※この作品はR-18です。

「いつでもイッていいですよ♪」と甘やかす姉と「絶対イっちゃダメだから」と意地悪する双子姉妹に挟まれる先生の話   作:千吹つぐ

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話し合い1

「めずらしいね先生、そっちから呼び出すなんてさ」

 

 あれからさらに二十分が経った放課後のこと、高木は葵を呼び出した。幸い、彼女は図書室で受験勉強をしていたので、すぐに捕まった。

 

「なに? お姉ちゃんじゃ満足できなかったの? ふふ、いいよ、じゃあまた『命令』してあげる」

 

 葵がハグを求めてやってくる。だが高木はやんわりと止める。

 

「いや、違うんだ葵くん。今日は話があって呼んだんだ」

 

 部屋の奥へと視線をやる。すると、棚の影からさくらが出てきた。

 

「……お姉ちゃん?」

 

「……うん、ひさしぶりだね、葵ちゃん」

 

「どうしてここに……って、ああ、そういうことね」

 

 葵が一瞬だけおどろいて、しかしすぐに感づいた。

 

「意外と早かったね、いや、それとも遅かったのかな?」

 

「あ、葵ちゃん……あのね、聞きたいことがあって……えっと、その……」

 

「なあに? お姉ちゃん。そんなに言いづらそうにして。ふふ、まあそっか。お姉ちゃんみたいな良い子は、こんな質問しにくいよね。『本当に先生とセックスしてるのか?』なんて、さ」

 

 さくらの表情が凍る。

 

「うん、そうだよ、お姉ちゃん。私、先生とセックスしてるの」

 

 葵が高木に抱きついて、見せつけるようにしなだれかかる。

 

「ふふふ、それも何回も、何十回も、ね。お姉ちゃんたちがハグしてたこの部屋で、いっぱい、いーっぱいセックスしたの」

 

「あおい……ちゃん」

 

 さくらの顔面が蒼白になる。その話自体はすでに高木がしていたが、しかし伝えられ方はまるで違った。

 

「セックスだけじゃないわ。手でしたり、フェラチオも……あ、お姉ちゃん、フェラチオなんて言ってもわかんないか、あのね、オチンチンを口でしゃぶるの。先生これするとすぐにいっちゃうんだから」

 

「――――っ!」

 

 悪意にまみれた、相手を傷つけるためだけに紡がれた言葉たち。

 

 さくらはまるで、本物の刃で切り刻まれたかのように硬直していた。

 

 甘かった。高木は自分の判断を後悔した。

 

「葵くん!」

 

 肩を掴んで乱暴に引き剥がす。

 

「きゃっ! ……なに、先生、いまお姉ちゃんと話してるんだけど?」

 

「話しだと? ……これのどこが……」

 

 かっと頭に血がのぼる。さくらの微笑みが思い出される。『まずはお話しましょう』そう、人の善性を信じた少女への、報いがこれか。

 

「うるさいなぁ……先生は黙ってて。ほら、しゃ・し・ん」

 

 魔法の言葉。だが高木はもう止まらない。

 

「もういい……わかった葵くん」

 

「なによ先生、わかったってなに?」

 

「私はこの学校をやめる」

 

 ポケットに入れていた辞表を取り出す。葵が、そしてさくらも目を見張る。

 

「その足で、警察に出頭するつもりだ」

 

「はぁ!? ……なによそれ! そ、そんなの許さないんだから!」

 

「君の許可は聞いていない。もう決めたんだ」

 

「写真はどうするのよ! ばらまくよ!」

 

「これのことか?」

 

 高木は盗み取っていたスマホを掲げた。

 

「いつのまに! ……あは、でも無駄よ先生。家に帰ればバックアップがあるもの」

 

「……だろうね、なら、仕方がない……」

 

 葵を捕まえて、その手をひねり上げる。

 

「痛っ! せ、先生、なにする気よ!」

 

「君をここに拘束する。……その間に校長室で事情を話してくるよ」

 

「なっ!」

 

「おそらく対策チームが組まれると思う。……今後のことはそちらに任せなさい。私とはもう、これっきりになるだろう」

 

 舌がスラスラと、これまでずっと考えていた計画を打ち明ける。

 

「え? まって? 嘘でしょ?」

 

「嘘ではない」

 

「せ、先生……本気なの?」

 

 ようやく真意が伝わったのか、葵の顔から血の気が引いていく。

 

「や、そんな、まってよ先生、こんな急に、どうして?」

 

「…………」

 

「や……まってよ先生……やだ! こんなのやだ!」

 

 ネクタイを抜き取る。すべてが逆転していく。

 

「わ、わかった! 先生! 写真は消す! もう脅さない! だからやめて!」

 

「葵くん……」

 

「ち、ちがうの! こんなことがしたかったわけじゃ。……わ、わたしのことも、もういいから! もう抱かなくていい……だから……だからぁ……!」

 

「違うんだ葵くん。もう、そういうことではないんだ」

 

 高木は笑った。

 

「私は罰が欲しかったんだ。もうずっと誰かに裁いて欲しかった」

 

 始まりはたしかに脅迫だった。だが高木がその状況を愉しんでいたのはたしかだ。守るべき生徒を犯し、味わう快楽に溺れていた。

 

「もう、こうしないと生きていけない。そう思っただけなんだ……」

 

 妙に晴れやかな気分だった。きっと駅のホームから踏み出した人たちも、こんな気分だったのだろう。

 

「……先生」

 

 決意が伝わる。

 

「……そんなに、私が嫌だったの」

 

 だがその真意は、言葉は何も伝わらなかった。

 

「そんなに辛かったの? そんなに、私に触れられるのが嫌だった?」

 

「いや、葵くん、それはちが――」

 

「そんなに……ひっ……そんな……そんなに……嫌われて……」

 

 葵がぽろぽろと涙を流す。違う。と高木は叫びたかった。彼女を嫌ってなどいない、いまでも確かに愛しているのだと伝えたかった。

 

 だがそんなことをしてなんになる?

 

 今日にでも消え去さる淫行教師の愛情など伝えて、それが彼女の助けになるのか?

 

「ひっく……せんせい……わたし……わたし……」

 

 いよいよ言葉も付きた。結局、会話はどこまでも無力だった。

 

 ネクタイで、葵の手を拘束しようとする。

 

 彼女はもう抵抗もしない。ぱったりと左手が投げ出されている。

 

 そしてふと、高木はそこに絡まる革のブレスレットを見つけた。

 

 

(先生、つけて)

 

 

 瞬間、記憶が鮮やかに蘇った。

 

 それは去年、まだ葵が松葉杖を手放せなかった夏の日のこと。

 

 何事にも無関心だった彼女が珍しく、資料室にあったブレスレットを欲しがった。

 

 しぶる高木を拝み倒して、葵はブレスレットを手に入れる。だが、彼女は付け方がわからなくて、

 

 

(ありがと先生、大事にするね……)

 

 

 思えばあれが、初めて目にした彼女の笑顔だった。

 

「…………」

 

 手が、伸びる。

 

「……せんせい……?」

 

 葵の顔が恐怖に染まる。指先が、ブレスレットを引っ掛ける。

 

「やだ……せんせい……いや! いやぁ!」

 

 なにも伝わらないのなら、傷しか付けられないというのなら、

 

 こんな後悔《おもいで》など、残さないほうがいい。

 

 そう思ったのだ。

 

「いやぁぁぁぁぁぁ!」

 

 傷んだ生地がミチミチときしむ。あえなく散らされる処女のように、革紐が無惨にちぎれようとした。そのとき――。

 

 

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