女装して入学することになった暗殺者によるIS学園生活 作:灰崎 快人
先の事件の後始末が終わり関わっている俺達は一旦医療室へと移動した。織斑とデュノアの2人は軽傷で済んでいたので安心した、ボーデヴィッヒは全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲が確認され、しばらくは動けないだろうと言われた。俺の方は特に問題無いと言って断ろうとしたが、ISスーツが裂けている程の攻撃を浴びせられていたこともあり、強制的に検査を受けることになった。
そこまで気にする程の事ではないのに千冬は心配性なのでしっかりと治療を受けさせられた。勿論織斑とデュノアが医療室から出たのを確認してからな。
「結果はどうだった?」
「軽い切り傷に打撲だ。問題無い」
「――そうか。それはよかった」
「ボーデヴィッヒのこと、すまなかった。俺がペアだったのに」
「いや、いい。大方こうなることは予想していた。あれについては想定外だったがな」
「あのシステムは……多分〘VTシステム〙だよな?」
〘VTシステム〙。正式名称〘ヴァルキリー・トレース・システム〙。過去のモンド・グロッソ優勝者の戦闘方法をデータ化し、そのまま再現・実行するシステム。
パイロットには能力以上のスペックを要求するため、肉体に莫大な負荷がかかり、場合によっては生命が危ぶまれる代物だ。現在はIS条約によってどの国家・組織・企業においても研究・開発・使用全てが禁止されている。
「それがボーデヴィッヒのISに積まれていた。巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そしてなにより操縦者の意志……正確には願望か・それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会から強制捜査が入るだろう」
「入ったところで存じ上げないの一点張りだろうがな」
千冬の言葉を聞きながら未だに眠っている状態のボーデヴィッヒを優しく撫でる。もう少し考えて動いていればあのシステムを発動させなくて済んだかもしれない、彼女がここまで酷い状態にならなかったかも知れない。
「黒咲、自分を追い込むなよ」
そんなことわかっている。だが……彼女を見てしまうとどうしてもそう思ってしまう。
「う、ぁ……」
ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ボーデヴィッヒは目を覚ました。
「気がついたか」
その声には聞き覚えがあるだろう。聞き覚えがあるどころではない。どこで聞こうと一瞬で判断できるだろう。自らが敬愛してやまない教官の声。織斑千冬の声だ。
「わたし……は……」
「動かない方が良い。全身に無理な負荷がかかったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動くことも出来ない、無理をするな」
黒咲がそれとなくはぐらかしたつもりだが、そこは流石に千冬の教え子。簡単に誘導されてはくれなかった。
「黒咲……何が、何が起きたんだ……?」
無理をして上半身を起こすボーデヴィッヒは、全身に走る痛みにその顔を歪める。黒咲が背中を支えながらなんとか上半身を安定させる。その間ボーデヴィッヒはずっと黒咲の瞳を見つめていた。治療のために眼帯が外されている左目は、右目の赤いとは全く違う金色をしている。そのオッドアイが、ただまっすぐに問いかけていた。
「私からは話せない。織斑先生お願いします」
「……一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」
そう簡単に引き下がる相手でないことはわかっている。千冬はここだけの話であることを沈黙で伝えると、先ほどの説明をゆっくりと話した。
「――私が、そう望んだから……ですね」
貴女に、織斑千冬になることを。
その言葉は口にはしなかったが、黒咲と千冬には伝わっていた。
「黒咲は……無事だったのか?。あの2人も」
「ちょっと怪我はしちゃったけど大丈夫。命に別状は無いし普段通り動けるよ」
何も心配しなくて大丈夫と優しくボーデヴィッヒに言葉をかける。
「そうか……」
それでも怪我を負わせてしまった気持ちが晴れることは無かったのだろう、彼女はずっと下を向いてしまっていた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
「は、はい!」
いきなり名前を呼ばれたボーデヴィッヒは驚きも合わせて顔を上げる。
「お前は誰だ?」
「私は……わ、私は…………」
その言葉の続きが出てこない。自分がラウラ・ボーデヴィッヒであると、どうしても今の状態では言えなかったのだろう。
「自分探しには丁度良いかもね?」
「え……?」
