プリマドンナ~TS転移娘がふたなりサキュバスに堕とされる話~ 作:Sfon
ニカさんに連れられて部屋から出てみれば、どことなく見覚えのある長い廊下。窓の外には住宅街が広がっており、それは現代日本のものと何も変わらない。外の世界はどうなっているんだろうと緊張しながら、気合を入れて部屋から出たのが馬鹿らしく思えるほどだ。
サキュバスがいるんだからもっとファンタジーっぽいのかと思いきや、案外元の世界の常識に収まった風景だった。ニカさんと手を繋いで廊下を進むと、どこからか生徒の声はするものの、あたりには誰も見えない。この辺りは校舎の端にあるのだろうか。
「うーん、現代日本だぁ……」
「何を想像していたのよ」
「サキュバスがいるんだし、もっとこう、石造りの建物とか、石畳の道とか、そんな世界かなって思ってましたけど。オレにとってサキュバスは想像上の種族で、出てくるのはRPGゲームとかファンタジー小説とかですし」
「なるほどね。そっちのほうが良かった?」
「いやいや、まさか。こっちのほうが絶対良かったですよ。オレが元居た世界とほとんど変わらないんで、常識がずれてたり、生活しにくかったりが無さそうですし」
「過ごしやすさも考えたうえで、ミーナのいた世界から呼び寄せてるのよ。できるだけ常識のズレがない方がお互いやりやすいでしょう?」
「あぁ、確かにそうですね」
ニカという名前も、オレの新しい名前であるミーナも、どちらもオレの記憶にある『日本の名前』とはかなり離れていたから、てっきりここはヨーロッパやそれに近い世界なのかと思っていた。しかし言われてみれば、話している言語も、テレビに映っていた動画のテロップも、よく知った日本語だったのだからそこで気づくべきだったかもしれない。あまりにも自然すぎて疑問すら抱かなかった。
もしもこの世界の生活水準が軒並み中世レベルとかだったら、毎日生活するだけでストレスが溜まっていただろう。魔術でそのあたりが補えていたとしても、娯楽のレベルは大きく差が開くに違いない。最も、オレが娯楽に触れられるかなんてかなり怪しいが。現状はニカさんの奴隷と何も変わらないし。
「違うところはサキュバスがいることくらいなんですかね。ニカさんって、オレの元の世界のこととか知ってるんですか?」
「プリマドンナになった時に色々教えてもらうけど、性的欲求に関しては結構な差があるみたいね。そっちの世界って、三大欲求の中でも性的欲求は大っぴらにしない風潮があるんでしょう?」
「まあ、少なくともパートナーじゃない異性間では話題にしないですね。付き合っていたりしたら別でしょうけど」
「こっちは食欲や睡眠欲と同列だから、ミーナからしたらかなりライトな扱いだと思うわ。これから街に行くけれど、心の準備だけはしておいてね」
「なんか、改めてそう言われると怖いんですけど」
それってもしかして、街中のあちこちでえっちなことをしている人がいるってことだろうか。街角にそういうお店が並んでいて、手軽に性欲を満たすことができる、みたいな。服屋さんと並んでえっちな衣装を売っている店があったり、スーパーの売り場の一角にえっちなおもちゃの売り場があったりするんだろうか。
想像したらちょっと興奮してしまったけど、理性的に考えたら、価値観のずれで頭がおかしくなってしまうかもしれない。もしそれほどまでに性的行為がライトなのであれば、食品街で店員さんが試食を進めてくるくらいのノリで、道行く人が気まぐれでオレにちょっかいをかけてくる可能性もあるだろう。首輪があれば大丈夫って聞いているけれど、それもどれくらい強制力があるか不安だ。
いくら首輪がオレへの手出しを抑制してくれるとは言え、ニカさんをはじめとしたこの世界の人々が『そのくらいなんでもないでしょ』と思っていたら素通りしてしまうだろうし。例えば、体に触れるくらいならどこを触ったところで変わらない、とか。
考えだしたらなんだか怖くなってしまって、表情にも出ているだろうし、ニカさんと繋いでいる手もギュッと強く握ってしまった。それですぐに気づいたのだろう。また安心させようとして、優しい声を掛けてくれる。
