※この作品はR-18です。

プリマドンナ~TS転移娘がふたなりサキュバスに堕とされる話~   作:Sfon

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一日目 女の子の体になって②

 気が済むまで泣いた。目が腫れるほど泣いた。こんなに泣いたのはいつぶりだろうってくらいに泣いた。涙が枯れるまで泣いて、泣いて、泣いた後に残ったのは、この状況を受け入れるしかないという受容の心だった。

 

 この世界に呼び出されたからにはどうしようもない。彼女を疑ってもしょうがない。なるようにしかならない。しかし、何もできないというわけでもないだろう。

 

 かつてのオレを覚えていられるのは自分自身だけ。必死に努力し、藻掻いたオレ自身のことは心の中に強く刻み込む。いままでよく頑張った、そっちの世界で頑張ってくれ。俺はこっちの世界で頑張るから、と。

 

 これからはきっと、サキュバスに体を弄ばれる日々が続くだろう。メスになったこの体を好き勝手に使われて、男としての自意識が薄れてしまうかもしれない。それでも、オレはオレであり続ける。この存在がつながっている限り、男の頃のオレの努力は無駄にならない、そう信じよう。

 

「お待たせ、ニカさん」

「……目が真っ赤ね。冷たいタオルを作ったから、これで冷やしたら少しは良くなると思うわ」

 

 扉を開けてニカさんを呼ぶと、彼女はソファに座ってオレを待っており、濡らしたタオルをすぐに渡してくれた。直前に彼女を追い出したのだから、オレが泣いていたのはバレているよな、と恥ずかしさを覚える。こっちは男の精神なんだから、人前で泣くなんて恥ずかしいことなのだ。ただ、その優しさは嬉しくて、素直に受け入れる。

 

 冷たいタオルを目元に当てると、少しずつ腫れが引いていく気がした。ついでに顔も拭いて、涙の痕もできるだけ消す。しばらくそうして顔を冷やすと、気持ちもそれなりにスッキリした。もちろん、まだまだ胸の内にはモヤモヤしたものが残っているけれど。

 

 タオルをニカさんに返して顔を上げると、心配そうに様子を窺っている彼女がいた。

 

「ありがとう、だいぶ落ち着きました」

「よかったわ。……今更だけど、この世界に連れてきてごめんなさい。そして、この世界に来てくれてありがとう。この世界はメスにとって心地いいとは言えないかもしれないけど、私はできるだけミーナのことを大切にしたいし、ミーナが嫌なことはできるだけしたくないって思ってるし、だからこそプリマドンナになったの。サキュバスの中には酷い嗜虐趣味の人だっているけど、せめてそういう人から、一人だけでもメスを守りたくて。すぐに信用してもらえるとは思っていないけれど、これからよろしくね」

 

 まるでプロポーズみたいだな、なんて呑気に思ってしまった。長々と口に出していたセリフの全てが本音なのだとしたら、なんと素晴らしい考えの持ち主だろうか。

 

 この世界のサキュバスとしては異端かもしれないが、オレにとってはまさに聖人に違いない。そしてそんな人を主人に持てたのだとしたら、オレはとんでもない幸運の持ち主だろう。メスにとって、サキュバスの性格は選びようがないだろうし、サキュバスに命令されることは絶対だろうから。

 

 もちろん、オレを騙すための方便である可能性は十分に残っている。だから安心しきれるわけではないけれど、少なくとも当面の間はあからさまな危害を加えてこないだろうし、きっと他のサキュバスからも守ってくれるはずだ。

 

「はい、よろしくお願いします。ニカさん」

 

 応接間のような共用部から目覚めた個室に戻ってきたオレとニカさん。いつまでもバスローブのままじゃいられないだろうし、足元から風が入ってきて落ち着かないから、さっさと着替えさせて欲しかった。下着も何一つつけてないから、股間にも違和感がある。慣れ親しんだものが足の間になくて、どこか寂しかった。