「そうだな。誰でもないのならちょうどいい。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになるがいい。黒咲の言うように時間は山のようにある。なにせ3年間はこの学園に在籍しなければならないからな。その後も、まだ死ぬまでには時間がある。たっぷり悩めよ小娘」
「あ…………」
千冬の言葉が意外だったのだろう。まさか、自分を励ましてくれるとは思ってもみなかったボーデヴィッヒは、何を言うべきかがわからない。わからないまま、ただぽかんと口を開けたままだ。
そんな彼女に、千冬は席を立ってベッドから離れる。もう言うべきことは言ったのだろう。教師としての任務に戻るようだった。黒咲も同じように立ちあがり彼女の後ろについていた。
「ああ、それから」
扉に手をかけたところで、振り向くことなく再度言葉を投げかけてくる。
「お前は私にはなれないぞ。こう見えて意外と苦労が絶えないのさ」
きっと千冬はニヤリと笑って言ったのだろう。それがどうしてかボーデヴィッヒにはわかった。
そして2人が部屋を去ってから数分経って、急におかしくなった。
「ふふ……ははっ」
ああ、なんてズルい人なのだろう。あそこまで言っておいて結局は自分で考えろなんだから、ズルいことこの上ない。
(自分探し……か)
笑いが漏れるたびに全身が引きつるような痛みに襲われるが、それさえも何処か嬉しいと感じてしまった。
完敗。完膚なきまでの敗北。けれどそれが今はたまらなく心地よい。
ラウラ・ボーデヴィッヒは。今この瞬間から始まるのだから――
「っ……!」
「大丈夫か黒咲?」
辛そうな表情を浮かべながら胸を押さえる黒咲、歩くのも辛いのか手を壁に当てながらなんとか歩いている状態だった。
「お前ッ!本当に軽傷だったのか!?」
「ボーデヴィッヒに聞かれたら不味いと思ってな、あの場では言えなかった」
それから改めて黒咲の状態を聞く。あばら骨は数本折れていて左腕にはヒビが入っている状態、ISの〘絶対防御〙が発動していたとしても全て防ぐことが出来ずに、人体にダメージが行ってしまったということだろう。
外傷は浅かったが、ISスーツを裂く程の攻撃を受けた肌は切り裂かれ血が流れていた。
「それで良く軽傷だと言えたな!?」
「いつ彼女が目を覚ますか分からなかったんだよ!仕方ないだろ!ISの状態は治療時に確認したが、ダメージレベルは〘C〙を越えてしまっていた。当分は修復に専念しないといけなくなった、まぁ知りたかった事は知れたから良いんだけどな」
「全く……傷が癒えるまで大浴場は使用禁止だな」
その言葉を聞いた黒咲は何を言っているのか分からないといった表情を浮かべていた。
「大浴場が?何故?」
「今日は大浴場のボイラー点検があったのだ、元々生徒は使えない日だったからな。しかし点検自体は既に終わっている、そこで男子が大浴場を使用して貰おうという計らいが出たのだ。織斑が使用した後お前に使って貰おうとしたのだがな……それでは無理そうだな?」
「……よりによって今日からだったのか」
残念そうに視線を伏せてしまう黒咲。心の底では楽しみだったのが見て取れる。しかし今の黒咲を1人で大浴場に行かせるわけにも行かない。――仕方が無い私が一肌脱ぐとしよう。
「そんなに大浴場を使いたいのか?」
「まぁ楽しみではあったな、元より使用できるようになるとは全く思っていなかったがな」
「そうか。なら私がついて行って「俺一人で使いたいんだが」……なら今日は諦めろ。今回の二つの件に関してはこちらで上手くやっておく」
「……あぁ。頼んだ」
デュノアとボーデヴィッヒ、そして黒咲を一つの部屋にまとめて置いたのは結果的に正解だったかも知れない。
今回の件を同時に解決することが出来たのは彼の技量があったからこそだろう。ボーデヴィッヒの件に関しては解決と言って良いのか分からないがな。
「とりあえずしばらくは部屋で大人しくしていろ。絶対安静だ。良いな?」
約束をしっかりと取り付け彼を優しく持ち上げる。恥ずかしそうに顔を真っ赤にしているが、自分がこうでもされないとまともに動くことが出来ないと理解しているのか、この時文句を言うことは一度も無かった。
「黙っていれば可愛いなお前は」
「うっさい」
部屋の前まで他生徒に見られることなく来られたのは幸運だっただろう。扉の前でゆっくりと彼を降ろし、再度絶対安静である事を伝える。
「何かあったらすぐに電話しろ、いつでもかけつけてやる」
「あぁ……ありがとう千冬」
部屋の扉をあけゆっくりと部屋に入っていく彼の後ろ姿を見届けた後、私はその場を後にし今回の対応についてどうしたものかと頭を悩ませるのだった。
次の番外編
-
おねショタ(無効票)
-
1シャル&ラウラと千春(受け)
-
2シャル&ラウラと千春(攻め)
-
メス堕ち(無効票)(千春総受け)
-
束と千春
-
千冬と千春
-
シャル&ラウラと千春
-
一夏と千春
-
オマケ(無効票)
-
千春&箒「これは練習だから浮気じゃない」
-
千春&セシリア&鈴「IS3分クッキング」