※物語に登場する人物等は全てフィクションです
◇◇◇◇◇◇◇◇
私のお父さんとお母さんは、世間的に見ればごく普通の家庭に生まれた人だった。普通な家庭に生まれた2人は偶然出会って、恋愛を経て結婚して、そして私という子どもを授かった。そう小さい頃にお母さんから聞かされていた。
私が3歳の時、周りのことや自分のこと、記憶や意識がハッキリとし始めた頃には、お父さんは家にはいなかった。離婚したとかそういう訳ではなく、私が1歳の頃に急死してしまったらしい。
つまり、お父さんという存在がもうこの世にいなかったのだ。
お葬式も死んでからすぐに挙げたようで、その時のお母さんは泣き崩れて殆ど立ち上がれなかったと、偶然家に立ち寄った遠方に住む叔母さんが話していた。
お母さんは死んだお父さんの分まで生きようねと、毎晩のように私に話しかけていた。毎日、仏壇にお線香を上げて、手を合わせて、写真の中で笑うお父さんに話しかける。額縁の中の四つ切りサイズのお父さんは、屈託のない笑顔をこちらに向けていて、今にも写真から飛び出しそうな程に明るかった。これを撮影した数日後には死んでしまうだなんて、思いもしなかっただろう。
お母さんは私のために必死で働いてくれた。元々共働きでお父さんと2人で家計を支えていたけど、お父さんがいなくなってからは、前以上に働くようになったらしい。
将来、私が困らないように、お父さんがいなくても苦しい生活をさせないように、お母さんは夜遅くまで体を動かした。夜遅くまで働いて、どれだけ時間がかかっても、必ず保育園に来て、迎えを待つ私を抱きしめてくれた。
そんなお母さんに、小さかった私は何も出来なかった。ただおかえりと言って、休日は泥のように眠る彼女に布団をかけることしか出来なかった。時々ストレスが溜まると、ちょっとのことで傷ついて怒鳴ってしまうので、そういう時はそっとしておいてあげないといけない。甘えることはできなかった。
私達の生活に転機が訪れたのは、私が小学校に上がって暫くしてからのことだった。学校に慣れてきて、話せる子が出来始めた頃で、家に帰って学校のことをお母さんに伝えることが楽しくて仕方なかった。
その日は、いつものように学童保育を終えて、家までの帰り道を歩いていた。けど、私はいつも以上に上機嫌で、思わずスキップをしてしまった。お母さんが久々に迎えに来てくれたからだ。いつもは迎えに行こうとしても間に合わないことが多くて、先生や近い場所に住んでいるお兄さんとお姉さんが家まで着いてきてくれていた。だから余計に、お母さんとこうして手を繋いで帰れることが嬉しかった。
「お母さん、今日ね──」
家に着くまでの間、私はお母さんに学校での出来事を話した。その時の私は、多分、成長した私よりも純粋で汚れを知らない笑顔を浮かべていた
家の扉の前について、私はいつものように鍵穴にカギを差し込んで回した。学校から帰った時は、お仕事でお母さんがいないことが大半だった。だから、こうやって自分で鍵を回すことは、私にとって日常の動作の1つになっていた。
けど、いつもみたいなガチャリっという感触はなかった。恐る恐る取っ手を引っ張ると、ガチャンと開いた。
「ねえ、お母さん……」
私は不安になって、お母さんに顔を向けた。けれどお母さんは不安になるどころか、優しい笑顔を私に向けていた。どうやら、泥棒が入ったというわけではないらしい。
お母さんは早く入りましょうと、急かすように背中を押した。とてもにこやかで、何か嬉しいことがあるのは確実だった。
私は靴を脱ごうと踵に人差し指を入れた。ふと、見たことない靴があることに気がついた。私とお母さんのものよりも大きいサイズで、靴箱の中に残ってるお父さんの靴のサイズと同じだった。どくんっ、と私の胸が鳴った。もしかして、お父さんが帰ってきたんじゃないか、なんて有り得ないことを考えた。
靴を脱ぎ終えた私は、お母さんに手を引かれる形でリビングへ繋がる廊下を歩き、扉を潜った。
私が生まれる前から2人で過ごしていた広めなリビング。ここでお父さんとお母さんはイチャついたり、時々喧嘩したり、仕事の愚痴を話し合ったりして、その傍らで楽しい思い出を写真に収めて棚に飾って記録している。お母さんが私を身篭ってからは、2人で産まれてくる私が男の子が女の子か、デザートを賭けて予想したり、名前をどうしようか悩んだり、動けないお母さんの代わりにお父さんが家事の負担を増やして協力し合った。そして私が産まれてからは、夜泣きで騒がしい私を2人してあやして寝不足になった。そんな思い出が詰まった部屋は、白い室内灯で照らされている。
そして、お母さんと2人でいつも座っているソファに、見知らぬ男の人が座っていた。クラスメイトのお父さんのように濃い髭が生えていない、皺も少なくて、お母さんと同い年か少し若い感じの人が、私達を待ち構えていた。その人は私に気がつくと、口角を上げて微笑みかけてきた。
「お母さん…………」
私は思わずお母さんの後ろに隠れた。するとお母さんは苦笑しながら私の頭を撫でて、男の人の名前を言って、この人が新しく私のお義父さんになる人だと説明した。
なんでも、この人はお母さんの仕事の関係でよくお世話になっている人らしく、1年前くらいから恋人関係になったらしい。それでゆっくりと距離が縮んでいき、こうして同居というなの結婚をしようとしていた。
私はお母さんとこの人の馴れ初めは殆ど聞き流していた。ただ、知らない男の人が同じ空間にいる。それだけで私は怖かった。
それは2人にも伝わったようで、お母さんはしゃがんで、私に目線を合わせて『この人はとっても優しい人よ。死んじゃったお父さんと同じくらい、優しい人なの。だから、あなたが良いって言ってくれたら、お母さん、嬉しいな』と言った。男の人もソファから腰を上げて、私の元に歩いてしゃがみ、『お母さんと君を絶対に幸せにするよ』と優しい笑みを浮かべた。
正直、どうしていいのか分からなかった。この人が本当に優しい人なのか、仏壇のお父さんが怒るのではないか、そう考えてしまう。でももしここで嫌だなんて言ったら、お母さんを傷つけることになる。
「…………うん」
私は顎を引いて唸るように言った。2人ともぱあっと明るい顔をして喜び、お母さんは私を抱きしめた。
これが、私とお義父さんの出会い。そして、後から始まる地獄の日々の序章でもあった。
◇◇◇
お義父さんとの生活は、初めは慣れないことばかりだった。家族になったとはいえ、お義父さんは外からやってきた他人で、生き方も暮らし方も私達とは違っていた。そのため、最初の頃は我が家のルールや生活習慣に馴染むまでかなり苦労していた。私とお母さんも、今まで生活の仕方が違っていた人とひとつ屋根の下で暮らし始めたから、こっちはこっちで頭を抱えていた。特にお母さんは、外でお付き合いしていた時と家で一緒に暮らしている時とでは、お義父さんはかなり違って見えたらしい。
私がお義父さんに人見知りをしていると、お母さんは大丈夫よと言ってくれる。けど、仕事の疲れが溜まっていると口調が荒くなって、『いい加減にしなさい!』と当たるように叱ることもあった。そんな時はお義父さんが間に入って、お母さんを宥めてくれた。それでお母さんも冷静になって、私に謝って抱きしめてくれた。お母さんの苦労にならないようにしないと、そう思っていても、私はどうしてもお義父さんと打ち解けられなかった。私を見るお義父さんの目が、少しだけ怖く感じた。
時間が経って、少しだけ3人での生活に慣れて、気持ちに余裕が生まれ始めた頃、私達は家族の絆を深めると称して、外出をするようになった。
2人は仕事の関係上、家にいない日が多い。休日を貰っても、基本的に2人とも眠っている。だけど、疲れていない日は、3人で一緒にドライブに出かけることが多かった。高速の途中のサービスエリアでお昼ご飯を食べて、そのまま水族館や動物園、映画館に行くこともあった。
歩く時、お母さんは必ず私を真ん中にして歩いた。お母さんが右側で、お義父さんが左側、私は両方から手を繋がれながら、仲の良い親子のように歩いた。
動物園や水族館の柵が高くて見えない時は、お義父さんが私を抱きかかえてくれたりして見せてくれた。けど、運がいいのか悪いのか、私が見る時は何故か動物が交尾をする瞬間ばかりだった。お母さんはやだぁ、と言いながら自分と私の顔を隠し、お義父さんは苦笑しながら私に謝った。けど、私はどっちでも良かった。動物の交尾よりも、胸やお尻を触るお義父さんの手が、只不思議でしかたなかった。
そういう手は、動物園や水族館の時だけじゃなかった。映画館でも、2人は私を挟む形で座っていた。その時も、お義父さんは私の手の甲に自分の手の平を乗せていた。掴むことはせず、まるで表面の感触を味わうように。けど、お母さんも同じようにしていたから、特におかしいことではないのだと思った。ただ、背中がゾワゾワして、少し気持ち悪かった。
そんな違和感ばかりな生活をする中で、私は学校で友達が出来た。2年で私と同じクラスになった女の子で、お父さんがいない母子家庭の子だった。明るい性格で、いつも笑顔でみんなと話していたその子は、ひょんなことから私と話すようになった。それで話の馬があって、そのまま友達になった。
彼女はいつも、お義父さんがいる私に『いいなー』と顎を手に載せながら羨ましそうに言っていた。お父さんがいないとなにかと不便なんだよとか、お父さんがいないだけでイジメの対象にされるから結構つらいよとか、日常生活で得た苦労話をよくしている。お義父さんがいても、別にいいなんて思えないのに。
何かにつけてお義父さんに懐かない私。
けど、お義父さんはそんな私に対して優しく接してくれた。そう、お義父さんなりに優しくしてくれた。私の好きなアニメの玩具を買ってくれたり、『お母さんにはナイショだよ』と言ってお菓子を分けてくれたり、観たいアニメの時間が被った時は譲ってくれて、私を半ば強引に膝の上に乗せて一緒に観てくれたりした。
それでも、私の中にあるお義父さんへのモヤモヤは晴れなかった。膝の上に私を乗せたお義父さんの手は、いつも服の上から胸やお尻を触っていたからだ。
そんなお義父さんだけど、唯一嬉しいと思えたことがあった。課題で描いた絵が、学校で賞を貰った時だ。もともと絵を描くことが好きで、課題の絵も、一生懸命取り組んで描いたものだった。
お母さんは凄いと褒めてくれて、お義父さんも才能があるんじゃないかと頭を撫でてくれた。その時のお義父さんの手は、胸や手を触った時とは違って気持ち悪さがなく、本当に褒めてくれているかのように優しかった。
その瞬間だけ、私はお義父さんのことが好きになれた。
◇◇◇
3人での暮らしが始まってから既に3年が経って、私は小学4年生になった。4年生と言えば、小学校でいう高学年の一年目に該当する学年で、3年生の頃よりもみんなの雰囲気が少しだけ違っていた。
前までお父さんやお母さんと一緒に遊びに行ったことを話していた子はそういう話をしなくなって、代わりに特定の友達と遊ぶ約束をすることが多くなった。
他にも、友達と喧嘩をして口を聞かなくなる子や、友達に謝れなくて悩んでいる子、逆に友達なのか分からないのに後ろを着いていく子、テストの点数が急に下がってしまった子、足が遅いことを恥ずかしがる子、誰かを省いてクスクスと笑う子…………前まで同じ道を歩いていたはずの子達が、別の姿に形を変えていた。
かく言う私もその1人で、私は友達と外で待ち合わせをして遊ぶようになった。家でお義父さんかお母さんといることが、何だか恥ずかしくてしかたなかった。
けど、家にあまり居たくないのには、もう1つ理由があった。最近、お義父さんとお母さんの仲があまり良くないからだ。
再婚したての頃、お母さんはいつもお義父さんとイチャイチャしていて、けど、お父さんの仏壇には必ず手を合わせていた。お義父さんもお母さんを宥めつつ、お父さんに手を合わせた。
けれど、最近は一言話す度に口喧嘩をしている。洗濯物を放るなとか、この皿はここじゃないとか、使ったら元の場所に戻せとか、そんな些細なことだった。些細なことでも、2人は部屋に響くくらいの喧嘩をしていて、その声は、私の部屋にも聞こえてきた。そういう時は、部屋から出ずに、絵を描いているのが1番だった。
気がつけば、お義父さんはお父さんの仏壇に手を合わせていない。ただ、手を合わせるお母さんの背中を睨んでいた。本当に睨んでいたのは、お母さんなのかお父さんなのかまではわからなかった
学校でも不安定で、家にいても凄く居心地が悪い。そんな毎日を送っていたある日のことだった。
その日は、お母さんが仕事で家に居なくて、私とお義父さんは学校と仕事が休みで2人きりだった。
最近、お義父さんとお母さんは休みが被る日が殆どない。まるでわざと被るのを避けているかのように、2人とも、バラバラな日に家に居た。流石に3年も経てば、私もお義父さんと2人きりになっても平気だった。
「どうしたの?」
それは、リビングで好きなキャラクターの絵を模写している時のことだった。テレビの前に置かれたソファに座っていたお義父さんが首を捻って、イスに座る私の名前を呼んで、隣に来るよう手招きしてきた。
私は鉛筆を置いて、お義父さんのもとへ歩み寄る。トントンとソファの表面を指で叩いて、隣に座るようにジェスチャーしてきた。私が少し不安になりながら腰を下ろすと、お義父さんは私の目を見ながら、突然こんなことを言い始めた。
──実はね、今日は〇〇に特別に教えてあげたいことがあるんだ。
その言葉に私は首を傾げた。お義父さんは続けるように『大人になるための練習だよ』と言った。何でも、今から教えたいことは、男の子と付き合うことになった時のために必要なことらしく、これをしておけば、将来困らないということだった。けど、とてもデリケートなことなので、お外では絶対に話しちゃいけない練習らしい。もちろん、お母さんにも秘密だ。
私は少し怖かった。誰にも言えないくらいに秘密なことなら、本当はやってはいけないことなのではないか。もしお母さんに知られたら、雷を落とされるんじゃないか。そう表情で訴えると、お義父さんは『今練習した方が、将来恥ずかしい思いをせずに済むから』『そしたら、彼氏もできて、お母さんも安心するよ』と優しい笑みを浮かべて話した。
彼氏とか、恋愛とか、4年生の私にはよく分からなかった。ただ、私のために苦労してきたお母さんが安心するなら…………そう思うと、自然と頷いていた。頷いてしまった。
私の返事を受け取ったお義父さんは、唐突に服の中に手を入れてきた。Tシャツの中に、大きな手が這いずり回り、キャミソールの上から肌を撫でる。蠢くお義父さんの手は舐めるようにしばらく背中を撫でると、今度は脇の下から胸の方へと伸びる。友達と違ってまだブラジャーを付けていなかった私の小さな胸に、指先が円を描くように落書きをしていく。たまに先についた小さな乳首を掴まれると、痛くて肩が跳ねた。
やがて蠢いていた手は、キャミソールの中に潜り込んだ。服越しよりも、もっと熱いものが肌に直に触れる。膨らんですらいないおっぱいを、五本の指がきゅうっと鷲掴む。
耳朶に、お義父さんの吐息がかかる。はあ、はあ、と犬のような荒い息使いが鼓膜に響き、横顔を湿らせる。
私は気持ち悪くて、思わず目を下に逸らした。すると、お義父さんのズボンが、特におチンチンの辺りが凄くもっこりしていることに気がついた。山のように膨らんでいるだけじゃない、中でぐにゅっと動いている。
視線を外せない私に気がついたお義父さんは、私の体から手を抜き出した。抜き出した手はそのまま下半身へと伸びていき、ズボンのボタンとファスナーを順番に解いていく。
そして、お尻を上げてズボンを脱ぐと、中からこんもりと膨らんだパンツが現れた。私が唖然としていると、お義父さんは、今から男の子がおちんちんを弄る時の練習をするからちゃんと見てと微笑んだ。
パンツについてるポケットがずれると、中から見たこともないものが飛び出した。低学年の時の水泳て見た男子のおちんちんは、 まだ花を咲かせていない蕾みたい形をしていた。
けど、お義父さんのは違った。まるで水族館のミズガメの首と頭のようで、亀が甲羅から頭を出すように、お義父さんのそれはパンツから頭を出していた。
お義父さんが説明する。これは男の子のおちんちんの本来の姿で、男の子のうちはみんな、皮を被って身を守っている。大人になるとその皮を下ろして、本来の姿を現す。頭の部分は亀頭という名前で、先端の部分は鈴口といい、おしっこの穴でもある。おちんちんのことは肉棒と呼ばれることが多くて、大人の女の人の中には口の中に入れるのが好きな子もいる。パンツの中に隠れているけど、ここの辺りに垂れ下がってるのは金玉、よく男の子たちがネタにして笑ってるやつだ。
一通り説明すると、お義父さんは自分の右手で肉棒を掴んで上下に擦り始めた。乾いた手の平が、肌よりも黒ずんだ肉棒の首の部分を上下に擦る。男の子達のものと比べても比にならないくらいにお義父さんの肉棒は大きく、手首に透けて見える血管が浮き出ていた。
暫くすると、亀頭の先端から透明な汁が溢れてきた。これはなんだろうと怖いながらにチラチラと見ていると、お義父さんはこれが我慢汁ということを教えてくれた。我慢汁は男が気持ちいい時に出るお汁で、舐めると苦いならしい。
説明している間にも、お義父さんの手は速さを増していた。ごりごりと肉棒を強く擦って、腰が震えていた。お義父さんは叫ぶように私の名前を呼ぶと、今から大切なものを出すから亀頭に手を翳すように唾を吐いた。
「え、でも……」
男のおちんちんなんて、本当は触りたくなかった。そう私が躊躇していると、お義父さんは左手で私の手を掴んで、手の平を無理やり亀頭に押し付けた。
────瞬間、鈴口から熱い何かが飛び出した。生暖かくて、一定の纏まりを持った塊が、次から次へと手の平につく。お義父さんの右手の中で肉棒が震える度にそれは溢れ出して、私の小さな手を汚した。
握られていた手が解放されて、私は自分の左手を確認した。手の平には、白くて濁った液体がべっとりと付いていた。牛乳の色をしていて、だけどそれはゼリーみたいで、トイレのお掃除洗剤のような臭いがしてとても臭かった。
そんな臭いものを、お義父さんは全部食べてと言った。これは精液と言って、赤ちゃんを作るために必要な液体。彼氏が出来た時はこれを口の中に入れて飲むことになるから、今のうちに舌を慣らしておかないといけないらしい。
私は、お義父さんに言われるがままに手の平を口につけて精液を舐めた。牛乳のように甘くないうえに、とっても苦かった。大人の人は、こんなのでどうやって赤ちゃんを作るんだろう。
いつの間にかティッシュで肉棒を拭いたお義父さんは、『絶対にお母さんやみんなには秘密だよ』『また今度、お母さんが居ない日に練習やろうね』『知ったらお母さんが悲しむからね』とねっちょりとした笑顔で口を開いていた。
それから、私はお母さんが家にいない日に、お義父さんから秘密の練習を受けさせられた。毎回私の体を隅々まで触って、それが終わったら肉棒を擦って、最後に私の手が精液を受け止め、口に運んだ。残すことは許されない、残せばお母さんにバレてしまうから。
最後の一滴まで私は手の平に着いた苦い精液を舐めとった。
嫌だった。精液を舐めるのも、お義父さんの肉棒を見るのも、本当は嫌だった。だけど、その度に将来困っちゃうよ、お母さんが悲しむよ、と言われ続けた。酷い時には、みんなに話して、私が悪い子だってことをバラしちゃうよ、そうなればお母さんどう思うかな、なんて云うことも言われた。
それに、お義父さんはいつも私に『嫌ならやらなくていいよ』という選択肢をくれなかった。左手で受け止めるか右手で受け止めるか、それしか与えてくれなかった。
けど、練習を初めて以来、少しずつだけど、お義父さんとお母さんの仲が元に戻っていた。前まですれ違う度に衝突して口喧嘩をしていたのに、今は直ぐにどちらかが折れて謝ることが多くなった。多分、大人の世界でよく使う妥協と言うやつだろう。
お義父さんは『〇〇がお義父さんと練習してくれるおかげだよ』と練習中に褒め言葉みたいに話した。私と練習をするおかげで、お義父さんもお母さんに対する許容範囲が広くなったらしい。
でも、私にはそんなこと、どうでもよかった。ただ、お母さんが怒らなくなったことだけが、少しだけ嬉しかった。
◇◇◇
私とお義父さんの『練習』が始まってから回数を重ねたある日、私はいつものように呼ばれた。けど、今日はどうしてもやりたくなくて、じっとリビングの椅子に座って絵を描いていた。いつもいつもあんなものを食べさせられて、私は我慢の限界に達していた。もう、舐めたくもないし、食べたくもない。練習なんてやりたくない。内心で何度も呟いていた。それを言えないから、こうして無視をしているのだ。
最近の絵は、自分でも酷いと思ってしまう。どれも黒くて汚くて、歪な形のものばかりを描いている。お義父さんに肉棒を見せられた時は、亀の頭そっくりな黒い絵を描いてしまった。分からない、自分でも分からない。けど、気づいたら描いていた。
私の名前を呼ぶ声お義父さんの声がどんどん大きくなっていく。それでも私は無視をし続けた。無視をして、スケッチブックの絵に視線と指先を集中させた。
聞きたくない、無視したい、無愛想な顔でペンを走らせた。
「…………え?」
突然、頬が強い力で叩かれたと思ったら、次の瞬間には、私は椅子から転げ落ちていた。ペンが床に転がる音と共に、体が硬いフローリングの床にぶつかり、手や肘に鈍い痛みが走る。少しだけ脳が震えている。
あまりにも突然のことに、私は何が起きたのか分からなかった。ただ、ほっぺがジンジンと痛いということだけは分かった。
恐る恐る頭を捻って振り返る。私の背後には、お義父さんが室内灯の光を遮るように立っていた。顔には影が掛かっていて、そこにねっちょりとした笑顔はなかった。代わりに、口をへの字にして、目を細め、静かに息を荒らげていた。
「お、義父さん…………?」
そう言おうとした次の瞬間、野太い叱責が私に降り注いだ。
なんで返事をしない、なんで名前を呼んだのに来ない、どうしてそんなに悪い子なんだ、なあ、なあ、なあ! 悪い子にはお仕置しないとダメだよなぁ!