 

(そうか、今のオレは、女の子なんだよな)

 

 体つきが女の子のものになっていたり、声が可愛くなっていたりすることは断片的に分かっても、客観的にどんな姿なのかは全く分からない。顔なんて見たこともないし、もしかしたらこの世界のメスに対する美醜の感覚が異なって、オレ目線だととんでもない醜女かもしれない。

 

(頼む。せめて、オレ目線でも可愛い顔であってくれ)

 

 できるだけ早く自分の容姿を確認したい気持ちはあったし、ニカさんもそれが分かっていたのだろう。むしろ、オレが気にならなくても、早いうちに自覚させたかったのかもしれない。彼女はオレが言い出すまでもなく、壁に掛けられている鏡を勧めた。

 

「急に『あなたは女の子になったの』って言っても実感が湧かないだろうし、こっちに大きいのがあるから、見てみたら?」

 

 オレの精神面をかなり気にしているのだろう、ニカさんはしきりに『嫌だったら無理しなくていい』と声を掛けてくれる。それは鬱陶しく感じる一歩手前くらいには多くて、よほどオレのことを気にかけてくれているようだ。

 

 彼女の立場に立ってみれば、死ぬ気で努力して高校に首席入学したのに、プレゼントしてもらったメスのメンタルが壊れるなんて堪ったものじゃないのだろう。

 

「じゃあ、せっかくなので」

 

 申し出自体はありがたかった。オレもさっさとこの状況に適応しないといけないと思っているし、とはいえ自分から言い出すのには気恥ずかしさがあったから。

 

 裸足で板張りの床を歩く。バスローブ一枚で動くのは心もとなく、ズボンとか、せめて下着とか、体に沿っているものが何もないのが気になってしょうがない。

 

 ニカさんに呼ばれるまま歩いていくと壁に大きな姿見が直接貼り付けられており、それは服屋さんの更衣室かと思うほどに大きなものだった。

 

 鏡の前に立ってまっすぐ前を向く。そこにはオレの体、新しい女の子としての体が映っているはずだった。なのに、一瞬、どこに自分が居るのか分からない。無意識に男の頃の自分の姿を探したんだろう。自分の姿はなく、少女が一人、こちらを向いて立っていた。

 

「どうかしら。私目線だと、とっても可愛いって思うんだけど……」

 

 中学生くらいだろうか。その少女の深い碧の瞳に、意識が吸い込まれるような感覚。日本ではほとんど見る機会のない、ブラウン以外の瞳。所謂碧眼よりももっと深い碧はサファイアのような輝きで、一度目が合ってしまえば離せない。微かに細められているその目は、オレのことをまっすぐに見つめていた。

 

 その女の子に思考が呑み込まれていく。頭を動かす余裕はない。ただ、その女の子を見つめることしかできない。女の子がオレを見ている限り、視線を外すことができない。まさに『お嬢様』なその女の子は、どこか儚げな雰囲気も、外に出たことがなさそうな白い肌も、気の強そうな目つきも、視界に映る全ての要素が噛み合っている。

 

 オレから一瞬たりとも目を離さない、その女の子が自分自身だと気づいたのは、たっぷり五回ほど深呼吸した後だった。

 

「えっと、ミーナ?」

 

 おずおずといった様子のニカさんに声を掛けられてようやく、自分の視線を鏡の中の彼女の瞳から外すことができた。頬に手を当てれば、鏡の中の少女も頬に手を当てる。細くしなやかな指先が、白くキメ細かな肌に少しだけ沈み込む。その感触は、自分の頬にもしっかりと伝わってきた。

 

「これが、オレなのか」

「ええ、そうよ。それがあなたの、ミーナの新しい体よ」

 可憐な声が口から漏れ出す。思わず飲みこんだ唾の音さえ、腹の底を震わせるような引力を持っていた。意識的に深く息を吸い、ゆっくりと吐き出さないと、まともに呼吸すらできない。胸の鼓動は一層早まり、ニカさんに聞こえてもおかしくないだろう。

