「いつでもイッていいですよ♪」と甘やかす姉と「絶対イっちゃダメだから」と意地悪する双子姉妹に挟まれる先生の話 作:千吹つぐ
「めずらしいね先生、そっちから呼び出すなんてさ」
あれからさらに二十分が経った放課後のこと、高木は葵を呼び出した。幸い、彼女は図書室で受験勉強をしていたので、すぐに捕まった。
「なに? お姉ちゃんじゃ満足できなかったの? ふふ、いいよ、じゃあまた『命令』してあげる」
葵がハグを求めてやってくる。だが高木はやんわりと止める。
「いや、違うんだ葵くん。今日は話があって呼んだんだ」
部屋の奥へと視線をやる。すると、棚の影からさくらが出てきた。
「……お姉ちゃん?」
「……うん、ひさしぶりだね、葵ちゃん」
「どうしてここに……って、ああ、そういうことね」
葵が一瞬だけおどろいて、しかしすぐに感づいた。
「意外と早かったね、いや、それとも遅かったのかな?」
「あ、葵ちゃん……あのね、聞きたいことがあって……えっと、その……」
「なあに? お姉ちゃん。そんなに言いづらそうにして。ふふ、まあそっか。お姉ちゃんみたいな良い子は、こんな質問しにくいよね。『本当に先生とセックスしてるのか?』なんて、さ」
さくらの表情が凍る。
「うん、そうだよ、お姉ちゃん。私、先生とセックスしてるの」
葵が高木に抱きついて、見せつけるようにしなだれかかる。
「ふふふ、それも何回も、何十回も、ね。お姉ちゃんたちがハグしてたこの部屋で、いっぱい、いーっぱいセックスしたの」
「あおい……ちゃん」
さくらの顔面が蒼白になる。その話自体はすでに高木がしていたが、しかし伝えられ方はまるで違った。
「セックスだけじゃないわ。手でしたり、フェラチオも……あ、お姉ちゃん、フェラチオなんて言ってもわかんないか、あのね、オチンチンを口でしゃぶるの。先生これするとすぐにいっちゃうんだから」
「――――っ!」
悪意にまみれた、相手を傷つけるためだけに紡がれた言葉たち。
さくらはまるで、本物の刃で切り刻まれたかのように硬直していた。
甘かった。高木は自分の判断を後悔した。
「葵くん!」
肩を掴んで乱暴に引き剥がす。
「きゃっ! ……なに、先生、いまお姉ちゃんと話してるんだけど?」
「話しだと? ……これのどこが……」
かっと頭に血がのぼる。さくらの微笑みが思い出される。『まずはお話しましょう』そう、人の善性を信じた少女への、報いがこれか。
「うるさいなぁ……先生は黙ってて。ほら、しゃ・し・ん」
魔法の言葉。だが高木はもう止まらない。
「もういい……わかった葵くん」
「なによ先生、わかったってなに?」
「私はこの学校をやめる」
ポケットに入れていた辞表を取り出す。葵が、そしてさくらも目を見張る。
「その足で、警察に出頭するつもりだ」
「はぁ!? ……なによそれ! そ、そんなの許さないんだから!」
「君の許可は聞いていない。もう決めたんだ」
「写真はどうするのよ! ばらまくよ!」
「これのことか?」
高木は盗み取っていたスマホを掲げた。
「いつのまに! ……あは、でも無駄よ先生。家に帰ればバックアップがあるもの」
「……だろうね、なら、仕方がない……」
葵を捕まえて、その手をひねり上げる。
「痛っ! せ、先生、なにする気よ!」
「君をここに拘束する。……その間に校長室で事情を話してくるよ」
「なっ!」
「おそらく対策チームが組まれると思う。……今後のことはそちらに任せなさい。私とはもう、これっきりになるだろう」
舌がスラスラと、これまでずっと考えていた計画を打ち明ける。
「え? まって? 嘘でしょ?」
「嘘ではない」
「せ、先生……本気なの?」
ようやく真意が伝わったのか、葵の顔から血の気が引いていく。
「や、そんな、まってよ先生、こんな急に、どうして?」
「…………」
「や……まってよ先生……やだ! こんなのやだ!」
ネクタイを抜き取る。すべてが逆転していく。
「わ、わかった! 先生! 写真は消す! もう脅さない! だからやめて!」
「葵くん……」
「ち、ちがうの! こんなことがしたかったわけじゃ。……わ、わたしのことも、もういいから! もう抱かなくていい……だから……だからぁ……!」
「違うんだ葵くん。もう、そういうことではないんだ」
高木は笑った。
「私は罰が欲しかったんだ。もうずっと誰かに裁いて欲しかった」
始まりはたしかに脅迫だった。だが高木がその状況を愉しんでいたのはたしかだ。守るべき生徒を犯し、味わう快楽に溺れていた。
「もう、こうしないと生きていけない。そう思っただけなんだ……」
妙に晴れやかな気分だった。きっと駅のホームから踏み出した人たちも、こんな気分だったのだろう。
「……先生」
決意が伝わる。
「……そんなに、私が嫌だったの」
だがその真意は、言葉は何も伝わらなかった。
「そんなに辛かったの? そんなに、私に触れられるのが嫌だった?」
「いや、葵くん、それはちが――」
「そんなに……ひっ……そんな……そんなに……嫌われて……」
葵がぽろぽろと涙を流す。違う。と高木は叫びたかった。彼女を嫌ってなどいない、いまでも確かに愛しているのだと伝えたかった。
だがそんなことをしてなんになる?
今日にでも消え去さる淫行教師の愛情など伝えて、それが彼女の助けになるのか?
「ひっく……せんせい……わたし……わたし……」
いよいよ言葉も付きた。結局、会話はどこまでも無力だった。
ネクタイで、葵の手を拘束しようとする。
彼女はもう抵抗もしない。ぱったりと左手が投げ出されている。
そしてふと、高木はそこに絡まる革のブレスレットを見つけた。
(先生、つけて)
瞬間、記憶が鮮やかに蘇った。
それは去年、まだ葵が松葉杖を手放せなかった夏の日のこと。
何事にも無関心だった彼女が珍しく、資料室にあったブレスレットを欲しがった。
しぶる高木を拝み倒して、葵はブレスレットを手に入れる。だが、彼女は付け方がわからなくて、
(ありがと先生、大事にするね……)
思えばあれが、初めて目にした彼女の笑顔だった。
「…………」
手が、伸びる。
「……せんせい……?」
葵の顔が恐怖に染まる。指先が、ブレスレットを引っ掛ける。
「やだ……せんせい……いや! いやぁ!」
なにも伝わらないのなら、傷しか付けられないというのなら、
こんな後悔《おもいで》など、残さないほうがいい。
そう思ったのだ。
「いやぁぁぁぁぁぁ!」
傷んだ生地がミチミチときしむ。あえなく散らされる処女のように、革紐が無惨にちぎれようとした。そのとき――。