※この作品はR-18です。

乗るしかない、この貞操逆転ドスケベウェーブに   作:葉川柚介

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強さと弱さが同居してるし、貞操逆転処女ムーブが特に似合いそうな女、陽南杏里

 胸を張って言うことじゃないが、普通の生き方をしてきたと思う。

 赤ん坊やって、子供やって、学生やって、大学を卒業して。

 遊んで勉強して食べて寝て遊んでくらいの時間配分で、時々デジャヴのような既視感に苛まれつつもまあそれなりの人生を歩んできた今になって、俺はこう思う。

 

「ここがドルフィンウェーブの世界か……」

 

 照りつける太陽と、わずかに潮の匂いを含んだ風。

 整然とした計画に基づいて作り上げられつつも、そこに住まう人たちの生活感によって生まれた雑然の混ざる海上都市、ワダツミ。

 その地を初めて踏みながら、俺は自分の立ち位置というものを生まれて初めて理解した。

 

 

 ドルフィンウェーブ。いわゆる一つのソシャゲというヤツ。

 ガチャでキャラを集め、スタミナを使ってクエストを回し、獲得したリソースで育成して高難易度に挑んだり他プレイヤーとスコアを競ったりストーリーを見たりするという、アレだ。

 どうやら今俺がいるのはその世界らしいと、今になってようやく自覚した。

 転生なのか転移なのかその辺ははっきりしないが、まあいいだろう。

 一つはっきりしているのは、今の俺はドルフィンウェーブという世界における「コーチ」。すなわちプレイヤーの分身に当たる存在になった、ということだ。

 

 

 ドルフィンウェーブというゲーム、システムはさておきストーリーとしてはスポ根に近い。

 ここワダツミで盛んな<ジェットバトル>というマリンスポーツのプロ興行において、かつての名門にして今や斜陽著しい老舗チーム<KIRISHIMA>に加わった元気爛漫の新人選手と、時を同じくして特に実績があるわけでもないのにコーチとして招かれたプレイヤーが、なんやかんやしつつチームを立て直したり女の子たちと交流したりする、そういうシナリオが繰り広げられている。

 

 ジェットバトルは簡単に言えばUMIマシンと呼ばれる二人乗りの水上バイク2台からなる4人チームで水鉄砲なのかレーザーの類なのか、とにかくなんかそういうもので打ち合って勝敗を決めるという感じの競技だ。

 ……説明がふわっとしてるって? 仕方ないじゃないか。ゲームとして見える範囲だとこのくらいしかわからないんだから。

 

 では、そんなドルフィンウェーブはなにが良いのか。

 

 ゲームシステムとして目新しいものは特になく、競技として実際どんなものなのかもわかりづらいこのゲームの売りは何なのかと言えば、ビジュアル。それに尽きる。

 

 かわいらしい女の子たちが目白押し、という程度ならば大抵のソシャゲの通る道。

 星の数ほどもあるだろうその手のソシャゲの中で、ドルフィンウェーブをドルフィンウェーブたらしめているビジュアルの特徴とは、なんなのか。

 

 ドスケベ、だ。

 

 ドスケベ。

 一目見てわかるドスケベ。

 さすがにちょっとそれはヤバいんじゃないかというレベルのドスケベ。

 青少年のなんかが危ない。割とマジで。

 

 

 先に述べたように、ジェットバトルという競技はマリンスポーツの一種だ。

 ワダツミは海上都市であるため試合会場は海の一角を客席で囲んだような構造をしていて、必然的に選手たちは濡れてもいいコスチュームに身を包む。

 それが、ドスケベ。

 水着なんて可愛いもの。マイクロビキニやら牛柄ビキニやらおっぱいの表面積48%くらい見えてるんじゃないかってくらいの晴れ着、ウェディングドレス、悪魔スーツ、未来スーツ、チャイナドレス、それ眼帯が一番布面積多いパーツじゃね? となるベルト衣装などなど、何を言っているのかわからねーと思うがマジでそんな感じの衣装が多数実装されている。

 ワダツミはとてもいい所だが、抜きゲーみたいな島とか言われたら反論に迷いそっと目を逸らすことになるだろう。そういう世界だ。

 

 かつて俺は、ドルフィンウェーブをプレイしながら思っていた。

 一体いかなる理屈があれば、うら若き乙女たちがあれほどドスケベな衣装で人前に出る合理性を確保できるのかと。

 

 ……こうしてドルフィンウェーブの世界に生まれ育つことにより、俺はその答えを得た。

 欲しかった答えなのかと聞かれてしまったら、言葉に詰まることになるだろうけども。

 

 

「コーチ~! おはようございます! 今日もトレーニング、がんばりましょうね!」

「ちょ、ちょっと入華! あんまりはしゃがないの! コーチがびっくりするでしょう?」

「うん、おはよう入華。ウォーミングアップは済ませてくれたね。それじゃあさっそくUMIマシンに乗っていこうか。ガンナーのみちるは狙撃中心の特訓を。目標ドローンの設定はこちらでしておくよ」

 

 今世において、大学を卒業した俺はなんやかんやのうちにスカウトされ、あれよあれよという間にどういうわけかジェットバトルのコーチに収まった。

 そして、触れ合う中で知る。

 ドルフィンと呼ばれるジェットバトルの選手たちの、女の子たちの、俺に向ける目の色を。

 

「……えっと、その。コーチ、もしかして今日も、その格好でトレーニングを見てくれるんですか?」

「そのつもりだけど。……ちょっと、ラフすぎたかな?」

「そんなことないですっ! めちゃくちゃがんばれそうです! ねっ、先輩!」

「入華の言う通りです! コーチが近くで見てくれれば見てくれるほど、私たち上手くなれますから!!」

「アッハイ」

 

 繰り返しになるが、ジェットバトルは水上スポーツ。

 どれだけお上品にやったとしても高出力な水上バイクであるUMIマシンが巻き起こす波しぶきは客席まで届くことも普通にあり、コーチとしてその練習を近くで見届ける必要のある俺にも当然水がかかり、濡れる。

 ならばと水着に濡れてもいいパーカーという衣装を選ぶのは合理的な選択であり。

 