 

 首には黒い革製の首輪が巻かれているが、銀色のバックルがおしゃれだし、チョーカーと言われてもおかしくない。幼い容姿とチョーカーの組み合わせはまるで奴隷のようで背徳的な見た目だが、それが不思議なことに魅力となっていた。

 

 視線を下ろしていくと、バスローブ一枚だけを着た少女の体があった。その下にある裸を見たい。その欲望は簡単に実現できる。今すぐにでも、ただ自分で脱げばいい。タオル地の紐が腰に回っているだけなのだから、それを解けば一瞬だ。

 

 きっと、現実味のないこの光景のせいだろう。普段なら飲み込めるはずの欲望なのに、抵抗できない。指先を腰の結び目に這わせれば、何の抵抗もなく腰ひもが床に落ちた。拘束が解かれ、ふわりと前が開いたバスローブ。その隙間からは、白い肌が見えた。

 

 きれいな淡いピンクの乳首、柔らかく膨らんだ胸、すっきりしたお腹、(くび)れた腰、一本筋が通っているだけの股間、肉付きのいい太もも、細いふくらはぎ、小さな足。女の子らしい体つきはこういうものだ、と言われたら納得してしまいそうなほどに完成された体つきだった。

 

 胸元に手を伸ばすと鏡の中の女の子も胸を触り、オレの手には柔らかい感触が伝わった。決して大きいわけではないのに、手に伝わるもっちりとした感触。自分の胸が穏やかに膨らみ、ハリをもって突き出ている。

 

 それを手のひらで撫で上げて確かめると、首筋に淡い電流が走り、耳元が痺れた。陶磁器を撫でているような感触の肌の下にはやわらかい脂肪が蓄えられている。そっと下から支えるように指をあてると、ふくらみが指の上にそっと腰を下ろした。

 

「これが、オレ」

 

 肩に掛かっているだけのバスローブは、肩口を少し押してやるだけで床にすとんと転がった。そこにあるのは、首輪以外一糸纏わぬ女の子の姿。白い肌が眩しい、人形のように可愛い女の子の姿だった。

 

 頭が動くと、長い髪が肩や背中、耳元をくすぐる。軽く頭を振るとサラサラとしなやかに揺れ、動きを止めるときれいに纏まる。黒く艶やかなその髪は光を受けてきらめき、まるで絹糸のよう。

 

 体に手を這わせる。女の子も、ぎこちない手つきで自分の肌を撫でる。腰から首筋、そして頭へと快感の痺れが駆け上っていき、思わず体を震わせてしまう。深く息をつき、微かに喘ぎ声も漏らしてしまった。

 

 胸から手を下ろした先は引き締まったお腹。脂肪を全体に薄く(まと)っていて柔らかく、小さなおへそも可愛い。女の子なのであれば、このお腹の奥には子供を作るための子宮があるんだろうな、なんて考えてしまう。呼吸をするたびに膨らんだりへこんだりして、自分が生きていること、この体が自分のものなんだと頭に注ぎ込まれた。

 

 お腹から手を下ろして、腰。余分な脂肪がついておらず少し(くび)れていて、女の子から少女へ成長する途上の淡い艶やかさがあった。そしてその先にある、身長の割にしっかりと膨らんだお尻は柔らかな脂肪に包まれており、女の子らしく幅広のそれは腰の細さを強調している。

 

 そこから向かおうとしたところは、一番女の子らしいともいえるだろう、股間にある女性器。お腹から滑らかな曲線を描いてお尻まで繋がっており、飛び出ているものは何もない。一本筋が通っているだけで色も白く、穢れを全く知らないのだとすぐにわかる。産毛の一つも見えず、あまりにも幼い見た目は犯罪臭すら漂ってくるほど。

 

