「いつでもイッていいですよ♪」と甘やかす姉と「絶対イっちゃダメだから」と意地悪する双子姉妹に挟まれる先生の話 作:千吹つぐ
卒業までに結論を出す。そう約束した三人は、それぞれの目的のために行動していた。高木は常識と愛情の間で道を探り、さくらは『みんなで付き合う』ために三人での関係を望んだ。そして葵はそんな姉に勝つために高木を求めた。
結果的に、三人の時間は増えていった。それはさくらの望みが叶っているようにも、より対立が深まったようにも見えた。
「ね、先生。選んで」
葵は事あるごとに選択を迫った。姉と妹のどちらが好きなのかを選択させた。
「そんなのもちろん、葵ちゃんですよね♡」
一方。さくらは全力で停滞を選んだ。時に誘導し、ときにごまかして、葵の質問をうやむやにした。
三人の仲を結ぼうとするさくらと、爪を立ててでも奪い取ろうとする葵。それが、このところの三人の関係であり、そしていま、歴史資料室で行われている痴態の本質だった。
「ほら、先生、どっちか選んで」
ソファの上で重なり合う、美しい双子の姉妹が居る。妹が下に寝転んで、その上に姉が覆いかぶさっている。
二人とも冬服のブレザーをしっかりと来て、しかしパンツだけは穿いていない。スカートを捲り上げた太ももの奥で、しとどに濡れた性器を晒している。
「ね、先生が、いま一番抱きたいのはどっち? どっちのオマンコで射精したい?」
葵が挑発するように言って、自身の性器を指で開いた。ぐっしょりと濡れた膣口が、ぱくぱくと物欲しそうにあえいでいる。
「私とお姉ちゃん、どっちがいいの?」
葵の、強い瞳。そこにはあの日とまったく同じ炎があった、何度ごまかされても、快楽に呑まれても、それでも消すことは出来なかった妄執の火が、高木に停滞を許さなかった。
「先生……」
さくらが肩越しに振り返って、視線だけでなにかを訴えかけている。恐れるように寄った眉が『妹を選んで』と告げていた。
高木は、ごくりとつばを飲んだ。
この一ヶ月、双子と関係を深めてきた。会話をして、身体を重ねて距離を近づけた。
その日々が、高木の心を浮き彫りにしていく。肌のふれあいが、生姜湯の暖かさが、そして彼女の炎が、魂の形を浮かび上がらせていく。
「先生、選んで……」
高木はゆっくりと双子に寄った。ソファの上に這い上がり、股の間に入り込む。まっしろな股と、傷口のように赤い二つの性器。ほとんど見分けもつかない似通った二つの、その一方にペニスをあてがう。
結局、高木は嘘をつけなかった。
「先生! まって! あ! あああ!」
上の、さくらの性器にペニスを入れていく。熱く、熟れた感覚に、竿の根本まで埋まっていく。
「あ! あぐぅ! くぅぅぅぅ!」
ぞりぞりと、襞の一つ一つまで感じるほどの狭まりにのめり込んでいく。まるで、お互いがお互いを埋めるためにあったような、あるべき場所へと還っていく。
「そっか……そうだよね」
葵は、いっそ晴れやかな表情をしていた。
「ひゃうぅ! 葵ちゃ、これは……あぅぅ!」
「お姉ちゃん、気持ちよさそう」
さくらの体から力が抜けて、とろけた横顔がソファに落ちた。感じきって赤熱している太陽のような顔と、冷たく凍った月が向き合っている。
「良かったね。先生に選ばれて」
「ちがうの! 葵ちゃん! ちが! ああ!」
「お姉ちゃん、私、嘘は嫌い」
同じ顔に、熱情と冷静が浮かんでいる。
「先生、ありがとうね、嘘をつかないでくれて。ごまかさないでくれて、嬉しい」
「葵ちゃん! ああ! ああああ!」
「ほら、お姉ちゃんも素直になりなよ。せっかく好きな人とセックスできてるんだよ? お互いに大好きな、そんな運命の相手とめぐりあえたんだから……」
月がぽろりと涙をこぼした。
