プリマドンナ~TS転移娘がふたなりサキュバスに堕とされる話~ 作:Sfon
試着室から出ると、ニカさんが出迎えてくれた。全部買い物が終わってからもなんだかんだで結構待たせてしまったし、ショーツを穿き替えるところからは恥ずかしくて試着室に入ってくるのも遠慮してもらっていたから、なかなか暇だっただろう。それにも関わらず、にこやかな表情を浮かべてくれていて一安心だ。
「結構可愛いデザインのブラも買ってくれてありがとうね。とっても似合ってたわよ」
「別にオレが着たいって訳じゃないですけど、ニカさんがずいぶんと推してきたので」
「その割には、途中からずいぶんノリノリで試着していたような……まぁいいわ」
たくさん試着してわかった。女性の下着は思ったよりもずっと種類が多く、せいぜいトランクスとボクサーの二派閥くらいしかない男のものと比べ物にならなかった。もし自分で全部選べと言われたら無理だっただろう。ニカさんにある程度選んでもらえて助かった。
それに、このお店に来れたのも良かった。もちろん女の子の下着を見るのは今でも恥ずかしいし、それを自分が身に着けているなんてもっと恥ずかしい。でも、鏡の中の自分がどんどん可愛くなっていくのは、心が躍った。
「私はちょっとお店の中を見て回りたいから、ミーナは待っててもらえる? 一緒に来ても全然いいけど、試着で疲れたと思うし。お店の中なら大丈夫でしょ」
「はい、ここで待ってます」
下着は買い終えたけれど、ニカさんはまだ見たいものがあるようで、店内を物色し始めた。オレは別に興味ないから……というか、人前で女物の下着をまじまじと見るのに抵抗があるから、店の片隅で立って待つことに。手には買い込んだ下着の紙袋。これが結構重い。
やはり女は買い物となるとあれこれ目移りして時間がかかるんだな、サキュバスでも同じか、いやオレも試着でかなり時間を使ったしな、なんて思いながらのんびり待っていると、新しいお客さんが入ってきた。反射的に目線をそちらに向けると、やってきたのはショートカット王子様系の長身なサキュバスと、ふわふわロングヘアのお姫様のような女の子のペア。
首にピンクのチョーカーが巻かれていたし、サキュバスの翼も尻尾も無かったから、あの子もメスなんだなってすぐに分かった。彼女は王子様の腕を抱いて顔を赤らめていて、周りをきょろきょろ見渡している。王子様と歩くペースが合っていないようで、お姫様は王子様の腕に引かれながら、ちょこちょこと歩みを進めていた。
その二人の姿にどこか違和感を覚えて眺めていると、不意に王子様がお姫様の耳元で何か囁いた。するとお姫様は途端に首を振って嫌がり、その直後に肩をすくめて体を震わせる。
「――んぅっ♡」
そして次の瞬間、お姫様の口から漏れた、鼻に抜けるような甘い声。肩を震わせ、足を震わせ、王子様の腕にしがみついている。思わずお姫様が着ているミニスカートの裾へ視線を向けると、一筋の光が太ももからふくらはぎへと流れていった。
まるでエロ漫画のような展開にあっけに取られて、お姫様から目が離せない。もしかしてえっちなおもちゃを体に着けられているのか、それとも魔法的な何かで体を弄られているのか。耳をすませば、微かにモーター音のようなものが聞こえる気がした。
しかも、ちょっと動かしてスリルを楽しむなんてものじゃない。もう一分以上はモーター音が続いている。それはオレの耳から頭を揺さぶり、自分の体を弄られている錯覚すら覚えた。呼吸が浅くなり、吐息も熱くなってくる。
