女装して入学することになった暗殺者によるIS学園生活 作:灰崎 快人
「《紅椿》の稼働率は〘絢爛舞踏〙を含めて五十パーセントかぁ。まあ、こんなところなのかな?」
空中投影のディスプレイに浮かび上がった各種パラメーターを眺めながら、その女性は無邪気に微笑む。
子供のように、天使……天使か?天使ではいな、うん。
月明かりが照らすその顔は、いつもとかわらない。
いつだってどこか退屈そうな顔の、篠ノ之束その人だった。
《紅椿》のデータとは異なる別のディスプレイを呼び出す。そこでは《白式》第二形態の戦闘ログが流れていた。
それを眺めながら、束は峰の柵に腰掛けた状態でぶらぶらと足を揺らす。
目の前にはただただ海が広がり、高さは三十メートルを越えている。落ちれば無事では済まないだろうその場所でも、束の表情は変わることはない。
「それにしても《白式》には驚くなぁ~ここでは発動しなかったけど、操縦者の生体再生まで可能になるなんて、まるで――」
「――まるで《白騎士》のようだな。コアナンバー001にして初の実戦投入機、お前が心血を注いだ一番目の機体に、な」
「…………」
森から音もなく千冬が姿を現す。漆黒のスーツに身を包んだその姿は、夜の闇全てをひきつれていうかのような静かな威厳に満ちていた。
「やあ、ちーちゃん。それにちーくんも」
「おう」
「……」
ふたりはお互いの方を向かない。背中を向けたまま、束は先ほどまでと同様ぶらぶらと足を揺らし、千冬はその身を木に預ける。千春はそんなふたりの中間のような立ち位置で夜風に髪を揺らされていた。
束と千冬がどんんあ顔をしているのか、別に見なくても分かる。そんな確かな信頼が、ふたりの間にはあった。
「ところでちーちゃん、問題です。《白騎士》はどこに行ったんでしょうか?」
「……《白式》を「しろしき」と呼べば、それが答えなんだろ?」
「正解~。流石ちーちゃん。《白騎士》を乗りこなしたことだけのことはあるね」
かつて《白騎士》と呼ばれた機体は、そのコアを残して解体され、第一世代作成に大きく貢献した。そしてそのコアは、とある研究所襲撃事件を境に行方がわからなくなり、いつしか《白式》と呼ばれる機体に組み込まれていた。
「それで、例えばの鼻☆塩☆塩、〘コア・ネットワーク〙で情報をやりとりしているとするよね。ちーちゃんの1番最初の機体《白騎士》二番目の機体《暮桜》が。そうしたら、もしかしたら、同じ〘ワンオフ・アビリティー〙を開発したとしても不思議じゃないよね」
「…………」
千冬は、答えない。
しかしそんな反応はお構いなしに、束は言葉を続ける。
「それにしても不思議だよね。あの機体のコアは初期化されたはずなんだけどね、私がしたから確実に……」
「不思議なこともあるものだな」
たしかにそれについては、わからないというのが本当の事である。
それは、束にとっても同じ。
しかし千春は――。
「いやーちーくんに箒ちゃんのデータ取ってもらってて正解だったね。瞬時に最適化できるくらい多くのデータ貰っちゃったね〜」
「……あくまで織斑を強くするための一環だった、それだけだ」
「そうだね~さてと、千春。聞きたいことがたくさーんあるからね?」
「なんだよ」
「リミッター、解除したよね?試作で、初乗りなのに、独断でリミッター解除したよね?」
「…………」
先ほどの雰囲気ががらりと変わり「私怒ってます」と言わんばかりの雰囲気を漂わせている、背後に立っている千冬もそれを聞いた際には背中に鬼を宿しはじめた。
前門の悪「天使」……天使に、後門のお「私も天使だ」……て、天使に挟まれた千春は冷や汗をだらだらとかいていた。
「私言ったよね?リミッターを解除するにしても、初回使用時には絶対解除しないでねって!」
「あの、その……」
「言ったよね?」
「は、はい……」
「なんで解除しちゃったのかな?そもそもなんで起動しちゃったのかな?身体の負荷のこと全く考えてなかった訳じゃないよね?「全力全開だ!」って叫んでるんだけど?もしかして周りの皆が次々とやられていくの見て、出し惜しみ無しでいこうとしたんじゃないよね?」
「あの、その……えっと」
「へぇ……千春、お前はそんな無謀なことをしていたのか。ならば治りかけていた肋骨が再び悪化していたのも納得だな?」
「あっ、あっ――」
じりじりと距離を詰められていく黒咲は、見たこともない形相をうかべる二人を見て足がくすんでしまう。
「「少しお話ししようか?ねぇ?黒咲千春?」」
「ワァ……ァ……」