「ほら、おねえちゃん、我慢してないで、いっちゃいなよ」
「やぁ! だめ、いきたくない……やだ……やだぁ……」
さくらが泣いている。
「葵ちゃんと、いっしょがいい……いっしょにいきたい……」
「もう、わがまま言わないの」
葵はあらゆる意味で冷めていった。初期の凶行をささえた狂乱も、現在の保留を受け入れた希望も、そして姉に対する嫉妬心さえも、月日の中で柔らかな絶望に結実していった。
「葵ちゃん……葵ちゃん! んん!」
さくらは、そんな冷めた身体を温めるように、妹の身体を抱きしめた。口づけを交わして、死者に命を吹き込もうとした。
「ん……」
けれど葵はなにも応えず。まるでいつかの高木のようになすがままだった。
「ん! んん! ちゅぴ……ああ! ああああああ!」
「……ほら、お姉ちゃん、もういきな」
「やだ! やだやだやだ! やだああああああ!」
さくらの身体が反り返る、限界まで我慢した反動が、彼女を極限の絶頂へと打ち上げる。
膣がきゅうきゅうとペニスを絞り、高木を絶頂へと連れて行く。男は女に手を引かれて、同じ高みへ登っていった。
「…………」
ただ一人、葵だけをとりのこしたまま。
冬休みが明けて、学園は雪に覆われていた。
共通テストを控えて、受験はいよいよ本番を迎えようとしていた。これからの数日間で人生が決まる。そんな悲喜こもごもの日々が控えていた。
そんななかで姉妹はと言うと、さくらはすでに推薦合格を決めており、残すは葵だけとなっていた。
高木はひそかに不安だった。葵はその冷徹な見た目よりもずっと繊細で、身を焦がすほどの激情の持ち主だ。そんな彼女が受験と、恋と、そして卒業という約束の日を控えて、果たして耐えられるのかと思っていた。
「~~♪」
だがいま、歴史資料室で勉強する彼女は穏やかだった。
控えの机に腰掛けて、赤本をテンポよく解いている。カリカリと鳴る鉛筆の音は開始から休まることを知らず、終了時間をだいぶ残したままで、すでに最終問題に取り掛かっている。
「よし、終わり」
「まだですよ、葵くん。見返しはギリギリまでしてください」
「はーい、先生」
先生。そう呼ぶ声に、高木は違和感を覚える。どろりとした愛情と共につぶやかれのではなく、爪を立てる代わりでもない、ただ、生徒が教師を呼ぶような声。
「~~♪」
美しい、一人の生徒が机に向かっている。背筋を伸ばして、自らの人生を決める問題に向き合っている。
ぴんと張り詰めたショートボブが、形良い顎を撫でている。唇には小さな笑みが浮かび、最新の流行歌をつぶやいている。
「よし、合格♪」
いつしか答え合わせも済ませて、葵が自慢そうに振り返る。
「先生、見て」
「あ、はい」
高木は解答をチェックした。目標点数は余裕でクリアしており、これならどの薬学部でも入れるだろう。
「すばらしい結果です。よく学びましたね」
「ん、ありがと」
「あとはケアレスミスに気をつけてくださいね」
「たしかに、最期のチェックでも、二つやらかしてたし」
「それもありますが、どちらかというと遅刻や会場の間違えなどが不安ですね。たとえば……」
高木はまるで教師のように話をした。葵もまた、生徒らしく聞いていた。
それが不思議なようでいて、自然だった。
最近の二人の間には、こんな時間ばかりが流れている。
あれ以来、葵とはしなくなっていた。
最初は、予定が合わないとかではぐらかされて、そして今は『受験に集中したいから』という反対しようのない理由で、葵は逢瀬を避けるようになっていた。
それは前回の拒否と同じようでいて、しかし決定的に違っていた、以前の葵には姉に勝ちたいという気概に満ちていた。
だがいま、葵は穏やかだった。
「~~♪」