慣れないブラの感覚によって胸の膨らみを触らずとも感じてしまい、音には首筋を撫でられているようだ。背筋にゾクっとした痺れが走り、肩がピクリと震えてしまう。それは恐怖からくるものではなく、認めたくないけれど、被虐的な快感に違いなかった。
「ふーっ♡ ん、ぁ……っ♡」
「どうかしたのかい?」
「どう、って、ん……あぅっ♡」
お姫様は腰をカクカク震わせ、段々と喘ぎ声が抑えられなくなっていっている。あのお姫様がえっちないたずらをされていることは、もう確定だろう。おもちゃを体につけて外出させられるなんて、しかもそれを一目のあるところで堂々と行うなんて、どうかしている。
(こんな、エロ漫画じゃないんだから……っ♡)
ここまでくれば流石に店員さんが気づいているだろうに、通りかかっても注意される様子は全くなかった。むしろ、遠巻きに彼女たちを眺めている。この世界はあまりにもえっちなことに寛容なのだと突き付けられた気分だ。
お姫様が快感に翻弄されている光景に目を奪われ、じっと彼女を見ていたら、王子様が突然、お姫様のスカートに手を掛けた。お尻側の裾だから、お姫様にはまだ気づかれていない様子。何をするのか思わず目が釘付けになってしまう。
その視線に気が付いたのか、王子様は振り返ってオレと目を合わせた。まずい、まじまじと見ているのがバレた。王子様もプリマドンナのはず、もしかしたら、プリマドンナなら他のプリマドンナのメスも好きにできるのか、そしたら、オレに矛先が向いてしまったのだろうか、と嫌な考えが頭をよぎる。
でも、王子様は特に何も言わないまま、むしろオレをジッと見つめている。それはまるで、『私たちをしっかり見ていろ』と言っているようだった。その視点だけで背中に快感が走り、それは腰を伝って股間まで届いた。じわっと、あそこが濡れてきた気がする。
(やば、オレまでその気にさせられてる……♡ 表情に出ちゃってないよね?)
王子様の手が動いた。お姫様のお尻を覆っていたスカートが少しずつ捲られ、白い太ももが露になっていく。やがてパンツが見え……ない。穿いていない。代わりに見えたのは、柔らかく丸みを帯びたお尻と、股間から突き出しているピンク色の無機物。ローターどころではない。バイブがきれいな肌の股間の割れ目を突き破り、奥深くまで刺さっていた。愛液が股間からバイブを伝い、ぽたぽたと滴り落ちているのが見える。
(あ、あんなに凶悪なものを突っ込んで、ここまで歩いてきたのかっ! へ、変態……変態すぎるだろ……っ♡)
そして王子様の口が吊り上がったその瞬間、モーター音が一気に大きくなった。それは店内中に響き渡っているんじゃないかと思うほどだった。そして、そのモーター音に覆いかぶさるように、お姫様から嬌声がこぼれる。
「あ゙っ♡ あ、あ゙ぁ゙〰〰〰〰〰っ♡」
それはもう人間というより、動物の鳴き声だった。喉の奥から絞り出されたようなその声とともに、股間からプシュっ♡と水しぶきが上がり、店の床を濡らす。腰はガクガクと揺れ、立っているのだけでも精いっぱいのようだった。頭を振り回して快感に狂い、長い髪がバサバサと舞う。
一体どんな表情をしているのだろうと想像が掻き立てられてしまうほど、その声と腰の動きはいやらしかった。快感を受け止めるようにお尻がクイクイ揺れて、肩がビクビクと震えていた。
