女装して入学することになった暗殺者によるIS学園生活 作:灰崎 快人
「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機しろ。黒咲お前はこっちに来い」
旅館の一室。壁の時計は四時前を指している。
撤退時に織斑先生に連れられた黒咲は、もう三時間以上もこの部屋に戻らないままだった。
俺の傍らで控えている箒は、もうずっとこうしてうなだれてしまっている。リボンを外して垂れた髪が、まるで今の気持ちまでも表している様子だった。
「私のせいだな……」
ポツリと箒がそんな言葉を呟く。
「私が、しっかりしないから、こんなことに――!!」
ぎゅっとスカートを握りしめる。その拳が白く色を失うほどに強く、強く握りしめた。
自らを戒めるかのように、強く。ただただ強く。
「箒……」
「私は……どうして、いつも……」
いつも力を手に入れるとそれに流されてしまう。それを使いたくて仕方がない。
沸き起こる暴力への衝動を、どうしてか抑えられない瞬間がある。
「なんのために……修行をして……!」
箒にとって剣術は己を鍛える物ではなく、律するものだった。
リミッター。
自らの暴力を抑え込むための、抑止力。
けれど、それは非常に危うい境界線なのだと思い知る。薄い氷の膜のように、ほんのわずかな重みで壊れてしまう。
(私はもう……ISに……)
一つの決心をしようとしたときに、突然ドアが乱暴に開く。
バンッ!という音に一瞬驚いた俺と箒だったが、その方向に視線を向ける気力はない。
「なにしてるんですか、さっさと作戦準備しますよ」
遠慮無く入っていた女子は、うなだれたままの箒の隣までやってくる。
その声は――黒咲だった。
「黒咲……お前」
「織斑くんも、機体は既に仕上がってるよ。それに皆待ってるからね」
「皆……?」
その言葉に疑問を浮かべた箒が顔を上げる。そこにはセシリア、鈴、シャルロットそしてボーデヴィッヒというメンツが揃って立っていた。
「ど、どうして……!?」
訳が分からずその場で箒が立ちあがる、一体どうしてこんな展開になっているのか訳がわからないといった様子だった。
時刻は十一時半まで遡る。織斑と篠ノ之が作戦を決行し《福音》へ接触しようと試みている時だった。
「セシリア、凰、シャルロット、ラウラ。申し訳ないけど今からパッケージの量子変換とセットアップ、やっててもらっていいかな?」
「あれれ?黒咲は箒ちゃんといっくんを信頼していないのかな~?」
束が不思議そうにこちらを見てくる。確かに俺は2人の事をある程度信頼してはいる。しかし2人とも今回が初の実戦であり、特に篠ノ之の方に関しては紅椿に搭乗してものの数分しか経っていない。そんな状況で作戦が上手くいく保証はない。
それが例え篠ノ之束が作り出した最新鋭機である第四世代型ISだったとしても、可能性は確かに存在する。可能性という物は恐ろしい獣のような存在だ、いつか何処かのタイミングで発生してもおかしくはない。
最悪の可能性は織斑、篠ノ之の両名が逆に撃墜されること。どちらかが撃墜されたとしても作戦の要である片方が動けなくなってしまうのは困る、であれば2人が戻ってこれる間に作戦を終わらせる。
これが出来なかった場合、2人が無事に退却できるようにこちらが相手の足止めをしなければならないのは確実だ。だが足止めをする方法が何も無い。
「万が一の為の保険ですよ。あるに越したことはないですから」
「用意周到だね~流石だよ」
織斑先生に許可を貰い、代表候補生達は砂浜へと向かう。織斑と篠ノ之がいつ戻ってくるか分からない。それまでには全員の量子変換を終わらせておきたいところだ。
近くに人が居なくなったのを確認した後、俺はゆっくりと束に近づいていく。
「――例の物は?」
「出来たには出来たよ。ただし長距離狙撃ライフルは〘超感度ハイパーセンサー〙の使用が必須だけど」
「十分だ。機体のスペアパーツは?」
「もちろん用意してあるよ。普通のISと違って小型だから作成は簡単」
「わかった……あとは身体の問題か」
「状態はどうなの?」
「腕はもう大丈夫な所まで来てる。胸部はもう少しって感じだ。今は痛み止めを飲んで感じないようにしてる」
「……そっか」
「とりあえず〘バックパックシステム〙の調整から行く、千冬に気づかれないように外に行くぞ」
「了解~」
俺たちは作戦を見守っている千冬、山田先生に見られないようにそっとその場を後にした。
ここからは時間の問題だ。俺たち待機組の量子変換・セットアップが先か、織斑と篠ノ之が作戦を終わらせる・撤退してくるか。
(どっちが先だろうな……)
