※この作品はR-18です。

プリマドンナ~TS転移娘がふたなりサキュバスに堕とされる話~   作:Sfon

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一日目 女の子の体になって③

 そんな感じで心の中でああだこうだ言っていたら、忙しそうにしていたニカさんの動きが急に止まり、バッとオレのほうに振り向いた。彼女の長いブロンドの髪がふわりと空中に舞い、黒いセーラー服に着地する。

 

「よし、とりあえずこれを着てくれるかしら?」

 

 満足のいく服が見つかったようだ。差し出されたのはゆったりとしたシルエットのパーカーと黒スキニー。思ったよりも女の子っぽい服が出てこなかったのは、やはり彼女なりの配慮だろうか。その割には思いっきり女物の下着を渡してきたけど、流石に男物の下着はこの部屋に用意されていなかったのだろう。

 

 ただ、オレの視線は服に殆ど向かわず、彼女自身に向かってしまう。その表情は大物を釣った漁師のような達成感が浮かんでいて、その表情があまりにも魅力的だった。

 

 きゅっと胸元が締め付けられるような感覚がして、それは心臓を鷲掴みにされたような、彼女を初めて見た時に一目惚れしたときと似た感覚だ。これが『キュンとする』ということだろうか。

 

 ただ同時に、体はそんな反応をするのに、理性は『彼女に惚れこむな』と警告を発している。ニカさんにとって、オレがどんな存在なのかは全くわからないからだろう。セリフ通り、大事にしてくれる対象なのかもしれないし、自分の利権のための道具にすぎないかもしれないし、オナホールと考えているかもしれない。だから、ニカさんを信じ切るのは怖い。

 

 でも、その見た目と雰囲気があまりにも好みなせいで、嫌いになれない。それどころか惚れ直してしまい、じっと顔を見つめてしまうほどだ。

 

 離れることはできないけれど、近づくことは怖くって、いったいどの距離にいればいいというのだろう。それが全然分からずに固まってしまい、服を差し出すニカさんをただ見ていると、ニカさんの楽しそうな顔が一転して不安な表情になってしまう。

 

「えっと、この服、嫌い? もしかしてもっと女の子っぽい可愛い服がよかったかしら。それならワンピースとか、ミニスカートとかもあるわよ?」

「――あ、いや、違います。そういうわけじゃなくて、大丈夫です」

「そう? ならいいんだけど」

 

 何となく納得いっていない様子のニカさんだけど、流石に『見惚れてました』なんて言えるわけがない。女の子にちょっと笑顔を向けられただけで好きになってしまうなんて、そんなのチョロすぎて恥ずかしい。ニカさんと会ったのはほんの二十分前とかで、そんな短時間で好きになってしまうなんてあまりにも女の子に慣れていないというか、童貞臭すぎる。

 

 恋愛って普通は学校生活なりなんなりで暫く一緒に過ごして、ゆっくり進んでいくものだろう。こんな、漫画みたいな一目惚れなんて現実にあると思えないし、あったとして気の迷いでしかない気がする。

 

 でも、ニカさんが大好きだって気持ちは確かで、嘘がつけない。嘘をつこうとすると胸がズキッと痛んでしまう。異形の存在に恋してしまうなんて、オレの頭はおかしくなってしまったんだろうか。

 

 

 

 パーカーも黒スキニーも男物の服と大差なく、あっさり着替え終わった。スキニーの腰回りや股下が体のラインにとてもフィットしていて、しかもそれなりに生地が厚いせいで股間やお尻に違和感があるけれど、スカートを穿くよりはよっぽどマシだろう。あんなものを穿かされたら、下半身は裸のままみたいなものだ。

 

 パーカーは体に対してあまりにも大きく、袖の長さは割とピッタリだけど丈が長い。腰回りをすっぽりと覆い、ショートパンツくらいなら全部隠してしまうだろう。『穿いていない』風のファッションをするならうってつけだろうけれど、それは女の子の恰好だ。胸の膨らみがその大き目なサイズ感によって隠れているから、悪いことばかりではないけれど。

 