(やば……っ、めっちゃ気持ちよさそうじゃん……っ)
あれが自分だったら。ご主人様に無理やり気持ちよくさせられて、観衆の前で絶頂させられたら。そんなことを想像してしまい、思わず生唾を飲んでしまった。違う、オレはそんな欲望を持っているはずがない。オレは男で、女の子を攻め立てて喘がせる立場のはずだ。決して、ご主人様にイジメられたいとか、恥ずかしい思いをしたいとか、そんなマゾヒズムは持ち合わせていないはずだ。
(オレは男……こんな見た目になったけど、中身は男で、今こんな格好をしているのは鏡の中の自分を見て楽しむため。大丈夫、オレの精神は男。男なんだ)
やがて、モーター音の主が徐々にお姫様の中から出てきて、床に転がる。それは十センチ程度の長さの、細めのバイブだった。クリを刺激するために二股になっていて、全体が液体でべっとりと濡れている。彼女が出した愛液だろう。お姫様はふらつきながらもなんとか床から拾い上げ、王子様からウエットティッシュを貰って汚れを拭うと、自分でおまんこにずっぷりと差し込んだ。
「ふぅ゙っ……♡」
ご主人様にスカートを捲られているせいで、バイブがおまんこの中に飲み込まれていくのがはっきりと見える。少し前かがみになっているから、割れ目の中のピンク色の粘膜さえも見えてしまった。男だったら確実に勃起していただろう。
「よしよし、良い子だね」
きっと、泣いちゃうくらい気持ちいいんだろう。肩を震わせ、腰をカクつかせて、快感に震えている。おまんこの奥に溜まっていたのだろうか、割れ目からはドロッとした白い粘液が垂れ、バイブを伝って床に滴り落ちる。王子さまは従順なお姫様の態度に満足した様子で、スカートの裾から手を放し、お姫様の腰に回した。
お姫様はバイブが抜けないように、スカートの中に手を突っ込んで股間を抑えながら、店内を進んでいく。その道にはぽたぽたと透明な液体が伝っていて、それが何なのかは考えるまでもなかった。
露出プレイをしているご主人様とメスを店の奥に見送って数分、ようやくニカさんが返ってきた。手には小さな紙袋を持っており、何か買ってきたようだけど、ちょっと話を振ったらサラリと逸らされた。まあ、人に見せたくない買い物だってあるだろう。例えば……自分の好み全開の下着とか、そんな感じだろうか。女の子の買い物はよくわからないけど、下手に深追いして痛い目を見たくはない。
それに、ニカさんが買い物に時間をかけてくれたおかげで、熱くなった顔を冷ますことができた。ニカさんが返ってくる直前まで、さっきの光景が頭の中でずっとぐるぐる回り続けていて、本当に大変だったんだから。人前ではしたなく絶頂しているメスと、そのご主人様。一年に全国で七人しかプリマドンナは生まれないんだから、あのメスはたぶん今年この世界に来た子じゃないだろう。一体いつからあんな恥ずかしいことをされ続けているんだろうか。
あのメスがこの世界に来てすぐにおもちゃをおまんこに突っ込まれて、そのまま外に連れ出されていたとしたら。下着を着けることも許されず、お店の中でおもちゃを動かされて、おまんこからお汁をいっぱい垂れ流して絶頂させられたのだとしたら。そう考えるだけで自分の股間がじゅんと湿ってくる。これからもあの子はご主人様に沢山遊ばれて、人目が多くても構わずに弄られて、むしろ観衆をスパイスにしたプレイをされるんだろう。それはとても……とても、なんだろう。可哀そう? それとも羨ましい?
