い靴下を履いているとはいえ、スカートの中では素肌がむき出しになっている。ショーツは股間しか覆ってくれないから、ズボンを穿いているときのように足が覆われている感覚がなくて、あまりにも心もとない。せめてタイツでも穿かせてくれればいいのに。こんな状況ではまともに走れるわけもなく、できるだけ太ももを動かさないようにしながら、膝から下だけでなんとか走っているわけだ。
膝下まであるスカートの裾は、中に穿いているパニエのおかげで多少纏わりづらくなっているものの、ズボンに比べたら動きづらくて仕方がない。運動に全く向いていないこんな服装をさせるなんて、どうしてニカさんはこの忙しい朝にこのチョイスをしたんだろう。
「オレの、好きな格好を、させてくれるって、話じゃ、なかったっけ?」
「登校初日はそれなりにキレイな服装じゃないと、後から色々面倒なのよ。悪いけど我慢してもらう他ないわ。というか、まともに走れないなら考えがあるけど」
そういって、ニカさんは足を止めた。手を繋いでいる俺もつられて止まると、手を離される。掌に風が当たり、彼女の温かさが急速に失われているのを感じた。それがちょっと寂しくて、ハッと思いなおす。こんな大変な目に合っている元凶のニカさんに、どうしてこんな感情を抱くのか。昨日は体を交わしたせいですっかり絆されていたんだろうけど、今は一応冷静なんだから、もっと平常心を保たなきゃ。
「ミーナ、私の首に手をまわして」
とりあえず言われた通りに、ちょっとだけ背伸びをして、ニカさんの首を抱くように腕を回す。そして次の瞬間、浮遊感とともに視界が空を向いた。太ももと背中に腕を回されて、いわゆるお姫様抱っこで抱き上げられたのだった。
「ちゃんとつかまってるのよ?」
今にもキスできそうなほど近くにあるニカさんの顔。死ぬほどオレの好みの顔面をした美少女なんだから、そう簡単に顔を近づけないでほしい。首筋が一瞬でカッと熱くなって、すぐに顔を逸らした。そんなオレの内心を知ってか知らずか、ただそうやって一言かけた後、ぐっと体が沈み込む。
「ちょっ、もしかしてこのまま走る気じゃ……」
「まかせなさいよ」
ニカさんが通行人の目線を気にせずに走った甲斐があり、なんとか始業前に学校へ到着できた。玄関でいつの間にか用意されていた上履きに履き替え、手を引かれてニカさんの教室へ向かった。始業前だから当たり前だが、校内は生徒で溢れかえっており、あらゆる方向から視線が突き刺さる。ニカさんにバレないように触ってこようとする輩までいる始末で、お尻を手でカバーしながらニカさんにピッタリとくっついて歩いた。
ニカさんの顔を見上げると彼女もまた表情を硬くしており、オレを連れての初登校に緊張しているのだろうか。人が自分よりも緊張しているところを見ると、それに吸い取られるようにして自分の緊張が解けていく。自分の心配よりもむしろニカさんの心配のほうが上回っていた。
「ちょっと、そんなに硬くなってどうしたのさ」
「別に、硬くなんてなってないわよ」
顔はプイっと背けられて見えなくなったけれど、オレと繋いでいる手がギュッと握りしめられたから、強がっているだけだって分かった。
「なら、もうすこし取り繕いなよ。何を気にしてるの? オレのほうが緊張してしかるべきだと思うんだけど」
周りの目線を努めて気にしないようにしながら、廊下を進み、階段を上がる。スカートがふわふわしているせいで足元が良く見えなくって、足を踏み外さないように気を付けて上らないといけないから、なかなかにストレスが溜まっていった。