(まぁ、これくらいなら何とか耐えられそうだ。……でもやっぱり、下半身は気になるなぁ。何も付いていないのが違和感でしょうがない)

 

 シンプルな白い靴下やローファーも受け取って履いたら、お着替え完了だ。鏡で自分の格好をチェックすると、可愛い黒髪ロングの女の子がボーイッシュなファッションで立っている。思わず、声に出てしまった。

 

「うわ……可愛い。オレじゃなかったらなぁ」

 

 その場でクルクル回ってみれば、長い髪が宙に舞う。動きやすさもありながら、小柄な女の子らしい可愛さが引き立てられていて、だぼっとしたシルエットが可愛い。ちょっとカッコつけた表情をしてポーズをとってみると、なかなか様になっているじゃないか。

 

(顔は良いし、スタイルもいいし、お肌は赤ちゃんみたいにきれいだし、見ている分にはめちゃくちゃ可愛いじゃん)

 

 見た目の良さは自己肯定感の高さにつながると聞いていたけれど、確かにそうだろう。まるでゲームのアバターにでも入ったようなものだから、自分自身の容姿が良くなった実感は無いけれど、鏡を見ているだけでもテンションが上がる。

 

 そうして年甲斐もなくはしゃいでいると、そんなオレを後ろから見ているニカさんを鏡の中に見つけてしまった。その表情は何か真剣なことを考えこんでいるようで、迂闊に声を掛けるのも(はばか)られるほど。

 

 何か彼女の機嫌を損ねるようなことをしてしまっただろうか。ニカさんから何か言ってくれるのを待つけれど、彼女はオレのことをジロジロと品定めするように見ているばかりだった。その視線はオレの顔から順に下がっていき、胸や腰といった部分でしばらく留まる。

 

(これ、もしかして、オレに見惚れている……なんて、そんなわけないか)

 

 調子のいいことを勝手に考えてしまった自分を叱ったのは良いものの、やはりニカさんの視線はオレの体をうろついている。どう考えてもオレの体が上から下まで眺められていて、気になってしょうがない。

 

「あ、あれ、ニカさん? 着替えたけど、次はどうするんです?」

 

 流石に焦れてしまって問い掛けたけれど、それでも返事がない。まさか聞こえていないわけは無いだろうし、耳に入っていないんだろう。まさか、どこか服装が変なのだろうか。いや、服はニカさんが選んだものだし、スキニーもパーカーも着方を間違うようなものじゃない。なら、何が気になっているんだ。

 

 そうか、やっぱり、オレ自身か。

 

 今まで自分の容姿に惹かれて目線を集めることなんて無かったから、なかなか信じることができなかったけれど、やはりニカさんはオレの体を魅力的に感じて、ジロジロと見ているのかもしれない。ということはつまり、ニカさんの目線の先は服ではなく、その奥にある、オレの体なのだろう。

 

 そう気づいたとき、視線で刺された部分がなんだか熱く感じるようになった。思ったよりも目線の先がどこに向いているのかは分かるもので、胸や腰、股間といった性的な部分が舐めあげられているような感覚がする。

 

 嫌というよりは恥ずかしくって、目の前のニカさんから目を逸らした。そうやって体を眺められること数分、ようやくニカさんが真剣な表情をしたまま、口を開く。

 

「やっぱり、可愛すぎるわね。流石だわ。……あ、可愛いとか言われるのって、やっぱり嫌? 何も考えてなかったけど」

「いえ、大丈夫ですよ。嫌って程では。言われ慣れてないので、違和感はすごいですけど」

 

 本当にオレの体を眺めていただけだった。なにか粗相をしたというわけじゃなくてホッとするし、可愛いって言われると悪い気はしない。それはつまり容姿を褒めてくれているということで、この体であれば素直に受け止めることができた。

 

「ならよかった。伝え忘れてたけど、私たちはお互いの趣味嗜好がマッチングされたうえでここにいるの。だからその……言ってしまえば、私が好きな見た目の女の子はミーナだし、ミーナの好きな見た目は私のはずなのよ。それに、お互いの性格もそう」

 