砂浜。セシリア達代表候補生はパッケージを量子変換している、これが完了すればセシリアは超高速飛行が可能となり紅椿の代わりとなって接触が可能になる。凰はどうやら攻撃に重きを置いたパッケージのようで、龍砲が二門から四門に増設されている。シャルロットは防御面に重きを置いたパッケージで、実体シールドを二枚搭載している。恐らくまだあるだろう、エネルギーシールドなども搭載している可能性があるな。ラウラは失われた大型レールカノンの代わりに、両肩にレールカノンを搭載、そして遠距離・狙撃対策なのか二枚の物理シールドが展開されている。
「ちーくん。お待たせ。これがリクエスト品の長距離狙撃パック「試作型ロングレンジ・スナイパー・ビーム・マグナム」だよ」
ドンッ!と現れたのは大型のスナイパーライフルだった。大火力を維持したまま長距離の相手にダメージを与える為にかなり試行錯誤した様子が覗える。エネルギー大食いなのかエネルギーパイプが露出しており、その先にはジェネレーターが接続されている。
目標を捉えるためのスコープには超感度ハイパーセンサーが搭載されており、約四十キロ先まで狙撃を可能にしている。いやこれは……無理矢理してるんだな。
「ここまでになると流石にIS以外からエネルギーを持って来ないと行けないからね~改良すればなんとかなるのかも知れないけど。冷却剤もしっかり搭載してあるよ。バイポットも装備して精密射撃ができる様になってる、あと流石にこれだけ大型になると反動は凄いから、移動しながらは撃てないからね?」
「だろうな。流石にここまで大型になるとは思わなかったけどな?あとそのネーミングセンスはない。ロングレンジ・ビーム・ライフルで良いだろう」
「反動が強いから気をつけてね」
「わかった」
ISを起動して残っている装甲を展開する。背部装甲に別途のジェネレーターを接続しライフルを《ノワール》に登録して量子変換する。ラウラのレールカノンより少し小ぶりのそのライフルがゆっくりと光の粒子となって消えていく。この大きさのライフルが消えていくのは見ていて面白いな。
「他のバックパックは?」
「近中遠距離対応、中遠距離BT兵器、この二つだよね?」
「ああ、BT兵器に関しては俺にその資格があるのかわからないけどな」
BT兵器を使用する際には優れた空間認識能力を必要とされる。セシリアがそれだ。ただしビットを動かしている間自分自身が動けなくなってしまうのが弱点となっている。恐らくシステム面を改良すれば操縦者本人も動けるようになるだろう。
「まずはこれね。名前は思い浮かばなかったから自分考えて」
いきなり投げやりになった。まぁ装備を見てから考えるとしよう。
まず目に入るのが背部に搭載された大型の刀二つ。雪片弐型に似た外見を持っているが性能は流石に劣るだろう。
それに展開装甲もない。ただの大刀だ。
その隣には二門のビーム砲が搭載されている。さらには両腕に装甲を追加するようで、そこにはフラッシュエッジというものが搭載されているようだ。これは基本的にビームサーベルとしても兼用出来るらしい。そして一番目を引くのがシールド。実体シールドでありながらビームシールドとしても運用が可能になっている様子。さらに背部に大型ウイングが追加され機動力を向上させている。翼を広げることで最大稼働状態になるのだろう。
万能型モジュールパックと言ったところだろう。全体が赤紫で統一されているのが少し気になった。
「基本的に《ノワール》に搭載されている装備も使用可能になってるからね」
「そうだな、悪魔みたいな翼だから……昔見た〘
「それはそうだよ。こんなに使いづらいパッケージどうするのさ……」
「良いんだよ、上手く扱えればな。それにあくまでも試作だ」
「じゃあこれだけは気をつけて、このパックには最大稼働状態、通称〘P.A.M.D〙が搭載されてるけど、かなりのGが身体を襲うから。リミッターが三分に設定されてるから気をつけて、千春自身で解除する事も出来るけど、初回使用で解除は絶対にしないでよ?」
「わかってるさ」
同じように量子変換して《ノワール》に追加していく。
「はい次!BT兵器だよ。千春でも使用できるように改良型を搭載してるよ。第二世代ってやつだね」
「具体的に頼む」
「まず六機のBT兵器を使用する際に千春にその適性がなければ使用することが出来ないんだけど、その時に備えてBT兵器を脱着しなくても使用できるようにラックが稼働するようになってるよ。もし適性があった場合、BTには量子インターフェイスの改良をしてるから多少の補助機能が発動するようになってるよ」
「なるほどな……肝心なのは俺に適性があるかどうか、か」
青い翼の様になっている六基のBT兵器。そして白く塗装されていて〘テール・バーニアスタビライザー〙、六基のビットを翼の様に展開する際には垂直尾翼として機能するのだろう。これを扱いきれるだろうか……?
