俗物な転生者が天竜人になるようです 作:ロースカツ提督
エンピレオ聖の父親であるプルガトリオ聖はキリギリスの越冬の仕方を研究しながら、憂いていることがあった。
それは息子がいまだに奴隷を飼うことも、妻を得ることもしていないことである。
「我が息子は、なぜ好みの奴隷を求めないのかえ? 妻を求めないのかえ?」
プルガトリオ聖は知る由もないことだが、彼の息子は異なる世界から転生した人物だった。前世の名は失われ、名をエンピレオ聖と改め、世界貴族の地位を得た。前世での価値観と世界貴族の価値観に戸惑いつつも、順応して、生来の性癖もあって世界貴族らしく奴隷を持つこと自体には前向きだった。
前世の価値観ではクズや外道と形容されるような行為でも、趣味や性癖によって奴隷を買ってやってみたいこと、下々民を手に入れてみたいと思う俗物だ。
しかし、エンピレオ聖には奴隷を買うことよりも優先すべきタスクが存在して、それは自身を鍛えて強くすることだ。だがそれをプルガトリオ聖は息子が下々民の群れに入って遊び惚けている蕩児と判断することになった。
遊び惚けている息子に困っているときだ。女を知ったことを報告された。余程楽しい経験をしたらしいことはわかった。だが、プルガトリオ聖はここで考えた。
「我が息子は、なぜ気に入った女を妻に求めないのかえ?」
気に入ったもの、好物ならば欲して手に入れる。幼児でもできることだ。それを息子がしないことが不可解だった。その癖、刀や悪魔の実など器物で欲しいものは要求している。何故奴隷を求めないのか。
そしてプルガトリオ聖が思い当たるのは、かつてマリージョアで起きた奴隷たちの叛乱と脱走事件。あの時の混乱と奴隷たちの蜂起を幼い頃に経験したエンピレオ聖の心に
奴隷からの反抗を恐れた、奴隷を持つことができない憐れな息子。
確信した父は奮起した。
かならずや、息子が好む美女を捕まえて奴隷にして、彼の妻にしてやろうと。
ドンキホーテ・プルガトリオ聖。奇矯な世界貴族として彼らの間では有名だったが、息子への情は本物であった。
エンピレオ聖の話からすぐにステューシーを特定できた。奴隷として確保してあとでCP0のエージェントと知るも「世界政府の人間であろうと知ったことではない。下々民は我らの奴隷となる機会を
そうしてプルガトリオ聖から是非とも妻にとプレゼントされた奴隷こそ、エンピレオ聖が前世から知る女であり、今生での初めての女でもあったステューシーなのである。
◇◆◇
事情を訊いて俺は頭を抱えたくなった。つまりステューシーが俺の奴隷……妻になったのは俺が親父に話しちゃったせいじゃん!?
カリファを飼うつもりだったし、人間屋で奴隷を買うつもりでもあったので、ステューシーが俺の妻になってしまったことについて正直罪悪感は意外と薄かった。
むしろ、この世界は原作通り進められるの? 大丈夫? という不安ばかりだった。ステューシーが奴隷に身をやつしながらも世界政府の看視者を請け負うほどステューシーは世界政府や世界貴族に忠誠心があるとは思わない。
それだったらベガパンクのスパイとして、世界政府に疑われない為に請け負った役割はしっかりこなすということのほうが考えられると思う。
(ベガパンクのためならルッチたちを裏切ったもんな。徹底的に献身するとは思えないけど……)
いや、スパイでも監視役でもなくただ奴隷になってしまったという可能性もあるんだけどね。彼女の取り澄ました態度がどうにも気になってしまう。
悩んでいても今更どうにもならないので、もうどうしようもないんだけどね。
「えっと、よろしくお願いね」
「よろしくお願いします。旦那様」
天竜人の妻となった悲壮感を感じられない、完璧な笑顔なのが凄く怖い! と俺が内心ビビっていると、マリューがやって来た。
「若様、ご所望でしたものを持参して来ましたので、ご確認頂いてもよろしいでしょうか」
「ああ、そうしよう。ステューシーはサロンのほうで待っていてくれ」