「その首輪をつけている限り、ミーナに手出しできる人はいないから、襲われることはないわよ。じろじろ見られたり、性的なことを言われたりするかもしれないけど」
「前の世界だったらセクハラだなぁ……」
自分がそんな立場になったと考えると、どうにもむず痒い。そんな視線を受けたことなんて無いし、むしろ自分が向けないように気を付けていたくらいなのに。この世界で暮らしていれば、いつか慣れるんだろうか。
学校の玄関から外へ出ると、そこにあったのはアスファルトで舗装された道路や見慣れた住宅街。道路には車が走っており、どこを見ても見慣れた日本の風景だ。風景だけ見たら、ここが前居た世界とは違うなんて気づけないだろう。
ただ一つ違うとすれば、道行く人はみな翼と尻尾を持っていた。道行く人がオレに気づいた瞬間、ほぼ例外なく立ち止まって、オレの全身を舐めるように見渡していく。安心してと言われたものの、道行く人々がじろじろと自分を眺めてくるのはどうしても気になってしょうがない。
鏡越しに見ている分には自分が可愛い女の子の姿になっていると確認し続けられるけれど、鏡から離れてしまうと自意識があっという間に男の頃に戻ってしまう。自分より背の高い女の人と手を繋いでいるような気分になってしまい、その中で視線を集めたとあっては、何か自分が変なことをしているんじゃないかと不安になってしまった。
「大丈夫、ミーナが可愛くて、思わず視線が向かってしまっているだけよ。自慢できる容姿なんだから、胸を張っていればいいわ」
「そうは言っても、怖いものは怖いんですよ。みんなこっち見てくるし」
ちらりと横目でニカさんの顔を
それを加速させる光景は、思ったよりも早く出会うこととなった。駅に向かっている途中、あたりを見渡すとコンビニが目に入り、何となく看板やのぼりを眺めた。するとその中に、目を疑うようなものが一つ。
(いや、いくら性がオープンだって言ったって、ここまでなのか……!)
コンビニの入り口の横に張られている新製品紹介のポスター。その一枚は、新しく発売されるディルドの広告だった。コンビニの独自ブランドが開発したもので、ちんぽの幹に当たる部分が膣内の圧力を感知し、Gスポットをピンポイントで刺激するらしい。
イメージ画像にお姉さんサキュバスの裸体が使われていたり、文言があまりにも明け透けだったりと、非現実的な光景に頭がくらくらしそうだ。ニカさんを心配させたくないし、弱みを見せたくないから何とか堪えるけど、もう一度不意打ちを食らったら流石に動揺を見せてしまうかもしれない。
そうして、どこにアダルトグッズがあってもおかしくないと覚悟しながら町中を進めば、次々に性的なものが見つかっていくから困ったものだ。整骨院と同じノリで店を構えている(大人の)マッサージ店に、街角のパン屋さんのようなノリのアダルトグッズ店、個人経営の服屋さんのようなコスプレショップ。この世界はあまりにも性に貪欲すぎる。そして、そんなお店に思わず視線が向かってしまえば、当然ニカさんにもバレた。
「大丈夫? 結構おもちゃ屋さんとかあったけど、気分は平気?」
「まぁ、ちょっとだけ混乱してますけど、とりあえずは」
「いつ休んでもいいから、気軽に言ってね」
気遣いはありがたいけれど、あれを『おもちゃ屋さん』というには無理があるのではないだろうか。子供に『おもちゃ屋さんに行きたい』って言われたらどうするのか……いや、もしかしてこの世界では小さなころから性教育(実技)をするのか? ありえない話じゃないから困る。
可愛いサキュバスの子供たちが、大人たちにそういうことを習っているのを想像してしまい、首筋がほんのりと熱くなっていくのを感じた。確かに性的快感は身一つで得られる娯楽として凄いパフォーマンスを持っているけど、それを小さい子が当たり前のように求めて楽しむ世界だとしたら、なんと淫らなのだろう。
