俗物な転生者が天竜人になるようです 作:ロースカツ提督
親戚のドンキホーテ・ミョスガルド聖が改心したのがつい最近なこと、ゼファー先生の右腕が無事なこともあって今は原作(新世界編を準拠して)の10年前と思われる。
つまり今年中あるいは既に、ナミの故郷がアーロンに占領されたり、親戚のおっさんがドレスローザを偸んだりしているのかもしれない。……いや、まだあの41歳も今は31歳だからおっさんは酷いか。つい最近まで20代ならおっさんじゃないよね?
俺としては直近のナミやドレスローザの原作イベントには関わるつもりはない。というか、できないと言ったほうが正しいか。俺個人の力ではドフラミンゴ・ファミリーたちを倒して国をリク王家に取り戻させることはできない。天竜人としての権威を使っても大してアテにはできないだろう。
ナミについては魚人海賊団は正直、単独でもなんとかできそうな気がする。だが、俺という天竜人が関わったことによる影響が恐い。俺が干渉した話を聞きつけて、魚人を狩ろうとする天竜人たちが、ナミたちココヤシ村の村民を巻き込んだ人狩りゲームをやり始める……なんてこともあり得るんじゃないだろうか?
そんなわけで、俺は実力で事態を解決できる自信がないこれらについては関わるつもりはない。
現状、俺は自分のための目的を達成させるために努力することで精一杯なのだ。
……そんなことを考えつつ、俺は地面に転がっていた。演習のために乗り込んだ海賊船を覇王色の覇気で制圧してようやく帰ってこられたからだ。きっと集中が切れて思考が現実逃避気味になっているんだろうね。
「死ぬかと思った。ってか何度か心臓止まったと思う!」
「帰りたいならば、帰ってもいいぞ。きつい特訓もやめてやる」
寝転がったままの俺を見下ろしながらゼファー先生は言った。俺が帰るわけないと分かっているくせに……。
「くそぉ、強ぇ悪魔の実を食べてさっさとパワーアップしたい……」
「能力ってのは研ぎ澄ませば研ぎ澄ますほど強くなる。そのためには鍛え続ける必要があるのだから、悪魔の実を食べてその力を使うだけでは力不足だ」
ゼファー先生の言う通りではあるんだよなぁ。イトイトの実やビスビスの実みたいに大して強くは無さそうな悪魔の実でも能力者が研鑽を続けたからこそ強大な力を発揮できるようになったわけだもんな。食べてから、それ以降の鍛錬も必要なのは変わりないんだ。
「さて、休憩は終わりだ。ダンテ、今度は両手両足縛ってジャングルに放り出すから、覇王色で一時間耐えろ」
「ええ……」
まさかあの雑談が休憩タイムだったの? 5分も経ってないよ?
「ゼファー先生、覇王色の覇気というのはそれほどまでして使うことに意味があるのですか? 有象無象を威圧する程度であれば他の覇気を鍛えたほうが良いのではないでしょうか?」
「いや覇気を極めれば、覇王色を武装色みたいに纏って強化することもできるぞ。ロジャーや白ひげがやっているのを見たことがある。だが、俺は覇王色の覇気を持たないからできねぇ。そこから先はお前が自分で会得するしかねえ」
俺の特別課題にドン引きしたアインの質問にゼファー先生は答えつつ、彼は俺を捕まえた。
「つーわけだから」
俺はゼファー先生に掴まれたと思った次の瞬間には拘束されていた!
「は、速すぎる!? これが海軍の逮捕術なのか!?」
「ジャングルへ行ってきな! 覇道は自分で学んでこい!」
「ぎゃああああああああああああああああああ!」
あっという間に拘束された俺は砲弾のように、ジャングルめがけて飛来した。
「あ、あんなに高く投げ飛ばしてしまったらダンテが死んでしまうのでは?」
「覇気も使えるから心配要らねぇよ。ガープはシキの奴にどんな高さで落とされても無傷だったぜ」
「それはガープ中将がおかしいのだと思います」
ゼファー先生とドン引きするアインの話が聞こえたが、俺は地面への激突に備えて武装色の覇気を使うことに精一杯だった。
両手両足縛られて目隠しされて、海賊船に放り出されたり、ジャングルに放置されたりする日々でも俺はコソ練はやめなかった。
今日も自分の身長よりも大きな鉄材を相手に武装色の覇気の鍛錬をしている。やっていることはワノ国でルフィが体得した覇気を流すことによって、直接触れずに対象を弾き飛ばすことができる技術だ。
心の中のヒョウ五郎親分に叱咤激励されながら鉄材を殴りつけ鍛錬を続けていた。正式な師匠がない指導ではあるが、原作を読んで覇気を流すことで触れずに攻撃することができるのだと信じられる。そして信じて疑わないことが覇気の鍛錬には大切なことなんだ。
ゼファー先生からの指導と原作知識を持つ俺は覇気の習得について大きなアドバンテージがあるのだと言える!事実、先生の生徒で俺以上に覇気の習熟度が高い生徒はいないからな。
俺がオーバーワーク気味に鍛錬をしているのは理由がある。原作の新世界編から遡って9年前に起きるはずのゼファー先生と生徒を乗せた演習艦が海賊に襲撃される事件でゼファー先生は右腕を失い、乗っていた生徒はアインとビンズを除き全滅する。これはゼファー先生がZになってしまう要因のひとつになる。