泣いちゃった。
翌朝。朝食を終えて、すぐにIS及び専用装備の撤収作業に当たる。
そうこうして十時を過ぎたところで作業は終了。全員がクラス別のバスに乗り込む。昼食は、帰り道のサービスエリアで取るらしい。
「…………」
地面に腰掛ける俺の状況は、一言で言うとボロボロだった。
昨日は二時間近く問い詰められた挙げ句、二人によって搾り取られていた。
実際の睡眠時間は三時間程度だろう。それでいてあの重労働なのだから、もう色々と大変だった。
「ごめん、誰か、飲み物持ってない……?」
あまりにもしんどすぎてそう声をかけてみる。すると飲み物を持ったシャルロットとラウラがこちらに近づいてきてくれた。
「大丈夫?」
「クマが出来てるな、昨日は眠れなかったのか?」
はい、とペットボトルの水を渡されながらラウラに質問を聞かれる。
「……まぁ千冬と束が寝かせてくれなかったな」
その言葉をどう受け取ったのか知らないが、シャルロットとラウラの顔が真っ赤になっていた。その横で千冬と見知らぬ女性が話をしていた。
その女性はおらく二十歳くらい。黒咲と同じくらいの年齢だろう。艶やかな金髪が夏の日差しで輝いて眩しい。シャルロット、セシリアとは異なる金髪だった。
格好はというと、ブルーのサマースーツを着ている。といっても千冬みたいなビジネススーツではなく、おしゃれ前回のカジュアルスーツ。開いた胸元からは大人の女性特有の整った膨らみがわずかに覗いている。
その胸の谷間に持っていたサングラスを預けると、一夏の方に近づいていった。
「……あれだれ?」
「あの人は《銀の福音》の操縦者だよ」
「……へぇ」
福音の操縦者と聞いた途端、黒咲の目には光が差していた。ゆっくりと立ちあがり、一夏との会話が終わったであろうその女性にじわじわと距離を詰めていく。
「おいおい、余計な火種を残してくれるなよ。ガキの相手は大変なんだが」
彼女は感謝として一夏の頬に口づけをしたらしい。その言葉には少しだけはにかんで見せた彼女。
「思って居たよりもずっと素敵な男性だったから、つい」
「やれやれ……それより、昨日の今日でもう動いて平気なのか?」
「ええ、それは問題なく。――私は、あの子に守られていましたから」
ここで言う「あの子」とは、つまり暴走によって今回の事件を引き起こした福音のことをさしていた。
「――やはりそうなのか?」
「ええ。あの子は私を守るために、望まぬ戦いへと身を投じた。強引な〘セカンド・シフト〙、それに〘コア・ネットワーク〙の切断。あの子は私のために、自分の世界を捨てた」
「そうですね、アメリカ・イスラエルの無様なシステム管理によって、簡単に判断能力を奪われたのだからお笑いですね」
ゆっくりと近づいてきた黒咲の言葉には棘があった。それに明らかにイラついている様子、ラウラが暴れていたときを彷彿とさせていた。
「千冬、この子は?」
「黒咲千春、《ノワール》の操縦者だ」
「あの操縦者なの……ね、凄い覇気ね。私はナターシャ・ファイルス、銀――「《銀の福音》の操縦者でしょ?」知っているのね」
さっき聞いた、と悪態をつきながら私とナターシャに近づいていく黒咲。三人の周りにはピリついた雰囲気が纏っていた。
「アメリカ・イスラエルでの共同開発をした軍用ISでありながら、無様に不正アクセスを許し〘コア・ネットワーク〙から切断、他IS全てを敵機として誤認し暴走。そして凍結処置、なんともお粗末な結末」
「……なんでそこまで知ってるの?」
本来この情報はごく僅かな人物しか知らないはずだった。それをただの専用機持ちが知っているのか、ナターシャからしてみれば不気味すぎて恐ろしかった。
「ふっ、それがわからないからお粗末なんですよ。あの機体は飛ぶことが好きだった、そんな機体の翼をぶち壊したこっちの身にもなってほしいものです」
「……」
「あんなセキュリティー、私でも簡単に侵入できる」
「なんですって!?」
勿論、一般生徒がそんな簡単に軍のセキュリティーに侵入できる訳がない。暗殺者時代の知識があり、尚且つハッキングもお手の物である黒咲だからこそ出来たものである。それ以外でハッキングが出来るとしたら、篠ノ之束ともう一つだろう。
「だからお粗末なんだよ、もう少し知恵を働かせてみたらどうだ?「軍用IS」なんだろ?」
「……」
「軍の関係者にも伝えておけ。これ以上無様な姿を晒すな、二度目はない。その時が起きた場合。確実にお前らを殺す。軍人も、研究者も、開発者も関係なく。そして所持しているISのコアも全て破壊する。覚悟しておけ」