 股間に何もついていないのが慣れなくて、太ももをもじもじと擦り合わせてしまう。すると太もも同士がくっつき、股間と太ももの間に逆三角形の隙間が生まれた。それがまた女の子っぽさを脳髄に叩き込んで、頭がくらくらしてくる。

 

(これが、女の子の体。幼いのに色気があって、AV女優とは大違いだ)

 

 あまりに自分の体に意識が集中していたからか、たたらを踏んでしまった。すると胸元がわずかに揺れ、自分の胸に膨らみが付いているんだって思い出す。ふとした瞬間に腕とぶつかって小さく声を漏らしてしまう。その仕草全てを鏡越しに見てしまって、あっという間に顔が真っ赤に染まった。だってそれはどこからどう見ても、裸体を見られて恥ずかしがっている可愛い女の子そのものだったから。

 

(オレの体なんだから、どう触ったってオレの自由だよな。女の子の感触って、どんな感じなんだろう)

 

 恥ずかしいけれど、興味が収まる様子はない。片手は遠慮がちながらも胸を揉み、もう片方の手は股間に伸びようとしていた。男ではありえない、スッキリとした股の感触。そこに触れようとしたとき、冷水を浴びせられた。

 

「あの……そろそろいい? 悪いけど、これ、着てもらえるかしら」

 

 その声がなければ、どこまでも触り続けていたに違いなかった。飛び跳ねるように自分の体から手を放し、振りむく。そこには顔をほんのり赤く染めたニカさんが、表情を硬くして立っていた。こちらをまっすぐ見ずに、目を逸らしながら手だけを突き出しており、そこには白い布の塊が握られている。おそらく服だろうか。

 

(まずい、そういえばニカさんが居たんだった! 体を触っているところ、絶対見られてたよな……)

 

 自分の新しい体に夢中で、完全に彼女の存在を忘れていたのは、あまりにも大きな失態だった。人生で一番恥ずかしい瞬間に違いなく、一気に耳の先端まで熱くなるのが分かる。

 

 ニカさんに自分の裸を見られた恥ずかしさもあるが、それよりも急に脱ぎ出すなんて行動をした恥ずかしさの方がよっぽど大きい。自分の体が気になったとはいえ羞恥心が無さすぎるし、女の子の裸を見たい欲望を全く隠せなかったのはあまりにも自制心に乏しかった。

 

「すみません! 今すぐ着ます!」

 

 半ばひったくるようにしてニカさんが差し出している布の塊を受け取ると、彼女はすぐにオレから顔をそむけた。嫌われただろうか、それとも嘲笑うつもりだろうか。所詮男なんて性欲に塗れている汚らわしい存在だと詰られるのだろうか。

 

 思考はどんどん良くない方向へ進んでいき、また涙が出そうになったところで、気づいた。ニカさんの表情は、オレのしていたことを非難するようなものに思えず、あれはむしろ、オレの体を見て恥ずかしがっているようだった。

 

 それを裏付けるようにして、ニカさんの動きは一目見て分かるほどにぎこちなくなっている。クローゼットの中を探って何かを見つけようとしているけれど、少し弄っては手が止まり、また動いたと思ったらすぐに固まっていた。背中の翼や腰の尻尾はパタパタくねくねと動き回り、かと思えばピタッと止まったりする。

 

 てっきり、サキュバスは女の子の体を見たって、人間が料理を見るくらいの感覚なのかなと思っていた。しかし、ニカさんがぎこちない様子になったのは、どう考えてもオレの裸を見たせいだろう。つまり、ニカさんはオレの体を魅力的なモノだと思ってくれているわけで、そんな目線で自分の体が見られるなんて思っていなくて、ドギマギしてしまう。

 

「急に脱ぐからびっくりしたじゃない」

「すみません……でも、意外と慣れてないんですね。サキュバスなら裸を見たり見せたりするくらい、慣れっこなのかなって思ってましたけど」

 