冷めた美貌にはやわらかな笑みが浮かび、硬質な声が優しい曲を口ずさんでいる。丁寧な所作は洗練されていて、そばにいて緊張をしいるものはなにもない。
まるで他人のように美しい姿に、高木はいつかの既視感を見る。
ウェディングドレスが写った一枚のハガキ。
「それじゃ先生、またね」
やがて葵はすべてを終えて立ち上がった。その顔にもはや涙はなく、瞳に執着の炎はない。右足を引きずる傷もなく、松葉杖に頼ってもいない。
それは、高木が夢にまでみた生徒の姿だった。傷を癒やし、心を安くし、穏やかで、まっすぐに前にすすんでいく。そんな、過去の夢を、葵は体現しているように見えた。
それなのになぜだろう、この胸の焦燥は。教師として、大人として見れば良いことなのに、焦りばかりがつのった。
その理由を、高木はまだ知らない。
「葵くん……」
知らぬままに、高木は葵に寄り添った。本能のままに手が伸びて、彼女の肩にそっと触れた。それは秋風の送り方もよく知らぬ男の、精一杯の愛の知らせだった。
「やめてよね、先生」
しかし、葵はその手をパシッと払った。
「同情なんて、いらない」
「同情、ですか?」
「うん。だって先生が一番好きなのは、お姉ちゃんでしょ」
さらりと、葵は決定的な言葉を口にした。
「…………」
高木は否定も肯定もできなかった。
「先生は、お姉ちゃんだけ見ててよ。私のことはもういいからさ」
「……なにか起きたんですか?」
「え?」
「最近の葵くんは、変です。以前の激情が嘘のように消え去って、とても安定していように見えます。それは、なにか原因があるんですか?」
高木はねじれた理屈を口にした。本音では、葵の状態がけっして悪いものではないと感じているのに、まるで心配事のように語って聞かせた。
「別に、なにも起きてないよ」
葵は笑った。
「ただ、当たり前のものが、当たり前のところに落ちついただけ。……ほら、前にお姉ちゃんが、保留しようっていったじゃない」
「ええ」
「あれが、やっぱり良かったんじゃないかな。……あのときはまだなんとかなるって、お姉ちゃんにも勝てるんじゃないかって思ったけど、でも無理だった。結局、お姉ちゃんには勝てなかったから……」
少し困ったような、バツの悪そうな笑顔が浮かぶ。
「この三ヶ月、三人で過ごして、楽しくて、それで、やっぱりつらかった……」
「葵くん……」
「やっぱり、ふとした時に気づいちゃうんだ。先生、お姉ちゃんのこと好きなんだって、私と居るときと、ちがうなって……」
困ったような笑み。
「葵くん……」
高木は言葉を遮ろうとした。すでに始まっているこの会話の重要性にいまさら気づいていた。
「まってください、それは、まだのはずです。結論は、卒業の日に出すと……」
「違うよ、卒業の日『まで』に出す。そういう約束だったはず」
葵が一歩、身を引いて、もう手の届かないところにいった。
「私は、やっぱり人に決められるのは嫌、せめて自分の気持ちくらい、自分で決めたいの。だから先生、もういいの」
「大好きだったよ。高木先生」
「最初は、あなたと一緒に幸せになりたかった。その次は、一緒に不幸になりたかった。最期は、あの人にだけは勝ちたかったけど、でも全部、無理だった」
葵が胸元に両手をやって、その手首のブレスレットをキュッと握った。
「安心して先生。もう二人の邪魔はしない。私は、あなたの人生から、出て行くから」
やわらかな笑顔の上を、ひとつぶの涙が流れていく。
「私のことは、心配しないで、きっと私、また立ち直るから。この足が治ったみたいに、二人に優しく出来たように、また、歩きだすから……だから」
少女が言葉通りにした。勢いよく踵を帰して、涙の粒を肩で切った。
「さよなら、先生」
力強い足取りが、震えた声を運んでいった。