まるで人が変わったかのように怒鳴り散らし、咄嗟に翳した私の手を掴んで強く握る。
「痛い! 痛い! ごめんなさい!」
私は只管謝った。ただ、本当に怖かった。いつも優しく接していた人が、こうして怒りに顔を歪めて殴ってきた。お母さんも怒鳴ることはあっても、叩くことはしなかったのに。
「無視しないから! もう無視なんてしないから!」
手首の骨が折れそうになるほど軋むなか、私は泣きながら必死に謝った。
言葉が届いたのか、お義父さんは私から手を離して荒い息を整えた。掴まれた箇所には、指の形に沿って赤い跡が出来ていた。
──来なさい。
お義父さんはそれだけ言うと、倒れる私を無理やり起こしてソファに座らせた。そしてすぐ隣で、荒々しくズボンとパンツを脱ぎ捨てた。飛び出した禍々しくて臭いものに、私は思わず目を逸らす。そんなことなどお構い無しに、お義父さんは目の前のテーブルに置いたタブレット端末を操作した。
検索、タッチ、タッチと私を撫でた指先を軽やかに動かしながら、とある動画を流し始めた。
「……へ?」
画面に映し出された映像に絶句した。
画面の向こうで、男の人と女の人が抱き合っていた。男の人は裸で、女の人は女子校生のお姉さんが着るような制服を着ている。2人はお互い深いキスをしながら、体を撫で合っている。制服のボタンをひとつひとつを強引に取っていって、大きなお胸を露出させた。
女の人は、胸を露出させたまましゃがむと、男の人の肉棒を手でしこしことし始めた。シコシコシコシコ、細い手で弄って、時々舌で舐めて、最後に自分の口の中に含んだ。
女の人の頭が揺れてる。ポニーテールにした黒髪が乱れて咲いて、肉棒が彼女の口から出たり入ったりを繰り返す。肉棒がヌメヌメに汚れて、黒い体を光に反射させていた。女の人は、上目遣いで男の人を見ていた。
そして絶頂の瞬間、男の人は女の人の後頭部を掴んで、自分の中に勢いよく引きずり込んだ。女の人の喉が動いていた。この人は多分、精液を飲んだに違いない。
これはフェラチオだ、とお義父さんは言った。
「……ねえ、これ……やるの?」
お義父さんは私の肩に手を回しながら、今からこの女の人のように肉棒を咥えろと怒りの形相で言ってきた。
おかしい、私は胸中で呟いた。お義父さんの行動にはずっと違和感を覚えていた。だけど、その正体が分からない。だから、どうすれば良いのか分からなかった。
悶々としている私の肩を、お義父さんは強く掴んだ。早く決めろ、咥えるか、殴られるか、耳元で囁くように言った。肉棒を咥えるなんて嫌だ、けど殴られるのはもっと嫌だ。もし断ったら、今度はどんな酷いことをされるのか分からない。もしかしたら……殺されるかもしれない。
「……うん、やる」
私は嫌々頭を下げた。そう答えると、お義父さんは人が変わったかのように怒りの表情を和らげ、少しの笑顔を作った。そして、今からソファに横になるから、脚の間にしゃがんで言う通りにするように言った。
怖かった、だから、私は震えそうになる体をなんとか支えながら、指示通りに横に寝転んだお父さんの脚の間に座った。目の前では、禍々しい肉棒が硬く立っていて、空に向かって頭を伸ばした亀のように亀頭を天井に向かって伸ばしていた。
頭を下げて、肉棒に顔を近づけてと言う命令に従って、私は頭を下げた。テーブルの上のタブレットからは、さっき流れたフェラチオのシーンが部分的なループ再生で流されている。女の人のいやらしい声が鼓膜にまとわりつく。
「…………ん」
亀頭にキスをして、という命令に従い、私は唇で臭い臭い亀頭にキスをした。口元よりも熱のある表面は生臭くて、苦い味を舌に送る。鼻先に亀頭が当たって、ツンとした臭いを鼻腔まで送り込む。
次は動画のように舐めてみてと言われ、私はタブレットに映る女の人を真似るように、肉棒に舌を伸ばしてぺろぺろと舐めた。アイスキャンデーだって、こんなに丁寧に舐めたことなんてない。
「れろ、ん……んちゅっ」
チロチロと先っぽを動かし、亀頭全体を肉舌で擦る。前に教えてもらった雁首や雁裏部分も舐めると、お義父さんは気持ちよさそうに息を漏らした。私はちっとも美味しくなんかない。
もっと全体を優しく舐めて、しゃぶってと言われ、私は舌先を首の部分、お義父さんが肉竿って呼んでる部分に流れるように伝わせた。肉竿はとても硬くて、ずっと舐めていたら舌がやけどしちゃいそうになるくらい熱々だった。浮き出た血管がどくどくと脈を打っているのが嫌でも分かってしまう。
それに、肉竿はとっても酸っぱかった。まるでお風呂に何日間も入ってないかのような臭いが鼻の中で暴れ回って、頭の中をぽわぽわとさせる。
「んっ!?」
あまりの臭いに力が抜けかけたその時、頭に軽い衝撃が走った。またお義父さんが叩いたのだ。サボるな、ちゃんとやれ、言われてないけど、叩かれた強さからそう言っていることは分かった。
「ん、んちゅ、れろっ……あっ、はむっ」
私は震えながら全身に力を入れて肉竿を舐め続ける。下から上に何度もぺろりと舐め上げ、時々ぱくっと唇に挟んでちゅうちゅうと吸う。赤ちゃんが詰まってるという2つの金玉も、口の中に吸い込んでクニクニとさせる。肉棒全体が私の唾液で濡れて、黒い体をてからせていた。
──そろそろお口の中に入れようか
「ん……これ、お口の中に入れるの?」
そう訊ねると、お義父さんは視線をタブレットに向ける。画面の中では、女の人が男の人の肉棒を何度も何度も口の中から出し入れさせていた。あれみたいにやりなさい、歯は立てないでね、でないと、またお仕置しちゃうよ。悪魔の囁きみたいな声が耳に届き、私は恐怖で震える体を必死に抑えた。
「あ…………んむっ」
唇を大きく開いて、私はお義父さんの肉棒を口の中へ含んだ。大人の人の肉棒はとても大きくて、めいいっぱいに開いてもキツキツだった。画面の女の人は美味しそうに食べるかのようにフェラチオをしている。でも、まだ子どもな私の場合は口に入れるのがやっとで、味わう暇なんてなかった。
「んぐっ、んっ、ふぐっ……」
私はゆっくりと頭を上下に揺らす。歯を立てないように、慎重に口元から肉棒を出し入れさせる。お義父さんの肉棒は本人に似てとても暴力的で、頭を下げる度に何度も喉奥を殴るように啄いてくる。口いっぱいに含まないといけなくなるから、舌の表面が強制的に肉竿の裏側を擦り上げることになる。そのため、私の味覚は生臭さでいっぱいになっている。
「んっ、んぷっ、はむっ、んぅっ」
目を閉じながら、私はフェラチオを続ける。お義父さんに言われて、両手で金玉を掴んで揉み揉みと揉んでいく。こうすると、精液の出が良くなるらしい。
必死に口を開いているから、唇と肉棒の隙間から唾液が沢山溢れる。溢れた唾液は根元に伝っていき、やがてお義父さんの下半身をベトベトにした。それがお義父さんには気持ちよすぎてたまらないらしい。
「ふ、んん、んっ、んふっ」
映像の女の人と私の息遣いが合わさっていく。擦る度に口の中が熱々になって、私の意識を遠のかせようとする。気がつくと、肉棒は今にもドクンと跳ねそうなほどに熱くなっていた。多分、いつも私が手の平で受け止めてることが起きるのだろうと思った。
あんな苦いもの、口の中で受け止めたらどうなるのかな。どうなっちゃうのかな、もう、味とか感じられなくなるのかな。
「んっ、んぶっ…………んんんんんっっっっ!?!?」
そう思っていたその時、突然後頭部を強く押えつけられ、亀頭を喉の奥まで突っ込まれた。それだけでなく、口の中で肉棒が激しく脈を打ち、鈴口から熱いものを解き放った。
びゅる、びゅる、びゅる、見えなくても分かる精液の熱と射精音が喉奥から聞こえてくる。手の平を汚していた濁ったものが、私の体の中へ無理やり流し込まれていく。
「(く、苦しい…………いき…………できな…………い)」
喉の奥まで突き刺されたせいで、私は息ができなかった。オマケに突然のことだったから、まともに空気すら吸えていない。
私は意識が飛びそうになった。白目を向いて鼻水を垂らして、唇の隙間から涎を流した。
「(あれ、私……なんでこんなこと、してるんだっけ…………)」
それはそうしないとお義父さんに殴られるから。将来お母さんが困らないため。お母さんに知られたら悲しむから…………結局、どうして自分がお義父さんと練習をしているのか、白く弾けた頭で考えることは出来なかった。
──よく頑張ったね。全部飲んでね。
私の頭を尚押さえつけながら、お義父さんは頭を撫でてきた。それは絵のことを褒めてくれた、私が唯一お義父さんのことを好きになれた時と同じ手だった。
私の中にある何かが、脆く崩れ去った気がした。
◇◇◇
お義父さんとの練習は、手の平で受け止めなくなった代わりに、今度はフェラチオをやらされることになった。
お母さんがいない、2人きりの時に、リビングのソファで、下半身を露出させたお義父さんが私を呼ぶ。呼ばれた私は脚の間に入ってお義父さんの肉棒を口いっぱいに頬張って気持ちよくする。そしてカーペットを汚さないように、出された精液を一滴残らず胃の中へ押し込む。そんなことを毎回のようにやらされた。
あの日以来、お義父さんは私が言うことを聞こうとしない時に暴力を振るうようになった。暴力と言っても、痣が残るような強いものじゃない。服で隠れて見えない場所を強く掴んだり、腫れない程度に頬を叩いたり頭を叩いたり。けれど、私にとっては十分に恐怖を植え付けられた。
怒った時のお義父さんの表情は、本気で私を殺しそうなくらいに怖い。怒鳴る時も、私に生きる価値などないかのように悪い子だと罵る。けれど、それは私と2人きり、しかも家の中にいる時だけ。お母さんがいる時や、外に出かける時は、いつもの優しい雰囲気なお義父さんだった。
最近の優しい雰囲気のお義父さんは、お母さんと一緒に話している時、とても幸せそうな顔をしている。前まで喧嘩ばかりしていたのが嘘のように、お母さんと一緒に私の塾のことや誕生日プレゼントのことを話していた。夜になると、お仕事の話で愚痴を言い合ったりもする。まるで、結婚したての頃に戻ったかのようだった。
でも、相変わらず私と二人きりの時のお義父さんは怖くて、優しくするくせに癇に障ると怒ってくる。私には、どっちが本当のお父さんなのか分からなくなった。ただ、殴られるのも、殺されるのも、お母さんが傷つくのも、今の幸せが崩れるのも嫌で、口に出せなかった。
それに、お義父さんは私のプライベートに口を出すようになった。週に1度、必ずお義父さんと2人きりになる日を作る。友達との約束もしちゃダメ。もし約束を破ったら、次の練習の時に乱暴に髪を掴まれながら、苦い精液をいつもより沢山注がれてしまう。それが嫌で、私はその約束を守るようにした。
──ねえ、知ってる、〇〇ちゃん。隣のクラスのA君とBちゃん、キスしたんだって。ロマンチックだよね。恋人同士って、キスするんだって。でも、キスした後ってどうするんだろう? ──
「精液をごっくんするんだよ」
私は夢物語のように話す友達に、心の中でそう答えた。
恋人同士って、なんだろう。私とお義父さんの関係って、なんなんだろう。お義父さんにとって私は、なんなのかな。
◇◇◇
小学5年生に上がった私に、1つの転機が訪れた。お母さんの提案で、塾に通うことになったのだ。なんでも、お母さんの話では、この時期から塾に通い始めた方が、学校の勉強に追いつけるし、テストの点数も上がるし、後に待つ受験勉強というものにも役立つらしい。
これに関しては、珍しくお義父さんも賛成だった。お金は2人で稼いだお給料から支払うから、私は心配しなくていいよと言った。私はてっきり、練習が出来なくなるから反対するのかと思っていた。多分、下手に反対してお母さんに練習のことを怪しまれないようにするためなんだろう。
そんなわけで、私は週に3回、平日に塾に通うことになった。塾に行く時は始まりが17時で、終わりが20時と、夜遅くまで勉強をした。内容はとても難しくて、ついて行くのにかなり苦労した。親しい子もいなくて、塾ではいつも一人だった。でも、勉強自体は楽しかった。お義父さんの練習なんかよりも全然。
それに、塾に行くことで、お義父さんとの練習を避けられる日が多くなった。遅くまで授業をしてるから、帰宅した時にはお母さんがもう帰ってきてる。練習が完全に無くなったわけではないけど、週に一回以上だったのが、月に数回にまで減った。相変わらずお義父さんの肉棒は固くて苦くてねばねばとしていたけど、前よりはマシだと思った。
そう、あの日までは。
◇◇◇
夜遅く、お義父さんとお母さんも寝てしまった夜中。私はいつものようにベッドの中ですやすやと眠っているはずだった。けど、今夜はお腹が痛くて、なかなか眠れなかった。
原因は、私が初潮を迎えたからだろう。
1ヶ月くらい前、いきなり下着にねばねばしたものが付いたと思ったら、次の日には頭が痛くて、そのうちお胸も痛くなっていた。痛いだけじゃなくて、脇やあそこから黒い毛が生えてきた。お母さんにそのことを相談すると、『とうとう来ちゃったかぁ』と苦笑していた。なんでも、これは生理と云って、女の子がお胸や体を成長させるためには必ず通らなければならない、通って歳をとるまで付き合わないといけないものらしい。お母さんはかなり重い方らしく、生理の時は頭痛や腹痛、イライラが酷いらしい。時々怒りやすい日があるなと思っていたけど、どうやらそれが原因らしい。
早速と言わんばかりに、お母さんは私に女の子の日のために必要なナプキンの使い方とか、学校で血が出た時の対処法とか、おまんこのことを教えてくれた。
そして今週、私はその女の子の日に襲われていた。前よりも背が伸びて、お胸やお尻も少し膨らんでいる気がする。けど、そんなのはどうでも良くなるくらいにお腹が痛かった。お股から血が出た時は、本当に倒れてしまいそうになる。でも、寝ないと明日の学校と塾まで持たないし、無理やりでも寝ようとした。
「(あれ?)」
目を閉じていると、突然布団の中でガサゴソと、何かが入って来る気がした。足元が捲られたことで、空気が入ってきた。初めは夢かなにかかと思ったけど、それはどんどん私の顔に向かって這い上がってきた。這い上がる途中、太腿やお股、お胸を触って。
「…………っ!?」
気になった私は恐る恐る布団を捲った。その瞬間、叫ぼうとした私の口が大きな手で覆われた。
布団の中にいたのは、パジャマ姿のお義父さんだった。暗闇の中で、お義父さんはしーっと口元に指を当てた。そして震える私の耳元で、部屋に響かない声で囁いた。
──最近、お互い忙しくて練習できてないね。
──だから、今度からこうして毎晩、お母さんが寝た後に布団の中でこっそりしようか。
──その代わり、お義父さんと2人きりの日は、遊びに出かけていいよ。だって、毎晩練習するんだから、〇〇も遊びたいよね。
にっこりと、ねっとりとした笑みを浮かべていた。私は怖くて怖くて仕方なくて、けどもしここで嫌だなんて言ったらどんな目に遭うのか怖くて、頷くことも出来なかった。
お義父さんはそれを同意したと勝手に受けとったのか、ずむりと布団の中に潜ると、私のパジャマのボタンを一つ一つ、あのエッチなビデオの女の人のように、丁寧に外していった。中に来ていたカップ付きのキャミソールも上に肌蹴させて、おっぱいを丸裸にさせた。
胸元に、お義父さんの荒い息がかかる。湿り気があって梅雨時期のように気持ち悪い。目には見えない、見たくもない。けど、お義父さんの舌先が私の乳首を撫でたのは分かった。私のものよりも大きい舌先が、1年前よりも膨らんだ私のおっぱいを舐めて弄ぶ。お母さんのよりも小さな乳輪を、肉厚な唇で包むようにして頬張って、ちゅうちゅうと吸い始めた。時々乳首を噛んで、引っ張ることもあった。
あの女の人は、おっぱいを吸われてとても気持ちよさそうにしていた。けど、私は全く気持ちよくなんかなかった。フェラチオをしてた時と同じで、気持ちの悪い感覚。小さい頃にお義父さんが胸やお尻を触っていたのと同じ。
「んんっ、んんっ……!」
お母さんが起きないように必死に声を抑えた。それをいいことに、お義父さんはお臍の辺りも舐め始めた。
10分ぐらいしてからか、お義父さんは突然布団から這い出てきた。どうやらお母さんもいるから、そんなに長い時間は出来ないらしい。お義父さんは私に耳打ちして『また明日やろうね』と言ってそーっと部屋を出て行った。
暗闇の中、私は起き上がって、舐められた箇所を指で触れた。ねばっとした唾液で満遍なく汚されていて、触れるだけで気持ちが悪くなった。けど、泣くことはなかった。多分、涙なんてとうの昔に枯れてしまったんだ。
約束通り、お義父さんは私に無理やり2人で家にいる日を作らせることはしなくなった。けれど、これも約束通り、毎晩私の布団の中に忍び込んでは10分間、私の体を弄んだ。初めは胸だけだったのが、段々したの方へと伸びていって、ついにはズボンと下着を脱がされて、お尻の穴やおまんこを舐められるようになった。
酷い時には、膨らみ始めた私のお胸を両手で無理やり引き寄せて、そこに肉棒を挟んで腰を振るなんてこともし始めた。これはパイズリと言って、フェラチオと同じくらい気持ちの良いことらしい。おっぱいに挟まれた肉棒は相変わらず熱くて、時々亀頭を顎にぶつけてくる。そしてお義父さんが腰を震わせると、鈴口から精液が放たれて、私の口と顔を汚した。パイズリをした日は、絶対に顔を洗いに行かないといけない。でないと、お母さんにバレてしまうからだ。
1度だけ、お義父さんがおまんこの辺りに肉棒を擦っていたのを、太腿を閉じて拒否したことがあった。するとお義父さんは静かに怒り狂い、私の首をぎゅっと絞めた。首を絞めるだなんて今までなかったのに、叩くか掴む程度だったのが、とうとう本気で殺しに来るようになった。もし次拒否なんてしたら、今度こそ殺されてしまうだろう。
…………ねえ、私、何のためにこんなこと、してるのかな。
私の日常は、改善するどころかもっと酷くなっていた。
◇◇◇
夜の練習をやらされるようになってから早くも1年。私は小学6年生になった。6年生にもなると、周りの女の子や男の子達も昔とかなり変わっていた。先生に対して裏で陰口を叩いたりしてるのは言わずもがな、1年生の頃は同じくらいの身長だったのに、人によって体格がバラバラになっていた。変わらずな子もいれば、急に背が伸びた子もいる。特に女の子は成長が早いらしく、中には私よりもおっぱいとお尻が大きい子もいた。そういう子は、大概男子からいやらしい目で見られていた。それを見て、男子ってサイテーね、と友達は冷めた目で見ていた。
