女装して入学することになった暗殺者によるIS学園生活 作:灰崎 快人
「……これは?」
「袴だよ」
「知ってますよ、それくらい!」
俺と黒咲、そして生徒会長は翌日の放課後の畳道場で向かい合っていた。両者とも白胴着に紺袴という日本古来の武芸者スタイルだ。
ちなみに道場には俺と黒咲に生徒会長の三人だけ……と言いたいところだが何故か観客がいる。布仏姉妹は仕事があるらしく、この場にはいないのだが……何故か観客がいる。箒にセシリア、鈴にシャルロットとラウラ、専用機持ち全員も集まっている。どうしてこうなった。
「さて、勝負の方法だけど、私を床に倒せたらキミの勝ち」
「え?」
「逆にキミが続行不能になったら私の勝ちね。それでいいかな?」
「え?いや、ちょっと、それは……」
生徒会長がひたすら不利なのでは?と言おうとしたら、黒咲に言葉をかぶせられた。
「生徒会長は私より強いから、このくらいのハンデは必要。だから遠慮無くぶつかりに行って」
「…………わ、わかった」
俺は黒咲にそう言われ、あまり納得できないまま構えを取ってしまう。
箒の道場では刀が折れた時の事を想定して、素での古武術も教えていた。その身に染みついた武芸というのは、錆びることはあっても朽ちることはない。
「……行きますよ」
「いつでも」
生徒会長はその顔に浮かべた笑みを崩さない。涼しげなそれは、纏う雰囲気も相まってミステリアスこの上ない。
(とにかくまずは小手調べだ)
基本に忠実なすり足移動。そして、生徒会長の腕を取る──が。
「っ!?」
一瞬にして返され、そのまま俺の身体は畳にしたたかに投げ落とされた。
呼吸が詰まり、強烈な圧迫感が肺の内側にかかる。がはっと息を吐くと、次の瞬間には生徒会長の指が俺の頸動脈をなぞるように触れていた。
「っ……」
「まずは一回」
その気になれば俺を気絶させることができることも可能だという事を見せておいて、生徒会長は俺から離れる。
(黒咲の言う通り、この人かなり強い……!)
千冬姉を相手にするくらいの気持ちでかからないと、絶対に勝てない相手だと悟る。
しかし、そうなると今度はむやみやたらに手を出すわけにも行かなくなる、状況は膠着してしまった。
「…………」
「ん?来ないの?それじゃあ私から──行くよ」
どんっ!といきなり目の前に急接近される。鮮やかすぎるすり足移動。いや、古武術のタイミングであったりと様々だ。だから例えば「息が合う」というのはそういうことの肯定で「肌が合わない」というのは逆に否定だ。
そんな
そしてそれらの最上段に位置するのが律動を一切感じさせることなく、そしてまた感じることなく律動の空白を使う技術が「無拍子」だ。
「しまっ──」
ポンポンスポポン!と肘、肩、腹に掌打を打たれる。そして、俺の関節が反射的に強ばった一瞬のうちに、両肺へと双掌打が叩き込まれた。
「がっ、はっ……!?」
肺の空気を強制的に排出され、俺は一瞬意識が飛んだような感覚を味わう。そして──
「足元ご注意」
ズドンッ!!と、背中から思いっきり畳に倒された。
しかも、投げ飛ばす際に指の「貫き」で数カ所関節をやられたらしく、すぐに身体を起こそうにも軽い麻痺状態でとてもじゃないが動ける感覚じゃない。
「これで二回。まだやる?」
襟元一つ乱さず、生徒会長は優しい笑みを向けてくる。
けど、俺だって男だ。そう簡単に諦めてたまるか!
「まだまだ、やれますよ!」
そういったものの、俺の身体はしゃんと動かない。
俺は気合い一発で、深く吸い込んだ息を吐くと同時に全身で跳ね起きた。
「ん。がんばる男の子って素敵よ」
「それはどうも!」
俺は早くもふらつき始めた足を心の中で叱咤して、どうにか震えを止め生徒会長を見据える。
(落ち着いていけ……何も化け物と戦おうって訳じゃないんだから。二本足で立っている以上、攻略法は必ずある!)