 思わぬ目線を向けられていたのが恥ずかしくて、考えてもいないことを口走ってしまう。捉え方によっては挑発しているようなセリフだし、これを口実にジロジロ眺められたら、身体中を真っ赤にして羞恥に(もだ)えることになるだろう。ただ幸運なことに、彼女は上げ足を取るような性格ではないようだった。

 

「サキュバスの体なら見慣れてるわよ。でも、繰り返し言うけど、あなたは私たちとは違うの。メス……人間の女はサキュバスにとって憧れの存在で、その体はどんな美術品よりも魅力的なんだから」

「自分の体にそんな目を向けられるなんて、実感が全然湧かないです」

「でしょうね。初めて会ったサキュバスの前でストリップショーを始めるなんて、本当に驚いたのよ」

 

 改めて痴態を突かれると、本当にどうしてあんなことをしたのかと後悔しかない。もはや開き直ってしまったほうが楽なのではないか、彼女なら分かってくれるかもしれないという一縷(いちる)の望みに託すべきなのではないかという考えが湧き上がり、そのまま口に出てしまう。

 

「いや、元男として、異性の、しかも容姿の整った体になったらこうなるのも当然というか」

「そうよね。私だってそうすると思うし、驚いたけど文句はないわよ。これからも、私の前だったら好きに過ごしてもらって構わないから。最低限恥ずかしくない格好と振る舞いはしてもらいたいけど、私の好みを強要したりしないわ。異世界から男の精神を引っ張ってきているんだし」

 

 まさか受け入れられるとは思っていなくて正直驚いたけれど、理解してもらえたのだとしたら本当に助かった。しかも、オレのことを尊重しようとする姿勢まで見せてくれた。まだ全幅の信頼を寄せるには過ごした時間が短すぎるけれど、その発言が本心なのだとしたら、なんと素晴らしい人だろうか。もしかしたら彼女のことを信じてもいいんじゃないか、なんて考えが脳裏をよぎった。

 

(いやいや、流石に早すぎるだろ。……というか、いつまでも全裸でいるわけにはいかないよな)

 

 気持ちが落ち着いても、それで事が済んだわけではない。手の中には布の塊。きっと服だろうと思って広げたそれは、紛れもなく女の子の下着である、ショーツとキャミソールだった。そう認識した瞬間、また顔が燃えるように熱くなる。

 

(そうだよな、オレは女の子の体なんだから、当然服だって女の子のやつだよな!)

 

 頭では理解できた。しかし、いざ手に取ってみると、それは服とは思えないほどに薄く繊細で滑らかな生地で、しかも全く見慣れない形をしている。

 

 女の子の下着、それも母親のものとはかけ離れた可愛らしいものなんて、まともに見たことが無かった。いくら手渡されたとはいえ、直視してはいけないものだと本能的に感じてしまい、すぐに視線を逸らしてしまう。

 

(こんなのを着ろって言うのかよ。いや、着ないといけないんだろうけど、そんな覚悟、まだできてないし……)

 

 裸をまさぐっていた先程までの勢いは完全に無くなっており、ただモジモジとその場で立ち尽くす。男のオレが、こんなものを着ていいのか。気持ち悪いと思われないのか。そもそも、こんなに小さな服を着ることができるのか。そんな思考が頭をぐるぐる回っているうちに、やがて下着への興味が恥ずかしさを打ち負かし、一度逸らした目線を再び下着へと向けた。

 

 受け取った白いショーツはすべすべとした手触りで、おなか側に淡いブルーの小さなリボンがワンポイントでついている。小さな女の子の下着を手に取っていると思うと胸が高鳴ったけれど、それを表に出すのは気恥ずかしくて、できるだけ平静を装った。

 

(まさか、嬉しいとか思っていないだろうな。オレは女の子になりたいなんて欲望……ちょっとはあったかもしれないけど、あんなの気の迷いに違いないんだから。とにかく今は、しょうがないから、必要に駆られて穿くだけだから……!)