「とりあえずしまっておこう。あとは織斑と篠ノ之が上手くいってると良いんだが……」
「あれ?装甲は?」
「システムを調整している間に頼む」
「わかったよ~」
デジタルキーボードを展開し《ロングレンジ・ビーム・ライフル》の調整を行っていく。高火力も嬉しいが、ジェネレーターにや冷却剤などが追いつけなくなってしまい、暴発という形になるのがもっとも最悪だ。そんなことがないように最適化を行っていく。
束が《ノワール》の装甲を取り付け終わった頃、ちょうど俺の方もシステムの調整が終わっていた。
砂浜から会議室へと戻り織斑と篠ノ之の様子を見る、織斑が密漁船を発見して一瞬動きが止まった。俺の教えた事を思い出してくれたら嬉しいが、そんな状況を見逃す相手ではないだろう。光の弾丸が織斑に向かって一斉に襲いかかる。
モニターには既に《白式》のエネルギーがエンプティと表示されている、それに《紅椿》の方までもエネルギーが限界状態だった。
「ええいっ!やっぱりこうなるのか!」
「ま、待って!」
一目散に会議室を出て再び砂浜へと駆け出す。後ろから束が付いてきているのが今はそんな場合じゃない。
すぐにISを展開してライフルを構える、スコープに搭載されている〘超感度ハイパーセンサー〙を起動させて《福音》に標準を定める。
『織斑くん!篠ノ之さん!撤退してください!こちらの数値では既にエネルギーエンプティです!』
織斑が篠ノ之に何か言葉を発しているのが確認できる、しかし肝心の篠ノ之は棒立ちしたまま動かない。そうしてその紅椿に福音が標準を向ける。流石に墜とさせるわけにはいかない!
「待って!狙い撃とうとしないで!?」
「狙い撃つぜぇ!!!!」
一直線に放たれた赤いレーザーは、織斑達に迫っていた光の弾丸を消し飛ばす。反動は凄まじくISを纏っているのにもかかわらず身体が悲鳴を上げる。
冷却剤で冷やされながらジェネレーターからエネルギーを再装填する、やはり最適とは行かないがこれなら許容範囲内だろう。
『急いで!時間を稼ぐにしても限度がありますからね!』
こちらに撤退する織斑と篠ノ之の2人を援護するように、福音に何度も狙撃を繰り返す。流石にこんなにも離れてしまっていては流石に避けられてしまうが……回避行動を予測して叩き込んでやるよ!
「ちーくん!」
「黒咲!やめろ!」
後ろから千冬と束の声が聞こえる。だがいま手を止めたら間違いなく2人が墜ちる。
俺は二人が安全区域内に入るまで、その手を緩めることはなかった。
「作戦は失敗だ。以降、状況に変化があれば招集する。それまで各自現状待機しろ。黒咲お前はこっちに来い」
千冬にそう言われて人気の無い所へと連れられる、後ろには束がついてきており相当切れているのが分かった。
暗がりの一部屋に連れられたと思うと、いきなり二人に押し倒されるような形になる。
「なんであんな無茶するのさ!千春の身体はまだ完全に治りきっていないんでしょ!?」
「確かに《福音》を足止めしなければ二人は墜ちていたかもしれない!だがお前がそこまで無理をする必要は無いんだ!」
「頼むから、これ以上心配させないでくれ……」
「お願いだから、少しは自分の身体のことも考えてよ……労わってあげてよ」
2人に抱きつかれる、確かにほぼ生身の状態であれを連続射撃するのは無理があった。悪いのは完全にこちらの方だった
「……ごめんなさい」
こんなにも自分のことを考えてくれるとは思わず、本心から謝罪の言葉が出てしまった。
「次やったら、ちーくんにはこれ付けてもらうから」
そう言って束が取り出したのはピンク色の球体がついた変な機械だった。球体はコードでボックスに繋がれており、遠隔操作可能なリモコンが着いていた。
それを見た黒咲は冷や汗が止まらず、千冬に助けるような視線を見せた。がこれはむしろ逆効果であり、今回の件に関しては千冬も束の意見に同意だった。
完全に逃げ場は無かった。
次の番外編
-
おねショタ(無効票)
-
1シャル&ラウラと千春(受け)
-
2シャル&ラウラと千春(攻め)
-
メス堕ち(無効票)(千春総受け)
-
束と千春
-
千冬と千春
-
シャル&ラウラと千春
-
一夏と千春
-
オマケ(無効票)
-
千春&箒「これは練習だから浮気じゃない」
-
千春&セシリア&鈴「IS3分クッキング」