この襲撃事件、ただ自分のことだけを考えれば生き延びるだけの実力があれば生き残る生徒たちの一人になればいい。しかし、それほどの大事件が起きてしまえばゼファー先生の指導を今後も受けることが難しくなると思う。俺は原作イベントに干渉、ましてや改変するようなことは避けるべきだろう。だが、ゼファー先生の指導が無くなることが今後俺の人生設計に差し障りが出る。そのリスクを思えば、原作イベントであっても俺は変えたいと思う。
そう、これは誰のためでなく、自分の目的のためだ。
◇◆◇
今回の演習艦が原作での襲撃事件が起こる演習艦である可能性が出て来た。俺がそう考えたのは、イレギュラーを確認したからだ。通常、演習艦を使うとき、生徒が全員乗り込むわけではなく陸に残り訓練する訓練兵もいる。その中でもアインが演習艦で演習しているときはビンズが陸に残り別内容の訓練をし、アインが陸で訓練しているときはビンズが演習艦で演習をすると言ったように二人が揃って演習艦に乗ること今までなかった。だが今回初めてアインとビンズが揃って演習艦に乗ったのだ。
そんなことを考えているとアインは嘆息を吐きながら近づいてきた。彼女は今回の演習艦に乗り込む訓練兵は殆ど新たに加入した新米たちが大半であったことで海賊討伐への不安を感じているようだった。ゼファー先生が乗り込んでいるし、先輩としてフォローするつもりだけれども、それにしたって限度があるからな。
「それに今回の演習艦のアンチョビ艦長は艦戦が得意ではないらしいのよ。この演習は艦長にとっての演習でもあるわ」
なるほど、アインが不安に思うのは艦長の能力のこともあるのか。相手の海賊が手練れだったら艦戦で負けることもあり得るからな。
「まあ、ゼファー先生もいるんだし、いざという時にはなんとかなるだろう。船のほうは兎も角として備え付けの救命ボートは頼りになりそうだ。そう思っておこうじゃないか」
そうね、とアインは返してくるが、今回の演習が無事で終わらないことは俺自身がよくわかっているのだった。
嫌な予感というのよく当たるものだ。海賊だったという弟をゼファー先生に打倒されインペルダウンへ投獄されたという船長が率いる海賊団が襲撃してきた!
「ゼファー! てめえにやられた弟の仇、取らせてもらうぞ!」
「てめぇら!」
海賊たちの練度も高く、教習艦が追い詰められて、接舷を許してしまった。
海兵への恨みをゼファーと訓練兵を相手に晴らそうと意気揚々と、海賊たちがやってきた。船長自らが先頭を走りやって来た。
「クソ!」
「海のクズどもめ!」
唐突な事態になり、緊張した訓練兵の一部がサーベルを持ち、斬りかかった。勢いにまかせたがむしゃらな太刀捌きだが、海賊を数名斬り伏せた。
「おい、やめろお前たち! 退け! 俺のところまで戻るんだ!」
ゼファー先生が訓練兵に呼びかけるが、武器を握り、興奮している彼らにゼファー先生の声は届かない。
ゼファー先生の声に劣らない叫びを、船長があげた。
「雑魚どもが!」
船長は左足を一歩踏み出して、半身の姿勢になって肘を引いた。
「おおりゃっ」
ひっ裂くような絶叫と同時に、右腕を突き出した。その右腕はまるで焼けた鉄のように赤く発熱している!
手は拳を握ってはいなかった。船長は親指だけを曲げて、四本の指を揃えて伸ばした貫手を放つ。鋭く振るわれた貫手は迎撃していた訓練兵たちの身体を、まるで薄紙のごとく突き抜けた!
ジュワッと肉が焼けた音と嫌な臭いがする。腕はすぐに引かれて、背を向けて逃げようとする訓練兵へ拳骨となって迫る。
「やめろ! てめぇぇぇらっ!」
いかに海軍大将を務めたゼファー先生と言えど、腕の立つ海賊たちに囲まれて訓練兵を庇いながらの戦いでは本来のポテンシャルを発揮できない。それでもゼファー先生は近くにいた海賊を掴み、手裏剣のように船長へ投げつける。
「ふんっ!」
船長は腕を横薙ぎ振るって、飛来する部下を弾き飛ばす。そして腕を振り切ったところをアインが
「甘めぇ!」
ガキィィンと金属同士がぶつかり合ったような音が響く。アインの持ったサーベルがへし折れる。
焼けた鉄のようになった腕がアインに迫り、彼女の身体を貫こうと──
「舐めるなッ!!」
────する前に、俺がその腕を軍刀で斬りつける。
武装色の覇気を纏わせた剣戟だ。刀そのものは無銘の量産品だが覇気を纏わせれば銘ありの業物にも劣らない切れ味だ。
「────────ッ!?」
硬い。腕を切り落とすつもりで振るったが、アインへの攻撃を逸らせるだけだった。
体を鋼鉄のように硬くすることも、さらに焼けた鉄のように身体を赤熱させることもできる。あまりに予想外なことに緊張が身体を奔り抜ける。
「お前のその力、もしかしてカチカチの実か!?」
「ほう、俺の力の正体に気づいたか」
船長は好奇と嘲笑が混じった傍若無人な目で俺を眺めていた。
「俺はカチカチの実を食べた鋼鉄人間! 赤熱する俺の身体は武装色の覇気によりさらなる高みへと昇り詰める! ゼファー共々お前らの頭蓋を叩き割ってやるわ!」
……どうみてもこいつ、
なんてこったい、まさかここでイレギュラー発生するのかよ!?
一話に詰め込もうとしたら終わりませんでした。