そう、サイテー、いやらしい、周りの女子達は、そういう知識を付け始めていた。私も例外ではなく、そういった知識が付き始めていた。男子に隠れて、友達やクラスの女子がそう言う話をするようになった。誰々と誰々がキスをしたとか、2年上の先輩で、今は中学に通っている人がキスの先のことをしたとか、そう言う話を。
私は、皆がきゃーとか恥ずかしーとか笑いながら言っている中、1人だけ呆然としながら聞いていた。なぜなら、みんなが話している内容の殆どは、既にお義父さんからやられていたからだ。そして、お義父さんからやられていることが、実はおかしいことだと、気づき始めてもいた。
けれど、このことを誰に相談すれば良いのだろう。最近、お母さんはお義父さんと仲が良い。お休みの日は2人きりでデートに行くことも増えて、夜の練習も毎日じゃなくなっていた。ようやく立ち直ってきたのに、今告白したら、今度こそ我が家は崩壊するんじゃないか。私だけじゃなく、お母さんまで殺されるんじゃないか。そう考えると、何も言えずに黙ってしまう。
せめて、キスの先だけはやられないようにしよう。そう思った。
◇◇◇
ある日の夜、私は塾から家に向かって帰っていた。今日は塾のテストが返却されて日で、結果は98点、過去最高の点数をゲットした。間違えた問題は、テストの中でも1番の難問だった。逆に言えば、それ以外はきちんと解けていたのだ。
私は上機嫌になりながら家路を歩いた。お母さんに見せたら喜んで貰えるかな。この前も描いた絵がまた先生に褒められて、とっても喜んでくれた。ご褒美、買っていいよって言ってくれるかな。今日はお義父さんとお母さんもどっちもいるから、大丈夫だよね。そんな妄想をしながら、玄関の扉を開けた。
「ただいまー」
呑気な声で言って、脱いだ靴を揃えて、廊下を歩く。真っ先にテストの点を見せたくてリビングに向かった。
──おかえり。
「…………へ?」
リビングに入った私を迎えたのは、お義父さんだった。しかも一人きりで、優しい笑みを浮かべながら。
どうしてお義父さんだけなんだろう。お母さんは? 今日はお休みだからいつもならいるはずなのに。
質問する前に、お義父さんが答えた。なんでも、遠方に住む叔母さんが怪我をしたようで、その連絡を受けた心配になったお母さんが駆けつけたらしい。朝には家を出て、長い時間をかけて向かった。そして今日はもう遅いので、叔母さんの家に一晩泊まっていくらしい。スマホのメッセージにも書いてあったと、お義父さんは画面を見せて証明した。
私は絶望のあまり、口を開いたまま固まった。お母さんは今日1日いない。つまり、お義父さんと二人きり、それはつまり、お義父さんに好きなだけ練習をさせられる…………背筋が凍りつきそうになる。
──お腹空いたよね。ご飯にしよっか。
けど、お義父さんは練習について口にすることなく、優しいお義父さんの姿でキッチンに向かっていった。私には部屋に荷物を置くように言って、何かを作り始めた。何をしているんだろう、不思議に思いながら、私は部屋に戻って荷物を置いた。明日の学校の用意とか、今日終わらせようと思う塾の宿題とかを準備をした。
しばらくして、お義父さんがドアを叩いて、ドア越しに私を呼んだ。私はビクッと震えながら、だけど逆らうのが怖くて、とぼとぼとリビングに向かった。
テーブルの上には、お義父さんが作った手料理が並べられていた。お義父さんの手料理なんて、そういえば一緒に住み始めてから見たことがない。大体は冷凍ものやインスタントラーメンで済ませてしまうからだ。
お義父さんに手招きをされて、私は恐る恐る椅子に座った。テーブルを挟んで、お義父さんと対面する形で両手を合わせて、いただきます、と小さな声で少し遅れて言った。
しばらくしても、料理に手をつけられなかった。2人きりの時に作ったお義父さんの料理だなんて、一体何が入ってるのか分からない。お義父さんのことだから、私のごはんには精液をドピュドピュさせて入れてるかもしれない。そう考えたら、目の前の料理が生臭く思えて、吐き気がした。
不審な私の様子を見て、お義父さんは食べないのか心配そうな表情を作って訊いてきた。私は食欲がないと素直に話した。怒られるかもしれない、けれど、それ以上に気持ち悪さが増してしまった。
流石に表情に表れていたのもあってか、お義父さんは優しい声で『じゃあ、仕方ないね。ゼリーなら冷蔵庫にあるけど、それなら食べれそう?』と言った。
私は頷き、冷蔵庫からゼリーを取り出した。未開封だから、お義父さんの生臭いものが入ってる危険はない。蓋を開けて、スプーンで掬って口へ運ぶ。みかん味のゼリーでらみかん特有の甘さが喉に染みて、塾の疲れを潤してくれた。それを見ていたお義父さんがにっこりと笑う。やけに優しいお義父さんの態度に、私はゾゾっとした寒気を感じた。
ご飯の後は、順番にお風呂に入った。初めはお義父さんがいきなり入ってこないか心配になったけど、来ることはなかった。そういえば、2人きりの夜を過ごすのって、実は初めてな気がした。そう、つまり、今日の夜は、お義父さんとの二人きり…………浴槽の中に入れたお湯の中に顔下半分を沈めて、ぶくぶくと泡の群れを作って眺めた。
お風呂を上がってからは、オレンジジュースを飲んだ。開封されているけど、中は見えるようにできているし、お義父さんの精液は浮いていなかった。これなら飲めると、私は食器棚から取り出したコップにジュースを注いで、とりあえず1杯と、胃に流した。甘い味が喉を刺激した。
──〇〇
ふと、お風呂に入ろうとしていたお義父さんが私に声をかけた。背中越しだったから、表情は見えない。けど、きっと夜の練習についてのことだろう。ねっとりとした声色が、いつもなら今日もやるよという合図になっていた。
──今日は練習はないよ。
それだけ言うと、お義父さんはリビングを出て行った。私はしばらくしてから振り返り、もう去っていったお義父さんに顔を向けた。
練習がないとはどういう意味だろう、それはつまり、今日はエッチなことはしないということなのだろうか。
お義父さんの不自然な発言に、私は半分は恐怖し、半分はやらなくていいんだという無理やりな安心感を得た。
今日は1日眠れる、そう思ってソファに座り、テレビをつけた。テレビでは、どこかの海辺の町から撮った海の映像が流れていた。そういえば、家族で海には行ったことがなかった。海は怖い人が多いし、危険な生物が沢山いるからと、お母さんが嫌がっていた。
いつか、いつでも、いや、できれば、友達の言っていた『好きな人』というのが出来たら、行ってみたいな。そう思いながら、いつの間にか私は眠りに誘われてしまい、そのまま意識を放した。
◇◇◇
「(あれ? ここ、私の部屋?)」
次に目を覚ますと、目の前によく見る天井が広がっていた。よく見るのは当たり前で、ここは間違いなく私の部屋だった。でもどうしてだろう、私はソファの上でテレビを見て、そのまま寝てしまったのに、どうしてベッドの上に? それに部屋の明かりは最小限まで暗くされている。
「(動けない)」
私の体は思うように動かなかった。寝惚けているせいもあるけど、特に手足が何かに固定されたかのように自由が効かない。
「(…………あれ、私……)」
意識がようやく戻ってきたところで、私はあることに気がついた。私は今、真っ裸になっていたのだ。成長途中な胸も尻も、全部が丸見えだった。
手首は頭の上に来るように紐で結ばれていて、脇が露出している。
脚は膝を曲げた状態でテープみたいなものでぐるぐる巻きで固定されて、お股を開いた状態。
そして、口元はガムテープを貼られていた。
「んんっ! んー! (何これ、なんなの!?)」
私は錯乱したかのように体を動かそうとした。が、どれも無駄に終わってしまった。
──起きたね。
ふと、足元から男の人の声が……お義父さんの声が聞こえた。視線を下にやると、お義父さんが立っていた。ねっちょりとした、目を背けたくなるようないつもの笑顔。ひとつ違うのは、お義父さんも全裸だったことだ。しかも片手には変な容器を持っていて、肉棒はビンビンに固くなっている。相変わらず黒くて、亀頭に深い鰓を張っていた。
「(どうしてこんなことするの? 練習、しないんじゃないの?)」
私は涙が溢れる目で訴えた。するとお義父さんは『練習はしないよ』と答えた。
──今日やるのは、実技だからね。
思わず私は首を傾げてしまった。今日は練習でなく『実技』。傾げた私にお義父さんはベッドに乗っかって説明を始めた。
──〇〇、今日からお義父さんと一緒にエッチなことをするんだよ。
──エッチなことってなんなのか、6年生だから分かるよね?
──今までやってきたことは、全部エッチなことをするために必要なことだったんだよ。
──そして今日、その成果を見せる時が来たよ。
お義父さんの言っていることが、よく分からなかった。分かりたくなかった。分かってしまうということは、これから自分がやられることに対して恐怖が増幅してしまうからだ。
お義父さんが言ってることは、どう考えても超えてはいけない壁を超えている。それはつまり、キスの先のことをするということになる。これは、度を越していた。
「んー! んー! (い、いや、やりたくない……やりたくない)」
私は手足を必死に藻掻いて逃げようとした。けど、どうしてもダメだった。縛られているうえに、身体に思うように力が入らなかった。まるで何かを飲まされたかのように、眠気も残っていた。
怖い、怖い、これからやられることがどんな事なのか、想像するのも怖い。
そんな私の気持ちなんてどうでも良いかのように、お義父さんはベッドに四つん這いになって這い上がり、私のおまんこに顔を近づけた。
そして、いつものように舌先を伸ばしてぺろぺろと舐め始めた。肉舌が縦に割れた私の大切な場所の輪郭をなぞるように上下に暴れる。5年生の頃から毎晩のように舐められていたせいか、私のおまんこは感覚を失ってしまったかのようにお義父さんの味見を受け入れてしまう。
そしてある程度唾液で濡らすと、指先ではパックリと中身を開いて、尿道口、おまんこ、お尻の順番で舐めていく。
「んぐっ、んー! んっ!」
擽る刺激に、私は悶えに近い声を上げた。お義父さんが舐める度に、私の大切な穴から透明な液体があふれている。これっぽっちも気持ちよくないのに、体液だけは溢れてくる。私の意志とは反対に、反射的にお汁が溢れてしまう。
お義父さんは一通り準備を整えると、私に跨って肉棒を擦り始めた。擦りながら、片手に持っていた道具の蓋を開けて、中のとろとろとした液体を肉棒にかけた。ぬるりとしていて、数滴がベッドに落ちた。おそらく、肉棒が入りやすいよにするための液体だろう。
「(い、いや…………やだ……助けて、お母さん……お父さん……!)」
やがてお義父さんは肉棒を持って、おまんこの穴へと押し付けた。ここは好きな人とエッチなことをするための穴だということを、友達は話していた。
──ねえ、知ってる? あそこの穴に男の子のおちんちんを入れることをセックスって言うんだって。それでね、それは好きな人と愛し合うためにやるんだって──
私は、お義父さんのことが好きじゃない。2人きりの時のお義父さんも、お母さんと3人でいる時の優しいお義父さんも、今のお義父さんもみんな好きじゃない。
好きな人は、まだいない。
「ん゛んぅん゛ぅぅん゛んんぅぅんん!?!?!?」
そんな私の大事な大事なおまんこの穴に、お義父さんの肉棒が容赦なく捩じ込まれた。口よりも小さくて、お尻の穴のように狭いあそこの穴を、一回りも二回りも大きい亀頭が無理やり押し広げる。ブチブチと、大切な膜が盛大に破れる音がした。本当なら好きな人に捧げるはずのものが、好きじゃない人のものに壊された。
「(い、痛いっ! 痛い痛い痛い! 痛いよ! お義父さん! 抜いて! 死んじゃう! 死んじゃうよぉ!)」
そしてあそこを中心に激痛が走る。おまんこの縦唇に沿って体が真っ二つになってしまうかのような痛みが走った。痛すぎて呻き声を何度もあげた。心の中で必死に痛みを訴えた。
けど、お義父さんは聞いてくれなかった。ただ、窮屈なお肉が肉棒をぎゅうっと締め付ける感覚に、咆哮と綻びを漏らしていた。
いいかい、今おちんちんを締め付けているのが肉襞で、お汁のことは愛液っていうんだよ。また訊いてもいないことを快楽に浸りながら教え始める。私は痛みでそれどころじゃなかった。
「んぐぅぅっ!」
じっとされているだけでも痛いのに、お義父さんは容赦なく腰を振り始めた。中に生えている肉壁がお義父さんの亀頭の鰓に引っかかって、ずるりと外へ抉り出される。比喩表現なんかじゃなくて、本当に引きずり出されているみたいだった。
じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ、私のお腹が凶暴なお義父さんのものでぐちゃぐちゃに掻き混ぜられる音が耳に届く。あまりの痛さに脳内が白く焼けそうになっても、その音だけは鼓膜に張り付いた。
「んぐっ、ふぐっ、んんんんっ!」
お義父さんは私の体を掴みながら、容赦なく腰を叩きつける。叩きつける度にお尻の肉がパシンパシンと叩かれて波を打っている。お義父さんが腰を引くと肉棒がずるりと抜け出て、赤い血と透明なお汁を外に漏らす。
未熟なおまんこに締め付けられる快感にお義父さんは歓喜に近い喘ぎをする。その勢いのまま、膨らみが増した乳房の先をチュウチュウと吸い始めた。赤ちゃんなんかよりも汚い唾液をべっとりと舐めつけつつ、引っ張りあげて乳首を歯で挟む。
確か、赤ちゃんができるとおっぱいから母乳が出ると、この前テレビか何かでやっていたっけ。お義父さんも、母乳が飲みたいのかな。でも、赤ちゃんなんて、作りたくないよ。
「んっ、くっ、ふぐっ…………うんんっ!?」
意識が朦朧とするなか、急に口元が解放されたかのように自由になった。それと同時に頬が大きな手で挟まれるように掴まれた。いつの間にかおっぱいから唇を離したお義父さんが、鋭い眼差しで私を睨んでいた。
声を出したら殺す、無言でもその言葉は伝わった。
そして、お義父さんはそのまま顔を近づけて、私の唇を覆うようにキスをしてきた。
「んっ、んっ……んちゅ、れぇ、ぁぇ」
頬を押えられているせいか、口を閉ざすことができず、尖らせてしまう。その隙間に舌先が捩じ込まれて、私の口内にお義父さんの臭い唾液が流れ込む。
そういえば、お義父さんと練習を初めてから、1度もキスなんてしたことなかったっけ。それに私も、キスなんてしたことない。じゃあ、これが私のファーストキス、本来なら好きな人とするはずだったこのキスも、お義父さんに奪われてしまった。
「んちゅ、れろ、はむっ、ちゅる」
もう、身体に力なんて入らなかった。キスも始めても、全部が奪われてしまった。そんな中でも、お義父さんは容赦なく私を蹂躙する。快楽に従うままに腰を振っている。
──〇〇、中に出すよ。
その言葉を聞いた時、私は目を剥いた。精液をおまんこの中に入れたらどうなるか、その程度の知識は私も把握していた。
だからこそ、お義父さんの発言に焦らずにはいられなかった。もし中になんか出されたら、妊娠するかもしれない。望まない赤ちゃんが出来ちゃうかもしれない、今度こそ、私の中もお義父さんに汚されてしまう。
「(やだ、だめ、だめ、ダメぇぇぇぇ!!!)」
速まる腰振りに、私は嘆いた。お義父さんは獣のような雄叫びを上げた。
「(あっ…………)」
やがて、腰振りは徐々にスピードを落としていく。暴れていた肉棒は動きを止めて、かわりに肉襞に包まれなが何度も脈を打っている。
途端に、お腹の奥が熱くなっていくのを感じた。肉棒から放たれた精液の熱が、じんわりとおまんこの奥を満たしていく。手や口で受け止めていた濃厚な子種が、私の体の中で弾けて飛び跳ねていた。
お義父さんの体が小刻みに痙攣して、私もそれに合わせて体が震えた。
それから、どれくらい経っただろうか。お義父さんに乗っかられたままの状態でいると、突然端末にメッセージ受信の音が聞こえてきた。私はスマホなんて持ってないから、当然お義父さんのものだった。
お義父さんはスマホを取りに肉棒引き抜いた。私の中に栓をされていたものがごぽっと垂れてきて、おまんこから精液が溢れた。もうぼんやりとして見てない。けど、きっと私の赤い血が混ざっているのだろう。粘ついたものが穴からお尻を伝ってベッドに垂れる。
──お母さんからメッセージだよ。
確認を終えて戻ってきたお義父さんは、意識の薄れかけた私にスマホの画面を見せる。そこには、お母さんからのメッセージで『おやすみなさい、愛してる』とだけ書いてあった。
愛してるって、どちらに言ったんだろう。もちろんお義父さんとのやり取りだからお義父さんなのは間違いない。
お義父さんはスマホを片手に、あらゆる角度から私を撮り始めた。私は痛みと絶望に止めることもできず、ただ撮られるだけだった。
一通り撮ると、お義父さんは虚ろになる私の目の前に画面を見せてきた。これで大人の階段を昇ったねなんて言って、お股を開いて精液を流す私の姿を見せつけてきた。絶望って、こういう状況を表すためにあるのかな。
お義父さんは肉襞を弄ると、再び硬くさせて、もう一度私に覆いかぶさり、腰振りを始めた。
虚ろな目で天井を見つめながら、私はお義父さんの精液を受け止め続けた。もう、何度け受止めたのか、そんなのも思い出せない。
◇◇◇
中学に入学する前準備として、お母さんと2人で専門店に行って中学校の制服を買ってもらった。昔、近所で登校していたお姉さんを見て可愛いと思っていた紺色のブレザー、白いブラウスに袖を通してボタンを占める。お母さんは成長したなぁなんて関心しながら、記念に1枚写真を撮った。
新しい制服の、まだ身体に合っていないゴワゴワ感が新鮮で、少しだけ緊張して、でも中学に対してちょっとのワクワクを抱いた。
実際に中学生になると、みんながちっちゃく見える。あれだけ身長が大きいと思っていた子は、中学に上がると2年生や3年生に比べて小さな子どもに見えた。私もそうで、先輩達に比べたらまだまだ小さな女の子だった。
それに、中学は小学校と違って人数が圧倒的に増える。他の学校の子もいるから、大半は知らない子ばかりになった。友達は別のクラスになって離れ離れになるし、クラスメイトの子は知り合いが殆どいなくて、初めは不安だった。けど、それはみんなも同じで、1度打ち解ければ意外と話すことができた。このまま新しい制服が身体に慣れて、汚れちゃうくらいに沢山の思い出を作るのかなって思った。もしかしたら、サイズが合わなくなるくらい身長も伸びるのかなって思った。