 思わず、胸が高鳴った。自分の体が好みだと口に出され、自分の容姿を誉められて嬉しくないわけがない。この体はまだ自分のものと言えるほど慣れていないけれど、それでも。なのに、オレの口は本心とはズレた言葉を返してしまう。

 

「趣味嗜好……つまりニカさんはロリコンってわけですか、なるほど」

「そうね。今更取り繕ってもしょうがないから言っちゃうけど、私はあなたみたいに可愛くて小柄な子がとっても好みなのよ。そういうあなたも私の元に来たってことは、私みたいな女の子が好きなんでしょう?」

「まあ、それなりには。誰が見たってニカさんの容姿は素敵だし、可愛いって思えますよ」

 

 本音なんて言えるか。ニカさんの見た目は、オレの好みの中心を射抜いている。今まであったどの女性よりも心が揺さぶられて、前の世界で出会っていたらどんな手段をとっても気に入ってもらいたいと思うくらいには魅力的だ。

 

 でも、そんなことを口に出すなんて恥ずかしくて、とてもじゃないができない。今まで人に『好きだ』と伝えたことすら無いのに、本心を伝えるなんてできなかった。それに、ここでニカさんに好意を伝えたら負けな気がする。

 

 だって、オレはこの世界に呼び出されて苦労している、いわば被害者なのに、呼び出された先のご主人様に惚れるなんてあまりにも恋愛脳が過ぎるだろう。ちょろいと思われて調子に乗られては困る。

 

 オレの言葉を聞いたニカさんは頬を緩め、オレの言葉を素直に受け取ったようだった。少なくともニカさんの趣味嗜好を受け入れたのは嘘じゃないし、ネガティブなことは言っていないとはいえ、心証を悪くされなかったのは本当に良かった。

 

「何はともあれ、気に入ってくれたみたいでよかったわ」

「配慮してくれてありがとうございます。流石にスカートとか穿かされたら、まともに動けないでしょうし」

「いいのよ。今日は初日だし、誰かに会うわけでもないから」

 

 スキニーはともかく、パーカーはゆったりとした造りになっていて、自分の体形を意識しないで済む。下着はほんのり体を締め付けているものの、ずっと付けていればそのうち慣れるだろう。

 

 それより、自分の体の輪郭が服の上から浮き彫りになっているかどうかが重要で、この服装なら胸の膨らみや腰の括れ、お尻や股間周りのシルエットが隠れている。それだけで、精神面がかなり楽になっていると感じられた。

 

 お着替えがひと段落したところで、ふと思い出した。首に付けられている黒い革製のチョーカー、これは何なのだろうか。存在には気づいていたけれど、色々と醜態を晒したり、女の子の服を着るのが恥ずかしかったりして、すっかり聞きそびれていた。

 

「ニカさん、これって何です?」

 

 鏡から目線を離し、ニカさんに向き直って質問する。そんなに難しい質問じゃないだろうと思っていたけれど、絶対聞こえているはずのニカさんから返事がない。オレと目が合っているんだから、気づいているに決まっているのに。

 

「あの、ニカさん?」

「……あ、それね。簡単に言えば厄除けよ。プリマであることの証明で、下手に手を出したら主人や公的機関からお叱りが来て、痛い目見るぞってわかりやすく示しているのよ」

 

 また思考だけがどこかへ飛んで行っていたのだろうか。もう一度話しかけて、ようやく反応が返ってきたニカさん。

 

(そんなにオレの体が気になるのか。いや、気になるだろうなぁ。オレの体、メスの体はサキュバスにとって垂涎の的らしいし)

 

 出会ってからそれなりに会話を交わしたニカさんでさえ、こんな風に目を奪われてしまうんだから、何でもないサキュバスがオレを見かけたら大変なことになるだろう。表面上は大人しくしていても、何かの拍子で自分を律することができなくなった時、手を出されてもおかしくなさそうだ。

 

 その時、首にこのチョーカーが巻かれていれば、原理は知らないけれどその手を止めてくれるんだろう。もしかしたら、魔法アイテム的な何かかもしれない。オレの精神を呼び出すことができる世界なんだから、魔法や魔術が使える世界であってもおかしくない。

