※この作品はR-18です。

無名戦士たち~ファンタジー世界senkaSS集   作:火風水

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ハーフエルフの銃士メリッサ:白山の戦い

国境沿いの街で王国軍と合流した傭兵団はそのまま帝国領に向けて進軍を開始した。集まった当初から初めてみた数の兵隊が集まっており、流石のアタシも圧倒されたが、街道を進撃するにつれて更に続々、傭兵やら貴族とその私兵やらがこちらに合流してくる。「こりゃすごいなぁー団長今アタシらどんだけ頭数がいるの?」丁度ウチの傭兵団も新兵を雇い入れ規模が大きくなったのと、団長とのあれこれもあって士官補に繰り上げになったアタシは駄馬の背で揺られながら尋ねる。「集計する度に増えていくから今一当てにならんが、2万強か、もしかすると3万を超えるぐらいは集まってるらしいぞ」これはスケールが違う。今までの戦いが霞んで見える大規模な軍だ。「へぇ!すっごい数じゃん!」

 

土地を取った取られだので湿気た小競り合いをうだうだやってる貴族サマたちとは本当にケタが違うのだと、なんだか興奮してきたのか、場上でソワソワしだしたアタシを見て団長はさらに「そこから聞いた話によるともうすぐ北部諸侯達の軍が援軍としてやってくるって話もあるらしいぜ」という驚きの言葉に思わず

 

「これなら帝国側もビビって逃げ出すんじゃないの?」その自信がどこから来るのかは分からなかったが、思わずそう呟いてしまう。すると団長は少し悩んだ後、こう言った。「それはまだわからんな……なんでも帝国の連中、教会の奇跡使い達を雇いれて、司令官も新たに任命したらしいぞ」「奇跡使い?教会の精霊使い……じゃなくて、教会の魔術師だったっけ?」アタシの言葉に驚いたように団長が仰け反る「流石にそれは罰当たりだぞ!?敬虔なヤツも多いんだから滅多なことを言うなよ……」……しまった、ついうっかり変なことを言ってしまった。従軍司祭のオッサンの視線が痛い。

 

慌てて誤魔化すと、団長は呆れた顔でため息をつく。「まーとにかく、奇跡だの魔術だの妙な術使いが出てくるのに加えて、新任の司令官は東部の方でかなり戦ってたらしい結構凄いヤツだって噂だ。正直眉唾ものだけどな」経歴に箔をつけるため、大げさな事を言うやつが多い界隈なのは、アタシも良く知っている。「まぁそのへんはもう考えたって仕方がない事だよな。まだまだ先は長いし歩け歩け」

 

帝国領との国境付近、白山に築かれた陣地に入ってしばらくすると、帝国軍が進撃してきたという連絡が入る。この先の荒野で帝国の前衛部隊とやらが前進してきたというのだ。事前の個人的には事前情報が正しかったのであればこのまま突撃しても勝てるような気がするのだが……何故か王国軍の動きは遅く、北から来るという援軍も到着する気配はない。

 

行軍中はさんざんつまらない演説を聞かせてくれた王様も、何故かここ数日はだんまりでアタシ達の前に出てこないというのもなんだか怪しい感じがするがまぁ仮に援軍の話がポシャったとしても、こちらは要塞とまでは行かなくても、防御を固めた陣地に陣取っているのだ。逆侵攻は出来なくても負けることはないだろう……などと考えながら、グラファト兄弟団に割り当てられたなだらかな斜面の陣地で待機していると、やがて相対する帝国軍の姿が見えてきた……「なんだよこれ……話が違うじゃん……」それを見せられた時、アタシはそんな言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

「な、なんだよあの旗の数……こっちよりもずっと多いじゃねぇか……」次に口を開いた新兵の言葉は今の状況を端的に表していたと思う。山から降りる風に翻る帝国諸軍の色とりどりの軍旗、連隊旗の数からみてあちらの頭数は3万から4万程、敵の部隊はどれも帝国式の強固な長槍兵方陣と攻撃力に優れるマスケット銃兵の横隊の組み合わせであり、隊列の隙間には青銅製の野戦砲までもがズラッと並んでおり、後衛には綺羅びやかな胸甲を身にまとった重騎兵まで控えている始末だ。どう考えても事前の話と違いすぎる。こちらは頭数が2万はいるとは言え、農具を担いだ農民崩れも混じる雑兵が勝てるような相手ではない。

 

「おい!おい!おい!どうすんだよこれ……!」「どうする、気づかれる前にバックレるか?」皆が浮足立っているのがささやき声からも分かる。陣地に立てこもれば野戦砲に吹き飛ばされるだろうし、かといって銃兵に援護された方陣に突撃をしかけるなんて自殺行為だ。そんな事はある程度以上の規模の戦いの事なんてよくわからないアタシでもすぐに分かる。「団長!ヤバイことになる前に逃げ出そうよ!」

 