でも、やっぱりそんなものは妄想で、現実は残酷だった。
「あっ、あっ、あんっ、んぁっ」
中学に上がってからも、私はお義父さんに求められた。お母さんの帰りが遅い平日、若しくはお母さんのいない、塾と学校が休みの土曜日か日曜日に、お義父さんは私を呼んでセックスを要求してきた。
この頃になると、お義父さんは前みたいに練習や実技なんて子どもみたいな言葉を使うわなくなった。ただ一言『今日はよろしくね』。それだけ言って私の体を貪る。
前までは秘密の特訓だとか、大人になるための練習だとか、幼稚な言葉を並べていたけど、最近はそんな前置きなんてなくなった。代わりに言われるのは、脅迫紛いの言葉。『言うこと聞かないと殴るよ』『加減できなくて殺しちゃうよ』『もし誰かに話したら、写真をネットにばら撒くからね』『お母さんにも話すから』。嫌がる度に、似たような言葉を何度も吐かれた
そして今日も、私はお義父さんに抱かれていた。ベッドに私が身体をつっ伏す形で、後ろからお義父さんが激しく腰を叩きつける。私は痛さと気持ち悪さに快感のない喘ぎ声を上げている。こうでもしないと、この苦痛が和らがないからだ。
苦痛なのは、肉棒が体の中をぐちゃぐちゃにするだけじゃない。お義父さんの要求で、中学の制服を着ながらセックスをしているからだ。お母さんと一緒に買って、袖を通したばかりの新品同然の制服は、お義父さんの目に止まった。そして2人きりの日に、早速と言わんばかりに噛み付いてきた。新しい思い出を刻むはずだった制服は、早くもお義父さんの涎と汗、お汁と私の汗で汚れた。もうこれで何度目になるのか分からないくらい、お義父さんは制服でのエッチが大好きだった。
「あ、んぁ、はぁ」
お義父さんがブレザーを強引に脱がせて、ブラウスの上から私のおっぱいを揉みしだいてくる。ブラジャーなんて付けてないから、胸を揉む大きな手の平の感触がダイレクトに伝わった。
「あっ、あっ、あっ、んうっ、あん」
もっと喘げという命令に、私は自分なりにいやらしい声を上げた。もし上げなかったら、後ろから首を絞められてしまう。セックス中のこの人はそういうことを平気でやる人だ。
既に何往復もした肉棒が、さらに過激さを増す。抉れるような勢いをつけながら私の肉襞と激しく擦れ合う。
「あっ、あっ…………んんんっ」
お義父さんの喘ぎとともに、腰振りが止まる。と同時に、肉棒が一回り大きくなって、おまんこの中で脈を打ち始める。びゅるる、どぴゅ、びゅぶ、音にしたらこんな感じだろう。1週間近く溜めたかのような勢いのある熱にが、身体の中に飛び出して溶けていく。赤ちゃんを作るための部屋の中に、お義父さんの遺伝子が流され続ける。
1年前、あの日、私はお義父さんに初めてを奪われて、中にまで出された。まだ狭い狭いおまんこと赤ちゃん部屋の中に、お義父さんの精液がどぴゅどぴゅと、何度も何度も、朝が来るまで注がれ続けた。おっぱいは両方とも吸われて唾液にまみれ、脇はべっとりと濡らされた。
あの後、私は体調が悪いことにされて学校を休まされた。私自身も、あんなことをされた次の日に学校に行きたいなんて気力が湧くはずがなかった。
また、数日後に生理が来たので妊娠することはなかった。どうやらお義父さんは私の生理周期を把握しているようで、あの後は私の生理前に合わせておまんこのセックスをするようになった。避妊器具は売っているらしいけど、お義父さんは使おうとしなかった。だから、毎回のようにお腹の中はお義父さんの精液で満たされてしまう。
お義父さんの震えが止まって、ようやく肉棒が引き抜かれる。ぬぷりと抜けた瞬間に、捲れたスカートの中から露わになっているおまんこの穴から精液がつーっと滴る。見てなくても、感触だけで分かってしまう。
力が抜けて、ベッドの縁から滑り落ちるようにカーペットにへたり込む。ようやく終わった、その安堵で身体に力が入らない。制服が汚れないように、スカートを全力で上に捲る。お尻を突き出させて濡れないようにさせた。もし汚れたら、洗濯をしないといけなくなる。
「……え、お尻の穴?」
ふと、肉棒を手の平で振っていたお義父さんが『今度はお尻の穴でやろうか』と言ってきた。いきなり何を言い出したのか分からなくて、しばらく思考も体も停止していた。
「ま、待ってよお義父さん。お尻の穴って、その……出すための穴で、セックスで使うための穴じゃないよ?」
肛門性交という行為自体はあるのは知っている。性に興味を持ち始めた中学の男子生徒達が下ネタや用語をよく口にしているから、嫌でも耳に入ってくる。
でも、お尻の穴に肉棒を入れるなんて、絶対に痛いに決まってる。おまんこの時みたいなのはもう嫌だし、下手をしたらそのまま出てしまうかもしれない
「お、お尻の穴なんて、汚いから辞めておいた方がいいと思うよ? それに、私も────」
最後まで言い切る前に、後頭部に強い衝撃が走って言葉が遮られる。直後に頭を掴まれて、ベッドシーツに顔面を押し付けられた。もう分かってる、私に拒否権なんかない、これ以上は口答えするな、そう言いたいのだろう。
その証拠に、お義父さんは私の頭を押し付けながら、肉棒をお尻に擦り始めた。お汁に濡れた肉棒は私のお尻の谷間に竿を擦り付けて、ぬめりを馴染ませようとする。
数回擦り付けると、お義父さんは私のお尻を浮き上がらせて、お尻の穴に亀頭を押し付ける。
「……!? んぅぅぅっ…………!」
入ってきた、亀頭が、お尻の中に、排出するはずの穴の中に、ずっぷりと侵入してくる。おまんこを破られた痛さとは違う、嫌な異物感が身体に走る。
お義父さんは、相変わらず気持ちよさそうに唸っている。肛門が肉棒を締め付ける快感が堪らなくて、私の頭から手を離していた。離したあとは、そのまま腰を動かす。めりめりっとした擬音を響かせながら、肉棒は私の肛門を無慈悲に拡張させる。
「ふぐっ、ふっ、んぅっ…………」
硬くて長い物が私のお腹を掻き回す。何かが出そうになるのを堪えて、私はベッドに顔を伏せながら必死に耐えた。早く終わって欲しい、そう願うだけだった。終わったら、また絵を描いて発散しよう。今の私には、絵を描くことぐらいしか行き場のないもどかしさをぶつける場所がなかった。
そういえば、最近どんな絵を描いてたっけ。
「んぐっ…………」
腰振りが止んで、腸の中で肉棒が震える。じんわりとした温かさがお腹の中を満たした。
やっぱりというか、あの後、私はお腹が痛くなって、逃げるようにトイレに籠った。お尻の穴なんか使ったから、精液と一緒に別のものまで出てきた。お義父さんの方も、肉棒を洗いにシャワーを浴びに浴室に行っている。
「(今なら、逃げられるかな?)」
ふと、そんな考えがある頭を過った。今ならお義父さんから逃げ出せる。こんなに苦しい生活から抜け出せるんじゃないか、そう思った。
でも、もしそうなったら、我が家はどうなるのかな。
お母さん、すっかりお義父さんと仲直りして、とっても幸せそうなのに。私が逃げたら、お義父さんがそういうことしてるって知ったら、お母さん、今度こそ崩れちゃうのかな。死んじゃうのかな。
それに、もし信じて貰えなかったら? 私、お義父さんにどんなお仕置をされちゃうのかな。お仕置なんて生易しいもので済むのかな。もしかしたら、お母さんに捨てられちゃうのかな。
過ぎった言葉が、負の感情に消されていく。お腹の痛さなんか分からなくなるくらい、目から涙が溢れそうになる。でも、溢れてなんかこない。泣きたいのに泣けない、ただ静かにヒクヒクと喉を鳴らすだけ。
気がつくと、目の前が白黒になっていた。ドアの茶色も、手の肌も、全部の色が抜けて、白と黒だけの世界になる。鉛筆で描いたような、強弱のついた2色によって染められていく。
◇◇◇
ねえ、大丈夫?
そんな声が聞こえてきたのは、放課後に友達と一緒に校舎の外にある階段で座って話していた時だった。夏休みも間近で、それに合わせて暑さも日に日に増していた。
この子は、小学校の時からの親友で、母子家庭で、いつも私のことをお義父さんがいて羨ましいと話していた女の子だ。相変わらず明るくて、私よりも友達は多い。それでも、私達の友人関係は続いていた。話せる子はいても、友達がいない私にとって、彼女は唯一の友達と呼べる存在だった。
「え、何が?」
友達はなんか空を見上げてぼーっとしてたよ、と返した。
「ううん、大丈夫だよ。暑くて少し頭がぼーっとしただけ」
そう言うと、友達は納得して話を続けた。
そうだ、今はこの子が話している途中だったんだ。確か、同じクラスにいる女の子がとても嫌な奴で嫌いって言う話だったっけ。いつも誰かを引き連れて群がるかと思えば、父親のいない自分の陰口を叩いているらしい。友達は無視して気にしないようにしているけど、最近は目に見える形で嫌がらせが進んでいるらしい。
──直接叩くとかはないんだけどさ、こう、無視っていうか、あからさまに目とか逸らすんだよね。しかも、自分たちだけじゃなくてクラスみんなを丸め込んでさ。ホント、勝手にやってればいいけどさ、クラスメイト全員巻き込むとか、マジありえない。ていうか、今のご時世片親な家庭なんて珍しくないのに──
唇を尖らせながら、友達は不満を吐き出した。この子は昔から口に出したいことはすぐに出すタイプだった。だから、中学になってからは不満ばかりを口にしている。
どうして片親だけで虐められるのか、特撮やアニメが好きっていうだけでどうしてあの子はみんなから虐められてるのか、マンションや一軒家に住んでいないだけでなんで笑われないといけないのか、そもそも他人に貧乏とか貧乏じゃないとかで笑えるのか、だって他人の生活なんてどうでもいーじゃん、文句言うなら養ってよ。そんな感じにマシンガンのように話していた。
〇〇ちゃんはなんかないの? 不満とか愚痴とか。なんか最近ずっと暗いじゃん。突然そんな質問を投げられて、私は思わず「へ?」と返した。
不満も愚痴も、あるにはある。それは学校生活じゃなくて、主に私生活の方。お義父さんからのセックスの要求。告白したいけど、告白できない。
顔に出ていたのか、友達は『ほら、やっぱりなんか隠してる』と眉に皺を作った。
──なんかあるんなら話してよ。いっつも聞いてもらってるしさ。私ら、昔からの友達じゃん──
ニコッとした笑顔でそう言った。私は、この子になら話してもいいかな、と思った。ずっと一緒にいるこの子になら、私の悩み、話せるかな。
「…………実は」
私は初めて、他人に自分とお義父さんのことを話した。
小さい頃に、お義父さんから胸やお尻を触られたこと。それである日、大人になる練習として、精液を手の平で受け止めて、食べてたこと。ある日、お義父さんが怒ってきて、エッチなビデオを見ながら肉棒を舐めさせられたこと。布団の中に入り込んで、おっぱいを吸われたこと。6年生で大切なものを取られたこと。そして、中学生になってからも関係が続いてること。
全部、嘘偽りなく、正直に話した。話さないといけない気がした。
話し終えると、友達は微笑んでいた。けど、目は逸らしていて、気まずいものでも見たかのような表情だった。
「ど、どうしたの?」
と恐る恐る訊ねてみる。すると友達は何かに呆れたかのような息を漏らして、『そっかァ』と言った。そして続けるように言葉を吐いた。
──ねえ〇〇ちゃん。お義父さんに構って欲しいのは分かるけどさ。そういうこと、あんまり言わない方がいいよ。みんな勘違いして、本当にお義父さんのこと、〇〇ちゃんを傷つけたとか思っちゃうから──
私は数秒間フリーズした。全身が固まって、動けない。叫ぶのも違うし、泣くのも違う、なんだろう、この気持ち。少なくとも、今私が話したことは、友達からすれば全て『嘘』だと思われたのは間違いなかった。
「ち、違う。私は本当に──」
やられてるんだよ。その言葉は、友達が差し出してきた手の平によって遮られた。これ以上はもう聞きたくないと言われた気がした。
──私さ、〇〇ちゃんの気持ち、よく分からないよ。あんなにいいお義父さんなのに、どうしてそんなに酷いこと言えるの? 私、昔から思ってたよ? あんな優しいお義父さんが欲しかったって。でも、あの人はあなたのお義父さんだから、そんなのは無理だって──
お義父さんは、私と2人きりの時以外では優しいお義父さんを演じている。だから、お義父さんの裏の顔を知らない友達からしたら、あの人は本当にいいお義父さんに映るんだ。そして、そんなお義父さんにエッチなことを要求されたと言い張る私は嘘つき、構ってもらえないから嘘を流す、お義父さんを困らせる悪い娘。
「違う、本当なの。本当に私はお義父さんから──」
けど、終わりたくなかった。もしここで終わったら、二度と誰にも打ち明けられないかもしれない。だから、私は本当だと訴えようとした。
──いい加減にしてよ。それ、私への当て付けかなにか? お父さんのいない私に対する嫌がらせ? ──
違う、違うよ、そうじゃないよ。そう言おうとしたけど、その前に友達は言葉を続ける。
──じゃあさ、ひとつ聞くけど、仮にお義父さんにやられてるとして、なんで断らないの? もう中学生だよ? 断ればいいじゃん。二度としたくないって。殴られるんなら逃げればいいし、なんなら家出とか、お母さんに話して別れてもらうとか、警察に相談するとか、やり方なんて色々あるじゃん。なんでそうしないわけ? 6年生の話とかも、もしやられたんなら話せばよかったじゃん──
だって、そんなことしたら……言おうとした言葉が詰まってしまう。昔は、それがそういうことだなんて知らなくて、そうしないとお母さんが泣くからって、お母さんの負担にならないようにって…………
私は俯いたまま黙ってしまう。友達は呆れたような、怒ったような表情を作ると、「嘘つき」と吐いて、傍らに置いていたリュックを背負って早歩きで去っていった。
友達の背中が、途中の曲がり角で見えなくなった。私はしばらく俯いたまま、日陰に吹く風に汗を冷やした。涙は出てこなかった。
この日以来、友達とは話していない。卒業まで、卒業してからもずっと。
私、本当はなんて言って欲しかったんだろう。
◇◇◇
友達に告白して縁を切られてからしばらくの時間が流れた。夏休みに入り、私は夏休みの宿題と塾の勉強に勤しんでいた。友達と勉強すると嘘の理由をつけては、図書館で遅くまで勉強をして、できるだけお義父さんと2人きりになる時間を減らした。けど、やっぱり全部はダメだった。夏の暑い中、汗だくなお父さんの体を受け止めながら、何度も熱い精液を受け止めさせられた。逃げていることも察しているせいか、お義父さんの腰振りはいつもより暴力的だった。
「うん、楽しかったね」
そして今日、私達は3人で久々に出かけていた。行き場所は水族館。昔、3人で行ったあの水族館とはまた別の場所で、お母さんがお義父さんを家に連れてくる前にデートで訪れていたという場所だった。だから、家族というよりは、2人のデートに私がついて行った形になる。
水槽にいる魚を見ている時のお母さんは、まるで子どものようにはしゃいでいた。女の子みたいに魚の動きにびっくりしたり、イルカショーの水飛沫を受けて喜んだ悲鳴をあげたり、何歳にも若く見えた。
その興奮が収まらないのか、お母さんは今もこうして笑顔でウキウキと喜んでいる。お義父さんは車の中を少し整理してくると言って、まだ部屋の中には入ってきていない。その間に、私達は荷物を置いて、ソファで一休みをした。
このソファも、買ってから何年になるのかな。初めてお義父さんの精液を受け止めてから、もう結構経つのかな。
そう思っていると、横に座っていたお母さんがいきなり私の肩に手を回して抱きついてきた。お義父さんのように強くない。優しい抱擁だった。
お母さんは初めにありがとう、と言った。
あなたがお義父さんを受け入れてくれたおかげで、また明るい家庭に戻った。そりゃあ、喧嘩してた時期もあったけど、今こうして乗り越えて、3人で仲良く暮らせてるんだから。お母さん、とっても幸せだよ。だから、お母さんもあなたのしたいこと、応援する。絵のこととか、私に出来ることがあるなら何でも相談してね。だって私、お母さんだもん。
お母さんは嬉しそうな笑顔を私の頭に乗せる。汗を流しているけど、とてもいい匂いだった。
……ねえ、今のお母さん。とっても幸せそうだよ?
私がお義父さんとそういうことをしてるおかげで、黙ってるおかげで、2人とも幸せそうだよ。
もし、今話したら、お母さん、凄く傷つくよ。それでもいいの?
「(うん)」
私は心の中で問いかける自分に対して頷いた。だって、この後どうなるかくらい、予想は着いているから。
「…………お母さん」
私の声に、お母さんは首を傾げた。喜びに満ちてた顔が少し戻って、真剣な面持ちになった。
言っていい?
うん、いいよ。
「…………私ね、お義父さんから……エッチなことを強要されてるんだよ」
その後から朝になるまでの記憶は殆どない。
ただ分かるのは、右頬が叩かれたように赤く腫れていたのと、泣きながら罵倒するお母さんの泣き声だけだった。
目覚めた時の世界は、やっぱり白黒だった。
◇◇◇
夏休みの終わりかけた頃。私を乗せた自動車は、山の中に作られた道路を走っていた。もちろん、私が運転しているわけじゃない。運転しているのはお義父さん、私は助手席に乗せられている。お母さんはいない。
こうなったきっかけは、お母さんの勘違いからだった。
私を叩いて罵倒した次の日、お母さんは私に謝ってきた。叩いたのはいくら何でもやりすぎた、ごめんねと。
そしてその日の夜、2人はリビングで話していた。私は寝たフリをしてこっそり聴いていた。
ねえ、あの子ったらおかしなことを言うの。あなたがエッチなことを強要してきたって……ううん、別にあなたの事を疑ってるわけじゃないの。けど、あの子だって、私のせいで色々と苦労をさせてるから、信じてあげられないわけでもないっていうか…………やっぱり、あなたが本当の父親じゃないこと、気にしてるのかな…………反抗期、ね。うん、まあ、この年頃になると父親に対して反抗期になっちゃうのは仕方ないわ。私もそうだったもん。お父さんにうざいとかキモイなんて言ってね、顔を見ようとしなかったもん……うん、そうだよね。あの年頃だもん。反抗の1つや2つ、するわよね。そうだ。今度2人でお出かけしてみたらどう? 夏休みももうすぐ終わるんだから、思い出作りに、ね?