 そんな俺の、パーカーの隙間から覗く腹筋や胸板に現役プロ選手でありながら同時にまだ学生でもあるうら若き乙女たちの熱い視線が突き刺さるのを感じると、思い知る。

 

 

「――ここが貞操逆転世界か」

 

 絶好調にUMIマシンで海上をすっ飛んでいく入華たちの姿を見送りながら、水しぶきが空に映し出す虹を見ながら口を突いて出る言葉。

 それが、世界の真実だった。

 

 

◇◆◇

 

 

 貞操逆転世界。

 その発明は、薄い本を厚くした。

 

 男女の持つ貞操観念の逆転、すなわち女性が性的な面でガツガツして、男が控えめになるという世界観。

 もしそんな世界に逆転前の男が紛れ込んだら。

 ……すなわち、入れ食い状態。

 

 催眠アプリやセックスしないと出られない部屋など、いかに導入を自然かつ素早くするかに腐心するその手の界隈において、一定の存在感を発揮するシチュエーションだ。

 人間の生物的な性質が根本から変わるに等しいその世界観で何が起こるかを考察した結果SFじみた物になり果てる例もあったりなかったりするが、俺はこの世界が貞操逆転世界と悟ったとき深く納得した。

 

 コンビニに並ぶ雑誌の表紙を飾る水着の男やら何やらを見て、それまで割とスルーしていたものが目に付くようになり自覚するに至った次第。

 男の裸は希少で、女性の肌は晒しても割とセーフ。

 

 そういう世界であるならば、ドルフィンウェーブに実装されたドスケベ衣装の数々も納得がいく……!

 アレは要するに、男性芸人がブーメランパンツ一枚の姿でステージに上がるようなものだったんだよ! な、なんだってー。そんな気分。

 

 

 ともあれ、今俺が生きているのがそういう世界だ。

 貞操が逆転し、女の子が男に性的な目を向け、ガツガツしている。

 そしてジェットバトルは歴史的に女性の競技という側面がとても強い。

 

「コーチ! 新技練習してみますっ。見ててください!」

「入華、がんばれーっ!」

 

 がんばりをアピールしてくれる入華に、大きく手を振り声を張り上げる。

 すると、遠目に見てもなお笑顔を輝かせ、気合の入った操船技術が波を捉えてまさしくイルカのごとく水面を跳ねる。

 

 男には、男としての価値がある。

 かつての世界とは、また違った形で。

 

 ならばそれを最大限に活用し、生きていこう。

 学生とは信じられないほどに実ったスタイルの入華たちを見守りながら、俺はそう決意した。

 

 

◇◆◇

 

 

「……なんだ、なかなか悪くないじゃないか」

 

 陽南杏里はそう一人ごちる。

 KIRISHIMAのジェットバトル練習場の隅でこっそりと、今年ドルフィンとして入ってきた入華と、その1年先輩であるみちるのトレーニング風景を眺めながら。

 

 杏里もまた、本来ならば入華たちの側にいるべき人間だ。

 母に続き、KIRISHIMAの誇る名選手として名を馳せた、今なおれっきとしたドルフィンなのだから。

 だが、既に心が折れた。

 絶望的な敗北を喫して、かつてはどこまででも強くなれると信じた自分の実力と才能に限界を突き付けられた。

 以来、杏里はワダツミのカジノに入り浸ってしょうもない勝ち負けを繰り返す日々に溺れるようなダメ人間と化した。

 

「……へっ」

 

 それでもなお、杏里の目はドルフィンのそれ。

 入華とともに新しく加わったコーチの努力が、わかる。わかってしまう。

 

 元々ジェットバトルに何ら関係がなかったという、あのコーチ。それでありながら任された肩書に追いつくべく必死だ。

 KIRISHIMAの保有する過去の戦績や資料にはことごとく目を通し、挙句スポーツ医学の論文にまで手を出しているとか。

 軋みだしていたトレーニングルームの機材を丁寧に手入れして、ダンベルやストレッチ用のマットなどこまごまとしたものは自腹を切ってまで新しく買い揃える。

 挙句、男の身でありながらUMIマシンにまたがってトレーニングメニューを実践してから伝えるなど、体も張っている。

 これまでKIRISHIMAが築き上げてきたノウハウを継承し、新たなものを加えようとするその姿、当初は懐疑的だった社内の目線にだんだん期待の色が帯びていることを、あのコーチは気付いているのだろうか。

 

「……てーか、母さんまでよく来るようになったしなあ」

 

 そんなコーチを目にかける社内の人間最先鋒が自身の母だというのは、杏里としては複雑なところなのだが。

 というか、たまにセクハラしている。コーチがそれを笑って許してしまうのも問題で、そのうち愛人にされるのではないかと心配でならない。

 

「なら、やっぱりあたしはいらないか……」

 

 そして、練習を見届けることなく杏里は練習場に背を向ける。

 懐は寂しいが、カジノで一勝負くらいはできるだろう。その一戦でこれからのKIRISHIMAを占ってみるのもまた一興。

 

 そんなことを考えながら、練習場を去ろうとして。

 

 

「――杏里さん!」

「……っ」

 

 呼び止める声に、思わず立ち止まってしまった。

 

 振り向くまでもない。コーチの声だ。

 入華たちの練習を置いてまで来るとは酔狂な。そう思いながら肩越しに振り替える。

 

 身長は、KIRISHIMAのドルフィン中最も高い杏里よりもわずかに高い。

 全体的にがっしりとした体格と、しっかりと乗った筋肉。女好きのする、町ですれ違えば思わず振り返る類の肉体だ。

 そんなコーチが、練習メニューを考え、毎日顔を出し、見守り、応援の声を張り上げ、帰ってくれば手ずからタオルを渡して髪やら顔やらを拭いてくれる。

 

 母に対して抱く感情は少々複雑な杏里だが、その手腕だけは認めなければならないとこのコーチを見るたび思う。

 女性が主体の競技である性質上どうしても男日照りになりがちなドルフィンたちの前に、コーチとして大学卒業したての若い男を連れてくる。

 しかも女性に隔意がなく、スキンシップをいとわず、水着で練習を見守りにきて、熱心に声をかけてくれる。

 コーチとしての指導力など、それらの前にはチリも同然。

 こんなコーチがチームにいてくれるなら、それだけで士気と技量が爆上がりすること疑いない。それだけの逸材を見つけ出し、連れてきただけでもKIRISHIMAの歴史に名を残すだろうと素直に納得できる。

