「これがカメラ、こっちがメインリアクター。これは重火器のリアクター。それでこれが……多分、基幹システム……」
土気色の顔をしたアーモンドがしゃっくりを堪えつつ、分解した機械兵のパーツを丁寧に並べる。
その様を見て、所属を問わず複数の人間が司令部テントから出て行った。分解を担当したBSWのエンジニアさえその中にいる。
無理もない。こんなものを見せつけられれば、誰だってそうなる。眉根を寄せるドクターに、フランカは怒りも露わに問いかけた。
「ドクター……これ、どう思う?」
「どうもこうもない。専門家でなくともわかるだろう」
司令部テントのテーブルには、解体された機械兵が一体。
白骨死体を復元するように並べられた残骸の中にあったのは、眼球が組み込まれたカメラ、心臓を収めた小さな水槽、そして機械のパーツを埋め込まれた脳。いずれも源石に覆われ、黒く冷たい光沢を放っている。
源石化した人の臓器。それが何を意味するのか……テラの大地で、知らぬものはおるまい。
「……感染者の臓器を、機械の部品として組み込んでいる」
ドクターが明言すると、残ったメンバーの中からもうっ、とえずく声がした。
葬式じみた空気の中で、ダリガン中尉が声を震わせながら呟く。
「ということは、何か? クラムリスの住人は鉱石病に感染した上解体されて、国軍を襲う機械兵に変えられた、と? あの座礁した移動都市の中では、そんなことをする悍ましいことが行われていると!?」
「へぇ~。クルビア軍のお偉いさんでも、感染者を気に掛けることがあるのね」
嫌味を言うフランカの脇腹に、リスカムの肘が突き刺さる。
ダリガンは気を悪くした風もなく―――そんな余裕がないだけかもしれないが―――サングラスを外して首を振った。
「差別意識はもちろんあったさ。だが、私の部下は今やそのほとんどが感染者だ。私は運よく撃たれなかっただけに過ぎない。そう考えると、感染の有無などもはや些細な違いに思えてな……」
「その感覚を、どうかずっとお持ちになっていただきたい。そうすれば、我々はもっと深い協力関係を築くことができるでしょう」
ドクターはそう言いながら、防護手袋を嵌めた手で機械兵のカメラアイを拾い上げた。
鉱石病感染者が差別される最も大きな理由は、その遺体が死後爆発し、活性粉塵を巻き上げるからだ。粉塵を吸い込めば、新たな感染者となる。
そして、爆発するという点が今回のネックだ。源石化した臓器が爆散せずに残っているということは、これらの持ち主は爆発するより先に、臓器をえぐり取られたのだと考えられる。
手口としては恐らく、必要となる部位に源石を突き刺すなりして病巣に変え、ある程度進行したところで“収穫”し、加工した。
あまりにも猟奇的で、非人道的な設計思想。この機械兵がどこの産物かは知らないが、少なくともクラムリスの座礁と無関係であるとは考えづらい。
ドクターはカメラアイを置いて、中尉に向き直った。
「中尉、あなたは軍を率いて撤退するべきだ。あの移動都市で何が起こっているのかは知らないが、恐らくあなたの手に余る事態です」
「撤退だと? 感染した部下を連れて? それはつまり、私の部下に実質的な除名処分と開拓地行きを命じろということか?」
クルビアでは、少なくとも移動都市の中には感染者の居場所が無い。
国は法外とも言える保険料を感染者に要求し、払えなければ果て無き荒野へと追い立てていく。二度と戻る道はなく、劣悪な環境で死に至らしめる。
大企業、例えばライン生命であれば、保険料を肩代わりすることも可能だが……。
「今回は人数が人数だ。クルビア軍が人数分の保険料を支払ってくれるかどうか。お前たちとて、ボランティアではなかろう? 保護できる感染者の数にも限度があるはずだ」
「いえ、対応可能です。ロドスにも多くのプランがありますので。もし心配なら、私から大統領を説得してみましょう。彼とて優秀な軍人を一度に大勢失うのは惜しいはず」
「……そうであることを祈ろう。それで、我々が撤退した後、君たちはどうするつもりだ?」
「クラムリスに潜入します」
さらりと告げたドクターに、中尉は驚いた顔をする。
マドロック小隊、ニェンも真顔で、BSWの面々も無言の内に首肯している。
中尉は息を呑んだ。
「お前たちの実力を疑うつもりはない。この目で見たからな。だが……こんなイカれた機械兵がいるかもしれない移動都市に潜入するだと? 何が望みだ? クルビアの政府に恩を売って、何をしようとしている?」
「それはもちろん、感染者問題の解決を。ですが今はそれ以上に、この機械兵の製造元を突き止めねばなりません」
ドクターは真珠のような頑なで白い瞳で注意を見つめた。
「ロドスは感染者問題を解決するための組織です。感染者を部品にするような者を野放しにはできない。それに万一、これがローキャン水槽や伐採場……倫理を顧みぬ科学者たちに知れ渡ったとしたら? その製法、製造元をつまびらかにし、滅ぼさなければあなたの部隊以上の悲劇を招きます。そうなる前に、ここで潰す」
「待て……私の一存では決められない。せめて、大統領に指示を……」
「いいえ、この件についてあなたは知らぬ存ぜぬを貫いて頂ければ。ロドスが勝手にやったことで、自分は何も知らない。そのように証言していただければ充分です」
中尉はドクターの発言に理解が及ばず、眩暈を覚える。
先ほど、クルビア政府に恩を売るという旨の発言を聞いた気がするが、独自に動くと? 感染者のために?
ドクターはもはや中尉に構わず、自分の部下に指示を出す。
「ニェンとマドロック、私の三人で先に侵入する。問題なく入れそうなら、マドロック小隊は後に続いてくれ。リスカム小隊はここで待機。医療班はケルシーとの連絡を最優先に。今回の件を詳しく伝えてくれ。中尉、機械兵を一体提供して頂いても?」
「あ、ああ……」
「ドクター、今回の件はロドスとBSWの協定の範囲内です。我々も同行できますが」
「中がどうなっているかわからない以上、武装集団が必要以上に立ち入るのはリスクが高い。リスカム、君の部隊は医療部と連携してバックアップ、周囲を哨戒して追加の機械兵が来ないかを見張っていてくれ」
「了解しました」
「ススーロは中尉と感染者たちの対応について協議してくれ。大統領の説得は戻り次第私が試すが、一応な」
「任せて。ドクターも気を付けてね」
「ああ」
ドクターが素早く指示を出し終えると、凝り固まっていた部屋の空気が一気に動き始めた。
立ち竦む中尉に、小柄なヴァルポの医者が話しかけてくる。彼は生返事をして、出立の準備にかかるドクターたちを見送った。