やがて駅に着くと、一気にサキュバス達が多くなり、オレとの距離も近づいて、彼女達の体の大きさに圧倒された。自分の目線にはみんなの胸元しかなくて、小柄な人でさえ自分より十センチは背が高い。多くは自分より二十センチは背が高くて、なにもされていないのに威圧感がある。さらにその背中には翼が、腰からは尻尾が生えているんだから、委縮してしまってもしょうがないだろう。
切符を買ってもらい、改札を抜けてホームへ。体格が大きく変わったせいか、思ったよりも足を高く上げないといけなくて、階段を上るのも一苦労だ。おぼつかない足つきで進むけれど、『今転んでしまったら、周りのサキュバスに襲われるんじゃないか』と不安でしょうがない。
ようやくホームに
「そんなに怖いなら、今度からタクシーで移動する? 時間はかかるけど、私はそれでもいいわよ。お金なら国から沢山貰えるし」
「い、いや、大丈夫。ほら、オレは元男だし、この位どうってことないですよ」
胸を張って何とか元気よく見せようとするけど、自分でも分かるくらいの空元気だ。そんなオレをどう対処しようかと考えているのだろう、ニカさんは少し目線をあげて、それから口を開いた。
「うーん、やっぱり帰りはタクシーにするわ。そもそも荷物が多くなっちゃうだろうし」
「……荷物が多いなら、そうですね、しょうがないと思います」
プライドが邪魔をして甘えられなかったけど、それもニカさんには見透かされていたのだろう。安易に甘えるのは男らしくないというか、そんなに簡単に弱いところを見せるのはカッコ良くないって思って、素直にお願いすることができなかった。だから、理由を付けてくれたニカさんには感謝しないといけない。
ホームに電車が到着して、周りの乗客に手を出されないかと辺りをきょろきょろ見渡しながら、恐々電車に乗り込んだ。電車に揺られているだけでも、天井や吊り革の高さが記憶よりずっと遠くにあって、全くの異世界に来た気分だ。いや、異世界に違いは無いんだけど。
オレの身長だと吊り革には手が届かなくって、手すりのある場所に行くかニカさんにしがみ付くしかない。ニカさんもそれが分かっているんだろう、ドアのすぐ脇に陣取って、オレを
ニカさんに守られながらあたりを見渡すと、周りのサキュバスの視線がオレに突き刺さっていた。隠すつもりもないようで、じろじろと上から下まで舐めるように見られている。妙にねっとりとしているその視線は、男子高校生がグラビアアイドルを見るものに似ていた。
そして視線もさることながら、その視線を送ってくる主の誰もがオレより大きな体をしているのがどうしても恐ろしく感じてしまう。元男としてはとても情けないけれど、もしも近くに立っている人が急にオレを殴ったら、きっと何も抵抗できないのだからしょうがないだろう。ニカさんが助けてくれるのを信じるしかない。ニカさんが言うにはチョーカーをつけているおかげで滅多なことはされないらしいけれど、それでも怖いものは怖かった。
「に、ニカさん……」
「ミーナが可愛いから注目を集めているだけよ。大丈夫、どこもおかしいところなんてないわ」
周りから突き刺さる視線はあまりに圧が強く、正直なところ、ニカさんの背中に隠れるようにしていても恐怖心を拭い切れない。自分より頭ひとつ背の高いだけのニカさんですら威圧感があるというのに、さらに頭ひとつ背の高い人もちらほら見かける。前の世界の女性はこんな環境でよく普通に暮らせていたものだと、もはや感心しているほどだ。
そうしてニカさんを信じながら電車に揺られていると、どこからかこちらに近づいてくるサキュバスが一人。ニカさんの背中に隠れるようにして様子を窺うと、その人はオレたちのすぐ近くで立ち止まった。
「ねぇ、お姉さん、プリマドンナでしょ。メスの写真、撮ってもいい?」
ニカさんよりもさらに頭一つは背の高い、どちらかといえばイケメンなサキュバスだ。オレの感覚で言えば二十代後半といったところで、彼女とか居そうなくらいに容姿が整っている。そんなサキュバスが、オレたちをニヤニヤした目つきで眺めていた。
(さあ、お願いニカさん。オレへの無害アピールにはもってこいの場面だぞ……!)