 

 そんなコーチが、最近杏里に声をかける理由は決まっている。

 

「来てくれてたんですね、よかったです。……入華たちの練習、どうでした?」

「ああ、よかったんじゃないか? コーチもよくやってるよ」

 

 それは、説得。

 チームのため、入華たちのため、ドルフィンとして復帰して欲しいという願いだ。

 正直、聞き飽きた。KIRISHIMAの人間からも、詩絵からも入華からも、何度となく懇願されたことであり、そのたびに断ったからこそ今の杏里が、杏里の成れの果てがある。

 それを今さら、コーチに頼まれた程度で。

 女性としては比較的背の高い杏里から見ても目を合わせるには見上げる必要があるほどの体格にしっかりと筋肉の陰影を浮かび上がらせ、男には威圧感を与えがちな巨乳にもひるまず笑顔を向けてくれる年の近い男に頼まれた程度で、ちょっと復帰してコーチに恩を売ってみるのもいいかな、とか思ったりはしないのだ。

 しないったらしないのだ。

 

「それじゃあ、せっかくだし入華たちに一言アドバイスとか……」

「だから、しないって言ってるだろ。この話何度目だよ」

 

 コーチには言えない。

 こうやって引き留めてくれたことが実に7度目になると、しっかり覚えていることなど。

 人の好さそうな笑顔が少し悲しそうに歪むのを見て胸が締め付けられていることも、このままもう一押しされたらそれに乗ってしまった方がいろいろ美味しいんじゃないかという処女臭い皮算用も、決して知られたくないのだから。

 

「何度でもしますよ。KIRISHIMAのためにも、入華たちのためにも、そして杏里さんにとっても。きっとそれが一番いいんだって信じてますから」

「……そんなわけないだろ」

 

 なのに、これだ。

 本当に、この男はわかっていない。

 ジェットバトルのコーチを、男が務めるというのがどういうことなのか。

 飢えた獣の群れの中に放り込まれた羊も同じなのだということを、入華たちが向ける年上の男性に対する憧れの視線に確かに混じる欲望の炎を、まるでわかっていない。

 

「そこをなんとか。とりあえずもうちょっとだけ見ていきません? その代わり、俺にできることがあったらしますから。……ね?」

「っ!」

 

 ――だから、これは「教育」なのだ。

 杏里は己にそう言い聞かせた。

 

 無言で振り返り、コーチのもとへつかつかと歩いていく。

 心変わりかと最初喜んだのもつかの間のコーチが早足の勢いにたじろいで下がるも、その先にはすぐに壁。

 

 だんっ、という音は杏里が勢いよく壁についた手の立てたもの。

 わずかにびくりと震えるコーチの様子がどこかおかしく、緩む口元はしかし嗜虐的な笑みに見えていることだろう。

 その笑顔が女から憧れを、男から恐れを抱かれるものだという自覚が、杏里にはあった。

 

「できることがあったら、ねぇ?」

「は、はい。さ、さすがにカジノ代全部出せとかは許して欲しいですけど、奢りで飲みに行くくらいなら……」

「いやあ、そういうんじゃなくてさぁ?」

 

 それをする必要があるのだと、半ば言い訳として、半ば本気で杏里は思う。

 このコーチという男、少しは知っておくべきなのだ。

 女の怖さを。自分がどういう目で見られているのかを。そうでなければ、いつ悪い虫に捕まってしまうかわかったものではないのだから。

 心配とからかいと、そしてそれらと同じだけある下心をあえて隠すことはない。

 

 

「コーチのこと、抱かせてくれよ」

 

 

 88㎝のバストはコーチの胸板に触れるか触れないか。

 それが、男にとっては凶器を突き付けられるようなものだということはわかっている。

 悲鳴を上げられれば、訴えられれば負けるのは杏里の側。

 だが、それもまた一興だろうとも思う。

 勝てる気がしないまま赴くカジノに近いある種の破滅願望が今日もまた鎌首をもたげる。

 

 それでも、これでコーチが女という生き物の怖さを知るのなら、これから先の人生が少しはマシになるだろう。そうあってほしいという願いもまた心の底には確かにあって。

 

 

「――いいですよ」

「…………へ?」

 

 その返事だけは、全く予想していなかった。

 

 

「さすがに今ここで、ってわけにはいかないですけど。練習に出てくれるなら、試合に出てくれるなら……勝ってくれるなら。俺は杏里さんに抱かれます」

「は、……な、なん……?」

 

 幻聴ではなかった。

 壁についた杏里の手の甲にこすりつけられるコーチの頬の感触と熱はよもや夢ではありえない確かさで、眼差しに宿るのは嘘でも冗談でも恐怖でもなくどこまでも真剣な光だけ。

 

 この男は、本当に自分に抱かれる気なのだと。

 そう納得できるだけの落ち着きが、そこには確かに輝いている。

 

「ばっ、バカ言うな! 男なんだから、冗談でもそんなこと……んんっ!?」

 

 言うな、とは言葉にできなかった。

 当たり前のように距離を詰めてきたコーチ。そして唇に触れる柔らかさと温かさに抗えないように、この世界の女はできている。

 

 陽南杏里、ファーストキスの味はジェットバトルのトレーニングを間近で見ていて被っただろう潮の味だった。

 

 

「んっ、ふむ……んぁ、ぅう、ん……ら、めぇ……っ!」

 

 攻守、逆転。

 杏里はコーチの攻めに対して一切反撃の余地がなかった。

 キスがただ唇を重ねるだけの行為だと思うほど子供ではないが、右へ左へ首をかしげて角度を変えて敏感な唇同士をこすりつけ、ついばむようにして唇を食み、舌先で上下の唇を端から端まで舐められるなど、ちょっと我が身に起きることとして覚悟できていなかった。

 

「んっ、ンん……っ! ぁ、なん、で……?」

 

 だから、コーチの唇が離れた時はあまりの寂しさに切ない声を上げて追い縋ってしまうのもまた、女の本能、この世の道理だ。

 

