かつてと人と魔は分かたれていた。人には人の、魔には魔の領分があり、お互いを認識する事すら無かったのだ。けれど、ある時2つの境界線が混じり合う。となれば互いが互いを認知するまでは早かった。
そして始まったのが人魔戦争である。
人族、魔族が領地を奪い合う熾烈な戦争。それぞれから出た被害から今更戻る道はなく。今も尚この戦争は続いている。
そんな折、魔族の中から怪物が産まれた。名をリディエレア・スラール。やがて魔王と呼ばれる彼女は凄まじい速度で頭角を現していき、今では魔族の王として君臨している。
これは魔王である彼女が、人類を滅ぼすまでの話…ではない。
「リビド〜、側室作らんのかー?」
「魔王様一筋ですのでお断りします」
「ちっ、毎回ときめく文句を返しおって…」
魔王リディエレナが夫であるリビドに色々と最低な事をする話である。
「ちゅる…れろ…ふふっ、硬くなりおって…♡」
「はぁ…はぁ…!」
「まだ駄目じゃぞ♡リビドの種はしっかりと我が
青い肌に白く長い髪。膝を付いた状態でもシーツの上に乗る長さ。頭からは二本の角が伸びており、人ではない象徴だ。魔王の寝室は今では夫婦の寝室へと変わっている。人払いを済ませてから夫を呼び、1日の終わりに愛を確かめ合うように求め合う。リビドを番と認めてからのルーティンだ。
「ほれほれ、舌先で舐めてやろうではないか…♡」
「くっ…!」
「出してはいかんぞ〜…じゅるる…♡」
頭よりも大きな果実。2つの果実に男の象徴を挟まれながら、顔を出した亀頭を舐められる。葉を食いしばっても耐えきれない快感に全身が震え出した。
「…ふふっ、そろそろ意地悪も辞めておくか。ほれ、近う寄れ」
「リディ…!!」
「んうっ♡今日も雄々しいではないか♡」
限界が近い。そう察したリディエレアは豊満な乳をリビドのモノから離し、背中からベッドに倒れ込む。何も羽織らぬ裸体は惜しげもなく全てを晒し、理性がギリギリのリビドを誘惑した。
ズブリと肉棒がリディエレアを貫き、全身に快感を迸らせる。からかってはいたが待ち切れなかったのはリビドと同じ。愛する夫に貫かれ、抱かれ、リディエレアは女の声を上げた。
(まさかこやつを夫として迎えるとはな…♡)
荒々しいピストンを受けながら、リディエレアは昔を思い出す。人族と魔族の間に産まれた忌み子。気まぐれで助けたハーフの子供が此処まで登り詰めるとは思わなかった。今では魔王の下、つまりは実質的なNo.2。しかもその原動力が魔王を想うからともなれば愛着の1つも湧く。
(全く…愛いやつめ♡)
「リディ!リディ!」
「んっ…♡逃げはせん…しっかりと腰を振らんか…♡」
かつて拾い上げた子供に組み敷かれ、愛を叫ばれる。体験してみると中々に心地が良いものだ。成り上がった夫の一物は立派な女殺し。心も体も満たされリディエレアはご満悦であった。
「…後ろから襲いたいとは、獣のようだな…♡」
「ふんっ!!」
「おうっ!?♡くっ…な、中々やるではないか…♡流石は我が夫だ…♡」
胸に付いた特大のメロンに比類する程、魔王の尻も大きく肉感的だ。それでいて腰はくびれているのだから堪らない。長年想い続けた女性へとリビドは腰を振り続ける。互いの境界線が分からなくなるまで交じり合うと、何方からともなくシーツの上に倒れ伏した。
「ふぅ…戦が終わる前に子を作るつもりか?こんなに出しおって…」
「処置はしてあるだろ?」
「それでもだ。膜を突き破って、孕まされそうな勢いだったからな」
中に魔力出来た薄い壁を張る。高度な技術を閨の時にも発揮し、道具要らずで事に及んだ。割れ目を開くとドロリと出て来る白濁液。それを魔力で囲み、外へと出して宙に浮かべる。器用だなと思いながら、リビドはそれだけ魔王が魅力的だからだと返した。
「うむうむ。有り触れたおべっかもリビドから聞くと良いものだ。もっと言ってくれてよいぞ?」
「愛してる。リディエレア。ずっと傍に居させてくれ」
「くあっ!?それはかなり威力があるのう…!」