オレにはどうすることもできないから、この対応はニカさん頼み。まさかこの世界に来て初日にトラブルに巻き込まれるなんて思わなかったけど、この分だとこれからずっとこういうのは続くんだろう。繋いでいた手がギュッと握られた。ニカさんの顔を見上げれば、覚悟を決めてきりっとした表情をしている。なんだ、急にそんなにかっこいい顔をされたら、惚れ直しちゃうじゃないか。
「駄目です。見るのは良いですけど、撮影はお断りですよ」
ハッキリと断ってくれたけれど、見るのは許すのか。ある程度は譲歩しないと場を収めづらいんだろうからしょうがないとは思うけど、知らない人にジロジロ見られるのはやっぱり嫌いだ。でも、写真を撮られたらもっと嫌だし、このくらいは我慢しないと。
そうして体を硬くしながら耐えていると、オレ達に声を掛けてきたサキュバスがさりげない仕草でスマホを取り出し、こちらに向けようとしていた。それに気づいたニカさんはそっとカメラに手をかざし、すぐにオレから守ってくれる。口だけでなく体でも止めてくれるなんて、なかなか勇気があるじゃないか。不満そうな顔を向けられているというのに、おびえる様子も無い。
「えぇ、いいじゃん。別に減るもんでもないし、どうせ町中で撮られてるでしょ?」
「少なくとも私の目の届く範囲では撮らせません。あんまり酷いとそれなりの対応をしますよ」
そこを何とか、いいや許さない、そんな声が聞こえてきそうなほどの睨み合いの末、ちょっかいをかけてきたサキュバスは渋々スマホを鞄にしまった。ニカさんの完全勝利と言っても良いだろう。
「ダメかぁ……。めっちゃ可愛い子だから、今日のオカズにしたかったんだけど」
「目に焼き付けるくらいなら許しますから、その辺にしておいてください」
近寄ってきたサキュバスは意外と聞き分けがよく、とはいえ許された範囲では存分に楽しむだけの
「ミーナ、次の駅で降りるから、それまで頑張って」
申し訳なさそうにオレを見下ろすニカさん。オレに出来ることと言えば、彼女の手を固く握って、自分には保護者がいるんだ、絶対に守ってくれるから大丈夫だ、と自分自身に言い聞かせることくらいだった。
恐ろしい電車タイムを乗り切ってファッション街の最寄り駅に到着し、駅のホームに降り立った瞬間にどっと疲れが出た。流石にこのままお店に向かう気にもなれず、ニカさんに声を掛ける。
「ふぅ……。ニカさん、ちょっと休憩させてくれない?」
「いいわよ。どこかお店にでも入る?」
「いや、ホームの端っこでゆっくりするくらいで大丈夫」
結局、視姦してきたサキュバスは、オレたちが電車を降りるまでずっとオレたちのことを見ていた。瞬きが少なかったり、瞳孔が開いている気がしたりして、とっても怖い視線だった。あんな目で見られたことなんて初めてで、自分が思っていた以上にストレスだったんだろう。
ニカさんに連れられてホームの椅子に座ると、腰の力が抜けてしまった。地面へ転げ落ちるのが怖くって、咄嗟にニカさんのほうに体を向けると、彼女の体にもたれかかるようにして倒れ込む。
(あ、やば……)
ニカさんに抱き留められ、肩に彼女の胸が当たる。体のバランスはすっかり崩れていて、そのまま体を預けるしかなかった。頭も彼女の肩に預けてしまって、傍から見たらオレがニカさんに甘えているように受け取られるだろう。
「ちょっ……大丈夫? どこか――ホテルとか、個室のあるお店とかでゆっくり休んでもいいのよ?」
「大丈夫、ちょっと、びっくりしちゃっただけだからさ」
本気で心配しているのが伝わってきて、変に茶化すこともできず、せめてニカさんを心配させまいと強気のセリフを吐いた。けれどそれはニカさんの心配を煽っただけで、顔のしわがもっと深くなる。
「そんな雰囲気じゃないわよ。……ごめんなさい、電車、怖かったでしょう。これからはタクシーを使うようにするわ」
「……ありがとう」
ニカさん相手に下手な誤魔化しは効かないと勉強できた、いい機会にはなったかもしれない。心配された時に本音を話すことができる相手なんて、今まで会ったことが無かったけれど、下手な強がりはニカさんを心配させるだけって考えると、初めてそういう相手が見つかったかもしれなかった。
それにしても、最初は移動にタクシーを使うなんて贅沢すぎるって思っていたけど、さっきの一件でようやく理解できた。この世界においてオレはあまりにも注目を集める存在で、しかもほかのメスはもっと雑な扱いをプリマドンナから受けているんだろう。
「私はしないけど、プリマドンナの中にはメスを使って金儲けをしようとする奴らもいるの。有料で写真を撮らせたり、お金を取って体を触らせたり。そういう奴がいるから、私もそうだと思われちゃったのよ。私は絶対、そんなことしないから」
ニカさんの顔を見上げれば、口をギュッと結んで何かを我慢しているような表情。きっと、今まで何度か見たことがあったんだろう。少なくとも良い印象を持っていないことは確かだ。
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