ランジェリーショップを出ると、ちょうどおやつ時になっていた。あたりには片手に甘い飲み物やクレープなんかを持ってぶらついている女子高校生風のサキュバス集団もいるし、路上に席を設けているカフェで楽し気に話しているお姉さんサキュバスたちもいる。こうしてみると、随分平和な世界だ。それこそ、オレが居た世界と何も変わらない。
ニカさんの両手はオレの下着の紙袋とニカさんの買ったものの紙袋で塞がっていて、手を繋いでもらっていない。流石にニカさんと全く繋がっていないのは不安だから、せめてと思って袖を掴んだ。これで心がそれなりに落ち着くくらいには、あたりの様子が元の世界と変わらない。
「なんというか、みんなに翼と尻尾が生えている以外は普通ですね」
「……本当にそう思ってる? 下着買ったお店で嫌なもの見せちゃったと思うけど。ごめんね」
場を繋ぐための雑談だったつもりなのに、ちょっとシリアスな表情を浮かべて申し訳なさそうにするのはやめてほしい。確かにえっちなことが店内で急に始まったのには驚いたけれど、嫌悪感は意外なことに無かった。どちらの容姿もモデルかアイドルかと思うほどに良くって、むしろあんなのを見ていいんだろうかって思うくらいだったから。
「あー、あれ、ニカさんも見てたんですね」
「見ていたっていうか、匂いと声で。サキュバスはそういう匂いに敏感なのよ」
それはつまり、オレがオナニーしたのも、もうバレているってことだろうか。いや、流石にそこまでではないだろう。もしそうだったら、もうすこしギクシャクした空気になっている気がする。店内の一件は、床に愛液が垂れるほど激しかったからなぁ。
「なるほど、そうなんですね。オレとしては眼福でしたよ。ほら、中身は男ですし」
「ならよかったわ。今まであまり目についていなかったかもしれないけど、街中だと見かける機会があるかもしれないから」
そう言われたら気になってしまうのが人間の性。周りをきょろきょろ見渡すと、それらしい人がちらほら見つかった。それはメスではなく、どちらもサキュバスの二人組。サキュバスは性別が一種類しかないから、自然と百合カップルっぽい見た目になって、ちょっと琴線に触れた。可愛い女の子同士がエッチなことをしているのはとても画になる。
あそこのボーイッシュなサキュバスなんて、路地に入ったところで黒髪ロングおしとやか系サキュバスにスカートの中へ手を突っ込まれている。そのまま手を上下に動かして、激しく体を震わせて、なにかを漏らしちゃっていた。
あそこのがっつりロリなサキュバスはチョーカーにリードをつけられていて、お姉さん系サキュバスにリードを握られている。急に道の端に寄ってお姉さんの前にしゃがみ込み、ミニスカートを自分でたくし上げた。こっちからはロリサキュバスの背中しか見えないけど、一体何をしているんだろう。
街中で盛っているサキュバスたちに比べれば、ニカさんは不能なのかと疑うレベルでオレを丁重に扱ってくれているのが分かった。むしろ、この世界においては異常と思われてもおかしくないんじゃないだろうか。ありとあらゆる美少女や美女たちに囲まれているのに一切手を出さない男、みたいな。
人前で喘いでいるサキュバスたちは、この世界のストリートパフォーマンスとして扱われているんだろうか。手を出すつもりはないと主張するためか数メートルの距離を開けて、彼女たちの周りに人だかりができていく。周りのサキュバスたちはスマホを取り出し、彼女たちのえっちな姿を撮影し始めた。
会話を盗み聞きすれば友達に動画を送っただの、SNSに投稿しただの、まるで芸能人にあったかのような反応をしている。そこにはえっちが恥ずかしいことだとか、心の通じ合っている仲同士でひっそりとするべきことだとか、そういうオレにとっての当たり前が微塵たりとも介入していなかった。
まるでエロ漫画のような光景で、もし想像通りだとしたら、そろそろ本番に移るところだろう。男役はいないけれど、ほら、人ごみの奥から一際大きな喘ぎ声が上がり始めた。
「ちょっと早めにこの辺りから抜けるわよ。ちょっかいをかけられても困るわ」