深く深呼吸をした後、俺は意識を冷たく低く集中させていく。
(本気だな。初撃で倒す覚悟、と言ったところだろうが……)
黒咲はただ黙って二人の戦いを見ていた。
(織斑は篠ノ之流古武術が裏奥義『零拍子』をするつもりだろうが……少し半端だな)
『零拍子』は相手の一拍子よりも早く仕掛ける、『静』を崩壊させるほどの『動』の攻め。だった。
「あ、あの千春さん」
「ん?どうしたの箒さん」
そんな中観客の一人である箒が話しかけてくる。その表情はどこか不安そうで、織斑が負けるのではないかと思っている様子だった。
「一夏は……勝てるのでしょうか?」
「はっきり言ってしまえば勝てる見込みはほとんどないかな……正直これは私が生身のほうも鍛えることを考えてなかった結果なんだけどね」
「そう、ですか……」
真正面から勝つことは不可能だと告げられると、箒は織斑の事を少し見た後顔に下げてしまった。セシリア、鈴もその言葉を聞いてから何も言えなくなってしまったようで、ただ口を閉じてしまっているだけだ。
「じゃあ千春さんは生徒会長に勝てるの?」
「正直私でも勝てるとは思わないが……千春からは謎の自信を感じる。策でもあるのか?」
シャルロットとラウラがそんなことを聞いてくる。そういえば俺が生身で戦ったところを見たことがあるのはこの二人だけだったな。
「今の生徒会長は本気出してないし、織斑くんを手の中で転がしてる状態だからね。まあ私と戦うときは本気にさせるよ。……ラウラは少し私の事分かってきてるんじゃない?」
驚いた様な表情を見せるラウラに、何のことを言っているのか分からないと困惑を浮かべるシャルロット。こちらが気づかないとでも思って居たのだろうが、ドイツ軍の力を持ってすればこのくらいのことは容易いとでも思ったか?残念ながら逆に探らせて貰ったよ。ドイツのIS配備特殊部隊「シュヴァルツェア・ハーゼ」の情報に、その副隊長であるクラリッサ・ハルフォーフ、そしてラウラ・ボーデヴィッヒの素性に経歴……探られたら探り返す。倍返しだ!
「わ、私は……」
「無理に言わなくても良いよ。だけど、その時は覚悟しておいてね」
「っ……」
悲しそうな顔をするラウラに少し罪悪感が芽生えてしまう。だがいずれはバレてしまう可能性は十分にある。だからあえて口止めはしない。話すタイミングはラウラ自身に任せるとしよう。
(それにしても・・・マーシャルアーツに古武術、そしてカポエラ。それらをかじっているが完璧にマスターしたというわけではなさそうだな。いや有効な戦術のみを抜き取っているのか)
最強と言うのは伊達でも酔狂でもない、ただの事実だと思い知れる。
だが、それでも俺には届かない。
「あっ……」
「きゃん」
「ん?」
変な声が聞こえたので思わず振り向いてしまう。
胴着が思いっきり開かれ、下着に包まれた生徒会長の豊満なバス──
「千春さんは見ちゃダメ」
いきなり目の前が真っ暗になった。いやシャルロットの両手で隠されたのか……なんで?なにがあった?
「織斑くんのえっち」
「なぁっ!?」
あー……なんとなく分かったような気がする。
言い訳をしようとしているのだうが、これに関しては100%織斑が悪い。
そして動揺したのか、次の瞬間連続で打撃を受けたような音が聞こえた。
「おねーさんの下着姿は高いわよ?」
くすっ、と。楽しそうな笑い声が聞こえた。
「……シャルロット、そろそろ手を離してくれると嬉しいんだけど」
「あっ、そうだね」
恐らく胴着を元に戻したのだろう。シャルロットがゆっくりと手を離してくれる。織斑の方はどうやら連撃を食らった後に気絶してしまったらしい。
「じゃあ次は私かな……?」
「いつでも良いわよー」
生徒会長は余裕そうな笑みをこちらに浮かべてくる。さてと、その笑顔を破壊してきますかね……
放課後。何やら騒がしいと思いその辺の生徒に事情を聞くことにした織斑千冬と山田真耶。
また学園祭のことで何か揉めているのだろうと、ため息をついてしまう。
「騒がしいぞ、なにがあった?」
「お、織斑先生!実は、生徒会長と織斑一夏くん、黒咲千春さんがいま道場の方で戦っていると……」
「織斑が?それに黒咲も?どうしてそうなった……」
「学園祭の件で」
「あぁ~確かに織斑くんと黒咲さんを景品にしてましたからね、それに講義しているのかもですね。私達も行ってみますか?」
「……そうだな、少し様子を見に行くとしよう」
女子生徒からの話を聞いた千冬と真耶は道場へとその脚を勧めていった。
そして多くの観客で賑わって居るところを発見し、群衆をかき分けて最前線へと向かっていく。
「あ、織斑先生」
「デュノアにラウラも居たのか」
「皆気になってるんですね~それで織斑くんは?」
「気絶しちゃったので、箒達が保健室の方まで連れて行きました」
「そうか。そして今は黒咲と戦っていると言うことか」
「そうなんですが……」
ラウラが歯切れの悪そうに言葉を詰まらせている。なにがあったのかと千冬が問えば、強く閉ざされた口をゆっくりと開く。
「二人とも動くことなく、勝負が進んでいません」
道場の方へ視線を動かす。更識が構えを取っているのに対し、千春は構えも取らず仁王立ちで目の前の相手を見ている状態だった。
「どう見ても隙だらけなのに、どうして更識さんは仕掛けないのでしょう?」
「わからないけど……多分なにか警戒してるんだと思う。それに真剣勝負なのに構えしないなんて異常だから」
「少なくとも黒咲にはなにかしらの策があるといったところかだろう。それに会長は気がついて下手に動けないって感じか?」
山田君とデュノア、ラウラがそれぞれの考えを口に出している。
が、どれも正解ではない。そもそも千春は……何も仕掛けていない。ただ更識の方が仕掛けに来ないだけだ。
千春が本気だったらもう既に終わっていてもおかしくない。だがなにを考えているのか、自ら仕掛けるようなことをしない。何を考えている……?