私はすぐにベッドに潜り込んだ。お母さんの勘違いでとんでもないことになったのもある。けど、あのことをお義父さんに話してしまったことが、何より怖かった。もしかしたら、今度こそ殺されるかもしれない。殺されなくても、肛門性交よりももっと酷いことになるかもしれない。もしかしたらお腹の中に水をパンパンになるまで入れられて、破裂するまで苦しみを与え続けてくるかもしれない。
朝、見送ってくれたお母さんに叫びたかった。助けてって泣きつきたかった。でも、叫べなかった。
「あ、うん。なんでもないよ」
窓を眺める私に、お義父さんは前を向いたまま酔ったか訊いてきた。お義父さんの精液をびゅるると飲まされているせいか、車酔いはしていない。車酔いなんかより、あれの方がよっぽど気持ち悪くなる。
「ねえ、どこに行くの?」
殴られないよう、恐る恐る聴いてみる。するとお義父さんは怒る様子もなく、いい場所だよと答えた。いい場所って、お義父さんにとってのいい場所なんだろう。
──お母さんに話したらしいね。
ビクッと肩が跳ねる。やっぱり怒っていたんだ。きっと、山に行くのは私を殺すためなんだ。そう思うと、全身が震え始めた。必死で止めようとしても、手まで震えが止まらない。
──悪い子だな、〇〇は。でも、いいよ。お母さんも信じてないからね。
途中で車を止めて、お義父さんがこっちに顔を向けた。笑顔も怒りもない、面を被ったような真顔だった。
──だから、今日は〇〇にお手伝いして欲しいことがあるんだ。大丈夫、今日だけだから。
細い道を下って、広い場所に出ると、車は停車した。ドアを開けて降りると、目の前に大きな建物が構えていた。古い洋風な家というよりは、四角くて、一軒家にしても違和感がある建物だった。
不思議がって見上げていると、お義父さんが背中に触れた。行こっかと言うと、私を押すように中へと入っていった。
建物の中は暗く、天井も少し高い。電灯も白くて、等間隔でいくつも並んでいた。山奥だけど、電気は通っているようだった。
しばらく進んだところで、左側の壁に1つの扉があった。ガラス窓もついていない、鉄製のドアだった。
ここだよ、と言って、お義父さんはドアノブを握って中に入る。私も後に続くと、奇妙な光景が広がっていた。
部屋の中には、男の人たちが6人ほど座っていた。年齢は見た目からしてらお年寄りから若い人まで、老若問わず、円を書くように座っていた。奇妙なのはその中心、円状の白い踏み台が、男の人たちに囲まれるように置かれている。
「あの、お義父さん……?」
不穏になっていると、お義父さんは肩を叩いて『大丈夫だよ』と囁いた。囁いた後は、男の人達に頭を下げて何やら話し始めた。どうやらここにいる人たちはみんな画家志望、もしくは絵を描くことが趣味の人たちらしい。それでここは、そんな人たちが集まって、静かな環境でデッサンをするために建てられた専用の建物らしい。
けれど、さっきから不穏な声しか聞こえてこない。
──カメラは持ってきてませんね、目的はあくまでデッサンですよね。いいですか、隠しカメラなんかもなしですよ、それがここのルールです、私の義娘を盗撮するなんてことしたら、許しませんから。て、主催者のあなたがそんなことをするはずもないですね。でなければ今も続いてませんからね。
カメラ、盗撮、その単語だけで、私はこの後に待つ出来事がなんなのか、何となく予想が着いた。予想が着いた時点で、体がゾクリと震えた。
その震える肩を、戻ってきたお義父さんが叩く。
──〇〇、今日は一日、ヌードモデルをやって欲しいんだ。あそこに座っているおじいさんがいるだろう? あのお方がやっているヌードデッサン教室……いや、クラブのようなものなんだ。趣味や画家志望の人達が集まって、モデルさんにお金を払って絵を描いてもらうんだ。大丈夫、あの人には君が勉強させて欲しいということで話は通してあるから。
それに、ここにいるみんなは絵を描くことが目的だから、カメラは持ってないし、君を襲おうとも思ってないよ。むしろ、〇〇が絵を描くことが趣味だって話したら、喜んでくれてね。今回は倍のお金を払ってくれると言ってくれたよ。終わったら、特別にお小遣いをあげよう。
やっぱり予想通りだった。お義父さんはお母さんにあのことを話したことを怒っている。そして、これは私への復讐、お仕置だ。
「あ、いや…………」
──断ることはできないよ? 分かってるよね?
耳に息を吹きかけながら囁くお義父さんの声が、あの時と同じように鼓膜に貼りつく。掴んだ手は力が込められている。そもそもここは山奥だから、どちらにしろ逃げ場所なんてなかった。
私は、お義父さんにまんまと嵌められたんだ。
──さあ、行っておいで。
お義父さんに押される形で、私はとぼとぼと歩く。椅子に座る若い人とおじさんの間を通って、白い小さな舞台の前まで来た。
重い足を、舞台の上に乗せる。右足、左足の順で、上に登る。12の眼が私に視線を止める。正面の奥で、お義父さんが監視するように私を睨む。
逃げられない私は、纏っていた服を一つ一つ脱いでいく。ボタンを取って、スカートを下ろして、下着姿になる。目は閉じて、背中に手を回してブラのホックを外す。そしてするりとショーツを下ろした。
私の裸が露になり、6つの感嘆の声が広い室内に響いた。お義父さん以外の男の人に裸を見せたのはこれが初めてで、恥ずかしさで頭の中が白くなった。
鉛筆を走らせる音が鳴り始める。その間、私は指定されたポーズを取ったまま、目を開けることができなかった。
これがお義父さんの報復。2人の秘密を漏らそうとした私への罰。他人に裸を見せて辱めることで、二度と逆らえないようにさせようということだろう。
「(…………あれ?)」
次に目を開いた時には、私はシャワーを浴びていた。建物の中に作られた専用のシャワールームらしかった。個室で、きちんと仕切りが付けられているタイプの、箱のような場所だった。
「……ああ、終わったんだ」
多分、5、6時間かな。その間、私はずっと裸のままあの舞台に立っていた。撫でるように目が私の肩を、胸をあそこを、足を、私の全部を観察して、白い紙に描いた。
突き刺さるような浴びせられる視線に、私は目を開けることができなかった。
ううん、実はちらりと、一瞬だけ目を開いた。主催者のおじいさんと目が合い、おじいさんは優しい微笑みを浮かべていた。
きっと、あの人は私が勉強のためにモデルを引き受けたと思っているのだろう。だから、多分あの笑顔にはお義父さんみたいな悪意はない。それが余計に辛かった。
「………………」
好きな子も出来たことがない私の体は、お義父さんに染められた。そして、会ったばかりの人達に裸を見られた。友達には絶縁されて、お母さんからは叩かれた。
ねえ、私、今どんな顔してるかな?
私、なにか変なのかな?
自分でも、わかんないよ。
鏡なんてないんだもん。
気がつくと、私は嗚咽を吐いていた。子供が泣きじゃくるのと同じように声を上げた。
でも、涙は出てこなかった。
夜7時、お義父さんが運転する車が家に到着する。山の中は湿気と暑さが閉じ込められたような場所だったから、家付近は涼しく感じた。
お義父さんが玄関扉の取っ手を掴んで扉を開く。開いた瞬間に、リビングの方から足音がして、お母さんが出迎えてくれた。何年ぶりになるか分からないエプロン姿で、片手にお玉を握っていた。
おかえりなさい、楽しかった?
悪意のない、でも1つの不安を持った表情でお母さんは訊いてきた。
ねえ、お母さん、幸せそうだよ。うん、そうだね。だから、もう前みたいに傷つけないようにしないとね。
「
満面の笑みを貼り付けながら、私は答えた。
◇◇◇
中学校に上がってから随分時間が経った。そのおかげか、中学校生活にも大分慣れて来た。身体は小学校の時から成長して、胸やお尻も膨らんだ。けど、成長したのは途中までで、ある時期からストップしてしまった。どうやら、女の子は男の子よりも成長が始まるのが速くて、止まるのも速いという噂は本当らしい。
そして友達が言っていた通り、みんな、どうでもいいことで他人を虐めていた。ちょっと気に入らない、空気を読まない、見てるだけでイライラする、それだけの理由で、クラスの誰かをハブにしていた。多分、住んでるところとか、貧乏だとか、そういうのは虐める理由付けでしかない。どうしてそんなことで虐めるの? という友達の疑問が納得できた。
そして私は、クラスの中で常に1人になっていた。ハブにされているというよりは、私自身が他人と距離をとっていた。
親しかったあの子に絶縁されて以来、他人と話すのが怖くなっていた。もしも話して、自分の言葉のせいで相手が怒ったらどうしようとか、私のことをポロッと告白して、友達みたいな反応をされたらどうしようとか、ネガティブな方向に考えが進んでしまう。
それと、周りの男子の話もできるだけ聞きたくなかった。あいつはおっぱいが大きいとか、あいつはブスだとか、あいつは生理でイラついてるとか、俺、この前おっぱい揉んだんだぜとか、スカートの中は白かったとか、下卑な話ばかりをしていた。別に、女の子だって同じことをしてるんだから、男の子がそういう話をするのが嫌だとか駄目とか、そういうわけじゃない。
ただ、そんな話を聞く度に、お義父さんが囁いていた言葉が頭の中で甦ってしまい、吐きそうになるからだ。
それに、お義父さんに山に連れて行かれた一件以来、他人から見られることが妙に怖くなっていた。見られていなかったとしても、誰かが私を見て、裸になるのを想像して、笑っている。そう思い込んでしまうようになった。
だから、私は1人でいるようになって、いつの間にか図書室に籠るようになった。図書室なら静かだし、誰かの噂話を耳にすることはない。それに、図書室の先生(司書っていうらしい)がOKしてくれたおかげで、気兼ねなく絵を描くこともできた。
図書室の窓から見える景色を描くこともあれば、棚のある雑誌に載っている外国の街の風景を真似てみたり、絵本をそのまま模写してみたりすることもあった。
けど、最近はイメージ通りの絵を描けていない気がする。どれもこれも暗くて黒くて、全体的にグチャっとしている。行き先のない怒りをぶつけているような酷い絵だった。そんな絵は、家に帰れば沢山書いてるのに。
──あの、〇〇さん、ですよね。
ふと、名前を呼ばれた私はスケッチブックから顔を上げた。横長なテーブルを挟んで目の前に、男の子が立っていた。
見覚えはあった。確か隣のクラスの男の子で、集会の時に整列をすると、いつも隣に並んでいる子だ。他の子よりも少しだけ幼さが残っている。
「え、うん。そうですけど……なんですか」
少し怯えながら、庇うようにスケッチブックで鼻から下を隠すように持った。男の子から話しかけられるなんて初めてのことだったし、何より男の人にこうしてじっと見られると、なんだかお義父さんに睨まれてるみたいで怖かった。
──あの…………
モゴモゴと唇を動かす彼。どんどん顔が赤くなっていく様子に、私は思わず声をかけた。
「あの、大丈夫?」
そう言うのと同時に、彼が前を真っ直ぐ見て、図書室に響くほどに大きな声で叫んだ。
──ずっと好きでした。僕と付き合ってください!
鼓膜が震えるほどの声を聞いた私は、目が点になった。いきなり過ぎて、思わずスケッチブックを床に落としてしまった。
◇◇◇
「行ってきます」
朝の7時半前。準備を一通り終えた私は、まだ朝食を食べる2人にそう言って家を出た。いつもはもう少し遅い時間に家を出ているけど、最近はこの時間になることが多い。当然、お母さんからは誰かと待ち合わせでもしてるのか訊かれたけど、友達と一緒に登校していると嘘をついている。一緒に登校をしているのは本当だけど。
「うん、大丈夫だよ」
忘れ物がないか訊いてきたお母さんに適当に返して、そしてお義父さんからの嫌な視線を背中に感じながら、玄関扉を開けて外へ飛び出した。
外には涼しい風が吹いていて、ブラウスの隙間に入り込んで、お義父さんに弄ばれた体を冷やしてくれる。制服もすっかり着慣れて、ゴワゴワとした感触も無くなった。私、少しは大人に近づけたのかな。
「あ、いた」
少し歩いた場所にある歩道橋下、そこが私達の待ち合わせ場所だ。そして、丁度階段下で日陰になってる場所に、彼は座っていた。丸い支柱の根っこを固定しているコンクリート石に腰を下ろしながら、道路を走る車を眺めている。同い年の男の子たちに比べたら、少し幼さを感じてしまう。
「お待たせ」
歩きながら声をかけると、彼は首を捻って私に顔を向けた。そしてさっと立ち上がると、笑みを作って返事をしてくれた。
私達はこうやって朝早くに待ち合わせをして、一緒に学校へ登校している。それは友達だから、とかそういう理由じゃない。彼とは友達じゃなく、それとはまた違った関係……つまり、恋人同士だった。
数日前、図書室で絵を描いている時にいきなり告白をされた私は、思わず唖然としてしまったまま、声を出せなかった。なんでも、いつも集会で隣に座っている私に一目惚れをしてしまい、それで告白をしたらしい。
彼が理由を話している間、私はやっぱり固まったまま声を出さなかった。男の子に話しかけられるのも少ないけど、好きだなんて言われたことがなかったから、どう返したらいいのか分からなかった。
「あの、えっと…………」
目を泳がせながら、必死に言葉を探そうとした。こういう時、普通なら断るものなのか、けど、今まで嫌だなんて返したことはあまりない。断ると、いつも嫌な目にあってきたからだ。
緊張した様子で彼が私を見つめてくる。あまりにも真っ直ぐすぎるので、見つめられる私の方まで心臓の鼓動が速くなってしまう。一刻も早くこの空気から逃げたかったけど、下手に嫌だなんて返事もできないし、かと言って良いよなんて言葉も出てこなかった。
頭の中がぐるぐるとし始める。ぐるぐるぐるぐると脳みそが浮遊して回転しているような幻覚に襲われながら、私は思い切って言葉を出した。
「はい」
寄りにもよって出した答えがそれだった。
それから私は彼とお付き合いすることになった。テレビドラマとか好きだったアニメでよく描写されていた主人公がヒロインに告白をして、そのまま恋人になるのと同じように、私は彼と付き合っている。
実を言うと、あれは咄嗟に出てしまった答えだったので、私自身が彼のことを好きというわけではなかった。今まで隣に座ることが多くて、よく見かけていたというだけで話したこともない人に対して、いきなりそんな感情が湧くわけがなかった。
けれど1度OKを出してしまった以上、今更やっぱりなしだなんてことは言えるはずがなかった。それに付き合っていれば、もしかしたら私も彼のことを好きになれるかもしれない。お母さんだってお義父さんとは初めは好きとかそんな感情はなくて、恋人になってから好きになり始めたと話していた。なら、私もそうなるかもしれない。彼のこと、お義父さんとは違った男の人のこと、大丈夫って思えるかもしれない。
──あ、あのさ。
並んで歩いていると、彼が声をかけてきた。
「ど、どうしたの?」
私も緊張しながら聞き返す。
私達は付き合ってまだ数日しか経っていない、だから、恋人らしいことなんて朝の登校と下校で一緒に歩くことしかしてないし、一緒にいても話す内容は授業のこととか、天気のこととか、それが無くなれば2人して黙りとしてしまう。だから、彼からの話題は途切れさせないようにと意識してしまう。
彼は逡巡したあと、突然空を見上げて、今日はいい天気だよね、と声を張り上げた。空は青くて雲は無い、太陽は明るいと、当たり前のことを口走った。
「……うん、そうだね。空、青いよね」
オウム返しをするように話すと、彼はこちらを一瞥したあとに、照れ臭そうに顔を逸らした。
空は青い、そんなことは当たり前だと思われるかもしれない。
けど、今の私には空は青く見えない、まるで白黒でコピーしたような、鉛筆で薄く描いた灰色にしか見えない。だから、彼のちょっとした会話は、私にとっては自分が視界が白黒に変わる前と同じ世界にいるということを再認識させてくれる。
それから、彼は重荷を捨てたかのように、気楽な表情を作って私に話題を振ってきた。多分、登校する前から考えていたのかなっていうくらい、今思いついたにしてはきっちりとしてる話題。それでも、私にとっては彼について知れたり、恋人らしいことをできる唯一の方法にも感じた。
けど、私はまだ彼に対して『好き』という感情を抱けなかった。
◇◇◇
放課後、私は校門の前で彼を待っていた。恋人同士である私達は、こうして下校の時も一緒に帰っている。学校の中で恋人らしいことなんて恥ずかしくてできるわけがなく、私もそのことで周りから変な注目を浴びるのが嫌だった。だから、せめて登校と下校くらいは、ということになった。
校門を潜った同級生達が次から次へと帰っていく。時折立っている私に視線を向けて、直ぐに戻して談笑を楽しむ。私も前は、友達と一緒にああやってお喋りしながら帰ってたっけ。あの時、告白しなかったら、今頃仲良しでいられたのかな。
悲しみに昏れそうになった時、死角から声をかけられた。顔を向けたら彼が立っていた。学校指定のリュックを背に、体操服を入れている袋を片手に持っている。彼は『ごめん、待った?』と申し訳なさそうに訊いてきた。
「ううん、待ってないよ。行こっか」
それだけ返して、私達は今日も並んで帰りの道を歩く。ゆっくりと、どちらかが先に行ってしまわないように歩幅を意識する。私が彼よりも早歩きなのか、彼が私よりも早歩きなのか、そこまでは分からない。
「今日の授業、どうだった? 私は数学の時間、すごく眠かったよ。先生ったら、奥さんが妊娠したことをまた嬉しそうに話してて、おかげでみんな寝そうになっちゃって、授業も全然進まなかったよ」
私が話題を振ると彼も笑い、今度は彼から話をしてきた。私の会話はこんな感じ。本当なら、好きなこととか、趣味の話とか、思い出の話とか、そういうことを話してお互いの距離を近づけ合うのかもしれない。
でも、私はそれができない。やっぱりどこかで彼との間に距離を作りたがっているのかもしれない。どうしても、体がそうしてしまう。
「……あれ、どうしたの?」
丁度帰り道の中間地点に当たる交差点で、彼は突然、真剣な顔で私の名前を呼んだ。私は無意識に首を傾げながら、彼を見た。告白してきた時と同じように唇をもごもごとさせていて、全身も力が入っているかのように震えている。何かあったのかな、なんて考えていると、彼は勢いをつけながら口を開いた。
──こ、今度の日曜日、映画でも観に行かない?
青信号が点滅するのを横に、私達の間に短い沈黙が生まれた。
映画、いつも家族で行っていた場所、中学生になってからは時間が無くて行かなくなって、今はどうなっているのか分からない。
いや、そういうことじゃなくて。これ、多分……デートのお誘いだ。アニメでよく観てた、恋人同士でするお出かけのお誘いだ。
「え、えっと…………」
思わず声を迷わせる。だって、今週の日曜日はお母さんが仕事でいなくてお義父さんがお休みで家にいる。つまりその日はお義父さんの相手をしなくちゃいけない日だった。
お義父さんの肉棒をおまんこで擦って、びゅるびゅると受け止めないといけない。もし断ったら、何をされるか分からなかった。
──ダメ、かな?
迷う私が嫌がってると思った彼は、酷く落ち込んだ様子で項垂れた。体に纏う空気も重く、ずーんとしたものへとなっている。このまま地面に沈んでしまいそうな勢いだった。
「う、ううん。いいよ、行こ、映画」
咄嗟に答えると、彼は顔を上げて、一瞬にして明るい顔になった。
私、馬鹿なのかな。お義父さんが許してくれるはずもないのにいいよなんて言って。けど、やっぱりなしだなんて言えなくなっちゃった。
一抹の不安が浮かぶ中、彼は待ち合わせ場所と時間、そして観に行く映画のタイトルを教えてくれた。そしてお互いの家に繋がる別れ道で、私達は手を振って別れた。
「……どうしよう」
お義父さん、許してくれるかな。彼氏と行くだなんて口が裂けても言えないから、友達と一緒に行くと嘘をつくのは前提になる。でも、最近のあの人はかなり強引になっている。2人きりの時は、私のことを『娘』としてではなく、1人の『女性』として接している。エッチの時の要求もかなりキツくてハードなものになっている。このままいったら、私の体が壊れてしまうかもしれない。
…………でも、彼との初デートは行ってみたい。お義父さんに殴られてもいいから、初めてできた恋人とのデート、してみたい。
その思いを胸に、私は玄関の扉を開く。
「あっ……た、ただいま」
開いた瞬間、思わず体が跳ねそうになった。すぐ目の前に、腕を組みながらお義父さんが立っていたのだ。表情は怒ってはいない、けど笑ってもいない。まるで私を待ち構えていたかのようだった。
私が扉を閉めると同時に、腕組みを辞めて『おかえり』と言ってきた。
「あれ、お母さんは? お義父さんもお仕事、今日は早かったんだね」
震える指先で靴を脱ぎながら訊くと、お義父さんは『今日は体調が悪くなってね。早退したんだ』と返してきた。嘘だ、お義父さんは多分、先週の日曜日に私を抱けなかったから、そのことで我慢できないだけなんだ。だから、お母さんよりも早く帰って来て、私を抱くつもりなんだ。
「あの、お義父さん…………」
靴を脱いで立ち上がった時、突然後ろから抱きつかれた。汗の染みたブラウスが、お義父さんの大きな手で掴まれてくしゃっとなる。ブラジャーをつけたおっぱいがブレザー越しに鷲掴みにされる。空いていたもう片方の手が私のスカートの中に入り込んで、ショーツの中に潜り込む。
全身が凍えたかのように硬直する。振り向くことも怖くてできない。ただ、ねっとりとした吐息が耳の穴に吹きかけられるのを耐えるしかない。
「……あのね、お義父さん…………実は、今週の日曜日、お出かけしたいんだけど」
吹きかけられていた息が止んで、代わりにお義父さんの低い声が聞こえた。でも、私は話を続けた。
「友達とね、映画を見る約束したんだ。私、友達と一緒に映画に行くだなんて初めてのことだったから、ついOKしちゃって…………うん、ごめんなさい。勝手に決めちゃって、本当にごめんなさい」
おっぱいを鷲掴みにしていた手が、私の顎に触れると、少しずつ力が込められていく。今にも喉をきゅっと絞めそうな勢いだった。けれど、もう後戻りはしたくなかった。
「今日はお義父さんの好きなようなしていいから、だから…………遊びに行かせてください」
目をぎゅっと閉じて、泣きそうな声でもう一度言った。すると、お義父さんは顎とおまんこから手を離して、私の体を抱きしめた。そして『部屋、行こっか』と囁いた。
「…………うん」
私はお義父さんに抱きしめられたまま、自分の部屋の中に入った。
この後、お母さんが帰って来るまでの間、私は肉棒から飛び出した精液を肛門と口で受け止めた。今日のお義父さんはいつにも増して乱暴で、本当にお尻の穴が破れてしまうと思うくらいに激しく腰を振っていたし、息が出来なくて窒息すると思うくらいに喉奥深くまで肉棒を押し込んできた。終わる頃には口も肛門もぽっかりと穴が空いたかのような感覚になって、中から精液が溢れていた。
でも、これで彼と映画に行ける。そう思うと、何とか耐えることが出来た。
◇◇◇
学校もない休日の日曜日。日曜日ということもあって、普段は仕事に出かけている人や、私と同じ年頃の子どもたちが街中に溢れ返っている。あっちの方では男女のカップルが楽しそうに腕を組みながら話しているし、反対側ではかっこいいお兄さん達がはしゃぎながらお店の中に入っている。みんながみんな、各々の休日を楽しんでいた。
私はと言うと。少しだけ早く待ち合わせ場所に到着していた。こんな場所、1人で来ることなんて早々ないから、迷子になんかなって遅刻しないようにと気をつけた。その結果、思ったよりも早く着いてしまった。1人でいるせいか、さっきから時々突き刺さる視線が怖い。でも、彼と出かけるためならちょっとは我慢しないと。
──あ、〇〇さん!