「……だって、ミーナをみんなに見せたら、みんなに見られるじゃない」
「何言ってるのさ。いや、言いたいことはわかるけど。オレが気にするならともかく、ニカさんはそんなに気負わなくていいと思うけどなぁ」
階段を上って二階、廊下を進む。
「あのね、ミーナは私のメスなの。ミーナを見れば私の性癖が全部分かるから、私だって緊張するのよ。私は首席生徒だし、みんなの規範にならないといけないから、結構大変なのよ?」
急に異世界に飛ばされたオレより大変なんてことがあるか、と思わず反論したくなってしまったが、ぐっと飲み込む。程度に差があったとしても、お互いに落ち着かない立場なのには変わりがないのだから。ここはオレが大人な対応を見せないといけないだろう。
「確かにそうだよね、オレもニカさんに恥をかかせないように頑張るよ」
「そうしてくれると助かるわ。教室に入って何かあっても、全部私が対処するから静かにしていてよね」
「まかせた」
気合を入れるためかニカさんが一つ深呼吸をして、教室に突入する。見慣れたものと変わらない普通の教室だけれど、その中にいるのは誰しもが翼と尻尾を持ったサキュバスで、分かっていたとはいえ不思議な気分だ。まるで学び舎でコスプレ大会がされているような感覚。
しかしこの場においては、オレが好奇の目で見られる側だ。あたりが一瞬静まりかえり、その数秒後には小声で会話しているのがぼんやりと聞こえはじめ、そっと目線だけで見渡してみれば、みんなの視線が自分に向かっているのがよく分かる。前の世界の美女や美少女も、こんな視線の中で過ごしていたんだろうか。
(町中を歩いた時よりも、ずっと容赦がないというか、視線がトゲトゲしてる気がする)
何も悪いことをしていないのに、ここに居てはいけないような気がしてしまう。あまりの気まずさにニカさんを見上げると、彼女は少しだけ硬さの残る表情で歩みを進め、教卓の目の前、最前列の席に座った。オレもついては行くけれど、自分の席がどこかわからないから、ニカさんの様子を窺うと。
「ミーナの席はそれみたい」
「いや、これ? みんなより立派な椅子って、普通逆じゃないの?」
そこにあったのは合皮のソファ。他の椅子や机はよく見慣れた学校の備品なのに、それだけが場違いだった。てっきりニカさんが座る席だと思っていたけど、そうではないらしい。
「勉強するのにそんなリラックスできる椅子は不向きよ。ミーナはただ私の隣でゆっくりしていればいいんだから、ちゃんとそれぞれに向いた椅子になってるんじゃない? 安心して使えばいいわ」
気は進まないものの、そう言われてはしょうがない。おずおずと座れば、座面はとても柔らかく幅広で、お尻をすっぽりと包み込んでくれるし、太ももを優しく受け止めてくれている。一番深くまで座っても足が浮かないぴったりサイズだ。オレは結構小柄な方だし、このサイズ感なのがたまたまなのか、オレに合わせて椅子を選んでくれたのか、どちらにしても快適に座れるのは嬉しい。
ただ、『それぞれに向いた椅子』と言われたけれど、こんなに立派なものにする必要はないだろう。ただ見た目を良くしたというわけでもないだろうし、なにか機能的に必要なんだろうか。
メスに向いた椅子という意味で捉えるなら、何かえっちなことをするのに役立つのかもしれない。確かに、座面が柔らかければちょっと無理な姿勢を取らせても、多少は耐えられるだろう。たとえば、両側のひじ掛けに足を乗せて、強制的にⅯ字開脚をさせられて、腕も拘束されて、好き勝手に弄られるとか……。
(やば、想像したらちょっとだけ濡れてきたかも。まさかこの程度でバレたりしないよな?)