まるで新婚夫婦の様に相手に愛を囁きながら時間を過ごした。傲慢不遜な魔王リディエレアも、この時間だけは唯の妻である。
「それでリビドよ」
「嫌です」
「…まだ言ってないではないか…」
「どうせ側室を作る気はないか、そう聞くだけでしょう」
ピロートークが終わり、リディエレアが真剣な顔つきでリビドを見つめる。そして口を開いたのだが直ぐにリビドに断りを入れられてしまう。何回もされた質問には既に直感が働くのか、リビドの反応は早かった。そのせいか何時もの部下モードに戻ってるし。
「嫌じゃ嫌じゃ〜!偶には美女が犯されている姿を見たいんじゃ〜!!」
「今の時代幾らでも見れるじゃないですか」
「リビドが犯しているのが見たい!愛する男が美女を好き勝手する所を見たいんじゃ!」
「変わってますね、魔王様の性癖は」
リディエレア・スラール。リビドに溢れんばかりの愛を向けではいるが。それはそれとして美女や美少女も大好物である。自らが愛でる趣味は無いが、麗しい女が乱れる姿には大変興味がある。
其処である日思い付いたのだ。心の底から愛するリビドが美女を手篭めにしている所は滅茶苦茶興奮するのでは?
「嫌です」
「何故だ!?」
尚、話を聞いた直後に断られたのだが。それでもめげずに魔王はリビドの心変わりを待っている。今日の問い掛けもその一環だ。
「ほら、リビドの部下、フィーリア。あやつもリビドに抱かれれば喜ぶと思うのだが」
「…フィーリアの想いは知っています。けれど私が愛するのは魔王様だけですので」
(くぅ~…!!こやつ…可愛い事を言いおって!!でも、それはそれとして何故手を出さない!自分を好いた女じゃろ!?)
フィーリア・ブレット。リビドの初めての部下にして、今は魔王のお世話をするメイド長。手入れの行き届いた薄紫色の髪。鋭利さを感じる鋭い目付きは魔王もお気に入りだ。どうせ近くに置くなら美女が良い。そんな理由から世話係として任命した。
(悪いのフィーリア…こやつ頑固じゃ)
傍に置いているからかフィーリアのリビドに向ける想いはバレバレである。フィーリアの乱れる所見たいのう…そんな本音は隠しつつ表向きは応援してやると手は回しているのだが、当の本人が頑なだ。これでは何時まで経っても無理そう。
「──という訳でフィーリアはどう思う?」
「…せめて説明の時だけは、惚気るのを辞めてくれません?」
「あ、すまん」
「ふぅ……あの方は一途ですから、仕方ありませんよ」
白黒のメイド服。長いスカートは足元も隠す。隠れているから偶に見える部分が良いとは魔王の談。表情筋は動かないが呆れているのは伝わって来る。昨日どんなプレイをしたかも話したが邪魔だったようだ。
「うーむ、改めて聞くが、リビドは昔からああなのか?」
「はい。初めての相手が魔王様ですので、その辺りからも察せられるとは思いますが」
「いやー、あれにはビビったのう」
聞いても聞いても出て来るのはリビドの一途エピソード。徐々にテンションが落ちていくフィーリア。逆に機嫌が良くなっていく魔王。対照的な構図だ。
「そう言えば魔王様」
「何だ?」
「勇者達が先の戦で勝利を収めたとか」
「なんと、其処までであったか」
勇者パーティー。人類の希望と呼ばれる精鋭が集った集団。5人程の集まりゆえ対して警戒はしていなかったのだが、先日交戦した将は魔王も記憶している確かな猛者。その猛者を打ち破ったとあれば評価を改めねばならない。
「仕方あるまい。さっさと潰しておくか」
「という事はまさか…」
「うむ。リビドを出す。暫く閨が無くなるのは業腹ではあるがな」
魔王勢力にて一番に強いのは勿論リディエレアだ。では2番目は?そう問われたのならば迷わず誰もがリビドの名を口にするだろう。それ程までにリビドの戦闘力は凄まじい。
(となれば勇者達も終わりですね)
その力を直ぐ傍で見続けていたフィーリアは内心で呟く。其処にはリビドへの絶対的な信頼が見受けられた。魔王を除けば彼が負ける所等想像は出来ない。
「早く帰って来るのじゃぞー、リビドー」