「これは、俺が本気だっていうことの証明ですから。……少しは信頼してもらえましたか?」

 

 もっと触れ合っていたい、と寄せた体を止めたのはコーチの掌。

 怖がらせてしまうかもしれないから、と触れることをためらっていた胸にためらうことなく置かれた手の大きさと、乳肉に食い込む勢いの握力に心臓がキュンと跳ねる。

 

「そ、そりゃあ、まあ……」

「じゃあ、そういうことで。明日の練習はいつも通りの時間ですから、よろしくお願いしますね!」

 

 ぱっと離れて、いつも通りのさわやかな笑顔。そのまま練習場へと駆けていく。

 妙に長く感じてはいたが、実際に言葉を交わしていたのはほんのわずかな時間だけ。今から戻っても、入華たちには怪しまれたりしないだろう。

 

「……えっ」

 

 残されたのはただ一人、コーチとの濃密なキスの余韻に呆ける杏里だけだった。

 

 そして。

 

 

◇◆◇

 

 

「杏里さん! 来てくれたんですね! 今日から一緒の練習、よろしくお願いします! 私たち、頑張りますから!」

「お、おう……」

 

 

◇◆◇

 

 

「な、なななんと! KIRISHIMA大勝利! 新人2人とベテラン2人、新チームで見事な試合を見せました!」

「お、おう……」

 

 

◇◆◇

 

 

 杏里の主観では、そこから先は一瞬だった。

 コーチとのキスの後、記憶はないが気付けば家で、夜。

 とにかく眠ろうとするも脳裏を過るのはコーチの顔、声、熱、キスの感触。

 とてもではないが収まるようなものではなく、キツめのオナニー3度でようやく気絶するように意識が落ちた。

 

 朝が来て、妙にすっきりしながら目が覚めれば、昨日の出来事はしかし夢だったのだろうという気がした。

 冷静に考えて、セクハラで訴えられたら負けるようなことをした自分に対して、男であるコーチが抱かれることを了承し、その証拠としてねっとりキスをしてくるなど処女の妄想でももう少し遠慮をするというようなもの。

 だから全く期待せず、本当にちっともなんとも思わないけどとりあえずそういう気分だったからということで二日続けて練習を見に行ったら、既に入華たちへの根回しが終わっていたらしくなんやかんやで練習に参加することになった。

 

 そのまま数日練習に顔を出し続け、あれよあれよという間に試合に出ることになり、当たり前のように勝った。

 現役だったころと遜色ない、どころか全盛期以上とさえ思えるほど体が軽く、UMIマシンは手足になじみ、詩絵とは言葉もなく通じ合う感覚があり、入華たちも未成熟ながら高い将来性を感じさせる働きを見せてくれた。

 勝利者インタビューではKIRISHIMA復活の理由を興奮気味に問われ、しかし久々なこともあってまともに返事をできたかどうかすら怪しくて。

 

 

「――じゃあ、杏里さん。行きましょうか」

「……ふぇっ!?」

 

 気付けばコーチと二人、街灯輝く夜の街で二人になっていた。

 

 なんか、いろいろあった気はする。

 試合に勝ってから入華に抱き付かれたり詩絵に涙ぐまれたりみちるが何もないところで転んだり、コーチから手を握られて感謝されたり。

 その後の打ち上げではコーチが常に横でなにくれとなく世話をしてくれて、酌までしてもらった。めちゃくちゃ美味かった。

 それなのに酒量を控えられたのは、夢だったのだろうと断じたはずの記憶が、期待が確かに杏里の胸の内にあったから。

 

 そしてその幻は、どうやら現実のものだったらしい。

 

 お行儀良く、ほどよく終わった試合の打ち上げ。

 なんやかんやのうちに解散し、しかしいつの間にかコーチが隣にいて、手をつなぎ、夜の街をゆっくりと歩き。

 はっと意識が戻った時には、すでにラブホテルの部屋の中だった。

 

「あっ、わ、悪い。こういうとき、女の私がリードしなきゃいけないのに……」

「気にしないでください。……かわいかったから、セーフです」

「なっ……!」

 

 しかも、どういうわけかコーチの方が圧倒的に余裕のある様子で。

 普通こういう時は男の方が緊張するものじゃないのかどうなってるんだまさか慣れているのか。

 そう思うと、むしろ杏里の中に反骨精神が湧いてくる。

 よくよく考えれば、あっさりと抱かれることを了承し、今日もこうしてあっさりとホテルに連れ込まれる、というかむしろ杏里を連れ込んだことを考えればこの男はビッチなのではあるまいか。

 杏里のことを舐め、練習と試合に参加させたのも掌の上で転がした結果だとか思っているような気がしてきた。

 であるならば、わからせねばならない。女の怖さと性欲というものを。

 

「ありゃりゃ、押し倒されちゃった。裸、見せてくれないんですか?」

「うるさいっ、私がた、楽しむのが先だ……っ!」

 

 男をベッドに押し倒すという、人生の実績を解禁した瞬間の高揚は筆舌に尽くしがたく、首筋を通って腹の底までしびれるように染みわたるような万能感がある。

 その勢いがあればこそ、ファーストキスの時には不可能だった舌を入れてのディープキスを杏里の側からすることを可能にさせた。

 

「んっちゅうぅ、にゅろ、れるれるれる」

(ぅおお、き、ぎもちいぃ……っ!?)