 

「なるほど、じゃあこれはきちんと見えるように付けておかないとマズいわけですね」

 

 首輪は締め付けているわけでもないし、重さもそこまで感じない。オレの細い指一本分くらいの太さの柔らかい革製で、角も綺麗に処理されている。上品な印象のチョーカーと言っていいだろう。この見た目なら、首輪というよりはアクセサリーとして受け入れられそうだ。

 

「そうよ。特に最初のうちは違和感があると思うけど、我慢して付けてちょうだい。あと、一つだけ、ミーナにお願いしないといけないことがあるの」

 

 そこまで説明していた口調は割と柔らかいものだったのに、急に襟を正したものに変わる。一体何をお願いされるというのか。やはり、今までオレにこれほどまで優しかったのは、全部このための布石だったのだろうか。鬼が出るか蛇が出るかと身構えていると。

 

「この世界において、性行為は食事や睡眠と同じ土俵に立つオープンな欲求であるとともに、メスの性行為は義務の側面があるのよ」

 

 この人は何を言っているんだ、と思わず怪訝(けげん)な顔をしてしまった。いや、エロ漫画じゃないんだから冗談もほどほどにしてくれと言いたいけれど、そのセリフはぐっと堪える。ここはサキュバスがいて、他の世界から精神をコピーしてきてメスの体に突っ込むような世界で、オレの常識は何もあてにならないんだから。

 

「私たちサキュバスにとって、メスの絶頂はどんな魔術よりも優れた美容効果を持っているの。そして、サキュバスの容姿はその人の価値そのもの。つまり、メスの絶頂をより多く、より身近に浴びれるサキュバスが偉いってことなのよ。だから、プリマドンナはその地位を保つためにも、少なくとも一日一回は間近でメスの絶頂を浴びることが必須なの」

 

 唐突に、しかもサラッと知らされたけれど、やはりこの世界には魔術が存在するらしい。そしてメスの、つまりオレの絶頂がめちゃめちゃ重宝されている、と。それなんてエロゲ? なんて言ってしまいそうな話だ。エロ漫画にしたらそれなりに売れるんじゃないだろうか。

 

「つまり、オレはニカさんと今日すぐにでも、そういうことをするってことです?」

「そういうことになるわね」

 

 彼女は大真面目な表情を作りつつ、その頬はほんのり赤く染まっているし、目には期待の光が浮かんでいた。思い返せば、むしろまだその話題が出ていなかったのがおかしいくらいかもしれない。サキュバスとその(しもべ)なんだから、そういうことはして当然というか。なんなら目を覚ました直後に襲われていてもおかしくなかったと思う。

 

 もしもニカさんが普通の女の子だったら、拒む理由は微塵たりとも存在しなかった。ニカさんの顔は可愛い系ながら、どこか大人びた印象も受ける。お姉さんのような包容力があるのに、接し方はフランクで親しみやすい。そんな女の子にグイグイ近づかれて落ちない男がいるだろうか。

 

 しかし、ニカさんは翼と尻尾を持っているサキュバスで、オレの主人的な立場にいる。普通の女の子とは言えない彼女から求められたらどうかと考えてみると、意外なことにそれほど抵抗がなかった。

 

 ニカさんの態度がそこまで高圧的ではなく、オレに対して恥じらいを持っている様に見えるのが良かったのだろう。奴隷を好きに使うご主人様なら、『おい、今からお前を犯すぞ』くらい言ってきてもおかしくないだろうに、彼女はむしろオレのことをほぼ対等に見てくれているようだ。

 

 さらに、今のオレの体は可愛いメス。これほど完成された体であれば、『容姿に自信がなくて、みっともない裸を見せたくない』というネガティブな感情は微塵たりとも存在しないから、その意味では裸を見せることへの抵抗が前の体よりもずっと少なくなっていた。むしろ自分でジロジロ眺めたいくらいだ。

 

 極めつけに本音を言ってしまえば、女の子の快感が気になってしょうがない。男よりも気持ちいいといわれるそれがどんなものなのか、体験できるなら当然してみたいだろう。

 