 

 覚悟を決めてショーツに足を通そうとしたとき、下げた目線の中に胸元が入る。そこには明らかに女の子とわかる大きさの胸と乳首があって、さっき見たっていうのにまたドキっとしてしまった。

 

 ふくらみの輪郭がはっきりわかる、小さいながらもれっきとしたおっぱい。その動揺と、新しい体のバランスに慣れないせいで、片足を上げるだけなのに上手くいかなくて、もたついてしまう。

 

 一度両足をしっかり地に着けて深呼吸もし、気持ちを落ち着けてからもう一度。しかし、それでもまたふらついてしまった。妙だと(いぶか)しめばふと気づく。この体は身長に対してお尻の幅が広いし、足の付け根も思っているより間隔が開いていた。

 

 なるほど、これが女の子の体か。股の間から赤ちゃんを産まないといけないんだから、そういう作りになっていて当然――とそこまで考えたところで、頭の中にニカさんの子を産む自分が浮かび上がってくる。瞬間、顔が爆発しそうになるくらいに熱くなり、頭から湯気が出ているんじゃないかとすら思えてきた。

 

(なんでそうなるんだ! 冷静になれ、あんまり考えるな。とりあえず着れば何とかなるんだから)

 

 ふらつきながらも両足をショーツの穴に通し、ゆっくりと股間まで引き上げる。肌にぴったりと張り付く感覚は小さなころにブリーフを穿()いた時以来だが、このフィット感はそれと比べ物にならないほどだ。男の股間には突起物が付いていて、女の股間には何も付いていないのだから、当たり前の話ではあった。

 

 鏡を見ると股間の形がはっきりと浮かび上がっており、体のラインを隠す機能は全く無いのが分かる。なるほど、女の子が下着を見られて恥ずかしいのって、股間の形がまる分かりだからだろうか。トランクスを穿いている男が下着を見せたところで、しょうもないものを見せて申し訳ないくらいの気持ちしか起きないだろうし。ブーメランパンツを履いて股間がもっこりしているのと同じような感覚かもしれない。

 

(それにしても、なんだか穿いている実感があんまりないぞ、これ)

 

 一度穿いてしまえば生地が体と馴染んで存在感が薄れるし、軽く歩いてみたところで股間に動くものが付いていないから、服を身に着けている感触が無い。風でも吹けば話は違うのだろうけれど、非常に快適な室温の屋内では、たかが薄い布の一枚を身に着けているかどうかなんてさほど関係なかった。

 

 それよりも、股間に慣れ親しんだものが付いていない喪失感のほうがずっと大きい。肌を隠すために穿くとしても、ショーツの布地はお尻と股間だけを覆っていて太ももや下腹部は全く隠れておらず、男物の下着よりもずいぶん低い位置で留まったそれはなんだか心細い。

 

 そのせいだろうか、無意識的に下腹部へ手を伸ばし、股間までなぞろうとしたところで我に返る。今ならまだ、ショーツの肌触りが気になっただけだと誤魔化せるだろうか。

 

(流されるな。この体は確かに魅力的だし、ニカさんもこの気持ちには理解を示してくれているけれど、これ以上恥の上塗りをする必要なんてないんだから)

 

 そっとニカさんの様子を覗き見れば、クローゼットの中を弄りながらも、どことなく恥ずかしそうにしながら、チラチラと横目でこちらを見ている。

 

 それはなんというか、そう。まさに童貞臭い仕草に思えた。女の子慣れしていない男の子が、異性の体を見てどぎまぎしている様子、まさにそんな雰囲気だった。そんな気持ちを向けられるなんて、男の頃のオレならありえなくて、オレまでドキドキしてしまう。

 

(下着を着るだけなのに、時間を掛けすぎだ。初めて着るんだからしょうがないだろうと言いたいけれど、変に意識しているって思われるのも恥ずかしい。さっさと着てしまわないと)