人混みの中から、彼の声が聞こえてきた。声のした方を見ていると、真っ直ぐと私服姿の彼が此方に向かってきた。雑誌で見るような少しオシャレな服装だった。
私の前まで来た彼は息を切らしながら『ごめん、待った?』と声をかけてきた。
「ううん、全然。今来たところだよ」
そう返すと、彼はほっと胸を撫で下ろした。
──その服、すごく似合うよ。
「え? ……うん、ありがとう」
何故か服装を褒められたので、とりあえず礼を言った。実を言うと、この服は別に悩んで選んだわけじゃない。
前にお母さんから貰ったお古の中から、それっぽいものを選んだたけだ。でも選ぶのに1時間はかかったから、やっぱり悩んだって言うのかもしれない。
──あのさ。ここ、人が多いよね。
「? うん、そうだね」
──だから、ほら。
彼はゆっくりと、左手を私に伸ばしてきた。私は思わず疑問符を浮かべた。
──手、繋ごっか。はぐれたら大変でしょ?
頬を赤くしながら彼は俯き気味に上目を向ける。
恋人同士は、お互いの仲を深めるために手を繋ぐっていうのは知っている。けど、私は今の今まで、お義父さんを除いて男の人と手を繋いだことなんてなかった。
そもそも、付き合って数日なのに、手なんて繋いでいいものなのか、私には分からなかった。でも、繋いでみたいとも思った。
「…………うん」
右腕を上げて手を伸ばす。針に触れるかのように、慎重に指先で彼の手に触れる。少しずつ、指で彼の手の平をなぞりながら、きゅっと掴む。彼もまた、優しく掴み返した。
瞬間、私の心臓がドクンと跳ねた。胸の皮を破って外へ飛び出すんじゃないかと錯覚するくらいの強い鼓動が私を襲った。襲うと言っても、野蛮なものじゃない。なんだか胸の中から熱いものが湧き上がってくるような、そんな感覚だ。多分、今の私の顔、凄く赤くなってる。
「……行こ」
私と彼は、お互いに離れないように手を強く握りしめ合いながら人混みを歩き始めた。目指すは映画館のある背の高いビル。そこに辿り着くまでに、沢山の人とすれ違い、時に肩がぶつかって倒れそうになるだろう。
だから、この手を離す訳にはいかない。
彼の手はとても熱い、そして、私の手も同じくらいに熱い。ずっと、このままでも良いと思ってしまうくらいに、彼の手を離したくないと思った。
「あっ」
そう思いながら、ふと空を見上げた。
一瞬だけど、灰色だったはずの空が青く染まったように見えた。本当に一瞬、ぶわっとしたように。
◇◇◇
「映画、面白かったね」
数時間後、映画を観終えた私達は会場を出て、街中を歩いて感想を言い合っていた。もちろん、逸れないように手を繋ぎながら。
「君って、結構怖がりだったんだね。幽霊が飛び出すシーン、ギュッて目を瞑ってたよ」
揶揄うつもりで意地悪を言ってみると、彼は恥ずかしがりながら、頼りなくてごめんと苦笑した。
彼と観た映画は、ついこの間から上映を始めたホラー映画だった。内容は在り来りと言えば在り来りで、とある町の噂を耳にした若い人たちが、遊び半分でその町に足を運んで、結果的に幽霊とか妖怪みたいな正体不明の存在に死者の世界に連れて行かれそうになる、みたいな感じのストーリーだった。
感想を言うと、私はそんなに怖くなかった。演出は怖がらせようと必死に頑張って、私も何回かはびっくりしたけど、幽霊とか妖怪のデザインが露骨に怖がらせようとしすぎて、逆に可愛いと思ってしまった。内容も、結局若い人達にも自業自得な部分があるし、終わり方も微妙で、思わず頭を捻ってしまった。
対して彼の方はかなり楽しんでいたようで、びっくりする演出の時はちゃんとびっくりしてたし、必死に叫び声を抑えていた。そんな彼の姿が可愛くて、可哀想だった。
だから、思わず彼の手を握ってしまった。不安そうに震える彼の姿が放っておけなくて、彼の手の甲に、そっと自分の手の平を重ねた。
「うん、大丈夫。カッコ悪くなんかないよ。私? 私はあんまり怖くなかったかな」
君はどうだったと訊かれたので、素直に答えた。すると、彼は不思議そうに眉を顰めて首を傾げた。そして、君も怖がってたと思ったけどと言ってきた。
…………うん、確かに。主人公の女の子が、幽霊に取り憑かれた男友達に馬乗りにされて襲われるシーン、あのシーンだけは凄く怖かった。お義父さんが私を襲う時の姿と重なってしまって、叫びそうになるくらい身体が震えてしまった。
けど、そんな私の手を彼は握ってくれた。私がしたように、彼が私の手の甲を優しく包んでくれた。お義父さんにも、あんなに優しく握ってもらったことはなかった。
「…………うん、また行きたいね」
嬉しそうにまた行こうかという彼にそう返した。
しばらく街を彷徨っていると、とあるものに目が止まった。ビルの1階部分を丸々お店にしていて、中には四角い機械が沢山入っていて、カップルが笑い合いながら何かを見ている。
「これ、なに?」
思わず呟くと、彼はプリクラだよ、と答えてくれた。
確か、プリクラって写真を撮ってそれを弄ったりして遊んで、ケータイに貼り付けるやつだって、若い頃にお父さんと2人で撮ったことがあるって、お母さんが懐かしそうに話していた。最近の若い子はスマホでパシャパシャしちゃうからとも言っていた。私は1度も入ったことがなくて、いつもどんな場所なのか、想像の中で勝手にイメージしていた。
彼に思い出に1枚撮っていくかどうか訊かれ、私は首を振った。導かれるように、誘い込まれるように、2人で中へと入った。
中は広くて、キラキラとしていて、大きな音があちこちで響いている。チョーウケるとか、流石に盛りすぎじゃないとか、楽しそうな声が聞こえてくる。意外だったのは、女子校生の女の人達だけじゃなく、大人の人もいた事だった。それこそ、お母さんより年上のおばさん達とか、お義父さんより難いのいい男の人たちとか、イメージよりも年齢層が幅広そうだった。
そして一番奥にある機械に足を止めた。他の機械よりも少し古めで、並んでいるけど、ちょっと待てば大丈夫そうだった。
「私、こういう所に来るのは初めて」
そう言うと、彼も初めてだよと、微笑みながら答えた。
順番が来るまでの間、密かに心を踊らせていた。もちろん、彼の手の感触を感じながら。
◇◇◇
人混みから逃れて、街中から少し離れた場所にある公園。背の高い建物に囲まれるように造られたこの場所は、子どもたちが遊ぶには狭すぎるうえに、遊具の数が少なかった。うちの近所の公園でも、ここまで狭い場所はないと思う。そのせいもあって、公園には私たち以外、誰も立ち寄っていなかった。
「うーん、やっぱり、恥ずかしかったかな」
2人で撮った写真を眺めながら、私達は今更になって恥ずかしさが込み上げてきた。
初めてのプリクラということで、私と彼は慣れない手つきで操作をしていた。彼もプリクラは初体験だったようで、2人してあーでもないこーでもないと無我夢中に画面をタッチしていた。結果、『Love』とか『愛』とか『恋』とか、そんなが2人の周りにキラキラと飛び回ってるような写真が出来上がってしまったのだ。これじゃあ、付き合ってるって堂々と宣言しているようなものだ。
──でも、2人の初デートの記念にはなったね。
照れくさそうにしながら彼が微笑んだ。
私達は付き合ってまだ日が浅い。これは、そんな私達が初めてデートをして、初めて映画を観て、初めてプリクラで写真を撮った思い出の写真。今日という楽しい思い出を記録した大切な写真だった。
──ねえ、〇〇さん。
ふと、彼が名前を呼ぶ。顔を向けると、彼が真剣な表情で私を見ていた。告白してきたあの日と同じように、顔を赤くして、唇をモゴモゴとさせている。あからさまに緊張していて、見ているこっちまで緊張が移ってしまう。
「どうしたの?」
──あのさ…………その……。
口を籠もる彼は、大きく息を吸って、息を整えてからこう言った。
──キス、してくれませんか?
「……………………へ?」
突然の告白に、私は変な声を出してしまった。キスだなんて、お義父さんとしかした事がないのに。
でも、確か昔、友達だったあの子が話していた。
──ねえ、知ってる、〇〇ちゃん。隣のクラスのA君とBちゃん、キスしたんだって。ロマンチックだよね。恋人同士って、キスするんだって──
じゃあ、今の私と彼は恋人同士だから、キスをしてもいい。好きな人とするキスは、私も初めてだ。
「…………うん、いいよ」
私が頷くと、彼はこほんと咳をして『じゃあ、いくよ』と一声かけて、私に唇を向ける。私も目を閉じて、彼に向かって唇を尖らせる。
ゆっくり、時間をかけて、慎重に顔を近づけていく。
鳥が羽ばたく音が聞こえた。公園の外を歩く大人の声も。道路を走る車の音も。
そして、唇が重なるリップ音も。
お義父さんに無理やりされたのとは違う、相手のことを思いながら熱の籠ったものを重ね合う。
それから数秒経ってから、私達は唇を離した。彼はまた照れくさそうに笑って、私も恥ずかしさと嬉しさで頬を赤く染めた。
私のファーストキスは、お義父さんに奪われてしまった。けど、好きな人との初めてのキスは守れた。ちょっと酸っぱい、レモンの味。
…………あれ、今、私、好きって。
そうだよ。好きなんだよ。
不意に、私は空を見上げた。灰色だったはずの空が、薄い水色に塗られていた。夕方に近いのもあって、少しだけオレンジに染まりかけている。
そしてまた彼の顔を見る。彼の顔も、髪の毛も、服も、全部が色ついて見えた。まだまだハッキリとしないけど、白黒になる前の世界に戻っていた。
そっか、これが、『好き』なんだ。
「…………ううん、大丈夫」
思わず私は泣きそうになった。やっぱり涙は出てこないけど、目の内側で熱いものが溢れてくるのは感じた。
彼は心配そうな表情で私の手を握る。私もぎゅっと握り返す。絶対に離さないように、ぎゅうっと。
家に帰ると、お母さんが出迎えてくれた。前と同じでエプロン姿で、今度は菜箸を右手に持っている。
おかえりなさい。映画、楽しかった?
リビングにはお義父さんがいる。けれど、私はそれ以上に今日のことが嬉しかった。お母さんの顔も、昔みたいに色がついている。少し皺が増えたけど、昔と同じで明るい笑顔だった。
ねえ、楽しかった?
今日、楽しかった?
うん、楽しかったよ。
だから、お母さんにも伝えよ?
……うん。
「すっごく楽しかった……!」
◇◇◇
デートのあとも私達の関係は続いている。朝は一緒に登校して、帰りは一緒に下校する。その時の話題も、初めの頃と比べて自然と話せるようになった。
彼の都合もあって2回目のデートにはまだ行けてない。けど、その代わりに手を繋ぐようになった。手を繋いで一緒に学校に向かう。帰りは別れ道に着くまで手を繋ぐ。それが私達の日課で、恋人としての時間を過ごせる一時になっていた。
明日はどんな話をしようかな、手を繋ぐ時は、指を絡めようかな、それとも、手を組もうかな。またキスしてみたいな。そう考えるだけで、心の中から生きたいという活力が湧いてきて、明日も彼と会うために頑張ろうと思えた。そう考えるだけで、お義父さんからの要求に耐えることができた。
そういえばこの前、彼が突然電話番号を教えて欲しいだなんて言い出したっけ。何かあった時のために連絡を取り合えるようにしたいって言う理由で。私達、恋人同士なのに連絡先すら交換してなかったんだって、その時になって思った。
スマホなんて持ってないから、とりあえず私は家の電話番号を教えて、彼はスマホの電話番号を教えてくれた。けど、掛けるのは絶対に私の方からにするよう頼んだ。もし彼から掛けて、運悪くお義父さんが出てしまった場合、ただじゃ済まされない。たとえ男友達と言っても、お義父さんは許してくれないだろう。
それに、彼には私とお義父さんの関係はバレて欲しくなかった。彼は唯一私が心を許せた男の子、だから、余計なことに巻き込みたくなかった。
将来のこととかまだ分からない。でも、ずっと、彼との関係を続けていきたかった。
◇◇◇
平日5日間の登校を終えて、遂にやってきた土曜日。待ちに待った、彼との2回目のデートの日。
朝から、私はクローゼットの中から服を引っ張り出しながら、今日着ていく服を悩んでいた。理由はもちろん、彼とのデートにどの服を来ていくのが1番いいのか決めかねていたからだ。
初デートから早くも1ヶ月が経っている。あの時着ていた服は、とりあえずで適当に選んだものだったから、今回は1から真剣に悩んでいた。彼はどんな格好なら喜んでくれるのだろうか、前に来ていた服は少し露出が少なめだったから、今回は思い切り露出度高めな服を着てみようか、けどそしたらお義父さんに彼との関係がバレないだろうか、そんなことを早くも1時間近く考えながら、頭を傾げて唸っていた。本当は昨夜の内に決めておきたかったけど、お義父さんが部屋に入ってきたせいで叶わなかった。
お母さんがお風呂に入ってる30分の間に、私はまた口の中にビュルルと精液を受け止めさせられた。しかも一滴も飲まずに口の中に溜めるように指示された。昨日の射精の勢いは数日間は溜めたかのように勢いがついていて、思わず吐いてしまいそうになるくらい濃厚だった。けど、もし吐いたら頭を殴られるに違いなかった。だから、必死に頬を膨らませながら精液を受け止めた。苦くて苦くて仕方のない生臭い味を口いっぱいに広げながら、私は溜め込んだものをお義父さんに見せて、ゆっくりとごっくんした。
「…………なんで、平気でいられるのかな」
自分でも分からない。昔はあんなにお義父さんの精液を受け止めることが嫌だったのに、体を貪られるのが気持ち悪かったのに、今ではそんなに不快だなんて思わなくなった。
慣れたと言われれば、少し違う。あんなもの、慣れるはずがない。
私が性の虜になったのではと言われたら、それも違う。なら今頃、私はお義父さんとのセックスに喜びとか、気持ちよさとか、何かしらの快感を感じているはずだ。
じゃあ、なんで平気でいられるのか。
ううん、本当は平気なんかじゃない。
何年もやられ続けて麻痺してるんだ。
麻痺して、何も感じられなくなって、そして、諦めた。諦めるしか、私は生きていけない。お母さんとお義父さんと私、仲の良い3人家族を保つには、私が犠牲にならないとダメなんだ。
………………ねえ、本当はどう思ってるの? 本当は、どうしたいの?
「…………うん、これにしよ」
小さく頷きながら落ち込む気分を振り払い、私は選び掴んだ服を身につけて、鏡で全身を確認した。ワンピースに薄いアウターを着てみた。露出は少ないけど、涼しげで無難な女の子っぽい格好、これなら彼も喜んでくれるかもしれない。
鏡に向かってニコッと笑顔を作ってみた。わざとらしくないように、自然な感じに…………よし。
手提げカバンを持って、一旦リビングへ向かう。まだ朝ということもあって、お義父さんは起きていない。試しに寝室を覗いてみると、パジャマ姿のお義父さんが鼾をかいて寝ていた。相当仕事の疲れが溜まっているに違いない。昨日だって、私に出した後は深いため息をついていた。お義父さんって、仕事は中は真面目に働いてるのかな。
ちなみに、お母さんは中学時代からのお友達と一緒にお出かけしていて朝からいない。出かける前に、今日は夜までかかると話していた。私も今日は夜まで彼とデートをするつもりだ。だから、お義父さんとのセックスは今日はしない。
お義父さんを起こさないように、私は彼に電話をかける。カバンを置いて、受話器を手にして、11桁の数字を打ち込んで、耳に近づける。
──あ、〇〇さん?
プツッと言う音とともに、彼の声が聞こえてきた。声変わり前の幼さの残る彼の声が、私の鼓膜を震わせた。
「あ、もしもし、私だよ。うん、そうだよね。私から掛ける約束だったもんね」
小さく笑うと、受話器越しに彼の微笑む声が聞こえてきた。隣にお義父さんがいる状態での内緒話、バレれば大変だけど、ちょっとしたスリリングがあって少し楽しかった。
「実はね、もう──」
準備が終わったから、待ち合わせ時間を少しだけ早くすることは出来ないかな。そう言おうとした。
今日は、1分1秒でもいいから、彼と長く一緒に居たい。お義父さんと2人きりの環境から抜け出して、好きな彼との空間に浸りたい。その一心で、私は彼に電話をかけた。
私ね、最近、色がついて見えるようになったんだよ。白黒テレビじゃなくて、少し粗めなカラーテレビみたいに。お母さんの笑顔も、髪の色も、黄色い月も、図鑑の絵も、色がついてるの。
だから、早く彼と会って、デートして、色んな思い出を作りたい。私だけの、私達だけの素敵な思い出を、今日は沢山作ろうよ。
けど、そんな言葉すら、遮られてしまった。
突然受話器が手から抜け出すように離れた。初めは落としたのかと考えたけど、背後の気配で直ぐにそれが勘違いであることが分かった。勘違いじゃなかったらどれだけ良かっただろう。
「…………あ」
恐る恐る、ホラー映画みたいにゆっくりと振り向く。全身から冷や汗を流しながら、首を捻って目を後方に向ける。
その人は、いた。
私のすぐ後ろで、寝起きにしては目が覚めた表情で、片手に受話器を握りながら私を見下ろしていた。その目は細く、鋭く、獲物を視界に捉えたかのような、肉食動物のような眼光を放っていた。
違う、この人は起きていた。寝たフリをして、わざわざ私が彼に電話をする隙を狙っていた。
「あ、ああ…………」
声が出ない、脚がガクガクと震えて、力が入らない。今にもお漏らしをしてしまいそうになる。電話を置いている棚に背中を預けてなかったら、今頃床にへたりこんでいただろう。
──〇〇さん?
スピーカー越しに彼の声が聞こえる。
「お、お義父さん、返して……」
私は弱い声を上げながら父の右手に手を伸ばす。けれど父は取れるものなら取ってみろと言わんばかりに、受話器を高い位置に浮かせる。そして左手で私を払い除けて床に倒すと、フックボタンを押して受話器を置いた。そして目だけを動かして私を見ながら、ゆっくりと糸を引きながら口を開いた。
──〇〇、今会話をしていた子、友達、じゃないよね?