ナターシャの胸ぐらを掴み警告をする黒咲。その顔に冗談とは書かれておらず、その代わりに「俺は本気だ」とかかれていた。
「あっ、あぁ……」
恐れをなしたナターシャは腰が抜けたようで、その場にへたり込んでしまう。
「チッ、腰抜けが……一つだけ教えてやる。ハッキングをしたのは『ファントム』この文字が付く、あとはお前達のちっぽけな脳みそで考えろ」
不機嫌なままクラス別のバスに向かっていく黒咲を見送った後、ナターシャは私に黒咲の事を問いただす。
「なんなの……あの子、十代女子が出していい殺意じゃないわよ」
「……そうだな。知らない事が良い事もあるんだ。あまり無茶をするなよ。この後も、査問委員会があるんだろ?しばらくは大人しくしておいたほうがいい」
「でも私は、止まるわけには行かないです。彼女が言ったあのキーワード、無駄にはしません」
「……無茶はするなよ」
「ええ、それでは」
ナターシャは確かな意志を持って、これからハッキングをした人物を追うのだろう。
私の心配もはねのける程の意志を感じた。
一度だけ鋭い視線を交わしあったふたりは、それ以上の言葉なくお互いの帰路につく。
――またいずれ。
そんな言葉が、ふたりの背中にはあった。
「おい、ナターシャ・ファイルス」
黒咲が彼女を呼び止める。
「気休めだろうが、これ持ってけ」
そう言って黒咲がナターシャに投げ渡したのは1枚のフロッビーディスク、ラベルには《銀の福音》と描かれていた。
「あくまでも今回の戦闘で得たデータだ、それ以外もあるけどな。上手く使えばまたあの子に会えるかもな?」
「っ!感謝します。黒咲千春!」
「………さっさと行け」
頭を下げるナターシャを見ることなく、黒咲は再びバスの方へ向かった。
「優しいことで」
「偶然の産物だ、元からあった訳じゃない」
「……軍用ISの件、どうなった?」
「IS学園の専用機持ちにより、完全停止、コアは無事だそうだ」
「そう、まあ機体は良かったしね。それに欲しいデータは手に入ったわ」
薄暗い部屋の中、一つのディスプレイには「黒咲千春」の戦闘ログが流れていた。
「楽しみね、彼女をこの手に収めるときが……エム、エス、準備は念入りにね?」
「了解」
「問題ない」
「アメリカの第二世代型IS《アラクネ》、イギリスの第三世代型IS《サイレント・ゼフィルス》か……強奪されたか。《ヘル・バウンドVer2.5》、面白いデータが多いな。盗まれたISのデータなどいくつあっても良い、盗まれた機体に機密なんかないしな」
「千春、なにをみているんだ?」
「ラウラか、気にするな。あっ、クラリッサ・ハルフォーフの連絡先教えてくれ、ちょっと1対1で話したいことがあるからな」
三章完
次の番外編
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おねショタ(無効票)
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1シャル&ラウラと千春(受け)
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2シャル&ラウラと千春(攻め)
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メス堕ち(無効票)(千春総受け)
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束と千春
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千冬と千春
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シャル&ラウラと千春
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一夏と千春
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オマケ(無効票)
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千春&箒「これは練習だから浮気じゃない」
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千春&セシリア&鈴「IS3分クッキング」