オレたちはあくまで通りかかっただけ、ニカさんも野次馬に混ざる気は全くないようで、ちょっと視線を送った以外に興味ありそうな素振りは見せなかった。次の目的地に向かって歩みを進めていけば、やがて嬌声も消えていった。
しかし、声が消えたからといって、まさに今目撃した痴態が頭からさっぱり消え去るわけではない。むしろ考える余裕が戻ってきて、アレは他人事じゃないんだと思い出し、緩やかに鼓動が早まっていく。街中のいたるところでえっちなことが行われていて、知らない人に自分が襲われてしまうんじゃないかなんて妄想が頭をよぎって落ち着かない。横にはニカさんが居てくれているけれど、ただ居てくれるだけじゃ足りなかった。
きっと彼女に抱き着いて、ぎゅっと抱きしめてもらったら安心するんだろう。でも街中でそんなことは恥ずかしくてしたくないし、自分から言い出せるわけがない。それに、これだけ元男だからなんだと言っているのに、弱みを見せたくない。
ニカさんは両手に紙袋を抱えている。オレから遠い方にはオレの下着の大袋、オレに近い方にはニカさんが個人的に買った小袋。オレに負担をかけまいと、買った荷物を全部持ってくれている。それは嬉しいけれど、それよりも片方をオレに持たせてもらって、その空いた手を握らせてもらったら随分と安心できることだろう。小さな袋くらいなら今の小柄な体でも難なく持てそうだ。
でもそんなの、やっぱり口に出せるわけもなく、袋を受け取ろうと伸ばした手は宙に浮いた後、行き場を失ってすとんと落ちた。どうにも落ち着かなくて、パーカーの紐を指で弄ったり、髪を手櫛で梳いてみたりする。そんな様子を目ざとく見つけたのだろう、ニカさんもオレの気持ちが落ち着かないことに気づいたようで、持っている紙袋を片手に纏(まと)めて、空いた片手を差し伸べてくれた。思わず彼女の顔を見上げると、彼女は前を向いたまま、ほんのりと顔を赤く染めている。
「手、放しててごめんなさい。繋いでいいかしら」
「まぁ、迷子になっても困るし」
口ではしょうがなくといったセリフを吐いているけれど、本音を言えばもっと早く手を繋ぎたかった。ぎゅっと握ってくれたニカさんの手はあったかくて、大きくて、ただ手を繋いでいるだけなのに体が溶けてしまいそう。
下着の次に向かったのは普段着の調達。この世界は人口の殆どをサキュバスが占めており、人間はごくわずか。その人間も殆どは保護区に収容されており、サキュバスが暮らしているエリアにはプリマドンナに充てられるメスくらいしかいない。
そんな状況では男物の服があるわけもなく、かろうじて男装好き向けのお店があるだけだった。しかもそういうお店はたいてい大きいサイズしか無くて、オレが着れるようなものは無いんだとか。
「別にこんな感じの服だったら全然大丈夫ですよ。デニムとかTシャツとか、そういうのだと、なお嬉しいですけど」
「じゃあ、予定通りボーイッシュな服を置いてるお店を回ってみましょうか」
そうしてニカさんに連れられ、数軒回って上下七着ほどをそろえた。パーカーやシャツ、デニムパンツやショートパンツなど、あまり女の子っぽさが前面に出ていないものを中心に見繕ってもらい、気に入ったものを選んだはずだった。しかし……。
「ミーナ、他に気になる服でもあったの?」
「あー、いや、大丈夫です」
オレの左手とニカさんの右手にはすでに大きな紙袋が下がっている。まとめ買いした下着はオレ、ついさっき買った普段着はニカさんが持っているけど、なかなか大量に買い込んでいるのが傍から見てもわかるだろう。
これだけ買えば少なくとも今シーズンは問題ないだろうに、どこか心残りな部分がある。そしてその心当たりは簡単に見つかった。ニカさんに連れて行ってもらったボーイッシュなファッションを多く扱っているお店、その隣にあったフェミニンなファッションのお店を、ただ眺めるだけで通り過ぎたからだろう。
女の子の服は本当に種類が多様で、元男のオレですら目移りしてしまう。自分が着る前提じゃなければ、全部の店を見て回りたくなるほどのバリエーションで、華やかなデザインやシンプルなもの、カラフルなもの、モノトーンのもの、見れば見るほど新しいデザインが目に入ってくる。