オレはマゾじゃないんだから、そんなことをされたって嬉しいわけない。それなのになんだかお股がムズムズしてきて、だんだんと昨夜感じたような熱が下腹部で生まれてきている。一度頭に浮かんでしまうと、周りにいるみんなからの視線でさえも興奮材料になってしまって、肩をピクリと震わせてしまった。背筋にもゾクゾクとしたものが走り、このままではマズいってオレでも分かる。
(さっさと頭を切り替えなきゃ。いつまでもこんな調子じゃ、最後までもたないぞ)
とは言っても、そう簡単にできるわけがない。席について息つく暇もなく先生がやってきて、朝のホームルームが始まってからも、連絡事項に混じって『メスに気を取られないで勉強しろ』なんて話があって、自分の立場を思い出し、今の自分の格好に意識が向かった。
パニエでフワッと持ち上がっているロングスカートが何となく心細く、足を閉じて座ると素肌同士が触れ合って、まるで何も穿いてないような気分になってしまう。慣れない浴衣を着て、動きがぎこちなくなってしまう、あれと似たようなものがあった。
自分の恰好がおかしくなっていないかと気になり、そのせいで自分の体自身に意識が向く。すると今までは気にしていなかった、胸元を締め付けるブラの感覚も気になり始めた。上半身を動かすたびにブラが胸元を圧迫して、自分が女の子の下着を身に着けているんだって実感してしまい、心臓がトクトクと鳴り始める。胸を張っているとおっぱいが突き出ているような気がして恥ずかしく、自然と背筋が丸まってしまった。
昨日は女の子の体になったばかりだったから、他人をロールプレイしているような感覚だった。下着を買いに行ったり、お風呂に入ったりしても、白昼夢を見ているような感覚。途中で女装しているような気分になったものの、それもすぐに落ち着いた。現実だと頭では認識しているつもりだったけど、どこか精神的な防衛反応があったんだろう。
しかしそれが、昨晩一睡したせいで解けてしまったらしい。今の自分の体がどんなものなのかを正しく理解したというか、自分が女の子になったんだと自覚したという面では良いはずなんだけど、それはそれとして恥ずかしいのに変わりはなかった。
(さっさと慣れないと、これから大変だぞ……)
一時間目の授業は数学。教科書には数Ⅰと書かれていて、授業のカリキュラムはオレの世界と大差ないようだ。数学の先生も例にもれず美人なサキュバスの先生で、当たり前だが見た目は前世基準で一級品。この世界だと珍しくもないのだろう、騒ぐ生徒は誰もいないけれど、思わずドキッとしてしまうほどの美貌だ。
授業が始まってすぐ、オレはこの授業を受ける必要が無いこと、特にテストも無いことを伝えられた。今更改めて高校の授業を受け、テスト勉強に苦しむのだろうかと心配していたけれど、メスには学がいらないと言われているようで、それはそれで居心地が悪い。流石進学校だからだろう、皆真面目に授業を受けている中、オレ一人が取り残されているようだった。
とはいえ、何もやることが無い訳でもないらしく、一冊の本を渡された。それがまさに今読んでいる本、『メス向け世界攻略マニュアル』だ。ふざけた名前とは裏腹に、内容は割と役に立つから腹立たしい。本の内容は題名からも分かる通り、プリマドンナのメスがこの世界について大まかに知るための知識が羅列されていた。
曰く、この世界はサキュバスが支配しており、人間はサキュバスにとって愛玩動物のような扱いをされている。男は繁殖用だが、女はサキュバスに重宝されており、というのも、女が絶頂するときに周囲へばらまく精力が、サキュバスにとって非常に良い効能を持っているのだ。女がばらまく精力はサキュバスの美貌を磨き、魔力を増大させる。この辺はニカさんから聞いたものとだいたい同じだ。
女の存在があまりにもサキュバスにとって重要であるのにもかかわらず、個体数には限りがあり、特にサキュバスの美醜基準となると、満足できる個体は限られているらしい。それを打開するために、体をサキュバスの魔術で作成し、精神を他の世界、つまりオレの世界にいる男からコピーしてメスを生み出すようになったわけだ。
メスに選ばれる精神の持ち主は、オレが元居た日本にいる、義務教育を終えた男のみ。最低限の教育が終わっていれば会話に困ることがかなり減るし、前の世界の常識はおおよそこの世界の常識と変わらない。そして常識が異なる部分だけ学ばせればそれで教育が済むのが、オレの元居た世界から呼びだしている理由らしい。
ならば男の精神ではなく女の精神でもいいのではないか。サキュバスは皆TS好きなんだろうかと思ったけれど、考えてみれば当たり前のことだった。サキュバスはみな女のような見た目をしている。女の精神よりは男の精神のほうが、その見た目を好意的にみる割合が多いに決まっていた。
