ゾゾさんの後を追い、私はララに乗って街の上空を翔けた。使い魔のプルに乗ったゾゾさんはハーレに向かっている。
空まで追いかけてこられたらどうしようかと思ったが、彼女たちが追いかけていたのはロックマンで、私とゾゾさんに用はなかった。私たちは無事にハーレへ着いた。
残念ながら所長たちへの差し入れは無事ではなかった。器の中でひっくり返って、お肉も野菜もたれが混ざっていた。せっかくのお昼ご飯がこれでは台無しである。私はひたすら所長たちに謝った。
「すみません、これは私が食べます。急いで追加を買ってきます!」
「気にしないでいいわよ、ナナリー。わざわざ買ってきてくれたんだもの。ちょうど体を動かしたいと思っていたから、私が買い物に行くわ」
所長がうーんと伸びをする。
「私も行きます! 荷物持ちとしてこき使ってください」
「じゃあナナリーには一緒に来てもらおうかしら。アルケスとゾゾは留守番お願いね」
書類を読んでいたアルケスさんが無言で頷いて、机に頬杖をついて頭痛に顔を顰めていたゾゾさんは「はぁ~い」とだるそうな返事をする。
「支度をしてくるから、ナナリーは先にそのお花を部屋に置いてきなさいな」
「え?」
「隊長さんにもらったんでしょ? 落としたり奪われたら困るじゃない」
「えっ……あ……はい」
さすがに私が持ってる花を奪う人がいるとは思わないけれど、落としたら困るし、荷物を持つには邪魔なので私は一度寮の部屋に戻った。
小さな花瓶に水を入れて赤いキュピレットの花を活ける。花をテーブルに飾っただけで部屋が華やかになった気がする。
令嬢が着るドレスみたいなひらひらとした赤い花びらの大輪の花は、ただそこにいるだけで人目を惹く赤い瞳の誰かを連想させた。
*
「こんな風にナナリーと買い物に行くのは初めてじゃない?」
「そうかもしれません」
私服に着替えた所長と一緒に街を歩く。
「あらぁ、すごい人ね」
屋台が並ぶ通りは昼前よりも混んでいて、ぎゅうぎゅうと人が押し寄せる中で買い物するのはかなり大変そうだ。
「毎年お留守番していたから忘れてたわ。こっちの道に行きましょうか」
「そっちはちょっとお高い店が多いですけど……」
「いいわよ。私がおごっちゃう」
細い路地を抜けて洒落た店が軒を連ねる通りに出た。所長は目当てのお店があるのか、迷いのない足取りで進んでいく。
「あ……花園の塔」
道の先、遠くに花園の塔が見える。今年もベンジャミンはサタナースと一緒に上る約束をしているという。
だが私は知っている。ベンジャミンが本当に行きたいのは花園の塔ではなく結婚式場のヴェラッカーノ。つまり、彼女はそろそろ結婚したいと思っているのだ。そんな恋人の心を知ってか知らずか、一年近く同棲していてもサタナースから求婚らしき言葉は出てこないらしい。
「花園の塔が気になるの? そうよね、騎士が恋人だと花神祭の日に会うのは難しいものね」
からかう調子ではなく、微笑ましいものを見るように所長が優しく笑う。
「そんなんじゃないですよ。友人が恋人と塔に上る約束をしてるんです。別に私が上りたいとは思ってません」
顔の前でブンブンと大きく手を振った。ロックマンと一緒に花園の塔に上るなんてまったく想像がつかない。
サタナースには男らしくさっさと決断しろ、と尻を叩いてやろう。
それから、結婚式なら私よりも両親のほうが先だ。両親にはちゃんとした結婚式を挙げさせてあげたい。そのためのお金も貯めた。海の国に行っている両親には早く帰ってきてほしいものである。