男の頃、ファッションへの興味があまり無かったのは、デザインが大して代わり映えしなかったからかもしれない。もちろん攻めたデザインのものはいくらでもあったと思うけれど、代表的なシルエットは数種類、その中で色が違ったり、柄が違ったりくらいだった気がする。今目の前にしている服たちの半分にも満たないだろう。
そして、下着のお店でようやく理解できた自分の可愛さと、鏡の中の自分を着飾る楽しさ。それを知ってしまったのが良くなかった。ボーイッシュな服をいくら試しても、『もっと可愛い服を着せてみたい』って欲求は収まらなくて、むしろ高ぶるばかりだった。そんな気持ちを見透かされたのだろうか。
「……私としてはこういう服も似合うと思うんだけど、ちょっと着てみる?」
ニカさんが立ち止まって視線を向けた先には、ガーリーファッションを扱うお店のショーウィンドウ。その中には白のシフォン生地にお花の柄が散りばめられた、ワンピースみたいな服が飾ってあった。上半身は襟と袖にフリルがついているブラウスで、その上に胸元からふわっと広がる大きなスカートを肩から吊って着ていた。
「ジャンパースカートっていうのよ。ベストとスカートが一緒になってて、ワンピースから袖がなくなった感じかしら」
「……まぁ、ニカさんがどうしてもって勧めるなら。とりあえず着るだけでもいいんですよね?」
「試着だけでも大丈夫よ。じゃあ、行きましょ」
決して、自分が着てみたくって、ニカさんにお願いしたわけではない。ニカさんがオレに着せてみたいっていうから、それに従っただけ。そんな、ニカさんの要望だって免罪符を貰ってしまっては断るのももったいない。いや、ご主人様の言っていることを断るのは良くない。だから、元男のオレがこういう女の子っぽいお店に入っても大丈夫だし、仕方がない。うん、そうに違いない。
ニカさんに連れられてお店に入ると、空気がガラッと変わった気がした。ふんわり漂うフローラルな香りと、店員さんのガーリーな服装、そして店内に並べられた沢山の可愛らしい服のせいだろう。
ニカさんが店員さんと話し、息つく暇もなく試着室へ案内される。流れるようにさっき見た服を渡され、簡単に着方を教えてもらってカーテンが閉められた。あまりにもスムーズな進み方に、元からニカさんと店員さんが口裏を合わせていたのではないかと思ってしまうほどだった。
(別に、女の子になりたいって訳じゃないし、そうじゃないと着ちゃいけないって訳でもないよな)
誰かに許可を取らないといけないものでもないのに、試着室の中であたりをきょろきょろと見渡してしまう。視界に入った鏡には不安げながらも頬を軽く染めた可愛い女の子、つまるところ今の自分が、可愛い服を握っていた。
(……何やってるんだろう、さっさと着替えなきゃ)
パーカーとスキニーを脱ぎ、ブラウスを着る。ボタンの留め方が逆で苦戦しながらなんとか着て、スカートを穿いて肩ひもをかけて、胸元のベスト部分のボタンを留める。よし、これで着替え終わったと思って鏡を見たら、どことなく違和感があった。体全体を少し見渡せば、それはすぐに見つかる。
(あぁ、スカートがふわっとしてないんだな)
腰の括れとお尻の形で多少は膨らんでいるものの、お尻から下はスカートの生地がそのまま下がってしまっており、あまりボリュームが出ていない。ふくらはぎの中ほどまである長いスカートなのに、なんだか萎びた野菜みたいだ。こんなの、ショーウィンドウで見た時とは全然違うなと思ったら、穿き忘れたものがあるのに気付いた。
服と一緒に受け取った、白くてふわっとした腰巻のようなもの――パニエというらしい――をスカートの下に穿くと、それに支えられてスカートがふんわり持ち上がる。狭い試着室の中で少しだけ歩いてみると、スカートの裾が足回りに纏わりつかなくて、案外歩きやすいことにも気が付いた。そして、鏡をのぞけば、服のいたるところがふわふわした、可愛らしいお嬢様がそこにいる。
(うわ、可愛い……。やっぱりこういう服のほうが、この子は似合うな)