遠眼鏡を握ったまま凍りついたように突っ立っている団長の体を揺さぶるアタシに彼は重苦しい口調で「……もう遅い、後ろを見てみろ」と言って後ろを指差す。翻って後ろを振り向けば、アタシ達のような傭兵部隊の後衛に陣取っている王国軍の方陣が槍の穂先と銃口をこちらに向けているのが見える。クソ、アタシ達を弾除け代わりに使う気かよ!?「……退路は無いぞ。覚悟を固めてここで戦え」と団長が冷たく言い放つ。ふざけるな!と叫びたい所だったが、アタシの今の状況では黙るしかない。結局は金で雇われている傭兵なのだ。契約内容は絶対であり、そこで働いている以上は雇い主を裏切れないのである。皆もそれは分かっており、各々の武器を担いでノロノロと配置についていく。

 

■■■

 

数刻後……友軍である王国軍に背後から槍を突きつけられた、アタシ達を含む王国軍傭兵部隊は、轟音を響かせながら飛んでくる砲弾に隊列毎になぎ倒され、規律正しく反転行進射撃を繰り返す帝国軍のマスケット銃兵にバタバタと撃ち殺されながらも、敵陣に喰らいつこうとがむしゃらに前進を続けていた。火力の絶望的な差は死体で埋めるしかない。自慢の銃の腕前も、こうなってしまっては何の意味もなさそうだ。

 

アタシ達は体が引きちぎれそうになる痛みと恐怖に喘ぎながら、糞みたいな負け戦に加担させられている。そしてその間にも砲撃で次第にこちらの戦列にほころびが出来てゆく。「あぁもう畜生ッ!こんな所で死にたくねぇって!!」と誰かの叫び声が聞こえる。まったくもって同意だ、とアタシは内心毒づくが、それは誰にも聞こえることはなく「怯むな!黒目が見える距離で斉射をかまして怯ませろ!乱戦に持ち込むんだ!」そう叫ぶ団長の声と共にやかましいだけの下手な音楽を奏でる軍楽隊のドラムのペースが早くなる。糞っ!!それが出来たら苦労はしねぇよ!!既に逃げ場もない中で覚悟を決めた傭兵仲間たちが兵列を乱すのも構わず我先に敵陣へと突っ込んでいく!

 

既に敵陣は既に目と鼻の先!「構えェ!」団長の号令とともに我らがグラファト兄弟団の槍兵方陣の前に並んだ2列横隊の銃兵達がマスケット銃を構える。「狙えェ!」士官補になった今でもアタシは銃士だ、横隊の隙間から銃を構えて、敵の指揮官っぽい男に狙いをつける。「撃てェ!」号令と共に火薬が爆ぜて銃身から火花と共に白い煙が吹き出すと、間を置かずに、斉射をマトモに受けた敵兵達がバタバタと倒れる!敵方からのお返しの一斉射撃でうちの兵隊もバタバタと倒れていく中、抜刀した団長を先頭に、突撃が始まった!アタシも撃ち終わった銃を捨て、剣を抜き放って走り出す。

 

今の斉射で指揮官が死ぬか負傷するかして混乱しているのか、反転行進射撃による追加の迎撃射撃は飛んでこない。団長の振るう片手半剣が槍衾をぶった切って敵兵の首を飛ばす。アタシもそれに続くように近くの帝国兵へと剣を突き立てる!しかし、疲れて悲鳴を上げ始めた体には上手く力が入らず、帝国兵を屠るのは少し難儀だ……そんな中でふっとあたりが暗くなる。見上げてみればイヤにゆっくりと、曲射で放たれたらしい黒黒とした砲弾がアタシ達の方に迫ってくるのがみえてしまう。帝国のやつら味方毎ここを砲撃するつもりか!?思わず固まってしまいそうになる。このままじゃまずい……!!しかし体が動かない!その間にも容赦なく飛んでくる砲弾と銃弾!!「メリッサ伏せろ!」そう叫ぶ団長の声と共に、アタシは地面に叩きつけられる。

 

痛てぇ……でもなんだか現実感が薄いな……血を流して倒れ込んだまま朦朧とする灰色の視界で戦場を眺める。味方毎こちらを巻き込んだものと思われた敵の砲撃は何故かきれいに王国軍の傭兵部隊だけを吹き飛ばし、後方からは銃とはまた違う……雷のような音とともに光が飛んできて、見知った仲間たちを次々と焼き殺していく。これが奇跡というやつなのだろうか?切り込みをかけた傭兵団の仲間たちは砲撃と銃弾に散らされて、鋼の刃と雷の奇跡の前に淡々と殺されていく。

 

味方はもう総崩れなんだろう、救援もやって来ない。動けないまま死体の山に埋もれているアタシを横目に帝国軍の兵士たちはずんずんと前進していく。その後をついていくのはあの雷やバカに命中率が高かった砲撃を行った張本人らしい揃いの白い僧服に身を包んだ尼さん達が続く。金糸の刺繍と銀の装飾具できらびやかに着飾った彼女たちはとってもきれいで……血と泥に汚れたアタシ何かとは大違いだ。これはちょっと、インチキが過ぎる。ちょっとぐらい……アタシたちにも……

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