「ふふふ。若いっていいわね」
所長だってまだまだ若くてスタイル抜群の美人じゃないですか、と力いっぱい主張しようとしたけれど、「所長には恋人みたいな人がいる」とハリス姉さんが言っていたのを思い出して口をつぐんだ。私が所長の恋愛事情に口をはさむなんておこがましいだろう。
「この店がいいかしら?」
小綺麗な食事処に所長が入っていく。所長が慣れた様子で持ち帰りの料理を注文すると、冷たいお茶を二つ買って私を店外の席に誘った。
「私が持ちます」
「じゃあこれ。ナナリーの分ね」
「自分の分はお金払いますから!」
「いいのよ、私のおごり。暑かったでしょ?」
肩に下げた鞄からお財布を出そうとした私の手を所長は片手で押しとどめる。やんわりと押しているようでいて、なかなか力が強い。「そんなに遠慮するなら所長命令よ。私に奢らせなさい」と言われてしまっては引き下がるしかなかった。
店の外には小さな丸テーブルと椅子が二脚、壁際にベンチが置かれていて、頭上には日除けの布が張られている。私たちはベンチに並んで座った。
「ナナリーは宮廷晩餐会に行くの?」
「いえ、行かないです」
「そうなの? 高位貴族は平民を招待してもいいんでしょ?」
「前に友人に招待されて行ったことありますけど、私には分不相応な場所ですから」
「その友人て……ロックマン隊長?」
「違いますよ。魔法学校時代の親友で、女の子です」
あのときはシュテーダルの一味と思われる魔物が現われて、優雅な晩餐会が一転、魔物討伐に変わったのだ。この件については血の盟約を結んでいるので所長にも話せない。
「オルキニス女王が氷の乙女を集めていた時期だったので、宮廷晩餐会も警戒されていたみたいです」
「あっ……そうだったわね。ごめんなさい、私ってばすっかり忘れてて……」
「いえ、私もほとんど忘れてましたから」
その後のロックマン流血瀕死身代わり事件のほうが強烈で、宮廷晩餐会の印象は大分薄れている。
あのときマリスが用意してくれたドレスは騎士団が弁償したらしい。私が知らないところで事件が解決して、後片付けも済んでいて、私はただ守られていただけだった。今思い出すと自分の力不足を歯がみしたくなる。
「そうよね、あれから……いろいろあったものね」
頬に手を当てて所長は考え込んでしまった。私がお茶を飲み終えて手持ち無沙汰になったころ、所長がおもむろに口を開いた。
「ねえ……ナナリー?」
「はい、なんでしょう?」
「あなた……
「ええっ!? なんですか、それ! そんなことあるわけないじゃないですか!!」
ハーレの受付嬢は子供のときからの夢だ。そのために魔法学校で必死に勉強したのだ。仕事を変えようなんて思うわけがない。
「そうなの?」
所長はうーん、と思案するように人差し指を顎に当てる。
「……ロックマン隊長から魔法の個人指導をしてもらってるんでしょう?」
「個人指導? 何ですか、それ?」
確かにアイツは人に教えるのが上手いと思うし、さりげなく助言をくれて、それをきっかけに会得した魔法があることも認める。
悔しいけれど現時点で魔法の腕はロックマンのほうが上だ。だからこそ私は自力でアイツに勝ちたい。
「彼から課題を貰っていたそうじゃない?」
「課題?」
「アルケスから聞いたんだけど、相当高度な魔法についての問題もあったそうね?」
もしかして、あの分厚い質問状?