スカートをちょっとつまんでみたり、振り返ってみたり、女の子っぽいポーズをとってみたり、鏡の中にいる精巧な人形で遊んでいるような感覚。お尻を突き出してみたり、胸を張ってみたりと性的なアピールをしてみたら、心の中の男の自分が拍手喝采を返した。
スカートの裾から少しだけ覗く生足はすべすべとした肌が輝いており、ほっそりとしたふくらはぎが眩しい。素肌はしっかり隠されている服装なのに、胸の膨らみがベストで強調されていて、なんだかとってもエッチな恰好の気がする。そうして鏡の中の自分に見惚れていたら、あまりに遅いのを見かねたニカさんから声がかかった。
「ミーナ、お着換え終わった?」
「あ、ちょうどいま終わりました」
また悪い癖が出てしまった。一人で鏡の前に立つと、際限なく自分を眺めてしまって良くない。急いでカーテンを開け、ニカさんがオレをみて告げた第一声。
「うわ、予想以上に似合ってるじゃない」
そうだろう、そうだろう。やっぱりオレにはボーイッシュな服よりも、こういう、分かりやすく『可愛い』服のほうがに合うはずだ。だって、こんなにキレイな黒髪を背中まで伸ばして、胸もキレイで、全身『女の子』なんだから。
とはいえ、そんなことを表に出すなんてできっこない。元男が今日得たばかりの女の子の体をこんなに好き勝手しているなんて、元からオレが女の子に成りたかったみたいじゃないか。そんな誤解をされては困る。オレは鏡の中の女の子を着飾りたい、ただそれだけなのだから。
しかし、人からお願いされるのは話が別だ。ニカさんはオレの可愛い姿をずいぶん気に入ったみたいで、早速次に試着してほしい服を持ってきた。その眼は輝いており、今までになく生き生きとしている。
「ねぇ、こっちも似合うと思うんだけど……着てみない?」
「まあ、着るだけなら」
無論、断るはずもない。新しい服を着ては写真を撮ってもらうのを何度も繰り返し、気が付けばボーイッシュな服装を選んだ時よりも長く、試着会が続いていた。服の種類は良く分からないものの、スカートの長さや装飾の多さ、色使いが色々あったくらいはわかる。
「それで、どれが一番気に入ったとかある?」
ようやくひと段落したときには、試着した服は十着を超えていた。そのたびにスマホで撮ってもらった写真を見返しながら、着た時の感覚を思いだす。
「短いスカートはやっぱり気になるので、どちらかといえば丈の長いやつですかね。それこそ最初のとか」
試してみて分かったけど、ミニスカートは流石に恥ずかしすぎる。あんなもの服じゃない。確かに鏡の中のオレはとっても可愛かったけれど、あまりにも股下が心もとなくてだめだ。パンツを晒して歩いているような気しかしない。せめてパニエを穿くとか、タイツを穿くとか、そういうことをしないと、とてもじゃないが着れないだろう。
「そうよね、やっぱりあれが一番似合ってたわ」
ニカさんが満面の笑みで喜んでくれたのは嬉しかったが、その流れでお会計まで済ませてしまったのには驚いた。しかも、よくよく見ればあの服以外にもいくらか一緒に買ったようで、これまた大きな紙袋が増えた。
「流石にいったん帰るわよ。まだ買わないといけないものはあるけど、また今度ね」
「ですね。こんなに荷物が多いと、お店の中を歩くのも一苦労でしょうし」
可愛い服がたくさん詰まった紙袋を受け取った時、ふと頭をよぎる、『せっかく可愛い服を買ったんだから、今着替えてみたい』という思い。でもそんなこと口には出せなかった。今回の買い物はあくまでも『ニカさんに付き合った』という体だったから。こんなことなら、素直に『ちょっと興味があって』とか言えばよかった。下着のお店で散々見られたんだから、今更女の子の恰好をしているのを見られたところで大差ないのに。そうして、ちょっとしたモヤモヤを胸の内に抱えながら、タクシーに乗り込んだ。
pixivFANBOXとFantiaにて先行公開中です。ご支援いただけると活動の元手になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!
https://sfon.fanbox.cc/posts/7560157
https://fantia.jp/posts/2600332