 ただ、どうあがいてもニカさんはオレのご主人様だし、オレに好きなことを命令できるだろうし、オレの生殺与奪の権利を握っている。そんな人を目の前にして、体のすべてを晒すのに抵抗が無いと言ったら嘘になる。

 

 例えば、何かしらの方法でニカさんにちんぽが生えて、毎週のように孕まされて、毎週末出産させられる、とか。どれだけ気持ちよかったとしてもそんなのは嫌だし、どんなふうに使われるのかはオレの想像の範囲内に収まらないだろう。この世界なら何でもアリな気がする。それこそ、野外プレイとか、そういうのも合法かもしれない。そんな状況で無条件に体を許すのは怖い。

 

 とはいえ、拒む手段なんてそもそもないだろう。これはニカさんからオレにお願いする体裁をとっているけれど、実のところはこれから実施することをただ伝えているだけに違いない。

 

「まぁ、女の子の体には興味があるし、痛くしないなら好きに触ってください」

「ありがとう。苦しいことは絶対にしないわ。別に私が気持ちいい思いをしないといけないわけじゃないから、朝から晩まで犯すなんて絶対にしないし、最初はもう、これでもかっていうくらいに優しくするわよ」

 

 オレが受け入れたのを見て安心しているニカさんを見ると、なんだかんだ緊張していたのだろうと丸わかりで、やはり彼女も一人の高校生には変わりないんだと再確認できた。これほどまでにオレに対してイニシアチブを持っていても、それを振りかざすようなことはしていない。

 

 それに、喋ってみてわかったけど、彼女は結構小心者というか、ガツガツ来る感じではないようだ。もしかして、オレって結構いい子に当たった勝ち組なのではないだろうか?

 

 いやいや、こんなことで気を許していたら、これからどうするんだ。油断してはいけない。いつニカさんに襲われるか分からないんだから、気を引き締めなくては。

 

 さて、と一区切りつけて、ニカさんが部屋の隅に置いてある鞄を手に取った。彼女が通学に使っている鞄だろう。

 

「身だしなみは一通り整ったけど、まだまだ色々と揃えなくちゃね。服とか、身の回りのものとか」

 

 確かに、オレがこの世界で過ごすためには、足りないものがたくさんあるだろう。しかし、服はクローゼットにこれだけ沢山あるんだから、不要なんじゃないかと思えてくる。

 

 女の子の服は高いイメージがあるし、ここでニカさんの身銭を大量に切らせるようなことはしたくない。ただでさえオレの立場は弱いのに、金銭的にも借りを作ったらもう居場所がなくなってしまう。

 

「身の回りのものはともかく、服は買わなくても良いんじゃないですか。そこに沢山あるし」

 

 視線をクローゼットに向けると、上下をセットにしても六着くらいはあるように見える。下着の量は見えないけれど、一週間くらい過ごすには十分に見えた。しかし、ニカさんの反応はあまり良くない。というより、こちらを気にしているようだ。

 

「あるけど、残りは全部女の子の服っぽい感じよ。スカートとか、ブラウスとか、あとコスプレ衣装とか」

「それは……まあ、抵抗ありますけど、我慢すれば、はい」

 

 確かに、女の子の服を着るのは気が進まないけれど、今の自分の体が女の子なのだと言い聞かせれば我慢できるかもしれない。借りを作るくらいなら、自分が頑張るほうが良いと思って、それでもと返事をする。

 

 しかし、オレの答えを聞いてもなお、オレの顔をじっと見つめるニカさん。発言の意図を見透かそうとしているのだろうか、オレの容姿に見惚れているような、欲に染まった視線ではない。やがて一つため息をつき、困ったように呟く。

 

「お金を気にしているなら、その心配は無用よ。私のお金じゃないもの。プリマドンナになると、メスの管理をするためのお金が山ほど貰えるの。私個人の趣味には使えない、あなたに使わないといけないお金よ。それを使うんだから、ミーナが気にする必要はないわ」

 