「お気を付けて、リビド様」
「行ってくる」
『うおおおお!!!』
魔王直々の命が下されてから、リビドは城を後にした。出迎えには魔王とフィーリア含め沢山の魔族達が顔を出した。No.2の出陣。誰もが喜色に満ちた表情を浮かべていた。
「ハハハ!随分とボロボロではないかリビド!」
「申し訳ありません。この様な姿を見せ…」
「よいよい、命令自体は完遂したのだ。文句は言わん」
数日後深い傷を負ったリビドが帰還する。勇者達を葬る事は出来た。しかし予想外だったのはその実力。伊達に人類の希望と持て囃された訳ではなく、手傷を負わずにとは行かなかった。療養中の姿のまま、リビドは魔王の訪問に対応した。
「っ…!」
「ほれほれ寝ておれ。我とリビドの仲じゃ、許す」
「…有難きお言葉」
(それにしても、これだけボロボロなのは久し振りだな)
起き上がったリビドに触れる。それだけでも痛みが走りリビドの顔が歪んだ。魔王に言われた言葉のまま、素直に横になりリビドは魔王を見上げる。その姿を見てNo.2になる前のリビドを魔王は思い出していた。
(…あれ?今ならイケるのでは…?)
その瞬間、突如閃いた思考。今のままではリビドは他の女に死んでも手を出さない。ならばと考え続けていた魔王に降りた唐突な閃き。
「…リビド。やはりお前には罰を与える」
「ハッ…如何様にも」
「先ずは目を閉じるのだ。そして全てを我に預けよ」
「承知しました」
思い付いた考えのまま目を閉じたリビドに手を伸ばす。今ならばリビドは弱体化し色々と細工がしやすい筈。今の内に仕込みをしておく。
「ぐっ…!?」
(暫しの間、さらばだリビド…)
魔王の手から出た魔力は、リビドを覆っていった。苦しむリビドを見ながら魔王は事を進めていく。
「………此処は…?」
目が覚めるとリビド、いやその名前すらも忘れた男は辺りを見回した。遠目からでも見える巨大な大聖堂。視線の先にある街は見覚えがない。
『見よ、フィーリア!多分成功したぞ!』
『本当にやるんですね、魔王様』
記憶がまるでないリビドは困惑した様子。その様子を水晶玉越しに見ながら、主ははしゃぎ、従者は呆れている。
『でも良いんですか?記憶が無いのならば、もしかしたらも…』
『ふふん、大丈夫じゃ!記憶を戻せばリビドが我を一番に戻すのは知っておる!』
(自信なのか慢心なのか…)
記憶が無くなれば想いも消える。そうなれば新たな恋に惑わされる事もあるだろう。その時に魔王がどのような行動に出るのかが分からない。想像したらかなり不安になったが、本人は楽観的な思考のままだった。
「記憶消したら、リビドも他の女に手を出すのではないか?」
「は?」
リビドのお見舞いに行った後、訳の分からない事を言い出した主にフィーリアは常ならば出さない声を上げる。無礼な返答ではあったが、魔王は気にせず説明を続ける。
「とは言えリビドは女好きではないのだ。なので負荷を掛けようと思う」
「…具体的にはどんな事を?」
「呪いをかけて他者から嫌われるようにする」
「うわ…」
ドン引きであった。傍で見ていたからリディエレアがリビドを愛しているのは知っている。その上で一時的にだが愛した男を苦境に立たせるのは本当に引く。悪趣味というレベルではない。
「で、周りから嫌われ鬱憤を溜めた所に接触する!そして力を少し戻したら憂さ晴らしで女も犯す!完璧だな!」
「はぁ…成る程」
「協力するならば、リビドの一番目にお前を抱かせるぞ?」
「──!!?」
途中までドン引き7割の面持ちで聞いていたフィーリアであったが、最後の提案を聞くと目の色を変える。結構単純な女である。
「記憶失くしたら童貞みたいなものじゃ。筆下ろしとでも言ってフィーリアを充てがえば、抱くじゃろ」
「!??………………いや、でも……うぅ…」
(滅茶苦茶葛藤しとるのう)
こうしたあれこれがあり、記憶を封印されたリビドは人間の街近くに放り出されたのだった。魔王は愛した男にも残酷だ。
『お、冒険者になるのか』