「……ち、違う……よ。友達だよ、男の子で、前に仲良くなって」
死にそうな思いで、塞がる唇を開く。けれど、お義父さんの目は全く変わらない。まるで、私の言っていることが全て嘘だと見抜いているかのようだ。
──嘘をついたらダメじゃないか。だって、〇〇にはお友達なんかいないはずだろう? あの子と絶縁したんだからね。
「……え?」
どうしてお義父さんがその事を知っているのか、不思議でならなかった。目を剥く私を見て、お義父さんは口を開いた。
私があの子に絶縁を言い渡されたことをお義父さんに話したのは、紛れもないあの子本人だった。何でも、仕事帰りにお使いを頼まれていたあの子と偶然遭遇したようで、2人で軽い挨拶を交わしたそうだ。それで、その流れでお義父さんが私と上手くやっているかを訊いた時に、あの子は泣きそうになりながら口ごもらせてしまったという。そして、私がお義父さんとの関係を告白したこと、絶縁を突き出したも同然な態度をとっていることを話してしまったらしい。
──あの子、言ってたよ。『〇〇ちゃんったら、お義父さんにエッチなことを強要されたって嘘をついたんです。私、昔からお義父さんのことはいい人だなぁって思ってて、寧ろ私のお義父さんになって欲しいくらいだったのに。流石に冗談がきついですよ。だから、腹が立っちゃって』って。あの子は本当にいい子だね。一通り話したあと、『お義父さんも、〇〇ちゃんのこと、これからも大切にしてあげてください』って、今でも君のことを心配してたよ。それに、前会った時はこうも話してくれたよ? 『最近、〇〇ちゃん、隣のクラスの男の子と手を繋いでる』って。
私の中に、大きなヒビが入った。鏡が割れるように、大きな亀裂は、私自身を砕けて映した。
あの子は私を裏切ったとか、そういう思いで話したんじゃない。多分、私の話で溜まっていた鬱屈とした気持ちを晴らしたくて全てを吐き出したんだ。そして、同時に私のことを心配していて、気になることを身近な人に話したかったんだ。それが、寄りにもよってお義父さん本人に言ってしまった。それだけのことだ。それだけのことが、私を追い詰めてしまった。
「い、いや…………」
私は腰が抜けた状態で逃げようとした。床を這いずりながら、玄関に向かって必死に体を動かそうとした。彼に、早く彼に会いたい、彼の元に逃げたい。
けど、それは叶わない。お義父さんは私の髪の毛を掴むと、そのまま仰向けに張り倒してのしかかってきた。頭を床に押さえつけて、空いた手で首元を絞める。首を絞められるのは今まで何度も受けてきた。けれど、これは今まで以上にキツく、本気で殺しに来ていた。
「く、ぐるし…………おど…………さ……」
──〇〇、君は本当に悪い子だ。あんなにいい友達にお義父さんとの関係を話して傷つけた。あんなに君のことを思ってくれているいい子なのに。それどころか、お義父さんにもお母さんにも内緒で知らない男の子と付き合うだなんて…………悪い子にも程がある。
怒りを孕ませた静かな声で、お義父さんは私の首を絞め続ける。意識が遠のいて、泡を吹き出しそうになる。
寸前、お義父さんは首から手を離した。私は遅れた分を取り戻す勢いで激しく呼吸をする。咳き込んだ際に出た唾がお義父さんの顔にかかったけど、気にする素振りはなかった。
──君は、この前もお母さんを悲しませたじゃないか。君は、今の幸せを壊したいのかな?
這い出ようと脚をばたつかせる。けれど、お義父さんの重さに負けた私の体はびくともしなかった。
そんな私の行動に苛立ったのか、お義父さんは私のみぞおちに拳を叩きつけた。深くめり込む男の人の拳、そのあまりの痛さに、私は思わず唾の混ざった息を吐いた。
痛みに藻掻く間に、お義父さんは私の髪をまた引っ張って、何度も床に叩きつけた。腫れない程度に頬を叩いて、痛がる私を真顔で見下ろしていた。
「痛い! やめて! ごめんなさい! もうしないから!」
確か昔、同じようなことをしてた気がする。お義父さんにほっぺたを叩かれて、痛くて痛くて、もう叩かれたくなくて、お義父さんの言うことを聞いて。
あの時と、全く変わってない、私、あの時から変わってない。
──何に対してのごめんなさいかな?
お義父さんの言葉に、私は口を紡いだ。もう、自分でも分からない。私が悪い子なのかなんて、もう分からなかった。
──本当に悪いと思うなら、分かってるね?
お義父さんは一瞬、受話器に視線を向けて、言いたいことを理解している前提で私に訊ねてきた。
理解したくない、でも、しないといけない。しないと、私が殺されちゃう。お母さんの幸せがなくなっちゃう。
「…………うん」
私は仰向けのまま顎を引いた。そして強引に起こされる形で、電話の前に立つ。みぞおちが痛い、頬が痛い、引っ張られた箇所も、頭も。背後にはお義父さんが立っていて、『お義父さんの名前は出したらダメだよ』と首元に指を絡めながら囁いてきた。
私は震えながら受話器を握りしめて、彼の電話番号を推していく。
お願い、どうか、彼が出ませんように。でないと、私はもう──
──あ、〇〇さん? よかった、突然切れたから心配したよ。
今の私の状況を知らない彼の安堵の声がスピーカーに届く。彼の声が、私は好きだった。好きだから、こうして出てくれたことが嬉しくて、悲しかった。
──どうしたの? 声、枯れてるよ?
「…………あのね」
泣きそうな声を必死で堪えて、私は精一杯の笑顔を作った。
「今日、デート、行けなくなっちゃった」
彼は驚いた声を漏らす。
「この先も…………ずっと行けない」
違う、そうじゃない。
「私、やっぱり、あなたのこと……好きになれない」
好きだよ。
「手を繋いだ時も、キスをした時も…………何も感じれなかった」
心が熱くなった。
「必死に好きになろうって思ったけど……ダメだった」
ずっと好きだった。
「映画の時も、本当は手を触られて……嫌だった」
嫌なんかじゃない。ずっと握って欲しい。
「学校の行き帰りも……ずっと嫌だった」
嘘だ。嘘だ。ねえ、なんでそんな酷いこと言うの?
あなたはどうしてそんな言葉が吐けるの?
「だから……あなたとは、これでお終い」
違う。違う。本当に言いたいことは。
「
どれだけの沈黙が流れたのだろう。気がつくと、スピーカーからプーップーッという音が聞こえてきた。いつの間にか彼の方から切ったようだった。
彼を突き放したのは、お義父さん? いや、私。私が言葉で、彼を遠くへ飛ばした。お義父さんに殴られるのが嫌で、家庭を壊したくなくて、私の口から彼に別れを告げた。
私は悪い子だよね。友達も傷つけて、彼のことも傷つけて。
そうじゃない。私は、生きるためにやったんだ。
ねえ、なんで、助けを呼ばなかったの?
…………わかんない、もうわかんない…………もう、私が分からない…………。
──よく言えたね。
背後に立ったお義父さんが私の体を抱きしめる。首から離れた手が流れるように移動して、ワンピース越しにおっぱいを強く掴む。ねっとりとした舌先が耳の穴に入り込んでまさぐってくる。
──部屋、行こっか。
「……うん」
お義父さんに抱かれながら、私は部屋へと向かった。
「あっ、あっ、んんっ」
室内灯をつけず、カーテンも閉め切った真っ暗な部屋。ベッドで仰向けに寝かされた私の上に、お義父さんが包み込むように覆い被さっている。無理やりお股を開かせて、肉棒をおまんこに突き刺して、激しく腰を振っている。
両手は大きな手で押さえつけられているから、動かせない。脚は間にお義父さんが入り込んでいるからどうしようもない。ただ、お義父さんの腰振りに合わせて体が揺れるだけ。反射的に染み出たお汁が肉棒と擦れて卑猥な水音を鳴らしている。お義父さんは心底気持ちよさそうに咆哮して、涎を垂らして私の顔にふりかける。
「あっ、あんっ、あぁっ、んっ」
目を閉じながら、私は必死に喘いだ。お義父さんに要求されるがままに出し続けた喘ぎ声を、くしゃみをした時に目を閉じるのと同じくらい、無意識に瞬きをしてしまうのと同じくらい、自然と出してしまっていた。
「(ああ、私………………)」
私の頭の中は、歪んでいる。多分、どうしようもないくらいに、治すことができないくらいに。
「(あ……)」
顔を横に向けて、薄らと目を開く。床に散乱した、裂かれたワンピースとアウター、ブラジャーとショーツ、そしてお義父さんのパジャマとパンツが目に入った。どれも色が着いているはずなのに、全部が白黒のように映っていた。暗さのせいじゃない、本当に色がなかったのだ。そして、手帳にこっそり入れていた彼とのプリクラも、ズタズタに裂かれた彼との思い出も、白黒になっていた。
「(そっか…………また、戻ったんだ)」
激しくぶつかる腰に合わせて、お尻の肉が波を打つ。膨らんだ両胸が前後に揺れて、お義父さんの男らしい厚い唇を誘い込む。ちゅうちゅうと音を立てて乳房が吸われる中、私は目の前の光景に力なく絶望した。
彼との出会いで戻りかけた色は、また抜けてしまった。もうこの先、この景色が戻ることはないだろう。もう二度と。
「(もう、いい…………)」
体の揺れは過激さを増して、お義父さんは私の体をベッドに挟み込むような姿勢でプレスする。ギシギシと軋む悲鳴が、お義父さんの性的興奮をさらに刺激した。
「あぁぁ…………」
肉棒が奥深くに突き刺さり、激しく脈を打つと、亀頭先の鈴口から精液を吐き出した。何度受け止めたのか分からない温かい熱が、お腹の中を満たしていく。びゅるる、びゅぐっ、ぶびゅ、そんな音を立てながら、肉棒は灼熱のような精液を雪崩込ませる。
「……んっ、んちゅっ…………あっ、んんっ」
挿入させたまま、お義父さんはキスをしてきた。いつも以上に密着していて、まるで彼とのレモン味のキスを上書きするように、臭い味の唾液を口の中へ流し込む。
口を離すと、お義父さんは起き上がり、ぬぷりと肉棒を引き抜いた。おまんこから、濃厚な精液が漏れ落ちるのを感じた。
「……んっ」
今日のお義父さんは機嫌が悪い。私の胸下辺りに跨ると、今度は私のおっぱいで肉棒を挟み出した。おっぱいの側面を両手で挟んで、無理やり谷間を作って、お汁で濡れた肉竿を擦り付ける。生臭い亀頭が私の顎に辺り、朦朧とする意識を強引に引き戻す。時々亀頭を突き出すと、先端を舐めるように要求してくる。私は人形のように、言われた通りに舌先を伸ばして、亀頭先をぺろぺろと舐めた。
「ん、はむっ、んちゅ、んっ」
精液を出したばかりの肉棒は、鼻がもげるくらい生臭かった。ひと舐めする度に残滓が絡みついて、口の中を汚す。よく洗っていなかったのか、肉棒には垢のようなものが付着している。私の舌先はそれも舐めとり、しょっぱい味に舌を引っ込める。
萎えていた肉棒が、私の舌使いでまた硬くなってきた。お義父さんは獣のような声を上げると、肉竿を私の口の中へと突っ込んだ。
「んぐっ、ふぐっ、ふごっ、んぐぅっ」
頭に跨り、容赦なく腰を上下に揺らす。肉棒の出入れに合わせて頭がぐわんぐわんと飛び跳ねて、脳みそを掻き回す。優しさの欠片もない、一方的で暴力的なフェラチオ。無論、こんなものが気持ちいいはずがなかった。
「ふぅ、ふぐっ、んんっ」
今喘いでいるのは誰だろう。私なの? この声が私なの? ううん、だって私、ふわふわと浮いてるよ? ほら、目の前で私がお義父さんの肉棒を食べてる。
それは違うよ、それは単なる幻覚だよ。私はちゃんとこうして、お義父さんの肉棒を頭で受け止めてるよ。見て、喉の奥が痛いでしょ? 私は今、お義父さんに乱暴にお口の中を侵されてるよ。
「ん…………んんんんっ」
ほら、今だってお口の奥深くにおちんちんを捩じ込まれて、精液をどぴゅ〜って出されてる。苦い苦いオタマジャクシを喉を鳴らしながらゴクゴク飲んでるよ。
…………そう、私は今、お義父さんの精液を飲んでいるんだ。本当なら、彼とキスをしていたはずなのに。
お義父さんは尚も腰を震わせて精液を脈動させる。息のできない状況に、私の意識まで真っ白になった。
「うぶっ…………げぼっ」
肉棒が引き抜かれ、亀頭と唇が白い糸橋を引く。あまりにも奥に出されたせいか、私は1つ咳き込むと、喉を逆流した精液の塊を吐いてしまった。
「はい、ごめんなさい…………私は悪い子です……」
肉棒を押しつけられながら、私はお義父さんの言われた通りの言葉を復唱する。
ごめんなさい、私は悪い子です。私は、言ってはいけない秘密を話して、お友達とお母さんを傷つけた悪い子です。男の子と内緒で付き合うようなろくでなしな女の子です。他人を傷つけてばかりいる親不孝者です。どうか私に罰を与えてください。
そのセリフを、私は肉棒が再び勃起するまで何度も何度も繰り返した。何回も言っていくうちに、私の体は深い場所へと沈んでいく。自分で言葉を発していても、どうしても自分の声だとは思えない。
満足そうに口角を上げたお義父さんは、肉棒を腹部に擦り付けながら下半身へ移って、私の体をうつ伏せにさせる。下半身を持ち上げて、お尻を突き出させる姿勢で私を四つん這いにさせる。そして臀部を掴んで左右に開かせると、おしりの穴を露わにさせた。お義父さんに何度も挿入されたせいで、私の肛門は肉棒の太さに合わせて広がってしまっていた。
「ぁぁぁぁ…………」
息付く暇もなく、肉棒が穴の中へと挿入されていく。ずぶりと侵入した亀頭と肉竿が肛門を押し広げ、鈍い痛みを与える。そして肉棒はあっという間に奥まで入り込んで、痛覚のない直腸まで到達した。
「あ、あぐ、ぅぅ……」
無我夢中に、お義父さんは動き出す。まるで犬の交尾を真似るかのように、両手で私の腰を掴みながら、一定の速度で腰を振る。お汁でたっぷりと濡れた肉棒は、肛門と直腸に引っかかることなく滑り、内部で暴れ回る。
めり、ぶちゅ、ぬぷっ、おまんこよりも水気が薄い、汚さのある音が響く。
不意に、仄暗い場所に閉じ込められていた頭の中に、謎のイメージが映し出される。
ワンピースと薄いアウターを纏った私が、駅前で彼を待っている。道路を挟んで向こうから彼が走ってきて、待ってくれてたのと聞いてくる。私は待ってないと笑顔で答えて手を差し出す。彼は握ってくれて、そのまま電車の中へ乗り込む。
電車を降りて目的地についたら、初めは街中のお店に入ってショッピングを楽しむ。彼に選んで貰った髪留めを付けたり、服を見ながら可愛いとか高いとかを話し合う。それで、たまに思い出話とかして、彼と笑う。
ショッピングが終わったあとは、彼と2人、初めてのカラオケを体験する。みんなが知っている有名な曲から小さい頃聴いていた曲まで、流石にこんなの歌ったら引かれるかな、なんてことをこっそり考えながら、たまに彼と一緒にデュエットもする。
それも終わったら、街中を少し離れて、静かな場所を2人で歩く。歩いて、通りすがりのカップルみたいに、腕を組む。そして人気のない場所で、周りを確認したから2度目のキスをする。深くて深くて、唾液を交換し合うくらいに。
そして、こう言うの、『また2人でデートしよ』って。
「ぁ、ぁぁぁぁぁ………………」
きっと、本当なら今頃そうなっていた。けど、もう叶わない。実際の私はお義父さんに肛門を犯されている。亀頭が直腸を突き上げて、儚い妄想を砕けて粉々にする。
私は、涙も流せないまま呻くような声を上げた。絶望に打ちひしがれ、生きたいという意欲をすり減らす。
殺して、もう殺して。お願いだから。もう無理だよ。私、もう無理だよ。殺してよ、自分では自分を殺せないよ。彼がいないのに、これからもずっとお義父さんに弄ばれながら生きたくなんかないの。殺して、殺して! ねえ! 殺して! こんな思いしてまでどうして生きていかなくちゃならないの!? ねえ! 教えてよ! 私、死ぬまで苦しまないといけないの!? こうなったのは、全部私が悪い子だから!? なら、悪い私を早く殺して! お義父さんにお仕置される私を殺して! 死にたい! もう嫌っ! いや! 殺してぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
…………もう…………いや。
そもそも私、なんのためにお義父さんとこんなこと始めたんだっけ。
…………そうだ。元々、お義父さんから大人になるための練習って言われて、将来恥ずかしい思いをせずに、お母さんを安心させたくて、頷いてしまったんだ。
こうなったのは…………私自身のせいだった。
「ぁぁ、ぁぁぁ…………(はは、あはは…………あははは…………)」
呻き声を口から吐きながら、心の中で乾いた笑いが込み上げてくる。もう何もかもがどうでも良い、そんな笑いだった。
お義父さんは私の絶望すら甘味に感じているのか、腰振りを速くする。ぶちゅりという音を立てながら、剛直な肉棒が膨張する。
「ぁぁぁぁぁぁぁ………………」
ゆっくりと動きが鈍くなる。そして同時に激しく脈を打つ。ドロっとした白濁液が、どぴゅるという射精音を鳴らしながら垂れ流しにされる。
もう、ダメだよ。もう、終わりだよ。
心のどこかで誰かが呟いて、私の意識は暗闇に落ちた。
気がついた時には、私はシャワーを浴びていた。あの山奥にあった建物の時と同じだった。唯一違うのは、ここが我が家であるということだけだろう。
「……夢、だったのかな?」
現実逃避をするように、そんなことを考え始めた。お義父さんにバレたことも、彼に別れを告げたことも、実は全部夢で、本当は彼と一緒にデートに行けたのではないか。妄想の方が現実で、お義父さんとのセックスが夢なんじゃないか。
「……あ」
そんなことはありえなかった。乳房についた噛み跡を見れば、今までのことが現実であると嫌でも理解させられる。おまんこに走る鈍い痛みも、喉奥に残る生臭い味も、お尻の穴を逆流するような温かいものも、全部が現実だった。
私は彼に別れを告げた。その事実は変わらなかった。
私はお義父さんに抱かれた。その事実は変えられなかった。
「………………」
蛇口を捻ってシャワーを止める。
もう、嗚咽すら出ない。瞳の裏側に熱いものも湧いてこない。ただ、私の代わりに水が頬を伝って顎下に滴り、床へぴちゃりと落ちた。
お風呂から上がり、脱衣所に置いていた着替えを纏う。そして洗面所の鏡に自分を映して、首元を確認する。あんなに強く絞められたのに、お義父さんの指跡はついていない。頬も叩かれたのに、赤みは既に引いていた。実際はそんなに力を入れてなくて、私が勝手に痛いと思っていたのかもしれない。
お風呂場を出て、廊下を歩く。明るさが漏れるリビングの扉を開けると、お義父さんとお母さんがソファで並んで座っていた。仲の良いカップルのように、お互いに頭を任せ合っている。まるで私という存在がいないかのように、白い光に包まれながら楽しそうに話している。
リビングのカーテンは締め切られていて、隙間から見えるベランダの外は暗かった。いつの間にか夜になっていたようだ。
「……上がったよ」
ぼそりと囁くように言うと、私の声に気づいたお母さんが振り向き、ニコリと笑顔を向ける。そしてお義父さんに一言二言告げると、私の方に歩いてきて突然抱きしめてきた。お母さんのお気に入りの香水の匂いが、お風呂上がりの私の体を包み込む。
「お母さん。何だか凄く嬉しそうだね。何かいい事でもあった?」
胸に顔を埋めながら訊くと、お母さんはえへへと子どもみたいな笑い声を出しながら話した。
今日、友達にお出かけしてた時にね、娘さんから連絡があったの。娘さん、妊娠したんだって。しかも3ヶ月。もうびっくりしちゃって、私まで飛び跳ねて喜んじゃった。あの子、元々子供が生まれにくい体だったから、それが娘さんにも影響してるんじゃないかって心配してたの。だから、余計に嬉しくて嬉しくて。思わず足を滑らせそうになってたわ。
お母さんはまるで自分のことのように嬉しそうに語っている。こんなに笑うお母さんは久々かもしれない。
私もいつか、あなたが好きな人を連れてきて、驚いたりするのかな。ううん、あなたの生き方なんだから、私の考えを押し付けちゃダメよね……でも、もしあなたが本当に好きな人ができたら、お母さん、応援するね。私、絶対にあなたの味方だから。だって、お母さんだもん。
「…………うん」