 

 人生二度目のキスの味は、ホテルに来る前の居酒屋で飲んだ酒の香りが少しだけ。

 しかしそれもすぐになくなっていったのは、互いの唾液が口の中を洗い流していったから。

 杏里の脳はまともな思考などできないほどに退化して、何もなければこのまま延々とキスを続けるだけの生き物になってしまっていただろう。

 

「……ぷはっ。はぁー、はぁーっ……ふぅ」

 

 呼吸が苦しくなって口を離せば、同じように息を荒げているコーチの姿。

 控えめに言って、最高だ。

 

「んっ」

「ぅおっ、でっか」

 

 だから、確信していた。

 男に怖がられることが多い杏里の巨乳。勢いよく服を脱いで下着を外し、重力に引かれて揺れるそのさまを、コーチならば嫌がらないだろうと。

 

「なんだよコーチ、こんなのがいいのか? ほれ、触ってもいいんだぞ」

「それじゃ、遠慮なく」

 

 ぷるんと揺れる柔らかさを見ても、先端できつく尖る乳首を見ても、コーチは目を逸らさなかった。

 むにりと杏里が自分で掴んでみせたその乳肉にためらいなく手を伸ばし、指を沈ませる早さたるやむしろ杏里が眼を疑うほど。

 

 この期に及んではもう納得するしかない。

 この男は、コーチは、女の夢を体現したようなエロすぎる男なのだと。

 

 ――むにむにむにむにむに

 

「んあっ!? ちょ、おま、えぇ……!? ためらいってもんが……あんっ! ないのかよ!?」

「ないです。目の前にこんなおっぱい出されたら、そんなことしてる暇あるわけないでしょれろれろ」

「くひぃっ♡ な、舐めるなぁ♡♡」

 

 体が倒れそうになるのを必死に堪えると、杏里の長い乳はちょうど先端がコーチの口元に届くようになる。

 そこへ舌を伸ばして乳首をこれ見よがしに舌で弾かれれば、声が弾むのを抑えられようはずもない。

 暖かく、やわらかく、濡れていて、男の舌。それが自分の肌の上を、乳首をうまそうに這いまわる感覚はまさしく天にも昇る心地だった。

 歯の根がかみ合わない。口を閉じることなど少しもできず、だらしなく笑うような声が喉の奥から溢れ出る。

 

「はっ、はぁっ♡ ま、待てよコーチ……。そ、そろそろ私も耐えられないからさ……シようぜ♡」

「えー。もっとおっぱいいじらせてほしかったですけど……まあ、あとのお楽しみですね」

 

 なんか、既に信じられないくらいの熱がこもってる気がする胸をあとでさらにめちゃくちゃにすると言われたような気がするが、きっと聞き間違いだから放っておく。今の杏里に、その恐怖と正面から向き合う余裕はない。

 

 何せ今まさに、最大の難敵が待ち構えているのだから。

 

 コーチを促してベッドの脇に立ってもらい、自然とその前に跪く。

 当たり前のような顔で服を脱いでくれたから、杏里の目は残ったコーチのパンツに釘付けだった。

 女物とは明らかに違う種類の布地を、内側から突き破らんばかりに押しのけようとする、苦し気な存在感。近づけた顔に感じる気さえする熱。

 

「――脱がせて、くれますか?」

「……ごくっ」

 

 下着の縁にかける指は震えていた。

 その情けなさをごまかすためにも、勢いに任せて一息にずりおろし。

 

 ぺちんっ

 

「お゛っ♡♡♡」

 

 杏里の鼻先を、それが弾いた。

 夢にまで見たコーチの肉棒。それが、脱がした下着に引っかかってたわみ、弾けるように反り返ったために。

 

「どうですか、杏里さん?」

「どう、って……」

 

 思わず飲んだ生唾が、そのままコーチに対する答えだろう。

 

(やっば♡ でっか♡ ふっと♡ なっが♡ 反りエグい♡ カリも高いし♡ へそにつきそうなくらい勃ってる♡ 私とシてこうなったのかよ……嬉しいっ♡♡)

 

 はっ、はっ、と浅く早い呼吸が止まらない。

 その都度胸の奥に吸い込まれるコーチの匂いに興奮がどこまでも高まっていく。

 元々それなりにイケている男だと思ってはいたが、まさか服の下にこんなにも女の腰を砕くものを隠していたとは。

 跪いた姿勢でよかった。

 そうでなければ、情けなくへたり込む姿を見せてしまっていただろう。

 そのくらい、コレを目の前にしては思い通りになることなど何もなく。

 

「んぁ……むっ♡ むちゅっ、んちゅっ、じゅうぅぅ♡ んむうぅぅぅぅぅっ♡♡」

「ぅあっ、それ、いい……っ」

 

 ほとんど無意識のまま、コーチの肉棒を口の中へと招き入れていた。

 

 

 熱く、唇が焼ける。匂いが舌と鼻の奥と腹にまで染み込んでくる。

 そんなことをしても嫌がらない男がいるとしたらAVの中だけだと思っていたのに、今ここに現実の重さと硬さと熱さと味を持っている。

 その感動、筆舌に尽くしがたく、幸福と自己肯定感と快楽が脳で弾けて何も考えられない。

 

――くちゅくちゅくちゅ、じゅぷじゅぷじゅぷっ

「杏里さん、オナニーしてるんですか? 俺のちんぽ、オカズとしてはどうですか」

 

 最高に、決まっている。

 言葉にする暇も惜しく、媚びるように喉を鳴らし、はるか上から見下ろしてくるコーチの顔に感謝のまなざしを送る。

 自分の指でするオナニーとしては間違いなく過去最高に気持ちよく、溢れる愛液は太ももを濡らし、床にしたたる勢いで。

 

「んっ、んぐっ、むぉぉぉ♡ ……んんんんーーーーーーーーっっっ♡♡♡」

 

 コーチの側からは指一本触れられることなく、その体を使ったオナニー同然の行為で、杏里はあっさりと絶頂を極めた。

 

「ンぷはっ♡ はーっ……はーっ……」

「杏里さん、フェラは初めて、ですよね? でもすっごく気持ちよかったです。もう少しで俺も射精るところでした」

「んんっ。はぁ、ン……♡」

 

 正直、女として情けないところを見せたと杏里は思う。

 コーチをリードするどころか、しゃぶりつくだけしゃぶりついて返り討ちにあったも同然、いやそれ以下と言っていいだろう。

 

 なのに、コーチはここでも杏里を褒める。

 経験したことはないが、間違いなくヤバいクスリよりキマる。

 頭を、頬を撫でられ笑顔で覗きこまれながら、杏里はそう確信した。

 

 この男に、ハマるとヤバいと。

 

 

「――じゃあ、次は俺がしてあげますね」

「……へ? きゃっ!?」

 