「ロックマン隊長は宮廷魔術師長も兼任してるでしょう。あなたを宮廷魔術師に引き抜くつもりなのかしら……と思ってね」
「そんなわけないですよ。なんでロックマンがそんなことをするんですか?」
私はパタパタと手を振った。引き抜きの誘いなんてされたことがないし、今後もしそんな話があっても絶対に断るに決まっている。
「これは秘密にしておいてほしいんだけど、宮廷魔術師が不足してるのよ。それに、あなた達の将来のことを考えたらあり得ることじゃない?」
「将来……ですか?」
「そうよ。あなたたちの結婚よ」
「け、結婚!?」
思わず私の声が裏返った。
「しー! ナナリー、声が大きいわ」
「す、すみません……」
あわてて手で口を押さえたが、唐突な話題に私の頭がまったくついていかない。どうしてロックマンの質問状から引き抜きの話になって、さらに私とロックマンの結婚の話になるのだろう。
「昼食の後でいいんだけど、ちょっと話したいの。いい?」
「……わかりました」
その後、私はロックマンと花渡しをした経緯を訊かれた。巡回中のロックマンに遭遇してキュピレットの花を渡した、と簡潔に話したのだが、「まだいろいろありそうね」と所長はニヤニヤ笑っていた。
*
扉がお店の人が顔を出し、頼んでいた料理を持ってきてくれた。私は荷物持ちをして所長とハーレへの道を戻る。その途中、花屋の前で所長が足を止めた。
「……私も花を買ってこようかしら」
「じゃあ、私は氷菓買ってきますね。氷菓ならゾゾさんも食べれると思いますから」
暑いくらいの天気なので氷菓は大人気だ。屋台に行列ができている。
「あ、ナナリー。目立つ魔法は使わないのよ!」
「はい!」
ウォールヘルヌスの直後は救国の魔女と騒がれた私だけれど、前と変わらずハーレの受付に座り続けているので破魔士やハーレの依頼人から特別視されることは減っている。それでも、公衆の面前で大っぴらに氷の魔法を使うと人々の注目を集めてしまう。ただでさえ髪色が目立つので気を付けるようハーレの人たちに言われている。
ハーレの先輩たちに叱られるのは仕方ないけれど、なぜかロックマンが詳細を知っていて、ちょっと街中で騒がれただけでチクチクと嫌味を言われる。理不尽である。絶対に私よりもロックマンの方が女性に囲まれて騒がれているはずだ。
「お嬢ちゃん、どれにするかい?」
「えーと、四つ欲しいので、全種類お願いします!」
氷菓が出来上がるのを待っていると所長が花を選んでいるのが見えた。所長の「恋人みたいな人」にあげるのだろうか。
*
昼食の後、所長室に呼ばれた私は来客用の長椅子を勧められた。いつもは所長が執務机に座って私は立って話を聞くので、所長と向かい合って話すなんて妙な気分である。
せめてお茶を淹れようとしたのだけれど、結構な量の昼食を食べ、食後に氷菓も食べたので、いまは要らないとお断りされてしまった。
「何から話をしたらいいかしら……」
片頬に手をあてて所長が軽く小首を傾げる。
「あなたは救国の魔女よ、ナナリー。あなたの実力なら王族の近衛騎士にもなれるでしょうし、騎士団も宮廷魔術師団も引く手あまたでしょう。私はあなたの意志を尊重する」
「……よくわからないのですが、私がハーレを辞めるという噂が流れているということですか?」
膝の上で手を握りしめる。私はハーレを辞めるつもりなんてないのに、どうしてそんな噂が流れているのだろう。
「噂が半分、ハーレの先輩としての助言が半分という感じかしら?」
「助言ですか?」
「私は独身だけれど、結婚した女性の職員を何人も見てきたわ。うちは夜勤もあるし、国外に出張もある。子育ての間は一度辞めたり、非常勤になる人がほとんどよ。あなたのお母様は考古学の研究者でしょう? あなたが小さい頃はどうしてた?」
「母が考古学の仕事を始めたのは私が魔法学校の寮に入ってからです。それまでは村で簡単な仕事はしていましたけど、お手伝いの範疇でした」
所長がゆっくりと頷いた。話が嫌な方向に流れる予感がして私は気分が重くなる。
「あなたがロックマン隊長と結婚したら、あなたは侯爵夫人になるでしょう? 侯爵夫人の務めを果たしながらハーレの受付で働き続けるのは難しいのではないかしら? 私たち平民が思っているよりも貴族は務めが多いのよ」
それは私も知っている。侯爵家の跡取り娘として教育を受けているマリスからいろいろ話を聞いているからだ。
「貴族は領地の経営と管理をして領民を守る役目があるの。侯爵ともなれば国の守りも任されているわ」
「それは知ってます」
「そうよね、あなたは貴族や王子と仲がいいものね。領地の管理や守護はあなたに向いてそうだと思うけれど、貴族には社交があるでしょう? 一種の情報戦ね。花神祭の夜に宮廷晩餐会へ出席するのは必須だし、お茶会や夜会も頻繁に開かれるわ。あなたが招かれることもあれば主催することにもなるでしょう。ハーレの仕事と両立するのは厳しいわよ」
私はごくりと唾をのみこんだ。貴族の御婦人や令嬢が煌びやかなドレスを着てうふふ、おほほと腹の内を探りながら上っ面の笑顔でお喋りすることの何が楽しいのだろうと思っていたが、ちゃんと意味があったのだ。
「その点、宮廷魔術師は最低限の務めを果たせば拘束時間が短くてかなり自由が利くわ。あなたへの負担は格段に減るでしょう」
「それはそうかもしれませんが……」
「それだけじゃないの。宮廷魔術師は実力のある貴族ばかりだもの。平民出身とはいえ、氷の始祖級の侯爵夫人に失礼なことをするようなお馬鹿さんはいないと思うのよ」
「失礼なこと?」
「ロックマン隊長──フォデューリ侯爵の怒りを買うようなこと、よ。たとえば……今はまだ平民や下位の貴族があなたを口説いたりしても法律的には問題にならないわ。恋人の隊長さんから痛い目に遭わされるぐらいでしょう。しつこくあなたを口説いただけでは罪には問われない」
「ちょっと待ってください!」
ひっかかる言葉がいくつもあったんですけど!?