お母さんの胸に、私は自分から顔を埋めて抱きついた。
お義父さんからの優しい作り物な視線から逃れたかったのもあるけど、それ以上に、お母さんへの申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
ごめんね、お母さん。もう、無理だよ。だって私、もう………………
◇◇◇◇◇◇◇◇
「それからも、私は普段通りに学校に通ってた。死にたいなんて思っていても、結局死ねなくて、またいつも通りの日常に戻ってた。いつものように、お義父さんに抱かれて、幸せそうなお母さんと3人で暮らしてた」
B棟の屋上に弱い風が吹く。湿気のない乾いた風が、彼女の髪とスカートを微かに揺らした。
「彼とはあの電話以来、話してない。全校集会で隣になっても、まるで顔すら知らない他人みたいに知らんぷりし合ってた。私があんな引き離し方をしたから、多分怒ってたんだと思う」
彼女の口調は過去を懐かしむような、思い出すかのようにしみじみとしたものだった。けど、その声にはどこまでも深い闇を孕んでいた。底の見えない深くに沈み続けて、浮上することが不可能なほどの闇を。
彼女の話を聞いていた僕は、彼女の目を見ることが出来なかった。なぜなら、僕も僕で、彼女から手渡されたスケッチブックから目を離せないでいたからだ。
今開いているページの絵は、白い厚紙が、墨汁を染み込ませたかのように真っ黒に染められていた。いや、ただ単に染められているわけではない。黒い背景の上に塗り潰されるように、人の絵も描かれている。無数の目が監視するかのように、中心で蹲る少女をじっと射止めている。背後だけでなく、左右も上下も、奥行きを感じさせるその絵は、まるで義父親から陵辱を受けた彼女自身の心情を描いているかのようだった。
だが、これだけではなかった。別のページには、大きな人の口が少女を飲み込もうとしていた。細部まで描いた白い歯が、人間のそれとは違うことを表しており、彼女の腕を噛み挟んで切断している。切断面からは、生々しい血と筋肉が描写されていた。
また、その隣りの紙には首を絞められた人間のアップの絵が画かれている。首を絞められ、唇から泡を吹き、目玉を飛び出させて黒い血を流している。首元はどこまでも細く絞められており、背骨も喉もひしゃげたように潰れてしまっている。
それだけに留まらず、無数の手が裸の少女を包み込む絵、口から剣を突き刺されて殺された少女の絵、癒着した人の顔面が並んでじっと閲覧者を見つめている絵、黒い繭から得体の知れない生物が這い出てくる絵、全身を黒に染めて、不気味な微笑みを浮かべている女性の絵──最早、口で説明するのも困難な、それでいて繊細で、彼女のこれまでの苦鳴が絵となって表現されていた。幼い頃から彼女が描き続けてきた絶望という言葉を、1ページ目から時系列のように。途中から白と黒の絵に切り替わったのは、おそらく彼女が色を失った時期に描いていたからだろう。
「大人になるための練習とか、将来のためとか、もうそんなのは関係なかった。あの人は、私のことを完全に『娘』としてじゃなくて、1人の『女』として見てた。ううん、もしかしたら、都合のいい愛人と思ってたのかも」
あれから毎日、自分を否定する言葉を復唱させた。そうすることで、お前は
彼女の声を耳にしながら、僕は膝から崩れ落ちる。ゴンッと両膝が硬い床に衝突し、鈍い痛みが痛覚に伝わる。だがその痛みすら、今の僕にはないにも等しかった。それ以上に胸が苦しかった。心臓がドクドクと激しく鼓動を打ち、飛び出してしまうかと思うくらいに激しい締めつけと痛みが襲っていた。それは血管を通じるかのように全身に伝わり、呼吸すら荒くさせる。目の前はぼやけ始め、熱いものが目玉から落ちる。落ちたそれは、スケッチブックにぽたぽたと落ちて、絵を滲ませた。
これは、なんだ。涙だ。何故泣いている。いや、分かっているはずだ。これは、彼女に対する同情か。彼女の受けた苦しみに、僕自身が耐えられないのか。喉から這い上がるのは、嗚咽という名の吐瀉物なのか。
「このままじゃ、持たない。心も体も、全部がお義父さんに侵されて、壊される……だから、思い切って、家から遠いこの高校を受験しようと思ったの。お母さん達には独り立ちしたいからとか、この部活はこの高校にしかないからとか、無理やり理由をつけて説明してね」
彼女の手がスケッチブックの上端を掴み、そっと僕から取り上げる。
そこで僕はようやく俯いていた顔を上げた。
上げた先では、スケッチブックを持った彼女が、虚ろな瞳で僕を見下ろしていた。いや、おそらくその瞳は僕を捉えていない、もっと遠くか、もしくは何も見ていないかのようだった。
「お母さんは、当然反対したよ。どうしてそんな遠い高校に通うのって。生活費はどうするの? アルバイトでもするの? 塾は? 学業と両立できるの? 部活の為にだなんて安易すぎる、そもそも、高校生が親元を離れて一人暮らしなんて、お母さんが学生の頃でもなかったのにって。けど、怒って当たり前だよね。私も、ただあの人から離れたい一心で突っ走って決めたことだったから、アルバイトのこととか、一人暮らしとか、二の次だったから。でも、どうしても離れたかった。離れるなら、今しかないって思ってた……もしこれでダメなら、本当に死のうって」
僕は無意識に、義父が何を言ったのか訊いていたのかもしれない。彼女は答えるように、薄い笑みを浮かべた。
「『どうしてそんなにお母さんを困らせるのか』『君1人でやっていけるわけがないだろう』『何かあってもすぐに助けには行けないんだぞ』『学費を払うのは義父さんと母さんなんだぞ』って、お母さんの前で。助けるも何も、私はあなたから逃げたいだけって、言い返したかった。でも、怖くて何も言えなかった」
彼女はへたり込むようにその場に座り、僕と視線を合わせる。やはり、瞳には何も映していない。
「そんな時にね、叔母さんが『良かったら家に来れば? 1人で寂しいもん』って言ってくれたの。うちからなら歩いて電車に乗れば通える距離でしょ、もちろん、学費はあんたたち(お母さんとお義父さん)持ちでねって。あっさりしすぎて、相談したはずのお母さんも空いた口が塞がってなかったよ」
僕は、ようやく喉から言葉を発した。
──……君は、お義父さんから逃げれたんだね。
その言葉に、彼女はこくりと頷いた。
叔母さんの家で居候を初めて、知らない土地で知らない人たちと触れ合う。そして、顔見知りのいないこの学校の日々は、寂しくも、あの人から抱かれる心配がないという安心感を与えてくれた。それだけで、数年間も嬲られ続けた彼女の心は癒されたのだそうだ。そして何より、叔母さんは優しかった。母親とはまた違った、親でないからこその優しさを彼女に与えてくれた。それが、彼女にとってどれ程の救いになっていただろう。
「そして、私は君に出会えた。困り果てて絶望してた君を放っておけなくて、怖かったけど、頑張って声をかけたんだよ?」
知らなかった。あの時の彼女が、トラウマを押さえ込んでまで僕に話しかけてくれたなんて。透き通った肌が、恐怖で震えていたなんて。
「私、あなたと2人でおしゃべりする時間が、凄く好きだった。人の家の話とか、趣味の話とか、中学の時は、そんな話、全く出来なかったから。男の子で心を許せたのは、中学の彼以外で君だけだった」
スケッチブックを両腕で抱え、胸に押し当てる。張り裂けそうなものを必死に抑えるかのように、ぎゅうっと抱きしめる。
「教室で君に声をかけた時も、ぎゅっと拳を握って勇気を振り絞った。勇気を出しておはようって言って、その先の言葉を繋げてた。帰り道だってそう、君ともっとお話がしたくて、声をかけた。そしたら、君が私と友達になって欲しいって言ってくれて…………凄く、嬉しかった」
瞳から溢れるものが止まらない僕は、そのまま彼女の視線を捉える。彼女は笑っているのに、心の底では泣いていた。
「1年間、私は、幸せだった。君と出会ってから、また空が色ついて見えてた。君みたいな友達に出会えて、本当に…………」
しかし沈黙が生まれると、彼女は1度口を閉じてもう一度開いた。
「…………告白から逃げたのは、君と彼を重ね合わせてしまったから。あなたの顔が彼に見えて、彼と別れた時のことまで思い出しちゃって……心の整理が、つかなくなっちゃってた」
だから、彼女は逃げた。フラッシュバックによる恐怖と悲鳴に、彼女は押し潰れそうな体を振り払って逃げ出した。
「君に話しかけるのが、怖くなってた。本当は仲直りしたい、すぐに謝りたいって思ってたのに、いざ話そうとすると、足が竦んで、胸が苦しくなった」
彼女は、わざと僕を避けていたわけではない。ずっと、僕に声をかけようとしていた。それなのに、僕は彼女から嫌われた、なんて一方的な被害妄想を抱いてしまったのだ。彼女がどれほど苦しんでいたのかも知らずに、僕は自分の罪のことばかり考えていた。彼女が嘆いているのも知らず、駅のホームで目を逸らす彼女を見ていた。僕は、彼女の気持ちなど考えていなかったのだ。
「でも、もう彼の時みたいになるのは嫌だった。だから、ずっと声をかけようって、あなたの告白に返事をしようって…………」
気がつくと、彼女の手は震えていた。いや、手だけではない、全身がガタガタと打ち震えていた。
僕は、ふと以前に友達が言っていたことを思い出した。ショッピングモール内で、彼女と叔母さん、そして見知らぬ男性が歩いていたという話だ。
見知らぬ男性、その人物のことを思い出した瞬間、僕の脳裏に最悪な予想が浮かんでしまった。思わず『まさか』と枯れた声を漏らした。
「…………今、お義父さんとお母さんが、叔母さんの家に泊まってるの。長期休暇をもらって、久々に私に逢いに来たんだって。叔母さんも、私を驚かせたくて内緒にしてた…………」
体だけでなく、声までもが泣きそうに震えている。
「…………それで……昨日は……叔母さんとお母さんが夜まで買い物に出かけて…………私は…………お義父さんに…………」
もう言い、言わなくていい、それ以上は君が壊れてしまう。僕はその言葉を、口から発することが出来なかった。ただ、嗄れた声で、唇をパクつかせるのが限界だった。
僕が言おうとしていることを察しているのか、しかし、彼女は止まらなかった。
唇を動かし、義父に言われた言葉をそのままゆっくりと話していく。話しているのは彼女であり、尚且つ僕は彼女の義父の姿など見たことがない。そのはずなのに、僕の目には、彼女の姿が妄想の中で作り上げた彼女の義父の姿に映り、そして、声色も、彼女とは違う声帯へと変わっていた。
──君のせいで、またお母さんと喧嘩をするようになった。
──君が悪いんだ。君が家族を壊しているんだ。
──君が出ていったせいで、お母さんは傷ついている。
──君のような我儘で自分勝手な子どもは、躾ないといけないね。
──逃げたら、分かってるね?
──じゃあ制服、着ようか。
──これも、お母さんとまた仲良くするためだ。
しばらく、彼女は黙っていた。
沈黙の中、僕は彼女の身に起きた悲劇と陵辱を、彼女の口から語られた数々の惨劇によって想像することが出来てしまった。ようやく取り戻そうとしていた平和な日々を、ある日突然、奪われたのだ。それも、自分を狂わせた張本人によってまたもだ。
「危ない日だって、言っても、聞いてくれなくて…………それで、全部、思い出しちゃった。小学生の頃に、お義父さんが私の体を触ってたことも、お義父さんのあれを手の平で受け止めたことも、無理やり初めてを奪われたことも…………今さっき話したこと、全部…………消したくても、全く消えなかった」
込み上げてくる思いは、悲しみか、不快さか、怒りか。けれど、僕の想像以上に彼女は苦しんでいる。苦しむという表現ですら生温いのかもしれない。薄い笑顔さえ消え去り、恐怖に怯えた表情で震えていた。
スケッチブックがバタンと床に落ちる。落ちてもなお、両手は組まれたまま、自分で自分の体を抱きしめるように肩を掴んでいた。
「私、また、色が分からくなっちゃった。今度はもう、白黒なんてもんじゃない。色があるのか、それがなんなのかすら、もう分からなくなっちゃった。今だって、本当は景色なんて分からない。ぐにゃぐにゃで、ぐちゃぐちゃで、歪んでて、君のことも、輪郭と声でなんとか認識できて……だから、今、君がどんな表情をしてるのか、分からない。目の前にいるのに、分からないよ」
彼女は両手に力を込める。崩れ去りそうな試を支えるために、指先が白いブラウスに皺を作って食い込む。寒気に襲われたかのように身を震わせる。
そんな彼女に、僕は嗚咽を堪えながら涙を流すしかなかった。彼女の身に起きた悲劇に対して、彼女を今も尚傷つける義父に対して、そして、彼女の苦しみに気づかず、自分の懺悔ばかりを考えていた自分への怒りが、苦しい悲しみとなって吐き出される。
「……私が、悪かったのかな…………私が、逃げなかったのが悪いのかな…………私が、助けを求めなかったから…………」
泣いてる場合じゃない、僕は。言わなければならない言葉があるはずだ。ずっと苦しんでいた彼女が、ずっと求めていたはずの言葉が。
「…………ごめんね」
彼女はやっとの思いで貼り付けた作り笑いを僕に向けながら「こんなこと、話しちゃって…………でも、最後は……君にだけは、知って欲しかったの………………私、君のことが……」
彼女は一旦口を閉ざす。短くて、しかし僕達にとって長い沈黙のあと、唇を開いた。全てに絶望した、諦めに近い笑顔を向ける。
「…………ありがとう」
そう言うと、彼女はふらりと立ち上がる。今にもその場に倒れそうなくらいにふらふらとしている。ふらつく身体を引きずりながら、彼女は僕に背を向けて、屋上柵へと歩み寄る。
僕は手を伸ばして、彼女の名前を叫んだ。叫び声が虚空に響き、鼓膜を揺らす。彼女は一旦止まるが、すぐに動き始め、柵に身を乗り出して、屋上の縁に立った。彼女の全てが揺らいでいた。
「……もう、無理だよ…………もう、ダメだよ………………もう……お終いだよ」
囁くような彼女の言葉は、風に流れて僕にも聞こえた。
次の瞬間、彼女の体が、ほんの数センチだけふわっと浮いた。スカートと髪が風に靡き、ふわりと揺れて、吸い込まれるように縁の向こうへと消える。そんな幻覚を視た。
「…………なんで」
気がつい時には、僕は床にへたり込みながら、彼女を抱きしめていた。膝をついて、両腕を彼女の背中へ伸ばしている。また彼女が落ちないように、拘束するように強く。
僕は飛び降りようとした彼女の体を、寸前で捕まえた。捕まえて、両腕で持ち上げるようにして抱きかかえて、柵の内側へと引きずり込んだのだ。
「……なんで、死なせてくれないの?」
彼女は哀しみを孕んだ声で訊ねる。僕に抱きしめられているということへの恐怖はない。ただ、どうして邪魔をするのかと、不思議でならないといった様子だった。
僕は、答えられない。ただ咽び泣いて、彼女を離さないように、腕を必死に組んだ。
「君も、私を苦しめるの? 私に、苦しんでほしいの?」
信じていたのに。君だから、最後に逢いたかったのに。全部話したのに。そんなセリフが続けられた。僕は何も返せない、違うなんて否定もできない、自分の行為への弁解など、考えることなんてできない。
「…………君も、お義父さんと同じなの?」
違う。そう言いたかった。けど、否定よりも、僕は言わなければならない。
偽善者と呼ばれてもいい、お前に何がわかると罵られてもいい、嫌いだと拒絶されてもいい。
──……君は、わるくないよ。
涙声を必死に抑えて、唇を解いた。
──……君は、わるくなんかない。
ただ、同じセリフを、彼女の耳元で繰り返す。
「……なんで」
どうして分かったようなことを言うの、君に何がわかるの。
彼女の口から溢れ出したのは、当たり前なものだった。
けど、僕は続ける。
彼女の痛みを続けることしか、僕にやれることはない。
──……君は、何もわるくない。
どれだけ彼女に罵られても、僕は止めなかった。
彼女の辛さも苦しさは計り知れない。
体験していない僕には、彼女を慰める言葉など、送ることはできない。
だから、せめて、彼女が求めていた言葉を。それしか今の僕にはできない。
やがて、彼女の全身から力が抜ける。呼吸が早まり、何かを吐き出そうとしていた。
「…………私は…………」
震えた声で、彼女も唇を解いて、ポツリポツリと。
「…………私は…………お母さんに幸せになって欲しかった…………ずっと、お父さんの分まで頑張って働いて、私のせいで苦労してたから…………だから、お母さんが嬉しそうだったから、お母さんのためにって、お義父さんのことも、ずっと受け入れようって……お義父さんにどれだけ辱められても、お母さんが幸せになるなら、私一人が犠牲になるなら、それでいいって、ずっと自分に言い聞かせてた」
溜めていたものが溢れる。
「痛かった。ずっと痛かった。頬を叩かれて、お義父さんの物をねじ込まれて、苦いものを飲まされ続けて、おしりの穴も、口も、あそこも…………中に…………受け止めたくないものを出されて、凄く気持ち悪かった。首を絞められて、苦しかった。彼のことを嫌いだなんて嘘をついて、心が張り裂けそうになった。友達に嘘つきって言われて、死にたかった。お母さんにぶたれた時、泣きたかった。どうして誰も信じてくれないのって、叫びたかった。お願い、助けてって、大声で言いたかった。あの時からずっと、逃げたかった」
1度溢れたものは止まらない。今まで押さえ付けていた感情が、怒りが、悲しみが、どっと言葉となって雪崩る。
「けど、本当のことなんて、恥ずかしくて言えなかった。苦しくて、言えなかった。言ったら、みんなが壊れちゃう。お母さんの笑顔も、全部、無くなっちゃうから。私のせいで、またお母さんが泣いちゃうから。だから、ずっと我慢してたのに…………」
いつの間にか、子どもが泣きじゃくるような声を出していた。
「もう…………無理だよ………………私、もう、耐えられないよ…………また私のせいで、お義父さんとお母さんが喧嘩して、お母さんが不幸になるなんて……私、悪い子だから…………けど、私だって…………私だって…………辛いよ…………苦しいよ………………もう、嫌だよ…………こんなにくるしいの、もう嫌だよぉ…………」
萎れるように、彼女の声が小さくなる。ひっく、ひっくと、呼吸が乱れる。
──君のせいじゃない。2人の喧嘩は、君のせいなんかじゃない。
──君は、悪い子じゃない。
──君は、全く悪くない。
──君は、間違ってなんかない。
僕は、続ける。言葉を、続ける。
「…………私、悪い子じゃない?」
──君は、悪い子なんかじゃないよ。
「…………私のせいで、お母さんがお義父さんと喧嘩してるのに、傷ついたのに」
──それは、君のせいじゃないよ。
「………………私なんか、もう、いない方が…………」
──君は、生きていい。叫んでいい、苦しいって、泣いていい。
「……泣いて…………いいの?」
──良いよ。
「…………叫んで……いいの?」
──良いよ。
──僕が、受け止めるから。君の全部、受け止めるから…………だから…………もう、いいよ。
瞬間、強い風が僕たちの隙間を通り過ぎる。2人の頬と髪を撫でて、校舎の向こうへと吹き消える。
「…………あ」
彼女が何かを見つけたように声をあげた。
「…………色…………空の色……青い……雲の形も……分かる………………けど、何でかな…………凄く、ぼやけてて、かすんでて…………よく、見えないよ……目の中…………あつい…………」
彼女の声は、少しずつ枯れていく。枯れていき、最後に慟哭した。
まるで赤子が生まれた時に、自分が生きているということを伝えるために、自分という存在を伝えるために泣き叫ぶように、彼女の慟哭が屋上に響いた。
僕は二度と離すまいと、ギュッと彼女を抱きしめる。
彼女もまた、応えるように僕の背中に腕を回し、しがみつくように抱き返す。
そして、僕は抑えていたものを外し、その瞬間、喉からどっと叫びを外へ吐き出した。
僕達は、感情が落ち着くその時まで、2人で空に向かって悲しみを飛ばした。もう二度と帰って来させないようにうんと遠くへ。