妖狐淫刀は良いぞ…
ミスズちゃんから兄さまって呼ばれたいだけ
「この辺って地元だけど、あんまり歩いた事ないんだよな」
夕暮れ時の散歩中…古びた鳥居を見つけた俺は、興味本位から石段を上がり、小さな神社に訪れた。
「こんな神社があったなんて…御利益ありそうだし、ついでに願い事しとこ」
「可愛い狐っ娘とイチャイチャしたい!二次元でも良いからっ!!」
周りに人が居ないことを良い事に、バカみたいな願いを告げて手を合わせる
主の馬鹿げた願い、確と聞き届けた──
「えっ」
まるで空気が振動しているような声が辺りに響いて、気が付けば俺は見知らぬ建物の中に居た
驚いたような顔でこちらを見つめている、キツネの特徴を持つ身体をした少女を前にして
願いがなんらかの形で叶えられた事を察した──
・・・・・・・・・・
〜妖狐淫刀〜
・・・・・・・・・・
「お兄ちゃん、誰…?この里の人じゃないよね…?」
「えぇっと、迷い込んだだけで決して怪しい人じゃないよっ」
少し怯えたようにこちらを見ている狐の耳と尻尾を生やした幼い少女
彼は慌てて屈んで目線を合わせ、できるだけ怖がらせないように会話する
「どうしよう…とりあえずナリハ様の所に連れて行こうかな…」
「俺も、ここが何処なのか分からないから…連れてってくれたら嬉しいな」
少女の提案を断る理由は無かった
偉いお方から話を聞ければ、多少の知識とこの場所の事が分かるかもしれない
「分かった…ナリハ様のお社まで案内してあげるね。
お兄ちゃん、わたしに付いてきて」
「ありがとう、お願いするね」
少女の案内により、彼は立派な鳥居を潜り石段を登っていき立派な社に到着する
「む?、知らぬ者の気配が里に湧いたと思ったのじゃが、よもや異界の童とはのう」
「ナリハ様、お下がりくださいませ…」
「怪しい男よ、この地に何用だ!!」
「よい、そこの童から悪意や敵意の類いは感じぬ…
童よ…何しにこの地へ訪れた」
彼は着のみ着のまま無一文で流れ着いた経緯を伝えた
「ふむ…耳を疑うような話じゃが…童の異国の装い、
この地と異なる文字…嘘の無い言葉、虚言と断じるのも厳しいか」
「衣食住のアテが無いならば、しばらくはこの里で暮らしてみるか?」「「ナリハ様!?」」
「よろしいのですか…?自分で言うのも何ですが、
こんな得体の知れない男を…」
無一文で能力も無く、外に放たれればいつ死んでもおかしくない現状
彼にとって願っても無い提案だった
「ミスズの住まいにはまだ余裕がある」
「あまり歳も離れておらぬし、狐の姿もしておらぬ童じゃ…
ミスズにも良い刺激となるじゃろう」
「無論、ミスズや里の者達に悪さをするようならば…分かっておるな?」
恐ろしい気迫に全身を晒され…体を震えさせ、息も絶え絶えになるも呼吸を整えて返答する
「はい!これからよろしくお願いしますっ!!」
里での身の振り方を話し合い、少女と共に社を去り
少女の案内に従ってこれから住む家に向かう
「ここが、今日からお兄ちゃんが住むわたしの家だよ」
「突然一緒に住む事になったけど、よろしくねミスズちゃん」
「うん、わたしもこの家で一人はさびしかったから…よろしくね」
ようやく一息つけた彼は、ここまで出会った方達を考えて
ついにこの世界が良く遊んだゲームの世界だと気付いた
(やっぱりここ…妖狐淫刀の世界で、あのミスズちゃんが幼少期の主人公なんだな)
気付いた所で、彼にはまだできる事は何もない
今はただ、住まわせていただいている里の為に自分にできる事をやろうと考えた
(今は追い出される事が無いように生きるしかないや)
それからしばらく経った…彼は住人達やナリハ様と打ち解け合う事ができ、ミスズとも良好な関係を築きながら過ごす
時に笑い合い、喧嘩し、隣り合って眠り、同じ卓を囲む。
仲睦まじく暮らしていく日々
「今日も可愛いなミスズちゃん〜」
「えへへ、くすぐったいよにいさま」
頭と尻尾を器用に撫で回しながら笑顔のミスズを愛でていく
(今はまだミスズちゃんも小さいし、妖刀に巻き込まれて辛い思いをしていくのは
成長してゲームでの見慣れた姿になってからかな…)
その時が来るまで、少しでも今の記憶が良い思い出となるように
彼女が寂しくないように良くふれあい、彼女が望むなら共に遊んであげよう
・・・・・・・・・・
月日は流れ、幼かった同居人が少女から綺麗な娘に成長し…密かに彼を恋い慕う想いを募らせてきた頃
共に勉学や修行に励む日々が始まった
彼とミスズは刀を扱う鍛錬も行なっている
この世界ではまだ刀の持ち歩きが許されており、敵対的な妖への護身等に用いられている。
二人は互いに模擬刀を構えて向き合う
「兄さま!私が勝ったら、今後は同じ布団で寝てもらいますからっ」
「俺が勝ったら、外では引っ付き過ぎないよう我慢してもらうよ」
彼は、ミスズとの接し方を大きく間違えていたのかもしれない…
ミスズが記憶の中の姿にまで成長して数日
二人はナリハ様のお社へ呼び出しを受ける
「童、ミスズよ、お主等に使いを頼みたいのじゃ。」
「西の山を越え、人里へ買い物に出てくれんかのう」
「その辺りにある人里は…ミヨナ村、ですか」
「然り。お主等も既に幾度か行った事があろう?」
ミヨナ村に行き、ナリハ様の注文された着物を受け取りに行く…
ミスズとナリハ様の会話を聞きながら、彼はこの世界の物語を思い出していく
(ミヨナ村で着物を受け取る…
これから始まるのだろうか)
二人は快諾し、出発の旨を告げる
石段を降りる前にナリハ様から呼び止められる
「僅かではあるが、最近、少々怪しい気配を感じるのじゃ。」
「正体がわからぬ故、もしも何か変わったことがあれば
儂に知らせてくれぬか。」
ミスズと二人並んで見晴らしの良い山道を進む
「今日はいいお天気ですね兄さま…風も心地いいです…」
「受け取った着物をナリハ様に渡して、時間が出来たらゆっくりしようか」
「はっ…!ついぼんやりしちゃいました!
だめだめ、しゃきっとしないと!
行きましょう兄さま!」
代金を払い、村で上質な着物を受け取った二人は
店主から近隣の村々で女性が襲われているという事件を聞いて、物語が始まったのだと確信する
山道を並んで帰る途中、急な雷雨に降られた二人は
受け取った着物が濡れないように、古びた小屋に逃げ込んだ
「先刻まであんなに晴れてたのに、
急に降り出すなんてびっくりしました…」
「山は天気が変わりやすいって言うからね。
拭いてあげるからおいで、ミスズ」
「お願いします、兄さま…」
ミスズの体についた雨を手拭いで優しく拭き取りながら
彼はこの後起きるであろう事を考えていた
(確か、ここで妖刀に憑かれた男が来て…ミスズは──)
雷が一度、二度と落ちた時
集会所の入り口に様子がおかしい男が立っていた
男の腰には異様な気配を放つ刀が差してある
ミスズを背中に隠して、男に向き合った──
話の導入を書き出すのが一番大変かもしれぬ…
ご都合主義と原作崩壊のタグを過労死させるぜ