「かしこまりました」
天竜人が聖都マリージョアの外の街の店まで出向くことは珍しい。俺にはそれが意外ではあった。原作ではシャボンディ諸島へ天竜人が出向いているシーンとかあるし、FILM:GOLDでもグラン・テゾーロへも行っているしな。
商人は呼び出しが基本というのは転生して初めて知った。
本日はマリージョアの屋敷ではなく、この別邸とも言える島に天竜人御用商人を呼び出していた。天竜人御用商人は、天竜人にしか取引をしない商会のことである。その業務は多岐に渡るが、ようは天竜人に物を売ることこそが本業である。
「この度は我がカドケウス商会をお呼び頂き誠に光栄にございます。店主を務めております名前をドミトリウスと申します」
恭しく頭を下げた商人のドミトリウスに、俺はなるべく威厳のある返事をする。下々民の商人相手にナメられるわけにはいかないのが世界貴族だ。
気軽に殺傷するとかはしたくはないが、あんまり天竜人らしくないことをして悪目立ちはしたくないからな。
挨拶に続いて、ご機嫌伺いのような軽いやり取りが続く。
「商品の準備ができているのか、楽しみだな」
「勿論でございますとも。当商会の用意できる最高の商品をご用意させて頂きました」
土下座と見紛うばかりに頭を下げて平伏するドミトリウスに、マリューが商品を搬入することを許可した。
従業員と思われる男たちがいくつかの木箱を持って部屋に入ってくる。
その男たち机に木箱を横一列に並べると、それぞれ蓋を開けると俺の方に向き直ってから無言で跪いた。
「ほう」
並べられた12個の箱には刀が入っていた。俺が欲しいからと取り寄せさせたのは刀だ。全部買うとは言わず、いくつか用意してもらってその中から選ぶようにしていた。
箱に収められていた刀たちには、訓練施設にあった量産品の刀にはなかった気配を感じ取った。まだ鞘に刀身が納められているのにこれだ。かなり期待できそうだ。
それだけの優れた刀を集めて見せた、この御用商人のレベルの高さがひしひしと伝わってくる。
「よろしければ、端からご説明をしたいと思うのですが」
俺の様子を見てドミトリウスは少し気が楽になったようだった。掴みはバッチリ、そう思っているに違いない。実際にバッチリだった。
俺は説明することを許可する。
「では左側から順番に」
ドミトリウスは刀を手に取り、抜刀すると従業員の男が鞘を預かった。警備の衛兵が警戒して殺気立っているが、それに臆さないドミトリウスたちは大した胆力だと思う。
「こちらの刀は良業物で銘を月冴になります」
良業物か。ゾロが使っていた雪走と等級が同じ刀か。いい刀だな……。
そうやって眺めているとドミトリウスが刀身の特徴などを説明し始める。
するとマリューが口を開く。
「それは信用できるものですか?」
「は。こちらをご覧下さい」
ドミトリウスからマリューに紙の束が渡された。目録や鑑定証なのだろうか。
随分と準備の良いことだ。
マリューはそれらを手早く確認すると、ドミトリウスに返却した。問題はなかったらしい。
「手に持ってみても?」
「勿論でございますとも」
月冴を握り、振るってみる。うん、いい刀だ。それからしばらくの間、刀の紹介が続いた。
やはりどれも自慢の商品だけあるようだ。じっくり観察してもなまくらは出てこない。刀身や拵えが良くて手入れも徹底されていると感じる。
だが、最後の一本だけは違ったようだ。
「最後のものですが、申し訳ございません。まだこの刀は先日入荷したばかりで我々としても扱いきれているとは言えないものでして」
ドミトリウスが心底申し訳無さそうな口調で弁明し、頭を下げる。
「構わない。見せろ」
「かしこまりました」
列の一番右端で配置された刀をドミトリウスが恐る恐る掴むと刀身を露わにする。
刀身を見て俺は息を吞む。
刃渡りは優美な反りを持ち、そして刀身の皮金と刃の皮金は波紋も見えないほどに銀色に溶け合っていた。
これは他の刀とは一線を画する凄味がある!