 だと、いうのに。

 コーチは杏里の足と背中を手で支え、抱き上げる。

 お姫様抱っこで、ベッドへと横たえられるという女の夢。

 今日だけで自分はいったいいくつの幸福に襲われるのだろうと、もはや数すらわからなくなりつつある頭の片隅で杏里は呆然と思い知る。

 

「それじゃ、いきますね」

「ふぇ……? えっ!?」

 

 だから、その瞬間までの記憶はあいまいだった。

 

 いつの間にベッドの上で仰向けにされたのか。

 杏里の足を広げた隙間にコーチがどんな顔で入ってきたのか。

 根本を杏里の秘裂に押し付けるだけで杏里の下腹を埋め尽くしそうなコーチのちんぽがなぜさっきよりも大きい気がするのか。

 

――ずぷぷぷぷぷぷ……ぷつんっ♡

「かっ……!? はぁあああ♡♡」

 

 痛かった、はずだった。初めてのセックスなのだから当然のこと。

 だというのに、杏里は自分の喉からほとばしる悲鳴が甘い響きを持っていることを自覚したし、体の中を走る衝撃の強さこそ理解したものの、それが痛みと苦しみだけからなるものだとは、どうしても思えなかった。

 

 

「うぅっ、杏里さんの中、キツい……っ! すごく、気持ちいいです」

「ふぁあ、コーチ、ぃ……♡」

 

 そして、上になって自分を処女から卒業させてくれた男が快楽に歪む顔を見せてくれれば、愛おしさがその他全てを吹き飛ばして胸の中に満ちる。

 そっと頬に添えた手に、すり寄るように甘える姿にはかわいさすら感じる。

 膣内を自分のものだとばかりに押し広げて形を覚えこませる傲慢さと、このギャップ。

 ただ密着するためだけの腰の全身による圧迫感。それが熟練のマッサージにも似て子宮口をこね回してくる心地よさ。

 

 めちゃくちゃいいセックスだと、杏里は心の底から満足できた。

 

 

 満足だけで済んでいた。この瞬間までは。

 

 

「じゃあ、そろそろ動きますね。俺だけじゃなくて、杏里さんにも気持ちよくなってほしいですから」

「……え?」

 

 杏里は思い知る。

 自分が手を出した、いや自分に手を出したこの男が、何者だったのかを。

 

 

◇◆◇

 

 

――パンッ、パンッ、パンッ、パンッ♡

「――ぁぁぁぁああああああっ♡♡♡ やめっ、やめ、ろぉ……! 壊れる、私、こわれ、るぅうううううう!!!」

「そうみたいですね。ちゅうううううぅぅぅ」

「んっっひーーーーーーー!?!?!?!?♡♡♡♡♡」

 

 コーチのことを、その身体能力を、男ぶりを、舐めていた。

 杏里の中の常識が、セックスとなればどう転んでも最終的には女の積極性が男を塗りつぶすのだろうと計算を誤らせた。

 

 コーチは主導権を持ったまま離さない。

 杏里に覆いかぶさり、力強く腰を振る。

 男はあまり長くもたないと聞いていたというのに、杏里が奥をいじめられるたびにイっても構わず攻め続ける力強さにそんな気配はまるでなく、まっすぐ顔を覗き込まれながら体を堪能されてしまう。

 激しい腰の振りから一転、どこまでもねじ込むような動きも交えてくる。

 左右に、上下にひねって最奥の責めどころを変え、杏里の弱いところを見つければ容赦なくそこだけを小刻みに潰し倒す。

 

「ぅう、その締め付け気持ちいいっ! もっとしてください、杏里さん!」

「やらあああああ♡ それっ、むりっ♡♡ ぐりぐりしなひれ……おほおおおおおお♡♡♡」

 

 無様なオホ声を媚びと勘違いしたのか、口から投げ出された舌に吸いつきディープキスへ。

 遠慮なく体重をかけ、ベッドへ押しつぶすような密着は、二人の皮膚を溶け合わせる。

 

 口の中を隅々まで洗い清めるような舌の動き。杏里の巨乳が胸板でつぶれるのも厭わない抱きしめる腕の強さ。

 杏里が無意識に足を絡めて腰を引き寄せても嫌がるそぶりなど微塵もなく、2人の熱い汗が混じりあっていく。

 

 

(やっべ……これ、最高過ぎる……♡ こんなん、絶対ハマるだろ……♡♡)

 

 この時点でもう、杏里は色々なものをあきらめていた。

 女としてのプライドや見栄。これまで培ってきた価値観や立場。

 それら全ては粉々に砕け散り、コーチを柱に組み直される。

 もしコーチがドルフィンとして本格的に復帰しろと言うのなら、する。求められればどんな勝利だってもぎ取って献上しよう。

 それに値するだけの幸福が、この男の腕の中には確かに存在するのだから。

 

「んんっ! 射精ます、杏里さん……もう、我慢できないっ……!」

「あああああっ! 来て、来てくれ、コーチ♡ 私の、膣内にぃ……っ♡♡」

 

 動きは小さく、しかし強く奥へとねじ込む動き。

 杏里はそれをどこまでも迎え入れ、膣内の蠕動はきゅんきゅんと男の震えを受け止める。

 最高の瞬間が訪れるのだと、女の本能が疑いの余地なく理解して。

 

 

――びゅううううううううううっ! びゅーーーーーーーーっ!!

 

 

「んおおおおおおおおっ♡ おほおおおおおおおおっ♡♡♡ いっぐぅぅぅぅぅううううう♡♡♡♡♡」

 

 腹の底、子宮の深く。

 人生で初めて、生命として、女として無意識に望んでやまなかったものが一息に満たされていく感触に、杏里の意識はひとたまりもなく白濁の激流に押し流されて。

 

 

「ぁー、さすがに杏里さんは限界か。……じゃあ、仕方ないな」

 

 意識が落ちるその寸前、コーチの携帯が奏でるコール音を聞いた、ような気がした。

 

 

◇◆◇

 

 

――ぱちゅっ、ぱちゅっ、ぱちゅっ

――んんっ、あんっ♡ やぁん、ふああぁぁっ♡

 

「ぁ、コー……チ……?」

 

