「何時までこうしてりゃ良いんだよ」
誰かがそう毒づくのを聞きながら、アタシはマスケット銃を壁に立てかけたまま、すっかり冷えたじゃがいもに齧り付く。
蒸してあるとはいえ、夜の冷気のせいで芋はアタシが今座り込んでいるこの石の床見てぇに冷えており、歯ごたえもそれに準じて硬い。
「まずぅ」
思わず声に出てしまうぐらい侘しい夕食だ。砂利混じりの根菜を噛みしめるたびに奥歯がガリリと鳴って、惨めさと切なさと底冷えに、吐息が白くなるのを感じる。
せめてもう少し外套にくるまっていよう。
傭兵団が街道の関所を占拠して一週間が経った。
この戦乱のご時世、街道は危険な東から比較的安全な西を目指して旅をしている難民達で溢れかえっており、関所の扉を閉じて道を塞いでしまえば通行税みたいな適当な名目で奴らから金目の物を巻き上げ放題、略奪し放題……というのが最初の目論見だった。
確かに最初のうち、それは上手くいった。
だが略奪によって多くの荷と人を失った難民たちの噂が口づてに広がったのか、奴らはすぐに近くの森にあるような抜け道を使って関所を迂回するようになり、半端に大世帯であった傭兵団はあっという間に食い物や金に困るようになってしまった。
「おいメリッサ、ちょっと来い」
そんな折に団長からアタシが呼ばれたのはそんな時だ。
「はい」と返事をして団長の下へと駆けよる。
すると団長はアタシを物陰へと連れ込んで、こう耳打ちしたのだった。
「実はな、さっき森を抜けた辺りで難民を満載した幌馬車を発見したんだ。護衛も大した数じゃねえし、こちらから先制攻撃を仕掛ければ簡単に狩れるだろうさ」
「お手柄ですね団長」
「なぁに……お前の言う通りにしたまでよ」この一週間、アタシは斥候役を買って
出て難民達の行軍ルートや行動範囲の情報を集めていた。
団長はそれらの情報をもとに待ち伏せして襲撃を企ていたのだ。
「それで、アタシは何を? 」
「まぁ待てよ……耳を貸せ」団長はアタシに次の指示を出した。それを聞いたアタシは思わず頬を緩ませた。
確かに、これはアタシにしかできねぇ仕事かも。
そしてこれを成功させれば大儲け間違いなしだ!
「了解です。やりましょう」と団長に返事をしてそうそう、壁に立てかけていたマスケット銃を引っ掴み駆け出したアタシは厩舎に繋いでいた駄馬未満の痩せ馬に飛び乗り、夜明け前の凍えるような寒さの中で夜の街道をひた走る。
空を見れば見事な三日月がまだ夜空に引っかかっている。作戦がうまくいってマトモな飯にありつけるようお月さまに祈ってみようかね。
■■■
数時間後、夜の間に降りた霜が日光に温められて森の中に霧が立ち込める中、アタシは斑の外套を被って木立の中に蹲っていた。
落ち葉や枝がチクチクするが、我慢我慢。半分だけとはいえエルフは森の子、緑の木々は半分の半分くらいは友達みたいなもんだ。
チクチクして不快だけども。
持ってきた遠眼鏡を覗くと予定通り難民を満載した幌馬車がノロノロと森の小径を進んでいる。どうやら朝早くから街道を避けて森の中を進んできたらしく、皆ずいぶんと憔悴しているようだ。
「さてと……」
アタシは遠眼鏡で隊列を確認しながら狙いをつける。標的は……幌馬車の御者台でウトウトしているあの男だ。
幸いなことに他に御者はいないようだし、御者台には喇叭銃片手に眠そうな目を擦っている護衛の冒険者を除けば呑気に居眠りしている野郎一人だけ。
御者台に居るヤツ以外の、他の護衛達は飛び道具に狙い撃ちされるのを恐れて馬を下りて散開しながら周囲を警戒している様だが、これは逆に好都合。無警戒かつ図体のでかい幌馬車は格好の獲物だ。
「悪く思うなよ……」そうつぶやきながらアタシは燧石を起こしマスケット銃を構えると、引き金に指をかける。狙うのは当然、居眠りしている御者台の男!
火薬が爆ぜるけたたましい音共に御者の男の頭が吹き飛びんだのを合図に、木立に隠れていた団長達が馬車に切り込みをかける。
「略奪の時間だァ!野郎ども、やれェ!!」
団長の号令と共に、傭兵達が雄叫びを上げながら殺到、周囲はたちまち剣と槍がぶつかりあって太矢に銃弾が飛び交う修羅場にかわる。
突然の襲撃にパニックになる難民たち。その隙を突いてアタシは物陰から躍り出ると一気に御者台へ駆け上り、剣を抜いて脳漿をぶちまけて死んでいる御者の隣で、喇叭銃片手に狼狽えている護衛の心臓を一突きにして殺す。
そうして邪魔者がいなくなった後に手近にあった手綱を強引に引き寄せて馬車を止めさせ、幌馬車の中に隠れていた他の奴らを引きずり出す。そしてそいつらに向かってこう言ってやったのだ。「見な!テメーらの命も金も、もうテメーらの物じゃねーんだ。」
「武器を捨てて降伏しな!」傭兵団の団長がそう叫ぶと、中には素直に降参する連中も現れる。
だがしかしまだ反抗的な態度をとる奴もいるので油断はできない。アタシは御者台にどっかりと座り込むとマスケット銃を構えて見せた。
「ほらっ!武器を捨てた奴は馬車を降りな!少しでも歯向かう奴がいたらこの銃で皆殺しだ! 」
アタシは脅しも兼ねて発砲してみせると弾丸が馬車の幌をかすめて跳弾し、地面に落ちていた石ころで跳ね返って護衛の一人の足に突き刺さる。
それを見て観念したのか皆は次々と武器を捨て始める。どうやら全員が降伏の意を示したらしい。
よしよし、お前ら全員良い子だね。