「法的な問題とか罪って何です? それに、ロックマンが痛い目にあわせるってなんですか!?」
「やっぱりナナリーは気づいてないのね」
所長が苦笑いをする。自分の知らないところでとんでもない事態が起きてる気がする。
「焦らなくても大丈夫よ。あなたが不利になるようなことを隊長さんがするわけないでしょ? 恋人からの牽制、あるいは警告の域は出てないから。相手が何か罪を犯している場合には容赦無いけれど、それは私怨じゃなくて騎士団として法に則って対応してるし」
つまりロックマンが何かしているのは確実ってことだ。私は冷や汗をかいているが、所長はちょっと困ったように眉を下げて、それでもにこにこと笑っている。
全然笑えるような話ではないと思うのだけれど、所長みたいに大人の女性には笑い話で通じるのだろうか。
「……でもね、あなたが婚姻で侯爵夫人になった後はそれだけじゃ済まされないの。平民が貴族に無礼を働いたら、法的もしくは社会的制裁をくらっても文句は言えない。それはあなたもわかっているわよね?」
急に所長の声が深刻さを帯びた。さっきの話は冗談だったのかもしれない。きっとそうだ。
「はい。貴族と平民の間には身分差がありますから」
「魔法学校では教育上は貴族と平民を差別しないけれど、貴族の子弟によっては平民に傲慢な態度をとることもあるわよね」
当然ながら所長も魔法学校を卒業している。ハーレの所長は貴族が要職を占める国の各機関や騎士団と直接やり取りをする立場でもある。ゼノン王子のように平民と対等に会話をしてくれる王族や貴族が珍しいことは私以上に理解しているに違いない。
「あなたはゼノン王子とも親しいし、ましてやロックマン隊長はあなたの恋人だもの。あなた達が言い争いをしてても恋人たちがじゃれ合ってるだけよ。でも、個人的に親しくない貴族に対して平民が怒鳴ったり、なれなれしい態度をとったり、口説いたり、恋人になるよう迫るなんてありえないでしょ?」
後半部分はともかく、ロックマンと私が恋人……からのくだりは承服しがたい。ロックマンとは恋人になる前のほうが絶対言い争いが多かったと思う。
だが、ここで所長の勘違いを指摘していると話が進まないと思ったので私は大人しく会話を続けた。
「もちろんです。私の地元の村で領主様にそんな態度を取ったりしたら、村から追い出されても文句は言えません」
「そうよね。でも、あなたがロックマン隊長と結婚して侯爵夫人になった後、平民と同じようにハーレの受付に座っているから気安く接しても大丈夫だろうと考える人が出てくるかもしれないわ。その結果どうなると思う?」
「……場合によっては不敬を働いたと罪に問わるかもしれないんですね?」
所長が何を言いたいのか私はようやく理解した。もしも──あくまでも仮定の話であるが──私がロックマンと結……婚して、貴族の仲間入りをしたら、ハーレに不和を持ち込むかもしれないということだ。
「たとえあなたが何とも思っていなくとも、あなたが貴族になれば周りは対応を変えなくてはいけないの。これまでハーレに貴族の職員が在籍したことはないから、正直、私にとっても未知数だわ」
私の将来がハーレに迷惑をかけるかもしれないなんて……そんなこと考えたことなかった。
でも、はっきりとわかっていることがある。私が何の仕事をしたいかなんて決まっている。
「私はずっとハーレで働いていたいです」
「……そう。嬉しいわ。数年後の話になるでしょうけれど、対策は考えておくわ。騎士団は貴族と平民が混ざっているから参考になることもありそうね」