(まあ、実際のところはサキュバスにちんぽが生えてメスを犯すんだから、そんなものは誤差な気がするけれど)
そうして魔術によって作られたメスの体は、魔術で作られただけあって、とんでもなくサキュバスにとって都合のいい体になっている。老いない、老廃物が出ない、病気にならない。人間というよりはホムンクルスが近いか。サキュバスからしてみれば、可愛い体をずっと維持できて、病気を気にしなくていいなんて夢のようだろう。
ホコリとかで汚れるから風呂に入る必要はあるけど、代謝がないからベトついた汗をかかないのは素晴らしい。一方で、性的な部分については人間と変わらず、愛液をはじめとした体液は出るし、潮も吹く。……この辺は自分の体で体感済みだ。
そして、サキュバスについても記載がある。この世界を百年位前から支配し始めたこと。どこかの人間がこの世界にサキュバスを召喚したのが始まりなこと。サキュバスは基本的に死なず、増え続けていること。そして、今まで人間が住んでいた場所だけではなく、洋上に人工島を作って住める場所を増やしていっていることも。
(最初のサキュバスが百年前、そこからここまで数を増やしたなんて、一体どうやってだろう。単純に召喚を大量に行ったのなら、それで済むだろうけど……)
この本には、この世界の人間が今どう扱われているかは書かれていても、そこに至るまでの過程は何も記載がない。それが想像力を掻き立てた。サキュバスが現れる前までオレの世界と同じような歴史を辿っていたのだとしたら、今のこの世界の人間はあまりにも少なすぎる。人間を収容するための施設があってそこに押し込められる程度しか残っていないのだから、半分どころの話ではないだろう。
(元々居た人間がサキュバスに変えられたとか、そういう話じゃ無いだろうな……?)
考えたところで答えは出ないし、真実を知ったところでオレにどうにかできるものでも無い。そもそも、オレが何かしないといけない理由もない。別に人間の勢力を再興しようなんて思っていないし、サキュバスに抵抗できるとも思えなかった。深く気にせず、流れに身を任せるのが良いだろう。
本を読み終えると、またやることが無くなる。そうすると意識が再び自分の体に向かい、女の子の体をゼロ距離で感じる恥ずかしさがぶり返してきた。こんなことならこの世界について意味もなく考えていた方が良かったけれど、それよりも今自分の身に起きていることの方がよっぽど気になる。
そうしてモジモジしながら授業が終わるのを待つこと二十分ほどだろうか、授業が終わって短い休憩時間に入った時、ニカさんが小声で話しかけてきた。
「大丈夫? 体調が悪いなら保健室にも行けるから、すぐに言うのよ」
「別に体調が悪いわけじゃないよ。というか、悪くならないって知ってるでしょ」
自分の体の恥ずかしさが仕草にも滲み出てしまったところを気づかれたのだろう。確かに太ももを擦り合わせたり、スカートの裾を引っ張ったりしているけれど、それは股の間に触れる空気が気になって、なんとかしようとしているだけだ。
「じゃあ、なんでそんなにモジモジしているのよ」
「そりゃ、スカートを穿いてるからだよ。ミニスカートじゃないだけマシだけど、服を着てる感じがしなくって」
男の頃は女の子の着ているミニスカートとか、ショートパンツとか、肌の露出の多い格好は目の保養になって大歓迎だった。でも、いざ自分が身に着ける立場になってみれば、あんなものはとてもじゃないけれど着れないだろう。ロングスカートですらこれなんだから、太ももまで見えるような丈の服なんて、あまりの守備力の低さに頭がクラクラして、倒れてしまうんじゃないだろうか。
確かに綺麗な肌を見せつけられるのは美貌の持ち主の特権だけど、別にオレは可愛い格好をみんなに見せつけたいわけじゃないし、たとえ着るとしても自室の中だけで充分だ。本当に、ニカさんがオレに着てほしいって渡してこなければ、絶対にこんな服着たくない、はずだ。
「スカートが服じゃなくて何なのよ」
「ただの腰巻」
「慣れるしかないわよ」
こういう常識は幼少期の刷り込みによるものが多いだろうから、後から身に着けるのは難しいだろう。これから慣れていかないといけないのはわかるけれど、服装から来る恥ずかしさと、ニカさんに無茶ぶりを言われたモヤモヤ感、その一方でニカさんが時折見せる熱っぽい視線と、『可愛い』と褒めてくれる嬉しさが混ざり合って、混沌とした気分だ。
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