 気が付き、部屋の天井が目に映り、記憶がはっきりしてくる杏里。

 コーチとのセックスで処女を卒業し、初体験とは思えないほどのめくるめくセックスを教え込まれ、いつの間にか意識を失ってしまっていたらしい。

 そのことを自覚し、焦りに襲われる。

 セックスにおいて、女が先に音を上げて寝こけるなど失望されていないだろうか、と。

 最悪の場合、コーチが一人で帰ってしまっているということすらあり得る。

 そうでないことを祈りつつ、しかし逸る気持ちに急かされて思わず飛び起き、コーチの姿をラブホテルの部屋の中で探し。

 

 

「あ、起きた。おはようございます、杏里さん」

「んはぁ♡ コーチちゃんをほっといちゃダメっとよ、杏ちゃん。……まあ、初めての相手がコーチちゃんなら仕方ないかもやけど……あんっ♡」

 

「は……? トシエ……?」

 

 そこにコーチのみならず、自分の相棒たる彩戸詩絵がいるなど。

 

「くっふぅぅぅん♡ あっ、だめっ♡ コーチ♡ 奥っ、強いっ♡ 子宮こつこつ♡ 杏ちゃんにイくとこ、見られるぅぅぅ♡♡♡」

 

 しかも、ついさっきまで自分がしていたようにコーチとセックスをしているさまを見せつけられるなど、完全に理解を越えていた。

 

 

「……いや待て、どういうことだよこれぇ!?」

「はぁっ♡ はぁっ♡ ……んふふ、見ての通りとよ? 杏ちゃんも薄々わかってたんやない? ――コーチが、とんでもないビッチだって♡」

「んなあっ!?」

 

 驚きの声こそ上げたが、どこか納得できる、その言葉。

 

 たしかに、そうではないかと疑った。兆候はいくつもあった。

 最初に杏里に誘われたときの落ち着き払った態度。

 その後実際にこうして杏里とホテルにしけこんだという事実。

 いや、それどころかそもそもジェットバトルのコーチとしてチームに入り、巨乳のドルフィンたちに囲まれても嫌な顔一つせず熱心に、そして甲斐甲斐しく仕事をこなしたその姿に、ビッチなのではという思いを抱かなかったと言えば嘘になる。

 

 だが。

 

「ビッチ扱いはひどいなあ。俺はただ、女の人のきれいで柔らかくて優しいところが好きってだけなのに」

「あんっ♡ ご、ごめんてぇ♡ そのままおっぱいたくさん触ってええから、許して♡」

「許します」

 

 女一人を抱き潰してなお飽き足らず、既に関係を持っていただろう別の女をホテルに呼びつけバックで抱き、乳を揉みながら肩に背中に何度も口づけを落とすほどのビッチがこの世に存在するなどと、さすがに予想の範疇をはるかに超えていて。

 

 信じがたくともそれが真実であるならやることは、一つ。

 

「……おい、コーチ」

「――はい。なんですか、杏里さん?」

 

 やけに広いベッドの中央、コーチと詩絵が絡み合う場へとにじり寄る。

 にこりと相変わらず朗らかに笑うコーチの顔は詩絵とセックス中だというのに憎らしいくらいいつも通りで。

 

「――んっちゅうううううううぅぅぅぅぅ♡♡♡」

「んむっ」

 

 両頬を抑え、逃げられないようにしてからの深いキスも当たり前のように受け入れられるなら、もはや遠慮など一つも必要ないだろう。

 

「ぷはっ! この野郎っ♡ 遠慮する必要なんてなかったじゃねえか♡ おらっ、私の胸も揉めっ♡ お前みたいなビッチでこじらせた処女卒業させたんだ、どうなるかしっかり教えてやるからな♡♡」

「あははっ、杏ちゃんも吹っ切れたっちゃねえ。ええと思うよ。コーチちゃんとは入華ちゃんとみちるちゃんと4Pもしたし、今度は杏ちゃんも一緒やねえ♡」

「KIRISHIMAの中で私が最後じゃねえか! お前もだぞトシエ! こんな、こんないい男とヤれることを今まで黙ってやがって……今日は覚悟しろよ、二人とも!!」

 

 杏里、覚醒。

 もはや目の前の男を男とは思わず、女にとっての理想的なドエロ男子として、徹底的に楽しませてもらうことに決めたのだった。

 

 

◇◆◇

 

 

 いやー、杏里さんすごかった。

 最初にセックスして気絶させちゃったときはどうしようかと思ったけど、詩絵さんはこうなることを見越していたのだろう。

 そういう時は呼んでくれといわれていたので連絡したら普通にホテルにきて、代わりに相手をすると申し出てくれた。

 さすがに杏里さんを怒らせそうなのだが、詩絵さんがしきりに大丈夫大丈夫言うから半ば流されてセックスをすることに。

 途中で案の定杏里さんが起きてきたときは少しビビったけど、そのままの勢いで3Pすることになったから結果的に大歓迎だ。

 

「んじゅるるるるるっ♡ おぶっ、んぐぅ♡ んむふぅぅぅぅん♡♡」

「ぉあっ……! 杏里さん、喉の締め付けヤバ……っ! 口の中、気持ちよすぎですっ!」

「んれろれろれろ、ちゅうぅぅぅん♡ ふふふ、杏ちゃんも溜まっとったねえ。コーチちゃんのをフェラすると幸せになれるから、たっぷり味わうといいとよ♡ んええええ♡」

「詩絵さんっ!? それ、深いですっ……お゛っ♡」

 

 なにせ、二人は長年ジェットバトルでともに戦ってきた相棒。セックスにおいても息はぴったりで、2人がかりで責められるとさすがに分が悪い。

 立たされたと思ったら杏里さんが俺の尻を両手で掴む勢いで深く喉まで飲み込むようなフェラをして、激しく水音を立てて吸いつかれた。

 口の中では舌があちこちうごめき、さっきまで処女だった人が、吸いついた唇が伸びてもかまわずに口奉仕してくれる光景というのはすさまじい征服感がある。

 一方の詩絵さんはあまりにも自然に後ろへ回り、杏里さんが広げた尻の間にためらうことなくおっとりお姉さん感のあるきれいな顔を埋めて、尻穴へ舌をねじ込んでくる。

 KIRISHIMAのドルフィンでも屈指の巨乳な二人が跪き、前後から挟まれた俺の膝はたっぷりとした乳肉に挟まれて溺れそうなほど。

 自力で立っていられたのか、フェラと尻穴舐めで立たされていたのか、正直区別がつかない。

 