「勝敗の条件は?」
「黒咲さんは生徒会長を床に倒せたら勝ち、生徒会長は黒咲さんが続行不能になったらです」
「なるほど、なんとも無謀な試合だな」
「そうですね……」
本当に無謀な戦いを挑んだものだ……更識。
「どうしたんですか?生徒会長?私は無防備ですが……仕掛けに来ないんですね?」
「っ……」
更識の方を見てみれば嫌な汗をかいていた、まさか黒咲は彼女だけに殺意を向けて動けないようにしているのか?それとも勝手に怖じ気づいているのか?
「もう待つのも面倒なのでこちらから行きますね……デッドリーレイブッ!」
その言葉と共に生徒会長の方へ急接近する。篠ノ之流古武術の裏奥義『零拍子』、そう織斑が使ったのと全く同じだ。
「っ!」
しかし織斑とは違う早さに驚いたのか、生徒会長は距離を合わせようと半歩下がろうとする。
(遅い、遅すぎる)
その半歩が着地するよりも前に、俺は彼女に腹部にボディーブローを撃ち放つ。
「はっ……」
良いところに入ったのか、生徒会長の口から息が吐き出される。俺はその隙を逃さず連撃を彼女の身体へと叩き込む。反撃の隙を一切与えず相手の体力を削り飛ばしていき、立っているのがやっとという状態まで持って行く。
そして最後を繰り出すためにゆっくりと生徒会長の腹部に手を押し当てる。織斑にしたように貫きを彼女の関節に行ったため、まともに動かすことも出来ないだろう。抵抗することも出来ないのが悔しいのか苦虫を潰したような表情を見せていた
(あ、ても倒したら会長にならないといけないのか……それは嫌だから……)
空いている左手で彼女の右腕を掴む。これには流石に困惑したような表情を浮かべていた。
「じゃあ、終わり」
その言葉と共に力を一気に込めて彼女の身体に強い衝撃を与える。これは
生徒会長の身体は普通であれば数センチほど吹き飛ばされ、その身体を畳に叩きつけていてもおかしくない。だが腕を掴んでいた結果吹き飛ぶこともなく、その場でうずくまってしまった。
「……あっ、降参しますね」
ええええええっっ~!?
その言葉に観客は驚いた様な声を上げる。生徒会長に勝ったも同然のこの試合、規則通りであれば俺が生徒会長になる流れだが、俺は絶対に生徒会長になりはしない。
「っ……ど、どうして……?」
「いや生徒会長になりたくないんで。それにそんなに暇じゃないんですよこっちも」
それでは失礼します。と生徒会長に礼をして俺は制服に着替えて道場を後にする。外で待っていたであろうシャルロット達に帰路を遮られる、その中には何故か千冬と山田先生が入っていた。
「く、黒咲さん……生身でも強いんですね」
「あのくらいは余裕ですよ……世界最強には勝てませんけどね」
「はぁ……結果は目に見えていただろうに。黒咲もやり過ぎだ」
「仕掛ける前に本気にならなかった彼女が悪いです。まさか一撃目で五割持って行けるとは思わなかったから、残りの攻撃手加減したんですよ?」
「だとしてもだ……外傷は付けていないな?」
「付けたらなんて言われるかわかりませんよ……」
正直、あのタイプの女性は苦手だ。自然な態度でこちらの腹を探ってくる。警戒されても仕方ないだろうに……
「それじゃあ私はシャワー浴びてくるので、生徒会長のことお願いしますね」
面倒ごとをなるべく避けるために俺は早足で道場を後にするのだった。
次の番外編
-
おねショタ(無効票)
-
1シャル&ラウラと千春(受け)
-
2シャル&ラウラと千春(攻め)
-
メス堕ち(無効票)(千春総受け)
-
束と千春
-
千冬と千春
-
シャル&ラウラと千春
-
一夏と千春
-
オマケ(無効票)
-
千春&箒「これは練習だから浮気じゃない」
-
千春&セシリア&鈴「IS3分クッキング」