 

 思い切って、キャミソールを頭からかぶる。手で包める程度に膨らんだ胸元に服が引っかかって、これもまた違和感があった。胸の周りだけ、布が突っ張っている感じがして落ち着かない。

 

 胸元に裏地が付いているおかげで乳首が透けるようなことは無いけれど、そんな工夫が服にされていること自体が女の子の服らしさを増幅していて、居心地を悪くしていた。

 

 胸の下あたりには胸囲を一周するようにゴムが入っており、胸の膨らみが浮き上がる。これがないとお腹周りが胸の膨らみで浮き上がってしまうんだろうと思いつつ、やはり女の子っぽさが感じられて、自分に不相応なものをつけている気になってしまう。

 

(小さいとはいえ動くと揺れるし、おっぱいはおっぱいなんだな)

 

 キャミソールを着てからというもののなんだか落ち着かなくてあれこれ弄っていると、鏡を見た時にふと気づいた。そういえば、長い髪を全部キャミソールの中に残したままだったのだ。首元から手を差し込み、髪をスルスルと抜いて、軽く頭を振るとすっきりとしてひと段落。

 

(あれ、なんかこの仕草、すごく女の子っぽいな)

 

 うなじに手を差し込んで、髪を広げるようにハラハラと落としていく。すると、黒く長く細い髪が扇のように広がり、背中でスッと纏まった。その様子が何だか色っぽくて、思わず胸が高鳴る。まるでシャンプーの広告のようだった。

 

 改めて鏡の中を覗けば、下着姿の可愛らしいお姫様がこちらを向いている。体を守るためにしてはあまりに少ない布面積に、やはり女の子の下着はただの肌着に収まらず、『着飾る』ための服なんだと思わされた。

 

 どこから見ても、今の俺は可愛い少女。小柄ながらも、子供の頃に幼稚園や小学校で見た女の子のような、ガキっぽさはない。幼く小さな体躯なのに、その美しさや可愛さ、そしてエロさが視界から脳の奥底へ飛び込んでくる。

 

 艶のある白い下着、透き通った白い肌、きらめく黒い髪、宝石のような碧い眼。そのコントラストはまるでお人形のように引き立っていて、いつまでも眺められそうだった。

 

(こんなに可愛い女の子に成れたのなら、案外この世界も悪くないかも。……いやいや、何を考えてるんだ。ここはメスにとって辛い世界なんだから、こんな場所、良いわけないだろ!)

 

 とはいえ、目の前の自分が可愛いのは間違いなく、自分の下着姿を満足いくまで眺めてしまう。貰える物は貰っておく(たち)なのだ。隅から隅まで眺めて、次はどうすればいいんだとニカさんに視線を戻すと、彼女は部屋の片隅にあったクローゼットを未だにかき回している。色々な服を手に取っては戻し、手に取っては戻し。なにを探しているんだろうか。

 

 彼女が手に取っているのは、ニカさんが着るには小さい服。きっとオレに着せるつもりなんだろう。後ろからどんな服があるか覗き込んでみると、背中が大きく開いたオフショルダーのドレスだったり、いかにもコスプレチックなメイド服だったり、チャイナドレスだったりと、エッチなものがずらりと並んでいる。しかし、ニカさんはそれらに目もくれず、Tシャツやパーカーといった、無難な服ばかりを手に取っていた。

 

 もしかして、オレに気を遣ってくれているんだろうか。メスになったばかりのオレが女の子の服に慣れなかったり、抵抗があったりするのを気にしてくれているのだったなら、自分の欲望を我慢してくれるいい人だ。

 

 いや、気を緩めてはいけない。こうしてオレに親切にして、どこかで油断したところを掬い上げるつもりかもしれない。例えば、そう、調子に乗って不敬な発言をした瞬間、それを脅しにしてとんでもなく恥ずかしいことをさせるとか。何をしてきたっておかしくないんだ、油断してはいけない。




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