「いつでもイッていいですよ♪」と甘やかす姉と「絶対イっちゃダメだから」と意地悪する双子姉妹に挟まれる先生の話 作:千吹つぐ
青い海に、白い砂浜。照りつける太陽が海岸線をキラキラと輝かせている。
ゴ~ンゴ~ンと、頭上でチャペルの鐘がなっている。海に面した教会はうつくしく、まさに、結婚式にふさわしい場所だった。
だというのに、教会に人の気配は少なかった。それもそのはずで、この教会は人目をはばかるカップルのためにと、隠遁した神父がボランティアで開いたものだからだ。
「鷹也さん? 準備できましたか?」
控室の扉が、コンコンと小さくノックされる。
「ええ、どうぞ」
高木はタキシードの襟をピンと伸ばした。
「わぁ! 鷹也さん、素敵ですよ♪」
扉が開いて、美しい花嫁が姿を表す。
「ありがとうございます。さくらも、とても綺麗だよ」
高木は言った。もうそれくらいの褒め言葉なら照れずに言えるようになっていた。
「ふふ、ありがとうございます♡」
さくらは、純白のウエディングドレスに身を包んでいた。肩を大胆に出した大人っぽいドレスを完璧に着こなしていて、それが高木に過ぎた時間が意識させた。
あれから六年の月日が経って、さくらは二十三歳になり、そして来年には、母親にもなろうとしていた。
「ふぅ、よいしょっと」
「大丈夫ですか? 無理しないでください」
すでに五ヶ月になっているお腹を抱えて、さくらが椅子に腰を下ろした。
本来であれば、このように花嫁と花婿がうろついていることなどありえないのだが、この教会はほとんどボランティで運営されているため、セオリーなどあって無きが如しだった。
「鷹也ー? お姉ちゃんこっちにいる? あ、いた」
そのとき、今度はノックもなしに扉が開いた。その向こうから、おなじく二十三歳の葵が入ってきた。
葵もまた、さくらと同じウエディングドレスに身を包んでいて、そのお腹も、同じように膨らんでいた。
「お姉ちゃん、あんまり動かないほうがいいよ。私も……うっぷ、うう、気持ち悪い。ツワリがでそうかも……」
「大変だね、葵ちゃん」
「まったくよ、っていうかお姉ちゃんはどうして平気なのよ。双子なのに」
「本当にね、子供の種だって一緒なのに……」
うーん、と双子が首をひねる。高木は冷や汗を掻く。
「……っていうかそもそも、どうしておんなじ時期に妊娠してるのよ」
「えへへ、ねぇ」
「嬉しそうにしないで。……はあ、本当はもっとちゃんと計画してたのに、ローテーション組んで子育てして、ちゃんと養子縁組もしてって考えてたのに……」
葵がまた、いつもの悩みに溺れ始めた。マタニティブルーのせいか、最近はこんなことが多かった。
「大丈夫だよ、葵ちゃん」「大丈夫ですよ、葵」
一方でさくらと、そして高木は、楽天的になっていた。
「二人とも、そんな簡単に言わないでよね」
「簡単に言っているつもりはありませんよ。……ただ、六年前を思い出してください」
「六年前?」
「はい、私たちがともに歩むことを決めたときのことです。あのとき、ひとつでもなにかを間違えていたら、こんな日は来なかった……」
再びチャペルの鐘が鳴りはじめる。
「あの時に比べれば、こんなのは、大したことありません。……三人一緒なら、乗り越えられます」
「そうだよ、葵ちゃん♪ 私は一緒にママになれて、嬉しいよ♡」
「……はあ、もう、お姉ちゃんはともかく、鷹也まで、……なんだか悩んでいるのが馬鹿らしくなって来ちゃった」
そういって、葵は高木の左腕をとった。
「はあ、とりあえず行こっか」
「うん! 行こう!」
反対の右手に、さくらが腕を絡める。
扉が開いて、チャペルの音が大きくなる。決して大きくない礼拝堂を、高木は二人の妻とともに歩いて行く。
参列者はほとんどいない、だがゼロではない、高木の親と、そして姉妹の父親、それから本当に信頼できる何人かの友人が列席している。
それは確かに、本物の結婚式ではあった。義理や付き合いの存在しない、ただ愛する夫婦と、彼らを祝福するものだけが集った空間だった。
だが高木は、これでもまだ満足していなかった。
本来であれば、この場に要られたはずの人、姉妹の母や、自身の父、説明や説得が拙《つたな》くて、子の門出に立ち会えなかった人たち。
その人達にも、いずれこの幸福を渡したかった。自分たちはたしかに不実かもしれない、だがどうしようもなく幸せなのだと、そう、伝えたかった。
そのために、高木はまた一歩を踏み出した。
「行きましょう、私たち、みんなで」
「はい」「はぁい!」
愛する二人の、妻とともに。