「もしかすると最上大業物か?」
「ご認識の通りでございます。最上大業物12工の一本、銘を
最上大業物! ゴール・D・ロジャーの愛刀エース、白ひげのむら雲切、ミホークの夜に並ぶ名刀が! 原作にも登場していない刀が俺の前にある!
俺は昂りをばれないようにするのに苦労した。
「出来れば、遮那王の試し斬りしてみたい。他にも試し斬りをしたい刀がいくつかある」
遮那王はとんでもない刀だった。光月おでんやゾロが使っていた閻魔みたいなとんでもない問題児だったのだ。
ドミトリウスたちが怯えていたのもよく分かる。使い手の覇気を強制的に引き出してしまう妖刀めいた特性があった。ドミトリウスたちは命を吸われると怯えていたが、俺は閻魔を知っていたのですぐに特性に見当がついた。
「島の一部を斬り裂いてしまうとは、素晴らしい切れ味だ」
だが一振りをしただけで、俺の腕は窶れて枝のような腕になってしまっていた。
マリューはもちろんドミトリウス、そして従業員の男たちもその腕の様子に固まっていた。持ち込んだ刀によって天竜人の腕が急激な異変をもたらしたのが、害を齎して無礼なことだと思ったのだろう。
「わ、若様! 腕が……!」
その言い方だと喰われちゃったみたいじゃん。ちゃんと繋がっているよ。
「覇気を一気に吸われて身体がビックリしただけだ。じきに慣れるよ。これはいい刀だな、これを買うよ」
「えぇ!?」
結論から言うと俺は刀を二振りの刀を購入した。
最上大業物12工・
大業物21工・
悪路王も閻魔といい勝負しそうなかなり個性が強い刀なのだが、だからこそ遮那王と同じくうまく使いこなしてみたくなった。奪う覇気も遮那王よりは少ないし、身体も既に干からびることもなく慣れてきた。
二振り買ったのも普段は一刀流で戦う俺だが、光月おでんみたいに二刀流を使ってみたいと思うので練習を続けているからだ。
だからいつかは遮那王と悪路王の二刀流でおでんの技を再現してみたいな。あとで練習しよう。
「悪魔の実は? 持ってきたのだろう?」
「はい、ご所望の品はこちらにございます」
ドミトリウスが鍵つきの箱を取り出すと、中身を見せてきた。紫色のトマトのような形をした果実がそこにはあった。
これだ、ゲームで見たものと同じ形状の悪魔の実だ!
「
ついに出会えた欲しかった実だ! これはゲーム『ONE PIECE アンリミテッドワールド レッド』で登場した悪魔の実だ。
俺が食べたい悪魔の実はなんだろうかと考えたときいくつか候補があった。ワプワプの実やスケスケの実のような便利でロマンのある
あるいはメラメラの実か、もしくは原作には出てないような自然系の悪魔の実を食べたいなとかを考えたが、これだ! と決心がつく悪魔の実が決められなかった。そこでふと脳裏によぎったのはこのバットバットの実だ。
この果実は食べた者を吸血鬼人間に変える。そして他者から若さを奪い、自分のものとして相手に老いや若さを与える力を持つ。つまり不老の存在となる。
ゲームで食べた能力者はロジャーと同世代の大海賊パトリック・レッドフィールドで、彼は老いへの恐怖から解放されるためにこの果実を求めた。しかし、俺がこの果実を欲したのはレッドフィールドとは別の目的だ。
俺が求めた理由、それは俺やハーレムの美女たちを不老にしてずっとイチャイチャできる力が欲しいからだ!
考えてもみてくれ、俺が飼いたいカリファは勿論、宝石よりも眩く美しい美女もいずれは年老いてしまう。だけどこの悪魔の実の能力を使えば老いることなく人生を生きてずっとイチャイチャできるんだ。最高じゃないか!?