所長の晴れやかな笑顔に私はホッと安堵した。たとえ噂であっても、結婚や子育てという働く女性が直面するであろう問題を先回りして心配されただけであっても──私がハーレを辞めるつもりだなんて勘違いされるのは辛いことだ。
私はハタと気が付いた。これは私がロックマンと結婚することを前提とした話なのだ。所長の盛大な勘違い、あるいは思い込みでハーレの就業形態の変更に関わる仕事を増やしてはいけない。ただでさえ所長は仕事を大量に抱えているのだから。
「所長、ロックマンが私と結婚するつもりはないと思いますよ」
「何を言っているの。隊長さんがあなたを手放すわけないじゃない」
所長はきょとんと目を丸くした。
「いやいやいや、ロックマンは女好きですし、相変わらずモテモテですし、婚姻の自由を得たのですから世界中から相手を探せるんですよ。私なんかよりもっと綺麗で色っぽくて……世界一の美女みたいな女性を結婚相手に選ぶと思います」
「ナナリー、あなた……」
唖然としたように口を開けた所長は、何も言わずにハァーと大きな溜め息を吐いた。額に手を当てて首を左右に振る。
「……ナナリー、それ、絶対にロックマン隊長に言っちゃだめよ?」
「え? なんでですか?」
「その足で婚姻届を提出させられるわ。それでもいいの?」
「はぁ!?」
「あのね、ナナリーは誤解してるみたいだけど、隊長さんはあなた以外の女性は眼中にないし、他の女性に優しくしていたとしてもそれは女遊びじゃないのよ」
「え!? 女遊びじゃないってどういうことですか?」
所長は眉を下げて、困った子を見るような目で私を見た。
「彼は女性を口説いてるんじゃないのよ。彼には女性の美点がよく見えているのでしょうね。どんな女性でも褒めることができるし、紳士として女性を丁重に扱うことができる。彼のその姿勢に嘘はないわ」
私が何を誤解しているのかはわからなかったけれど、所長のロックマン評は腑に落ちるものがあった。ロックマンが女性を口説いていないという点は甚だ疑問だが。
「でもそれって、恋じゃないでしょ?」
「恋じゃない?」
よくわからない。私はパチパチと目を瞬いた。
「小さな女の子もおばあさんも平民の若い女性も貴族令嬢もみんな彼にとっては優しく丁寧に接する対象。だから賛辞を惜しまない。でも、ただそれだけの存在よ。恋愛感情からくる行動じゃないのよ」
「そうなんですか?」
「私はそうだと思うわよ。……とはいえ、彼はちょっとやり過ぎね。あんなにいい男なんだもの。彼に可愛いとか美しいとか褒められたら女の子は舞い上がっちゃうわよね。好きになっちゃうわよ。そういう意味では女泣かせの悪い男だと思うわ」
うんうん、と大きく頷いた。所長の言うとおりだ。アイツは天性のタラシで女泣かせである。
「でもあなたと話をするときは全然違うじゃない?」
「それは女として見られてなかったからですよ」
所長はまた眉をハの字に下げて、困ったように微笑んで黙ってしまった。言葉が通じなくて困っている感じだ。
私はそんなに駄目な子なんだろうか。所長の話はところどころわかるのだ。でも結論部分がよくわからない。丁寧に説明してくれているのに、あまりにも理解が遅くて申し訳なくなってくる。
「うーん、彼の自業自得かしらね。私がこれ以上口をはさんでも野暮よねぇ……」
小さな声で何かを呟き、顔を上げた所長はニッコリと笑った。
「早いところ隊長さんと将来の話をしたほうがいいわ。彼はあなたの恋人なんだから」
「は、はぁ」
「いい? ナナリー、何度も言うけど、あなたは彼の
ずすいっと身を乗り出すようにして所長が笑顔で念を押してくる。所長命令ということだろうか。私はロックマンと話をしなければならなくなってしまった。