紅葉の満開を待ってたら12月になるんですけお!!
忘れてた訳じゃないんだよ…ほんとだよ…
仙狐のナリハ様が治めるこの地にも紅葉が色付く季節が訪れた。
山に囲まれた仙狐の里も、自然豊かどころか自然しかない山道も黄色や赤色に彩られている。
「毎年の事とはいえ、緑一色の慣れ親しんだ景色が赤や黄色に染まっているのを見ると、やっぱり不思議な気持ちになりますね。」
「そうだね…あまり意識した事はなかったけど、紅葉も夏は緑色だったのに秋には赤くなって、こっちのイチョウは緑から黄色に変わって…スイさんなら色々教えてくれそうだ。」
暑かった夏も終わり、辺りも涼しくなり始めて乾燥し始めている。
軒下から景色を眺めているミスズが身体を冷やして体調を崩さないように温かいお茶を用意すると柔らかく微笑んでくれた。
「日差しが強かった頃は、兄さまが良く仰ってた…ねっちゅーしょー?という病気になるかもしれない、と外出を避けていましたが…もう過ごしやすい季節に変わりましたし、私と散歩に行きませんか?」
「いいよ。寒くないように羽織も着て出掛けようか」
「ふふっ、決まりですね。兄さまと久しぶりのでぇとです!準備してきます!」
今日も誰よりも可愛い妹弟子は三つに揺れるモフモフの尻尾を揺らしながら、着物や羽織を収納している部屋にご機嫌な様子で向かっていった…
アスファルトがまだ存在せず、せいぜいが石畳しかないこの時代では現代ほどの熱中症リスクは無いだろうが…夏の日差しには気をつけるに越したことはない。
ミスズには少し窮屈な思いを…
『あぅぅ…兄さま、暑いですね…はふぅ…今だけは、この尻尾の存在を疎ましく感じてしまいます…』
『しっかりして、ミスズ。ほら、お水を持ってきたよ。団扇で仰いであげるから』
『んくっ…んっ…ぷあぁ…涼しいです…えへへ…兄さま、しゅきです…♡』
『さては甘えたかっただけでしょ』
家から出れない状況をミスズは楽しんでいたかもしれない…
「お待たせしました。では行きましょうか、兄さま。」
「うん、一緒に行こうか…その羽織も良く似合ってるよ、ミスズ。」
「えへへ…兄さまからの贈り物ですから。一緒にお出掛けできて、この羽織を着る事ができるので、私は秋が好きなんです。兄さま。」
「ふふっ…僕は嬉しいけど、紅葉やイチョウは見なくていいのかい。ミスズの好きなブドウや栗もあるよ。」
「もちろん見逃しません。でもそれ以上に…大切な兄さまの傍で、一緒に過ごせる口実にできますから♪」
外の冷たい風に身体を冷やさないように、腕に抱き着いて手をしっかりと絡めてきた可愛い妹弟子の頭を優しく撫でながら
僕達は赤と黄色に彩られた山道をゆっくりと歩いた…
◆
「…えいっ!」ボスンッ
これ、かわいい妹弟子め、いきなりイチョウや紅葉が積み重なった葉っぱの山に勢いよくダイブするでない。
前触れが無さすぎて兄さまびっくりしちゃうでしょ。
「どうしたのミスズ。妖狐の本能でも刺激されたのかい。」
「私がまだ幼い頃…兄さまと一緒に過ごした秋を思い出していたんです…」
「二人で柔らかい落ち葉の山に飛び込んで、体中に落ち葉が付いた姿を見て…一緒に笑い合って…ナリハ様やお付きの方にちょっと叱られて…ふふっ、兄さまとのかけがえのない想い出なんですよ。」
「……懐かしいね、今のミスズに夢中だったからすっかり忘れてたよ。そういうことなら、仕方ない…ねっ!」ボスンッ
「きゃっ、兄さま!?」
ミスズが飛び込んだ落ち葉の山の隣山に飛び込む…
記憶の中にある落ち葉の柔らかさは感じないけれど、今の方が楽しいことは確かだった。
「…ふふふっ!楽しいですね、兄さま!これからも、何回も、同じ秋を一緒に迎えて…ずっと…私と一緒に暮らしましょうねっ」
「あははっ!言われるまでもない、何年も同じような、子供の頃に戻ったような秋を過ごそうっ、ずっと、ずっとミスズの傍に居るよ!」
体中に落ち葉を纏わせて、後始末や着物に羽織の掃除は大変だろうけど
今、ミスズと心から笑い合えるこの時間は…きっと何よりも大切な想い出になるから。
冬は…オリルート君組で雪まつりさせようか。