 

「へへっ♡ ほら、射精せよコーチ♡ 私はまだ男の射精を見たことないんだ。見せろ♡ 見せろ♡ たくさん射精せ♡♡」

「そうやよ、杏ちゃん。コーチちゃんは上から下までねっちりパイズリしてあげるのが大好き♡ 息を合わせて、いっちに♡ いっちに♡」

「ぅああっ! ふたりのおっぱい! やわらかいぃぃ!!」

 

 ベッドへ仰向けに転がされ、色欲に燃える目で見られながら俺のちんぽは左右から杏里さんと詩絵さんの巨乳に挟まれる、ダブルパイズリ。

 深い谷間をみっちりと埋める肉の質感は極上で、汗と唾液とふたりの愛液と先走りと、全てがい入り混じった極上の快楽空間に男が耐えられる時間は決して長くなく、腰の奥からしびれる射精は長く、強く、ふたりの美女を俺の精液で染め上げる。

 

 3人の饗宴はいつ果てるともなく続き、肉欲に支配された男女は時間も体力も回数も脳裏を過ることはなく、ただひたすらに互いをむさぼり合う獣の時間が過ぎていき。

 

 

◇◆◇

 

 

「おっ♡ おほっ♡ んっほぉぉぉぉんっ♡♡」

「ふぅっ♡ ふぅっ♡ ふほっ♡ くひぃぃぃ♡♡♡」

 

「ふう。杏里さんがクソザコアナルじゃなかったら即死だった……」

 

 その後。

 そろそろ汗を流そうかとなってからはシャワールームへ向かうことになったわけだけども、当たり前のような顔をして杏里さんも詩絵さんもついてきて、体で洗ってもらったり俺の体で洗ったり。

 結果、ベッドへ戻って仕切り直しとなるころには、さすがにぼちぼち二人まとめて相手にするのはキツいと認めざるを得なくなっていた。

 

 杏里さんが自信満々に誘ってきたアナルがクソザコで、オホ声アへ顔晒してイキ散らかすほどの弱点でなければこっちがヤバかったかもしれない。

 そんな杏里さんの痴態を見て期待と興奮が限界まで高まった詩絵さんも、正気かどうか疑わしい表情でアナルを差し出してきてくれたからこその勝利と言えるだろう。

 今は、二人そろってベッドの上で尻を掲げて枕に顔を埋めて、両穴から精液を垂れ流している。最高にエロい光景だ。

 

 

 そう、これが俺の生きる道。

 貞操逆転したこの世界で、男の俺がよりよく生きるためには女性たちとの関係をどう構築するかが極めて大きなウェイトを占める。

 こうしてワダツミで、KIRISHIMAで、ジェットバトルのコーチとしてたくさんのドルフィンとの交流がある。

 女の子たちから俺に向けられる視線の意味。

 この肉体が持つ「価値」。

 

 俺はそれを、生かしていきたいと思う。

 より多くの幸せを捧げ、もらう。それこそが、貞操逆転世界のイき方だ。

 

 

「……とりあえずもう一回いいですか、杏里さん?」

「ひゃひぃっ!? う、嘘だろぉ……♡」

 

 詩絵さんの尻を揉みつつ、杏里さんの膣口に亀頭の狙いを定める。

 趣味と実益と、欲望と需要を満たすため、今日初めてセックスした杏里さんを徹底的にモノにするため、再びのセックスへと耽溺していった。

 

 

◇◆◇

 

 

ドルフィン紹介!!!

 

咲宮入華

 オープンドスケベ。幼さと田舎生まれと大型犬じみた愛嬌があるから許されていたが、ぼちぼちセクハラとして訴えられたら負けるくらいには距離の近さとボディタッチの多さがヤバい。あとハグも普通にする。その際、男の二の腕はもれなく巨乳の谷間でホールドされて逃げられなくなる。

 コーチに対しても同様だが、コーチはセクハラされてもセクハラ返しをするので入華は自分の色々な緩さには気付かずもりもり懐いている。

 好きなプレイはご奉仕系。嬉々として尽くす。

 

 

都条みちる

 むっつりドスケベ。入華にとってのクールな先輩たることを目指し、その一環として入華のセクハラを窘める。……という建前でコーチの前でいいカッコをしたい系女子。

 でもその辺コーチには見透かされかわいがられているのもあり、そういう扱いも悪くないかもと心揺れている。

 好きなプレイはおしおき系。厳しく指導してください、という体でドジったあとに尻を叩かれるのが最近の好み。一度やりすぎて試合前日に尻が赤く腫れるほど叩いてもらったときは、バレないようにふんばったら妙に射撃の精度がよくなり、キツめのセックスにはトレーニング効果があるのかもしれないと思うくらいにはアホの子。

 

陽南杏里

 誘い受けドスケベ。勝気で隙あらばコーチを誑し込もうとするイケてるお姉さん、という外面に反して、最終的にコーチに屈服させられることにドハマりしている。当人にその自覚はない。

 若くしてジェットバトルの優秀な選手として活躍したのち、その自信やら何やらをボコボコにされたことで少し屈折した感情を抱えている。

 そのため、「負けても仕方ないと思える勝負」に質の悪い安心感を覚えている様子。パイズリや騎乗位など男を責める系のプレイが好き。そのあとアナルをわからされるところまで含めて好き。

 

彩戸詩絵

 甘やかしドスケベ。当人は末っ子だが、だからこそ両親や兄姉にされたような甘やかしを周りにもしたいタイプ。女に甘えることに躊躇のない男、というコーチのことはある意味他の誰よりもガチめに狙っている。弟にしたい的な意味で。1週間くらい焦らしたら姉を名乗る不審者からどいて! お姉ちゃんとよ! に進化してしまう。

 好きなプレイは授乳手コキ。隙あらば狙ってくる。手コキが無理なら授乳だけでもしてもらいたいと常々思っている。弟に授乳するのはなんかおかしい、と指摘しても言語すら理解できないとばかりの顔で首をかしげる筋金入り。

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