 まるで、子供が親の財布に口を出すなと言わんばかりの口調。そんなにオレの考えが分かりやすかっただろうか。気にしていることはお見通しだし、そう言われては特に反論のしようもないし、必要もなかった。意見をコロコロ変えるのはみっともないけれど、背に腹は代えられぬ。避けられるなら、女の子っぽい服は着たくなかった。

 

「じゃあ、すみません。やっぱり服が欲しいです。こういう、ボーイッシュな感じの服が」

「分かったわ。パーカーとか、パンツとか、そういう感じの服を取り揃えているお店は見つけてあるの。早速お買い物に行きましょ」

 

 勇気を出して言って良かった、と心底安堵していたら、ニカさんの手が目の前に差し伸べられた。握手をするのかと思ったけど、彼女はそのままオレの横に立つ。意図が汲めなくて彼女の顔を見上げると、子供を見る母親のような顔をされてしまった。

 

「ほら、手を繋ぐわよ。はぐれたら困るでしょ?」

 

 隣に立ったニカさんはオレよりも背が高く、彼女の子供になってしまったみたいだった。こっちの中身は年上の男なんだから、手なんか繋がなくてもはぐれないし、そんなことは不要だ、と言ってしまいたい気持ちがある。

 

 ただ、一方で、もしもこの知らない世界ではぐれてしまったらと不安もよぎった。万が一にでもそうなってしまったら、オレはどうすることもできない。携帯で連絡を取ることも、警察に駆け込むこともできない。出先ではぐれたら、学校まで戻ってこれるかも怪しい。だからそう、これはしょうがなく、本当に遺憾ながらメリットとデメリットを比較したうえで、渋々握るしかなかった。

 

 そっとニカさんの手をとる。その手は暖かくて、柔らかくて、なぜか小さい子供のころを思い出した。自分より大きな女性の手のひら。それに包まれると、どこか安心できて、肩の荷が少し降りた気がする。

 

 今のオレの手は小さくて、ニカさんの手の方が大きい。暖かいニカさんの手の中にオレの手がすっぽりと納まっていて、彼女の体温が手に伝わってくる。他人と触れ合っているのがはっきりとわかる。それが許されていることで、自分の存在を認められているような気がして、自分の居場所がニカさんの隣にあるんだって思えた。

 

 この世界に呼び出されたのがたまたまオレだっただけで、ニカさんがオレの精神をすき好んだわけじゃない。趣味嗜好が噛み合っているとはいえ、お互い初対面には違いないのに、一気に距離感が縮まった錯覚に飲み込まれてしまいそうだ。

 

 しかしその一方で、可愛い女の子の手を握っていると考えると、それだけで緊張してしまう。男のゴツゴツと角張った手とは真逆の、細くしなやかな手。面積としては大したことないのに、肌同士が直接触れ合うのはやっぱり特別だった。ニカさんはサキュバスなんだとしても、オレにとっては女の子を相手にしているのと変わらない。

 

 きっとニカさんからすれば、はぐれないようにするためにしているだけのことだろう。そんなのオレだって分かっていて、理性は『勘違いするな。距離を守れ。簡単に心を許すな』と(たしな)めているのに、感情は『ニカさんならオレを好いてくれる』って先走ってしまい、両者のせめぎあいが思考をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。

 

 体の動きはぎこちなくなっているし、手汗もかいているだろうし、心臓が元気よく動いているせいで胸の奥がちょっと痛い。それだけ意識していれば、当然ニカさんにもオレの気持ちが伝わったようで、優しく微笑んで声を掛けてきた。 

 

「肩に力が入りすぎよ。そんなに緊張しなくても、私が隣に居れば大丈夫だから」

 

 そんなこと言われたって、落ち着けるわけがない。『隣にニカさんがいるから緊張しているんだろ!』と言ってやりたいくらいだ。至近距離で笑顔を見せられては、かえって心が震えてしまう。

 

 ニカさんは生粋の女たらしなんじゃないだろうか。……いや、オレは男だから、男たらしか。ともかく、今更手を振りほどくことなんてできなくて、この状況に早く慣れるしかなかった。




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