『身分証も何もありませんからね』
観察していたリビドは記憶を失いながらも近くにある街、『ルミナリア』に足を運ぶ。嫌われる呪いはまだ発動していない。最低でも生活基盤が整うまで普通にしておかなければ、街に住む事すら難しいからだ。
『かなり弱くなったな、リビド』
『流石に大半の力を封じられると、其処らの魔物にも苦戦しますね』
冒険者の仕事は魔物の討伐、少し昇格したらダンジョンの探索である。最下級の冒険者が相手取る魔物に苦戦しながら、リビドは金銭の為に討伐を繰り返した。
『何とか宿は見つかりましたか』
『そろそろ呪い発動していいか?』
『もう少し生活が安定してからの方が良いですよ。普通に追い出されます』
『うーむ、まだか…』
早く欲望を満たしたい魔王をフィーリアが抑える。リビドを派遣してから今日まで、夫婦の時間が無かった為かかなり溜まっている様子。何時まで欲求が我慢出来るかフィーリアは不安を覚えた。
『…こんなに嫌われるんですか?』
『少しミスったかもしれん。まあその分鬱憤も早く溜まるであろう』
ある程度日にちが経ってから呪いは発動された。顔を合わせる度に負の感情を抱かれる呪いは効果覿面であり、今では街の大半から嫌われているのがリビドだ。
「あんた目障りなのよ。早く消えて」
『特にこの娘の効きっぷりは凄いな。リビドもかなり腹に据えかねているぞ』
『ふぅ…見ていて気持ち良いものではありませんね』
リーナ・エルン。赤色の短い髪。もみあげは長く首辺りまで伸びている。弓と剣を両方卒なくこなし、ソロながらもやっていける程には上澄みだ。実力も冒険者としても格上。今のリビドでは何もやり返せない。
呪いに影響を受けているからか手や足が非常に出やすい。毎日生傷が増える原因は彼女が一役買っているのだ。それ故に、水晶玉越しのリビドの目は鋭かった。
「何をしてるんですか!?辞めてくださいリーナさん!」
「…ちっ!見付かったか。じゃあな、もう顔を出さないでよ」
『逆にこの娘は全く効いてないな』
『ほっ…』
リーナが路地裏にリビドを連れ込み、先輩からの扱き以上の事を受けていると誰かが割って入る。彼女の名はクレール・ウリタ。ブロンドに茶色が混じる長い髪。全身を隠す様なシスター服を着てはいるが、中身の豊満さは隠し切れていない。間に入ると碧の瞳がリーナの後ろ姿を睨んいでいた。
「大丈夫ですか?
「あ、ありがとう…助かったよ…」
『ふーむ、呪いが効かないとは珍しい体質じゃな』
『他の聖女候補には効いていましたし、彼女が特別なのでしょう』
聖女候補。かつては勇者パーティーにも居た聖女。彼女はこの『ルミナリア』から排出された。全国から才ある少女を集め教えを授ける。それ故に高水準な集団が修道院には控えている。かつて記憶を失くしたばかりのリビドが見た大聖堂は、聖女候補達の住処である。
「今、怪我を治療します。動かないで下さい」
「…すまない」
ミナス。リビドという名が消え、不便だからと名乗ったリビドの今の名前。ルミナリアの地名から適当に付けた名前だが、今ではかなり馴染んでいる。
両手から溢れる光がミナスを包み、負ったダメージを回復していく。
「これで大丈夫です。…ミナスさん、まだ他の方からは?」
「ああ、何でか嫌われやすいみたいだ」
治療を終えるとクレールは表情を曇らせる。自分以外の人間から何故か忌み嫌われるミナス。接してみれば普通の人だと分かるのに、周囲の人間は病的なまでに彼を嫌う。その中でも最たる例が先程のリーナ・エルンだ。
(憲兵の方々も、悪感情からかミナスさんへの嫌がらせは無視しますし…どうすれば)
クレール・ウリタは心優しい女性である。知人の範疇にいるミナスへと心からの心配をしている。その姿勢が分かるからこそ今のリビドはクレールに信頼を寄せているのだ。
「せめてご自宅までは付き添います。また揉め事に巻き込まれてはいけませんし」
「良いのか?」
「ええ、困っている方を助けるのが聖女ですもの」
後書きは次の話で。