動物系の高い身体能力とタフネスを手に入れることなんてオマケみたいなもんさ!
「いい仕事をしてくれた。こちらも買おう」
マリューに購入の手続きを任せて俺は悪魔の実に齧りついた。
「まっず~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!」
あまりの不味さが衝撃的過ぎた。今の俺、顔面がシュガーを卒倒させそうなレベルに変形していそうだ!
◇◆◇
「それで、お前は能力者になって帰ってきたわけか」
「そうだよ。バットバットの実を食べた吸血鬼人間さ」
ゼファー先生の言葉に俺は首肯した。
吸血鬼人間になっても俺は日光を浴びても問題ない。まあ、ゲームでもレッドフィールドが太陽のもとで傘をさしていても、日光を浴びることができないとは言われていなかったので、俺もそこの心配はしていなかったけどね。
訓練施設では振るう機会がない遮那王、悪路王はマリューに預けてステューシーもマリージョアで滞在してもらうことにした。良識あるマリューに頼んだので、言葉を変に解釈して家畜同然に扱うとかはない……ハズだ!
「動物系は同じ動物系に聞くのが一番だ。動物系能力者の海兵を俺は知っている。そいつに電伝虫かけてやるから、それで能力の使い方のコツを覚えろ」
ゼファー先生はそう言っては訓練の日々は再び始まった。でも、今度は身体動かして能力も使うことができる! なんて自由なんだ! 清々しい気分だ!
こうして瞬く間に時は過ぎ……
長年空位だった四番目の皇帝の座をシャンクスが奪い、四皇と呼ばれるようになった。
バーソロミュー・くまが一人革命事件を起こして、ソルベ王国の新たな国王に就いた。
このように世界では様々な動きがありつつも訓練島での日々は平和に過ぎていった。
「安全な訓練島で俺が教えてやれることは終わりだ。あとは実戦の中で磨いていくしかねえ」
「安全……?」
俺の修行期間のほとんどは両手両足縛られて目隠しされて、海賊船に放り出される日々だったんだけど!?
まあ、わかるけどね。たしかに新世界とか比べたら安全ってのもわかるよ。原作シナリオと比べたらマシだもんね。だけどなんか釈然としないんだよなぁ。
「ダンテ。あなたは海兵にならないと訊いたけれど本当なの?」
「ああ、しばらくは武者修行しながら見識を広げるために軽く世界を旅したい」
「そう、心配はないとは思うけれどくだらない騒ぎを起こして、先生の顔に泥を塗るようなことはしないようにね」
「勿論、わかっているさ」
俺は
「ゼファー先生! 三年間ありがとうございました!! んじゃまたな!」
「……馬鹿野郎が、慣れねえ敬語使うなら最後まで取り繕えってんだ」
ドンキホーテ・エンピレオ聖
覇気を奪う刀二振り持っていてもすぐに慣れちゃうオリ主。
ワプワプの実を食べたら連続ワープで敵を翻弄しながら高機動キャラになっていた。
バットバットの実
動物系幻獣種モデル“ヴァンパイア”。エンピレオ聖のエロ目的のために求められた悪魔の実。
独自設定&独自解釈で盛られていく予定。
マリュー
有能なメイド。外見イメージは名前の由来であるマリュー・ラミアス。
アイン
エンピレオ聖があんまり好感度を稼ぐイベントが発生しなかった美女。エンピレオ聖とは仲の良い程度。
ゼファー先生
本人の知らないうちに闇堕ちフラグが消えた人。オッサンだけど通してみればエンピレオ聖が一番好感度稼いだ人。
そんな感じで修行パートが完結です。そして特に引っ張る必要もなかった気がする悪魔の実の判明回でもあります。ただ強さを追及するならこの時間軸でならまだ能力者がいないメラメラの実とか自然系のほうを食べさせたほうが良かったんですけどね。本作は主人公が俗物故に選ばれた悪魔の実も本編のようになりました。
細かいことはフィーリングですが次回以降、ヒロイン追加するイベントを書いてようやくカリファの登場かな?と考えています。